225 ある、心情の劇
本年、最後の更新です。
事実を特異とするなら、この特異は発展系だ。
子の行いが我に返って嫁を呼び込む。うむ、おかしいがおかしくない。釣りと言えば釣りの入れ食い状態が素晴らしい。それが喜ばしくも… 魚種は選びたいものだ。
三人の口論を聞いていれば、キャッチ&リリースがちらつく。しかし折角、子供が釣ってくれたのだから〜 いや、雑魚は逃すに限る。いつか大魚になって戻ってきてくると最高なんだが… あー もー オフっちまおうかなー。所詮、画面越しだし? リアル、傍に居ないってそーゆーこったし。
「それでは理が通りません」
「理詰めで動く心など!」
「感情論で良い気になるんだ、うっざあ〜い」
理想の嫁とは、なんて悠長さをこの場で発揮するとダメな事だけはわかる。そして、俺へのラブモーションが薄過ぎて聞くだけ悲しくなってきた。
所詮、一人はうちの子のストーカー。
感情が振り切れてる一人は、転身直後の不安定さが出てる気もするから逆に心配。
最後の一人は戦略的行動を選べるタイプだから用心するに越した事はないんだが… こーゆー時に俺へのアプローチを疎かにするってどゆこと? 戦略性を見出すなら、俺へのアプローチを最優先にするのが最善でないの? ねえ、なにしてるの?
これはもう、うちの子の嫁召喚術が甘いとしか…
いやいや、子供が頑張った行いにだな… そうそう、これは子から俺への 俺への嫌がらせか? 待て、これは俺の基準か? 俺に合わせた召喚か? なら、この悲惨な嫁候補のレベルは俺がこの程度であるとゆー ゆー ふ、ふふふふ。
自分の為に召喚しても親の為に召喚なんてしやしない。そう、こんなに凄い事は初めてだ。初めての筈だ、他に覚えがないからな! そんな子供の頑張りにレベルとゆー格付けはないわー。現状も仕方ないない、あっはっは。うちの子かわいー。
「そもそも、どこの誰だっての」
「は?」
「ボク、それなりーに広い交流範囲を持ってんの。で、君以外は全員知ってる。でも、君は知らない。だから、誰だって言ってんの」
「…そうでした。初めまして、の方でしたわ。間近であれば初見でもわかる事はありますが、こう離れていては難しく。あなたの見目から思い浮かべる方はおりますが、系譜紹介を頂いた事はありませんわね。どなた?」
「わ、私は」
正式に自己紹介しろと言われただけで、気勢が落ち、口籠もった。背後に佇むマニアさんと目が合うが肩を竦めて流される。
「…まぁ、どうなさいまして?」
「自分アピールに余念がなくても経歴は語れないだーれかさんん〜〜?? やーだ、すっごいご立派あ〜」
即座に返す口調と態度が酷いが、あんまり強くヒトの事は言えない。しかし、これはない。ないないない。自分で攻撃の的になるよーな事を平気でやっちゃうよーなヒトに養母の資格も何も任せられん。
まぁ、うちの子はやらんし出さんけど。
「なっ!」
激情の反論から個人情報を拾えた。
口籠もった理由はなんて事ない、広い定義の迷子さんだった。
出奔と同時に迷子で若気の至りの片道切符なら無知なのも道理。そこを本職さんに拾われ、自立に至ったとゆーが… いやいや、それは自立じゃねーわ。
単なる横流しの体だわー。
本当に自立させるなら、そんな体裁とらねえよ。
とは、思うものの。
まぁまぁハマった場所にいるし? 場所的にはヒト様への迷惑の問題はないし? あっても俺には問題ないし? 無知でも弱者貢献してるし〜。そうなると放置で十分な気はするわ。不利益は本人だし、本職さんもそーしてるし? 教育すんのもめんどいし。
「過去の痛みで自己を確認する愚かさとは決別したのです!」
だ・か・ら・さ・あ〜。
実家を探さないのはどーでも、未だに飛び出た実家が何処かわからない時点で察し。地図が読めない云々よりも、知的好奇心と向上心の互換関係が良好なら別視点が生まれて別の言葉が出るもんなのよ。
せめて、『この方面のこの辺りまでは違う』とかなんとか言えや。
それがない。
実力、性格、色々察してヌルくなる。
今アピールするのはそこじゃないんだって。よく養母になんて言ったな、お前。飼育マニアさんがすげえ顔してるぞ。
しかし、ここで予想外。
