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召喚  作者: 黒龍藤
第一章   望む道
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24 閑話 執事の語り

         

 私はランスグロリア伯爵家に執事としてお仕えしている者で、名をタウ・ラスと申します。


 私の名はタウですが、これが真実の名であるかは不明です。ただの愛称であったのかもしれません。

 ですが、皆が私をタウと呼び、私もそれが自身を指す名称であると認識したその時から、私の名はタウになったのです。そして、私には家名はありませんでした。

 もう、お察しされているやもしれませんが、私は孤児であったのです。


 私は気付けば孤児だったのですよ。いえ、気付いた時には孤児であったというべきでしょうか? 

 私は町の吹き溜まりというか、裏路地というか。 まぁ、そういった程度がしれるところで生きてきたのですよ。

 生き延びる為に、いろいろ致しました。

 私は幸いな事に魔力が使えましたものですから。ちょいと上手くやれば、なんとか出来るものでしてね。生活に関わる事でしたし。

 十を数える頃には一端の悪といいますか。 …ええ、そんな風になっておりまして。


 いやもう、今思えば赤面の至り。若さ故の暴挙といいますか、無謀な勢いだけの阿呆といいますか。年を食ってから考えると、やはり若さは力だと、つくづく思いますよ。





 魔力とは不思議なモノでして、赤子の内は皆が持っているのです。使えませんがね。本当に不思議なことに皆が持っているのですよ。

 あたかも血の流れと同じようにあって、本当にあるだけで使えんのです。あることは皆わかるのですが、自分で血の流れを調節できる者など居ないでしょう? その後、成長していくに連れて何かが変わっていくのです。


 一体何が違ってくるのか? 


 それが、誰も、よくわからないのでして。

 どこかのご高名な学者の方が調査に乗り出されたましたが、明確な答えが出ることはなく結局は匙を投げられたそうです。最も、どの様にお調べになられたのかは存じませんがね。


 どのみち現実として、魔力を持つ者と持たざる者にーー

 魔力を持っていても使える者と使えぬ者の三分割に別れるのです。

 私的な意見としては赤子の内は持っているのですから、持たざる者も私共にはわからぬ程に薄くても本当は持っているのではないかと思うのですがねぇ…?



 貴族と呼ばれる家の方々は、大抵の方が魔力を保有して使える事ができる方々です。

 その力は庶民の中で使える者よりも、はるかに強い力であることが多いのです。そして、庶民の中から上級貴族の方に比肩する力を保有した上で使える者というのは、ほんとにたま〜に出ますけど、ほんとたま〜にしか出ませんね。下級貴族の方ならどうってことないですけどね。その事を前提におけば、お血筋そのものが重要と思われるのです。


 が、この法則絶対でもなかったのです。

 私めが、思いつく様な事は過去の偉大な方々も思いつくものです。そうして、結びつきを実に強固に強めた結果、スパンッ!と魔力が途切れてお名が消えたお家もございます。


 お血が濃くなり過ぎたのでは?と、時の方々が系譜を紐解きましたが、特に奇形の子がなされたこともなく近親婚を繰り返し続けてもいない。故にそこまで血が濃くとなったと思えない。


 このことから、使えはするが根源はわからぬ。魔力とは真実、明確に言い表す事のできないわからぬものだと学者の方をお泣かせしたと聞き及んでおります。


 不明すぎることは、 『神の手によるものだ』 で終了しましたよ。

 

 私は神を信じて… は、あまりおりません。神を見たことなどありませんし? 

 ですが、現実に説明がつかない事は確かにあるのです。そのような事案につけるなら実際、便利な言葉ですね。

 ま、そのようなことについて深く深く深淵に考える庶民なんていませんけどね〜。現状、そんなことに省く時間なんてありはしませんから。日々の生活で大変なんです。

 


 






 魔力を持つ者は持たざる者よりも、やはり強くてですね。


 私は、その力で上手に裏で伸し上がりまして、やり過ぎました。


 やり過ぎた結果、あちらこちらに敵を作ってしまいました。

 いや〜、馬鹿ですねぇ。魔力があっても孤児は孤児で、悲しいことに抜け出せない者は抜け出せんのです。救いの手を望んでも無いモノは無いのですね。


 育った町を命からがら逃げ出しました。

 点在を繰り返し、最後にランスグロリア伯爵領にたどり着いたのです。あれは… 私が二十になったか、ならぬかの年でしたかね? いえ、過ぎていましたかな? 若輩者であったことは確かです。

