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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
231/239

231 ある、浮揚の星

間が空きました。お待たせでーす。




 子供部屋から出て、てってこてこてこ道をゆく。


 思った以上に子供の寝かし付けに成功したので、俺の機嫌はすこぶる良い。おまけに弱い子だからと甘くみていた体力が、予想以上にありそうなのも良い誤算だった。


 一生懸命戯れ付いて、力一杯蹴りを入れる。


 ごめん、ちっとも痛くない。あいや、ちょっとは。うんうん。子供の為に、振りができる大人は此処だ。此処に居るとも。


 可愛い子供との戯れは思い返すだけでストレス解消。なんか本気で癒された。


 にしても、あの『びええ』泣きにぺったん腰を落とした『びゃああ』後退り。可愛かったー。思った事がぜーんぶ顔に出る、実に素直な子であった。

 

 だが、あれは叱らねばならん。

 俺には効かんが顔面攻撃なんぞし続けてみろ、今後できる筈のお友達ができずに嫌われてしまう。


 そして爪も見た、牙も見た。

 実物を確認できた事で懸念は減った。やはり、ナマで見るものだ。


 めっちゃ叱りもしたが、大人として最低限の役目は果たした。


 真面目に子供への教育(チュートリアル)ができて良かったあ〜。これをやらずに愚痴は言えん。やらずに言う阿呆にはなりくもない。


 でも、ほんと最低限だからあ〜 今後どうすっかなー。




 思案の内に地下ルートに到着。


 同時に、うにゃうにゃ起きたあの子が『猫さん、どこ? どこ〜〜っ?』と呼ばわりながら俺を探す姿が浮かんでー でー  拙い、顔がにやつく。次に会ったら きっと、あの子は文句と甘えと嬉しさを全開に飛び付いてくる事だろう。


 今からにまにましてまうわ。


 現実に起こり得る楽しい想像こそ大人のやる気の燃料よ。さ、仕事だ仕事。仕事すっぞー。




 足取り変えずに、てってこてこてー。


 俺との接触ルートに乗る足取りが立ち止まったり、向きを変えて逃げて行く。当然の事にハイハイと一定速度で進み続ける。これが一番、下の子達に負担を掛けない。


 ネタとしては、ここで一発『遅刻、遅刻〜』とか『ああっ! そこ、退いてくださー!』でぶつかってくる勇者が欲しい所だ。


 実際に居たら、生存本能がイカれたかわいそーな子であるが。



 するりと鉄格子を潜り抜け、花道ルートを進めば接触回避ができない子達。檻の中から留置項目【拘留日数、x日目】や【拘留理由、xxによるxx】なんぞが吹き出してくる。それらを流し見して通る。


 感想としては『あー』。それ以上はなし。

 それ以上の感想を持つと色々哀れになってしまう。だが、無視すると情操教育に宜しくない。それに理解が追い付かなくても、わかるもんはわかる。



 「どうして、俺は」

 「なんで、こんな」


 ほれ見ろ。

 もう理解したぞ。


 ぐずぐず嘆き始めた子供の声が遠去かる俺を追い掛ける。


 言葉以上に隠しようもない深い悲しみに沈む心が自傷とゆー手段に気付かぬ内に離れてやるだけだ。そうして始まった自責は、もうほんとにお前の課題だ。


 か・だ・い。


 一人で解決するも良し、仲間と手を取り一緒に解決に励むも良し。幸いにもお前らは複数人だ。グループ学習でも何でも試すが良いわ。取れる方法は一つじゃないから。



 だが、泣くのは仕方ない。

 こんな形で俺と接触するなんて、考えた事も〜 あるわけねーわ、あったらすげーわ。


 下の子同士の中では罪人扱い。

 それをイケてないと思うから嘆く訳だし。


 同じ子供同士の間でならどうでも、生きてる間に、俺に知られるなんてなー。ほんと運がねえわ。不正出発で咎められるよーなのもアレだが不意打ちの参観で全部ぱあとくりゃあ〜〜 そりゃ泣きたくもなるってもんよ。



 『罪人であったから出会えた』


 そんな事実は追い打ちになっても何の役にも立たねえし、要らんよなー。俺との接触の事実も、もう刻まれて消えねえし。


 理想とは、ちょーっと違うだろうがこれもまたレアな運命よ。だから喜べ、浮き立て、はっはっは。 まーたなー。



 次の階段をててててとっと降りていく。

 降りるのはいーが胸と腹が微妙。着ぐるみに付着させたあの子の涙と鼻水と涎が微妙!


