表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
229/239

229 ある、切望の声




 「誰かいるー?」


 ちょっと中を覗いて、呼んで待つ。 …あれ、居ないかな?


 「はーい、お待たせー」


 奥から出てきた姿に、よかったあ。


 「下げてきたの」

 「ああ、ありがとう」


 はい、と渡して仕事は終わり。

 そのまま行っても良いんだけど、ちらりと見てくる聞きたげな目。わかってるから伝えておきます。


 「すっごく美味しそうに食べてらしたよ」

 「ほんと!? 嬉しい〜〜」


 噛み締める声に満面の笑顔。

 ほんとほんとと相槌打って、「どれを一番、美味しそうに?」器を指して答えとく。うわあ〜な顔に、まったねー。


 「これから仕事?」

 「そうなの、一大事業の始まりなの!」


 「楽しそうなやつ?」

 「楽しそうなやつ!」


 「わあ、発表楽しみにしてるね」

 「うん、頑張ってくるー」


 手を振って別れる。

 小走りでルームへ戻りながら仕事の段取りを考える。でも、さっきの笑顔が浮かぶと気が散って 我らが主の笑顔が浮かぶ。



 食べっぷりに笑顔。

 プライスレスより、だーいーじー。


 担当が違うから食べ物は供せない。けど、僕達だって。僕達だって、あんな顔して貰うんだ。そうと決めたら、めちゃくちゃやる気が出た。うん、やるぞー!




 「たーだいまっ! しつちょー、みんなぁー! ビックプロジェ  あーーーーっ!!」


 勢い良くルームの中に入ったら、甘いお菓子の匂いがしてた。ものすごく、ものすごく美味しそうな我らが主の 主の! それ、主が作ったやーつー!


 「わああああ!」

 

 もう食べてるー!! お菓子、減ってるー!


 「まだある、まだある」

 「落ち着けよー」

 「一人、一個」

 「だねー」


 空いてる席を目掛けて駆け込み着席!


 待つ。

 待つ待つ、まーつうー!


 美味しそうなお菓子に目が離せない、とにかく欲しい! パッと取りたいのをグッと我慢して、貰えるのをまーつぅ〜〜!


 「はい、どうぞ」

 「わー、ありがとー!」


 一つ貰えた。

 これ、僕の分!

 

 僕のと決まったお菓子に顔が緩む。もう、これ僕の。僕のなの! あっちからもこっちからもお菓子の包みを見て見て見て嬉しくって嬉しくって、もう嬉しくってー さ、食べよう。


 あわーく光るお菓子の包み。

 上から指で摘んで、そうっとそうっと。

 ぽわっと包みが解れて広がって、あまあい香りがふわあーん。


 ふうーんとそれを胸いーっぱいに吸い込んで、しーあわせー。


 広がった包みごとお菓子を持つと、手がじわあ。じわじわじわじわあったかい、主のお菓子は夢のよう。恍惚気分、ほんと幸せ。


 はくっと口にすると、ふあっふあでとろーん。美味しさに口が蕩けちゃう。


 「幸運だったんだよ」

 「そうなの、帰ってきてたら遠くで小さい子達がわちゃわちゃしてるのが見えたんだ。何してるんだろーって話してたら気流に乗って幾つか舞い上がってきてね」


 「見つけて理解の大興奮!」

 「二人で取りに走ったよ〜」


 うんうん、理解。

 頷きながら、味わう。


 「それで三つも取れたんだ」

 「残りも追い掛けようかと思ったんだけど」


 「このまま上昇すれば、さんの元にも届くかと思って」

 「白銀化が続いてると聞くから」


 「…ああ、大変」

 「まだ暫くは、この状況が続くんだよね」

 「仕方ない、僕らの方も数が足りない」

 「ほんと、一位が戻ってくれて良かった」


 残りを取らなかったと聞くと、ちょっと惜しくなっちゃうね。けど、お菓子は長く取り置けないし。誰も手にしなかったお菓子の包みは自然に解けて、お家に同化してっちゃう。同化は補強や修繕で無駄にはならない。けど、残り香に泣ける。

 

