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召喚  作者: 黒龍藤
第二章   選ぶ道
37/239

37 だから、此処にした

  

 静かです。

 大変静かです。

 三人の人達に向かって心の中で盛大に訴えまくった後、眼差しに思いの丈を存分に乗せて見続けた。



 そして、遂に沈黙の闘争の果て。


 俺は、おねえさんに勝利した。

 俺の元に足捌きも優雅に寄って来て、顔の右横で両手を合わせて、にぃぃぃっこり笑顔でお願いポーズ。


 「あら… あらあら? まぁまぁ、どうしたんですの〜? そーんな可愛らしいお顔しちゃってぇ〜。 ご機嫌悪くなりまして? 怖いお話なんか、なーんにもしてませんわよ? ね、わたくし行けませんのよ〜。 ですから行ってほしいのですわぁ〜」


 だ、そうです。

 が、どういう意味かの説明がありませんよ? おねえさーん。


 「お前が怖がる様な事は一つもないぞ?」

 「おお、そうじゃぞ。坊、この女はともかく、儂は何一つやましいことなぞ思っとらんぞ!」



 そう言ってくれたこの人達の顔は。

 おねえさんは、もろにご機嫌を取ってくれる顔。おにいさんは、単に 『あ〜』 な顔。逆に、おじいさんは踏ん反り返った素晴らしい晴れやかなお顔でした。


 ある意味、非常にわかり易いです。


 でも、まぁ。怖い展開にならなくて良かった… 

 いやさ、目は口ほどに物を言うって言うじゃんか。そっちに賭けたんだけどさ。それでも、「喋れるんなら自分の口で、しゃっきり伝えんかいっ!」って怒られるんじゃないかと… 手法間違っただろうか… と、沈黙の闘争の最中さなかに気がついて、びびってたり…





 それから、お話が無事進みまして。


 おねえさんから、行ってほしい旨のご説明がされました。

 お話では、違う世界に手を出すと形跡が残る。ついで情も出る。すると縁が出来る。それだけなら構わないっちゃー構わないけど、別の言い方をすれば、巻き込まれやすくなって抜け出せなくなるんだってさ。

 しかも、自分の世界じゃないから、変な取り込まれ方をしたら最後だそうです。


 お薦めの世界は空き家じゃない。住人さんと喧嘩する気もない。けど、面倒くなるのは嫌。

 それに気にしてるのは 『あの子』 だけ。だから、お薦めの世界に移動しようとまでは考えてないらしい。なんか、おねえさん本人の事情で、色々厄介な状態になるから空き家以外には降りたくないそう。


 だから、おねえさんは 『見てるだけ』 との事。でも、おねえさん十分に情が出てない? 

 ぽろっと疑問が零れ出た。


 「うふふ、わたくしは女ですからね」


 綺麗に笑って答えが来たけど。


 …この場合は、お母さんになるんでしょうか? 

 おねえさんは 『あの子』 に加護とか上げてない。上げる気もない。でも、動いてる。その事を教えるつもりもない。会いに行くつもりもない。でも、あの子の為にって動いてる。


 『自己満足』


 そんな言い方が合ってる気がするけど、やっぱり、これ違うよね? そんな言葉じゃあないよね? そんな言葉の括りじゃ、なんか間違えてるよね?



 最も動くことになるのは俺だよ。俺。



 あと、おじいさんは始めから他所に手を出す気は全く無し。

 おにいさんは手を出しても、なーんにも困らないそうだけど、今は他にお楽しみがあるから面倒な事をする気はないってさ。


 それで、お薦めの世界は防衛が堅いそうで、内から呼び込む分には問題なくても外から入る分にはがっちがち。


 「やり方わかってたら、あんなん壊すの簡単、簡単」

 「気軽に言わんでくれんか! やり方わかっとっても力が要るから簡単じゃないわい!」


 軽く手を振って笑うおにいさんに、おじいさんが思いっきり反論してた。


 「坊、真に受けるんじゃないぞ! 壊すにも壊す手順も準備も更には、最終の壊した後の状態も考慮して行うのが最適なんじゃ。何より、その過程の形式美もじゃな!」

 「まっさらになっちまえば、んな事、だーれがイチイチ気にするかよ」


 おにいさんのどーでも良さげな一言が、おじいさんにトドメを刺してた。


 まっさらって、どこまで壊すつもりなんでしょうか? まっさらって言葉が防衛以外の、何か全体を指す言葉でありそうな気がしましたが、はて?


