232 浮かばれたのです
13日の金曜日、18回目がやってきた。ときめきは活性化であっぷあっぷう〜。
…煽りなんて入れるもんじゃないですね。バックを当てに浮かれた事を反省します。ぐぬぬとなってたおねーちゃん、俺の煽りでブツンと切れて冷静に。
バトルを前に論戦が再開されましたああ(泣)。こいつも問題だって言われてますうー。あ、厳密には俺じゃない? ないない? あ、話を進めるなら豚への文句は終了で? 「所有でなくとも はい、豚の縁切り完了でーす!
関係性があり、しかも竜と同等に扱うべきである? なればこそ、初めに耳打ちの一つもすべきでしょう! 安全性を考慮せず、物事を円滑に回す気持ちがないなど最低です」
でも、冷静と言えば三魔シリーズも冷静です。
「そんな必要性、感じませんわね」
「何故、その様な手間を我らが」
「現在の関係性を含め、話す必要が何処にある」
双方の弁護士軍団が一斉に黙るので、よーく声が通ります。
「その必要性、相手の爵位に応じたものでございます? 自身よりも上の爵位をお持ちの方にも同じ事を言われますのか!」
うえ? おねーちゃん、痛い所を突いてきたー。
「応」
魔王様、気にしなかった。流石に俺も、え?になる。
「なんと… 上の方々であっても後出しをされると言われるか。された相手の怒りを買うを前提に動かれると… ならば、それは示し合わせ。相手に対する陥れと言えましょう!」
おねーちゃん、気持ちが正義の使徒に御成です? いや、なってもおかしくないんだけどー 実は俺の屁理屈からなるバトル回避術… なんて話せないし…
「耳打ちの一つも、ねぇ?」
「あちらはしそうにないけれど、ねえ?」
「仮に伝えても聞き入れるかどうか」
「謀略扱いしそうよね」
悪魔と魔女様が堂々とコールされますが、おねーちゃんてば返事をしない。魔王様だけ見てらっしゃる。
「それが常の考えか」
「考え? この事実に考えとは?」
「此度の事実を前に、他に思う事はないか」
「自家の面子を気に掛けぬ、そう言われて喜ぶ者がおりますのか」
「人に非る方の試練をよ」
「我が家の試練でありません」
「本当に、そちらの言葉は自家だけね。いえ、誰しも自家が大事なのは同じでしょうが」
おねーちゃん、魔女様の合いの手をスルー。
しかし、何をしでかすかわからない目付きが「同じだから言っているのです」 …大層怖いです。
「人が行わぬ試練とわかっていて伝えぬのは問題です」
「知らば右に左に手を加え、転がしたくなるのが人情よ」
「危険性の問題を誤魔化されますか、それで幼い弟がこの様な目に!」
「ほう、人情が生み出す悪意は問題ないか」
「そう、その悪意が幼い弟を危険な目に遭わせました」
…あれえ、坊ちゃんの問題はアーティスだけでしょ? 駱駝様は無関係でしょ? 違う? ん〜〜?? 大人の豚さんもビビる気配は混同路線が含まれる? え、待った。待った待った。それだと覆い被さったアーティスは駱駝様の恐怖オーラから坊ちゃんをガードしたとも言えるのではあ!??
何とも言い難い気付きは口に出し難い。
眉毛へにゃーん気分でバックの駱駝様を伺うと我関せずとお立ちです。
静かな姿に怖さは皆無、円らな黒目に長い睫毛が優しさを添えて煽り不参加感出てて〜 自分の小物感を感じるう〜。
「欲を出して雇わねば良かったと思われますが、如何です? そうすれば幼い弟は居合さず、こ奴らも他の手を考えたでしょうに」
おねーちゃん、悪魔が反正地点を語りましたが無視るのです。ですが揺るぎない立ち姿には、ちょっと感心するですよ。でも、これ終わってない? それでも話を繰り返すってのは〜 もだもだから出る失言狙い?
伝えなかったのは知らなかったから。
なーんて言ったら、それだけで責任追及が始まるし。
トライしてる下々の顔なんか覚えてないってほーが貴族らしくて尊大で、ありそーな話で通りそーだと考えますが、そう言ったら〜 どうなるんでしょ? 割と問題ないんじゃね?
