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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
238/239

238 生存デートルですか?

13日の金曜日。20回目〜♪

喜びも一入ですが19回目の後じゃねーのと気がついて、うわあああー。ほんとに間が空いたですー。



 明けぬ夜はない。


 それは格言。

 決して揺るがぬ永遠の真理。


 斯くして世界は真理に従い、人など気にせずくるっくる回って明けるのだ。


 だが、明けぬならば。

 夜明けの鳥が歌い告げても、その夜が明けぬのならば。明けぬ闇に飲まれる、その時は  金魚になるのだ。


 そう、金魚。

 金魚ちゃあー。


 闇と光の中で己を見つめ、新たな扉となる光を見つめる時。それが明けぬ夜である。その夜を超えた金魚。


 レっちゃんは言った。

 それはもう喜びを露わに、金魚になって初めて知ったと。


 ジュリちゃんは舞った。

 新たな衣ならぬ肩巾を纏いて靡かせ金色ではないお空でちゃぷって、エアーをぶっ放す大舞踏。



 皆、階段を登るのだ。たましーが段階を進むのだ。そうして生きているとゆー実感を得て、得て得て得てぇ〜〜 その果てに、猫せんせーも上がるのだ。


 見よ、世が明ける。


 窓の外、世界は白々と変化して、新しい御世が始まり  違う、夜だよ。夜。 夜だから夜と成すものが座を空けて、 いや、違う。くるっくるにゃいぱーなんだから、夜を夜と知ろしめす時なのだからその夜が明けたからには猫せんせーは徹夜と引き換えにドクターにゃんこになったのだぁああああ! わかるかね、君ぃ!



 クワッと目を開き、相棒の顔を見てみたが反応はない。寝顔は寝顔で眠ってる。猫の説話を聞く者はいない。


 あー、あー、あー。

 のーみそクラっとするうー。ねーむーいー。


 「ん」

 「にゅ」


 猫、寝返り人から逃げる。もうよゆー、ちょっと猫頭ボケてても感覚でいける。


 そうなのです。

 どこで猫心電図を終えていーのかわからんなった猫せんせーは一晩中心音とお付き合いをしたのです。動く度に場を変え手を変え聞き耳変えて患者に寄り添い、その心音を確認し続けたのですよ!?


 そのドクターにゃんこが!


 寝返り如きに巻き込まれるわけないでしょー、にゃーふふふふ! あー、だめだ。もう寝る。寝子たる猫に何させてんのよーってか、夜中の猫運動会ならどーでも夜中の診療報酬は高いんですからね? しかも在宅医療なんですよ? わかってます? それに加えて私費診療ですからね?


 …ああ、返事がない。だが、その代わり健やかに緩やかに波打つベッド()が俺を呼んでいる。


 うむ、スプリングが効いて良さそー。んでも、顎台あるほーも魅力的。脇に挟まるちょーどいー感じのー って、あー。あそこだと仕事の続きみたいなー あー、無意識聞き続けちゃうみたいなー あー、それはやだあー。


 脇腹に猫手を掛けると 掛けると… 弾力性に、残る理性が『そこは弱い、飛び乗るな』と囁く… 仕方ないんで胸の上に陣取った。


 おやすみー。





 今、眠りの中にいる。

 それがわかる。


 浅い眠りに己の心音が聞こえる。ドクドクと鳴り続ける鼓動。生きている、音。覚醒に至らぬまま聞き続け、気付けば俺は自分を見ていた。


 どこに向かうか。

 走り続ける自分は止まらない。


 何故に走るのか? 追われているのか? よくわからぬままに走っている自分を見ている。


 俺がいて、俺がいる。


 間違いなく夢だと思えば自分が走っていた。



 は?


 そう思ったものの道形に走る足は止まらない。どこに続くかもわからぬ道を目的不明で走り続ける。走る事への疑問は走る内に忘れた。その代わり、何かを感じる。呼ばれている様でそうでもない様な… 奇妙な心地。


 なんだろう。


 好奇と不穏を抱いて走れば徐々に良くない感が弥増していく。だが、想いに反して足は止まらず… 息は荒がぬのに、やけに心音が大きく聞こえ出す。それでも変わらず周りの景色は飛び退る。


 景色?

