230 望んだでしょ
「え、ダメですか?」
曳かれる黒斑子豚が一筋の光明を求める風情で入ってきた高ランクモブさんに、『きゃっほー、俺の身代わり代行バトルよろしくでーす』とぶっ込みました所、牽引で首が絞まった豚顔になったですよ。
しかし、全力で帰りを拒否する柴犬顔でもありません。
ので、もう一度お願いします。
何故か売られるよりも酷い屠殺場を目の当たりにした豚さん顔になりました。はて?
「あのさ、それをすると彼の人生半分詰むよ」
「いやぁね、既に詰んでいてよ」
二人にツムツム言われて豚顔が更に酷くなるのです。
「それもそうか、食い詰めなど大した心配事でもなかったですね」
「そうよ、そんな遠い未来など 淡い夢よね」
豚顔が更に更に酷くなりました。豚さん、お姉さまの流し目に慄いてます。どうやら、黄金の善き魔女様が降りられた模様です。しかしですな?
「すいませえー、理解が追い付きませえー」
あいたたたた。
win-winだと思ってたのが、そうではなかったです。
ですが指摘されたら、そうでした。高ランクモブさん、キルメル様御一行で来てました。向こうに雇われてたですよ。
「現時点で契約が切れている筈もなし」
「ええ、護衛として働いた者に礼を問うはおかしいと突っぱねられているのだし」
向こうのおねーちゃん、ちゃーんと雇い主としてモブさん達を庇われたよーです。そんな中で俺の依頼を引き受けちゃったら〜 バトル会場でおねーちゃんの目が吊り上がるのは必至でしょう。
可哀想な豚さん、屠殺場の黒い染みを見ちゃってごきゅっとしてる感じです。多分、頭の中のおねーちゃんに『こ、の 裏切り者がああっ!』って怒鳴られてる。
職務放棄によるクエストの失敗って〜 やっぱ、評判ガタ落ちランク落ち だけで、済むんですかね?
「でも、自分の命は大事ですもの」
「しかし、契約不履行の賠償か」
リリーさんの優しい声。
そこに、現実を被せるハージェストの声。
「栄耀栄華を求めるにしても、そうでなくても 生きていなくては、ねぇ」
「一領主を敵に回して、どこまで安穏な生活を送るつもりでいるのか」
黄金の善き魔女様と蒼い目の悪魔がコンビを組んで、顔色悪い子豚さんを苛め 元い、追い詰めてます。子豚さん、お目目がふらふらしてません?
「でも、当初から目的物の破壊・損壊を目指していたのでしょう? それなら離脱も視野に入れるもの。 …その辺り、よね?」
「講じる余裕と手段がなかったか、策はあれど現状に即応できない策であったか」
「ねぇ、あなた。何と言ってあちらに雇って頂いて?」
仲良しコンビ、ぐいぐい詰めていきます。
豚さん、動けませんが逃げ道探して流離いたそう。そんで、ぷぎーと泣きたそう。でも、雇用条件を言われません。
断固拒否な感じではないのですが〜 何をお迷いなのでしょう?
「生き延びるが目的と」
「であれば、お前が今まで積み上げてきた人生が失われても 別に惜しくはなかろ?」
二人のツムツムに耐えた豚さん、凄いです。ですが、それならそれでと、めっさ強烈な事を悪魔が言いました。
豚さん、笑顔の屠殺人にビビってま! 屠殺人、二人に迫られビビってま!! 俺も裏街道まっしぐらと聞いてビビってま!!
なななな、涙目の豚さんを救うのは誰ですか!? 誰か助けに来てくださいよ!
っても、俺しかいませんが!
まじで、この豚さんをどうしたら? どう助けたら!?
あああ、誰か… 誰か、純粋に巻き込まれただけのモブさんを助けてやってえーーー!! 巻き込まれのモブの起死回生の何たらネタってあるでしょーーーーー!?
それ、出してよーーーー!!
「お越しでございます」
なんと、出てこられたですよ!! 言ってみるもんですね!
「どうだ、話は進んでいるか」
豚さん、入ってこられた魔王様の一瞥に硬直しました。そんで、「うぁ…」と望みが絶たれた呻き声。がっくり諦めモードに入ります。
なんで? それ、早くない?