「こやつの現状、どう考える」
「我が家を踏み台にした者が何か?」
弁護士軍団、どちらも静か。これが真実、最終決戦であるかのよーに見ておられます。あ、魔王様が笑った。そりゃあもう、この上なく晴れやな笑顔でお笑いにぃいい って、目が潰れそーな人います。
「人に非る方の試練に価値はないか」
「どう言われましょうとも、巻き込まれた我が家にそれ以上を求めるは非道でございましょう」
おねーちゃん、語気あらーい。
「そうか、そちらは行き詰まったと」
「…なんと?」
「それはそれは申し訳ない事を言わせた、そこまで落ちぶれていようとは! ははははは!」
「…なにを」
「いやいや、もう何も言わずとも。身を持たぬ者であろうとなかろうと命を賭した奮闘を称える気概もない家とは、自家の益だけを口にする家とは。なんとまぁ見窄らしい貴さよ! ようもそれで貴族を名乗る」
空気がビリッとした。
魔王様、空気で世界を制しそう。
怒鳴らなくても出てくる重圧、威風堂々。広がる威圧のマントがフロアにじゅーまんしてくです。
「見苦し過ぎて話にならん、そんな家など無きがまし。卑俗と話すはここまでよ、キルメルは平定する。 沈め」
…魔王様、いきなり他所のお家の取り潰しを決めたです。は?ですが、本気で決まったみたいです。
「な、 な、 なにを!」
おねーちゃん、近過ぎて威圧の効き過ぎ顔色真っ青。無理やり息を吐き出すよーに叫ばれたが、放置。
だって、エルディエルさんが「は!」て。そんでハージェストとリリーさんは揃ってお言葉に一礼。ドア前のウェイターさんが素早くドアを開けたら、メイドさんずが大声で。たら、笛が鳴り。即、複数の足音が聞こえ。室内ムードが一気に変化、身を縮めるオリヴィアちゃんと目が合う。
向こうの弁護士軍団、雪崩れ込みに解凍解除で抗議の声を上げて怒って兵士の皆様と揉み合いに〜 ならずに〜 次々と捕縛され〜〜 てえ〜〜 嘘っしょーの気分で立ってたら危険を感じる無風地帯。
「ちょっと行ってくる」「へ」「ノイちゃん、そのままで」「はい」
アーティス、さっさとやってくる。
合わせて、豚さんも這ってくる。
弁護士兄妹に書記役さん方も青い顔して無風地帯へお寄りです。バトル前提でしたので、壁際で控えてたせんせーに見習くん達が更に壁とお近付きになってた。
「このような」とか「律花に掛けて! この行いには、かなら うがーーっ!」とか叫ばれてる向こう側、ご職業の違いと数で速やかに制圧されて可哀想。
どなた様も怪我はないですかね?
ないっぽいですね?
ああ、良かった。
これにて一件落着、違うバトルで終わりです。 …無くなるもんなんですね。場所移動までして、さぁこれからって感じでしたのに。
「キュ」
「ん、いい子」
アーティスの頭を撫でるのに、シロさんもうちょっと〜 こう。 そう。 あれ? うーぬ、アーティスに興味があっても触られたくないシロさんとシロさんに興味があっても近付きたくないアーティスとの間で調整を取るのは大変です。
あ、シロさん賢い。
アーティスの安全に安心した反面、王道展開バトルがなくなった肩透かしに って、それどころじゃねーよ。それより酷い領地間戦争の幕開けですよ! なに安心してんだ、俺!