 待て、景色?


 不意の疑問で、それは唐突に終わりを告げ。


 一つ、心臓が跳ね。

 その音を聞く。





 相対する何か。

 進めない。


 面前にある何か。

 理解できない。


 心臓が恐怖に掴まれ、逃げ出す事もできずに突っ立ち。心音がだけが早くなる。目の前の    が、わからない。



 だが、これは夢だ。

 夢だ。


 醒めない夢はない、夢は覚める。聞こえるは心音。 


 ならば、目覚めろ。



 『これは夢だ!』


 虚空に叫べど叫ばぬ自分。

 目覚めぬ体で立ち続ける恐怖に心臓が悲鳴をあげて音が駆け出す。ドドッドドッと変異を滲ませ、速く、大きく、身内からなる音だけが耳に付く。





 「 」


 カッと目を見開き。

 俺は世界に帰ってきた。


 ……帰ってきたあ!


 しかし、体は固まってる。そして、映るは暗闇のみ。だが、横たわるは馴染みのある寝具! 絶対に間違いない!


 斯くして現世と理解したのに、全く体は弛まず安堵の息を吐き出さず。その中で聞こえるのは落ち着かぬ心音。恐ろしい速さで駆け巡り、血を回し続ける音。こんな音、知らない。高が夢で、こんなにも血が回るものなのかと驚嘆する。


 …まぁ、俺は兄さんではないし。



 なんて事を考えたら急速に心音が平常に戻っていった。なーんかなー。


 

 天蓋の垂れ絹に目を移せば、もう心音は耳に付かない。


 それから夢で相対したモノを思い出そうとすればする程、日常性に追われてか内容はぼやけてしまった。思い出したくないのかと、ぼんやりと思考が緩み。


 そこで漸く「ふ」と息が零れた。


 そして異様に気が付いた。

 胸の脇と腕の間で何かサワッとする。サワッとする! 閃く直感に期待値が爆上がり!


 跳ね上がる興奮を制圧し、そろりそろそろ目を向ければ俺の胸に両手を伸ばして凭れ掛かって顔面埋める猫がいる! 何これ、何これ、何この可愛さぁああ! しかし、凭れていると言えどよくそんな立ち寝が あ、真っ直ぐ尻尾かわいー。


 ああもう、他はどーでもいい!


 尻尾に手を伸ばすが姿勢が悪い、起こしそう。違う、俺が横寝すればいーんじゃねーか。いや、待て。この寝姿がかわいーんだろ!


 暫し、堪能。

 だが、このまま姿勢を保ち続ける選択肢などない。欠片もない。


 猫足に腕をぴったり添えて、自分の体を横向きに。素早く手を伸ばして猫背を支え、囲った腕の中、上手にころりと丸く寝かせる。


 起こさず、せい こう! 朝一番、やり切ったあー!




 丸い灰色の毛玉を見てると幸せ。


 ふわとした柔らかい毛。

 暖かな生命の温もり。


 朝起きて、感じる驚異。ああ、嘗て夢見た召喚獣と共にある生活… 一緒に寝て起きてゴロゴロする生活!! 学生時代、指を咥えた羨ましさよ!


 今、此処に成れり!!


 はーっはっはっはっはっは!


 

 感動と興奮で渦巻いて身悶えしてた。

 感動の余り、腹筋に力が入って止まらない。


 それから、居ないアーティスに向かって詫びといた。方向性と性質が違う話だから気にするな。ほんとだぞ。ほんとにお前も大事で可愛いんだからな。


 


 そっと灰色の毛を撫でる。

 起こさない様に撫でたが予備動作なくグリッと猫の上半身が反転、両腕上げて両手を広げ、顎を見せる素晴らしさ。ちょっと顎を撫でたら口元が上がる。可愛い。



 この幸せに眠くなる。

 夢見が悪かったし、寝直そうと思った端から意識がとろとろ落ち始める。体を少し丸め、囲う様にして 寝た。






 「あの、 お、おはよう ございます」

 「…あー?」


 扉の方から何か聞こえるんで顔を向けるが二度寝な所為か、目覚めが微妙。唸ってたら近付く気配に目を眇めた。ら、なんだっけ? ああ、ロト だったか。


 「ん」


 開けていいと指で示す。

 十分明るい日差しに目を細める。


 …なんだ?


