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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
233/239

233 ある、竟宴の虫

一週間遅れですが十年目に突入しました。いえーい、どんどんぱふぱふ〜。しかし、まじかよとも思っとります… ええ、ほんとに。色々と考えてしまいますねぇ。


本日の副題。

読みは きょうえん です。


あまり見ぬ字ではありますが、きゃっほーいのきゃっふーう。



 ひゅーん。

 ぼたたっ! べちゃん! 


 「いだあ!」

 「あああ、こわ。こわ。こわかったあー!」


 「お、お前ら ぜぇ、ひゅう…  ど、どうして離さないんだよ! いや、その前に「すっげえ、飛べるぞ! やっりいーー!」 退けよーーー!!」


 三玉の覚醒で、どうにか床落ちせずに終わった。一息付いたら机の上で、元気にきゃいのきゃいのと止まらない。


 「ほんとに恐怖の床よね!」

 「こんな高い所から落ちたら一巻の終わりだもんなー」

 「ちがうわよ、くっつく方よ! 足が動かなかったじゃないの!」


 「へ?」


 床に粘着テープは貼ってない。動けなかったから、絶対落ちたくなかった訳ねと苦笑する。その間も三玉が赤い顔してぷるぷるしてる。


 「だから、あーゆーときは手をはなせよ! この、ばかあー!」

 「あんたがさっさと起きないからあー」

 「それ、もうよくね? かっこよく決まったし。ってか、お前が一人で決めてんだろがー」


 「だから、ちがー!!」


 なかなか愉快に楽しそう。

 終わりそうにないし、怪我もなし。なら、放置でよし。双方の為、面接モードに戻して一つを転がす。



 「…あのさ、二人は 鏡を、見なかった?」


 むん?

 なんぞ、微弱な音が… 面接モードで聞こえると? どーゆーこったい。


 「は?」

 「だから、鏡の自分を見なかったっ!?」

 「なぁに、それ?」


 近過ぎるからかねぇと覗けば、背中の羽が震えてた。羽化したばかりの可愛い羽をぶるぶる震わせ、エアーで心を表現している芸術者。 


 こーわーさーがー 世界を ひーびかーせるぅー ひびきは伝染すーるかなあ〜〜


 声に出さずに呟いて。

 笑い出す口元を引き締めて。

 仕方ないから厚みを増すかと考えて。

 でも、面談中にぶんぶん飛び回られても面倒だから。



 よし、アレだ。

 此処には、お前らにぴったりなアレがある。


 文書作成画面から塔の画面メニューに移行して、そこから備品項目に飛び、アイテムを探す。数種類の中から選んで〜 ぽち。



 見よ、この虫籠ハウスを!

 安心安全安眠設計、どんなに小さな()でも大丈夫! 色々と抜かりはない!



 ほれ、設置したげるから使いなさい。


 「な、なんだ!?」

 「お、おりぃ!!」

 「あ、おふとんー!」


 「ちょっ!」

 「わーい、ふっかふかー」

 「え、まっ… まじで檻よ?」


 なかなか個性が溢れ出る。

 駆け込みダイブを決めて率先するの、ほんとに可愛い。


 「うわ、これなんだろ」


 転がっても、すぐ起きる。ベッド周りの確認を忘れないのか、好奇心が勝っているのかペタペタペタペタ。


 「あ、みっけー!」


 うんうん、大した事なくても宝探しは楽しーねえ。備え付けのサイドテーブルも見つけたねえ〜。


 「もらいまーす」


 にこっと笑顔を見せて、バクッと齧り付く。


 「うまーーーー!」


 うんうん、美味かろう美味かろう。そのジュースも美味いぞえ。糖分多め設定してるから、疲れた体に効果的。


 あ、口周り拭くの見つけてねえな。




 「あー、たーべーたあ〜〜」


 「…あれ、大丈夫なの?」

 「あいつが残すなんて」


 「もう入んないー、ほんとお腹いーーっぱい」


 「…食べてみたいかも」

 「危険だって」


 かなり引いてる姿に、あれ? 美味しそ香料、効いてない? 匂いの好みが変わってきてる?