「心当たりの方とは違います、わかりませんわ」
「誰かの子として生きてたってのはいーんだけど… 言ってる場所もヒトもさっぱり」
「あなた、もう少し情報を出せませんの?」
「え、え…」
「… 」
口憚られる最悪を想定したマニアさんの目が画面越しに振ってくるので、「心当たりないでーす」と流しておいた。人脈でめっちゃ優位なマニアさんや放蕩くんがわからないって時点で無駄じゃね? 大体、状況を聞くに事件性がない。単なる家出とゆーより巣立ちに聞こえる。
事実、その後は一人でやってこれた訳だろ。しかし、まぁ? 出会い方次第では俺も手を差し伸べていた可能性を否定しないよ。しないけど、さあ。
「詰まる所、目に留まる程ではなかった。それだけだろ」
切った言葉で終わらせば、全員で突き付けた『該当者なし』に困惑してた。只管、困惑してた。親と実家にどれだけ夢を抱いてるんだか。
「で、すが」
「淘汰される程度と言っておりますのよ」
「そーだね、そーゆー意味では泥舟から逃げ出せたって事だから〜 先見の明があると言ってあげてもいーよ」
「いや? 見捨てたとも言えるぞ。先の口振り、自覚があったのだろ?」
マニアさんの含みに乗って、「そうだなぁ、崩壊の引き金を引いたか」と賛同しといた。胸の内で小さくも、まだ鳴っている鐘の音を その意味を 曖昧過ぎてスルーしとく。
そんで二人もスルーしよう。
「じゃ、そろそろお二人は解散って事で」
「え?」
「あ! あの、お手伝いを。手は必要でしょう? 直ぐにでもそちらに伺えますわ!」
「いえいえ、お手を借りる程でもなく。いつか、また。その時まで御機嫌よう」
「ええっ!」
「次に見える時は今より素敵なあなたでしょうから、楽しみに。それに今のこの姿では少々釣り合いが取れぬと言うもの。この姿を好いて頂けるのも嬉しいですが、次は是非とも違う姿の自分の時に」
にこーと着ぐるみ猫顔で笑って、尻尾で一位に切れと指示を出す。
「あ、ああ! ええ、ええ、また後日に! でも、お手紙でも「申し訳ないです」「ごめんねー、推したけど流れちゃったー」
一位と二位が画面の向きを変えて別れの挨拶を始めたので、もう一人。
「指示書送るからやっといて、写真処理は話の序でになるから後回しな。その間、自衛がんばれよー」
贔屓はなし。
ボクっ娘は自分で切る。
「待って待って! 一つだけえ!!」
「あ?」
「あのねあのね、ボクって… かわいー?」
両手の人差し指を頬に当て、笑顔できゃるん。
「…かわいーんじゃね? そのポーズは古いかもしれんが」
「はい?」
「今時の子は小顔見せに顔から手は離すそうだし?」
「…いやあぁああ!」
向こうからブツンと切れた黒画面、落ち着くな。
「また、お菓子の情報お願いでーす」
「ええ、ええ、二位ちゃん待っててね」
まだ話を引っ張ってた。
二位には仕置きが必要かもしれん。
やっと戻った静けさに、ほぅ〜。
「すみませんね」
「いえ、こちらこそ。バイタリティーはありましたね」
「ちょっと折れそうですけどね。少し待って下さいよ」
「? そのままでも大丈夫ですよ?」
「いやもう、ほんとにちょっと」
着替えを示唆して断り入れて、てってと移動。画面から離れる。子供に会いに行くよーな気分ではない、無理。着替える。
ぺっと脱いだら手早く畳む。戻る前に、と足を止め。手櫛で髪を梳きながら姿見に目を遣り、再度ちゃっちゃと。被り物は気を付けないとね。
画面の前に戻ったら、仕事部屋と同じよーな椅子を作製。
マニアさんには悪いが要る。
ぐにーっとやって、取ってくるのと変わらない時間単位で作製を終える。画面の向こう、一人が硬直する小動物の顔になってた。実力差を実感したと見ていいのか判断しながら、どさっと身を委ねる。
ちょいと浮かせて気分上げ。
「マニアさん、お待たせ」
「いえいえ、それよりこれを貰っても?」
「ん〜、それは本職さんの出方次第ですかね?」
軽く返すがマニアさんのお怒りがちらついてる。やる気が渦巻く教育の裏に調教が見え隠れ。そら、そーだろ。俺の琴線に触れるならマニアさんの琴線にも大いに触れるってこった。預かりの守り手が標的容認するなんて話にもならねえ。しかし、これは〜 うーん。
取られたかな?