 さんの元に届くと良いなあと願いながら、もぐもぐ。


 「そうそう室長、補充数の申請通った?」

 「返事がまだ」

 「あー」


 「そういや、光量調整できてるか?」

 「なんか怪しい」

 「拙いよねー。調整ミスると、この辺が極夜っぽくなる」


 「あれ、こっちの担当?」

 「共同管理設定がな」

 「不足は補え」


 「皆既だと騒ぎそう」

 「や、蝕じゃないし。違う騒ぎになるんじゃない?」


 「しつちょー」


 とりあえず食うを優先して、もぐもぐ噛み締めてるけど…


 「先行きの見通しがなぁ」


 室長の疲れた声、内容が内容になってくると美味しさが… 美味しさが…  ぜんっぜん、半減しないね!! 美味しいのは美味しいんだもんね! 


 滅多に食べられない我らが主のお菓子を食べてて美味しさが半減するなんて、ぜえったいに ないね!!!


 全てが平伏するパワー! この美味しさの前には揺らぐメンタルも多忙の未来も、全面クリアに決まってる!

 

 「むふー!」

 「ん? お茶いる?」


 「んんん!」


 出して貰ったのを、ごくごくごっくん。ほう。


 「そうそう室長、新しいビックプロジェクトの始動が決まったよ!」


 「は?」

 「え?」

 「なんの!」

 「どこで!?」

 「待て、何時からだあ!?」


 「たーだいまー、発注掛けてき  あーーー、お菓子ぃーーーーー!!」

 「え、  あーーー! お菓子あるーーーーー!!」


 次々と帰ってきた仲間のお菓子コールに、あぐあぐ。ごめん、自分の分は自分の分なので一人で食べます。食べ切ります。


 「今、戻り  あーーーー!」


 食べても食べても、まだ食べ切れない。変わらない、ふわっふわなお菓子が そろそろキツい。美味しいけどキツい。単純に入らない!


 「ないーーーー!」

 「そんな…」

 「食べたあーーーい!!」

 「えええええー」


 でも、あげたくない。

 残したくない。


 「はいはい、大丈夫。まだあるから」

 「泣かないの、ちゃんとあるって。あー、うるさー」

 「ほらほら、これ開けるよー」


 だって、これを食べたら。


 「やったー!」

 「ありがとう〜」

 「食べれるう〜」

 「わあーい」


 食べ切れたら、容量アップでレベルアップ! 我らが主の笑顔に一歩近付くんだからあーーー!



 「お?」

 「おおっ!?」


 「わああ!!」

 「!」

 「ひゅっ!」


 「セッ セイボリー(savory)が出たあーー!!」

 「嘘だろー!?」


 裏で『我らが主の涙』と呼ばれるレアスイーツの出現に、全員で驚愕。凝視。そろそろと手に取る隣の子とお菓子から目が離れない。「わわわわ、わあーーーー!」がぶっといった姿に、うらやましー!


 あー!あー!あー!あーー!!


 心の中で叫ぶけど、 よ、欲張っちゃダメだとも思う。

 グッと目を逸らし、手にした自分の残りを見つめる。美味しい美味しい、僕の分。でも、違うお菓子なら食べ切れそうな…


 味見。

 交換。

 同量。

 

 ナイスアイディーア!


 閃いた瞬間、お菓子の違いも閃いた。

 違うお菓子だと同量食べてもレベルアップにならないんじゃ… でも、交換したい… レアを食べれる絶好の機会…


 自分のお菓子を手にしたまま、横目でちらちら見てた。


 「ぷふう〜〜」


 満足そうな声に、ハッとして目を戻す。自分のお菓子を見つめ、あーんと口を開けてはまた閉じて。


 じーっとじーっとじーっと手の中のお菓子を見て、またちろっと隣を見たら。あっちもこっちをじっと見てた。


 お互いにお互いのお菓子を見てた。

 どうも同じ事を考えてる。


 「あー、お腹いっぱい。いただきましたあ〜〜」


 隣の隣は脇目も振らず、高速で食べ切った。隣り合う席は僕らだけ。斯くして僕達は我らが主のお菓子の試練()に陥って まだ、お互いのお菓子を見てる。


 「どうしたの? もう食べないの?」

 「終わったのなら、さっきの話の続きを」


 二人して決断できない大問題に立ち向かってるんだから静かにしてよ。


 「お前ら、もう食べ切れないんだろ?」

 「「 あーーーーー!! 」」


 二人で猛抗議した。





 「地下施設の改修工事?」

 「ううん、改装工事」


 「えーと、どこだって」


 地図の一点を指差す。


 「えっ、ここなの?」

 「ここ、完成したの何時です?」

 「待って、そこ改修どころかって話だよ!」


 「我らが主が手を入れるから土台は平気、だいじょーぶ」


 驚きに顔を見合わせる皆の前に書いてきたプランを、ぽぽーい!