 「おやすみー」


 「え、ちょっとー」

 「本気か?」


 これは入るのに時間が掛かりそうだと思ったら。


 「もう! 神様にあったんだぞ? 神様が用意してくれたに決まってるだろ!」


 真面目に可愛い子だ。

 俺に全てを委ねる、潔さ。これを可愛いと言わずして何と言おうか。


 「か、風とおし?」

 「えー」


 首を傾げて中を見て、上見て、そろそろそーろそろ。怖々入って振り向いて、そわそわきょろきょろ見回して、ぽふっと座れば顔が輝く。


 「これ、じょうしつー!」


 ふはははは、当然よな! しかし、最後の子は難しい。

 

 「どうしたんだよー、もう寝るよー」

 「いや、だって… その」


 「わあ、これほんと美味しい!!」


 「なんか眠くなってきたー」

 「え、それ待って」


 「どうしよう、止めら  いいや、むぐむぐ」

 

 「早くしろよー」

 「だって、かみさ まの 鏡が」


 「ん〜〜、甘さが染み渡るう〜〜」


 「はあ?」

 「……だから、話を聞いてって言ってるだろー!!!」


 「あ、はい」

 「起きた」




 ちゅうちゅう飲んでる一人と寝落ちしそーな一人が話を聞いて聞いて顔を見合わせる。


 「俺、褒められた」

 「私、びみょー。でも、よしよしして貰った気もしてるー」


 「二対一、寝よう」

 「ぷはー、お腹いっぱ〜い」


 「だよね、もう寝よう」

 「そうね、食べて寝て気持ちを変えよーよ」


 「えええええ!!」


 落とし扉もないから早よ入れ〜と見守ってるが、残りの面談もあってだな… 時間もあれだから、またアイテム検索。落ちないよーうに飛ばないように、上からすっぽり被せる透明カバーをぽちって取り出す。


 静かに静かに怖がらせない。

 注意してハウスの上まで持って行けば、「でも、僕は」俯き呟く小さな声。


 「僕は 神様に好かれない」


 降ろしかけて、ぴたりと停止。

 猫首回して覗き込む。



 顔を上げて二人を見てた。しかし、二人はもう寝てた。


 安眠設計が効いて既にぐっすり夢の中、取り残されてじっと佇む顔が泣きそう。カバーを掛けづらいったらありゃしねえ!


 「どうしたって、好かれそうにない」


 いや、そんな事はないんだが? そら、あの子に比べりゃノリが違うからちょっとはあれだが。


 「好かれる要素がなんにもない」


 これ、待ちなさい。

 お前は此処に居るだろう? シェイクもさせずにいるだろう!? 


 「疑い深くて信じらない」


 は?


 「純粋に信じる事ができないから」


 あ、自分な。


 「だから、嫌われるんだ。だから、二人と違って  鏡が出るんだ」


 へ? 待ちなさい。

 やけに拘る鏡ってなんぞ。や、ホラーな方向で言ってるのはわかるんだけどな? 俺、鏡でなんかしたっけか?


 「あっちに残った方が よかったのかな」


 …あ?


 「でも」


 おう。





 おう、俺はお前を尊重して引っ剥がさない。暴かない。 だからこそ、言え。 紐付いて垂れ下がる感情が隠してしまう、一番最初に願った言葉を言うが良い。

 

 「どっちつかずの う… うぇ…」


 あ、あぁあああ〜〜 しゃがんで小さくなってしもーた… はあ。




 ぽろりころりと零れたモノが、転がり溶けては机の上を湿らせる。


 「っひ… うっく…」


 湿ってくのを眺めてる。

 これでレベル上げになるんかと眺めてる。


 こんなのに手を出す気はさらさら無い。


 俺が手を添えてやれば、この子は変わるだろう。劇的な迄に変わるだろう。事実、手を出さなくても水の子は勝手に成長した。しかし、水の子とは根本的な所が違う。何より、そんな事をすれば先の子が『俺もして欲しかった』と望んだ依怙贔屓にしか繋がらん。