 完璧に保全はしてる。

 してるが、なんっか微妙…


 しかし、これ以上やると消失の危険があるし〜 あああ、折角採取したブツを検査する前に自分の気分(潔癖)で失ってたまるかああああ!!


 ふん!と勢い込んでガードを増やしたら落ち着いた。自分のガード力を信じているが失うと大変だから過敏になっていたよーだ。


 俺もまだまだよ。


 

 そんで、まだまだだから現実に直面すると嫌んなる。


 あー。

 正に気分は、あーで はーあ。


 嫌んなっててもしゃーないんで現状の耐震性能や壊れ具合を見たら、蹴り入れて新規ルートを開拓。とうっ!




 おお、懐かしき事件現場よ… また、此処に来ようとはな… 犯人ではないが、そんな事を思って現場を見てる。ひゃーははは。





 さ、こいつを締めて終わりと。


 構成を見回し、満足。

 二、三日もすれば全方位に浸透して終わり。崩壊の危険ともグッバイ。しかし、この小さな頑張りには本当に感傷を覚える。いや、感銘か?



 大地を食い荒らして終わっただけの。

 それだけでしかないものは。


 最後に不毛を撒き散らす。


 必死で足掻いた結果が不毛であると、不毛でしかないと ほんと哀れよのー。余りの計算違いに哀れむわ。知ったら「哀れむな!」と絶叫しそうだが哀れみ以外なんも出ねえ、しゃーないわ。


 しかしまぁ、なんよなあ… 初めからこれを狙っていた訳でなし。それでも最後の望みには適ってた。それらを思い遣ると〜 やはり、手を加えたのは複雑な気分だ。


 だが、時は流れて事情が変わった。


 うむ、それが全てよ。

 事情こそ大人の真実! 俺はあの子の巻き込まれを強く拒否する。


 だから、この浸透(時間)はせめてもの手向け。

 

 …間違っても速乾でやると今世の子が違和感覚えて気付くとか、そーゆーんじゃないから。うむ、違うでな。 な、安心しなさい。 ほいほい、おやすみ おーやすみー。 不眠は思考をダメにする、気持ちよーく眠るがよい。


 そうしたら、次の目覚めは 優しくて 次の自分を好きなる。時の声は、何時でも 己よ。




 優しい優しい思考を垂れ流し、うちの精霊達(一部)の機嫌を取っといた。こーゆーのをやってるかどーかわかるんだよなー、あいつら。


 実際、今世の子が居ないと完全崩壊でも居るからな。崩壊したらしたで今度は今世の子が怒り心頭モードで何をしでかすかってえの。


 特に今の子、お手玉たのしーって遊ぶ子ぞ。


 キレ散らかしたじょーたいで不毛をどうにかするとしたら、んなもの意地でも固めて放り投げるに決まっとる。キレた子供のポイ捨てなんざ あ〜 フィルターが目詰まりする未来が見えるう〜。


 子供の暴虐・汚家の未来は真白の洗濯の楽しさでも、今は無理。



 しかし、今世の子だ。

 速乾でやっても気付けない可能性は高い。


 高いがそんな可能性に賭けはしない、当たり前だ。英雄指定のぶっ込みが入った子が傍にいるのに誰が賭けるか、馬鹿するか!


 せーれー達が何を言おうと絶好の機会なぞ与えんわ〜。



 



 ほい、これで新たな脱出ルートが〜 かーんせーいっ。


 「これで他に穴は要らんな」


 今日は穴掘り日だったか、要望が多くて参ったね。


 できたばかりの穴の縁がキラッキラ。

 揺れて動いて速やかに均等に広がり、とぷん、と満ちると良さげな強度で平らかに。


 これで開通までバレない落ちない擬装工作が完成した。


 あの子の部屋から見てよし、距離感もよし。よしよしよし! ひぃひぃ言いながら出た場所が家や部屋から遠いと次のやる気が微妙だからな。安心と感動の引き換えの出口も遠いと微妙、遊ばなくなる危険性は回避せねば。