要らんだろ。
惜しいかな?
惜しくない。
見目かな?
…好ましくはある。
囲いたかった?
…ないな。
ときめきで鳴った筈の鐘の音。
自問自答で出てくる否定に、どうぞと言えないでいる。こーゆー時、自分ののーりょくに振り回されてるとも おーもーうー。逃がさなければ良いと考える反面、影が尾を引くしくじりを懸念する自分を笑って。
これが何時しか苦い思い出に?
なんて心を揶揄するが、「じゃ、口を割って貰おうか」聴取から始める以上はどうにも甘くならねえわ。
「あ、あ」
…恐慌一歩手前の顔にときめくってのは、どういうこったろう? あれ? 俺、嗜虐趣味?? ハメ落としは大好物だけど?
「まず、本職さんとの間に契約案件はあるかな? 嘘はやめような」
マニアさんのお陰でダブルチェックできるから、本当にらーくーう〜。
「…ふぅん」
はいはい、わかった。
賭けの場に、たま〜に本職さんの部下が混じってたのも了解。お前がリュックと水筒の製作者で賭け仲間のじーさんとやらがお守りの製作者だったのも了解。どんなじーさんかも把握、それに応じて大体のレベルも納得。
しかし、最初っから壊れる事が前提のお守りに涙。本職さんが文面を読み流した事実に怒。傍若無人さに俺を下に見てるのがわかってギリギリ。事実、俺は下だがよ? 影で泣くよな殊勝さは持ち合わせていない。
だが、知り得た子供の事実に何と言う? うちの子の召喚時はフリーだったってのが〜 ああん?なんだが。
「…語弊も誤爆も盛ってもないな?」
「ございません!」
叫び返す声を耳にマニアさんと目を合わせ、聞いてみる。
「呼び出しにおける優先権の適用は現在どうなってましたっけ?」
「…近時の改訂はなかったと記憶している」
「ですよねえ」
うちの子が呼び出して、酷い姿で帰ったあの子。あの時、あの子はフリーだったと? ならば、帰った後に目を付けられた? いや、普通に『我が家で見たから目を付けた』だろ? その後、過程はどうでも俺の子認定したと。
「マニアさん、呼び出し遊びをしたうちの子が来た子と約束したんです。まぁ、直ぐに帰る仕儀と相成りましたが… その子、今うちに来てるんですよ」
「珍しい、鍵を渡しておられるとは」
「はい?」
「ん? 隠れ家仕様でしたよね? 子供が一人で入れる家ではないでしょう? なら、鍵がないと」
「…ですよねえ」
「渡してない?」
本職のヒトが送ってきたにしても到着後はうちの子の元へ向かってる。記憶がなく、聞いた話を当てに行ったのだとしても、最初の縁はうちの子で。拙くとも初めから話せるのは、うちの子の頑張りの継続じゃねえの?
いや、継続そのものは切れてるとして?
当時の引き合いからだとする。ならば言語は流せても、なーんで態々うちを選んでうちの子の元へ向かわせる?
………しょぼくれたうちの子への嫌味か? 見せびらかしか? それとも、やっぱり俺が格下である事を見越してか?