 首を伸ばし、首を傾げ、目で探し、後ろを振り返る姿に「ああ、ここだ」手元を剥ぐ。


 「!」


 息を飲み悲鳴を堪えて、腰が引けた。


 「あの、あの、すいま あのっ」

 「…何やってんだ」


 「いえ、あの これは」

 「…ああ、そうか。慣れろよ」


 猫が腹出して寝てる姿に後退りする程に狼狽える姿がなんか哀れ。


 「こ、心構えがなく  ちょ  あの、 す、い、ま、せ、 んっんん」


 失速感が酷いわ、語尾は震えるわ。膝を突かないだけ、まだ強いとみるべきなのか。しかし、凄いな。


 「…姿を見るだけで怖いと」

 「ふ、不意打ちだった から、です」


 雑魚の精一杯の強がりにしか聞こえない。


 「なるほど、魂に刻まれたとはこういう事か」

 「…いぃえ、単なる  ナニかで す」


 ブレる口調に整わない息。如何にも恐怖に立ち向かう顔して、怒りと口惜しさが滲み出すから笑ってやる。


 「良かったじゃないか、一目でわかる隷属紋はないぞ」

 「な、ぁっ!」


 「ぅうにゅ〜〜」


 激情が猫を起こし掛け、また固まる。


 「起こすなよ」

 「あ、は」


 「それより、取ってこい」


 箪笥を指差した。




 着替え終えて振り向けば、猫手で顔を隠してる。可愛い。


 「そろそろ起きたら」

 

 ん?


 よく見たら手の隙間、猫目がキロッとこっちを見てた。


 「ご飯にしようよ」

 「ひっ!」


 猫手を外し、大きく口を開けた顔がなかなかの凶悪顔。欠伸と違う口角に、どうしようもない不機嫌の塊が尻尾を振るう。


 「わ、わ、わっ!」


 二度三度と振るう尻尾に大きな音は出ないが後ろが狼狽える。俺も噛まれたくないので離れた位置で手を置くが、それも拒否と尻尾が振り下ろされ  ロトが扉に向かって逃げ出した。


 影響力の凄さに今度やっていけるのか疑わしい。


 「もう少し寝てる?」

 「ぶにゃー」


 「寝起きで機嫌悪い?」

 「ぶぅにゃあー」


 「は? え、なに?」

 「ぐぅううう」


 「…それはそれとして、どうして猫になってんの?」

 「ぐにゃあー」


 「あー? なら何時頃、人に戻るの?」

 「ぐぅにゃぁああーー」


 重低音の牙見せに「あ、ごめーん」と俺も逃げを打つ。




 寝室を出た所で待っていた。


 「あの、俺  どうし たら」

 「あ? 基本そこで待て」


 「えっ!」

 「何を驚く」


 お前、アズサのだし。


 「あ、あの、飯を  いえ、食事を 構えて、きて おりますの で!」

 「そうか、なら頼む。顔洗ってるわ」


 …まぁ、逃げ出してる。



 食事を摂るが近くに控える奴が醸し出す陰鬱さが煩わし。自己憐憫でないだけましなのか。本日の予定通達を聞いているかと話を振るも「…聞いてないです」仕方ない。うん、アズサのだし。俺が間違ってる。


 「美味かった、後片付けを頼む。その後はアズサの側に待機しろ」

 「え!」


 「なんだ、その顔は」

 「あ、いえ」


 「ロイズからの指示は」

 「…今日はなく」


 「なら待機だろ」

 

 バッサリ切ったら、うにゃうにゃ言い出した。聞き流して、「頑張れよ」。


 