はい、俺の隣にお座りです。
魔女様が魔王様に経緯を説明され、悪魔が補足を始めたので『へい、メイドさーん』と部屋の隅に居るヘレンさんにお手振り。その間にと、お茶とお水のコールを致します。
「うん?」
魔王様の足元で、ぺたんとしたのはアーティスです。足元から俺を見上げ、えへえへな顔してゆる〜く尻尾を振りました。当然、魔王様の視線がアーティスに向き… 戻そうとして二度見です。
ええ、思わず!と言った感じのガン見です。
不揃いどころかってな毛並みを無言で見つめられ、視線をこちらに寄越されるので〜〜 えへー、よくわかんなーってな顔して笑っといた。
「後で切り揃えてやらないと」
悪魔のナチュラルな助言により問題の追求が流れていきました。一度、アーティスの頭を撫でられて終わりです。いえーい、流石あくまあ〜。
そこへ静々とお茶を持ってのご登場。
大変早い。
しかし、これで振り戻しもなし。
先程、魔女様には不要と断られたお茶ですが魔王様とご一緒なら〜 頂かれなくてもお出ししますから。ええ、出させて頂きますんで。そんで、お水は豚さんに。
しまった、豚さん飲めません!
ヘレンさんが飲ませてくれて事なきを得ました。
最後に口元を布巾で拭ってくれて完璧です! いやー、メイドさんにゴックンさせて貰うなんて役得でしょう! ええ、ええ、対話前のご褒美だと思えば軽いものです。
だから、その体勢で頑張れ。リードも気にしない。 …だいじょーぶ、レモンだかライムだかが入ったお洒落なお水は末期の水ではありません。
ちょっと酸っぱいさんで息を吹き返した豚さん、魔王様の質問に答えて「ぷぎー、ぷぎゅー」とお鳴きです。 …嫌ですねぇ、そう鳴かれますと黒幕の殺人犯がバレるじゃないですか。
哀れな豚さんを救えるのが俺なら、殺人犯も俺とゆーマッチでポンプな事実に気付いてま。俺が欲張ったばっかりに豚さんが屠殺場に引き摺り出されているのに気付いてま。
いやでも、本気で問題ないと思ってましたし。俺にバトルなんて無理ですしぃ〜。
でも、こーなると可哀想。
野に放ってやるのが人として行う最善の〜〜 あー、バトル〜〜 あー、どこで口を挟も〜〜。
「生きたいか」
力が欲しいか以前のコールに目が点です。
既に道は確定、まっしぐら。
そんな地獄の片道コールに豚さん真っ青、俺も真っ青!
上限を超えての虐待モードに俺の心がビビります! だって、このまま行くと呵責良心イタイイタイの黒歴史の開幕でしょう!? 閉幕しても偶に思い出したり、似た状況下で転がる心境しんどいでしょー!
おおお、俺が豚さんを 豚さんをーーー!
「事の次第は… 元はと言えば!」
「家を荒らして何を言っとる」
魔王様、一刀両断ザクっとね。
はい、それはそれ。これはこれ。マイナス幅が大きようです。
俺のバトル問題より酷い。いや、代理が確保できないのは大問題なんだけど! どどどどど! どーすべー。
えー、駱駝様に黒斑をキレイキレイに消して貰って野に放す。これはもう正解じゃない。キレイにした後はセイルさん牧場に放牧しないと俺がやばい! その後はだ、『酷使しないで下さい』って書いたプレート付けて… そうだ、そこに俺のロゴマークも一緒に! あ、それは逆に拙いかも?
豚さんの怒りと涙と抵抗の「ぷぎぃいいい!」を魔王様は見下され…
「そうか、ならば誠意を見せて代わりに出るが良い」
わぁ、セイルさんが一挙両得を押してくれたよ♪
「己の実力が生死を分つのだから文句はなかろ」
わあ、その後の生死はぁ?
「あの、あの、セイルさん」
「ん? どうした」
おおお、俺が何とかしなくては!