 おにいさんは破格でしょうか? すごいんでしょうか?    …印、ラッキー?


 やっぱし、おにいさんの世界に行きたくなったよ。俺。




 でもさぁ… 思い出す、出さないの話をして考えると、お薦めに行く方がいいのかなぁ?とも思えて来るから不思議。


 安全とか楽な方とか色んな事を秤にかけて考えて。

 そしたら、気にはなるわけよ。俺が助かった理由は、そいつと縁があったから。


 「今でも会いたいと思っていますわ!」


 とか、言われるとさぁ… 

 何やったかは聞いても教えてくれないから不明なんだけど、 『もう終わってるから、それでいいだろ〜』 にするにもなんかね。

 第三者からの勝手な見方で話をして変な先入観植えつけると良くないって、俺とそいつの間で何があったかとか、どういう縁でなのかって事を話してくれないんだよ。 ほんっと微妙な話。


 この相手が決定の鍵になってんだけどな。

 そいつと友達であるはずなのは間違いないようだけどさ〜。どうやったら異世界にいるそいつと縁ができるんだ?


 人生をどこまで振り返っても、どこにも欠落なんか無い。前世?って聞いたら、そんなん知らないって返事だ。


 あやめねーちゃんが、ガキの頃何でも見てたって。大泣きして止めたって言った。 自分でも覚えてない事を知っていた。姉の立場で当然として記憶してた。


 それなら、コレがそうだろうか…? それでも… 見ただけだろ? 見ただけの縁? 見たって夢だろ? でも、ねーちゃんは此処まで来てた…


 もしかして、子供の頃?

 子供の頃に幽体離脱でもして、一緒に遊んだ仲だとか!?   いやいやいやいや、こえーよ! ねーよ! ありえねーって!!



 「これが最後の機会になるのです」


 なんて懇願口調で言われると… スパッと切りにくい。姉を送ってくれてるしさ。でも、どうとっていいのか… 恩人ではないようだし。 


 うだうだ考えるのも疲れるけど、やり直しの効かない一生選択だろ? ハズレ引きたくないのは当然だろ? 何がアタリかは不明っちゃー不明だけど。



 ふと、姉との会話を思い出したら、他の会話も思い出した。


 『嫌になったら離れちまえばいい』 


 そう言ってたのを思い出した。

 犬の話を思い出した。

 犬について聞こうと向き直った時、脳裏に黒い子犬が浮かんだ。


 一つが浮かんだら断片的に何かの記憶が走り始める。



 始めに、どっかの床。


 暗い中で次々に灯っていく幻想的な白い光。 天に手を広げる大きな樹が。 黒いブーツを履いてた。 中庭の小道。 そこで見上げた青い空。 裸足で、足裏を返して。 袖口には刺繍。 大きな建物の前に何人かの人影。 暗い廊下を歩いた。 前を歩く誰かの手に。 灯りが少なくて。 


 暗い部屋には  窓が ない。  羽ばたく 音 に 。


 



 体が震えた。

 俺の心を圧迫し、膨れ上がろうとするわからない感情を、一滴の恐怖が総てを染め変える。勝手に震え出す体の真ん中に、氷塊が花と開いて咲き誇ろうと凍える花弁に蔦を伸ばして恐怖を増長させていく。 

 冷たさが巻き付いて、この身を絡めとる。


 『覚えに、覚えがない!』


 理性が身動いで、無い事だと指摘する叫びを塗り潰して染めて広がる恐怖が頭の中を浸食し、埋め尽くす負の誘発に心が耐え切れず、口から悲鳴が飛び出す前に意識が黒の静寂に滑り落ちる事を望んだその入り口で、ガチンッ!と何かの音を聞いた。

 