 …しかし、ちょーっと過保護な気はしてる。


 してるが〜 まぁ、まぁまぁまぁ。子供の成長に合わせた仕様変更は大人の正義、知育体育徳育は大人が合わせてやるもんだ。はっはっはー。


 

 そして此処に、子供達が示した徳がある。

 この徳に優しさを示そう。


 うちの子の情緒が育んだ優しさは、あの子に届いた。


 ちゃんと届いたから悲愴にも成らず、過剰に厭わず、前を見据えて応えられた。此処で生きていくと 我が家に馴染んで 溶けていくよと。


 誰に言わなくても、それは俺への 徳積み。




 ああ、気分が良い。

 とても良い。

 

 我へと通ず 正しき徳が 浮き立つ心に  口遊みたくなるではないか。



 目を細めて地面を見つめ、立ち上がる。

 俺の気持ちに再現映像が流れる と?  ととととと?  …うちの子、めっちゃ自分好みに整えてた。なんかもう上手に整えてるとゆーより自分好みに拘って切ってた。


 うむ、ぶれない子よな。

 徳と欲が見事に手を組む所に性格が出とる。


 

 徳育は知育とは異なるが… 異なるがあ〜 どちらも必要とするものであるでな。楽しみつつ育てるのが不正解とは言わん。何一つ無理をしてないうちの子、悪くない。おかしくもない。


 問題なぞ見当たらん。

 なら、それでいーわ。


 んじゃ、今世の子のネットに向かってえ〜 とうっ!






 「おん?」


 ひょいと出たら、どこだ此処? 

 周りを見直し、はいはい理解。予定より離れた地点に出とるでないか。


 「なんと、まぁ… この俺が浮かれ猫のステップを踏んだか」


 くはーっと大笑い。

 機嫌が良いにも程があろうに。


 笑いながら駆け出そうとして、ストップ。 そうよな、どうせなら。 そう、どうせならあの子を模すが良かろうて。

 


 体をくねらせ、その場で大きく跳躍し。

 空中にゃん返りで更に身捻り、四つ足揃えて宙に降り立つ。


 シャララララララン!



 足下から勢いよく生まれた小さな星々を風が連れ行き、音を奏でて道と成す。目的地まで真っ直ぐに伸びゆく星の道には小洒落た色が欲しいところ。


 「ふむ、青で良かろう」


 定番色を選び、前足を上げて落とす。


 星の隙間に流し込む青に緩急を持たせてグラデーションを描かせる。真っ直ぐも味気ないと尻尾を打ちつけ、ゆるりと蛇行を持たせて良し。



 「それ、浮かれ猫がゆこうぞ」


 できたばかりの青き星道、星の架け橋。

 始まりである端の始末に大きく飛び上がり、しなやかな着地を決めて光と青に染まる星を散らして繕う。



 リン、シャリン… リン…


 淡く儚く響かず溶ける優雅な星鳴りも良き。子供靴とはまた違う、大人の出来栄えに満足。一歩踏み出し、浮かれ猫のステップを刻む。


 見よ、滲み出るこの大人の高級感を! 転がる星々の輝きを! あー、たーのしー。音楽ないけど俺が音楽そのものよー。



 お、水のゾーンまで来たか。


 ちょいと覗くと思った通り、映える映える。湖面に映る星のロマンティック街道に猫影もえーわあ〜〜。



 なんて遊んでたら到着した。

 ステップだとまた違う早さが生まれんなぁ。


 でも、ほんとにちょっと遠いだけ。そうそう、『ちょっと遠いだけ』。そう言って、あの子も駆け出すようになれば良い。


 


 猫体だろうと俺だから、スムーズに入場。

 とてたったと歩いて真ん中まで行くが静かなもので気配がない。


 普段なら気にせず、さっさと動くが今日はそうもできんから。猫手を上げて画面を起こし、マイクをぽちって一斉放送。


 「うおーい。今、帰ったぞー。ラドマリアおめが・三の輪珠はどこにおるぞー?」



 『はっ あああ〜〜いっ お帰りなさい、我らが主よ。いーま、行きまあーーっす』


 僅かな時間差で浮かれた声が返ってくる。上機嫌な声に画面上の階層図が上層階で点滅する。あそこを使用したかと納得し、降下時間を想定。


 「一階ロビーで待ってる、焦らず降りてきなさい」

 『はあーい』


 画面をオフって片付けて、ソファで寛ぐかと首を向けたら離れた壁際でとても小さな子がもじもじしてた。




 「この みずのちで うまれた ぜーた です  きゅーれーとーへ、いらせ られませ  われらが あるじ さま」

 「なんとまぁ、立派な挨拶をありがとう」


 まだ生まれて間もない幼い子が可愛くてやられる。そして、水の子だけあって足が速い。あ、と思った時には流れるよーに寄ってきてた。


 拙い。

 消滅すんぞ、お前。


 



