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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
237/239

237 ある、生命の香

19回目の13日の金曜日。


わぁああい、落とさなかったあー! なんとかなったあー! 



 水に揺れる異界神様のお姿に、定かならずとも感激していた私は、漸くの事、ご挨拶に気が付いた。どうぞ私めの声が届きますようと願いながら、羽根の間から身を乗り出そうとするも… 上手に抜け出せられない。


 何故か、足がよく動かない。


 おかしい。

 やはり、気の所為ではない。


 そう理解しつつ身を捩るも抜け出せない。うんうんと頑張ってみたけど無理だった。我が事ながら情けなさが募る。そして、はたと気が付いた。慌てて顔を上げれば異界神様は居られなかった。


 居られなかった。



 えええええ!


 衝撃の余り口を開けたまま固まるも、見上げる姿勢でお待ちする。 …お戻りになられない。不意に誰かの『だから、遅いのよ』揶揄する声が聞こえた。こんな時に嫌味が混じる声など思い出したくもないのに、思い出してしまった。


 私、ほんとに遅いのかしら?


 そんな事はと思うのだけど、双子の『まぁ、偶には』『姫様だし』肯定する声が聞こえないでもない。でも、そんな事より!


 反省してみる。


 お姿を認めると同時にお声掛けをした方が良かった? 又は前へと進み… 存在を示すに大きく腕を振ってみる? そうすれば… 良かった? そうすれば、お目通りが叶ったと?


 

 ……いやだ、それって拝礼を略すに他ならないわ。


 初めての目通りで、異界神様の御前で、拝跪もできぬで礼を略すなどそれこそ恥晒し! 終生お会いできるかもわからぬ異界神様のお姿を前にして、感激に打ち震えずにいる方がおかしいと言うもの!!


 だから、私はおかしくないし遅くもないのだわ。




 でも、機を失したのも確かなようで。

 項垂れてしまう。


 感激と安堵の後な所為か、それとも心定かにならぬが為にか、涙が零れた。


 零れた事に口をきつく噤むも次から次へとぽろりころりと転がり落ちる。落ちしは神の水に溶けていく。この様なものを溶かしてはと思うも止められず。溶けゆく様を見ていると、なんと情けない事かと詰る声に疲れたと零す小さな声。


 我が事で溶かすは穢れでは?と慄く声に不安が生まれ、『要らない』と声が聞こえる。


 殿下のお声で 聞こえる。




 そんな事は言われてない。

 言われていなくとも、と自分自身が否定する。


 それでも口にされてはおられぬ事ゆえに、どこから生まれた妄言かと自分を制すれば『だから、あなたはちょうど良い』と 赤の方の声で聞こえる。


 今、目を、閉ざす、 その愚かさに。




 ほぅと大きく息を吐いて首を振り、目を開けば彼方此方に浮かぶ玉。


 金に黒に赤に煌めき、他にも大小様々な玉がそれぞれに色付いて。最も大きな金色が揺らめき、流れに従い緩やかに落ち始める。


 下へ下へと落ちゆく先は見えない。

 見えぬ先は暗い。


 暗いそこへ金色が落ち、黒の玉がそれに続く。

 黒いが故に金色よりも先に見えなくなった。ゆるりゆるりと落ちゆく赤も暗い先では直ぐに見えなくなって。


 何故かまた、涙が零れた。


 溢るるに首を振れば散った涙が玉になる。玉になり、溶けて消え。水の中、きらりと瞬く光の元。溶けた私の涙が再び玉になるのを見た。


 ああ、やはりと。


 今も落ちゆく大小の、様々な色の玉は確かに私の中から生まれたものだと理解して。理解したが故に今少しと身を乗り出し。


 彩りを放つ幾つもの玉が落ちゆく中、もう見えない金色を探す。


 見えない事が悲しいのか安堵するのかわからぬ心持ち に ふと、不思議になる。私は 今の私は 心の私。肉身を持たぬ、心だけの私。


 私は、あの金色が殿下だと そう理解する。したが、殿下だとする金色は私の中から零れて落ちた。


 それでも私は金色を、殿下であると理解する。今まで築き上げた殿下への期待と希望と苦労と敬愛と それに連なる他の感情も忘れてはいない。


 覚えてる。

 消えてない。


 では、私が零した あの心は  なんなのでしょう。




 …欠片でしょうか?