翻訳機能付きの辞書は対岸にあって機能しない。自分でやらねば… 折角のセイルさんの志を無にしてふきょーを買っても自分の心の安寧を第一にーーーー!! あー。
「俺が欲張りましたです」
「ん?」
無償解除の予定を予定だからと勝手に変更した齟齬から荒らしとは別の追徴課税が発生するのは不当の心付けハンマーが引き起こす後々の恐怖にたった今気が付いたんで、ちょっとご遠慮申し上げたく〜〜 なんて事をうにゃってみた。
いやもう、俺のチキンハートを舐められると困ります。
「ほう、素晴らしい決意ぞ」
「はい」
「その勢いで現実に打ち克てるのだな」
「うにゃあああああ」
セイルさんにチキンハートを見透かされてるぅううう。ビビり鳴きするしかないんですけどぉおおお。
思わず救いを求めて辞書を見た。
自分メモに『やっぱりね』って記入してる顔してた。 …ああ、足があったかい。アーティスがスリってあったかい。『えへへ』な顔して俺の膝に頭を乗せてくるから、そのままぎゅうっと。
本当にチキンハートが落ち着く…
再び魔王様と目を合わすと『困ったもんだ』な顔してた。『だってー』な気分でへにゃ顔したら光が見えた。小さな光がふわっと飛んで、ひゅんっと豚さんの腕にヒットした。
ひえっ!
魔王様のオートモード!
しかし、豚さん気にしなかった。草刈り鎌は痛くない? あ、一つだから? あ、違う! タイムラグが生じてました。
豚さん、『なんだ?』な顔で上腕を見てるです。
魔王様、ゆるりと豚さんに視線を向けられ目を閉じられる。
二秒で目を開けられる。
「覚えがあるな、これは北か」
「まぁ、北ですの」
そこから魔女様が一つ二つと挙げられるのは〜 お家の名前?
「ええと、そこは確か」
当たりです。
辞書が唱える地名と一緒に頭に叩き込みますが、地図が浮かばないんで全然場所がわからない。忘れそう。
展開についていけない豚さん、ボケてます。
しかし、ピンとくるものあるんでしょう。上腕とこちらを見て見て繋げて三魔を繋げてどん引きしてます。あ、違う。
豚さん、刃物に怯える遁走豚に!?
残念、走るの無理でした。
後ろでリードを持ってるクライヴさんに行動制限食らって逆につんのめったです。そうです、後ろからどこぞを蹴りましてん。
何せ、ずっと膝立ちですから。蹴る的の位置もいーんでしょう。でも、リードを転倒防止にするのはどうかと…
「よかろう、正脈を語るを許す」
…ほんと自己申請、厳しいですね。これで勝手に申請してたら首だろか? 豚さん危機一髪は回避できない仕様です。豚さん、飛べたら逃げ切れた? いいえ、どう考えても着地先で絶対キャッチされそう。そんで面白かったら、また飛ばされそう。
豚さん項垂れ、自己紹介を始めたです。
名前、お年に住所に所属。家族構成、実家の住所。そんで実家の〜 お世話先? うん?? あ、お世話になってる家ですか? えんこ そう、縁故。
どうやら、分家とかご親戚の話を〜 されてるんだと。
そんで豚さんのお家が分家の分家だと… 言ってると〜 思いますです。んで、主筋のお家があ〜〜 ほんと、よくそんなに語れますね? 少子化とか関係ない家系図ですね?
ですけど、これでわかりました。
正統とする血脈を語れ、で正解だと思います。ピンとこない単語は理解を頑張らないと困る。対岸に辞書がいると耳打ちもして貰えないから困る。そんで語れはどこまで『語る』が常識で、どこに裏があるのが常識と?
