表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
224/239

224 角が立つでしょ

大幅、増量。



 ときめいてる。

 今、この上なくときめいてるー。


 天を仰いだ竜ちゃんが緩やかに首を戻すの、かっこいー。

 続いて騎乗してた人に倣うかのよーなお辞儀っぽい姿勢も、かっこいー。


 視線の先には、セイルさん。

 竜ちゃん、口をうーっすら開いて笑顔っぽい。 …違うかもしれん。尻尾様が揺れる。


 騎乗者さんが姿勢を戻しても、竜ちゃんはキープ。


 灯り灯り!

 誰か灯りをもっとー!


 スポットライトがないと、あちこちの細かな表情が見えませぬ。だが、暗くともシルエットとゆー名の造形美様はなんとか仕事した。


 セイルさん、片手を軽く前に出される。

 途端に手のひらから湯水が如く溢れる光、光、光! 待ち望んだライト様!


 しかし、暗い光です。

 何時ものキラキラどこいった?


 光属性でも闇に溶け込みそーな鈍い黄土色。輝かしさがない代わりか、他にも深く暗い赤とか混ざってる。光度が落ちると濃い色が付く不思議。 


 それらが風に乗り、花びらが如く宙を舞い、ザアアッとしか言い表せない暗い光の本流となって竜ちゃんを取り囲む。


 「うああああ、だーくないとへぶん〜〜」

 「…は?」


 「なー、あれって風も操ってるって事に? あ、うわあー」

 「…え? 何を見   (まさか、視てる?)


 「ふぉお」


 暗き光の中心にいる竜ちゃん。

 なんのスキルエフェクトかっ!?てな感じでサイコー! 闇が重厚さを醸しだすってヤツですね!


 「はいはい、立たない」

 「おおぅ」


 肩に圧が掛かって、お椅子様に押し戻された。しかし、目は竜ちゃんに釘付けです! そしたら、次の不思議は暗い光に照らされる竜ちゃんが透明化。や、透明とゆーより… 透けて骨格… ではなく、そーでなく。 えー、体のラインがこう。こう〜 暗いのが明るく〜 く??  ヤミのヒカリのミツドが薄れてナイのにどーしてウロコが見えるです?

 

 「あ」


 バクバクバクのズズズズズー。


 お顔の辺りを熱心に見つめてたら、光は竜ちゃんの口の中に消えていった。満足そうに口の周りを舌でべろんちょ。最後はストローで一気吸いしたよーでした、はい。


 そんで気付けば竜ちゃんの背に、人。


 凛々しいカッコで手綱を引く。

 応じる竜ちゃん、ぷはあ〜です。ご機嫌良さげに翼が左右に伸ばされますが… なんかまだ舌が動いてますよ? 味わってる時に行こうと言われても嫌なんじゃ…  それ、食事中の虐待では?


 だが、竜ちゃん全く意に介さずご自分のペースを崩されない。



 首が動いて下を見て。

 正しくはセイルさんと騎乗者さん、見て。


 お二人が手を振られたら。


 竜ちゃん、ふわりとテイクオフです!



 「ふわあ」


 助走も不要の垂直離陸は嘘っぽい。噴射も羽撃きもなく上昇してく。だが、未確認飛行物体による吊り下げとは違われるので揺らめきに風は生まれたよーでして。


 不思議フライトを目で追い続けると簡易の折り畳みさんが何か言ってる。引っ繰り返らないギリギリのラインを攻めて攻めて攻め続けてたら、後ろに当たり、肩に掛かる熱がオートモードで押すので元に戻る。その間も、ずっと口を開けてヨゾラのムコウに飛んでいく姿をお見送りしてた。


 「…ときめきは行ってしまわれた」

 「終了です」


 「すごかった」

 「ふふ」


 「はあ〜〜」

 「起こして正解」


 「もう感無量、ありがとなー。でも近付いてみたかったあー」

 「接触は手順を守ろう」


 「あうー」

 「さ、戻ろっか」


 余韻に浸ると両肩から熱が逃げ。


 「興奮で寝れそーになく」

 「いや、寝落ちする。ほら、立って」


 「あー あ?」


 言われて立って気が付いた。

 アーティスは? 俺の膝にべったりしてたアーティスは?