 浮揚の星が一つ星で誕生するのは珍しい、珍し過ぎて稀だぁな。誕生の特性からしても一人で浮かび上がれるだけの力があるなら、こんな所で星にはならない。


 稀なる一つ星は、大抵が誕生と同時に失った哀れな星だ。


 どっこいどっこいの三つ星で生まれてんのに、次に起きたらこいつだけが違うなんてそんなの。


 『なんで?』『なんでえ?』

 『えー!』『ずっるーい!』


 絶対にブーイングが出る。

 星の騒ぎを聞きつけた精霊共が物言いたげな目で〜 絶対、見てくる。やめれ。生まれて直ぐの不協和音の原因が俺とか、まじやめれ。嫌ぞ。




 ゆっくりと立ち上がり、二人を見て。

 祈る様に、見て見て見て。


 そっと静かに、二人を見い見い背を向けて歩き出す。机の端まで歩いて屈み、下を覗き込む。


 …物理的闇落ち? なんも見えんだろ?


 顔を上げて、真っ直ぐに前を見つめて、背中の羽を震わせて。なーんも考えてない悲愴な顔で未来に向かって飛び立とうとしてる。


 どうしよう。

 悲しいかな、そんな決意で飛び立っても室内周回するだけだから。んで、疲れるだけだから。この部屋、仕事用の味気ない部屋だから。いやもう、ほんとに何にもないから。


 飛び立ったぞ、おい。




 …ぷ。


 仕方ないなあと笑えてしまった。

 手を出すのは好ましくないが、これは出さねば干涸びる。全くもって、こーゆー形で俺に手を出させるんかあー。


 だが、俺のにゃんにゃんキャッチは怖かろう。既にキャッチと似たのをやってドッキリ以上になってるし、言わない以上は仕方ない。言いたくないなら、それで良し。


 言わぬなら、言わぬままでも 納得を させてみせよう、この俺が。そーれっ。


 「ひ、ひええええっ!?」


 おー、かわえー。





 飛び立ったら、上へ上へと昇って行った。

 そしたら、世界が薄暗く。


 夜に向かって突き進むんだと理解して、そのまま真っ直ぐ上へと飛んで。

 ふと気がついた。

 

 「あれ、お日さまは?」


 沈まなかったと下を見れば、光が空一面に広がってた。でも、それ以外は見えなかった。


 「…昼と夜の境? え、空ってこうなってた?」


 今まで見てた空は何だったんだ?


 不思議な光景。

 下に広がる光の空を見ていると、色が違って見えてくる。層があるみたいにも見えるから、遠くを見たら夜が丸みを帯びていて昼を包んでいるようで。見間違いみたいな不思議な感じ。丸く見える所為か、その上の夜はとても濃く見えた。


 「…あっちに行ってみよーかな」


 そうだ、どこに向かってもいーんだ。変わらないから。


 スポーン!

  

 変な音。

 驚いて振り返ったら、キラピカした光を放つ… 星? え、なにあれ?

 



 悲鳴を上げて逃げた。逃げた逃げた逃げたああ! でも、ぴったり後ろにくっ付いてくるーーー! うそだろーーーー!


 「うわっ!」


 羽を掠めた。

 真っ黒で尖った星の棘が僕の羽を掠めたぁあ!


 どうやって飛んでるのかわからない黒い星。見るからに凶悪な先端は、どう見ても凶悪。禍々しさが漂う黒い星を色が違う六つの光が取り囲んで守ってる。


 怖い。

 大体、あんな凶悪なのを守る光って なんだよーーっ!?





 夜を駆け、夜に紛れる。


 「ふっ!」


 先回りされた!