拘束喰らって床に座らされたおねーちゃん、呆然。しかし、傍の女官さんのお声が着火剤。目に火が付いた。
「こちらに し、沈めとは!」
張り上げるお声に、めっちゃお水が必要な感じ。
うちのメイドさんはと探すと〜 他のメイドさんとドアに張り付いて出入り口キープに勤しんでた。 …災害時、すっごく大事な事やってた。
入りの途切れを見計らい、素早く出る。
駆け足駆け足、急げ急げで待ち構えてた奴らに指示を飛ばす。
「向こうの応援は要らん、こっちに半分付いてこい! それと飛竜が来るからな、誘導その他に人手を分けろ! 後は常と変わらぬ地点を絞った警戒を!」
一人を先行させる。
客室前に立つ、うちのと向こうの護衛が一緒に身構える。
「止まられたし!」
「火急にて、扉を開けよ!」
「状況変化! 邪魔立てするな!」
揉み合う事なく人手に任せ、勢い扉に手を当てる。反転位も用いた詐欺紛いの手法で鍵を外し、力任せに開けて乗り込む。
「何事です!?」
熱り立つ女官と寝台と、傍に侍るステラ。
室内の人数と武器の把握の確認を視界で取りながら寝台の上の丸まった膨らみへ叱責混じりの声を掛け、動いた事に安心。
身体を張って遮ろうとするのに、要求を。
「子息を此処へ」
「お引き取り下さい!」
「お前では話にならない、キルメルを継ぐのであれば出よ!」
押し包んで持っていくのが早いが、それでは駄目だ。そして時間がない。ので、剥ぎ取る。「動くな!」「おやめください!」「拘束に入ります」ステラ共々、他に任せて逃げようとする正しい行動に腕を伸ばして引っ掴み、引き摺り戻す。暴れる足を浮かせて膝裏に手を回し、そーれっ。
「ひっ!」「きゃああ!」
落ちてきたら力の分散、片足基軸にちょいと回って遠心遊び。最後は上下感たっぷりにふわりと寝台の縁に座らせる。大人しくなった所で俺も腰を落として目を合わす。
「貴方の姉上は交渉に失敗した」
おねーちゃんの頑張りを無視して、入ってきた方々と話されるセイルさん。
「もう良いわね。でも、ここにいてね」
へいと頷き、おねーちゃんへと向かうリリーさんを見送る。座り込む相手の前に立つ対比が勝者と敗者を際立たせてる。
「初めから陥れようと」
「いいえ」
「結局は、あれらもそちらの仕込みでしょう」
「そんな仕込みしなくてよ」
「証拠はない、それでもそちらは潔白ではない!」
「あなた、何の為に来たの」
平行線を辿る女性バトルは「私の弟が言ったでしょう? 他領の財を掠め取るなと」リリーさんの指摘で初期問題に戻ったかに思えたが、あ〜 「だから、キルメルを掠め取ると言われるか!」また戻った。
うーん、おかしくておかしくない話の繋がりが困るうー。そんで足が疲れたあー。もう立ってたくないー。足がダメだから代理をお願いしたってのにー。
アーティスを横に豚さんを前に、俺も床座りしよー。
「あ、あのお椅子に」
「そうです」
弁護士兄妹が待ってとしたけど、もう遅い。座ったです。
「それもこれも、そちらの言い掛かり」
「…言い掛かり?」
「そうであるから、こちらの言い分に賛同が入るのです」
「賛同… ああ、言ってたわね。隣と組んだと」
「そう、この様な事をあちらの方にまでして言い訳が立つものか」
おねーちゃん、強気。
後ろ手に制御環を嵌められても強気。
団体様だから?
そんで深くふかあーく頷いたおじさんが。どうやらあの人がお隣の領の人らしい。声を張られてお隣の領主様のお名前に、ご自分の名前を名乗られました。
はて?
つるるるんと言われた事を整理しますと。
おじさん、ご使者としてキルメルに行った。んで、そっちの意見に賛同した。それならシューレにとっては第三者ではないですよ? しかし、この人の扱い方次第では全面ならぬ二面戦争は避けられる… そーゆー事を言われてる。また、どっかに申し上げるとかゆーてる。
「得策ではありませんぞ」
いやまあ戦争抑止なのはわかるんですが、ええ、わかりますが。これは右に左にタイプでは、なーくーて〜 えーと えーと でもえーと〜〜 黒いなぁって。それに第四の勢力がどーのとゆーたら、それこそ画策・脅しモードじゃないんです?
「使者は死者として力を発揮すると言われておいでなの。まぁ、すごい」
あ、まだ魔女様だった。
「リリアラーゼ、心優しい我が妹よ。お前は何と話しているのか」
「…この礼儀知らず! ようも貴族であれたもの!」
魔王様も魔王様だった。
そんでさっきまで、ちゃんと目を見て話してたおねーちゃんはもう空気らしい。
「…隣家から伸びてきた枝の風情に呟きを。どう剪定したものかと、つい」
「そうか」
ほわりと微笑むリリーさんは綺麗なんだけど なんか、こう。こう、突き進む感が どこかで止まってくれないかな的な。
んで、ズシンて揺れた。
家が揺れた!