 周囲をきょろるが灯りがどんどん消えまして… あっと言う間に、もっと暗い暗い暗い。そこで突如感じる、あったかさにどーん。ぐらっとします。


 「うぉう」

 「アーティス、戻ったか」


 コツ、パタン。


 「どこ行ってたん?」


 闇夜の鴉ならぬ黒犬は見え難い事、この上ない。するりと離れる体を逃すかと手を伸ばすも、つるりと逃げられる。 …うちのアーティス、短毛種。手触り素敵な短毛種。天鵞絨ビロードの手触りなんですよ。んで、触るとめちゃくちゃあったかい。もふもふガードがないから、あったかい! この素晴らしき直熱よ!! 体毛の薄さは寒さに直結しそーだが、アーティスは火を吐く子だから寒さ知らずのよーなのです。


 …まぁ、向こうで流行ってたもふり成分がない子です。でも、それがにゃにかあ〜?なくらいカッコかわいー。



 「お」

 「そろそろ行くよー」


 くるりと戻ってきた気配に手を伸ばしてたら、どっかに当たる。多分、背中。はい、背中。中腰でそろそろと手探りし、背中から頭のほーへと手をやってたら椅子を畳んでたハージェストに置いてかれる。


 「待ってー、置いてかないでー、暗いー」

 「…視界不良?」


 「そーですよ、暗いとゆーてるでしょーが」

 「うーんんん」


 耳が仕事して、ハージェストの足音を拾う。


 「ほわあああ? ちょっと何してるんですか?? 俺を置いて行こうとは一体どういう了見でぇえ?」

 「うーんん」


 「ちょお、ホラーは嫌だと…    おおお、置いてったら叫ぶぞー 力の限り泣き叫ぶぞー その後はどうなっても知らんからなぁああ」


 アーティスを逃してなるかと、がっちりキープ。あったかさんが怖さを蹴る。


 「はいはい、そこで叫ばないから偉いです」

 「そりゃあ、馬鹿ではございません。人様静かの状態で一人騒動しては秘密のベールが解き明かされる前に台無しに」


 「あは、手を繋ごうか」


 命綱が伸びてきて、ほ。

 アーティスはキープしたら、お座りしちゃって全く動かず船頭さんになってくれない。良いか悪いか微妙でリードが欲しい。しかも皆さん先に行っちゃって、ご挨拶もなし。


 隠密行動には準じますが〜 残念気分。





 こちらへと兄さんが手を振る。

 紹介は済ませておくに限るから、予定通りと手を振り返し、アズサを振り返ると及び腰でアーティスに手を伸ばしてた。


 …その様子がおかしい。


 妙なぎこちなさに声を掛けるのを止め、静かに体を傾け、顔を覗くと視線が合わない。どこも見ていない目は 何も映さず、見えていない気がした。



 「そろそろ行くよー」


 瞬間的な衝撃と疑惑を平常心で蹴り飛ばし、素早く片手に力を込めて、兄さん達の方へと滑らせる。その際、微妙に角度は変えておく。



 摂理に従い、少しの尾を引けば消滅する力を。


 驚いた目が追い。

 首を動かし、置いて行くなと訴えた。


 その目を観察しつつ、兄さんに『行って』『後で』と指と腕で合図を送る。送り続ける。見上げるアーティスには、『待機』と逆の手で指示を出す。「暗いんですけど」と言ってくるのに天を仰ぎ、遣る瀬も寄る辺も遠くにしかない現実に 「…視界不良?」が嘘っぽい。


 確認に振り向くと行ってくれてた。

 唇から言葉を零しながら首を戻し、靴底を磨る後ろ歩きを。


 即、反応するのは良い。

 それは良いが視線はズレたままで俺を捉えない。間違いなく見えてない。しかし、視えてはいる。霧散した方角に向かって「知らないからなぁああ」と泣きを零す姿が 良い感じに思えてきたり。


