33 愛情
こんな事の為に刃を返したわけではないのだが?
さっさと左手で姉の手から刃を取り上げた。息荒く踞った姉を見下ろし、再び手にした刃を玩んでいれば、後方から馴染みの気配がやってくる。
「やめて下さいまし!」
女の声と同時に放たれたであろう風圧を伴うその蹴りを、ひょいと避けて、右手で女の足を掴んで蹴りを止める。
何をやっとるんだ、こいつは?
片足で立っても体の主軸を全く崩さない女と視線を合わせれば、憎悪に塗れた良い目をしてやがる。それは別に構わんのだが、止めた姿勢のままで即座に懐に手を入れて次の得物を構えやがった。
「おら」
掴んでいた足を放すついでに、上から下へと力の方向性をかけて後ろへ突き飛ばしてやる。
「くっ… !」
さすがに、よろけたな。 おお、見事に全開したな。
姉を掴んで、その場を退く。
退いた直後に二度目の得物が飛んでくるのと並行して、左手にある刃を女に投げて応酬しておく。
だーから、何がしたいんだ? ああん?
攻防とも言えんような、しょーもない僅かな時間のやり取りは、じーさんの手の打ち払いで終幕した。
「あ、ああっ きゃあああああっ」
女は悲鳴を上げて俺の手から姉を引ったくる。
「大丈夫、もう大丈夫ですからね。私がいますからね。怖いものなどいませんわ」
意識を失った姉を抱きしめて、存在ごと薄れてゆく青白い頬やら手やら必死の形相で確かめていた。
傍に来たじーさんと目を交わし、小声で話す。
「俺に敵わねぇのに何が大丈夫なんだ? あいつは」
声が聞こえたのか、女が首だけ回してこちらを睨み殺気を飛ばしてきやがった。 かはは、お〜お、怖いねぇ。
突然駆け出し、男に蹴りを入れようとしたからの。儂、魂消たわ。
正気付かせれば、抱きしめて大丈夫だと言い続けておる。いきなりの母親仕様に追いつけん。
あいや? 女の子供は男ではないのか?
…むう、儂、子供がほんとに居るのかどうかも知らんかったわ。
疑問も出るが、守りに入った母親全開のような女に近寄る気も起こらん。しかも負担にならぬように、ほんとーに少量ずつじゃが、静かに途切れることなく回復の為の力を流し込んでおる。
こんな時は寄らぬが吉じゃ。男の方に行って経過を聞くことにするが正解じゃろ。
ああ、ああ、こんなに弱って。
ええ、あの方は一体何をしていたんですのぉ!
ギリギリと歯ぎしりしそうになるのを堪え、力を流し様子をみる。包みをしっかりと抱きしめる姿が哀しい。
倒れた女と介抱する女。二人の女達を眺めつつ、岩に背を預けてじーさんと事の経緯を話し合う。
おそらくの女の心情に天を向く。
あー、姉への説明から何から面倒くさい。放っておきたい。うっちゃりたい。
さっさと、俺に癒しを返せ。
「おい、そろそろ、そこら辺で止めとけ」
釘を刺せば睨んでくる。 あー、煩わしい。
「それはアレの姉で、それ以上お前の力を受け入ると変容するぞ。お前は自分の望みと履き違えて、そいつを変容させたいのか? そいつを変容させりゃあ、お前は満足かよ?」
嘲笑を滲ませた俺の声に、ハッとして顔色を変える姿に馬鹿だと思った。意識して姉の様子を見直す女に、やあっと本気で正気付いたかと、ため息が出るわ。
一連の推移を見守っていたじーさんが、のほほんと言いやがった。
「そら。以前あの女が、あやつに母性愛をみたと言い出したであろう? あの場では 『はあ?』 と思うたもんじゃった。今の女の様子も正しく母なる姿であろうが、あの姉なる者がとったあの姿。魂駆けしてまで探しに参り、守る為に敵わぬと知っても刃を振うた。あれこそが母性愛と呼べるもんじゃなかろうか? のぅ、この事どう考える?」
俺はじーさんの顔をまじまじと眺め、ゆるゆると首を振り、生温い視線をくれてやった。
「女の感情一つに甲乙つけようなんざ、じーさんは間違いなく勇者だな。どうでもいい話だが、俺には真似できねぇよ。じーさん、あそこで賢者じゃなくて勇者やってりゃ良かったんじゃねぇのか? あ?」
「………… い、いや、それは違うぞ! 儂は勇者なんぞという大それた者ではない! 儂は単に知的好奇心から聞いてみただけじゃ! 第三者の視点からなる意見を元に知識を新たに練り直し、そこから得られた知識に光を当て、更には… 」