 聞いた音に、その遮蔽に安堵した。

 閉ざされた先の覚えのある気配の途絶に安堵した。




 入り口の向こう側の気配が一滴の雫を持って暴こうとする。


 お前の腹には復することなき穴があると。














 スベスベしたすっごく肌触りの良い感触が俺に幸喜を囁いた。


 目を開けたら、毛があった。大変触り心地の良い毛です。スリスリと手と顔で毛皮の感触を堪能した。

 一体何の毛皮だろうか? 白い毛に、なんかラメみたいな銀色の毛が混じってる。それにしても、やけに気持ちいい。すっごく気持ちいい。このままず〜っと触っていたい。


 極上物って単語が浮かんだ。


 それから上を見たら、「知らない天井」って言う前に、天井ってか、屋根ってか。空も見えた。

 家の中じゃなくて、東屋だった。おっきなカウチに、おっきな毛皮を敷いた上に横になってたようです。体の上には薄手の毛布が掛かってた。

 俺の記憶の中では、そこに生えてる木に覚えがある。だけど、こ〜んな立派な東屋なんか無かったですよ?



 「目が覚めたか」


 その声に上半身を起こして周囲を見回したら、おにいさんが話しかけてくれてた。


 三人共、おっきなカウチから少し離れた場所にいた。

 三人共、一目で大変リッチだと判断できるテーブルを囲ってた。これまた、同じ様なリッチな椅子に座ってらっしゃった。


 三人様がお茶してた。カップやソーサーも金色基調でゴージャス感ありありだった。


 そんで、お菓子食ってた。

 お菓子に添えられたクリームが、ふんわり乗ってて美味しそうだった。専門店で売られてるような高いお菓子に見えた。菓子皿には他のお菓子もいっぱいあった。



 …なんか、なんか、なんか!!



 『ひでぇ!』


 起きて身を乗り出して叫んだら、どこの国の言葉でしょうか? 叫んで自分で目が点になった。



 「ああ、使えるようになったか」

 「言葉を自分で確認して調整かけれたようじゃな。いや、良かったの〜」

 「これで印と同じ状態ですから、もう大丈夫ですわよ」


 俺に向かってパチパチ拍手をしながら、「もう大丈夫」と、お茶とクリームの乗ったお菓子を前に、にっこり笑顔で言ったおねえさんは本当に嬉しそうだった。


 

 わからないまま目が回ってーー    もっかい倒れた。 上半身カウチから滑った気もする。


 




 次に目が覚めても、スベスベ感は変わらなかった。誠に素晴らしい毛皮です。

 それにしても、本当に白に銀ラメってなんの毛皮でしょうか? 聞いたことないですが。

 コレ、合皮じゃないと思います。銀ラメがさぁ、作り物とか染色とかじゃなくてモノホン感しかしないんですよ…



 「お前は本当に体が弱い。再構築した程度で倒れるからなぁ…」


 首を振りつつ、ため息を付きつつ、 『ダメだ、これは』 な感じで言われても。 



 ふ、ふふふ。

 え、何? なんか違わねー?って、ビシビシきてた。カウチの上で上半身起こして、下向いて、拳握って震えてた。


 ふと、なんで俺は横になってんだ? と、疑問が湧いた。  再構築…?



 「俺、なんか記憶飛んでるんですが… 何ででしょう?」


 俺の言葉に三人の人達が止まる。



 「ん? 記憶がない?」

 「坊、横になる前は覚えとらんのか?」


 「え。   と。    犬について聞こうとした ような…」


 「ね。 わたくしの言葉が、『わかります』?」


 途中から切り替わった言葉が、音の羅列と発音の違いから違うものだと区別がつく。ついた内容に意味が理解できる事が変な感じで混乱する。


 此処は違う場所。理解ができる場所。


 そう思っても、自分の内側で、 『起きる前とは、どこかが違うから理解できたんだ』 と理解する自分のこの感覚は。 さっきまで無かった。

 


 ナニかサレマシタか? 