『アンギャーーーーーッ!』
直後に響き渡る声に複数形で驚いて「わああっ!」てなる中、黙って頭抱えて伏せしてた。気分と同じでちょうど良かった。
でもごめん、シロさん放置してる。
「兄上!」
あ、悪魔が帰ってきたー! ので、起きまーす。いえ、立ちませんよ。
入ってきません、どうしてだ。
ドアの前で止まったらしく、キーパーやってたメイドさんずが即座にピシッとできるお顔で整列です。したが慌ててお一人、出て行った。
あ、悪魔が坊ちゃん連れてきた。
「どうぞ、こちらをお読みください」
お手紙を差し出す坊ちゃん。
受け取らず、見つめる魔王様。
悪魔は坊ちゃんの少し後ろに立って帰ってこない。
「これは何か」
「キルメルの、ち 領主さまからの手紙です」
「何故にある」
「え、あの、何かあった時にと」
坊ちゃん、さくっと受け取って貰えなくて〜 あー、がんばれえ〜?
「君の姉なる者に決定権があったのではないのかな」
「ええと、はい。そうだと」
「では、それを読む必要はないだろう」
「でも、お渡しをと」
「姉とは別に持っていたなら先に出すべきではないかな」
「………い、今がその時だと」
「どうして今がその時だと」
繰り返される質問。
坊ちゃん、地味に泣きそう。
返答次第の受け取りって怖いよねー。相手の目線は高いし気配は怖いし、おねーちゃん達は拘束だし〜〜 ってか、お渡しに真っ直ぐ伸ばした腕が落ちそうで下げるなファイトだ頑張れ感!
そんな坊ちゃん、チラッと後ろを〜 後ろを振り返るの頑張って止めたあ〜 悪魔、助けを求められてるう〜。
「今を逃せば後はない、これが正しく最後の時だと! 読んでください!」
あ、これは悪魔の囁き。入れ知恵ですね。
絶対にそう。
両手を後ろに回して直立不動、視線を下げて立つハージェストを魔王様が見遣って 見遣って 見遣ってえ〜 冷ややかモードの魔王様、一つ小さな吐息を零した風情で手紙をお受け取り。
んで、またズンてきた。
「ンギャアアアーースッ!」
揺れて坊ちゃん、「わああっ」と隣に飛び付いた。
その背に片手を回すのを見た。
見た。
見ながら、シロさんを素早く抱えて伏せに移行。豚さん、片膝立ちで俺のガードに動いた模様。え?な気持ち。んで、よーく考えると地震ではない。大丈夫かと思い直して、そーろそろそろ身を起こす。
そういやと振り返ったら居られない。
「え?」
慌てましたらオリヴィアちゃんの腕の中。
どうしてか、抱えたままキュウッとなりかけてるオリヴィアちゃん。その妹を体を張って支えるリチャードさん。
…なんかすいませえー。
エルディエルさんが出て行って。
飛竜の到着におねーちゃん達が騒ぎ出し。
その煩さに魔王様のご機嫌が斜めって、封筒をお持ちでない方の腕を上げられる。
光が出現、飛んでいきます。
行き先はタペストリーの鳥の顔。
受けた光に鳥の目がキラーリ輝き、輪郭線に沿って走り出した光が鳥の姿を浮かび上がらせ全体がピカーッとなるかと思ったら、ならなくて。
代わりに顔の所で、ゆらゆらした幻のよーな鳥がご誕生。広げた翼の先が力に揺れて形にならない、火の鳥みたーい。
滑空モードで大シャンデリアに向かって、go!