 「待って下さい!」


 一応は潜めた小声で言い募り、廊下まで付いてくる。


 「だから、正しくお前の務めだろ」

 「俺は  た、正しさの奴隷にはならねえ!」


 「あ?」


 なに言ってんだ、こいつ。



 声量に口を押さえるのを失敗顔に免じて見逃してやり。


 「寝てる猫の側にいるだけだろが」

 「それが、いゃ  え、あ  苦しいから です」


 再びの激昂を堪えても評価点は出せない。


 「幸せの塊だぞ?」

 「……怖いんです。ほんとに怖いんです! それを押し込めてやり過ごすのが正しくても俺は嫌なんです! 嫌な事を、嫌な気持ちを、抱えてやるのは正しい事じゃあねぇ  正しい事ですか? 違いますよね!?」


 「あぁ?」

 「き、気持ちを人に話す。話して  か、解決する。それが正しいんでしょう!? それが大事なんでしょう!?」


 「あー」

 「正しい事、正しい事、正しい事! そう言っても、それだけで生きていけるはずがない。事実、それじゃ生きられなかった! 正しいからと押し付けられるのはごめんだ! です。 だから、だから俺は正しさの奴隷にはならねえ!」


 なに言ってんだ、こいつ。何歳児だ。



 「神聖騎士でも揶揄ってんのか?」

 「は?」


 「正しさの、奴隷だろ?」

 「え?」


 皮肉ってやれば、ちょっと間抜けな顔をした。しかし、言動は面倒。


 「全く… 従うを是とせねばならぬ状況下に落ちたる者達の総称が奴隷である。そこに否やも嫌もない。従うが奴隷の道理。対して、そうでない者が己の意思を発するに奴隷を引き合いに出して何とする。 憐れみの伝わり易さか? それとも聞き応えで選んだか? この阿呆、無教養にも程があるだろ」


 厳密に叱っておいた。

 落ちたる者で例えるなど下品極まりないと叱っておいた。


 「違う! お、俺が言いたい事はそうじゃね 「あ?」  そ、そうではなくて ですね」 


 思いが言葉に纏まらないのか、開閉する唇を噛み締める。最後、俯き加減で馬鹿みたいに萎れた。こいつ、こんな性格だったか?


 このまま放置したいが、そうすると鬱々としてアズサの世話に身が入らず、今度はアズサが困った心配顔をするのが目に浮かぶ。


 「で、気持ちを話して解決するだったか」

 「あ」


 「正しさと語るに至るは身の振り返り。そこそこ話してみろ」


 ゆると綻ぶ花の様に顔が綻んだ。

 その顔に引っ掛かった。癇に障る感じで引っ掛かった。


 何が?


 疑問が生まれど、話すに身を正したので心に留め。話し始めたその顔に別の顔(ロイズ)が重なる。


 何故に?


 更なる疑問が膨らめど己の直感は疑わない。が、頭の片隅に追い遣り。代わりに罪状と生い立ちを思い出し、話の中に混じり始めた自供をも聞く。


 「俺はおかしな事を言ってるか? 違わないだろ!? 無教養だの何だの言われても、それは違うだろ!」

 「…それに付いては撤回しよう。無教養の前の倫理であったか」


 真っ直ぐな言葉、それなりに通る道理の説き方。なるほどと理解した。


 こいつはロイズ(勇者)の同類だ。


 意を通そうとする強さ、縮こまる様で縮こまらない姿勢。何があっても、それが通ると  ああ、それで今まで通ってきたのか。その辺りも〜 多分、似てるんだろ。


 「…りんり  俺に仲間を思いやる心がないって?」

 「仲間以前の話だが?」


 そうか、だからか。


 あの状態から一人正しく元に戻った。人に戻れた。意を貫き抗えば最後は通る。確かに、そうと実践してきた強者(勇者)だ。


 「じゃあ、誰が悪いよ」

 「それこそ、お前が混ぜて話した正しさの概念と基準によるな。そして我が兄上がこの地を手にしたのは近年だ。お前の子供の頃ではないな」


 だから、この態度。

 なるほど、これは一笑に付してはならない。呆れも、溜め息も、冷笑も、見下しも返答であってはならない。増長は叩くべし。しかし、こいつの指導方針は聞いてない。


 …どうするか。


 「なら、生き足掻いたのが悪いってのか!」

 「悪いねぇ… それらを上へ上へと上げていけば最後は王に辿り着く。お前の不幸は祈りの王が悪いのか、王の御代がおかしいか。王を挿げ替えよと、その口で言うか。 そうか、王に拝跪する貴族の前で言い遣るか」