 事実を思考が纏めると、あちこちに感情が飛んで 「あは、手を繋ごうか」なんて口調と共に笑みが零れた。本当に君は難しい。



 見えなくとも 視えている。


 用心に手袋をした方の手を取り、何時もより心持ち遅い歩みで。


 「なぁ、竜ちゃんはお帰りになられたのか?」

 「ちゃん付けなんだ」


 …よし、手に問題はない。


 「で? で?」

 「ああ、帰ってないよ。領内の別の場所に行っただけ」


 「うやはー、また会える?」

 「会えるよー」


 「やったー」

 「一人で冒険とゆー無謀はしないでねー」


 「もちろん、一緒に伺いますとも!」


 弾む声に腕を振る元気さはある、と。


 「あ」


 竜舎の付近で足を止める。

 じーとーっと静かなそこを見つめて期待待ち。しても出て来ないよ。アーティスがどうしよう?な顔をする。


 事後を含めて指示したら、尻尾を振った。ふふ、可愛い。


 「行こうって」

 「うー」


 「まだ飛竜の気配に気が立ってるのも居るけど、飛んで行ったのはわかるから。寝ようとしてるし、ね」

 「…なんでわかるん?」


 「何時もの事だし」

 「あー」


 「キュッ」


 小さく鳴いたアーティスが先頭を切って歩き出す。


 「うお?」

 「おっと」


 ちょっと躓き、倒れそうになるのを腕を上げて阻止。


 「疲れた? しんどい?」

 「いや、そんなことはー」


 現状を隠す気はないが、どう説明したものか。そうだな、まずは灯りを点けずにいよう。そうなると横になってからだが、そのまま直ぐに寝そうだな… しかし、体感で理解できる時を潰すのは愚策だ。


 「暗さに目は慣れず?」

 「? 変わらんのですが?」


 「あー、あー、怖くないですかあー」

 「あー、あー、付かず離れずの熱源もあるしいー」


 にまーっと良い顔を向けてくれるから本当に観察が容易くて助かる。目に過剰な力は乗ってない、眩しさとは無縁の状態。


 「それよか、あの人はどなた様で? やっぱ、今回の話し合いの為のお越し?」

 「そうです、その通りです。王都から呼び寄せた二人の予備と言うか、本命と言うか。備えあれば憂いなしが実行済みで。一言、俺にも言ってくれたらいいのにさあー」


 「わあ、幸か不幸かわからんけど呼んだのは正解でしたね」

 「ほんとにねぇ、まさか数合わせで使えない女の子が来るとはねー」


 「そーゆー意味ではピンチでしたな」

 「あははは」


 閃輝の症状はない。

 ならば現状は暗点が顕著に出たと考えるが道理。しかし、それを置いても何が切っ掛けで暗点が作用したのか? 無力者に術式を用いて視せるのは可能だが、誰もそんな事してないっての。


 「ま、居なくても危機じゃないけどね」

 「…へ? そうなん?」


 「まぁねー。で、今回きた人ですが」

 「はい! セイルさんの部下にして、しゅーいを威圧するシテンが一角と見ましたあー」


 「うっわ、誰ですか。話を先読みする人は」

 「にゃーははは、あーたりーい」


 ああ、もう。

 ほんとに、もう。


 不安にさせる気力もないなら不安を覚える気概もないな。





 「アーティス、ちょい待ち。待ち待ち」


 テラスのドアの横っちょに置いた雑巾様はどこだ!? 先に入ったハージェストが灯りを点けないから、その辺を手探り。


 「ュッ」

 「おおう、良い子」


 言わなくても取ってくる頭の良さよー! 鼻息はあれだけどー。


 拭いて拭いて、はい。「ヒュッ、キュッ」と嬉しそうな声で部屋にgo。今日は部屋寝でいーらしい。竜舎の扉も閉まってた。


 「アーティスに門限破りをさせちゃったなー」

 「は? 鍵は掛けてないし、竜は爪で開けるよ」


 「…わぁ、開けたら閉める賢者さん??」

 「竜はできる。只、開けるのと閉めるのが別個体である事が多いね。その点、アーティスは開けっ放し」


 ネタ情報に状況を想像すると楽しい。


 「さて、寝るか」

 「え、あのう 灯りを」


 「要ります?」

 「ちょっと水分を」


 「あー、まー、仕方なー」

 「はい?」

 

 「真夜中の茶会、再びでもしますか」

 「…そこまでごーせーにしなくていーんですけど?」


 スイッチを入れた音が聞こえた。

 んで、部屋を出て行ったっぽい。なのに、待っても一向に明るくなりません?


 「なんでだ?」


 天井を見上げると代わりに筋が見えまして、それが次第にはっきりと。そしたら、部屋の中に天の川が出現しました。


 え、これどうなって?


 


 突然の銀河鉄道に目が釘付け。

 すげえすげえと見てたが、なんか目が痛い。


 そんで目を離そうとしても、なんでか目を離せず動けない。もう終わりたいのに終われない何かのギリギリした気分で強制的に見続けてると、次第に体がブレてるよーな俺が世界に溶け込むよーな…


 「グルゥ」


 熱源との接触により、ほ。急速に、ほ。


 「ほ ぉおおお?」

 「グゥウ、ゥウウ」


 安心した途端、目眩がした。ら、アーティスガードが活きた。ガードの動きに沿って動くのーみそベッドの方角わかってる。ベッドの角に膝が当たったところで遠慮なくばったん、ごろり しよーとして「ひっ!」


 ビッ!