 「えと あ きゃあ」


 水の子にぺっとりしがみつかれて、うわわわわ〜。


 消滅を危ぶんだ小さな子は弾ける事なく、生存中。着ぐるみが仕事した。そらそーだ、あの子が怖がらんよーにと作ったブツで弾け飛んだらおかしいわ。


 しかし、弾け飛ぶ事自体は気にしない。

 気にするものでもない、これがなくとも絶縁系があれば弾けない。そーゆー意味では理屈で終わらせ、試しもしなかった実証実験ができた事になる。ううむ、これはあの子達の加点として良いものか?


 「んひゃ きゃふ」


 まー、ちっちゃボディだとしがみ付きも滑りもいーねえ。たのしーねえ。

 

 しがみ付く水の子の、常とは違う始まりのコードを読む。確かに、この地で生まれた子。その上で個体を示す箇所は空白。空白の理由は消滅期を抜けてな ん? んん?? 浮かびぃ?


 「あるじさま?」

 「お前、成長してんな?」


 「…あれえ? おっきい」


 自分の手を不思議そうに見つめているが、さっきよりも輪郭がはっきりして質感が生まれ、幼い子特有の揺らぎを脱しつつあった。なんでだ?と思ったが、なんでだじゃねえよ。着ぐるみきてよーがなに着てよーが俺にべったりしてたら、そら消滅期も抜けるわ。



 ばしゃあああん!


 「お?」

 「きゃう!」


 入り口に波が打ちつけ、上から下へと滝流れ。向こうが見えない勢いで洗っていくので見に行く。



 ざばーーーん!


 「ほう」


 だばーーーん!


 「おう」


 だっぱーーーん!!


 「きゃあーーーう」

 「うんうん、楽しそうだなー」


 何度も何度も押し寄せる波と洗われる入り口。ふっつーうの入り口だったら既に浸水被害が出てる。水辺とそんなに距離もない。それでも、これだけの水量を打ち嚙ましてくる質量。


 うむ、流石は第一期。モノが違う。



 「きゃーあ!」


 水の子が大喜びで手を振れば、波間から顔が覗く。

 その目も俺への喜びと子が成長した喜びで輝く。個体を確立しても本体はお前だもんなー。


 「お?」

 「ふわああ!」


 見つめる先には、星の道。


 身を翻し、ずざざざざーーーーーーっからの〜〜   だっぱあああああん!!



 「おーーーー」

 「きゃーーーーーあ!」


 見事なジャンプに歓声。

 盛大に上がった飛沫に虹が出た。そして大量の水を浴び、キラリキラキラ流れ落ちるよーな星影。この風情も良き。


 だが、また大量の水に襲われ洗われる入り口。



 それにしても、あの顔。

 飛び越えた後の自慢げな顔!


 まさか、あれが遊び飛びをするとは。水上にも玩具が要ったか! あ、待てよ? なら、期間限定だと拗ねる? 最後は星屑キーラキラー、水の中に消えましたーで終わらそうと思ってたのに。


 「お待たせしましたあ〜〜 見て見て、我らが主! この  わあーお、我らが主が可愛い姿に! えええ、ほんと可愛いどーされたのです!?」

 

 振り向いたら、宿木を片手に興奮してた。

 またそんなものをチョイスして、とも思うが右に左に振るのは止めなさい。宿してんならやめたげなさい。




 

 「はい、案内ありがとう。またね」

 「ご用事 できたら 呼んで ください な」


 うんうん、受け答えもしっかりしてきて微笑ましい。



 「ではではでは!」


 雰囲気を全部ぶち壊す元気さよ。


 「見て下さい、全部回収しましたあ!」

 

