223 ある、三角の形
ぞーりょーしてます。
「ふふふ、俺はモデルではないぞ?」
「いいね、いいね、顔こっちー!」
「モデルは別にいるからな?」
「いやー、あざとかわいー!」
粗利で弾いた胸算用に、ハメた結果が楽しくて。
つい、落とし所も決めずに内心にやにやしてるのがわかる口調と風情で気取ったポーズを取ってみた。そしたら、あっさり食い付いた。
貧困は恐ろしい。
ヒトの目を眩ませ、思考を鈍らせる。言葉遊び程度でしかない罠にも気付かない、貧すれば鈍すの体現よな。
だが、なんであれ断りは有用で有要だ。
その後の問題はどこまで説明したか、どう説明を聞いたかになる。説明の不十分さとは、そんな説明でも納得した事実を残すだけ。哀れよな。
「うわー、うわー、ボールとかアイテム投げたあー」
そして、今回それらを判断するのはご父兄となる。
ご父兄である以上、どこまで公平性を持って裁かれるかは不透明だが本職のヒトだと判断した俺からすると情報流出者にこそ重きを置くと踏んでいる。
「そうだ、あれがある! 待って」
「うん?」
こいつに話す事で俺もまた流出者になるが、俺が子供用品を買い漁っても情報流出になるっちゃーなる。そーゆー意味からも、預かりそのものは何れ判明してゆくもの。故に、名前は伏せても預かりを話す事と決定的証拠となる映像の流出では話が違ってくる。
「お待たせ! ころんしてー」
「あー?」
それでも一言あるとは思うが… 断った事実と子供を預かり養育する現実を織り込めば、怒りの矛先は最大公約数でこいつに向かう事だろう。うむ、やはり俺の身は安全圏にある。
ふふふふ… ふあーはっはっはっは!! 安全圏でヒトをハメるのは楽しいわー わー わ〜 あー。
「横転がりしてー ねーってば!」
「あー」
あー、あー、あ〜〜〜。
ごろん、ごろ。
猫転がりして、先の思考を否定する。
本人ならどーでも子供だからな。子供の情報流出は望ましくない。迷子なら話は少し違うが〜 普通、遊びに来た家で知らん内に自分の情報が垂れ流されたなんて聞いたら固まるわ。
隠れ家特性の家に、きっちり約を読んだ上で送ってくるってのはガードの期待の表れだしぃ? コンセプトを弄るにしても隠れ家は解除しないし、やったら負けた感が強過ぎるし?
「尻尾がぶれるー」
子供のコールもあれだが映像流出なんぞ俺の名折れでしかない。やっぱ、あの子をダシにハメるのはツマラナイ。阿呆くさ、やめよ。
「おーい」
「なに〜?」
「撮るのやめとけ」
「だー、画像処理が荒あ〜 うーん、うーん、やっぱ近くで撮りたあ〜 あ、なんか言った?」
「だから、撮影は終わり。撮ったのも出さない」
「……これ使ったんだけど見るう〜?」
「あ?」
「【半分、写ルンです〜】使っちゃったあー」
「ぶっ! おま、そんなん持ってたの?」
「パーティーグッズは揃えてるよー!」
「アレなネタグッズの間違いだろ」
「なにを言います、これは遊び道具です。アレな写し方とゆー思考と思想は個人の裁量によるものです。当て嵌めるのは偏見です」
「そーゆーのが多いからネタグッズなんだろ」
「製作者が目指した趣旨からの逸脱と言うのはですよ」
「多数決で決めるのがミンシューな主義だろが」
「何でも数の暴力で決定するのは良くないと思います」
「自己を押し通すに平穏なる決議を否定するか、グミンめが」
「心に通じぬ不穏なる決議が問題なのです」
「やはりグがククッとるわ。それを俺に向けて使用した時点で同罪だろが」
「やーだ、ミンじゃないからどーとでも〜 ほら、すんごくかわいーの撮れてる〜」
画面越しにペラッと見せてきたのは、伸ばした足と尻尾のみ。尻尾と片足は猫仕様だが、残る片方はヒトの足。半分が活きている。半分となる箇所は常にランダム仕様だが、こんなネタグッズに突っ込む数式なんて高が知れる。その時点でランダム範囲も何も決まってる、それが粗悪品でなくてもだ。
「エロスを求める時点でネタグッズ、違うかね?」
「チラ見せのかわいーは絶対正義でしょー!?」
「カスめ、それで大々的にヒト様に見せる気か」
「んっふっふふふーん。いーものもらっちゃったあー」
画面越しに『うきゃきゃきゃきゃ〜』な顔を見てると、放置からのハメ落としでいーよーな気もする。あの子を模しても俺ではあるし? 俺でなくても空似はあるし?