これで 素直に 喜べと?
「流れからすると、やはり本職さん絡み」
「…そうなんですわ。二度目は本職さんの子として、うちに来てるんですわ。これ、ちっとばっかし引っ掛かりません?」
ちょいと感情の尖りをべらってみた。
「…酷い姿で帰った時点で遊びは終わりでしょう」
「…そうですよね。ええ、それはそうだとわかっているのですが。ええ、わかってはいますがね?」
「お気持ちはわかります。現状を鑑みるに、手出しさえなければ見える可能性がある。それに聞く感じ、その子は嫌っていない。ですが子供の事、忘れた可能性はある。しかし、子供だからこそ嫌ったならば次はと記憶するもの。それがない。だから、より口惜しく思われるのだと」
「ああ、ああ、そうですよね。うちの子が蔑ろにされたとか、大の大人が 大人の行為が、子供同士が繋がり直す可能性の芽を摘んだとか! そんな感じが… そんな 感じ があああ!!」
「ひぃっ!」
うちの子とあの子の状態からすると、めっちゃ邪魔しくさりやがった気がしてならねえんだよ!! 絶対、何か仕掛けやがった。それであの子はわからなくなったんだろうよ。終わったのなんだの言ったところで、うちの子は うちの子は、ちゃんとあの子と約束してんだろうが!!
「先にあの子と手を繋ぎ、約束をしたのはうちの子だ。それを後から出て来た大人が横から手出して掻っ攫う? ストレートに? は! 見ててやるなら、普通こっちに配慮して手回ししてからやるもんだろうが!! 終わった事を盾にすんなら、何でうちに送ってくるよ? 勉強か? 勉強か? 俺の顔を潰す事が勉強だってか!!」
「ひ、ひ、 ひぃい」
「まぁまぁ、上の傲慢はままある事ですよ」
「…うちの子だけが泣けばいい?」
「どんな再会でも喜びはあったかと」
「あー、それはそうだ。喜んでるわ、遣らせと知らずに喜んでるわ! そこ、お前も加担したってこったぞ!」
「え、え、わ、私は」
「出会うだけで喜ぶだろう? そんな安易な考えの、狭っ苦しい視野で! うちの子の幸せを測ったってのか。馬鹿にしくさってからに!」
「え、狭? え、そんな… いいえ、いいえ、決して馬鹿になど!! 私は自分のできる範囲であの子にとって善かれと思い!」
頭が回らない様な顔でする反論に腹が立つを突き抜ける。感情のままに椅子から降り、怒りに任せて床を蹴る。
ダン!と響く音も疎ましい。
「善かれ悪しかれ、お前は何を望んだと! その心内、母としての望みが満ちると言うか!? 笑わせる。 笑わせる、笑わせる! 自己の投影に何を重ねて愛を囁き、是としたぞ? 囁きしは自己愛であろうが。愛する己が行う人形遊びは愛しいか。ああ、そんなものでも時の内に変質すると? その間、付き合わされるだけの我が家の子に何の益があり、どの様な成長が見込めると?」
「愛は 愛は無償のものであり!!」
「無償の摂理が?」
「無条件に愛しいと思うは 他者に向ける想いを理解してのもの。只々、自分に向ける自己愛であれば正しく他者など目に入らず! 入ればそれは比較に当たり、より知るものとなりましょう!」
「はははははは! 悪意は利便よな、摂理が皮を被るとは。見事な罪よ」
「…意に沿わぬからと 耳を傾けて頂けぬ事こそ罪であるかと!」
「力のない便乗者が贖いも口にせぬ」
「わ、私は どうして御印を授けたのか存じません。私が知るは、哀れと思し召された事だけで。不慮に対する配慮のみ。そちらに送るに当たっても、幼き弱き者への庇護なれば安心して見ていたのです!」
やはり、こいつは馬鹿だった!