 高々と掲げる宿木に宿った五つの玉がゆーれーるー。


 「頂いたご指示も最適でしたが」

 「あれだけ選別されてたら楽勝の一手!」

 「こんなに簡単なお仕事は幼少期のお使い以来です!」

 「でも、この選別どうやったのです?」


 喋る度に揺らすなとゆーに、この子は。しかし、最後の質問が微妙。


 「選別なぁ…」

 「?」


 「あの子、笑わなかったなー。低年齢層に下ネタ()はテッパンだと思ったのによー」

 「? 我らが主は失敗したのです?」


 「ん〜 笑わなかったから失敗っちゃー失敗だぁな」

 「……我らが主が失敗など! 他に気を取られたか、心が萎縮したか。屈託なく笑える状況下であれば、きっとあの子も笑うはず! ええ、ええ、必ずあの子も笑うはずうー!!」


 「それ以上、振らなくていーから。ね? 中の子が不安になるからやめんさい」

 「え、あ、はーい」


 「マーカーがあったにせよ、突発の手配は大変だったろう? 良くやった」

 「んふっふー、はっあーい」


 「んじゃ、次。あれ出して、あれ」

 「はい?」


 首を傾げるので「頼んだろ?」。真顔で不明な顔するから「あれだ、密閉容器だ」「あ!」で返事をしたが どうした、こいつ?


 「忘れた?」

 「いえ、別室に置いてます!」


 「本当か?」

 「本当です!」


 「ん? お前、さっきより… あがってないか? 途中、拾い食いでも「今直ぐ取ってきまーす」


 素早く部屋を出て行った。宿木を置いていけ。




 「うむ、宜しい」


 へへーっと献上するに頷き、開けさせた密閉容器を確認した。

 着ぐるみの中から幾重にも覆ってデカくなった結晶体を取り出す。大事な検体を宙に浮かべ、一つずつ確認。

 

 「涙だろ〜 鼻水だろ〜 そんで涎と髪の毛と着ぐるみの毛と〜」


 順番に容器内の仕分けネットにポイして縦置き保管。

 蓋を閉め、鍵を掛け、スイッチを入れて一安心。これで心置きなく仕事ができる。

 

 「そんじゃ、職質すっかあー」

 「はあーい」


 宿木を気分で振っちゃうこいつは外に出そうと決めた。




 「えーん、大人しく見ていますのでー」

 「出なさい」


 「我らが主の職質風景見たいですー」

 「仕事熱心なのは褒めてやるが、お前のうきうき気分が伝わって雰囲気おかしくなるから出なさい。ほれ、ここの子達に配ってやんなさい」


 「え、あ、美味しそ」

 「お前、仕事以外の交流あんまりしてないだろ? 自分を深めといで」


 「え」

 「自分と相互理解を深めといでー」


 慰安用の菓子袋をぽぽいと出して持たせてポイしてやった。 …配り終えたら、それで終わりな子に育ってませんよーに。




 「さて」


 テーブルの上、横倒しにした宿木に猫手を伸ばす。

 宿りになった玉を一つ、ころん。


 そのままころころころんと転がって椅子の上へと転がり落ちる。衝撃で玉からブワッと飛び出た質量が、まだ失われていない記憶を形作る。


 

 『?』


 瞬き、意識を取り戻す様を黙って見てた。


 『灰色の… 子猫? え? どうして、私… さよならと手を振って… え、どうして椅子に座ってるの? 待って、その前に  ここはどこ?』


 混乱が収まるのを待つが、なかなか表情が豊かな子だ。


 『そうよ、ここはどこ!? そして、私は  私は死んで、死に直面して   でも、私 解放され た、はず で って、みんなは!?』


 記憶が繋がって何よりだ。

 勢い良く椅子から立ち上がり、周囲を見回すにやっと目が合い認識された。途端に警戒モードに入って距離を取ろうとするも椅子に当たる。


 椅子から離れらないのを理解できないまま構築展開を始めるが、当然できない。


 『どうして!? なんでできないの!?』


 そら、ここで暴れられたら迷惑だからだよ。プレイルーム以外で遊ばせる気ないのよ、俺は。


 『だから、なんで!? 死んでも、ちゃんとできたのに!』


 おお、頃合いじゃー。



 「その口は、死を語りしか。 汝、世界に離叛せしを 理とするや。 ならば、外れし者はモノである。 汝、モノでなくば その死を告げよ、解せよ。道を語れ。 今は汝に与えられし最後の時である。 なれど、還らずを望むならば 語らずとも良し」