 私の中には、まだ未練に等しい何かがあると。


 考え込みそうになるも突然の衝撃に世界が揺れた。驚きと共に身が揺れて乗り出し、落ちゆきし玉がブワッと浮き上がってくるのを見た。更に世界が右へ左へ揺れ続け、下から泡が立ってくる。


 我が身可愛さに急いで羽根の中へ戻ろうとするも、今度は逆に引っ掛かって恐怖を見た! 申し訳ございません!ございませんがまだ私めは!と謝罪と弁明を繰り返しつつ羽根に手を掛け、なんとか中に我が身を捩じ込めた。



 収まりそうで、また揺れる。

 神の鳥の尊き羽根に顔を埋めて祈りを呟き続ける。我が身可愛さの祈りを実感するも、もういい。


 漸く収まったようで安堵。

 隙間から覗くと、ゆらりゆらりと幾つかの玉が舞い落ちてくる。それらは私の前を浮遊して、そのままゆるりと落ちていく そう思った。


 回り始め、た?


 流れを示す玉の動きに不穏を感じ、そっと そっと顔を覗かせる。玉の大きな舞いが素早くも小さな舞いとなり、スッと下へ吸われるように。


 まさかと顔を突き出せば。

 下では水が逆巻き、小さくも渦を生んでいた。


 禍々しい象徴に即座に身を戻し隠して、恐れ多くも神の鳥の羽毛をがっちりと掴んでひたと身を寄せ、一心に願う。


 『御身に仕える私めを、どうか どうかお守りください』






 「ん〜 っかしいなあ」


 俺の鳥はデリケート。

 ちょっと腕白になったとて、美麗で優美な可愛い子。


 『汚れた水に浸かるの嫌じゃ』


 そう駄々を捏ねているのかもしれんと思い立ち、バケツと笊と受け紙をセットして汚れが溜まる卵の下にホースを差し込み、ちょいと中味を抜いてみた。


 出てきた感じ、そこまでじゃねー。


 ラバーごとくるくる回した卵の中は少しの汚れがスノーブラック的に舞い上がりもしたけどよ。背面にして斜めに持ち上げ、見えるよーにした尾羽はまだ汚れてるがな。まだまだこれからって状態で、もう汚染水だと? 勘弁しろ。


 薬液が合わない状態でもなし、暴れもしないし痒そげでもないしー。そんな反応出るのも遅すぎるしー。


 汚れが酷い尻毛と尾羽。

 ちょーーーーっと見てても顰めっ面以外は問題なさげ。


 こうなると調合し直そうとも思わねー。受け紙に付着した汚れを目視しても、ふっつーうに汚れ。


 「うん?」


 眼を凝らすとボツボツと… ゴミ屑。


 なんだこれ?

 まさかで虫の死骸かあ!?


 外来種の紛れ込みを疑うとびびる! 普通にびびる!


 真面目に生きてたら困るんで笊を引っ掴んで間近で確認。したら、虫でなかった。小さな小さな祈りめいた 何かの残滓。


 …これ、祈りの残滓?


 「まぁ、この子は祈りの対象だしな」


 虫でなかった事に安堵するが、今度はこれをそのまま流しちゃうのもどーかなーな気になる。が、汚れてるし。丸洗い希望されてるし。


 「うんうん、そーかそーか。こーんな小さな祈りでお前のガードをしようとしてたんかー そうでなくても好かれてるわー」


 ゴミ屑モードで、へばり付いてた子供の祈り。


 いや、良かった良かった。

 俺の鳥、普通に好かれて頑張ったかー。


 ちょっとの残滓が俺の心を暖かくする。お友達の他にマニアさんちの子からも歓声以外の声援を受ける子に育っていたかと思うと嬉しい限り! これが醍醐味と言うものよ!