とかなんとか、喉に絡む吃りが入った後、誤摩化すように立て板に水を押し流す声を聞き流す。
あー、ほんとに早く俺にアレを返えせというに。
姉の容体が落ち着いたのを見計らって、頃合いだと場に飛ぶ。姉には女がついているから問題なし。
場に着いて、飛ぶ前に姉からするりと抜き取った包みを広げれば、気持ちよく寝ていた。
喉元に指を当てくすぐってやれば、ぐるぐる言う。指を離せば、眠ったまま頭を指に擦り付けてくる。
あー、ほんと和むわ〜。すげぇな、子猫は。
他はどーでも良くなったから、じーさんに女への説明を任せる。姉には女から説明してもらおう。その間、俺は和むからな。邪魔すんなよ。
眠る子猫の毛並みを指で撫でれば、本当に気持ちがいい。
話し合う女とじーさんの声に、なんとはなしに眺める。
あの二人が真実気が付いているのか知らんが、知っていても構わんが。正しくこの場は俺の場所だ。だから隠そうしてもこの場にいる以上、俺には割りかし筒抜けなんだよな。というか、状態によっては勝手にダラダラ流れてくる。鬱陶しすぎて普通に聞かん。
最初に此処へ来たのは、じーさんだったな。
ふらふらとしたトロい歩みでやって来た。
体中に力が張っていながら制御できんのか、時折、ドロッと力を零して場を汚しながらやってきた。倒れちまえば、自分も楽になるとわかってそうなモンなのに、それでも歩みを止めようとはしなかったな。
そのくせ目は虚ろな思考を切った面して、ひたすらあったことと行ったことを繰り返し思い出しては痛みを回し、自虐的なまでの痛みの思考をこの場にぶちまけ続けたんだよなぁ。
この俺の憩いの場に。
その後、俺に気付けば狂ったように笑い出して、「消えるがよい」とかなんとか言いながら、力をぶつけて来やがった。まんま反射に二乗して、詰まらん程あっけなく終わらせてやった。
力のある奴が年喰ってからはっちゃけると、こうなるのかとしみじみ思ったよなぁ…
このじーさんは、なんだ… あー、自分がいた世界では賢者として認識されていたんだわ。
それがまた巡り合わせが悪いというか、重なることは重なるというか、とどのつまり賢者と謳われた奴でも手に負えん事態の連鎖にぶち切れる破目に陥ったわけだ。
『全てを無に還さん!!』
なんつー勢いでキレたじーさんは、結果あの世界では立派な怖い代名詞だ。
あー、狂乱狂殺の大賢者だったかぁ? それとも審判を仰ぎし… いや、糺すが行いしなんちゃらとか… あ〜、 …なんだったかな?
なんつーか、まぁ… 余裕が有りそうで実は碌になかった奴が思い詰めると、すっ飛び方がイケてんな。
生き残った奴らは、賢者っつー名目を持ったじーさんの存在を完全に消すことも出来ずに騒いでいただけだった。
「まさか、あの方がそんなことをするはずがない! もし、なさられたのなら、なんらかの問題があったのだ!」
「だが、この現状を見ろ! この説明はどうつけると言うのだ!?」
「そうだ! 他にこのような事ができる者などおらん! 他に説明できん!」
「あやつがやったのだ! それ以外考えられん! 大賢者などと言っても名目であっただけという事だ!」
「この始末、一体誰がつけてくれるというのだ!」
「だから、この様な事態を引き起こす原因になった者をだな!」
「そんな事より、大事なのはこの現状をどう動かすかだ! いない者に拘っていても、埒が開かん。捨て置け!」
「だから! 誰が責任をとるのだ!」
とかなんとか騒いで一揉めし、落ち着きそうで落ち着かんと延々揉めに揉めとったな。
なかなかおもしれえ事をしても、普段の素行が良過ぎて、名目の威光が輝き捲くって奴ら唸っとったなぁ。完全な証拠となるもんを、あいつらが最後まで見つけ出せんかったのが詰まらんかったな。
結果、単なる殺人やら重罪人なんぞにならずに真相は半ば闇に葬られ、天災がなんたらとか悲劇を呼んだこの偶然がとか、最終今回の事は総ての者に対する試練であり… とかなんとかで、神の教誨である。
とまぁ、そーいう方向に持ち込んだんじゃなかったかねぇ?