 『りはん… りはん、りはん、離叛!  世界への、裏切り!!』


 絶叫混じりの声を上げ、力が抜けて座り込み、呆然とした後に 震える声で『かみさま』と呟いた。

 

 おう、家主たる我が一番ぞ。




 ほいほい、終わり。もういいよ。

 偉かったねー、怖かったねー。ほーんとよく頑張った。全員の調書が終わるまで休んどいで〜。


 要領を得たり得なかったりの半泣きモードで語ったのは強化合宿。聞きたかったのは育成モードではないが過酷に泣く声を聞いた。


 『最初に姿を変えられて』


 そこんとこを詳しく聞きたかったが重点が違う所為で流される。又は無意識でも流したいのか。


 話は聞けば聞くほど暗澹たる状況。少数サバイバル間近の異端分子扱いだ? なんぞ、それ。挙句、過酷なレベル上げの最中が一番平穏で無になれたと聞くと気分落ち。想定してても、がっくりくるな。


 ことりと寝た子が戻った玉を反対側にころり。


 「初手での容姿変更(金魚チェンジ)は個別モードと」


 一番欲しい情報がこれだけ。

 ちょっぴり悲しい。



 次の玉をこんころりん。

 ブワッと出た子は物理職、前衛の剣士でプロフィールには性格一途とある。


 『…神様?』


 へ?


 『神様!』


 おおっ!?


 『神様、あの魔境から生還しました!』

 「おおおおお!」


 『褒めて下さい! あんな誘惑に引っ掛かるよーな薄っぺらい信心なんか持ち合わせていませえええーー!!』

 「めっちゃ褒めるわ! よくやったあー!」


 俺の面目躍如じゃあー!


 『死んでも頑張りました! 仲間と袂を分つとも、何としてでも還るんだと!』

 「偉い子じゃあー!」


 なんとゆー模範生!

 聞かずとも、連れ去り直後はこーなったらその後どーなってと経過状況を語ってくれた。それを聞きたかったでなあ!



 本人談では混ざりはない。

 複数人と同じ経験を話しあったと言うから手法は同じ。


 それでも、この子らは別枠で還すべきだ。後が怖い。潰して終わるの俺が無能の様で好きじゃない。その為にも自己認識が欲しいが…


 今後の方針と指示書の文面を思案しながら、金魚化した後の話を聞いてたら。 たらららら。 運動指導が厳しくて辛かった? 泣いてる子が出た? あの子が手を添え休ませて〜 実質、堂々と休めてたのが羨ましかった? その後、その子にだけ指導が甘くなった? 気がするとな?


 …スポーツ矯正も難しいでなあ。


 淡く苦笑する。

 あの子が物扱いをしてない事は救いだが、それが良くも悪くも手形に力と返っている。


 あれは消さないと。



 『そのお姿は ご配慮、ですよね。 …嬉しいです、神様が自分のようなカケラにも  やさし  あの、あの、触ってもいいですか?』


 …まーねえ〜〜、怖くない仕様だからねえ〜〜。はっはっは、優しさの配慮の姿かあ〜〜 うん、そーなんだけどねー。


 普通なら不敬過ぎて絶対に言われそーにない言葉にキラッキラした眼差し。頑張った子にご褒美はやるとも。そうでなくともお前には特別の優待マークをやるでなあ〜。


 「両手を揃えて出しなさい」

 『はい!』


 ぴょいと乗ってやった。


 『わあ!』


 これまた良い顔。そろそろ〜っと持ち上げ、顔へと寄せる。うんうん、よかろうと猫手でナデナデしてやった。 …にくきゅーで満足しておくれ。




 久々にんまり。

 ここ暫く出なかった良い子にうきうき気分で、次の玉をこんころりーん。


 出てきた子のプロフィールに目を通す。ほうほう、この子は後衛職。 …うん? この子、生い立ちが厳しいか?





 ぽかっと意識が戻った。

 椅子に座ってた。


 ぼーっと目の前の机を見てたら見覚えがある。何処かで見た、何処で見たと思い起こせば学舎の机。そうだ、進路指導室の机。


 嫌な記憶。

 なんでこんな所に?と顔を上げる。


 小さな灰色。

 目が合って原型がわかると恐怖した。


 俺を噛み殺したヤツだ!

