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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
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41 羊もどきは物知りさん

  

 

 崖は崖であったが、全面垂直ではない。

 下から崖を臨めば剥き出しの岩肌には草がしがみつく。とっかかりとなる足場もあれば突起した箇所もある。だが、傾斜角度は厳しく高い。また、崖に根性を出して根を張る木はない。

 熟達のクライマーならば、登頂は可能かもしれないが容易ではない。岩肌に生える草は硬い棘を持つ。茨で保身する植物が根付く場所に、夜間のクライミング、しかも無手なら考えるだけでも馬鹿げた行為だ。



 そこを三人の男達と数頭の羊もどきが落下していく。



 「視界が効かねぇ!」


 一人が咄嗟の対処に術を行使して、三人の落下速度を緩やかなものへと変える。今一人が来たるべき衝撃に備えて身構え、仲間を支えるが傷が痛むのか顔が歪んでいる。残る一人に意識はなかった。


 

 反対に羊もどき達は悠々としていた。

 計算され尽くしたかのように慌てる事なく崖を降りる姿には王者の風格が漂う。

 力強く岩肌を蹴り付け崖下へと飛び降りていく。体重差もあって男達より早く落ちる。その落下速度を利用して、一頭が空中で男達に鋭い風切り音と共に体当たりを噛ましたが、それは惜しい事に空を切った。

 


 羊もどき達は崖下に降り立ち、一ヵ所に固まることなく即座に散開。

 戦闘態勢ファイティングポーズを取って早く落ちて来いと待ち受ける。ドカドカと足踏みを鳴らして、気勢は上がりまくりのガンガン行こうぜ状態である。

 何よりその気勢をはっきりと示すのが、暗がりに灯る羊もどき達の目に宿った燠火おきびに、頭部から伸びた非ざる太い螺旋角である。



 『はん。 獣風情が、だぁぁ?』

 『け。 人間の分際で、くそ偉そうによぉ』

 『人間様を舐めるな、だってよ。 笑っちまわぁ』

 『馬鹿じゃねぇ?』

 『どっちが身の程知らずか、その身に教えてやんよ』


 

 得手不得手、自由落下フリーフォールを弱める以外の手を打てなかった男達が崖下に降り立つ。武器を手に身構える。

 

 「おのれぇぇ!」

 「ったく、癒しができねー俺にさせんなってぇのによぉ」


 激高する一人に、倒れた仲間に手を差し伸べつつ、嫌そうな顔で冷静に周囲に目を走らせる一人。



 この時点をもって闇夜の戦闘再開(第二ラウンド)である。












 ん。………暖かい。

 いや、妙に暑い…?    ??  臭い?


 目が覚めたら、もこもこに挟まれてた。みっちりと小さめの五頭の羊もどきに囲まれてた。


 …道理で寝返り打てないわけだー。

 なんで、こうなった? 昨晩のスキンシップが良かったんだろうか? しっかし、こんなにみっちりしててよく潰されずにすんだな。

 全方位から凭れられたら、押し潰されてたん(ぺっちゃんこ)じゃないかと…  ちょっぴり怖かった。



 「おはよ。起きる」


 動けば、みんながわらわら移動した。あー、伸びができて楽。あれ? 数が少ない。大きな羊もどき達がいない?

 

 隙間からの光の射し込みに、風の気配。入り口を振り返れば扉が開きっぱなしで明るかった。



 …誰か来てくれてた? 


 気付いて、焦って飛び起きた。

 納屋の外に出たら良い天気。今日も快晴ですかね。外に出たら、「ンメ・ンメ」言いながら、五頭も俺にくっついて出て来た。 昨日の最初の態度とは違う。  …なんかうれし〜ね〜。



 「おはよう、です」


 とりあえず、家の方に行って声をかける。しかし、返事がない。


 納屋を除く四軒を全部回ったが返事がない。


 家の扉は開いていた。

 家の中に入って、昨日聞かれまくった部屋に行く。誰もいなかった。朝に火をつけた形跡はないし、食事の跡もない。部屋を全部みたけど、すぐ終了。人はいなかった。


 どういうことか、わからない。



 「誰? どこ、ですか!?」



 声をあげて呼んでも誰もいない…   返事が返って来ない。屍もございません。あったら嫌。



 熱の無い空間。どこにも誰もいなかった。


 家から飛び出て人影がないか左右を何度も見回して、「誰か!」と大声で呼ばわりながら家と家の間を走って往復した。



 でも、誰もいなかった。初めからいなかったように、誰もいない。






 これ… どういうことかな? 