じーさんがしたのは間違いないけどな〜、ははは。
まぁ怖いといえば、真実を知ってか知らずか、知る気がなくとも都合良く歪めていくのも怖いもんだよなぁ? …ああ、ちと違うか。
そりゃ、よくあることか。どーってことねーわ〜。
だが、じーさんは絶望に浸っているわけじゃあない。
あそこまで力があるんなら、行く所なんざ自力でどーにでもなるだろうに、やっぱりあの世界で生きている。そして、てめぇの孫が可愛いと言っている。
ま、自分から数えて正しく三代目の孫かどうかは聞いとらんが、多分ありゃ違うだろ。他者については知らんが、己の血に、家族に、確かに愛しいと愛情を抱いている。あったことがどうであれ、おそらくその輪に入る者には、手を広げていくことが出来る奴なわけだ。
行ったことを後悔しているかは不明だが、自分が事を起こした世界に、その爪跡を未だ色濃く残す所に留まるというのは腹を括っているって意味だろ? …いや、はっちゃけた後、性格変わってたら考えんか。
このじーさん、どっちだろな?
普段、だだ漏れる意識にそんな事は登らんからなぁ。
じーさんとの話の合間に口元に手を当てて、こちらを伺う女が目に入る。
この女は、じーさんの後に堕ちてきたんだったか。
バッシャアアアンッ……!
そりゃもう景気良く水面の水を跳ね上げて、絶望に絶望を重ねて堕ちてきたんだったな。じーさんと違って凝り固まって、もう、身動き一つ取れなくなっていたんだったか。
俺の泉に落ちたまま身を浸し続けて、どんだけたったのかも忘れたわ。
寛ぎに来る度に、「まだ居やがる。邪魔くせぇ」と見ていたが、ある時、漸う自分で動いたと思いきや半泣きで喚きやがった。
「なぜ、何も出来ぬ私が、この様に生き延びてあるのか!?」
「はぁん? てめぇが死にたくても、てめぇの体は死にたくなかったんだろ。どっかで、てめぇも死にたくないと思っていたんじゃねぇのかぁ?」
言葉を望むから返してやれば、目を見張ってぽろぽろ涙を落とす始末。
「私は己が心も選べず、ただ生きたのですか! ただ、生きたというのですかぁぁ!!」
絞り上げるように泣き叫んで、まーた絶望して固まりやがった。
どうせ固まるんなら、もうちょい見映え良く固まれってのに。面白みのない飾りは要らねぇってんだよ。やり直せや。
じーさんもそうだが、俺の喧噪から離れて寛ぐ憩いの場所にわざわざ狙って落ちてくんなっての。
しっかし、今とはエラい違いだ。
それくらい変わったとも言えるか。
自分の世界で神女とも、神の女とも呼ばれた女は、自分が生まれて生きた世界を捨てた。捨てたことで己が生き延びた。
今では違う世界に居を構え、人の手が入らぬ場所で暮らし、寂しくなれば街に行って楽しめるようになれたと笑う。
それでも本心は凍りついたままかと思えば、情も恋情もすっ飛ばして母性愛だと。
絶望にあっても、立ち直れれば女の顔が生きてくるか。気付かねば訪れぬが、ああ、いつかは雪解けが来るということか。生きていれば戻れるという見本の一つとしたもんか。
女が目覚めた姉に気付いて、小走りで駆け寄っていく。その後ろをじーさんがゆっくり追っていく。俺は子猫に目を落として、その小さな頭を撫でながら思う。
じーさんは家族愛を。女は母性愛を備えている。
では、俺は?