「見て、知って、止めなかったら同罪だろうが!! 思惑を知らずとも、お前は送るに当たって見たのだろうが! そこでどうして意見しなかった!? 意見もできぬ眷属ではなかろうが!! 我が家の子が成した約など些細で瑣末と切り捨てたか? 吹けば飛ぶよな子供の約は強者の加護の前には不要としたか! ああ、そうか。 お前にとっては約こそ不要で 無きがましか」
「ち、ちが」
心が激情に駆られ、底冷えする。
踏み躙ろうとする相手は踏み躙り返す。
「お前の行い、その根底。お前の優愛など目先の欲よ、笑わせるな」
つい本音で見下して吐き散らかした。ら、マニアさんが淡くあわ〜く微笑ましそ〜うな顔で見てた。こんな時に、そんな顔。意味がわからず苛立ちが募っ た ら、 自分の 言動に インスピレーション。
微笑みの理解にビシッと。
直後。
げきじょうと しゅうちが いりまじ、り。
根性で顔面をキープするがニヤッと笑う顔がまた癇に障るぅう!! しかし、こいつへの圧が先だ。優先だ!
ガチッと切り替える。
この僅かな間にも、静止したこいつの頭が周回を繰り返すだけの頭でない事を〜〜 期待する。
「今一度、問う。お前が善しと判じた加護には『俺んちの子』と主張がある。その主張が弊害起こして我が家の子の約が確実に妨害阻害を食らってる気がしてならねえが? お前、どう見るよ」
「どう、と言われまして も…」
口の中でもごもご言うのに、ぐわっとくる!
「まぁまぁまぁまぁ、どっちに特攻しても仕方ないでしょ」
「仕方ねえで済ませられる案件だと? それとも、こいつも手間が省けて有り難がれと言ってんですかね? 何の為に協定なんてもんができると思ってやがんだ、あああ くっそおぉお!!」
画面越しが苛つくが画面越しだからまだこれで終わってる。マニアさんの存在も抑えになってる。 …所詮、画面越しでしかないのに本気でビビってるの見るとうざい。
「優先権を犯していると取れるのですから、問題を認識していないとも考え難い。詫びの一つもなかったんですか?」
「…詫び?」
「持ち物にそれらしい物は?」
「……おい、そこの」
「は、はいっ!」
「本当です! 彼の方が指定した以上にこっそり入れたのは本当ですが、入れたのは綺麗に研磨して直ぐに使用可能にした裸石だけです!! 原石の類いは一切入れておりません!!」
「どんな原石でした?」
「……事後に上がってくるタイプの」
「…それ、実質気化タイプ?」
「いや、多分… その… 流動化タイプで形状変異が可能なタイプ… の、ヤツだと」
「はい、それ高額仕様。一つですか?」
「ええと… 大小合わせて、ごろごろと… 子供が「わああっ」て」
「はい、負けが確定」
「いや、ちょっと待って! マニアさん、それとこれとは違うでしょ!?」
「いえいえ、判定負けです。財力で負けましたね」
「う、うぅううう!!」
「いやもう、こうなると詫びを通り越して実質的に殴ってきてますね。いやー、一度はやってみたい夢のある殴り方で興奮しますねえ!」
「ちょっと!」
「はい? この内容で誰があなたの味方をすると? 受け取らずに突き返すのも自由ですが相手の対処はある意味で完璧ですから? 後は拗らせるかどうかですよ」
「でも、ですよ? どう考えても理解した上でしょ? 後で理解して「わーっ」つって構えたよーに思えんでしょ、これ。子供の頑張りをわかった上で潰して高額の物品払いにすりゃー誰もが納得して物事が丸く収まるとでも思ってんのか!」
「思ってるでしょ。思ってなくても、もう手を打たれてますからねえ」
「犯罪者が先んじた一手が被害者の心の救済を妨げるとか!」
「だからと言って、元に戻すを選ぶとあなたの子供がおかしくなるのでは?」
「ぐはあぁあああーー!」
「こう言う時の決め台詞、あるでしょ。あれですよ、あれ。 『もう遅い!』 あはははは!」
「だあーーーーーーーーー!!」
止めを刺しにきたマニアさんが憎ったらしい。半分、自分でも思ってた所にぶっ刺しやがった!! あああああ!!