 掠める星の棘、その先端に金茶の光が纏わり付く。お陰で見えて躱せたけれど紫だったら当たってた。右に左に上に下、斜めに飛んでも〜〜〜  どうやって反撃しろってのーー!!




 おー、いーい耐久レースしてんなぁ。


 ターンも上手けりゃアクロバットもできるし、フェイクもしてみせる根性に感心してる。生まれたてでこうもできる子が、どうしてああもへたる精神してるのか?


 「肉の有無とは違うしなあ、ん〜〜」


 しかし、見れば見るほど今後の活用法が生まれてくる。どうするかな。





 「ぁ」


 落ちる。

 もう力が入らない。武器があれば違ったのに!


 口惜しさに唸っても落ちるのは止められない。まだ死にたくない。だから、守りに入る。


 べんっ!


 最後、衝撃の相殺に半端に成功。

 身体が跳ねて転がって、ずっさーあと滑ってった。痛い。顔を上げた先が眩しくて、目を細めたら別れを決めた檻の前。


 寝てる二人の顔が見えた。


 くかくか寝てる二人、ぼろぼろな自分。

 フィッと震えた羽と音。


 破れた音。

 風を掴み損ねる、音。


 ついさっきまで綺麗だった僕の羽。見える二人の羽とは違う羽。


 『あそこで一緒に寝てたら』『行かなかったら』


 決めた自分と今の自分の心。勝手に零れそうになる何かにぎゅっと目を瞑り掛け、ぐわっと見開く。


 一片でも後悔したら僕の負けだ! 僕自身の負けだ! 一片の悔いで自分に負けてたまるかああ!! 


 再びの決意と怒りを糧に顔を上げて、風切り音にハッとした。



 「ふわあああ!」


 真上からの棘に転がり逃げた!

 やばかった、やばかった、もう少しでぶっ刺されてた!!



 ドキドキしながら立ち上がる間、あっちはその場を動かなかった。少しだけ宙に浮んでる黒い星を初めて落ち着いて見れた。ら、意外にも同じくらいの大きさだった。


 その棘の下でナニか動いた。

 

 みょーんとでろーんを小さく繰り返して集まる感じが虫っぽい。それが集結地点でボコボコっと。煮立つ沸き立つの雰囲気で顔を出した小さな玉に… やばさ感じて背を向ける。


 一目散に逃げようとした。


 したんだけど、守りの光が棘から離れて取り囲まれた。どうすれば?