なんつーかなぁ。可愛らしいと思ったことはある。愛しいと囁いてみたこともある。愛でてやろうと愛でたことも確かにある。だが、そこに真実、情を込めて行ったかと言われれば沈黙する。
いや、正確にいえば覚えていない、だ。
言ってやった奴の顔を思い出そうとすれば、それは思い出せる。しかし、あの時の情を思い出せと言われると思い出せん。記録見てる感じで、言った記憶もあるんだがなー。
逆から言えば、覚えていない位の情しか、やってないということだ。
コレを初めて見た時、女が言った通り似ていると思った。質は不明だが力の有り様が非常に似ていると思った。
似てはいるが、体が脆弱すぎた。
力はきちんと器に収まっている。だが、力を使えば器から溢れ零れて逆に器を傷つけそうなもんだ。上手に上手に器に見合うだけの力を引き出せたとしても、それは到底我らに追いつくようなものではない。
力の有り様が似通い同じであるとしても、器の違いから全く違うものになる。
無理やり引き出せば器が壊れるだけで、まともな力の発露もないかもしれん。ただ、それだけのことならば使い物にならんで終わって忘れ去る。
しかし、似通う力の有り様が、 『それだけのことよ』 と終わらさないでいる。終わらせないでいる。
女があいつを見ていたように、俺はコレを見ていた。女と違って、ぽつぽつたまにだったけどな。
見ていれば何かを連想する。しかし、わからん。
妙に気になって見続けるようになり、ある日突然気が付いた。
コレは俺だ。
力の発露が、意識が、何もかもの全てが、変わらぬままでありながら変容して今ある俺の、…以前の俺だ。
今ここに存在する、こうなる前の俺だ。
どちらにでも、なんにでもなれる、選ぶことすら選んでいない。まだどうにでもなれる、過去の流れの中に短時間であったとしても確かに存在していた、俺だ。
今の自分が嫌なわけではないし、こうなるべくして自分で決断して、こうなったのだから何の問題も俺にはない。
というか、今の自分の存在方に疑問もへったくれも出んし? 俺は俺だし。俺が俺だ。この辺りは後悔とか、そんなもん考えにゃならん要素は欠片もない。
他の奴によっては、自分はこの為に産まれたのだとか? こうなる事を望まれて誕生し、その為に生きてこうなったのだとか? ん〜な戯言言う奴もいるが、そんなもんは鼻で笑うわ。自分で選べっつーの。
傍から見れば、敷かれた道を歩いて来た様に見えても、実際敷かれた道を歩かされたのだとしても、確かにそこを歩いたのなら歩いたのは、てめぇの足だ。
選べねぇと嘆く前に、てめぇ自身を選びやがれよ。
ただ、コレを見ていれば思う。
何かが違っていれば、確かに変わっていたのだろうかと? 選ぶ道が違っていれば、こうはならなかったのだろうかと。しかし、考えても俺の場合は変わらんと思うのだがな。
力の大きさも違えば質も違う。体の保ち様も違う。俺とは全く違う。違い過ぎて比較にも成らん。
だが、力の有り様こそは正しく同じ。違いながらも同じモノ。
コレは、俺だ。
コレが俺であるのなら、 これは夢だ。
コレは俺にとっての、夢の子供だ。
叶うことを願う夢ではなく、想いを現実にする為の夢でもなく、ただ今の自分とは必ず違う道を歩む自分自身に見る夢だ。
コレは必ず先に消えて逝く。俺より長く生きられない。瞬く時間に、あっという間に儚く消える夢のような生きた証だ。
歩むはずもない道を歩んで生きていく俺がいる。
そう理解に結論がつけば、この上ないほどコレが可愛らしく思えた。
おまけに 『おにいさん』 と呼ばれて、どれだけ俺が衝撃を受けたか。顎が外れるかと思ったわ! おまけに、見事に隠れてどれだけ俺を焦らせたか。
ほんっと〜に、この辺りが似通う所以かと思ったとも!
自分ではない、自分を愛する。
容姿も性格も全く重なることのない自分。ただ、どうあるかと夢を見る。
心を傾けるこの行為、これを愛情と呼ぶのなら、俺のは自己愛以外の何でもないな。
己自身しか愛さない。
ああ、俺そのもので納得できる。
確かに俺だ。愉快だ。やはり、コレは俺の愛しい夢の子供だ。
以前、俺のことを 『真実、他者を愛せぬ擬い物』 のようなことをどこぞの奴が言っていた。
完全に他者で有り、組みする要素がどこにも無い。それでいて自分そのものであると判断した者を見つけ、それを愛しいと思う今の俺は、そいつの目にどう映るのだろうかな?
ああ、愉快だ。愉悦よ。
今日の善き日に祝おうか。どこぞの場所で、我が力をもって、我が喜びを表すために、完膚なきまでに黒一色に染上げてみせようか?