 昨日、白湯と夕食を頂いて、納屋に鍵かけられた。


 なんで誰もいない? どうして? どこへ行ったんだ? 行ったにしても食事ぐらいするだろ?


 鍵は開いてた。


 …………………………もしかして、俺、ほってかれた? 

 昨日、迷子状態って伝えたよ? 麓の村まで行くなら、一緒にお願いって頼んだよ? なのに、なんで一夜明けたら誰もいないわけ? なんで?



 考え込めば、なんか気分が…   


        なんか、なんか、なんか、     気持ち悪い。




 静か過ぎる気配が廃村を思わせる。 …不意に、脈絡なく 『ゆーれー』 なんて単語が浮かんだ。



 「まさかぁ!!  思考全否定!!! 」




 とりあえず、大急ぎで納屋に戻った。

 もう点いてなかったけど、洋灯ランプは吊り下げられてた。食事に使った皿もある。



 「ゆーれー説、全否定オッケー! 意識オールクリア! 俺、だーいじょーぶぅぅ!! 」



 なんか、違うことで意識が飛んだ。あ〜、びびった。



 自分の荷物と水筒に洋灯ランプを持って外に出る。あ、シチュー皿、どうしよう。


 納屋から出て、使った毛布を手近な場所に広げる。ついでに自分の毛布も取り出してリュックを覆う。それから家の方ではなく山の奥に通じる道を見た。俺がココに到着したルートは反対の方角、その後、家から納屋に移動した。この先は見ていない。


 草が生い茂る奥へと行ってみた。




 草が踏み荒らされている、と思う。地面が抉れてる。

 この場所の様子は、おかしいと思う。太い木の枝が地面に落ちてた。どう見ても裂け落ちた生木に異常を疑う。疑うんだが、普段を知らないから見分けがつかない。


 第一にコレが昨晩の出来事なら、なんで、音が聞こえなかったんだ? どーして、俺は眠っていられたんだ? 俺が到着する前の出来事なら関係ない話。


 それでも、他になんかないかと見て回った。



 草木と地面しかありません。

 足跡らしきモノが奥へと続いてる感じはするんだけど。

 この奥。この奥に行ったら… 高確率で俺は遭難するでしょう。麓に降りてるのに、反対に行ってどーすんですかい。俺は死にたくありません。


 「はぁ…」


 大きく息を吐いて振り向けば、二頭の羊もどきがちょこんといた。一緒に納屋へと戻ったら、他の羊もどき達は朝飯食ってた。


 木にドカッと体当たり。木からなんか、ぼととっと落ちた。それをムシャッと食ってた。

 なんだろうとよく見たら、みょーに昆虫の類いに見えますよ? いや、幼虫?  それ、ナニかな…  どのみち俺には食えそうにない。他には、まだ柔らかそうな芽を食ってた。これも俺には食えそうにない。サラダ菜には見えません。



 二頭もその輪に加わって、日常の食生活。

 繰り広げられる朝の姿に俺自身が落ち着いた。食ってる姿みてたら俺の腹も鳴る。 …俺も朝飯にしよ。


 借りた毛布にちょいと座って、減っていく食料の中から傷みそうなもんを選別して食って消化。

 もぎゅもぎゅ食って考えた。水もごきゅっと飲んだら、みんながこっちを見たけどスルー。こんな時こそ、糖分補給。グミキャンディさん、出番ですよ。飴玉さんと他の子は、まだまだ先です。


 糖分を噛み締めた。



 理由はわからないけどさ。俺、あの人達に見捨てられたか、置いてかれた… だよな? だって、み〜んないない。鍵開いてたから良かったけど、閉められたままだと怖い話になってたんじゃねーの? 羊もどき達と一緒にホラーになってたんじゃね? 



 ここに今、人はいない。

 俺が起きてから結構な時間が経ったと思う。あっちこっち探したし。でも、誰も帰って来ない感じ。


 誰も、いない。  いない。



 いない。



 おいていかれた。












 …………………じゃあ、じゃあ。


 家捜しとかしてもいいかな? いいかな? いいよねぇ。

 すでに何にもなさそうだけど、漁ってもいいよねぇ!? 小さなメダルとか出て来たら良い感じぃぃぃ!!


 はん! だぁれが泣くかよ。 馬鹿にすんなよ!

 できる限り俺の痕跡だって残さないようにしてやるさ! みてろよ!!


 なんか、あがったね。



 一人息巻いてたら、羊もどき達がやってきて頭を擦り付けてきた。 …………人より獣の方が優しいって、どゆこと?