「複写と転写を不可にするのはとーぜんだけど、どーこーに〜 売ろっかなあー」
にまにましながらカネを夢見る姿に、やはり此処は泣きっ面を拝むのが正しかろう。
「俺はモデルではないぞ?」
「へ? 知ってるよ? ってか、実は本職はモデルですとか言ったらはっきょーする奴いるじゃん?」
「それは勝手にはっきょーさせとけ。 で、だ。 繰り返す、そこに写るモデルは俺ではないぞ」
「……へあ?」
漸く、カネから離れた顔になった。
「俺は 本職 では ないぞ」
区切りと強調を使って言ったら、硬質化した。ギギギ、みたいな音がする動きを始める。
「………モデル」
「そう」
「えー、君はニンギョー師じゃない から プ、プロトタイプな?」
「生存者を試作と呼ぶマッドを、俺はマッドと考えるのだが?」
「や、だってそれは皮でしょ? 本革でしょー?」
「俺が模すにヒトの子供の皮を剥ぐ?」
「なにそれ、なんのおとぎ話のざんさつをー」
「なんだ、お前そっちが好きか」
「あぁあああああ! んな訳ないでしょーがあぁああ!」
「なら、この小さな姿の子の為に俺が模した意味がわかってんだな」
「実力は存じあげておりありはべってひらうちしたらと言ってたりぃー?」
インスタントで出した写真を持つ手が震え、キョドる思考が顔に出て、愉快。愉快、愉快、愉快。写した挙句に出したからな。事実をなかった事にするには燃せば良いが、それをするには俺の口止めが必要だ。
「ああああああ、あのさ? その子、どちら様のこねこちゃん?」
「あー、それな。俺もまだご父兄には会ってないんだわー」
「うえぇええ? 何してん え、まじ? 会う前にそーゆー事してる理由、理由。え、どのパターン?」
「あー、うーん、ちょっと待てよー」
手元の端末をちょちょいと弄ってお絵かきソフトを引っ張り出す。筆記用具を持ってもいーがどうせ同じ事だと、そろりと画面に爪を立てる。
「でさ、ちょっと前に花火上がったろ?」
「あ? え、あ。あー、あれ」
違う話を振ってやると声が少し落ち着く。
「そっち見えた?」
「見えた見えた、綺麗だったー。人のカネで見る花火ってきれーでいーよねー」
無事、イケたのでそのまま爪でカキカキ。
「音とかどう?」
「音? 防音問題? あ、爆心地調べてないの?」
「目測と予想で大体は」
「こっちは普通に問題ないね、なんかで被害が出るなら場所を変えてもいーし。そっち影響でそーなの? 君の家なら見えても聞こえても別に問題ないんじゃないの?」
「まぁなー、ちょいと戸締り始めたからより影響とか関係ない」
「あ、そうなんだあ? え、なんだろう? ああ、そっか。わかった、虫だね。虫が湧いて出たんだね! やーだやだやだ、殺虫焚いて虫ゴロシ! 家の中もくもくしちゃうんだー。ついでに他にも大掃除しちゃったりー? あれ、でも元々綺麗好きだったよーな気が…」
書き上げ、画面越しに見る顔は更に面白くなってた。
口調も軽く、性格も軽く、その軽さで要領もよく、結構な事態に陥ってもスリルだと、かるーく躱して楽しんで、遊んで遊んで生きてくタイプ。家も持たない身軽さで、齷齪せずに優雅に遊んで。
しかし、全く先の読めない馬鹿ではない。