 どんな場所でも吹き溜まりというのは、あるんですよ。大きな街であればあるほど影もまた大きいものです。そこへ、さあっと滑り込みましてね。今度は失敗しないように、敵を作り過ぎないように注意しつつしてたのですが〜〜、さくっと取っ捕まりました。

 どこの影でもある程度の縦社会は形成されているのですが、ここの影は緩くもあったので安心してましたらいけませんでしたねぇ。緩いのは釣りでしたよ。


 最終、影を仕切っている者とランスグロリア伯爵の前に引き出されました。

 伯爵と初めてお目にかかったあの時を忘れる事はできません。生きている世界が違うというのを、まざまざと感じさせられました。自分が持つ力など、本当にちっぽけなものだと思い知りました。


 慈悲を乞えば良かったのでしょうが、思い知った直後だったのです。言い訳するなら若かったのです。

 今までの自分を形成してきた全てを見下されたような気がしたものですから、なけなしの意地で反発しまして。



 さっくり処分されそうになりました。


 左足を折り曲げて、左の足首と右腕を後ろで繋いだ形で、ぎっちぎちに縛られましてね。

 そのまま川に、どっぽーん!ですよ。


 片手片足の変な感じで立ち泳ぎできるんですが、水を掻いても進めやしません。

 縛られた体勢が体勢ですから気が動転して浮くだけの事も、まともにできずに水を飲みまくってせ返り、最後溺れ死にしかけました。はい。


 片手片足で粘れる分なかなか沈まんのですよ。体力が保つ分だけ時間が延びるのです。けれど、縛られた縄が水を吸って、きつく固く体に食い込みます。沈まぬ様に水を掻く動作でより一層、体が締め付けられて苦痛が増していきます。

 川ですので波が来ます。水を掻かねば沈みます。押し流されます。しかし、岸に上がれるわけもなく、体力が落ち、疲れを実感してきた時に恐怖心が増大するのです。意地もへったくれもあったものではありません。


 溺れながら必死で哀願しました。懇願しました。

 しなければ自分が死ぬという事を、許されなければ本当にこのまま溺れ死ぬのだと理解した時、自分の死を非常なまでに痛感したのです。

 その後は心底ぶるって、へこへこと頷きまして今ここに至るのです。


 いや〜、あの時は助かりたい一心で何でも言う事を聞くとか、この身を捧げるとか、一生お仕えするとか、ちゃんと役に立つとか、かぁなぁりぃ・いろいろと口走りました。 ええ、もうほんとに。



 助けの手が思ったよりも早かったので、あれは本気だったのか試しであったのか今もってわかりません。あのご表情からすれば処分は本気だった気が大いにするものでして。



 助かり、落ち着いた後でも暫くは当主様の蒼い目が、ほんと〜うに恐ろしゅうございました…




 その後は様々に知識を詰め込まれ、立ち振る舞いに言葉遣いを矯正され、与えられた役目をこなすのに必死になり、ひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすら、ええ、もうほんと〜〜〜うに、ひたすら時間に追われるように日々を過ごしました。

 できぬことに項垂れ、怒られ、やり直し。苦心に苦心を重ねて連ねて積み上げて! よう〜やく、できた時のあの達成感と到達感と来たら!!!


 何物にも勝るとは、あの心境を指して言うのです!!



 今になって思えば、恐ろしいほどの飴と鞭であった気が大変するのですが、ええ、非常なまでにするのですが! アレが、あったから今の私もあるのでしょう。

 逃げ場など一つもありませんでしたからねぇ… 私。よくこの身が保ったものです。図太くもあったはずの私の胃が、こう、こう、ギリギリと、ギリギリと痛んで…… 痛くて痛くて…  はぁ。



 お家のために尽くしておりますし、以前とは比べようも無いきちんとした生活はできます。また最下層の奴隷ではありませんし、何より奴隷印を押されてもおりません。


 ですが、なんといいますか。 こう。 違うのですが、こう… 


 家の為にいる畜生かと。ああ、家畜ですか。

 …本来、家畜というのは、お家の為にあります。お家の益に成るものなので、普通は大事にされるはずなんです。ある程度は大事にされて然るべきなんです。売られることも食われることもありますが。


 ですが、私は、それ以下ですかと。使い捨てですかと。替えの効く複製品の一つですかと。そんな気分になったこともございましたよ。ええ、一時期は。

 