 …やり返すにも、なんでか上手くできないし。


 つい、二人の方を見てしまう。

 でも、不思議なくらい起きる気配がない。 ……良い事なのに、ちょっと辛い。辛いと感じる事がいけない事で、良い事のような 記憶が  うるさい。



 ボコポコ出てきた大小様々な玉は、そのまま浮かび上がって星に当たった。当たったトコから棘が萎れて溶け出して、どろーんとなってった。


 『え、溶けて死ぬの』


 色々びびって見てたら黒い色まで溶け出した。溶けて溶けて、溶けたのも溶けて消えて、最後は白い白い真っ白な丸い玉が残った。



 ヒュッ


 「え?」


 白い玉の後ろから黒い光が現れて、玉の上から黒い光を滴らせるとキラキラしい黒さで覆われていく。


 「…まさか、やり直し!?」


 あんまりな事に恐怖して、周囲を見回し気が付いた。

 六つの光は均等に並んで隙間がない。つまり、初めから守りの光は七つあったという こと に… 不参加型があったなんて知りたくなかった。





 黒の次は紫。

 紫の光を浴びて、縁がキラ黒な白い玉は伸びて突き出て形を変えて 人になった。


 生まれた白黒な人は 僕だった。


 赤い光で色付いて、青い光で目を開けて、緑の光で息をした。


 僕ではない僕が僕に向かって微笑んだ。

 僕の知らない僕の顔。


 僕は、そんな顔をしただろうか。



 綺麗な僕は、僕が泣いた場所に立つ。


 近付いてきた僕が僕を覗き込む。感情が映らない目に映る汚れた僕が、神が行う成り代わりとは こういう事だと 言っていた。


 ああ、喰われる。

 此処に正しい鏡がある。


 掴まれた腕は痛くない。これが鏡の、真意なんだ。





 ああ、やっと終わりそう。

 後は大人しくハウスに入るといーんだが。


 残った二つの光が交互に前に飛んで示す道案内に従って、腕を掴んで連れて行こうとするのに腰を落として粘る根性拒否反応。うわあ。


 「頼むからさぁ」


 此処がゴールと三つのベッドの間で光り待ちしてるのに、あれに釣られないとか根性あるな!


 しかし、ハウスに自分で入ってくれないと巣にならねえ。

 まーた、待つ待つ待つの耐久戦が始まりそう。もうここまで来たら気が済むまで付き合ってやるよと思う反面、面談してても良い気がしてる。


 「お」


 腕を離され、取り残されたら狼狽し出した。逃げ出す事なく、おーろおろ。全く葛藤が見られないのが、なんだなあ。縁に腰掛け、ぽんぽんすれば迷いに迷って〜 「そうだ、そこだ。行け、入れ、怖くないから! いーから、行けって!」 よし、入ったあああ!!



 落ち着きのなさで立ち尽くした後、もぞもぞベッドに上がって座ろうとするのを転がして横にする。その上にダイブした。「ぐえっ!」悲鳴を聞き流し、上半身を起こして掛け布団を掴み、にっこり笑顔。そこから布団と一緒に覆い被さり、ぎゅっと強く抱き締める。


 暴れ出した。


 …うむ、ちょっと情緒的なの間違えたのかもしれん。手ぇ抜いたから。


 しかし、大丈夫。

 実害などない、それはお前でできている。


 淡雪の如く溶けて消えてたら怪我も羽も治って元通り。次に起きたら痛みもなくて、あった事すらわからなくなる。何一つ、残さない。残すのは、家主としての愛だけよ ふっ…


 ってかあ〜 まー、物理でわかりたくねえってんなら精神にぶっ込んでわからせるしかねえだろ。これで偏愛なっても困るが、そんなガチなのやってないし。


 それにしても、『好かれる・好かれない』かあ〜。

 俺を好いてくれるなら早くハウスをして欲しかったが、それを言うのは酷だしな。しかし、ちょっと考え込みそうになる。


 が、面談が先だ。 …早よ、暴れず寝なさいって。





 「うん、まぁ、そうよな」


 調書を終えても、並べた二つは浮揚の星にならないでいる。切っ掛けがないとしたものか、ハウスが見える位置であるのに動きもしない。


 「もう良いな?」


 確認に優しく声を掛けると僅かに揺れた。

 ちゃんと意思表示をした事に微笑んで、ケースを取り出し移し入れる。クッションの上に収まった二つに少し考え、にくきゅーでぷにっと触れる。どちらからも喜びの気配が漂い、頑張って擦り寄ろうとする気配までした。


 可愛い可愛いと撫でてやり、「風呂に入って休もうな」囁くとキラッと返事した。良い事だ。




 それにしても、向こうの紐付きに傾倒してるだあ?


 ないわ。

 まじ、ないわ〜〜 俺をあれと一緒にするかあ?? いやいやいやいや、見せてないのが弊害か? しっかしなぁああ〜〜〜〜〜。

 

 家主たるこの俺の愛の在り方について思案しそうになるが、その前に受信キャッチが弱まってんじゃねーかと思う。まぁ、これも後だ。


 