 うきうき気分で薬剤を補充しようとブースを出る。



 「悪いな、もう少し掛かるから」


 「はあーい」

 「進めてまーす」


 あれ?


 闇壁からの返事は二人分。


 「誰ぞ?」


 ちょいと壁に顔を突っ込んだら、闇の子増えてた。視線に気付くと手を広げ、笑顔で資格認証ペカらせる。良過ぎる対応に笑って任せる。


 新たに調合するに薬棚から取り出す。

 薬液を合わせ混ぜ、補充用の薬剤が直ぐ完成。使用物を薬棚に戻したら、別のを取り出す。


 ラベルを再確認。

 マニアさんにやると決めた以上、これはちょいと強いかもしれん。しかし、これが最後だし? 夢見の悪さを放置する方が良くないし〜。


 スポイトでしんちょ〜〜うに落とす玉の大きさを調整しながら、一滴ぽちょん。


 ふわりと立ち上る香気に顔がゆるむ。

 その香が飛ばないよーに、さっさとパック詰めにする。薬棚に片付けたら、また別のを取り出す。あれこれそれと持ってブースに戻る。



 卵を手にして、最終チェック。

 パックを吊るし、卵の上部にセットしたチューブに繋げる。


 低速で流し込む。

 少し多めに作ったので、その分量程度を下から流して調整する。



 「卵のなーかに とっととっととー  ふふ」


 流し込み始めて直ぐに眉間の皺が薄れ始めた。

 ギリッとした顔が緩やかに崩れ、送り出した時と同じ柔らかくも品のある! 俺の優美モードになっていく のを見るのは、全くもって喜ばしいな!!


 しかも段々と顔が下がって子供な頃の俯き甘えた寝顔になるのは良いな!


 うむ、親である俺の香気が一番よなー。



 これなら、こいつは使わんでも良さそう。


 持ってきた一本を眺めれば眺めるだけ、ん〜〜とした気持ちが募る。今を逃せば、これを与えてやる機会はないだろう。マニアさんの事だから、真面目にやばそうな時には惜しみなく同等品を与えてくれるだろう。しかし、弱ってるのは今だから? んで、今はマニアさんも弱ってるし?


 底上げを〜 すーるのは〜 別にルール違反じゃなーいーしー? どーろまみれは遠慮だし〜?


 引き受けたのは洗浄。

 美しい元の姿に戻す。

 

 内側から発揮される美しさ、その増大は罪となるか? いや、俺の鳥の特徴が増すだけだ。


 この一本分の格差があれば今回の汚れの悲惨さも違ってた。輝きの強さは穢れを挫き、穢れを滅する! うむ、此処(実家)で底上げしてやらんでどうするぞ〜〜 ってなもんだ。


 それに、あの二羽は戦闘鳥。

 この違いは大きい、果てしなく大きい。


 どれだけ一緒に遊んだとて観賞用が本気で肩を並べるのは無理。やがてそれを理解して、そんなものだとわかっても、しょぼくれるだろう。『そうであるもの』を自ら脱した以上、その違いに必ず物思う時は来るだろう。


 善き悪しあれど俺の鳥にそんな思いはさせん。させてなるか! ()の鳥ぞ! しかし、ブーストも戦闘鳥への一時変更も引き受けに反する。だから、こいつだ。


 二指で挟んで、ぷらぷらさせる。

 

 これだけ理由のある底上げに問題はあるか? ねーな。現状で良かったのにーなんて言ったら、とことん話し合いだな。


 よしと決めたら、握り持ち。

 振って振って内部酸素を、泡立たせ。


 パックの上部を爪で切り、そこへ当てがい流し込む。最後はパックの上部で泡泡なって入れ終えるのに時間を食った。が、こいつは酸素を含んだ方が効果出るんよなー。

 