「元に戻らないから詫びがあり、せめてもとカネを取る。それがと言っても、落とし所が約定で協定ですから? ねえ? だから、こちらも名掛けをした訳ですし」
ちらりと流し目を送ってくるマニアさん。
自分をネタに言ってくる。
これ以上の愚痴は愚行だと沈黙するしかない。気付くのが遅れた己の責任も否定できない。だから、『もう遅い』なんてこたー わかってる。
口惜しさに歯噛みする。
己の失態が掻き毟りたくなる程に忌々しい。
その反省を踏まえても殴り返さねばと気が荒ぶる。そう、この手詰まりに この打破に!
口元に指を。
考え込みそうな己を 今は と律する。
目を上げれば面白そうな顔のマニアさん。
そしてまだ終わってもいないのに、事態を好転と見たか安堵した顔に落ち着きと 微かでも 笑みを浮かべる、顔。
疎ましく、疎ましく、疎ましい。
だから。
心が 劇毒を。
劇薬を。
極上の笑みと流し目で。
鼻を明かしてやるわと投げキッスしてやった。
「ふあ!?」
「!!」
唇を舐めて見せ、毒々しく嗤う。
嗤って見下し、煽りを入れて。うちの子になんかいーもんくれてやろうと決めた。欲しいのあるかな。
「じゃあ、そーゆー事で」
「…わかりました、収監預かりで収監中の対応は請負業と。食事内容はどうします?」
「そちらのカチク対応でいーかと」
「同じで良い?」
「栄養管理行き届いてますでしょ?」
「そこはまぁ」
「その後は予定通りに」
「えー…」
「頼みますね」
「あー」
「ね」
「…はい」
勝利に艶然と微笑んで画面を切ってやった。ツヤッツヤしてる自覚ある。
「うーん、子供の玩具。玩具表はどこにやったか… ん?」
子供が欲しがるアイテムと出してやれるレベル。それに準じた品揃えに思考を振って気分転換していたら、廊下の方で動く気配。大人しくも小さな気配が複数うろうろしてる。迷う感じにどうしたと開けに行く。
「なんだ?」
「あ、主。よかったー、出てきたあ〜」
「我らが主、お話し終わった?」
「もう、ひどい〜。嘘吐きい〜」
みゅーの元へ行ってごらんと送り出した三人が揃って飛び付いてきた。ああ、これは良い癒しだわー。
「ほんとにほんとに驚いたんだからね!」
「脅かすなんてひどい〜」
「悪い悪い。でも、嘘じゃないんだぞー」
「えー」
「で、どうした?」
脅かしたと拗ねるので話を逸らす。
「そう! これ見て、複製品貰ったの!」
見せてきたのはマニアさんがくれた写真。三羽を撮ったのと、うちのが頑張る大写し。
「はは、拡大したのか」
「そーなの、アルバム作成に切り抜きも貼るって」
「でも、疲れて二人とも寝ちゃったの」
「頑張ってたけどねー」
「ねー、まだ完成しなかったねー」
「で、これだけ先に貰ってきたの!」
「そうか、良かったな」
微笑ましくも、そろそろ終わらせたいので腕を下げて降りるのを促す。
「ていっ! でね、この喜びを分かち合おうとせーぶつ実験室に行ったのね!」
「あ?」
「喜びこそ頑張れる原動力!」
「一人、卵の中でいるなんて寂しいものね!」
「だから、卵に写真を貼ってあげよーと貼りに行ってたの!」
「はああ!? お前ら、無断で実験室に入ったのか!?」
「だいじょーぶ、危険物取扱免許持ってる闇のおねーちゃんと一緒に入ったから!」
「おねーちゃんもずーっと心配してたし」
「騒いだり遊んだりしなかったのよー。でも卵の中で砂時計くるっくるして遊んでたー」
怒りが通じなかった。
一部で問題発言があるが微妙に怒れない言い分に入室許可免許状持ちをリストアップ、思い浮かべる。
「でね、貼ってたらね。免許持ちの光のおにーちゃんも覗きにきたのね」
「あ?」
「そーなの、それが続いたの」
「は?」