  

 いや、どっちにしろ。

 アズサが対応に詰まれば俺への相談対処になるだろし? なら、今の時点で俺がやっても良い筈だ。 …良い、はーずーだー  よーし。



 「お前達の罪状を読むに付け、お前は正しく仲間であったか?」

 「いや、確かに仲間であったろう」

 「あったにしても、お前に対する仲間意識が薄くはないか?」

 

 「お前も仲間と言う割に、誰かの名前も、心配も 口にしていたか?  聞いた覚えも聞かされた覚えもないがなぁ」

 「それなりの力を有していて」


 「どうしてだろうな」


 固まった表情の中、目付きだけがモノを言う。感情の終焉に広がるのは遣る瀬なさらしい。へえ、と思うから微笑める。


 「この現状に前を向き、前を向くが故に正しさを口にしたのだろうから? 立ち上がる姿勢は好ましい」


 表情が動きそうな顔に、もっと優しくにこやかに。


 「だが、お前は黒魚しりょーの奴隷だろ」


 正しさの概念なぞ物量に押されちまえ。大体、正しさの奴隷なんぞ優しさの奴隷の前では小物だろうが。





 「宜しいでしょうか?」

 「おう、長話をし過ぎたか。兄上のお呼びか?」


 「いえ、そうではなく帰還者の方で」

 

 会話を続け、歩み出す二人の背に慌てて声を掛けた。


 「い、いってらっしゃいませ」

 「おう」


 気配が薄れた所でそろそろと顔を上げ、行った廊下の先から自分の足元を見つめ。部屋へ戻るに手を伸ばす。


 扉を静かに閉め、足を進めて『そうだ、後片付け!』と思い出し、重苦しい気持ちが一気に楽になった。



 移し終えた卓を拭き。

 まだの分を置いたら水滴が落ちた。蓋を取ったらつるつる落ちて、慌てて上に向けて卓を拭く。蓋を持って台所に向かい、流しでザッと濯いだら布巾を出して拭き上げる。


 「はぁ」


 こんな事すんのは贅沢だ。この台所も贅沢だ。色々贅沢過ぎて嫌になる。あるのは良いもんばっかりで当然かと思うが地べたを這ってる漁り屋を思い出すと気分が悪くなってくる。


 比べても仕方ないとわかっても『お前、自分で望んだらしいな やめやめ、考えんな。見ろ、この贅沢な もんを。


 「…そうだ、俺と同じよーな生活してる奴を王なんて思わねえ」




 

 廊下に出る。

 ほっとする。


 『お前は未だ罪人である。しかし、奴隷ではない』

 『罪過が裁かれる前に身柄の移譲と相成った』

 『今後、領主が決を下す事はない。この意味がわかるか?』


 決められた場所まで持って行き、戻る。考えるなと思っても考えてしまう。俺は奴隷落ちなんかしちゃいねぇ。


 『生き残れたが間違えたな』

 『その時こそ、今と同じに喚けば良かった』

 『喚きどきを外したな』

 

 頭の中で繰り繰り返される声に拳を握り締める。


 『俺が居れば違ったろうに』


 扉の前で息をする。

 吸って吐いて、吐き出して 腹を括って中に入る。


 『裁かれぬ以上、動かしようがない』

 『これを動かすは恩赦だがアズサに赦免状を出す権限はない』

 『この意味はわかるな?』

 

 「失礼しま、す」


 寝室前の声掛けは小さく。

 中は静かで動く気配はないが、あちこちへ目を動かす。


 奴は小さい。

 どこかに潜み直してないか全神経を研ぎ澄ませて寝台へ向かい、目的の色が見えて安堵と一緒に息が詰まる。そこで息を殺して近付いて、顔を見ないようにする。上下に波打ってるのが見えたらバレないように部屋を出た。


 「はぁ」


 疲れた。


 あそこの隅にでも立っていなければとも思うが居ていい場所がある。そっちなら言い訳が立つと言い訳して行く。

 