 同じ灰色の毛玉でも、あのぽやっぽやな感じがない! 違う! 


 『散ってえー!』


 耳に残る、切迫の声。

 今は次の舞台(第二ステージ)か!と逃げ出そうとするも体が動かない、何故!?


 とりあえず、ガタガタしてみる足掻いてみる。逃げないと! しかし、どうにもならない。立ち上がれない。


 ならばと片っ端から術式を構築し展開するが全部崩れて形にならない。余りの事に疑問より人生を全否定された気がした。


 「世界は此処に、お前は何処に」


 全身に走る、痛み。

 何かに締め上げられるのに、体は動かず座ったまま。


 落ち着いた声が俺を道化と指摘する。

 何もできず、殺されるだけの、何の役にも立たない 何一つ、変わらないお前はと 重ねる声に   何が何でもここから逃げる!!


 「お前は此処から、何処へ行くと?」


 繰り返す元凶。

 灰色を睨めば勝手に体が震え出す。


 震える自分が信じられない。俺を震えさせるアレはなんだ?と思った途端、体がもっと震え出す。震えが止まらない。


 「我に殺されると? では、死していないと」


 感慨深げな。

 その真意に閃くものがあるのに、今度は上から押し潰される感じがして震えてる場合じゃないのに震え続ける。



 「ふむ、死を超越したなら不死者よな? ならば、震える必要もなかろうに」

 

 不死者、意味がわからず。

 ある種の甘美な、筈の言葉は 奇妙なまでに心に響かない。


 「ああ、痛みか」


 痛み、不死者の? みたいなもの の、痛み?


 「不死者の定義を説こうかよ?」


 怖い。

 歌う風情の柔らかさで変化する気配が怖い。


 何が悪かったのか、何を間違えたのか。わからない。どうして、こんな気配で言われるのか。言われないといけないのか。


 でも、これが過去の何かと同じだと 気が付いてる。



 「…りや」


 席を立ちたい。

 でも、立てない。立ってはいけない。じっと待つしかない、だけの。


 思い出したくもない記憶は。

 ずっと前、ここではない でも、ここと同じ場所で。 


 『だから、お前は駄目なんだよ』


 比べられ、呆れられ、笑われた。

 誰かとの比較で始まるナニかは何時だって 他人の 声が始める。






 んや?

 どしたい、この子。


 いきなり何をいじけとる。

 ん? 拗ねたか? それとも萎縮か?  ん〜〜?


 ちょっとその辺、言ってみんさいって言っただけぞ? それでどーしてこーなるよ? おま、どっち向いてんだ? これ。


 黙して語らずっつーより口を尖らせブーな感じ。しかし、時間の都合もあるから待ってられんのよ。


 しょーがないんで心中字幕ポチったら、右から左へだーーーーっと宙を走り流れる大量のアメーバ物体。字幕の声すら丸まって固まってぐにゃってえ〜 自分ガードに一生懸命な子は大変なー。


 まぁ、それは置いといても。

 俺を俺と認識しないのは、どーゆーこったい? え? 俺が優しいからってもだよ? いや、この着ぐるみの所為であってもだ。あっちの子は、 あ〜〜〜  はいはい、子供の情緒に事実をゆーたら伸びんのだった。

 

 あ、そーか。

 この子らの目は騙され易いから、そっちが原因か。そーゆー時はわかるよーにしたげるのが優しい優しいおーとーなー。


 なんか嘘っぱちな気分でも、まぁえーわ。わかるよーにしてやんぞー。





 詰まるところ、死を超えようが超えまいが他者の介在は変わらない訳だ。

 人と同じと安堵して 同じ事を否定して でも、最初に意図がないと感じられる言葉で言い回す無神経な言葉 はっ!?


 驚いた。

 慌てて見回すと、机の上の子猫はいなくなり。

 

 向かいの椅子に人がいた。


 人の姿は 見慣れた姿。

 同じ姿の。


 同じ。


 鏡合わせの 自分が そこに。



 唐突に理解した。

 理解した、理解した、理解したあ!!