 

 「室長、模型作りの前にプランの精査をお願いしまーす」

 「食べる前に出せ、食べてる間でも出せ!」


 怒られたけどスイーツの甘さと一緒に「えへっ」と笑って聞き流し、我らが主が必要とされる理由にぶるぶるした事実と希望工期を説明をした。


 室長のぶるぶるが怖い。




 「今回は完成済み躯体への着手です」

 「わかってる、筆はダメ」

 「うん、断然肉厚で」


 「地下だから臭気換気の問題はあるけど〜」

 「やっぱ、これでしょ」

 「でしょ、でしょ」


 「「「 よし、クレヨンに決定! 」」」


 大枠骨格、黒一本!


 握って掲げて「はーじめるよー」。向かい合わせで「そーれ」と大きく腕を回して、黒のラインを宙に描く。




 「片っ端から押してくねー!」

 「はーい、おねがーい」


 「って、待ってえー!」


 左右対称綺麗なラインを描いたら左右をがっちり合わせて、ぎゅうぎゅう押して押して圧掛けて立体模型にしていってー。


 「まーたない〜〜」

 「ええええ!」


 「ほら、はーやーくー」

 「図面あるんだから、泣き言言わないの」


 「待って待って早いぃい!」

 「押しの方が難しいんだって」


 「お前、まさかお絵描きレベルとか言わないよな」

 「平面お絵描きで終わっちゃう子は上がれないからなー」


 「いいい、今ちゃんと描けてますから!」


 「うんうん、できてはいるよねー」

 「一人でやらせた模型が耐圧試験で壊れそう」

 「うわあーん!」


 「ゲートラインは赤で統一、間違えないでねー」

 「はーい」

 「ういー」


 「お絵描きレベルの子達、集まってー」

 「床塗りだよー、筆持ってきてー」

 「はあーい」

 「平塗りのべたあ〜」

 「でっばーん!」


 

 模型作りは作業手順とほぼ同じ。

 後は現地で同様にできるか、できなければどう擦り合わせるか。

 

 「現地調査と内部使用に関して確認してくる、監督を頼む」

 「はーい」

 「任せて」


 「皆、全ての距離と上下の位置に留意して行いなさい」

 

 息の合った返事に笑顔で頷き、我らが主の元へと向かう。





 「まだ居られると良いが」


 跳躍したい気分で廊下を行き。

 他に質問すべき点がないか考えるが、先程聞いた施設の設置理由とその場所に思考が引っ張られる。


 『そうか、あそこが』


 そう思い起こす事は感傷めいて、どうかと思う。それでも、みゅーの元に行って確認したい気持ちが膨らむ。


 「ラドマリア(第三期)、えーた!」

 「は?」


 「だから、そこのラドマリア! 十一の輪から顕現し「はああっ!?」


 誰だ、その識別コードで呼ばわろうとする馬鹿は!? あいつだろ! 相反しない思考の先に居たのは、やはり顔を思い浮かべた同期だった。



 「ひっさしぶりぃ〜、元気だったあー!?」

 「ほんと、久しぶり」


 直ぐに遊ぼうとするんだから、もう。

 

 「どしたのー?」


 悪気ない笑顔で手を振る姿と弾む声に、仕方ないなあと笑って「今、行くって」足を早める。




 「滅多に外に出ないんだからー」

 「いや、そこまでは。現場には出てるし」


 個々の近況に話を弾ませるが、先程まで我らが主と仕事をしてたと言うから場所を聞いてよし。それから心配な現況を問うてみる。


 「さん達、白銀(冷酷)化が続いてると聞くけど」

 「うん、まだ続かせるよ」


 「あー」


 防衛ラインの在り方に口は挟めないから、菓子袋の事を伝えておく。


 「え、そんな  じゃない、私も食べたかった…!」

 「あるよ」


 「ほんと!?」

 「一つしかないから、ここで食べちゃって」


 「もっちろん!」


 皆と同じに目を輝かすのに、「はい、どうぞ」「きゃっふーう!」渡して話を続ける。持っといて良かった、お菓子があると引き止めも簡単。



 「他家の子がきてると聞いた」

 「ん、真実」

 