 ププププ、プリンセスカーテン様! 俺の片膝、カーテン様を巻き込む接触事故を!! 天から姫の悲鳴(あーれーえ〜)が聞こえましぃいい!!




 無事、転がるも疲れた。

 目眩はとんでもない精神的衝撃で緩和されたが、天の川銀河、再び。それをなんとかしようと両手で両目をガードしてみる。


 「あああ、ハー ジェスト〜〜」

 「キュッ!」


 「うぉふっ」


 腹に犬布団が、生きた犬布団がぁあ!


 「ぅえええ、うご うご うごお〜〜」

 「あ、転がってる。アーティス、偉いな。上がらなかったな」


 ヘッヘッヘッへ(あーそんでー)と全身で振動を与えてくる犬布団を止めたいが、両手ガードを離せないからやられっぱなし。


 「ヒュウン!」

 「いや、あの 上がって… 上がってぇえ」


 「寝たまま飲むのは推奨しない」

 「いや、それより助け…」


 「はいはい、灯りを消すから。まぁ、直ぐには無理だよ」

 「…もしや、あなたは  この天井に流れる銀河星団の理屈をご存知で?」


 「ええ、香り高き茶葉が天なる川を生みまして」

 「…いいえ、天の川は濃厚なる乳が生むはず!  うげえ」


 「あれ、どしたの? これ」


 腹筋が犬布団に負けた。

 そして、プリンセス様は悪魔の手により元の姿に戻られた よーだ。




 目を瞑って茶を頂くと鼻が効く。ふんふんすんすん、鼻が鳴る。なんか何時もと違う匂いが致します。


 「茶葉、変えた?」

 「いいえ?」


 「じゃあ、気の所為か…」

 「良い鼻してますね」


 「なに入れましたので?」

 「元気になる薬を少々」


 薄っすら目を開ける。即、目を閉じる。

 ふうっと一息入れてから、ぐいっといく。普通に飲めた。


 「ほんとにかっこいいね」

 「ごめ、まだ全部飲んでない」


 そんな言葉から始まった所為か、天の川が見えるのは目が見えてないからだと言われても 負に属する感情は湧いてこなかった。いや、多少の石化はした。でも、続く「いや、すごいよ。おめでとう」の称賛が石化を秒でアイスに変えた。


 どう聞いても揶揄りなく。

 どう聞いても、ちびが蹴り飛ばし 俺が終わらせた あの時と同じよーうな口調だとだと〜〜  思えちゃったのも糖分化した要因ですな。




 「だからさ、白と黒の世界観で」

 「えー、視界の〜 逆転からなる〜」


 「あー、理論体系飲み込むよりのーみそ誤魔化せって方が早いかと」

 「えええ、誤魔化され易い目が誤魔化されてないんですけどー」


 「いや、だから」

 「イメトレ、イメトレ、イメージコントロール」


 「作用点の働きを雰囲気でやると失敗した時が怖いってのに勇者がいるぞ」

 「ちょっと、頑張ってる人になに言ってんですかい」


 「いやだって戻し方もわからないって話でないの? 大体、失敗時に霧散する原理ってモノはだよ?」

 「お茶、お代わりぃ〜〜〜」


 「あ、はい」

 「お菓子はあ〜?」


 「あ、それはない」

 「…真夜中の茶会に菓子がないだと!? 準備不足! おもてなしの心をどこにやったのです!?」


 初めからない物を挙げ連ね、ストレス発散。


 「持て成す時間帯でなし、茶で十分。後、消化に悪い。朝食不要になったら料理長が泣くよ」

 「…はい、そーでした」


 作って貰うご飯である事を思い出し、即座にへこります。残し置きも難しいので、その辺の気配りが必要でした。



 「眠くなったら、そのまま「寝落ちの怖い話をしたのは誰だ」


 「あっはっは」


 ハージェストと喋ってると気分は楽、そんで天の川も薄れる。消えんけど。竜ちゃん見たさに目を凝らし、魔力の流れを見えるよーになった俺はすごい。まじすごい。しかし、ハージェストの言うどんな術式を用いて見えるよーになったかは不明。


 術式なんて知らんし? 

 セイルさんの暗い光を見ただけだし?