仕方ないかと納得しようとしたら、更に怖い事を言い出した。
「…聞きたくないが、全シリーズの免状持ちが実験室に揃って何をどうしたと?」
「うん、だから未来に備えてお試しをって」
「不安なのは初めてだから」
「だから、入る前にお試ししよーって」
「は? 試すって… 雰囲気を?グラフィックで?」
「んーん、すりーでぃーでって言ってた」
「…待て、中身を伴わない立体化はお前らぞ? それで何を実行すると?」
「んぅ? だから、猫」
「猫になるんだから、猫に決まってるでしょー?」
「入る前のじったいかー」
「…映像降臨を入るとは言わんのだが?」
首を傾げると、三人が揃ってキラキラ笑顔でキラキラ粒子を飛ばしだす。
「重さの影は やみぃ!」
「浮かさせないのは つちぃー!」
「影を伸ばすは ひかりのとうしゃー!」
「形を決める柔らかさ ほのおのえんぶー!」
「流して丸めて整える かぜのいぶきー!」
「できた形、内を満たすは みずの、 みずの、 えーと、なんていうんだっけ?」
残念、リズムが切れた。
「あー、しっかり言ってよう!」
「うーん、ぜーたが自分で言った方が良かったかなー? でも、今度はちゃんと言えるようになるよ!」
「うぇえ、ごめえー。最後にみんなで言うみゅーの決めまで回せなかった、ごめえー…」
「だーいじょーぶだって、もう一回やり直そー」
「…そうだね、もう一回しよ。練習が足りなかっただけだもんね!」
「…うん! 次、しくじらない!」
いきなり始まった子供の演劇。
しーたが詰まらせ、ぜーたが拗ねるが まぁ可愛い事で! しかし、二度も三度も付き合ってられんのだよ。大人は!
「はいはい、闇の器を作って土の型枠に押し込み光の影絵を炎で型抜きして風で冷まして水でリアリティを出そうとしたと。帯電を選んだ訳だ。なら、水の決め台詞は「わー、勝手に言っちゃダメえー!」
「待つのー!」
「おー!」
「うわっ た!」
口を塞ごうと全力で飛び付かれる。逃げ ずに、待って飛び付かれてやった俺は偉い!
「ひゃっ?」
「あ!」
「わーい!」
纏めて抱えて部屋を出て、走るなの廊下を走って生物実験室に駆け込む! この悲しさよ!!
「お前ら、そこで何してるー!」
部屋に入ったら、全員でモニター囲んで視聴してた。何を勝手に点けてんの? んで、黒卵の中身をどうしたあ!?
「…お前ら、これは想定内か」
「…ええとですね」
「なんと言いますか」
「成功ではあるかと」
「…反省はどうした?」
「反省する程かな」
「そこまでイってないよね」
「トライ&エラーは常に必要な事ですし」
「思い掛けない相乗が素晴らしく」
「自分寄りで嬉しかったりー」
「この場合のトライ&エラーは無許可の実験に相当するが? 全員、免状を返上するか?」
「「「……ご容赦ください、まだする事が山のように!!」」」
何か違う方向で反省した。
なんかがっくり。
『我も共に、共にぃー!!』
しかし、あの子を模した影の灰色子猫はうちの子の頭の上で気炎を吐いてる。実に良い顔で『あの子を大事に!』とか『置いていくでないぞ!』とか色々言ってるが、うちの子聞いてない。寧ろ、酔い始めてる。
どうも闇寄りの力を常用していたようで精神が影の器に引き摺られてる。このままだと悪酔いしてゲロ吐きそう。プレゼントをやろうと決めて最初に与えるのがゲロになるとか勘弁しろよ…
あんまりなのでマイクを取り出す。
「こら、そろそろ帰って来なさい」
『共にゆく我を讃えよー! 永劫の道しる え?』
「帰って来なさい」
『あれー!? えー! あー、あー、正解札がー!』
「やめなさい、もう」
今世の子が目の前にいるから。
楽々、指を伸ばして影猫の首根っこを押さえて引き上げた。はいはい、無断外出は楽しかったかー?