 部屋が狭い分、寝台も小さい。そこに腰を掛け、元から開けっ放しの扉を見る。灯りは点けないから、そっちだけが明るい。だから反対向いたら暗い。その暗さに気が抜ける。気が抜けたら、しくじった!が溢れて胸が潰れそうになる。


 喚いて喚いて叫びたい。

 叫べないから足を掴んで堪える。息が漏れる。


 『もう遅い、お前は 』


 続く言葉を聞きたくないと振り払い、ごろっと横になる。横になったらなったで違う事を言いやがる。


 『ならば、先に手を離したのは  お前か、親か。人買いか』


 どうしてか思い出す黒い手。

 伸ばされる手。

  

 頭に焼き付いて離れない。

 だけど、思い出そうにも思い出せない。覚えてねえんだよ!


 「ぅううう」


 ガキの俺はどうして裏路地に居たんだよ!?



 

 どう唸っても何もでねえし思い出せねえ。


 「………後悔なんていつだってあっただろ。変わんねえよ」

 

 現実を口に出したら、あの手は薄れる。

 寝てしまいたくなったが、それをしたらやばいんで起きる。このまま何もしなかったらヘレンに叱られそうな気がして立つ。


 しかし、行きたくない。仕方ない掃除でもするか。






 「もうお昼過ぎてますよ、起きてくださいませ」

 「うにゃ?」


 ヘレンさんに起こされた。


 「にゃーうー」

 「弟様からお話があるそうですから、起きてください」


 なんと、ご用事が。


 「ほら、そこに突っ立ってないで行きなさい」

 「え、あ」


 ロトさん、言い付けられて追い立てられる。うん、尻に敷かれるモード。仕方ないんで猫も起きる。


 足を片足ずつ、のーばーしー。うー、にゃー。 とうっ!


 「あ、お戻りください」

 「にゃ?」


 猫用ご飯はないし、困ると言われたらそらそーだ。


 「に」


 ベッドに頑張り飛んで人戻り。にゃーんぐーるみぃー、ぺいっ。


 「お待たせです」


 プリンセスカーテン様から出るが、なんか体が変。


 「ノイ様?」

 「…猫し過ぎ?」


 体がぐにゃる。


 「あの、隣に準備できました」


 ベッドに座って、うーんと伸びして伸びみぎひだり〜 まあ、良いかな? これで。はい、ご飯いきまーす。

 

 って、あらぁ?

 金魚が二匹、ヘレンさんの髪に見え隠れ。何してるんだかー。



 

 「いただきまーす」


 今日もご飯が美味しいです。

 朝ご飯のあっため直しに「手間掛けさせてー」と言ったら違ってた。俺の朝ご飯は誰かの昼ご飯にスライドするよーなので申し訳ない。ちゃんと起きよう思う。いや、無理だったけど。


 「ああ、食べてるね」

 「んー、おはよー。ドクターにゃんこを褒め称えよー」


 食いながら要求した。ら、首を傾げながら「後でね」スルーした。こいつ、流すの強くない?



 「で、君の代わりに説明したから」

 「…ふあ?」

 

 つみつみつみつみ、詰んでますー。詰んだらデレデレ、ツンデレでーす。 …違いますかあ?


 

 えー、俺の元への仮出所で保護観察処分になったと〜〜 思ったロトさんは、既に無期懲役刑だった。逃げたら、リアルに刑期増し。逃げたら絶対、金魚刑。処する金魚は直ぐにきゃっきゃと実刑判決下してリアル刑罰を無視するでしょう… そんで俺の別に良いよねリリースは無責任な外来魚放流通報案件だった。


 いやでも待った。

 リリース時は外来魚でなくしてから放流するのであってえ〜〜。


 「や、待て。じゃあ、ロトさんのリリースはどうやるんだ?」

 「正規に出しても君の魚が見逃すの?」

 

 「え?」

 「遠く離れたら、君の目が届かないから好きにするんじゃないの?」

 

 「あ、れ?」

 「それこそ素晴らしい存在理由」


 「う、え?」

 「ちょうど良いから聞いてみたら」


 ドアの近くで佇むヘレンさん。両肩乗ってる二匹ちゃん。そういや昼間はダメでしょ約束どーなった?