 そーゆー意味では、あの逆転現象の光が鍵でしょう。感化されたって事ですかね? 理屈じゃないとは言うは易しの不思議ちゃん。でも、理屈がわかれば応用が効く…


 視界が落ち着くのは時間の経過か原理の理解のどちらかだ。

 時間待ちだと、まずは汲み上げポンプの水がなくなるまで続く。ポンプの水がセイルさんからの影響だけで済まない場合、俺の中のナニかを汲み上げ続け… 下手すると枯渇。ええ、枯渇… 枯れ枯れ枯れ枯れ、枯れ、さんすー  になるまで続くかも ね? と、ゆー 脅し の、よーなご教授を賜り。


 理屈がわかるだけに嫌。


 だが、その前に意識を失うのも基本と。

 しかし、それにはリスクが伴う。


 意識の途絶は動力のoffであるが停電は通電で再開される。寝てる間に術式がoffかお役目終了にならないと何が何でも食うらしい。タコ殴りのリスポーン… される為のリスポーン… そんで俺の手も威力等は違えど理屈上では同種に当たる。つまり、リスポーンの危険性が高い。


 ……だが、だいじょーぶだ。

 俺は慣れた。


 ハージェストの指導があれば乗り越えられる!! 実際、薄れて見えるのはハージェストの干渉による賜物だ。


 「寝落ちで手が離れたら、どーするのです?」

 「…どうしようか? もう面倒だし、片足縛っとく?」


 「寝たまま二人三脚」


 …ふふふふ、短期間であろーとも! こいつと手を組んで俺の気持ちもその他も楽にならなかった事はない!!


 今の俺に課せられてるのは。

 ポンプの水を汲み上げる動力にして、見続けている俺の中のナニかを止める事なのだ!!



 「…次は何をしたら」


 思い付く事は片っ端からやってみた。

 ステータスオープンからポチできないかとか(無駄無駄の不発)、目に力を込めて睨んでみるとか(歯軋りで終了)、自分に向かって言い聞かせとか(さっぱり)、逆鑑定できないか鏡の前に立ってみたりとか(部屋が暗くて意味ない上に鏡のホラーを連想して怖くなった)。




 「…色々やりました。止めようとしましたが止まりません、続きます」

 「うん、なんだかちょっと微笑ましくもアレな感じだったね」


 こいつ、やだー。

 もう逆ギレすんぞー!


 「猫の時もそうだが人の時もどうやってんのか、俺自身が知りたいわー!」

 「はいはい、全くですねぇ」


 「んだけど、もう もう  ふ、く、くふあぁああ」

 「うん、俺もそろそろ眠くなってる」


 「まだ寝ないぞ、寝てたまるか。猫になってで、も?  そうか、猫になったらどうだろう?」

 「…猫? うーん、人で無理でも猫なら可能 かな? 君にとって気負わない姿勢であると考えると有りだけど〜 猫目で「そーだ、猫目だ! にゃんこアイズさぁああああーーーーーー ちっ!」 はい?」

 

 

 

 「…あの、天の川が晴れ渡り  目が治りました」

 「…ほう、俺は猫を召喚したのか」


 「いえ、俺は人ですから!」


 原理がわからないが否定しないと俺とゆー存在に角が立つだろ!




 「…内蔵型切り替え方式かー」

 「俺は線路変換機ではありません」


 横になると思考が鈍る、眠い。


 「…せんろ?」

 「…レバーをがっちゃんして走ってる道に別の道を接続」


 「猫と人の道が入り混じり」

 「そこ、人の道ににゃんぐるみがと訂正を求める」


 「訂正しようにも」

 「してください。 あてっ」


 結んだ足を引き過ぎた。寝返りが難しい夜になりそうだ。


 「ああ、ごめん ってか解いた方が良くない?」

 「寝てる間に再びは嫌だ、今日だけはする!」



 …ほんとに元気だな、ついさっきまで眠そうで辛そうで空回ってた人間とは思えない。もう俺の方がこのまま沈みたい。こうも問題が起きるなら、起こさなければ 喜ぶ顔を見ようとしなければ  しなければ、アズサの目の特性が判明しなかった事になる。それは惜しい。今の内、此処を出る間に 多くの不明点が見つかり解決・改善する事の、意義が 重




 「ハージェスト?」


 すうとお眠りになられてた。


 …やっぱ、頼むのやめたら良かった? 少ないさんにさせる事ではなかったかもしれん。しかし、できると言ったし不発弾が残ってると嫌だし。


 起こさないよーに静かに潜伏、ハージェストの寝顔を眺める。見てると所々が黒く見える。普通に暗い中で黒い… 影が濃いと言うんでしょうか?