             イイえ。 サレテマせん。



 自問自答で終了する。終了するこの感覚そのものが異質に思える。取り返しの付かない事になった気だけがして、切迫が押し寄せる。

 

 一つの感情が、目眩と息苦しさと押し付けて、代わりに違うものが軽やかに舞い上がって


 安堵に疑問が。



 もう二度と戻らないのだとーー       


 意識が 

      焦燥を駆って



 もう 決して 二度はないとーー


 息が 


    引き攣れて




 喪失が寂寥を紡いで、寂寥が罪悪を告げて、告げる中で安堵が良かったと歌い上げて。


 絡む。


 

 俺の目の前でーー








 いきなり頭を鷲掴みにされて掻き回された。


 「あ? なぁに、大丈夫だ」

 「 へっ…!?」


 意識がブッチギれた。

 掻き回されて、体も揺れ動く。突然の行動に意識の途切れが発生して真っ白になった。直後、今度は心臓がドキドキドキドキ高速フル回転!



 いま、体がビクンッ!て。そんで一瞬、息が止まるかとぉぉ! いま心臓が飛び跳ねてるんですが!



 びびった!と騒ぐ心臓の抗議をやり過ごせば、 『一体、何が大丈夫!?』 と反発が起こった。

 反発の勢いに乗って顔を上げれば、ニィっと笑って、俺を見ている顔があった。

 目が合ったと同時に、後悔にも似た重みに俺を支配しようと広がって絡み付いてたナンかが、あっさり蒸発した。


 うん、もう、綺麗さっぱり。ナンも無い。 自分でも、あれ?っと思う。


 今のナンですか?



 「そんなもん思い込みなだけだ。言っちゃあ可哀想だがな〜、言語の下地が一つ浮上した以外なーんも変わっとらんぞ。お前」

 「うむ、坊は初めての感覚に酔いかけただけじゃ」

 「ええ、先に酔い止めしとけば良かったですわね〜。あれで酔うとは思いませんでしたわ〜」


 大変お気楽なお言葉でした。



 ……………………は。 ええと、ですね。

 酒に酔った事ないですが、いえ、未成年ですし。金も無いんで、飲もうとも思いませんでしたが。 あれが悪酔いでしょうか?  ……アル中にヤク中って最悪ですね。こんなんなるのに一気飲みとかしたら死にそうですね、俺。


 あ〜、やだやだ。 『酒は飲んでも飲まれるな』 標語として聞きますが、俺、酒なくていいです。あ〜、気持ち悪かった。 …こんなんで迎え酒する奴の気が知れない。




 「あのな、俺がやったんだ。お前に与えた。お前が返すのでなければ、お前のものだ。取り上げたりせん。それとなぁ、俺が戻し(オペ)を損なうかよ。お前の身は健やかだぞ」


 俺の胸をトンッと軽く突いて言ってくれた、その顔を見ていれば、最終の帰還場所の意味を理解した気になった。

 再度の明確な言葉が、すごい安心をくれた。健やかだと太鼓判を押された。そんなに酔った顔が酷かったかと思うが、さっきまでの意識が全部安心にひっくり返った。



 その顔を見上げていれば、 『ああ、おにいさんの世界じゃなくてもいいや』 そう思った。最後でいいやって。他のとこでお試してさ、あったことを話に帰ってきた方がいいかって。


 うん、そうだ。おにいさんなんだよ。

 この兄の懐で遊んでいるのは絶対安全圏だよ。危険なんて、あっても無いようなもんだ思うよ。でも、守られてばっかしじゃダメだろ? 男なんだからさ。ちっとは外に出て 『がぁっ!』 って、自分でカッコいいとこ出さないとイマイチじゃねーの? このまんまじゃ、俺、それこそ情けないんじゃね?


 そう思った。


 そっから、一生選択って悩んで迷ってた気持ちが切り替わって、遊びに行こうって思えた。

 俺に会いたいって思っている奴が居てくれるんならさ、ちゃんと会いに行こうって。あの時やっぱり会いに行ったら良かったのかなぁって、後から気にする事になるなら会いに行った方がいい。絶対いい! 