 実に満足。


 次いで脇に置いた髪を手にする。

 締めた部分で持ち上げれば、それなりにウィッグ。卵の上から被せてみる。


 いや、なんかなー。

 効果はあっても見栄え的にびみょーだなー 誰も見に来んけど。


 卵の正面で髪をサイドに流すと見栄えが落ち着く代わりに全体効果は薄まる。そうかと言って想定外で目覚めた場合、細糸だらだらの視界不良で待つのは嫌だろ。


 やり直し。

 卵の下で髪をぐるぐる巻き付ける。オレンジラバーが隠れた。鳥の巣に見えんでもない。


 「ま、これで良いだろう。まだまだ、お休み」


 柔らかく微笑み背を向ける。が、思い至って振り返る。






 お、終わった? 止まった?

 ほんとに?


 あ、ああああ… こ、こわかっ たあ〜。でも、渦に巻き込まれるんじゃなかったの? いえ、巻き込まれ願望はございませんが。


 でもでも、あれは酷かった。


 体が一方向へ押し付けられ回り出すのに、ひゃああああ!

 それが止まると今度は天地が引っ繰り返って、きゃああああ!

 そしてそのまま上へ下へと揺さぶり返しで、いやああああ!

 でき続ける泡の押し潰しと滑り流しに、うきゃああああ!


 目が回り、吐きそうな感覚であっても心だけの私に吐くものなどない。寧ろ、吐いたら何が減るのかわからない。そして気絶でもしようものなら、心だけの私のこと。間違いなく昇天と同じ。水の世界で神の水にて眠るは尊いようで… まだ早い! 絶対、嫌。


 戻る体がないとしても、まだ早い!! ご挨拶はしたいのです!


 

 ふん!と鼻息荒くも乗り切った自分自身を誉めそやす。

 耐え切った自分をすごい!えらい!と手を広げ、思わず掴んだ羽毛を慌てて放し、せっせとその辺りを整える。


 整えていたら、何か違うと首を傾げる。何が違うのでしょう? 再びそろりと羽根の隙間から顔を出す。出した途端にはっきりした。


 水が香る。


 この不思議に世界の上を見ても見渡せず、世界の下を見ても見届けられず。流れても減らぬ水の世界に限りはないのか、今を流れる不可思議な水の香に 心 洗われる。



 う!


 胴体がギュッとなって我に返った。気付けば腰まで出ていた。泳ぎそうな自分に慌て、慌てた所為で体がぐるりと回り。見上げた神の鳥の片翼が広げられるに、流れが生まれる。


 あ、私 飛ばさ(捨てら)れる。


 唐突に差し迫る現実に頭が真っ白になって身動きできず も、何故かこちらの翼は広がり切らなかった。急いで身を紛れ込ませたが欲を出した事へのお叱りのようで項垂れた。


 申し訳なさに祈り上げる。




 これ、は?


 じわじわと温かい。でも、温かさ以上に何かが違う。熱を頂くような、息を 息を? この身に取り込むような?


 衝動にも似た刺激に耐えられず、顔だけならと甘い自分の性根に情けなさを感じながらも顔を出し、世界を仰ぐ。


 変わらぬ水の世界、変化と見ゆるは仄かな香り。



 不思議。

 降り注がれてもいないのに、全身に力を浴びるよう。


 私が私で無くなりそうな水の力に身震いするも、それ以上にもっと前へ。浴びたいと熱望の欲がでる。



 今度はお叱りを受けぬよう、身を乗り出してもしっかりと羽根を掴ませて頂く。理性を保てば熱望は落ち着くも、仰ぎ見る私はきっと口を開けた雛のよう。


 はぁ…


 吸って吐いてと吐息を滲ませば。

 己が口が吐き出す香気と力の熱に間違いを覚えて酔い痴れそう。それだけで今までとの違いに気が大きくなりそう。


 そして陶然となった私は 見た。


 黒い塊。

 穢れにしか見えない、真っ黒い塊。


 神の水を犯すモノが此処に有るのかと、有れるのかと。共に有る事が許されるのかと。それでも、あれは払わねばと。なれど、あのような大きなものを?と。


 千々に惑えど怒りも膨らむ。

 眠りし神の鳥に取り憑こうと思うてか!と。


 決して許さぬ。

 私めはお仕えする身、片腕であろうとも打ち払う。憤りを持ちて腕を振り上げ。


 きらりと、小さな光りが。

 穢れと触れて。


 瞬間、バクと食われて光ごと消え去った。 え?