予想が当たってくれるなと必死で自分を誤魔化す饒舌さ。そこに残念通牒を突きつける、俺。いいね〜。
「ほい、これが我が家に来てる子のご父兄の住所予測」
「ひ、ひ、ひゃああああああああ!」
端末を猫体で持ち上げるあざと可愛さを惜しみつつ、画面の方を動かして端末画面を映してやった。らぁ〜、予想通り泡食って沈んだ。はーっはっはっは。
「…どうしよう、どうしよう。これまじでどうしよう。どうしたら。そうだ、誰か一人が黙ってくれたら燃しても消去してもバレないはずだ。はずはずはずの規則も規約もないんだからバレさえしないとだいじょーぶ。さぁ、そこのあなた。平穏な世界と未来の為に、ここはヒトつその素敵な玉肌を脱いで見せてくださぁー」
「着ぐるみ着てるのに玉肌なんてよくわかったな」
「そこはそれ! 鉄壁の乙女ガードは同にいれば類を見ずとも「なに言ってんだ、お前」
「… 」
「… 」
画面越し、沈黙。
「… 」
「… 」
冷や汗の沈黙から笑顔の泣きっ面に変化。多分、近くにいたら縋ってきてる。
「あのね、そのね。前から君のコトすごいなぁって思ってたんだけどね。本職さんの子を預かる程に名が知られてるとは思ってなかったんだよね。さすがだーよねーー ね〜〜〜 んでも、さっき住所予測ってったよね。 ね。 つーまーり〜〜 えーと 今は無賃就労の強制的な託児所扱いって事なのかな」
「やな言い方すんな、お前」
ふて猫ヅラで、心優しく無賃を否定する。手紙はなくとも子供の持ち物がどーゆーものか説明したら、絶望が舞い降りた顔をした。
「どうしよう、これ」
「お前のだし」
「そんな!」
「普通に持っとけば」
「え」
「まぁ、中身は俺だし?」
「バレないと思う?」
「さあ」
「……なんで早く言ってくれないのさー!!! わかってたら【半分、写ルンです〜】なんか使わなかったのに!!」
「まぁ、そうだろな。俺だってしないぞ」
「しないぞって…」
「俺の事じゃないし?」
「ひ、ひどい!」
「止めたぞ?」
「遅いよ!」
「知らん」
「き、き、き! 基本的に本職がどれだけ盲目的な取り巻きを所有してると思ってるんだよ!! 写真に対する不当なゆすりとタカリと脅しのコンボで下手するとシューセー鬼ごっこで終わる可能性が!!」
「だろうな」
「バラマキは被写体の価値を下げるとかなんとか文句言うし!」
「うざったいよなー」
「かといって、出さないと逆ギレする馬鹿がでるし!」
「うんうん」
「おまけに映りの悪さがどーのこーので盛れってかあ! 盛った加工は不遜で詐欺だと叫ぶだろうが!」
「はっはあー」
「ぎぃいー!」
「基本、本職さんを頂点に据えたコングロマリットなもんに一人で立ち向かおうなんざ勇気を通り越したナニかでしかねぇよ」
「理性を持った狂信者らが関連グッズにどんだけ熱を入れると思ってぇええ!」
「取り扱いの難しさよ」
「数の暴力でヒトん家に乗り込む馬鹿なんて!」
「なんだ、ちゃんと暴力だと理解してるのか」
「があーー!」
「はいはい」
叫んだら、ゼイゼイ言いながらも少し落ち着いたらしい。しかし、そこでヌルく淡い期待を言い出すんで、へし折っとく。あんな大人しい子を捨て子だと?