 …いえ、私は、家畜ではありませんし奴隷でもありませんから、思考自体がおかしいですねぇ。あははは。この時は、きっとひどく疲れていたんでしょう。ええ、そうですよ。きっと。


 …あの時の口走った言葉のせいではないと思いたいです。




 このようにして、私めがいろいろさせて頂いていた内に、ランスグロリア伯爵である当主様から正式に家名としてラスの二文字を頂戴したのです。

 ラスの名を持つ者は他にも居りまして。はい、そうです。私と同じような境遇であったり、訳ありで動けなくなった者だったりするのです。私は共同体とも言える家族を得たのです。


 ラスはランスグロリア伯爵家に救われた者達の集まりでもあり、保護を受けている者達の集まりでもあり、そして、自ら納得して影となることを決めた者達の集まりであるのですよ。

 もちろん、影にならぬ者もいます。約束事もございますが、意思で選ぶことが許されているのです。寛大過ぎて怖いですよ。

 約束事を破った者には当然のこと私共が参ります。そんな不届き者まずもっておりませんけどね。なんせ、自分の結末見えてますし、その程度の根性と心情で破るくらいなら始めからなりませんよ。阿呆臭い。覚悟の一つもない使えない者など要らんのです。






 現在、私は王都のランスグロリア伯爵邸にてお勤めさせて頂いております。

 本来の主である当主の傍から外されたのですから左遷かとも思いましたが、お前だから任すと言われれば素晴らしい出世の気が致します。飴なのかと考える自分が悲しいですがね。これも性分でしょうかね? それとも年を重ねた所為でしょうかね?

 


 王都に参る理由はハージェスト様の為でありました。

 当主様の次男坊であるハージェスト様は、確かに魔力量が少ないのです。ランスグロリア伯爵家の特徴とも言うべき金の髪に蒼の眼は、ご長男で次期当主のセイルジウス様と同じ位に受け継いでいらっしゃるのですが… ご兄弟の中で一番魔力量が少ない。もっとはっきりいえば私よりも少ないですな。これで、悩むなというのが無理ですよ。


 苦悩の中におられても、ハージェスト様は私共に当たり散らすようなことはなさいませんでした。本当に苦悩されておいででして、堪らず爆発しそうな状況に陥ると人に当たることなく、さっさと害獣退治にお出かけでした。

 …苦悩から来るご表情は、苛立ちからの殺気を飛ばしまくりのお顔でして。落ち込んで沈みきったようなお顔は… 私、見た覚えがないです。やっぱり、そういったお顔をするとすれば、自室だけではないでしょうかね?

 魔力量はございませんが身体能力は低くないので、ある程度使い切ったあとは力技で押し通しておいででしたよ。最初は、それでも危なっかしくてハラハラしていたものでしたが、その過程はあっと言う間に終了しましたね。回を重ねる毎に要領よく仕留められるようになられまして。殺気の出し様も、あれで覚えられましたよねー。


 いやはや全く素晴らしいです。気分転換における八つ当たりのような害獣退治により、意図せずとも本当にお強くなられました。一石二鳥、いえ、三鳥ですか。


 これで魔力量さえあれば… そう思ってしまうのです。そう思って、つい、ため息をついてしまうのですよ。私を含めた誰しもが。





 このことを憂慮した当主様と次期様が話し合われて、ハージェスト様を王都の学舎に行かせられる手筈を整えられたのです。ハージェスト様も、それはそれは喜ばれましてね。ほんとにやる気十分でしたよ。


 私共は、それを我が事のように喜ばしいと見ていたのです。

 私共は、ご兄弟がお小さい頃から見守っておりますが、私共ラスの正確な詳細は当主様と次期様しかご存知ありません。私共も家族となって心近しくなった者達以外に素性を話すことは致しません。当たり前です。


 ですが、その事を知らずとも皆様方は普通に接して下さいます。分け隔てなく接して下さるのですよ。

 それが当たり前だと思って頂いては困ります。お家の方針によっては、使用人が、特に下級の使用人が家人の前に出てはお叱りを受けるのです。そういったお家の使用人は空気と同じで、居ない、見えない、会話ないが当然なのです。


 必要として、気にかけて頂いて嬉しくない者がいましょうか? 