 んで、嫌な奴だったら、「しくじった!」って叫んで、とっとと離れちまおう。


 簡単じゃない事だけど、簡単な気もしてくる。うん。なんかいま気分が、すっごく浮上してる。


 『印があれば居場所がわかる』


 その言葉が俺の中で確かな意味として繋がったら、不透明な未来に対しても変に怖くなくなった。

 ニィっと笑い返して、迷い無く、「行ってきます」と言える気分。


 だから、そのままお薦めの世界に行くよって笑って伝えたら、ちょっと目を見張った後で、ものすごくカッコいい顔で笑った。


 「ああ、行って来い」


 自分の選択が間違いじゃない。そんな後押しをしてくれるような顔だった。いつか、俺もこんな風に笑ってみたい。


 

 「ほんとね!? ほんとに行ってくれるのね!?」


 声に頷けば、おねえさんに、もんのすごい快哉を叫ばれた。



 「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! 嬉しいですわぁぁぁっ!!」



 ソレもなんだけど、笑って流せた。


 どうしてだろう。いま、ものすごく気分いい。ものすっごくイイ。







 それから後は降りる為の準備。



 当初おにいさんは印を持たせたから、それで良しとして身一つで行かせようとした。俺も、それでいいよと思ってた。


 「すぐにあの子と会うのは難しいですわよ! どうしますの!?」


 この一言で 『え?』 と思った。


 降りるのに正規ルートが幾つかあるらしい。その中で相手の居る場所に一番近いルートで降ろしてくれるっていうんだけど、ほんとすぐ近くに降りて数分後に「こんにちは」は不可能だと。

 裏道もあるそうだけど、 『招かれるべき玄関があるのに、そこを通らないと自分がどうなるか?』 意味はわかるわよね? そう、仰られました。


 速攻で頷いた。

 裏道に興味がないわけじゃないけど、 『死にますか?』 と書かれている扉に突入する勇気はない。問いかけ自体が引っかけで実は最短ルートな場合もあるけど、 『会いに行って』 と願うおねえさんが止めろと制止する裏道に興味はない。

 そして、降りてからは俺の自力頑張りだから、なんかトラブって相手に会うまでに時間が掛かるとどうなるか? 

 いや〜、あんなに簡単に言ってたから、降りたらすぐに会えるつもりでいたんだ。危ない所だったぁ… 気分がノってる時の思考ってやばいね。後先考えてないね。

 …あれ? おねえさん、相手に基礎知識教えて貰えるって言わなかった? …まぁ、自分でも頑張らないとダメだもんな。ん、頑張るか。




 持っていく物は限定された。

 おにいさん、自力頑張り推奨派だから、あんまり渡すのに良い顔しない。

 おねえさん、「わたくしの願いでもあるのですから、安全に辿り着けるようきちんと配慮をしなくては!」と張り切って説得してくれていた。


 おねえさん、すっごく嬉しいです。


 二人の隙のない交渉を聞きながら、俺も思案してた。

 そんな俺におじいさんが、そっと寄って来て、なんでか謝った。謝る意味がわからなかったら、それが顔にそのまま出たらしい。


 「坊の記憶がないのに、記憶があるつもりで話を進めようとした事についてじゃよ」


 それを聞いて、おじいさんも俺の意見を聞いてからにしようとしてくれている、優しいって思った。



 「のう、坊はあの男に力があるのはわかるじゃろ?」


 その言葉に頷けば、にこにこ笑って更に言う。


 「その力があれば、言葉の壁なんぞ簡単に解決出来るのではないかと思わんか?」


 その言葉に思いっきり頷いた。だってさ、漫画やゲーム、小説なんかでも魔法使えば、ぱぱっとわかるようになるじゃんか。


 「やっぱり、そう思うよのぅ。実は可能じゃ」


 さっくり言われて、『 え〜… 』 だよ。


 「しかしのぅ。それをすれば、あの男の色が坊の中に必ず残る。残らねば使えん。やがて、坊の中で薄まり消えるはずじゃが、消えんかもしれん。言葉なんぞは中枢を成すもんじゃからな。そこに絶対は無い。

 坊は加護を得たが、加護()に染まったわけではない。また、あの男はしとらん。坊は坊のままでいて欲しいと思っとるから、せんのじゃよ。わかってやってくれんかの?」



 …それ、優しさだよね? 