 あ、そーか。

 これ、影纏いの残影っての? ふむ。



 そろそろと身を起こし、タオルケットから食み出る足を見る。ちょっと輪っかを大きくし、余裕を持たせた紐さんは俺とハージェストの足を繋ぐ。 …うむ、手錠の足版。紐だけど。しかし、この紐には伝導率up等の術式が付与されている。もちろん、やったのは寝てる隣だ。


 そろーっと寝直し、隣の寝顔をまた眺める。

 忙しい中、ほんと〜〜〜うに悪かったなぁと思える。そんで、あれもこれも話してなくて聞いてない。明日、何時に起きれるだろう?なんて考えつーつう〜〜。



 ちろりちろり、周囲をちろり。


 プリンセス様のお力が、より光を遮って安定した眠りの揺り籠を作って下される分。ばれ難いはずです。耳を澄ませ、隣を探り、目だけをぐるりと回しましてえ〜〜。


 「にゃんこ アイズ さーち」


 口が勝手に唱える呪文。

 うすーくうすーく見え始める『やっほーう』な光は力は足元から。両肘着いて、そろーっと覗き見。ぼんやり光ってる、紐。


 また、そろーっと寝直す。

 くふ、くふっと声が漏れそうになる興奮。天井 ではなく、天蓋を見ながらタオルケットを口まで引き上げ。一人、ぐふぐふ。


 ちょい、しんこきゅー。

 

 落ち着いてから隣を見る。

 なんかポポポってな感じで光ってる部分有り。はい、影纏いさんの   あ? れ? …なんかおかしくね? さっき見た黒位置とポポポの位置が違わね?


 え、見えてるのは術式による力の〜 はずだろ? 帰ってきたんだから。纏う必要もうないし。あるなら残影だろ? んで、影纏いだから濃く見えたと。


 んじゃ、なんで位置の部分が合致しない? あれ、見間違い? な、感じ? 待て、濃度が高い黒とは?


 『?』


 思考が纏まらないままにパチパチと瞬き、一点凝視。


 『!??』


 今、ズリッて動いたあ!?



 超高性能制振制御で身を起こし、足輪の為に身を引き身を寄せ! 寄せて引いたは逃げじゃない! どん引きモードで身動きしないハージェストを観察する内、心臓バクバクドッキン硬直は変化のない時間進行により落ち着きを取り戻しました。


 そんで完全にわからなくなりました。

 使えない俺です。



 「…うぬぅ」


 見間違いの可能性(大)の説明をどうするか考え… 本番の移行に気を取り直す。そう、意識して使いこなーす! さっきは上手くいったが、あれは偶然。大体、さーちは見る時探す時ですから。


 成功体験こそ正しい取っ掛かり。

 小難しく考えない。最後に足せばイケるとやる気を高める。ときめきを思い出す。今の内と逸り始めた気持ちを抑え、天蓋見上げて小声でそっと。


 「にゃんこアイズさー  さー… 」


 は? なんですか、プリンセスガードの向こうでぼんやりしてんのは。




 光が二つ。

 ゆーらふーらと揺れている… それが短い光の尾を引く… 


 ゆるーんゆるーんな動きで近づいたり、遠去かったり。カーテン越しとは言え、今の目で見えるからには力であると? と??


 誰かの術式?

 夜回りに使われる〜 監視用の〜  ドローンとか、そーゆーの?


 考えても聞いてないモノはわかりません。

 だが、そーゆーのに鋭敏なハージェストもベットの脇で寝てるだろうアーティスも起きる気配がない。え?え?状態。これは通常と判断して『警備の皆さん、何時もありがとう』と言っていーのか、『もしや、俺が一人と一匹を守らねば!?』状態なのか判断がつかない。


 『へっ!?』


 ヒュッと光が目の前に。

 直視するには眩しい光が 力が  間近に、カーテンの後ろに!!


 『こっ これはーーー!』




 金魚ちゃんだった。


 カーテン越しに【私は誰でしょう?】な光の陰影を見せる金魚に気が抜けた。んで、ヘレンさんとの勉強後の自由時間を思い出す。『こんな時間まで遊んでんの?』と思うが叱る気にもなれない… ちゃんと二匹一緒だし。


 ずるずるずるーっと前倒れ。からの蓑虫で体を伸ばす。

 

 もう一匹も寄ってきて、二匹が見せる影絵ならぬ金魚の光絵。おおう、すごいすごい。んで、そっかそっかーな感じで俺が呼び出さなくても開放されるまいるーむの入り口を理解。現状、この部屋に固定されてんのね。クロさんならどこにでも繋げられそうだから、ヘレンさんの部屋の近くに〜  あー、俺も部屋がどこか知らないや。


 無理無理と納得したら、あれ?