 なんか羊もどきから優しさ貰った感じで、すっごく嬉しい。


 ぎゅうぎゅう抱きしめたら、あったかい。羊もどきの頭を撫でて反省する。

 ここは異世界だ。俺の知らない事情があって、行く必要があったのかも知れない。急ぎの用事なら俺は絶対足手まといだ。自分にとって悪い方にだけ物事を考えたらダメだよな… 反省。




 よし。反省した。

 んじゃ、気合い入れて家捜しすっか。 なーにがあ〜るっかな〜♪



 ごそごそ探しました。

 こんな事すんの初めてですよ。ちょぉぉっとドキドキですな。こーゆー時に皆さんがお帰りになられたら、なんと言えばいいんでしょーね〜? やば、やば。 

 

 全てを探してみた。

 特に、これは!と唸る物は何にもありません。残念だが良かった気もする。


 「ンメ、メェェ」


 諦めたその時、羊もどきが俺になんか言ってる。


 ん〜? …お前、ガン!って、なったお前だろ? どした?


 振り返り振り返り、こっちこっちと進んで行くから後ろをついていけば、 『ここ、ここ』 って感じで前足で一ヵ所を叩く。


 ここ掘れ、わんわん系? お前、ぽち系なのか?

  

 実際は下段の棚だったんだけど。何にもなかった。


 「ないよ?」


 俺を押しのけて頭突っ込んだ。 棚に頭が挟まるぞ、お前!



 ベキッ


 戸棚をぶち壊す勢いで頭を出したら鼻息荒く、もっかい見て!な雰囲気に押されて確認したらば、あったよ。


 …あっれ〜? さっきはなかったと思ったんだけどなぁ。


 棚から出せば、古くてきったない瓶。一瞬、静電気走った感じでピリッとした。

 瓶の栓を抜いたら紙とピンポン玉?  …形状、球体。素材、不明。重量、適度。汚れてるのかと手で拭ってみたけど、変化なし。別に綺麗ではありません。宝石には見えません。なんでしょうか?


 包んでた紙には書き付けがあったから、もしかしたら手紙かな?



 ここで俺の文盲もんもうが発覚した。

 読めないよ、勉強しないとダメなんですね… わかってましたけどね、やっぱりですか。 はぁぁ。一からかぁ… ちょ〜っと気落ち。



 開いた手紙は黄ばんでなく新しい。古くて汚い瓶。

 …なんかやばくね? ゲーム思考ならイベント。でもミステリー小説系だったら、この展開やばくね? ベットすんのは、俺の命とか?


 手紙と綺麗でもない玉を手に考えるが、どうしよう? 決めらんない。


 「コレ持って行っても良いのかな?」


 悩んだ挙げ句、羊もどきに聞いてみた。

 自慢げな鼻息に、 『いーよ、持ってちゃえ』 そんな顔した気がした。





 げーむいべんとにおけるさいしょのさぷらいず、


     無償で換金物 get! 


 実際換金するか、できるかは別にして、アイテム get〜♪   ぱららっぱぱ〜♪





 俺の脳はもう何も考えずに、所有財産の一つと見做みなして荷物の中にブツを突っ込んだ。



 「この瓶、どうしよう?」 


 価値なさそうだし、欲しくもないから要らねー。ミステリー系なら元の場所に置くのがセオリー? しかし、あっても中味がないのはバレるし、瓶の埃についた指の跡。


 そこらへんにあったボロ布で指紋の拭き取りをした。

 拭き取れてるか、手法が有効かも不明だ。ボロ布で瓶の口を持って、羊もどきの背にローラーを当てるように瓶を往復させたら、なんか喜んだんで持ち手を工夫して何度もしてみた。そしたら、他の子もやって来て、順番待ちしたんで五頭全部にローラー当てした。


 「あ、こら。そんなに動くなって〜」


 なんか良いスキンシップした。ブラシじゃないのが残念な。


 瓶が非常に綺麗になった。指紋は確実に消えたな。


 

 五頭と一緒に家を出る。

 綺麗になり過ぎたんで家の外の草むらに、そっと瓶とボロ布を別々に置いて偽装工作完了。




 お前ら、ほーんと可愛いね。茶色のつぶらな瞳がイイね。他の皆は、どこ行ったんだろな〜? …お昼食べたら行こうかな。一人で待っていても仕方ない。食料尽きたら恐ろしい。

 


 もう一度、周囲を確認しても成果なし。


 「ふうっ…」

 

 ため息が出た。





 けど、そうこうしてたら足音軽く茂みをガサガサ掻き分け帰ってきた。


 良かった。

 大人の羊もどきだけが、どっか行ってたんだね? なんか、すっげウハウハ状態? 何して来たんだろ?


 


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