 俺の為の気遣いを有り難く思うべきなんだが、残念な気も残る。


 「あの女も、できるはずじゃがの。相手に気付かれない内になら簡単じゃが、 『色を残さずに』 となれば、それは難しい。見栄を切ったとしても絶対確実とはいかん。儂も出来んことはないが、条件としては試したことのない試みでな。儂としては試してやりたいんじゃが、失敗した場合あの男が怒ると恐ろしいからしとうない」


 最後の言葉を遠い眼差しで語るおじいさんを見た。


 『だめか… いえ、欲はかきません!』

 そう心の中で自分を説得する感じで思った。ら、次の言葉が誘惑した。


 「しかし、いいもんがある。坊、試してみるか? 坊自身が望むのなら男も何も言わんじゃろ〜」


 そう言って、黒い硝子瓶を一つ取り出して渡してくれた。





 おじいさんの所持品

 言語習得の異能薬(カプセル状濃縮薬)


 お品書き 最高品質の浄化水に大変強い魔力を流して濾過した上で、所定の数種類の指定特効薬と煮詰め合わせて更に精製。そこに指向性を持たせた新たな魔力で繊細に包み込んで生成した多種多様な言語を理解することに目的特化した不思議便利薬。 


 使用方法 体内に服用する事で効能を発揮します。

        魔力からなる薬品ですので魔力保持者が服用した場合、稀に魔力反発から適合しない事がございます。反発の副作用が強いと修得済みの記憶言語が逆に消し飛ぶ恐れがあります。

        また魔力を保持しない方が服用された場合、効能は確実に発揮されますが強い魔力薬に対する免疫不全から変様なさられる場合が数多く見受けられます。変様は魂の場合や身体の場合と人それぞれで如何なる症状を発症するかは不明です。


        この薬を服用する場合は、どのような結果になろうとも、決して後悔しない覚悟で服用されますようお願い申し上げます。



 例: 身体変様 → 虫に変様された場合、寿命もその種と変わらない場合がございました。

     同 上   → 身体の一部のみ変様。極端な場所でない限り一般生活に不都合はございません。

    魂の変様 → 内側からの変様により形相が完全に変貌した場合がございました。また、変様に耐えられず、儚い最後を遂げられる場合もございました。


        尚、身体変様の場合において口腔内の変様になりますと、言葉を理解出来ても発音が難しい場合もございますことを明記させて頂いておきます。

        上記は一例でございます。変様なさられない方は、なさられません。


        この薬の成分や指向性魔力につきましては、添付してある記載書をご確認の上、大切に保管してください。紛失された場合等のお問い合わせに、お答えが難しい場合もございますので、その旨ご了承ください。




 突き返したよ!!! 

 なにこの罠! 怖すぎるわ! 薬害被害の範疇突き抜けてるでしょうが!


 「三粒も飲めば完璧じゃぞ〜」


 にまっと笑う、おじいさんのその顔が良過ぎで! すっげぇ楽しんでいるのがわかったよ! さっきの試してやりたいって… まさかまさかの実験台では!? 

 おじいさん。 きっちり話したら、全部疾しくないって思ってませんか!? いや、疾しいってのは確かにそういう事であるはずだけど… !!


 …誰だよ! さっきこの人優しいとか思った奴はぁ!



 「そうか? 遠慮ならせんでいいんじゃぞ?」



 いや、そんな惜しそうな顔されても! ほんとにもう、いりません! 危なすぎ。


 いや、ちょっとだけ、掠める程度に考えたよ。上手くいったらとか… 貰っといて後からとか… なんかあった時の非常用に… とか。

 でも、巡り巡って最後自分に返って来たら最悪。怖すぎるのは持たないに限る! ちゃんと働いてる、俺の理性!



 人生をすっぱり切り替え過ぎる、やばい博打は打たねぇぇ!! 堅実思考、カモーン!!




 

気分が高揚していた時の梓のBGM

FLYIN* KIDS 『NE* ADVENTURE』  一応伏せ字入れ。


お薦め世界には住人がいます。家主です。忘却されてて当然ですが、第一話に単語で居ます。 居ます。

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