どーんと勢いで入ってったシャンデリア城、キラピカ光が変わります。そしたら今度は小シャンデリア群へと分裂してく鳥連鎖。
しかし、魔王様の光が一部の鳥を阻止。阻止阻止阻止。阻止された鳥さん達はそれぞれ近くの方と合体、大きくなられます。その間にも旋回されてた鳥さんが下へ飛ぶ。後追い、一緒に床の埋め込み型の間接照明?さんを回って灯してお仕事終わりに再び上昇、お顔にお戻りさよーなら〜。
結界が完成したです。
なるほど、鳥のダンスも見られるダンスフロアがバトル会場に選ばれる訳だ。
「あや?」
ふむふむと視線を下げたら、おねーちゃん達が遠かった。できた結界、部屋の半分以下でして… その一区画内に押しやられてた。んで、さっきまでおねーちゃん達の後ろに立ってた兵士さん達全員の退去も完了してた。
珍しいバードウオッチングに人など見る暇はないのです。
「さて、其方の処遇についてだが」
魔王様、手紙を手に坊ちゃんに向かい合われる。
直後に聞こえた遠い音。
何? 空気の震え?
形容し難い聞こえにどっからと首を回すと、おねーちゃんがお立ちで口パクしてた。 …聞こえませんよ?
「いやね、聞こえなくてよ」
おねーちゃん達と魔王様の中間に立つ魔女様、綺麗なお声と流し目でお伝えされる。あの結界、外の声を通しても内の声は通さないっぽい? うん?
挑発と受け取られたよーでおねーちゃん、目が怖い。
しかし、おじさんの口パクも無視るので事態を理解したよーです。俺も「聞こえないですー」で放置しまー。
坊ちゃん、悪魔の足に引っ付き虫。
魔王様の「前へ」にも引っ付き虫。悪魔が優しい手付きで促して、坊ちゃんそろ〜っと前に出る。
…坊ちゃん、いやに態度が違いますな。俺には可愛くなかったのに。つか、あの悪魔どーやって子供を手懐けた。しかも、あの短時間で。
………ふふふふ、私情介入は取引市場を混乱させる元なのでえ〜〜 あの誑し悪魔があああ〜〜 ペっ。
アーティスとシロさんと豚で癒されよう。
あ、アーティスの毛。
そそっとないないと撫でる間にも現実は進んで、坊ちゃんの精神が寄る辺ない子供になってってた。
姉の言に起因する平定は坊ちゃんの罪ではない。
だが、お家の子である。
はい、連座制の話です。特に今回は武力行使による交代劇になるよーですので今後の速やかな発展の為にも〜 綺麗な後始末が必要となるのは、どこも同じよーで。
「今を過ぎ、成長と共に不満を思い返されても面倒」
過去から現在、未来へと繋がり続ける連座は合理性から成り立つのですな。関与した過去の某裁判を思い出してたら、お話が止まってた。
魔王様、静か。
「姉が犯した罪を己の罪と思うか」
坊ちゃん、おねーちゃんの方を見て魔王様見て俯いて。顔あげるも迷い顔のおずおず系で否定に首を振られます。
それはそうです、人の罪が自分の罪なら冤罪名称どこへ行く。
「そうよな、『血を継ぐ』だけの理由で己の罪とされるは苦しかろう」
坊ちゃんの明確な罪は俺へのばちこん!だけであるのが魔王様により確定。真実、それだけ。それも坊ちゃん自身の情報吟味と当家の情報提供の相殺に年齢その他を含むと、お咎めなしが正当な裁きになるそうな。
つまり、俺は逃げ足と葉隠れの術が必須なのである。
「しかし、血を『それだけ』と言ってもならぬ。ならぬが相対する。連座は容易い、弱肉強食を語るも容易い。なれど今、それに倣うは己の無能を感じる」
実に重々しい口調です。
「この程度に、その程度の裁定しか下せぬのが我であるかと思えば不愉快だ」
…見よ、魔王様は魔王様であらせられるのだ! 平伏せ、罪なき子供に対する連座制のてきおー!! くたばれ、それを仕方ねーで切り捨てるだけの大人ども! 右へ倣えの楽思考の似非哀れみがえらそーな事を言ってんじゃねえやあー!!
でも、俺は叩かれ損か。
どこにも文句を言えない最弱者か、はぁ。
「生きたいか」
「は、はい!」
「どう生きたいか」
「え」
直ぐに返事ができない所に人生二周目ではないと信じられます。この状況でペラッと答えられる子を解放する方が面倒だとも思います。
しかし、小さなお手手でズボンをギュッする坊ちゃん見てるの変に辛くなるんですけど?