 そこから我が家の子の行いを知り、管理どーぶつなるモノの常駐化を知った。



 「…でさ、それが我らが主が笑まれた時によ? すっごく良い顔された時によ? もう、ぶっこむタイミングもさいてー」

 

 修繕がクソめんどくさいあのキザ目を作った相手だと聞くと普通にヘイトが溜まる。でも、本当に他家の子がいるのだとわかると  意識が乱れる。


 「体が弱い子みたいなの。だから、ちょっとねー。心配が高じてって話になっちゃうと、迷惑ではあるけど理解はできる話になるから」

 「そうだね、理解はできる。できるがどうする?だね」


 「そう、それらも含めて我らが主の実力が問われるものであり。我らの結束力と目的意識に対する結集速度も問われるものとなる。 違えるな、我らは我らが主が為に存す」


 それ以外は些細な事だと言い放つ、上位としての言葉に是を返す。でも、お菓子を片手に語っても締まらないけどね。



 「あー、美味しかったあ〜。ありがと、またねー」

 「前線、気を付けて」


 別れた後は大急ぎで部屋に向かう。

 




 「放蕩くんへの指示書も書いたし、あいつへの手紙も書いた。急ぐ用事は他になしっと」


 ムカついた気分も落ち着いた。

 それなりの書き物に意識を切り替えたら、まぁ早いやね。


 大体、出て来れそーもないモノの遠吠えなんざ気にするものでもなかったわ。つか、『うちの大事な子をー!』って泣きついてるだけの声にムカつく俺もアレだよなー。はっはっは。


 「しかし、そんな気分で子供に会うほど馬鹿ではない。さて、そんじゃ着直すかね」


 「我らが主よ、まだ居られますか?」

 「ありゃ?」


 にゃんぐるみを手にしたところで呼ばれてしもーた。指示の抜かりでもあったかあ?





 「施設に存在する、これらの閉鎖空間を使いたいのです」


 今回の現場は地下施設。

 普段通りの建築作業に取り掛かるには、まず間近に下の子の家がある。


 みゅーに防音壁を張らせても搬入時の出入りで何らかの異常は気付かれる。何より家に居るのは今世の子、気付かない方が〜 そら、おかしいわ。

 

 「施設内で製造し、補強を兼ねて片っ端から着圧させても肝心の長さに対する場所が足らぬかと。また、この施設は下の子達が現行で使用しています。持ち込みの短期決戦でないとサプライズには無理です」


 重々しい口調に目がきらりん(ギロリ)

 俺が非常識な無茶振りを言ったと言わんばかりの、あの目。もうちょっと手を出さないとダメかな?


 「辛うじてでも確かに活動しており、優先筋からしても閉鎖機能は活きているでしょう。ここであれば下の子の目にも触れませんし、こちらで別に搬出入路を確保すれば問題なく使えますので資材倉庫と致したく」


 いやもうそんな、俺に何も期待してない顔して言わんでも。


 「あの時は『朽ちるに任せよ』とのお言葉でしたので。使用前に内部清掃をしても宜しいでしょうか」


 視線を下げての返事待ち。


 いきなり殊勝な態度になって、あれ? いやそんな事もと、あれ? なんか引っ掛かる。おかしいなと思えば、それこそなんか発してる雰囲気に〜 うん?


 今、なんか変な話したかな? してないよな?


 しかし、妙に引っ掛かる。

 ので、ちょっと目を凝らしてナンバリングを読み取る。


 えーただろ、第三期だろ、そんで〜  やべえ、こいつ十五ナンバーズじゃねーの! 袋詰めに酷使無双させてた生き残りでないの!!