 金魚、壁抜けできるよーになったんでしょか?


 『ん?  …んん??』


 何気に見てた金魚絵が遠去かるが… なんか、今なんか… 何を見た? 離れた一匹、留まる一匹。カーテン越しのお休みご挨拶をしてるよーだが俺ののーみそナニかを弾く。


 横になった俺の視線は上向き。

 アーティスへの配慮もあるのか、金魚は上に留まる…  その場で前へー後ろへー前へー後ろへー… カーテンに張り付きたいのか遊んでんのか、光絵で妙に顔をアップにさせる金魚…


 カーテンを通り抜けよー? ひゅ、ひゅおおおお!!


 

 『ぉおお、オフオフオフオフ! にゃんこアイズさーち、オフ!!』


 吐息で叫び、きつくもナチュラルに目を閉じて、力を抜き、くたー すかー ぐーう。俺は寝てます、寝ています。金魚の形が崩れて隠れてた人の形の顔など見てません。見ておりません。ががががが がいがいがいがい がいこー なんて見てません!


 フード付きマントに、ぴかんと光る二つ目の しりょーの  ののの のーーーーう、俺の金魚は  金魚ちゃんですから!! 金魚でいーですから! それは他の時におねが、いぃいいい!!


 人と猫。

 違いで見えるゴールドな落差は知りません。見えるしりょーがリアルかファンタジーかなんてあって良い訳ないのです!


 意識落ちます落とします、きゅう〜。






 「おはようございま、 ええええっ  はうあっ!」

 「ふにゃ?」

 「ああ?」


 朝、ヘレンさんに騒がれた。

 無理して目を開け、そっちを見たら体勢悪いロトさんがアーティスに背比べを申し込まれてた。黙って見つめ合うロトさん、逃げられない。ヘレンさん、  …うん、朝からへーわです。


 


 「気分は?」

 「へーき」


 問題なしと判断し、足から輪を外すが妙に体が固まってる。首から肩が… 痛い? どんな姿勢で寝てたんだ、俺は。


 「風呂に行ってくる」

 「いってらー あーーー  ふあー」


 少し気怠い感じもする。

 それなりの酷使がきつかったかー。



 ザッと湯を浴び湯気を纏い、身内を探る。回復が足りてない事に気持ち舌打ちしたい。


 「…待て、今のは贅沢では?」


 今一度、回復量を探る。量と時間と割合に思考が晴れを見て、にやりと笑いたくなる。この持てる感覚にぐふぐふ笑いたくなる の、を〜  グッと引き締めると唐突に思い出した。


 昔、類似でむっつり野郎とかスカしてるとか言われたな。人が必要でやってる事に角が立つ事ばかり…  不意に思い出した顔が鬱陶しいが、そうか。


 アズサといる今なら気にせず笑えばいいだけか。

 いいや、枯渇に近いあの感覚を 誰が忘れるものか。



 一つ納得する心内に、一つ反発する内心。


 一つが二つ。

 二つに割れる心中に心中しろと手を伸ばし、グッと掴んで水栓をシメる。気合を一つ入れ直し、バチッと換気用を叩いて風呂を出る。




 「ごはーん、ごはーん、ごはーん」

 

 居間で待ってくれてた。


 「たーべよー」

 「ん、お待たせ。美味そう」


 最初の給仕をさせたら下がらせ、二人で食べながら予定を話す。


 「昨夜の方とご挨拶」

 「そう、食べ終わったら「ごめ、即?」


 「うん?」

 「いやさ」

 

 これこれと手で示すのに「あー」。そういや出掛けて見てあげてない。アズサの小さな積み重ね、良い習慣に「偉い」って。


 

 「た、と。よーし」

 

 書き上げて満足なアズサを見てると日常に帰ってきた気分。





 「兄さん、入っても?」

 「ハージェスト様、お久しぶりです」


 「…久しぶり、悪いな」


 執務室の扉の前で返事を待つと開けたのが紹介する本人だった。 …上辺だけでも和やかに笑い合っておく。


 「来たか、ハージェスト。ノイもお早う」

 「お早うございます、セイルさん」


 見れば、着席もせずに二人が立ってた。




 『おー、あの人だ!』


 でしたが、ハージェストの背に隠れる。そそっと頭を下げ、目を合わさず黙って前を通って入りましぃ〜。突然の対応変更は厄介ですよ。


 セイルさんのご挨拶に顔を出すと、知らないお二人様がお立ちでお待ちの状態だった。しかし、誰か理解。そんで何故か今日は秘書様、居られない。


 だからかと、一角様が扉係になったのも納得したが〜 次にノックがあったら俺が出たほーがいーよーな気がしないでもない。




 えー、和やかに紹介とご挨拶が終わりました。

 エルディエルさんに、弁護士お兄さんのリチャードさんと妹ちゃんのオリヴィアちゃん。俺の立場に『わ、わわ』な雰囲気を見せたのはご兄妹で『…あー、まぁ〜』な雰囲気になったのはエルディエルさん。