「え、どんだけ可愛くても弱い子なんでしょ?」
「…そりゃあな」
「じゃあ、掛ける熱量はないかもの低いかもでしょ!」
…捨て子説を唱えるので、もう一度考えてみる。
うちの子と縁があるから、逆にその線での子供のポイ捨て。そのカモフラージュに土産を持たせての押し付け。むーぅう。
「そうだと写真の価値もガタ落ち! ふ、ふふふ!」
我が身を顧みた捨て子説を推す姿にムカつくんで一連の事態に合わせてストーカー的に我が家を見ている奴がいる事実を伝える。
「子、子供の監視体制!? じゃあ、じゃあ、やっぱりそんなヒトの秘蔵っ子の写真を燃したら最後、聞きつけた奴らが我が身も顧みずにナニしてくるかわからない集団に… 集団にぃいい!!」
「行き過ぎた実例があるものな」
「気楽に言わないでー!」
嘆きに溜飲が下がって気分が良くなったので、慰める気分にもなるが止めを刺したくもなる。
「本職さんの一声で止まるって」
「…これから、会いに行くんだよね」
「そう、その前に子供に会ってこようとだな」
「これも対処してくれる?」
「無賃で?」
ニィヤァアアア。
素敵な猫の笑顔で応じたが、子猫の顔だからどこまでイケてるのか不明だ。しかし、キラリと光る牙がイケメン成分を増したはず。
「報酬の回し戻しのチャリンチャリンでお願いしたいー」
「足りないな」
「うぎゃーーー!」
俺はその辺、ドライでシビアで通してる。というかあ〜 二方とはいえ、身辺調査と交渉折衝が同額な訳ないだろ? 同じで引き受けるなら相応の理由がないと。
「後なぁ」
「なに、支払いリクエスト!?」
「じゃなくて、体内通信持たせて貰う捨て子は居ねえよ」
「…ぎゃーーーーーっす!」
うん、頭を抱えるこの絶望感と泣きっ面。割り増しでイケるわ、美味しいわあ〜。
「ふんふん。なら、問題はないな」
「ないから、調査はしっかりしてるから!」
懸念の二方がクリアなら、取り込んでも俺が赤字補填を抱える可能性はなし! 残るは、どーぶつ預かり時の契約か… 経営者がスライドしても期間内保障が同じならイケるもんだが、そらまた後だな。
「ねー、その子に燃やして貰ってもいーんだけどー」
「子供に火を使わそうとするな」
「えー、火の扱いは覚えさせないと。危ないじゃ何にも覚えないよー」
「段階が違う。教えるにも、もう少し育ってからだ」
「あ、そっち。そんなに幼い子なんだ… 大人と一緒にやる花火なら許されるかとー」
「今、戸締りしてるんだけど?」
「えへ、お家入れてー」
「なんで?」
「大人しくお留守番してるから! 虫は撃退しとくから!」
「それじゃ、報酬の支払いはしとく」
「いやー、待って待った待つうー」
生死が掛かったよーな制止を聞きながら、端末を肉球で弄ってポチポチポチのポイ。
ててててっててー ぴゅるりん♪
「ぎゃー!」
「支払い完了、契約は終了した。ありがとなー」
「なんなら、土に埋めてくれてもいーからあ〜〜」
「……エログッズの分解速度って遅くなかった?」
「…訂正、こねこちゃんの排泄物と一緒に埋めてくれていーから」
「なんのマニアを呼ぶ気だ。それとも検便のつもりか」
「そっちじゃなぁああ… おねがあー」
ぺん♪
「うん?」
手元を確認すると依頼メールが飛んできてた。そうそう、それが正解だ。緊急時以外で口頭依頼を引き受けるとか、しらばっくれの踏み倒しになる恐れがあるものを誰が引き受けるかっての。
「んじゃあ、依頼内容は肖像権とその偽造の嫌疑が掛かる前に手を打つの一択でいーんだな」
「はい、それで。でも、元はと言えば… 誰かさんがもっと早く」
「誰であれ、勝手に写真を撮ったお前が悪い」
「仲良しのヒトの写真を撮っただけでえ〜」
「え」
「え?」
「… 」
「ちょっ、待ってよ! 今までビジネス以外のお付き合いもしてたよね? ね? 気軽な口調も問題なくてえ!?」
「…それはまぁ」
「だーよねー」
俺の考える仲良しとは、ちょーっと違う気もするが搾取的な事をされた記憶はない。上手い事やられた!と心情的に掠め取られた事もない。仲良しの門戸が広いか低いか、軽い特性も含めても〜 根無し草なら、そんなものかと考えて そうだった、俺よりまだまだ年下だっけ?なんて事実が思考を甘くもするが、健全性を鑑みれば年長年少の配慮は別次元だし?