 どう見えようと、ここは神の間。神の審問! あの猫は仮初の、それが鏡合わせに変わったと。



 『しまった!』


 後悔するも、もう遅い。

 必死で説話の鏡合わせを思い出す。


 「その身、何処へと」


 思い出すより先に、向かいの自分が語り始め。

 違いを思い知る。


 同じ声、同じ顔、同じ仕草。

 同じでありながら、滲み出る存在感の違い。


 力強く、悠然と、何者をも気にしない。

 自分であって自分ではない自分の姿、理想の自分 を そこに見た。


 渇望しても、自分は自分だからと生きてきて  現実と折り合って 生きてきて 「どうした」 言葉一つ。一つでわかる。


 過去に自分で願った理想と憧憬が 今の心を 折りにくる。



 鏡に、喰われる。





 ……気難しい(繊細な)子だな? 泣き出したぞ。字幕は消したし、また点ける気ないし。んん? ああ、そーゆー。基本でぐるぐるしてたんか。そかそか、よしよしよしよし。ほーれ、世界は此処ぞ〜。


 あやしながら、どうしたこうした聞き出した。

 泣いてる方がよく喋る子だ。


 しかし、苛烈な同族喰いなんて設定しとらんのだが。


 

 さぁて、この子は。

 この子は。


 別にポイント制とかないんだけど〜 なんや優待やる気にならんのよなー。しかし、頑張ったは同じなんよなー。いや、これだけ不満を抱えて向こうに留まらなかったこの子こそ非常に頑張った良い子なんだがあ〜 あ〜 ん〜。  


 まぁ、ちょっとこっちに 二人と一緒におりんさい。




 調書をあげたら指示書の内容を走り書きしとく。消去についても、ちょっと試してみるかと書き連ねた所で小さな音。


 状態キープで猫耳澄ませば転がした隣から。これは目を遣らぬが良しと、これまた状態キープ  より、文書を眺め じゃない、モニターを出せ!繋げろ!設置点はあそこかあ!!


 

 『おはよ?』

 『はよー?』


 眠りの浅い二玉が揺れ動き、一玉が寝ぼけ起き。二玉の存在に完全に目覚めた一玉、二玉を起こす。そして、一緒に三玉を起こそうとしてた。


 『おっきよー』

 『おっこそー』


 ひでえな、寝させてやれよ。


 『起きてるでしょー』

 『知ってるぞー』


 おや?


 『なーに拗ねてんの? 返事しなさいよぅ』

 『一人かと思ったけど二人いたし、神様にも会えた。さいこー!』


 三玉、無回答。

 個人面談中のシャットアウトは完璧だ。


 『あ、わかった。どうせあんたの事だから昔を思い出して閉じこもってんでしょー』

 『そっち? てっきり神様に恥ずかしい失敗でもしたのかと思ってた』


 おお、読まれてる読まれてるうー。うんうん、仲が良い。


 『ありそう』

 『なー』


 先になったが良かったか、実力行使に出た。ううーんと頑張り玉から人へと姿を変える。安定性を捨てても慣れた姿が良いらしい。


 しかしまぁ、ちっちゃい。ちみっちゃドール。


 一人ができたら、もう一人も。

 こーゆーところでも模範生は強い。優秀だ。


 ちっちゃな二人が話し掛けては転がして、『三人でって言ったんだから』『そうよ、後の二人はわからないけど… 顔を見せなさーい』語り続ける。 



 …そろそろ危ない、戻りなさい。ほら、ふらふらしてるから。ほら、三玉はそれなりに力があるから二人の手には〜  あ、団子で落ちた。


 落ちたあ!




 ヒョッと一足飛び。

 机の端を掴んで下を見る。


 二人が玉を抱えて浮かそうと。

 浮かばないままに落ちていき。


 『ぜええっ!』


 全力を回す根性が抵抗に 風を切り、浮力を呼び 姿を変え、 『い、やあああああ!』相手を支え、浮かばせ 姿を得て、  けれども重さに勝てずにぃ〜〜 


 『あ、あああああ!!』




 …なんとゆー寸劇か。

 浮かび、浮かばせ、手を引いて 浮揚の星(フェアリーズ)が生まれたぞ。




フェアリー、てんせー。



本日の遊び。

きゅーれーとーがある湖を縄張りとする第一期、どんな子でしょう?


一、魚

二、蛙

三、水蜘蛛

四、人魚


尚、本体と子は形状が違う場合あり。

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