こーゆーのが教養問題で困るう〜〜〜。
「やはりか」
「お兄様は、ご存知で」
豚さんは北の人。田舎の田舎な出らしく出稼ぎ労働者のようです。それも季節要員ではなく年がら年中の通年だそうで… それなら独り立ちじゃないかと思うんですが、ずっと仕送りしてるらしいので… 大変でいらっしゃいますな。
「では」
待って下さい、何が「では」? クライヴさん、話のどこで「では」が出たのかわかりませんが? もう、教養が厳しいです。
くるるとリードを纏められ、一歩ま まーえーにーいーくーのーにぃ〜 幅を広げろと豚さんの足を蹴ったですよ。
豚さんの足と足の間に纏めたリードを置くと同時に足で踏む。そんで片足は豚さんの足を跨ぐ。豚さん、リードの長さに従い強制的に天井を見上げる事に。
「アーティス」
悪魔の呼び声に振り向く黒犬。指の動きで即、行動。足音立てずに二人の元へ向かいます。お手伝いみたい。
クライヴさん、上を向いた豚さんの顎を更に片手でがっちりキープ。それから屈んで〜〜 豚さんのスボンに手を入れた。
『いやん、えっちぃ♡』
な、胸のラインまでシャツを引っ張り上げました。丸見えな豚腹が引き締まっててうらやまですが〜〜 黒子が多いボディです。
普通に黒子に見えるんで呪われ系には見えません。やっちゃの人と比べると〜〜 比べたら、やっちゃの人に呪われそう。
「咥えろ」
クライヴさん、引き上げたシャツを口にぶっ込んだです。
鬼ですかね? 普通ですかね?
合理と非道が混じる人間模様を犬は気にせず、豚さんの脇腹に鼻をツン。
豚さん、ビクッ。
同時に変な鼻息が聞こえましたが声は聞こえず姿勢は変えず。 …ご立派です。
寧ろ、クライヴさんの方がお手伝いアーティスに戸惑われた感。でも、大人しい良い子ですから! 気を取り直して仕事を進められますが豚さんの腹を撫でる意味はなんでしょう? アーティスも一緒に豚腹を鼻でふんすかやってます。うーん。
終わったようで、こちらを見られて頷かれる。
「よし」
「は」
クライヴさん、豚さんの耳元で囁かれます。
豚さんの胸が上下して、アンダーバストラインの真ん中位置で〜 うっすら、ぴかー。
そこで三魔が立ち上がり、見に行きますので俺も行きます。一緒に野次馬しまーす。
一番最後に見たですよ。
胸に浮かんだのは紋章でファンタジーなあれです。呪われ系じゃなくて契約系でしたが。
一重の家紋を取り巻くのは定型的な模様と飾り文字だとか。あーもー、こーゆーので勉強が増えるう〜〜。それが胸にあるのは喪失問題、大変シビアなお話です。でも、奨学金みたいな感じの制度で貸付して貰ってるそうだから仕方のないシビアさなんでしょう。
しかし、これを見るとあれですね。
やり方そのものが違うんでしょがあ〜 綺麗にやったら、俺の手のもこんな風になったんかな〜?って思ってみたり。 …うん、俺よゆー。
「これも身分証」
「そう」
「貴族間での礼節の盾、とも言えるわ」
「絶対の盾ではないぞ」
「使い回しの効く盾だよ」
豚さんの無くさない便利アイテムは身元保証付きではないそうな。そんで貴族さんも身元保証人ではないそうな。
「これで向こうの信を得てとくれば」
それでもガード機能はあるし、ご新規さんへの顔も効く。
これはあれですね? 『ご利用は計画的に』を実践しないとローン残高と金利だけが増えるクレジットカードですね? 盗難の危険はないから補償もないけど、その他は全部自己保障だから危険なローンも組めるやつ。
どこにいても金の利便は罠なのかも〜〜。
着服させて貰った豚さん、沈黙してます。
全員が沈黙を選べば金にならんのでは? 雄弁の銀を選んでは??
そう思うものの膝立ちで疲れてらっしゃる。
そんな豚を無視して、三魔の方々が落とし所にそれぞれの意見を述べられますと豚の煮付けができそうです。
でも、俺今なら豚カツ食べたい。
カツ丼でもいい。
仕入れた豚は。
仕入れた豚はあ〜〜 あれえ? あの豚さん、俺の方が先じゃね?