 「はーい、入りまーす」

 「あ?」


 ハウスの入り口に飛び出し防止柵を設けて透明カバーを被せてた。館内放送「終わった」連絡入れた途端に、もう来たぞ。


 「近くで待ってたか?」

 「いいええ、タイミングよくう〜〜」

 「ああ、我らが主よ。お久しぶりでございます。なんて素敵なお姿でしょう」


 「おー、ぜーた。仕事中に悪かったなあ」

 「いいえ、ちっとも。お会いできて幸せです。ああ、幸せはこちらにも」


 両手を広げて差し出す水のバケツ。

 バケツ形状してるだけの水の中は流木や水草がアートに飾られ、そこに小さい第一期が乗っていた。


 「おお、お前も元気そうだ。さっきは凄かったなあ」


 くりくり顔を動かす照れ屋さん。

 何時もの様に勢い良くジャンプして腕に掴まりたかったよーだが、今の姿にどうしようと戸惑ってるんで此処に此処にと猫手で床を軽く叩けば、喜んで飛んできたのをよしよし。ここ暫く成長する子が、と感極まる喜びの声にうんうん。撫で序でに身体検査しとく。


 ちょっと体重増えたかな?




 一頻り近日の話を聞いて褒めたら、仕事の話。


 「…つまり、今後他家の力に触れた子が」

 「そう、そのちょっとの混ざりが破壊神ってな」


 「それは我らが主かと」

 「持ち上げなくていーよ」


 「まぁ、そんな」

 「で、今回はマーカーで楽したけどね」


 「では、この子達からパターンを抽出し?」

 「そう、そこで」


 サンプルが二つになって、ちょっと厳しいかもとあれこれ許可を出しておく。


 「わかりました、新たに網を張りましょう」

 「共同で頼むね」


 「はい、必ず他の子とは別に」

 

 胸を張るのが頼もしい。

 ガチガチと顎で力むのも微笑ましい。

 

 「基本は此処へ流れるが、他の塔にも連絡しといて」

 「わかりました、パターンも送っておきます。それで該当区の総括は…  第三期のえーたでしたね。彼はとても強いですから安心です。こちらにも一報を入れておきます」


 「あ、うん。ツヨイからね。あっちも色々やってて忙しいけどね」

 「まあ?」


 和やかに話せる事に逆に疑念を抱き、顔を向けると虫籠ハウスを前に黙ってじっとり眺めてた。不意にギラッと目を寄越す。

 

 「我らが主よ、何故にえーたとさんなのでしょう」

 「あ?」


 「真ん中で眠るこの子に合うのは闇の光では!?」


 断定の疑問系で聞くなよ。

 そして、えーたとさんの輝きに文句を言うな。大体、なんでお前の下のえーたにしたと思ってる。近接だから、それで十分だってえの。



 説教に口を尖らせていたが、「まぁ、『美味しそう』ですか。でも、食べられそうにないですわね」脇から口を挟んだぜーたの言葉に慌てて虫籠ハウスを引き寄せる。


 「なに言ってるのよ」

 「え、その子が甘くて程よい塩気を感じさせるお菓子のようねと」


 「ちょっと、そこで歯を鳴らさないの!」


 きゃいきゃい言い合う戯れ合いに苦笑。


 「我らが主よ、私が責任を持ってこの子達を秘密の花園に届けてきます!」

 「あら、急がなくても。ねえ」

 

 「保護区に持って行かなくて良いから」


 寄越せと手を出すが渡さない。


 「えー?」

 「いや、使えるなら使おうかとね。実際に使えなくても手数は多い方が良い」


 「…何に使うのです?」

 「魚に対抗すると言うのも何だが、うちの子には虫でもやろうかと」


 「まあ、うちの子用!」

 「しかし、浮揚になった事がわかってなくてなー。以前と同じに動こうとするから」


 「教育ですね! きゃっほーい!」

 「…これ」


 「あ、でも対抗には数が足りませんよ!」

 「数はいーから、存在の有無が重視点だから」


 それでも、ぐたぐた言うから注意した。


 「えー、これ安眠設計入ってますよ。大丈夫ですよ」

 「…メェメェを遮断するクルックコッケーを歌えるお前が言うな」


 「ふわあ!」

 