 ましてや、この世は身分の世です。緩い事柄もあれば、非常に厳しい事柄もあるのです。立場の違いから普通に拙い事態に直面もするのです。



 ハージェスト様の為と聞いて、俄然参る気になりました。基本、私めに始めから断る手段なぞありませんが…

 決まったその際には諸先輩方、別名・上司にがっちりと心得を叩き込まれました。久々に油をしぼられました… 久々でしたから、きつかったです。



 ランスグロリア伯爵家は、その昔、王都にも屋敷をお持ちだったそうです。

 その屋敷を分家筋に任せたといいますか、何といいますか。

 時間の経過と共に譲ったという事になるのでしょうか? ならないと思いますけども。

 なんでもその当時、文書ではなく口頭での移譲の約束があったの、なかったのと紆余曲折、何やらいーろいろ楽しい出来事があったらしいのです。最終、金でカタがついたのかどうなのか? 


 当時の当主様が何やら激怒なされて、「その程度のものが欲しくば、くれてやるわ!! だがな、その前にこの別件の説明をせよ!」とか実に面白げな話につながって、最後に「全くこの様な事で。ああ、けちがついたわ。こんなもの始末するか」とおっしゃられたとか、なーんとか。


 過去の事は、私めにはわかりません。



 なので、少し前までは手放されたような形で王都に屋敷はございませんでした。

 なくても定宿をお作りになられたり、「王都にお越しの際は、ぜひ泊まりに来て下さい」という同じ貴族家やら様々なお家からのお声がお有りですから困ることなどなかったのですが、ご不便ではあったらしくハージェスト様のご勉学の為にという名目は、ある種渡りに船だったようです。

 貴族家が新たに王都に居を構えるというのは、なにかとあるのですかね? 普通に別宅を建てたというだけだと思うのですけど? 庶民にはわかりませんよ〜 …ええ、ほんとに。



 それにしましても、親戚とは難しいものですな。付き合いたくない性格の者でも親戚であれば、付き合わねばなりません。上手に上手に見極めて流してこそ、大人であるとでもいうのでしょうかねぇ? 

 口頭では「一切の付き合いはしたくない」と、ぶちぶちきっぱり言っておられても、後に残る文書には 『今後ともよしなに』 と最後に書き結んであるのです。社交辞令にしても、ま〜ぁ、腹の読み合いは大変ですな。

 こういった事については私自身は楽です。いえ、家族は皆がおりますけど。



 様々に物色し損傷を検討して旧家を買い上げ、新しく建て直されたお屋敷は王都にあっても閑静な佇まい(高級住宅地)に位置する場所で、年月を感じさせる重厚な趣をわずかにとどめつつも新しく今風で風雅さが漂います。お庭を含めて坪七百ほどで、部屋数は二十程度のご家族を意識された造りであって、大勢の方をお呼びする造りではございません。本邸とは比べるべくもございませんが、それでも来られた方が寛げるこの雰囲気は、さすが職人技と呼ぶのですね。


 そのお屋敷に十歳でハージェスト様は勉学に来られました。お一人で、ですよ。年に数回皆様が来られていましたが、ことに次期様は来られる毎に、かなり勉学に付き合っておられましたね。

 あの教え方は自分が耐えるのに必死であった教え方と大変似ているのですが、それについていけるハージェスト様も間違いなくご家族なのですね… 呻いた我々とは違いますなぁ。


 お寂しゅうございませんか?と聞けば、「寄宿舎であったら確かにまた違って賑やかであったかもしれないが、皆がいるから問題ない」と答えられます。しかも、「さすがに王都は違っているから、学舎の皆といれば遊び過ぎそうだ」とまで笑って言われました。


 驚愕ですわ。信じられません。聞いた耳を疑いましたよ!

 いえね、全くないとは言いませんが、遊びが碌にないんですよ! 自制が効き過ぎてやいませんか?と心配になりましたわ。

 状況が我々とは全く違いますから比較も何もあったものではありませんが、出来過ぎな気がして怖かったですよ!



 暫くのちに、末弟のリオネル様が、ご一緒に通う事になった時は微妙でしたね。リオネル様は何の問題もございませんでしたからな。複雑なお顔をなさっておいででしたわ。


 また、次期様であるセイルジウス様にも微妙な時期がございましたなぁ。これが。

 力の無いハージェスト様に思う所がお有りだったのでしょう。私共はセイルジウス様がハージェスト様を、ご兄弟の計算から弾かれるのではないかと疑った時期があるのですよ。

 ええ、そうです。次期様が、ご兄弟の計算から外すということが以降どのような事であるか、ご理解頂けますか? 