 理解が追い付かない。

 でも、ささっと腕を下ろして胸の前で握り込む。


 よーく目を凝らせば何やら浮かぶ黒い粒。粒々。それらが私の涙とは違う速さで重たげに、世界の闇へと沈んで消えた。


 すすっと我が身を羽根の間に引き戻す。 …ご挨拶に飛び出なくて正解のよう。そう礼儀を守った私、偉い。段階、大事。間違えなくて良かったあ〜。





 水の世界、異界神の御力(世界の怖さ)にお許しあれと祈念する。したらば、いきなり世界が暗く。待って、私の祈りはダメですか!?


 ばっと羽根を掻き分け、顔を覗かすと雲の切れ間から差し込むような光。

 幾つもの光が輝かしく伸びて。


 神の威が成し示す超常は僅かな間に取り払われた。同時に何か… そう、何かを。先の時と同じ何かを、私は。


 何を。

 何に気付いて。


 顔に手を当て考える。

 何かを察知した。見なくてもわかる。わかるは知ってる。


 …馴染みがある?


 擬似的な何かもわからず怖くなる。


 不意に世界が明るく。

 目の前に知り得た気配。驚きに目を剥き、見続ける。


 水の世界を取り巻いて、下へ下へと。

 底知れぬ世界の足下から感じ始める暖かさ。最早、間違えようのない御力に、暖かさに、涙が滲み、神の重々たる交流に頂いた親愛の深さを思い知る。



 お声がした。


 先のお叱りも光もなんのその!

 パッと半身を突き出せばーー  きゃあああ、異界神さまあーー!




 どこか耳に馴染む旋律。

 歌にならぬ声の調べはどこまでも優しく、どこまでも労りに満て、私を救ってくだされる。子守り歌にも似た調べの中、異界神様のお言葉を胸に私は眠る。神の鳥の眠りに合わせ、言われる通り今少しの眠りに。


 大丈夫、私は消えない。

 大丈夫、私は待てる。


 次に目覚める時にこそ、ご挨拶を。お会いできる喜びに 国の 荒廃ぶりを。愚か者の踏み止まれぬ  いいえ、そんな事より。 どうか、と今一度の親愛を 伏して ねだりましょう。



 私は 神の愛を疑わない。

 その愛を疑わない。


 私は 疑わぬ愚か者で良い。








 遅くなったと闇壁に急ぎ入れば仕事は終わってた。助かるう〜。


 「ふんふん、うーん」


 検査結果のに目を通し、後片付けもやってくれてた闇の子二人にご苦労さまと笑顔を向ける。


 「では、解除します」


 闇壁の消失後、一目散に虫籠を見に行く一人はほっといて。


 「助かったけど、お前はどうした」

 「伝言を頼まれました」


 「何?」

 「違います」


 俺宛ではなかった。

 可哀想に放置ぷれいに巻き込まれてた。

 

 「どどど、どーしよう!」

 