 記憶が一気に噴出した。




 「当時の事ですか? よく覚えております。 言い方を変えますと、よく生き残りましたでしょう? 我らが主よ」


 あっかるく誤魔化そうとしたが柔らかな恨み節が酷え。いや、そんな振りもしてないけどさ。


 「……うんうん、よく生き残ったなあ! 偉いぞー」

 「お褒め下さり、何よりも喜ばしく」


 喜ばしそうでそうでない顔があれだな。

 当時、問題の中心となった第六期は〜 ほぼほぼ俺が全滅させたよーなもんけどよー。その後、再生産もしてないし。その辺かな?

 

 「では、こちらで清掃処理を致します。完成模型をご確認頂いた後、間断なく資材を搬入し一気呵成に仕上げてご覧に入れます。付きましては、他の案件の並行は難易を極めますので一時停止の許可を願います」


 淡々と仕事を進める優秀な子の表情が、ちょっと難有り。落ち着いた表情の中に隠れてるのが、まっずーう。


 ので、ちょいちょいと。


 「何でしょう」

 「だから、こっちおいでって」


 「…はい」


 うわあ、仕方ないってな感じがうわあ! 一位に似る似ないなんて話でなくなってる! 疲れてるよ、この子!

 

 「最善を求める余り、疲れさせて すまん」

 「は?」


 ぎゅーうっと抱き締めた。

 


 暴れて逃げ出そうとするので、よしよしよしよしよよよよよーーーーっ!





 「どれ、言ってみなさい。ちゃんと聞くから」


 そう言ってから経過する時間が俺が放置した時間でもある。


 だが、逆に頑なな硬質さは高品質な純真性の裏返しとも言えるので〜 素晴らしき逸品と考えると満足感が高まるな、おい。


 「まだ、活きているのだと」

 

 ぽつりと零した言葉に耳を傾ける の、だが、抱き締めてると存外あったかい。熱源と感じられる程に成長していた事に喜ばしさを感じるが、それ以上に 俺が癒されてる事に驚くわ!


 かー、俺も疲れてるってかあー。


 「そう言って場を困らせたと」


 このまま寝たら気持ち良く落ちそう〜〜。


 「生きるに、足掻く。 その様相に感銘を、そう言っておりましたが… 自分の目には そうは映らず」


 あ、やべ。

 鬱屈してんぞ!


 「あそこから、泣きながら、少しでも遠くへと  這いずり、逃げ出そうとする  かの姿が浮かぶのです。でも、どれだけ遠くへ手を伸ばしたとて  足はあそこに根付いたまま」


 あいた。

 情報としての知識じゃない分、引き摺ってたか? まじで?


 「今、見ゆるは ただの輪。書き換えるモノも手を貸すモノも居ない、小さな世界。全てが終わっても 今尚、同じ事を繰り返すだけの 自らの足を切り離す能もない それだけの  朽ち尽きるまで連綿と続く それだけの事象に  泣いて這いゆく かの姿が重なるのです」


 ちょーーっと壊れそーうな情緒の育ち具合にぎゅーっと抱き締めて、いーこいーこ。でも、根っこが抜けないのが可哀想って言われてもな?


 「もうあそこには何もないと、有るは残滓でしかないと 知っているのに それなのに」


 静かな顔で、そっと己の腕を摩る。


 そら、お前がえーたで当時その場に立ち会ってたから  って、もしやまだ繋ぎが切れてない(バグってる)!? 寄り添い過ぎる繊細な子ではなく現実に今もぞわぞわしてる!?



 「その気持ちは優しさで、おかしな事ではないよ」


 「それで、そう そうです。 おかしな子が、と 聞きました」

 「うん?」


 別に… 繋がってないような?


 「今世の子であったかと、でもそれであればおかしいと」

 「ああ、うん。呼んだ子ね」


 うん、おかしいな。どこにも染みの類いが見当たらん。


 「おかしくないです。おかしいと考える方がおかしいです。どれだけ今世の子としての力があろうとも、その子は今世の子ではありません。だから、その子はおかしい子ではありません」


 何故に突然、子供の擁護に走るかな?