 そこにノックの音がコンコンと。

 お声が掛かり、ガチャリと開けた秘書様お戻りです。




 「間違いございません」


 どうやら本日の昼頃キルメルからの使者がご到着されそうです。それを聞いた三名様、慌てず騒がず嫌そうな顔。顔合わせから打ち合わせに突入です。


 予定より早い到着は事故ですか事件ですか? それとも嫌がらせで交渉術です? しかし、仕事と聞いて緊張から解き放たれるリチャードさん… 仕事師ですか? それとも仕事の方が楽ですか?



 「総代として上がるが幼い故に、その名代を努めるとあるが、その姉も成人間際と聞いている。また、妾の娘であるので実際の裁量権はないだろう」


 「弟の守りですかね」

 「では、相手取るのは」


 ハージェストが説明し、二人が確認を取る。そこにセイルさんが希望を述べる形で話は進み、俺とオリヴィアちゃんは拝聴組です。



 問対する二人のインテリゲンチャ。

 一人は馬で王都から、一人は飛龍でセイルさんの任され領からお越しです。片や、真面目な堅物風。片や、インテリyakuza風。雰囲気違えば衣装も違う。


 衣装と言えば、オリヴィアちゃん。

 法曹界でなんたらのお家の十五歳。なのに、衣装の合わせ方が変。ふわっふわなお嬢様白ドレスに、ハイではないけどドレス向けのヒール靴。それで上着は修道院ケープ。


 制服らしいが、上があるなら下はどうした? 上下制服でいーんじゃないの?


 場に合ってないと思うが俺だけのよーで困る。そんで専門用語が飛び交う会話はついていけなくて困る。退出のタイミングもない。



 む? むむ?


 そう言えば、簡易壇上に上がったリリーさん… 白いドレスだった気が。


 「ノイ」

 「はい、セイルさん」


 即、返事。

 顔向け中にエルディエルさんと目が合った。


 人見知りの猫被り演出で綺麗に流す。のっけからハージェストと塩気を遣り取りするお人に振り撒く愛想はない。





 「あ、そろそろかな?」

 「…そのようですね」


 今頃、お出迎えの真っ最中と思われます。俺のご挨拶は取り止めになりました。


 帰属が貴族問題を呼ぶわ、相手に親密さはないわ、厳密に追求されたら問題解決に不利に響くかもで中止です。それでも編入予定者の挨拶がないのも拙いので、お帰りの際の挨拶でと纏まりました。その後、席を外した俺の仕事は引き篭もり一択。


 「でも、ちょっとだけ」

 「…そうですね、あまり出なければ」


 しかし、せんせーが少しは動けと言ったので庭に出る。

 しかし、ガヤガヤと聞こえる現状やっぱ拙いと部屋に戻る。


 寝るしかない。




 「…なんか騒いでる?」


 一転び一起きが早過ぎます。

 ヘレンさんもドアを注視するが、俺への制止に片手を上げる。

 

 「…マーリーおばちゃんの声っぽい?」

 「…痛いと聞こえました」


 「誰か怪我した?」

 「…見て参ります」


 はい、ここでも俺は動けません。動くなですから。ロトさん、秘書様に駆り出されてるのが痛い。



 だんだん近づく声に、妙に甲高い声が混じってる。


 クライヴさんとオーリンさん、マーリーおばちゃんと〜〜 「下がれ!」「なりません!」「それは少々」「お待ち下さい」「こちらにも」「何故ですの!?」接近してくる騒動にどうしたら?踊りをしたくなる。


 だが、騒動側からの接近に観念。

 無の境地で待つ。



 「お前か、疾くこの部屋を出よ!!」


 バタン!と開くドア。

 ビシッと突き付けられる指。


 どこぞの坊ちゃんが俺に向かって角の立つこと言ってまする。


 

 


本日の国語問題。


1、天鵞絨

当て字の音読みでビロード。そのまま読むと何?

2、角が立つ

意味を説明されたし。合わせて子供向けの説明もされたし。



竜に乗って登場したエルディエルさんは体力もガチなインテリです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