 「訓練中、馬から落ちそうな所を助けてくれたのです」


 二匹、大活躍してた。

 心配して寄り添い、励まし、良い顔させて頑張らせたと。そんで先日の一件を知ってる方の指導だったので、そのまま通したと。ううむ。


 「基本、出てきているのは今だけで。私としても心強く… 一緒にいてくれる事が嬉しくて、申し訳ありません」


 くぅう!

 今後の予行演習と親善交流!


 仕方ないんで、それは良しとした。

 けど、ロトさんリリース後を問い質したら〜 可愛く体を右へ左へくねらせてくるんと回って返事がしゅーりょー。うん、くっそ怪しい。


 「なんだって?」

 「わかりません。わかりませんが危険です」


 「じゃ、頑張れ」

 「うぇえええ!」


 「可哀想だよ? ほら」

 「あ」


 隅逃げしたロトさんが小さくなろうとしてた。ごめ。背中震わさせて、ごめ。


 


 「大変ごちでした。しかし、食事中の楽しい話ではなかったです」

 「大変よろしく。しかし、君の仕事はこれからですが」


 「え、何です?」


 お皿を下げて貰って二人になって、はい聞きましょう。



 「今朝、使いが帰ってきたんだけどね」

 「はい、坊ちゃんのお家はどうなりました」


 「違います」

 「へ?」


 「君の希望で出した使いです」

 「…俺の?」


 「一人を落とす、一人を助ける」

 「あー!!」


 あの子ですかー!


 


 店の特定はそこまで大変ではなかったらしいが、一人の特定に手間が掛かったらしく労ってやってと言われたので、はい。


 気分上々、移動しまーす。

 部屋に連れてくるのをハージェストが嫌ったので待機場所に向かいます。ちゃーんと手袋致しましー。


 「待たせた」

 「お待たせしましたあ〜」


 中に入ると竜騎兵の方が一人と子供が三人。 …三人?!?


 『あ、この子だ!』を聞かれる迄、待ちます。

 てか、ハージェストと兵の方の遣り取りが先です。ええ、話も和も乱しませんとも。代わりに三人観察します。


 オドオド・ドキドキ・キラキラな心情溢れる上目遣いで見てきます。 …身長差があるので当然です。全員、古着のよーですが元が良さげ。しかし、袖裾長いっぽい。


 いえ、それより裸足。

 三人とも裸足ですがな!  …泥足ではないよーですが足裏だいじょーぶ? あ、でも裸足は足指足裏鍛えられるとかあ〜〜 ふう。


 「この中に、ご指定の者はおりますでしょうか」

 「はい、この子です」


 指定した子の顔がぱあっと花開くよーでちょっと違うような〜 あ、でもはにかんだ。そうそう、この子。この顔です。


 残る二人が俯き気味になりましたが仕方ないです。


 「本当、お手数お掛けしまして。ご苦労様でした」

 「いえ、こちらも頂いた役目です。日がはっきりしておりましたが入荷前後と入れ替えで特定が絞り込めずに時間が掛かり」


 顔見せはローテーション。

 子供の金額なんて似たよーなもん。そんで全員、売れ残らず。


 地域の取り纏めさんを手伝いに、店の抜き打ち検査と摘発がセットで売却先にも確認に行って取り扱い不適切な場合は指導を行い、その上での不満不服の申し立てには普通に武力制圧なされてたそうな…


 「幸い追える範疇での事でしたので」


 爽やかに言われるが、その地域を一人で全カバーだぞ!? なんつーやべえ仕事依頼になったのか!


 「いえ、別の二人の方が大変だったようで」

 「はい?」


 俺の降臨地探索途中で変死体が出てくるわ、山越ルートが潰れてるわでご参加下された地元の方々共々大変だったらしい。そんで降臨地は不明のまま。


 やはり証明はできませんでした…


 後、追加要員来られたそうで。ちらっと話した女の子についても調べてくれていた。その子も売れてた。その子の場合は〜 息子の嫁。嫁、嫁、嫁。来手に乏しい息子の嫁。お母ちゃん、その子にもちゃんと話を通してたそうで解放はないが取り扱いのランクアップはされていた。


 なので良しとしたら、女の子から「違います!」の一声が飛び。


 「…なに言ってるんだい?」


 そこから始まる生存戦略! パワーモードは黒い咆哮!!