 拗ねてごねるのを放置して、蓋をしたケースにもう一度優しく声を掛け、後を頼むとぜーたに向けたら糸が巻き付いた。ひょいと持ち上げ水バケツから突き出てる流木へジャンプ。


 「おや、ありがとう」


 手伝ってくれるらしい。

 第一期の好意ににこにこして粘着吸収洗浄を思い浮かべると、あの子の手にまだ貼ってない事を思い出す。


 ご父兄が病歴書か健康診断書の一枚も持たせてくれたら、こんなに手間を掛けずに済むってのによ。親の気が利かないから、かわいそーに。


 反射思考でディスりが出てきた。



 「あ、そうだった」


 ぞろぞろ見送りを引き連れて塔の外に出たら、星の橋を忘れてた。もう色々と遊んでる。飛び込む子もいれば、下から長さの足りない葉っぱを届かせようと頑張る子まで。完全に遊び道具になってて大人の洒落感どこにもねえ。まぁ、いいけど。


 「ありがとうございます。塔の総責任者としての定例会合で自慢できますわ!」

 「あ? あー、うん、まー 程々でやめなさいね」


 「ええ、ええ、ちょっとあの辺を削って持っていくから大丈夫です!」


 水圧で削られる空中歩道の行く末が見えた気がした。ちょっと悲しい気もするが、もう良いわ。好きにしなさい。


 最後、見送りに巨大化でもと思ったが戸締りの陰もあるからやめといた。普通に「またな」で、それっと飛んだ。




 「たーだいまー」


 生物実験室のドアを開けて入ってから言ったら、「ひょわっ!」変な声。やはり、これはあれか。やっとけ言った訓練、サボってやがったな?


 一足飛びで黒卵を覗き込む。


 「ちゃんとやってたかああ??」

 「や、や、やってやってやってましたああ!」


 「安定しないと着させられないし、そうなるとお使いも頼めないなあー?」

 「っ! ほんとにちゃんとやってたのー!」


 卵の内で叫んでへばり付く強さに気鬱はなかったよーだと安心する。


 「ハウス此処に置きますねー」

 「おお、ご苦労さん」


 虫籠のベルトを首から抜く姿が落ち着いてたので、問うておく。


 「あちらと金魚についてだが」

 「はい、本音はまだ叩きたいです。けどー とりあえず、短慮を慎みます。それで、えー この子達は、うちの子の御付きにするのですよね?」


 「使えたらな」

 「仕込んでいいですか?」


 「… 」


 あんまり良くない気がして困る。

 いや、良くない感じしかしなくて困る。あれ? この良くない感じは…  うん? んん?


 「いいですかー」

 「待て、うちの子の楽しみを奪う気か?」


 なんだ、何を良くないと。


 「え!? そんな事になる筈も!」


 最初からできる御付きが如何に良いのか訴えなくてもわかるがな? どうせ魚と対抗するんだから出来不出来は って、ああ…  そうか、そっちかあー。

 

 「しまった、俺が阿呆になってんぞ」

 「はい?」


 「まず、利便性の良い道具に愛着を覚えるのは良い。しかし、その子らは道具ではないな」

 「あう」


 とてとて歩いてひょいと机に飛び上がり、虫籠ハウスの中を眺める。すかくか寝てる姿に目を細め、よーく見る。うむ、確かに未属性の星の子供(フェアリーキッズ)になってんな。