 「どうしようも何も賠償もんだろ」

 「早く行ってきなよ」


 「そ、そうだね! さんに謝ってくる!」

 「待て、虫籠置いてけ」


 「いや、だって持っていかないと!」

 「中の子達を殺す気か」


 「闇壁作っていくし!」

 「振動で目覚めたら延々真っ黒、心的障害」


 「早く行きなよ、さんがどれだけ待ってると」

 「ごめんんんん〜〜〜〜 駆除剤もまだぁああ〜〜」


 「お前、ほんとに僕と同じか?」

 「ひどいぃいいい! あっ!」


 おらよっと虫籠を取り上げる。

 駆除剤使っての連携プレイを図らずも阻止したのは自分ナイスでいーんだが、待ちぼうけを喰らってたのは可哀想。しかし、勝手にあの子の部屋を荒らし いや、解体か。


 「はいはい、賠償もんだからこれを持って行きなさい」


 片手握って、突き出して。

 さっと合わせて出した手のひらに、色取り取りの小さな星(金平糖)を零してやる。


 「わ、わ、わ!」

 「はい、溢さないよーに包む包む」


 わたわたぱぱぱっと薄墨ベールでお菓子を包み、両手で持って安堵した所に教え込む。


 「駆除対象と見做しても、あそこには手を出さない。はい、復唱」

 「…見做しても出さないー」


 「全員連絡怠らない」

 「…らなー」


 「報告しても事後報告はしない事」

 「…しなあー」


 ちょっと態度がアレで困るう〜〜〜。


 「我らが主よ、あそこに出入りする我らが家から外れたモノは」

 「そーでした、送るべきあの子達は!」


 しまった。

 騒いでる方の子がましだった。

 

 「ご父兄と話して来るまで待ちなさい。それまでは、うちから出すあの子へのお付きと考えなさい」


 「…おもちゃ?」

 「…しきょーひんの、提供?」


 おかしいな?

 どうしてお付きと聞いて使い捨てを連想するのか、不思議よなぁ〜。


 


 「では、回ってきまーす」


 虫籠に執念じみた視線を送って出て行った。お菓子を胸に抱えて出ていく姿だけなら可愛いのにな。


 「で、お前は? その顔は伝言以外にあるんだろ?」

 「はい」


 「お、まさかでお手伝いのお強請りか」

 「はい」


 「…清々しいな」

 「まず、こちらをご覧下さい」


 「あ?」


 ぺペッと出した映像チラシがなんぞとな?


 


 「なので、こちら十二体一箱を買うと漏れなく抽選チケットが一枚付いてくるのでーすーが! なんと、なんと! 三箱纏めて買うとチケットではなく、スケルトンキング・スケルトンジェネラル・スケルトンナイト・シークレットの何れか一体が付くのです!」