「では、この手紙を読む間に考えてみなさい」
え、その封筒ぺらいです。
ちょー短時間の高速結論? やっぱ、魔王様だ。
「兄上様」
ずーんでチーンな縦ラインに襲われてたら沈黙の悪魔が起動、一歩前へ。
「只今、無罪と言われましたる事に申し上げたく」
…おおっ!? 我が弁護者が舞い降りた! 前と同じく頼りになるう〜。しかし、今の坊ちゃんに追い打ちは気分的にちょっとー あー。
「彼の無罪に功績を添えます」
「は?」
うっかり声が出た。
シロさん持ち上げ、猫の頭部で口を隠す。悪魔は何事もなく無視ってシロさんの毛が当たるー。気持ちいー。
「行いは罪、なれど功績。この先、己で解明できぬとは思いませぬが、そこに至る時間は不明です。何故なら、決してこの身が取らぬ行いなれば。それが今という時に、根源への理解を寄越したのです。その功績の元、彼への減刑を求めます」
悪魔、一礼。
坊ちゃん、ぽかん。魔王様、平常。俺、無理解。
悪魔、坊ちゃんと目を合わす。
優しく肩に手を添え、軽く叩き。優しさの微笑みを湛え、一歩、後ろへ戻ります。
「お前がそうと言うのであれば、確約はしないが思慮には入れようか」
悪魔、再び一礼。
「では、今から読もう。今の言を当てにせず考えなさい」
坊ちゃん、思考が渋滞中。
情報の上書きでわからんなった顔してる。 …まじで子供に重大事案を幾つも聞かせちゃダメでしょー。
しかし、悪魔と目が合った。これも重大だ。
『功績とは?』
『君だけど?』
『はあ?』
『だから、君だって』
『なんの』
『後で』
『だから、なんの!』
『だから、後で! 場を読みなよー』
『俺が空気を読めないってかあああ!?』
『だから、場を読めー』
『しゃあああああっ!』
むかつきの余りシロさん膝上二足で立たせて、お手首握る。ハージェストに向かってシュシュッと交互に猫パンチ!
したら、そそそそっと見習いくんがやってきた。
医療用毛布とゆー名の座布団をくれた。そんで卵ちゃんがオリヴィアちゃんを〜 を〜 駱駝様に断念、無念。
せんせー、簡易マットと毛布を持ってきた力持ち。
手早くオリヴィアちゃんをガードして、リチャードさんと目礼し合うと揃って壁際お戻りです。
猫パンチは他に向けても招くらしい。
「読んでみよ」
「は、預かります」
便箋をぺらっとさせるので、受け取りに進むと封筒も渡された。 …持つ気がない、これは。
三枚中、一枚は儀礼の白紙。
残る二枚の書き連ねに目を通す。
二度読み直すが裏含みが見えず、主文が主文で良いようだ。そうとわかれば、ふーんとしか。
読み上げを目で問えば、他にやらせろ。
子供が読むには字も難しいし、させる気はない。かと言って、こんな事で結びを解くのは馬鹿らしい。
手を振り、「あちらの女官を一人、連れて来い」最善を選ぶ。
「考えは纏まりましたか?」
不安気な上目に声を掛ければ、ゆるゆると小さく首を振る。ここで言葉を掛けぬのは見捨てるようなもの。己の半生を振り返っても、それはキツい。
「問われたは、どう生きたいか。ならば、どう生きてきたのか」
兄さんの前で、これ以上は無理だ。
目を瞬かせ、落ち着いて考え始めた姿には過度な萎縮も鳴りを潜めた感じもしない。思い通りにならぬと癇癪を起こすでもなく、不安が芽吹く中でも実行する気概。
それなりに場慣れしている。
……俺はこの年で、こんなに素直に大人の言う事を聞いてなかった気がするが?
「何としたこと!」
また煩いのを選んでとも思うが正しい。
小さな肩を抱き寄せ、手で壁際の一人を呼ぶ間も「姫様にまで!」喚き立てる。
「今と同じ声量で読み上げよと、あれに伝えよ」
便箋と封筒を渡す。
女官さん、お手紙目視でだーんまり。
しかし、「読め」と催促されて漸く読み上げたです。
纏めると、坊ちゃん嬢ちゃん捨てられた。
はい、領地のとーちゃん捨てたです。出すって、そーゆー事でしょう?