「あの〜」
「どしたの?」
「キルメル様御一行で来たけど、あのぶ ちが、あの人は ええと、その 駱駝様が先に唾を付けた はず、でして?」
「は?」
「言うなれば、その… 駱駝様の試練を受けてる真っ最中 な、だけです ので?」
「……あら」
「それで… それは高難易度の、精神耐性、試練で、あるのだからして?」
「ほう」
「クリアするには大変な頑張りが、ですね?」
「うん」
内々の話にするには該当者の豚が邪魔。だが、豚は外せない。外した事がタレコミ事案になっては困る。
「さ、様々な手法を用いて試した結果のわたわたが もたらし、たあ〜 えー 結果の 結果が今であるの で! で、初めからぶ あの人はこっちのキープでいー んじゃな くて、あの… えっと キープ、でして? えへ?」
やばいやばい、言い方あ!
あるのなら、だと推測! キープ扱いでいーんじゃないか、だと疑問! 露呈する理解不足は不確定なごり押し! 初めからキープと言うにはセイルさんの許可がなく、俺のだと言うと時系列問題でセイルさんガードが消滅し、全責任が俺になる。
身分社会で交渉権を持つおねーちゃんと一人頑張れなんて怖過ぎる!!
「ノイは採用特例を語るか」
やった!
採用試験項目特殊事例っぽいのに引っ掛かった!!
「だから、俺の代わりにバトルに出てもなんの問題もないと思います!!」
どうせならとバトル可まで持ち込んでみた。
「お前、志願したか?」
悪魔のクールドライなお声で主導権も移行した。
「そうね、志願でないなら単に挑戦してみたと。 数多ある家の中から我が家の試練を望むとは、なんと善きこと」
綺麗なお声で魔女様が喜ばれ、笑顔でお茶を手に伸ばされる。気持ち良く飲んで頂けるようで嬉しいです。
対する豚さん、沈黙の業に入られた。
目が口ほどに物を言ってる。
「聞こえているな。 お前は我が家の長期試験に志願したか否か、どちらぞ?」
魔王様にご意向を問われた豚さん、口を小さくぱくつかれ酸欠金魚に似ています。
『納得いかねえ』
『承服できねえ』
そんな言葉の泡、見えるうー。
まぁ、あった事があったままになかった事になる提案ですのでお気持ちはわからんでもないのですが、それこそ豚さんのお気持ち一つですし?
いやあの、そんな上目遣いを大人の豚さんから頂いても…
あのですね?
飛べない豚は ただの豚。
飛び損ねた豚も ただの豚。
現状、地を這うただの豚が あ、すいません。ごめんなさい。高ランクのモブさんに大変失礼な物言いでした! でも、そのお怒りモードがあったらいけないんですって!!
にこやかに、なごやかに、採用試験合格のお知らせに頷いて欲しいのです。
『誰がにこやかに頷くよ?』
豚目が泡言葉に色を添えるう〜〜 あ、やべ。 誰も合格なんて言ってない。でも、屈辱に震える豚さんに雪辱戦はありません。これを飲んでくれないと俺はカツ丼が食べれないです。
豚さん、酸素を獲得中。
今こそ、お水が必要です! 再度ゴックンのご希望にお応えしましょう!
「あ」
定位置待機のヘレンさんにコールを打とうとして気が付いた。ご来臨です。
勘付いた豚さん、素早く視線を向けて硬直。
ビックサイズにお戻りの駱駝様、足を踏み出されます。
ビビる豚さん、クライヴさん。逃げるアーティス。
アーティス、慌てて戻ってクライヴさんにボディタッチ。素早く絡み合う目と目。退避勧告と同時に戻るアーティス。クライヴさん、リードを伸ばして豚を置き去り、距離のカバーに両手で握る。
緊張感高まる室内で、揺れたプリンセスカーテン。
シロさん、顔出しご登場。
駱駝様を追い掛けるご機嫌ジャンプで、今度は魔王様が固まった。
宙を踏む駱駝様は見方を変えると命を踏まぬ麒麟のよう、シロさんは床をたったかたー。脇目も振らず俺の膝に一直線。
「ハージェストじゃないの?」
皆さん無視して愛想も振らず、膝上占拠のスフィンクス。
しっかり観戦モードで座って猫手たしたし、膝を叩く。手を伸ばして背中を撫でると『違うの』な目で見上げて、猫手ぱしぱし。手を離しても、猫手とすとす。
希望がよくわからないので両手をシロさんの前に出す。
ふにゅっと猫手タッチ。
かわいーんで猫手にぎにぎ。
落ち着いたんで、これでオッケーらしい。
駱駝様、豚さんと接触間近で停止され。
そこで佇み、動かない。
豚さん、ガクブル。顔も上げない、動けない。しかし、だんだん息が荒くなる。 …顎から水滴、ぽたんと落ちた。
「お、俺が志願しました」
【わたしがやりました。】
とうとう白状したですよ。
違いますけど。
ええ、自白強要感があるのは豚の姿勢が良くないからで。そんで入ったのは自白申 違う、釣られた。身売りが如き自己申請です。
なので低価買い取り致します!