 「…ほぅ」


 「しかも、纏めて四つ購入すると必ずシークレットが付くのです!」

 「…十二の三で三十六。三箱が四つ分で十二箱」


 「はい!」

 「では人形の総数は?」


 「十二の十二箱で百四十四体です!」

 「おう、そんだけの数のスケルトンウォーリアが必要と?」


 「はい、いるんです!」

 「…何故に?」


 「此度、我らが主は地下施設の着工を決められ着手されました」

 「うむ」


 「そこで取り急ぎ、他家の施設情報を入手し勉強しました所、この系統の物がない事に気付きまして購入の稟議を上げているのでございます!」

 「…我が家にこの系統はいないだろ?」


 「えー、少しだけ似たようなものが… でも、あれノーカウントですし。ですから購入を」

 「俺がいらねえって作らないんだからいる訳ないでしょ」


 「ですが、新風は全てに通じる刺激です」

 「刺激で家の秩序を崩そうとするんじゃありません」


 「崩壊ではなく新規参入」

 「どこに? つか、スケルトン系なんていらないの」


 「…物珍しさ」

 「常用と思われてたまるか」


 「でもでも施設からは出さない設定しますでしょ? なら、よくあるどーぶつ… しりょー園みたいな」

 「何処の墓地か。そもそも地下施設はあの子の遊戯場であってだな」


 「でも、うちの子用もありますでしょ?」

 「そうだけど、あの子がメインなの」


 「でも、あの子こーゆーの好きかも知れませんし」

 「うんん?  ないな」


 「え、どうして断言が」

 「体が弱い子なの、弱さの自覚は慎重なの。もうちょっと元気にしてあげたいから遊戯施設なの」


 「体を強く」

 「そう、その通達は聞いてないの?」


 「…出会ってびっくり大刺激。戦闘レベルか逃走レベルが上がるし慎重レベルまで上がって生存確率大アップ!」

 「た・の・し・く! 怖い思いしちゃったら通わなくなるでしょ?」


 「……怖いもの見たさ、リターン。お化け屋敷」

 「そんなものに賭けるんじゃない」


 「でも、地下施設ダンジョンってそーゆーものでしょ? あの子もきっと織り込み済みで!」

 「そーゆーの嫌いだったら?」


 「うちの子が立ち向かうのを上から観戦するのはわくわくどきどき、特等席で楽しいかと!」

 「負け戦なら悲惨だな、おい」


 「でも、修練場で」

 「いや、遊び場だから」


 「でも、我らが主はあの子に強くなって欲しいのだと」

 「そうだよ」


 「じゃあ、修練鍛錬必要でしょ? 遊びといっても同じでしょ?」

 「遊びでいーんだよ」


 「楽しいだけの遊びじゃ本気の強さは手に入らない!」

 「いや、もうちょっとの元気の底上げだから」


 「だからこそ、新しい刺激を!」

 「……お前、俺の手腕に文句付けてる?」


 「まさか!」

 「大体だな、このチラシ見て飛び付くようじゃダメだってえの」


 「?」

 

 もうどうしようと思う。

 造形師が何処の誰かは知らんけど、俺の好みでない。つか、まず最初に型が古い。古臭い。そりゃあ一番下っ端の数が正義な物なんて手抜きをしてもおかしくないが、それでもこれは好きでない。どうせ見積り甘過ぎての売れ残りか大昔の懐かしの死蔵品が変なトコから山と出てきての投げ売りじゃねえの? それか競合者に負けたか。


 そこに焦点を当てると、影絵で造作不明なキング等にも期待は持てない。そもそもこのシークレットもスケルトンシリーズなのか怪しいぞ? 欄外めっちゃ怪しいぞ?


 それを懇々と説明したら、しょぼくれた。


 「じゃあ、じゃあ、せめて一箱だけでも。それならいいでしょ?」

 「は?」


 今の説明でなに聞いてんの、この子。


 「お試しに一箱だけでも〜〜」


 妙に粘る姿にピンときた。にぃっと笑って手を伸ばす。


 「お前、施設情報に自分の欲をぶっ込んだな」

 「ふぇ!」


 「購入後、施設に設置したら だろ?」

 「うぇ!」


 「一体ぐらいちょろまかしてもバレないとかあ〜〜 ちょっと貸し出しぃ〜〜っとかあ〜〜 購入後の管理権限握って一時的に持って行こうとか〜〜 考えてるだろ」

 「ぐえ!」


 ガシッと頭を捕まえ、じこじこじこじこ力を与えて一時的に実体化。その間のびくびくひくひく逃げ出し顔ににぃいいっこり。指の関節押し付けて、ぐりぐりぐりぐり。


 「いだあーー! あー!あー!あーーーー!」

 「ほら、白状しなさい」


 「ごめんなさあーーーー!」

 「違う、目的は」


 「わあーーーーーん!」


 流石、俺の上位種。

 しぶとく口を割らねえな。うん、根性あるある。偉い偉い。


 


 「ぐすっ」

 「あー、そっちー」


 担当区域に壁がある。

 それを傷め続ける馬鹿がいる。


 最初は力試し。

 それが何時しか器物損壊狙ってる。壊れないから、そういう物だと思った後は考えない。思考を捨てて無の境地、ガンガンガンガン壊そうと熱血馬鹿は頑張り続ける。


 「どうしてそんな物だと思い込み、壊そうとするのか!」

 「あー、まー、あり続けるからだろうなあー」

 