非常に不本意ではあるし、当方に非もないが自領の情勢?のなんたらで? なんとかゆー故事に従って? そっちに二人を出すから、それで痛み分けとかなーんとか?
「この、このような事を書かれるはずもありません! 偽文書です!!」
うわ、お手紙抹殺事件!
「ああっ!」 バタン!
事件の解決、早かった。
斜め後ろに控えてたお渡しメイドさん、見事な不意打ち。女官さんを突き飛ばして奪取した。ささっと悪魔に渡します。
一礼後、定位置お戻りご苦労様です。
悪魔に返すまでがお仕事でした。もし返せなかったら、どーなるんだろ?
ですが捕獲も完了、安心です。
代わりに非常に重苦しい空気が発生してますよ。
「まぁあ、二家から死者にと望まれるとは。何と有能なご使者でしょう」
魔女様のお言葉で青くなってる人がいる。
「また倣うとて、齢が足りぬ。其方ら、それをどう考える」
魔女様の綺麗なお声が場を締め上げる。
皆さん、見えないお手に首を絞められ真っ青です。そして近くの女官さん、震えるお声で縋るよーうに坊ちゃんの名前を呼びました。
坊ちゃん、呆然。飲み込めない。
ってか、呼ばれてもどう返せば良いのか不明顔。多分、故事がわかってない。俺も予想できても知りません。
幸い、あっさりした説明が入りました。
えー、故事に因むと出された坊ちゃん嬢ちゃん生贄で。
シューレとの問題は人身売買系であるのでえ〜 諸々の不足分は一緒に行かせたお付きの生きた兵馬俑で賄うとゆー形に収まるよーで。
つまり、キルメルとーちゃん奴隷送りを仕込んでた。うはー。人選基準を知りたかったり、知りたくなかったりしますがあ〜〜 んや?
ひゅわっ!!
坊ちゃん、ショックで暴走ですか!?
打ち上げ花火が、花火が ちょっ 花火、怖っ!! や、爆竹もご遠慮致したくーーっ!!
一拍。
魔王様のお手から生まれた重い音が場を掴み。
いろーんなぐるぐる闇鍋で有毒ガス出してた坊ちゃんも掴まれた。
「お前は何ぞ」
「世界は何処」
「愚か者が賢しらに」
魔王様、魔女様、悪魔の順です。
三魔の方々、歌われます。魔女様と坊ちゃんから飛び退いた悪魔はゆるりと動いて、ちょっと歪な三角陣を形成。
「お前は何を」
「世界は此処ぞ」
「愚か者が何も見ず」
坊ちゃんの花火は引火直前に湿った模様。それを三魔が生み出す謎闇圧が更にぐりぐり押し潰す。
「世界は此処ぞ」
「此処が世界ぞ」
「己の場所ぞ」
魔王様が両腕を広げ。
魔女様が自分の胸に両手を重ね。
悪魔が片手で坊ちゃんの胸を指す。
「世界に在りて」
「世界と共に」
「そうでなければ」
「「「 愚か者が賢しらに 死を歌う 」」」
坊ちゃん、トライアングル生贄っぽい。
三魔の謎闇に押され晒され、違うぐるぐる始まって。坊ちゃんの個人ガードがペラ紙みたく弱まって。
「世界は此処に」
「有りしは今に」
「虚は夢ぞ」
三魔の方々が歌いあげる、死の禍つ歌 の、よーな謎掛け歌が脅し揺さ振り、惑わせて。誘発涙がころんとしたら、正気に戻った心に亀裂が入って「う、う、うぇえ」年相応の子供の顔から涙がほろほろ次々と。
「わ、ぅゎぁああああーーーん」
はい、我慢が決壊したのです。
言葉にならない隠された子供の心が、今、恐怖により! 浮かばれたのです。おめでとう、おめでとう、にゃーむにゃむにゃむ。
で、誰だよ。
ここまで物分かりの良い子供に大人であれと教えたのは。
そんで、教えた大人は何してんのさ。