「恐れ入ります、駱駝様。こちらの巻き添えさんのお助けを、どうぞお願い致します〜」
へへーっとした。
駱駝様、豚さんをご覧になられる。長い睫毛が縁取る黒目に特段の感情は見えません。悠然とした佇まいからの〜〜 「お待ち下さい!」 へあ?
悪魔が中断を叫んだです。
「納得できませぬわ」
「事実にあなたの納得は不要かと」
はい、悪魔の説明に不快感全開のおねーちゃんです。
さっき綺麗にしたら、豚に対する脅迫恐喝酷い遣らせを疑われるところでした。危なかったです。
それで実演に際して場所がいるので、ダンスホールらしきお部屋に集合しました。途中、魔王様がシロさんに触れたがっておられましたがシロさんが嫌がられ… ちょっとだけ、頭だけ、と伸びたお指に口を開けて威嚇した。
魔女様に「お兄様… 急かずとも」と慰められてた。
シロさん、どうした事かハージェストの抱っこも嫌がって触れる事を許さない。そんで離れない。なので俺が抱いてきました。駱駝様は魔女様が気に入られたのか、再び小さくなって腕の中に収まられての移動です。 …低反発モードみたいなのが、なんとも〜。
金魚は二匹が付いてきたがり、無理と言えばヘレンさんの髪に隠れていーでしょーって。専属契約になると応用が効くよーで驚きです。そんで髪に霊力が宿るとゆーのは、こーゆー事かと慄いた。ロングヘアーが推奨される訳ですよ。
「こちらの意を悉く潰そうとは!」
「意も何も まず、そちらが子供の躾を間違えたのが原因にて。見苦しい」
「…子供であろうと領を代する事を理解している。その行いを見苦しいと言われる御身こそ、見苦しい! 実に狭量でいらっしゃる」
「そう言って他領の財を掠め取る。見事な厚誼で恐れ入る」
薄笑いする悪魔、憤然と凛然を維持するおねーちゃん。
攻防の息が合ってて、ある意味お似合いな二人です。並んでても悪くない。しかし、軽くご挨拶した周囲の人の目が怖い俺は壁を見てる。すんごーい壁飾りに栄華と歴史を感じてる。
「繰り返すが我が家においても非礼はない。故にやらぬし、渡しはしない。また、我が家を拝するが故の行いである事を証明する」
アーティスは魔王様にべったり安全圏。
おねーちゃんの眦は吊り上がり、犬から豚を睨み付ける。豚は両手を付いて一心不乱に床を見つめる巡礼者。雑巾あったら、もっと良い。
「無駄な口論など、もう良いでしょう」
ぶった斬る魔女様、悠々と進み、悪魔と並んで目隠しスカーフ取らせます。駱駝様のご披露に皆々様がご注目。ドレスの裾を片手で優雅に捌いて、丁寧に駱駝様を床へとご案内。速やかに悪魔と一緒に俺の隣に避難されます。
駱駝様、二歩で元のサイズにお戻りです。
その場を動かなかったおねーちゃんも他の方もナチュラルに下がられた。真ん中に取り残される豚が生贄の豚っぽい。
駱駝様、お口をもごもごされ出した。
ベッ!
吐かれた唾が豚の頭に直撃です。
…いやいやいやいや、ビチャ!っても駱駝様は半透明ですから! あれはそう見えるだけであって物理ではなく …物理ではなく!!
んでも、衝撃は感じたみたいで豚がそろそろ顔を上げ、体を起こす。したらば、でろーんと垂れ出した。片顔汚してくあれ、どーしたら?