 実際には、そのような事は杞憂でございました。本当に良うございました。


 逆にリオネル様の方が調子にお乗りで、怒ったハージェスト様に力技で絞められて泣きが入りました。


 考えてみれば魔力量以外はご立派なのですから、あれは当然といえば当然な結果でしたね。

 術を使うも何も体勢を崩されて関節技がっちり決められ、憂さ晴らしの害獣退治で鍛え上げた体力と気力に的確な絞め技を食らえば、どうやっても逃げ出せずに泣きが入りますわ。容赦なく絞めてましたから、見てる方も楽しかったですよ〜。兄弟喧嘩としても微笑ましく、あれは笑えましたわ〜。

 もちろん、ばれないよう静かに、こっそりと口の端だけで笑いましたよ。私は。




 魔力を増加させる為にはどうすればいいのか? 

 学舎の勉学にて、わかり切っている内容から眉唾なことまで確認にと試されました。

 最終、召喚を前提として動かれ始めたハージェスト様に、セイルジウス様が一言仰られた時には、どうなるかと肝を冷やしました。

 お話の後は当主様より先に許可を出されました。そのご様子に、ご兄弟仲に問題はなく本当に良かったのだとしみじみ思ったのでございます。


 そして、これで最後とお決めになられた召喚の日を、共に来たラスの家族に他の皆、ご兄弟樣方と祈るようにして迎えたのです。










 例え、王といえども全ての人間を救う事などできやしません。

 全ての人間が救われるなんて、そんな夢物語を私は考えてはいないのです。自分が救われたいと望んでいた時は、自分のことで頭がいっぱいでした。


 吹き溜まりで生きて、馬鹿をして、拾われて、全く知らなかった世界を見ることができ、そこで笑えて生きることができるようになった今のこの状況下において、人として生きる事ができている私の救いの手は正しくランスグロリア伯爵家の方々の上にあるのです。

 神に祈るよりも、祈りの王に祈るよりも、伯爵家の方々とありたいのです。




 私の話を聞いて下さっても、どれだけご理解頂けるのでしょう? 私のような者は、いないわけではございません。少数ですが確かに這い上がれた者はいるのです。下層から上に上がれた者はいるのです。自力のみで上がれる者は、まずもって居りませんがね。


 私の話を聞いて下さって、ああ、そんな話かと。聞かない話ではないから、ああ、わかったと。恩を感じておるのだなと。



 単に、そう思って頂いては迷惑ですよ。

 私めの心の内を、ほんの少し明かした位で、 『お前の気持ちは理解した』 などと思って頂いては良い迷惑なのです。



 …いえ、口が過ぎました。

 聞いて頂けることについては、本当にありがたいことであると心から感謝しております。



 なれど、誠、どれだけ言葉を重ね尽くせば、私共の胸の内を正しくご理解頂けるのでしょうか? 

 どれだけ語り尽くせば、ラスの名を頂いた者達の今回の気持ちを得心して頂けますのか?


 思いがけない事は確かにございます。事故というのも間違いなく存在します。

 しかし、今回の一件は、どこかで、誰かが、何かを、考慮してさえいれば、この事態を迎えることはなかったのではないでしょうか?

 私共は、そう考えるのです。そう、考えてしまうのですよ。


 私共、影は耳が良いのです。生き延びる為にも。

 ハージェスト様の押し殺したあの呻くような泣き声を耳にしたあの日から、ずっと皆が、そう、考えてしまうのですよ。







 現在どのような状況で、おいでなのかも存じ上げております。

 一連の内容を考えるにつけ、そのことは当然の仕儀であって、まさかそのことが私共に対して何らかの免罪符になる等とお考えではございませんでしょうな?




 私共は、お会いできる日を心から待ち望んでいるのです。


 貴女様にお会いになれる日を実に楽しみにしております。




 私共が、貴女様をお迎えに上がれるその日を。


 ラスめが、必ずや、貴女様をお迎えに上がりますゆえ。どうぞ、お心安くお待ちくださりませ。





 ねぇ? ミルド家のミリシアお嬢様。






じんせぇ〜 いろいろぉ〜

たちばもぉ いろいろ〜 みかただぁって らーらららら、らーらーらーらーら〜〜  と語って下さる執事さんでした〜。




さて、今回の閑話はこれで〆。

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