コレがどのような最後を遂げようとも、俺は何も言わない。コレが世界を呪うような末路を迎えても、俺は手を貸しはしない。
コレは俺だ。違う道を歩む俺だ。
どのようなことになったのだとしても、それは選んだコレの意思だ。
それを踏み躙るような無粋なことなど決してしない。俺が俺に見せる愛しい夢の末路であるのなら、それもまた善し。何か一つ手を出して、俺の所為でコレの道が歪めば、それこそ何をしているかわからない。本末転倒も甚だしい。
大事な大事な大事なものにこそ、要らん手など加えない。
それこそ、どうでもいいモノには醜く歪み切る程に力を与えてもな。そんなものが腐り落ちようが、どうなろうが見てもなんとも思わん。いや、それはそれで見ていて楽しいか。
だが、コレは違う。
コレは大事に大事に愛おしく、見ていてやろう。
まぁ、直に「助けて!」とか言われたら… 分からんような気も… してくるが。
なんせ、寿命の短い力の弱い子供だからな… だが、コレは俺だからな… うーん、兼ね合いがなぁ。
しかし何と言っても、俺の加護をやるから、最終は帰ってこれるはずなんだがな。
ああ、だが俺の加護を与えることで、コレが歪むことがあるだろうか?
必ず帰ってくるということは、どのような形になったとて、必ず帰らすということは呪縛であるともいえるわけだ。嫌がった場合、加護は単なる束縛の鎖となってコレを苦しめることになるだろうか?
コレは違う俺なのだ。
ないとは思うが、そのことが原因で同族嫌悪をもって俺に憎悪を向けて来たりしたら… いや、俺が与えようとしているものは、確かに加護でしかないのだが…
もし、そのような時が来れば。
……… 丸め込めばいいか。
そうだよな、大体あんなにブルブル震えて怯えていたわけだし。俺も見つからなくて焦り続けるなんぞ、もう二度とご免だからなぁ。
やっぱり要るわ。
要らんと言った時に外せば良いだけだぁな。二度と外さないというわけじゃないんだ、ああ、問題ないわ。ないない。俺だって、そこら辺の引き際を間違えるつもりはないし。
寿命も短いわけだから、つけとけ。
ん? よしよし、いい子だな。 起きたら加護をやるからな〜。
俺は非常に機嫌良く、四肢を伸ばしてごろーんと眠る子猫の毛並みを梳いてやった。自然と顔が綻んでくる。そして、どこで黒の花火を打ち上げてやろうかと、楽しく楽しく考えた。
考える内に思い出す。
どこぞの奴が 『必然だ。偶然など有り得ない。総ては必然であるのだ』 とか言い続けていたことを。
その後に続く言葉が、大抵人様に対する罵詈雑言だったなぁ。阿呆臭くてそんなもん、全部鼻で笑って捨て置いて、使いをやって叩きのめしていたけどな。
あったことを 『必然』 という言葉一つで片付けるようとする話は、俺は好かん。
しかし、言い募る奴の言葉に例えるならば、俺があいつの召喚を見続けて楽しんでいたのは必然で、その召喚のよってやってきたコレを見つけるのも必然で、コレが三年以内に願ったことも逝ってしまいそうになったことも必然で、俺がコレを愛しい夢の子供と気付くのも必然か。
ならば、祝いの黒の花火を打ち上げるのも必然ということで、その上げる先を常から必然だと言い続けていた奴の所にするのも必然というわけだ。
実に楽しい話だな。
俺の口が笑みに歪み、起こさぬ為に声なき声が溢れ出て、この上ない笑いを誘った。
そうして、俺の笑い上げた声なき声は、どこぞの空間に密やかに傾れ落ち、轟き溢れたことだろう。どう溢れたか見れんのも残念だが、花火は盛大にしてやらねばな。
幾星霜生きてきたとしても、理解しているつもりでも本当にわかっているのか、わからない。
その踏み出しの始めの一歩。
一色である。(故に)それは純粋。(でもある)
が、その色は黒色である。全てを飲み込み、総てを返さぬ一色である。
行き着く先は決して変わらぬ黒でしかない。どこまでいっても何かが変わったとも思えても、本質は変わらぬであろう。
男の愛情表現は、関係ない第三者からすれば真っ黒にみえるは必然。(かもしれない)
しかし、その黒の中に銀もしくは金の輝きを見出す者がいるのは偶然だろうか? 必然だろうか?
依然として、それは 不 明 である。
愛情とは斯くも難しい。
本日、二度目の十三日の金曜日。本当に回の巡りが宜しいです。
愛情にしましても、現実でのストーカー行為等は論外。