 「あの、その話の続きはあ!?」

 「この三人だけですので」


 「あはは、愉快そうな結末が伺えるよね。で、どうしよう?」


 残念、話は終了した。


 「で、何?」

 「一人を助ける。相手方に不備はない、だから買い上げ。確定が怪しかったから三人に。買い上げは問題ない。残る問題は彼らの処遇をどうするかだ」


 そうでした。

 稚魚の放流、生き残れます? 荒波呑まれて生きていけ?


 「名目が君だったから所有権は君だし」

 「はい?」


 「はい、これ権利書」

 「はぃい!?」


 「で、金額これ」

 「ひょお!」


 金額は兎も角、渡された書類は読めません。一気に興奮がしゅーりょー。しかし、どうしたものか。


 「あの、これ請求書?」

 「ん〜、どうだろう」


 やばい、これは返答次第で請求される! うーむむむ。


 「あの、いいですか?」


 そろっと発言に、はいどうぞ。


 「僕は、僕は竜騎兵になりたいです!」

 「え」


 「ぼ、僕もです!」

 「できるなら、俺も!」

 「はあ!?」


 突然、進路希望が出ましたよ! 


 「ほう、見込みは?」

 「そうですね、乗れては来れましたから」


 皆様、竜で行きました。帰りも当然、竜ですね。なら、三人も竜に乗ってきたですね。わあ? や、待て。


 「そうだ、三人とも前の持ちぬ  いや、飼いぬ  ちが、ご主人… ん〜 んん〜〜  あー、前の方に未練は? 一緒に居たいのに引き離されたよーな状態であったりは? よくかんが  え、なくてもいーのか。 そっかー」


 全員、見事に未練なし。意思表示が早くて、うーんん。


 返事待ちの三人に犬耳が見える。

 三匹、身を寄せ合ってきゅーんと鳴いてる。


 「どうする? 適性検査を受けさせる?」

 「え、えええー」


 途端に、きゅーんきゅんきゅん鳴きが聞こえたです。が、それは幻聴だ。


 「一度受けたら納得するだろし」

 「え、でも〜」


 だって、あなた。

 今受けちゃったら戦闘奴隷志願になるんじゃね? お前、悪魔モードの目をしてね?


 や、誰か貰い手いないかな? 一匹ずつでもいーんだけどな? あ、俺が貰い手? ですよねー? 気分で決めるもんじゃないですよねえ〜〜〜〜 反省しろ、あの時の俺ぇえええ!



 読めない書類で顔を隠して考える。


 「孤児院とか」

 「どうだろうね」


 含みが滲む微妙な返事は含みの方向性が掴めない。養子縁組は〜 あー、元奴隷って付くからなー。その辺りの機微って難しいだろうしー。


 「あの、お家の方で所持するとかは」

 「どうだろうね〜」


 セイルさんとの大変な交渉と俺の懐具合は比べるもんじゃない。しかし、魔王様は厳しい! 


 「あの」

 「うー ん?」


 眉毛もへにょった顔で何を言うかと思ったら。


 「帰る家はありません。頼ってもいい人もいません。解放されても… とても嬉しいですが、このままの方が」

 「へっ?」


 吸った息が止まりそーです!

 俺が子供にひでぇ事を言わせたですよ!


 裏路地の勇者二号にして堪るかと涙を飲んで許可します。適性検査を受けさせましょう!


 「「「 ありがとうございます! 」」」



 わふわふ喜ぶ三つの顔を見てたら降ってきた。坊ちゃんの遊び相手にちょーどいーんじゃねーか?ってのが許可した後で降ってきた! 遅い!!



 「あのさ」

 「なに」


 「使い物になるまで金掛かるよ」

 「先に言えってー」


 んでも、適性あったら〜 此処が家の子になれるかな。


 

 

その家の地下攻略を戦闘奴隷のよーにやらされてんのが仮ゆーしゃ。頑張ってる。

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