「あ」
黒くなる。
蛞蝓のよーに垂れてく唾が急速に黒くなる不思議。
あっという間に片顔、真っ黒。
重たげに見えるそれが顎で溜まって、どぅるんと床へ滑り落ちた。
「あ」
小さく呟き続ける豚は何でかあちこち白く見え… 豚が真っ白豚に転生して る? え、黒さが集結キレイです?
「あ」
床の黒さに腰を浮かせて慄く白豚。
近付く駱駝様。
穢れと言わんばかりのそれに片足を乗せられると… 溶けて消えたか吸い込まれたか、跡形もなくなった。凄いイリュージョンを見た。
「ありがとうございますー」
周囲を気にして小声でお礼を言ったらば腕が蹴られて、ちょっと痛。シロさん、ジャンプ後たったかたー。白豚、目掛けてたったかたー。
べちっ!
「ぶっ!」
見事な不意打ち、豚の顔に両手押しのにゃんぺっち!
衝撃的な目覚めに体勢崩した白豚、手を着いた。それを放置してシロさん、てってててーと戻ってこられる。可愛い顔で見上げる抱っこ要求に黙って応じておきました。
「ほう」
あっちの弁護士軍団も、こっちの弁護士軍団も顔色大変悪いです。あっちの女官さんがくらあっとすれば、こっちのオリヴィアちゃんもふらあっとされる。魔王様は趣き深いお顔をされてる。
「見よ」
魔王様のお手から、きらららら。
白豚がわかり易く光ります。それから光が収まってえ〜 え〜〜 頭と顔の あれ? あれれ?
あ・い・や〜 二つの猫手形が見えるう〜。梅か桜か猫手咲きぃ〜。
「試練を乗り越え、認められた。正しく我が家の試練であるが、決を下すは我らに非ず。始まったものに手は出せぬ。良き結果が出て何よりだ」
魔王様の笑みが深い。非常に深い。
しかし、我が家の合格スタンプを押すのがシロさんだったとは。 え、ちょっと待つ。 待つ待つ待つ。 もしや、俺はインクか印肉で? あのぺっち、金魚と同じ??
え、なにそれ怖い拙くない?
「我が家の試練に異論はないな。異論があれば 今、述べよ。 今を逃せば次はない、礼に反する後の誹りは相応で返す故に」
白豚、理解が追い付かない。だって、鏡がないですよ。でも、そっと触れるか触れないかな感じで頬に手をやってるので本能が活躍してるみたいです。その間、誰も何も言われません。駱駝様を凝視する方、続出です。
そういや麒麟ているのかな?
ふと、金魚が気になって振り返る。ヘレンさん、普通に立ってた。しかし、興奮気味な顔で妙に片目が爛々としてる よーな? だいじょぶだろか?
顔を戻すとあっちの人と目が合った。気付けば俺も見られてた。そうでした、シロさん抱いてる。
「それは試練と言われるものか? 大体、それは」
「命を賭した試練がないとでも? それ、などと無礼な事よ」
「い、意思の疎通が可能な時点で扱いは竜に準ずるものと!」
「そうです! 寡聞なる者の言い様です!」
悪魔が潰しに掛かりました。
うちの弁護士軍団も加わって、勢いで勝ち馬に乗れそうです!
「立て、お前の初舞台だ。 望み通り、この場にて正当なる裁きと等しい対戦を執り行う。 宜しいな」
一回きりの対戦バトルは白豚で確定。
豚にけじめつけさせる必要性が俺を上回ったのです! 流石、俺のあくまあ〜 煽りがじょうず〜。
勝てば豚は許しが得られて、ほくほくで。
俺は自分が出なくて、ほくほくで。
勝率も上がって、ほっくほく〜。
後の心配はアーティスとの連携。
ギリギリした目のおねーちゃんに煽りを入れます、やっちゃいます。駱駝様をバックに踏ん反り返った目で言います。
望んだでしょ?
生贄の豚。
驚きの白さで真っ白豚に、でもまだちょっと放心状態。
本日の国語問題。
作中、どこぞで誰かがおかしな事を言っています。何がおかしいのか説明されたし。尚、問題は一箇所です。