 「必要だから、あるものなのに!」

 「あー、あれは規定値超えると波打つ感じにしてたよなー」


 「ええ、オート修復入れてますから!」

 「あー、だから余計に熱が上がるんだろなー」


 「壊すだけの修復もできない馬鹿の馬鹿があー!」

 「あー、馬鹿なんだろ」


 「我らが主よ!」

 「あー、はい」


 「担当区域である以上、責任持ってやってます」

 「おう」


 ひっきりなしに壊そうとする馬鹿の所為で他へ回す力が滞る。担当区域は無傷でも、他への修復に融通してる。自分も出張ってる。


 その大変な時に続く壁へのボコり。

 自分が守ってる担当区の下の子が何も考えずに続けるボコり。引き起こる弊害。


 「で、スケルトン使って壁を守ろうと」

 「いえ、脅かそうと」


 「…喜んで殴りにこない?」

 「迎え撃って殴ってやろうと」


 「は?」

 「だから、僕が」


 「は? 待て待て、設置じゃなくて?」

 「僕が殴りたいんですぅうう! だから、だから他家のお人形が お人形さえあれば、僕があの馬鹿をーーーーー!!」


 勢い、拳を振り下ろす。

 実体化のお陰で被害なし、いい感じ。しかし、できない事に衝撃を受け。ここが何処だか思い出し、これまた自分に衝撃を受け。


 へたる。

 床に座り込む脱力加減、顔が愉快な。


 「それでスケルトンってか? だけどなあー」

 「そこはボディメイクして、こっち寄せして! それで、それでぇええーー うーーーー わあぁああーーーーん!」


 「あー、あー、あーーーー    はい」


 よいよいと抱き締めてやる。

 あ、これ実体化させて良かったのか悪かったのか微妙だ。


 気が抜けた泣きに溢れ出た闇がうにょうにょしてる。にょーろにょろにょろ伸びていく。虫籠に接触しないよーにそっち周りは引っ張って手中に納める。思わぬ伏兵的な… 違うか、見ててわかってた伏兵か。


 そーか、そーか、ストレスかあ〜〜。

 


 「ぐすっ…    はっ!?」

 「うん?」


 ぐすぐす鼻を鳴らしていたのがパッと身を起こす。俺の顔を見る。

 見て見て、そろっとまた顔を埋める。ぐりぐりする。戻す。起きる。離れる。立って。見回す。


 「うわあ?」

 「どした?」


 「うわあ!」

 「おーい?」


 両手を広げてぐるぐる回って飛び出した。

 見た事ない奇行にどうしたと俺も実験室から顔を出す。走るなとゆー廊下を走ってた。走った先で窓を開け、身を乗り出し。戻す。乗り出す。戻る。後ろに下がって腕を広げて深呼吸。


 何をしてると廊下に出れば、俺を見て走るなとゆーに走ってくる。そりゃもう良い顔で走ってくる。


 「我らが主よ!」

 「おう」


 何も疑わぬ顔で一直線に飛び込んでくるから両手を広げて待つ。どん!とした衝撃もなんのその、抱き抱えてぐるーりぐるぐる。浮かせた足がぶーんぶん。


 「わああ!」


 めっちゃ良い顔で喜ぶが三回で終了。

 

 「で、どした?」


 降ろしたとゆーに顔を埋めて、すーん。顔を離して、すーん。後ろに下がって、思いっきりすーん。


 「これが我らが主の香、これが家の香、生命の香! これが下の子達が嗅ぐものと同じもの!」

 「あー」


 「お菓子以外の香りがわかる! すごーーい!」


 実体化に伴う感動の発見に打ち震えてた。茶々など入れられん。

 

 「わあーい」


 ぼふっと抱き付いて、またすんかすんすん。


 「我らが主の香り、だーい好きぃー」

 「ああ、そうだろうそうだろう。存在としての大きさが香ってるだろー」


 「ずっとわかるといーのにー」

 「お前達が嗅覚を持てば酔って仕事にならねーわ」


 あんまりにも喜ぶんで元に戻すタイミングが掴めない。しまったな、タイマーでも回しとくか?




神鳥xxxのお相伴に預かる形で鳥姫ちゃん。

異界神の香りを纏い、某一品もたっぷり浴びて、たましーのレベル上げに成功。


【異界の巫女姫】の誕生である!



「きゃあああ」の時にペンライトあったら、きっと振ってるー。



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