 「その子の願いも行いも、その子自身の為にあったのでしょう。ですが、その子の行いこそが『朽ちるに任せよ』とした我らが主の言を覆し、新たな時を刻めと許したのです! そんな大事をできる子が、今世の子な訳ないでしょう!」


 ぶっ込んできた。


 それから叱っちゃダメだと力説する。

 家の平穏を乱し、家財損害出してはいるが、褒めるべきだと訴える。


 切々と。

 切々と訴える。


 今回の家の模様替え(リフォーム)が嬉しいと泣いて訴える、その心。俺の指示に異を唱えるつもり何も砂もその他も嫌いではなくと言わせて、ここまで嘆きを溜めさせた俺の立場よ。


 「我らが主よ」

 「あ、うん。聞いてる聞いてる、はいはい。あー、元気になったなあー」


 「元気と言いますか」


 そうだよなー。

 俺の望み通りになっていく現状が属性でよりわかるだけに、なーんにも言い出せなかったんだなー。


 「いつか… いつか、取り成したいと願った切なる 望みが  う、う、うぇえーーーー」

 「あ、はい。ほら、あー ほらほら」


 現場に関わったのは全部廃棄循環に回せば良かったと思うが、があ〜〜  それで、こうも力を溜めて高位にとか いじらしくて、かわえー。



 

 「絶対に褒めてあげて下さいね!」

 「えー、あー、まー」


 「奇跡を起こした子を褒めるのは当然でしょう?」

 「いや、奇跡って」


 「死に至る大地を救った英雄ですよ!」

 「これ、待ちなさい。言い方」


 「英雄… なんて素晴らしい響き…」

 「勝手に栄誉を与えるんじゃない」


 「ああ… 誰もが真実を知らずとも、英雄は其処にありて 其は成された。 定められし、未来は 永劫の  覆らぬ大地の渇きにて。 なれど心尽くせし、英雄は 嘆きの中で 命の息吹の、赦しを 招いた。 招きは贖いに非ねども、ただ 水を汲む行いに似て   ああ、麗しきは 心力の涙。 その零れ落ちる「これ、そこでそう歌う」


 突っ込み入れたら、一応やめた。

 

 「勝手に即興リサイタル始めない」

 「え、だって『歌い手』は自分とおめがの特許ですよ? そうと定めしは我らが主で」


 「いや、まずそこじゃなくて」

 「…そう言われても、施設の作り替えを決められたのは我らが主でしょう? なら、ちょっと盛った言い方してもいーじゃないですかあー」


 「…言うなあ、お前」

 「基本盛っても嘘混ぜなーい」


 いじらしさがまるっと飛んだわ。




 「では、これからカルシウム除去をして参ります。後、資材置き場に下の子が入ってくると危険なので面白ガードを組んでも良いですか」

 「まだ手を付けてないぞ」


 「…そうでした。なら、今の閉鎖機能を殺さず面白ガードを」

 「…好きにしなさい」


 「はあーい」

 「浮かれ踊ってラブビームなんか出すんじゃないぞー」


 「…しまった、その手が!!」

 「出すんじゃないぞー」 


 「えー、今の聞かなかった事にぃ〜」

 「だーさーなーいー」


 早くお掃除してきなさいと、ポイっと外に放ってやった。そしたら、金茶カラーをピッカピカに光らせてふわくるしながら飛んでった。


 あれ、ちょっと光り過ぎじゃね?


 「…まぁ、なんだ。元気に飛んでいけりゃあ良いこった。  ん〜〜〜」


 清々しく伸びをしてみるが、どうしたものか。俺の精霊が認めた【英雄】ねぇ… 褒めなかったら泣き喚きそう。褒めてやってもしょぼいと文句を言い出しそうで、納得できないとほんとにラブビームを撃ち込みそうだ。


 困ったもんだが困っていても仕方ないんで、にゃんぐるみを手に取る。






 すちゃちゃと装着、猫降臨。

 てってこてと今世の子の家の上に移動。


 家の周囲一面に張り巡らせてる結界を眺める。うむ、滑り台に良さげ。しかし、大人はそうじゃない。わざわざ尻で滑る遊びはしない。


 爪でジャッと行きましょかね。

 それっと。



 今世の こー のー いーえーはー  俺の〜 いーえーさー♪ ひゃっはーあ。



 鍵なぞ俺には無用でな。


 しかし、ドアを開けたら慎重に。

 子供の様子は確認せねば。


 ちょいと覗き見した部屋の中、家に還るべき循環物がふよってた。



 ちょうど良いんで形状観察。したが、なんつーかぁ〜 特異解でもないんだけど、みたいなのになってた。ほんと可愛い子供仕様。


 しかし、全体を覆ってるのがちょっと。

 しかし、透け具合に譲歩も感じられる。

 しかし、完全に子供の持ち物にしてる。


 しかし、可愛い手形だねー。



 眺めてたら、気付いたあの子が『だぁれー?』とやってきた。


 さて、大人として この子に弱肉強食ならぬ常識を教えてやらねば。どうせ、負け犬の遠吠えは うむ、教育の理念を理解してるとは思えん。




 見よ、この跳躍力!