ぽいっと卵の中に放り込む。
押さえた首の部分から影が解けて形が崩れ、分離体が溶け出すも戻らない。
漸く本体へ吸収されたのを見届けて一安心。
「お前達、どう考える」
「…取り込みが遅かったと見ます」
「想定より時間が経ち」
「…型抜きが強過ぎたみたいです。私が失敗しました」
「ふぁい、それは違う! あれで良いと見てた!」
わいのわいのと庇い合いが始まり、あーだこーだと検討が始まり。
「あ、あ、ごめなさい…」
「考えなしでした…」
「問題となるなんて思わなかったの」
腕から降ろした三人が子供の感情のままに足元に引っ付いて、項垂れ萎れて謝ってくる。のに! 対する成人組は肝心な行動をしやがらない。
子供な三人は許すとして頭をそっと撫でる。その間も、そんなこんなと取り纏めて反省ができたよーで違う残り組はどうしてやろうか。
「あ!」
「…あの、申し訳ございません」
「心より反省してます」
「当人の是を過大に評価した自分達の責任です」
「とても楽しかったものですから」
「次は「ないな」
「え」
「比較的静かに見てたようだが、お前らの熱意の本質はなんだ? あ? 隣に寝てる卵があると知っての狼藉か?」
「え、あれ?」
「あ」
「いや、でも」
「予定時間外に起きたら大変なんだよ、わかる? わかるよね? 今、大変忙しいのよ」
にーっこり笑って反省を促し、主犯の一人を残して全員出した。
「で、そっちはどうだ」
「…今世の子が触れたので過剰分が除去され楽になった様子、もう大丈夫かと」
「そうか、それは良かった」
だが、こっちは良くない。ちょっとした痼りが見える。
経過観察でいーよーな気もするが、その痼りが形を取ろうと… 分離体が分離体のまま猫になろうと頑張ってる感じがする… 確かに焼きが強かったか。
仕方ないので調合して投薬する事にした。
トポポポポ… ン
「これでよし」
「わわわ、我らが主よ! こ、これはどうしたら!? どうしましょう!」
「あ?」
薬を卵に入れ終えたら、切羽詰まった声。振り返り、指差す画面を覗くと 目付き顔付き最悪の凶悪ヅラした子猫が怒ってた。
「ど、ど、どしたあ!?」
威嚇顔に慌てて操作。
全体像を引き上げると、寝てるうちの子を威嚇してた。なんでだ?
「音声出します!」
『許さない… 許さない… 許さない!』
うちの子、何をしたよ?
寝てる体の周囲を歩き出す。そろりそろそろした足取りが妙に力強い。こんな力強い歩き方は初めて見たぞ。
『俺の偽物が』
「は?」
『出たのに』
「え?」
『成り代わろうとする奴が』
「あ」
おのれおのれと怨嗟を吐きながら歩いてた。気が荒ぶって勢いよく爪を立てる、あの顔! やっべええ! ん? んん!?
「なんでそんな知識持ってんの!?」
「ど、どうしましょう!?」
「うげええ え え え? うん?」
なんのプログラムを描き出したのかと思ったが… どうやら、力は は あんまり 篭って ないの、かな? あれ、これ違うな?
「あ、怒ってるだけだわ」
「…本当に?」
「踏み足怖いけど、ほんとほんと。内容も触るな、やらないだわ」
「はあ〜〜」
「わかったか、これがお前達の成果だぞ」
「…あう」
「影の存在に怒り心頭、どうするんだあ〜?」
「……えへ、えへへ」
かわいー顔して誤魔化そうとするから、「いひゃいいひゃいいひゃあー!」ぐぅりぐりぐりしてやった。もうどうしようかと、これまた天を… 天井を仰いだ。
しかし、さっきの俺と同類やってる訳だから〜 あの子は叱れねえよなあ。
投げキッス。
画面越しも遠距離も何のその、相手に心を伝える最適手段。
では、また来年の更新まで ご機嫌よーう。