 「うちの子にくれてやったら過去との決別が曖昧になる。大体、嫌だろ。永遠の決別を是として別れたのに、次に会ったらバトル相手なんて」

 「…ええ? いーんじゃありません?」


 「いや、良くないって。正当性振り翳して優越性でボコりに行くの」

 「数が違いますし、勝てるかどうかは別ですよ?」


 「精神的に健やかに伸びないと思うんだよ」

 「闘魂が伸びると思います」


 「向かい合う度に性格悪くなっていきそう」

 「一撃滅殺で数は減ります。リターンマッチなしでいけば回数も少なく」


 「… 」

 「?」


 「お前、勝てるかどうかと言いながら」

 「だから、仕込んでいいですよねって」


 こいつ、どうあっても持っていきたいんだな。


 「メェメェは機能してるな」

 「止まってないでーす」


 何となく顔を引き締める、気分はほんとどうしよう。


 「あ〜 のな、俺は柵を持たせてやりたくないのよ」

 「はい、自分で切り裂せ運命を!ですね。いいと思いまーす」


 「…いや、だからな? そうなったら新しく生まれた意味が微妙になるでしょ?」

 「うちの子に仕えるは大儀です」


 「…大義とな?」

 「何れ見出す大義を先に頂く有り難さ、です」


 そうか、どうあってもうちの子の御付きにしたいかあ〜。


 「えー、金魚はスクわず叩きます」

 「はい」

 

 「見つけ次第叩きます?」

 「はい!」


 「お仕事中の金魚叩きは片手間仕えになりません?」

 「む」

 

 「叩かれる自分の金魚をあの子が黙って見てるかな?」

 「ぬ」


 「うちの子もそれを黙って見てるかな?」

 「う」


 「… 」

 「… 」


 「今回この子達は諦めなさい」

 「えー」


 「保護区に連れて行っていーから」

 「ぶー」


 「えー?」

 「せいとうは我にありぃー」


 「あー、そうよなあー」



 まぁ、何と言おうと今回は俺が悪い。

 実際、星の子が下の子達とどの様な関係性を築こうともそれはそれだ。好きにしろ。只、そこに俺が与えた役目があったら意味がない。


 立ち位置が良さげで利便性も高いから、うっかりしたんだわ。これが。


 「役目を与えれば喜ぶかもね。でも、そうなったら浮揚で生まれた意味は何? 闇が闇であるのと同じだよ。浮揚の意味は?」


 ざっと思考を回して結論も出たようだが、表情を崩さず、答えも言わない。理解と納得が相反する顔よ。


 「役目を負わすは生まれた定義を覆す。そんなの俺が潰すよーなもんじゃない? ね? お前達と違って、この子らにお役目は向いてないのよ」


 葛藤を始めたので、潰しを望んでくれるなと口にしそうになってギリセーフ。言い方が悪いっての。


 「保護区で放してあげようね」


 自然に返そうみたいに言ったら、見た事もない子供的下降顔を見せてくれた。いやもう、俺が悪いんだけどな。これも成長の機会だから、ほら。


 「そうだ、うちの子には何かあげようと思ってるから」

 「あう、うう」


 闇の常識の狭間に立つ唸り泣きに、機嫌を取ろうと取って置きのペロペロキャンディーを出してやる。


 「あ、あまじょっぱ 「くないから、甘いから」


 虫籠ハウスに食品サンプル的な視線を送るのも、どうしたものか。






 「うあー、漸く終わったあー」


 普段着に着替えて、はあ。

 脱いだにゃんぐるみを拾って、はあ。

 汚れを払って、ふう。


 あの子がカプカプ蹴り蹴りした辺りを確認して、よし。


 よく使う衣装ケースに仕舞ってベッドにダイブ。ふはーっと息を吐いた所でコールが鳴った。あー。


 『我らが主よ、あちらの方がお見えです』

 「おー、マニアさん帰ってきたかー」


 『実は、その… 少し前にお見えでして。今は応接室ではなく客室の方にお通ししております』

 「へ?」




 状態異常と聞いて慌てて部屋に駆け込んだ。


 「はい、どうしたってえ!?」


 客室のドアを開けたら、すげえ匂い。

 中々な濃度を放つ元凶はベッドの上で赤い顔してぐったりしてた。蕩けた目、乱れる髪、はだけた胸元、か細い息で熱を吐き出す 虫の息してた。




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