 なーんつって、高所に逃げた金魚玉を確保。飛び上がりに身惚れてた子供の顔が『ぴゃ!?』になった。しかし、無視してガリッとパキッと。


 うむ、着色料は入ってないが保存料は入ってる。ほうほう、これをこうお使いになってると。へー。まぁ、これなら弾込めされてるうちのも問題ないか。毒素的浸透あったら困るからね。キレイキレイ問題より途中変化ででんでろどろどろしちゃった方が問題だっての。


 数が資料だ。

 五つ全てを確認する。


 『いやー、いやー!』


 子供が泣くけど無視。

 検査確認は必須です。それに総数を知ってるので気にしない。 さ、この子にわかるよーにファイヤーして循環に回すか。


 あ、これ! 戻しなさい。大人の言う事を聞きなさい! それにソウルイーター的な消化器官持ってないでしょー!! 間違って口にしたら危険なモノなんだから、そこで咥えようとしない! 食べないから、じゃないの! 着ぐるみ着用で気分が大きくなってるだけで脱いだらすごくないんだから、ソウルの事故は廃人モードって聞いた事ないのーーーっ!?


 叱っといた。


 この場合の叱られるは自分を守るに繋がるの! どこに守りが繋がるか理解できないならできないでできる時までダメだと言う事だけ覚えときなさい! 


 …まぁ、叱られた事しか覚えてないのが大半だけどな。


 やっと諦めた。

 自分で差し置きさせて、よし。ちゃんと理解させないと。

 

 それに、まず溶けないだろうが保存の為に糖質系が混ざってる。何かの拍子に甘く感じて誤認してぺろぺろキャンディーにしても困る。喉に詰まらせても怖い、それが子供の口にちょうど良い大きさってのもなー。しかも食いたくなる形だし、中身もまぁまぁ熟れてるし〜〜 いや、スイーツにするには足りんけどな。



 山積みにさせた金魚玉。

 口からファイヤーより子供の下ネタ笑いを狙ってえ〜〜  え〜〜  あー、ハズしたかな〜〜   ふ。 ふふ、ふ。



 しかし、その後は良い感じ。

 出てきた中身を理解した。目を大きく見開いて、ぴょんぴょこそそっと見に行って。遠く遠く空へと舞い上がるのを見つめて、周囲を探して、また見上げてと。


 子供の知識が増えたのを微笑ましぃ〜〜く見てた。んで、わかってる。背中に視線が刺さっとるわ。



 さぁさぁ、今度は甘やかし。

 拗ねなかったいー子だと遊んでやったら、まぁ大変。甘えて甘えて、うちの子が居て寂しくなさげだったけど やっぱ、寂しかったんかねえ。



 べろっとして採取。

 更に、ちょちょいとして採取。


 確かににゃんぐるみはガードだが元が元だから俺にはガードであってガードでない。落ちてた黒髪も拾っといたし、こんなもんかな。 …うん、こんなもんだろ。ブラシないから諦め。


 

 そんで次はだ。

 目を上げたら、『自分もそこにー!』と声なき声で切望してる目に搗ち合う。爛々としてる。


 そいつの首輪になーんか書いてる。

 模様っぽいが違うから読んでみるかと目を凝らしたら、まぁ真っ白な毛並み。これまた綺麗な白さだなあと感心したが単色じゃなかった。


 しかし、こーゆーので何かを思い出す。が、まぁそれよりもと読んでみる。


 ふーん。

 へーえ。


 ん〜〜。


 当然、部分的にしか読めない。んで、その辺りを推測。あれこれ思案するも熟慮に至らぬ間に、いじけて引っ込んだ。 はっはーあ。






その1に【精霊の英雄(ヒーロー)】なる称号がキラッキラしてる件。

シロさんを貰ったクロさんは、本当に、本当に嬉しかったのだと思われ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