「そういや、どこまでカキコできんの?」
「なんのやつ?」
「とある物品に規制条項をだな」
「…子供のおもちゃが暴走してるとか?」
「そうそう、そのカキコ。イケるなら交渉支払いから差っ引くよ」
それがどうしてこうなった?
「できる」の返事に参照として、今までの使用コードと作品傾向を聞いて公表可能な納入先があればな会話して。傾向の偏り具合に、この先の得手不得手の分岐点が読めたが、指示書与えて要所の注意書きを添えたら問題なくできるだろうと判断して任せる事にした。
それだけだ。
「性別化が必要なら、今後は固定化するし!」
「ちょっと待て」
「好みに寄せるように頑張るし!」
「待て待て待て」
「今、完全フリーだよね?」
「…まぁ、それは?」
「なら、立候補してもいーよね!」
「…まぁ、それは?」
「ボク、好かれる努力は惜しまないよ!」
「あれ、ボクっ娘なった?」
「ボク、良いお嫁さんになるよ!」
「なんでカキコの依頼で嫁になる?」
「きゃー!」
「ヒトの話を聞けと言うに」
「はぁい、なぁに? あ・な・た♡ きゃーーーーー!!」
…話が空転するのをどうしたら? それにこれ、どう考えても保身からだろ? 用事があるんだから、もう。
「ええと、他のヒトに言わないでね」
「うわ、めんどくさそうなの要らんて」
「あのね、ボクね。実はね」
聞きたくもなかったが、家主としての実力はあるのに家が作れない欠点話をしやがった。家の土台となる【かたまりだましい】ができないとか家主としての実力を疑うが、こいつに家主としての力がないと言う方が信じられん。
「でね、こうゴンゴロゴロッと転がして〜 良いトコロまでできて成り立ちに移ったらダメになる」
「…それ、手から離してる?」
「ううん」
いきなり悩み事相談室になったが、最初の【かたまりだましい】を作って転がせる時点で有資格。そこで力が足りないと家が可愛らしくなる。それだけだ。なのに家が作れないだと?
「今までできないのは、そこが自分に合ってないんだと思ってた。ううん、いつからかそう思うようにしてた。だって、そんな訳ないって思ってもいたし… でもほら、けーけんちの差と合う合わないは否定するよーなものでもないし? あっちこっち見てはヒトのを参考に崩したり戻したりしてた」
「…ふらふら遊んでたんじゃ」
「一応、見栄はあるからそう見えるよーに」
「…うわ」
「誰かに相談しようかと思ったのは、かなり経ってから。でも、もうその頃にはある程度できたし… 自分で調べられる事は調べ尽くしてたし… そんなこんなで他のヒトからの評価も聞こえるよーになってたし… 聞こうにも、一歩踏み出せない状態なってて… ぐすっ」
「…あいた」
思い出す、こいつの評価。もしや、あれは癇癪も込みでできてたのか?
「元々すごいなぁって思ってた… 今もカキコの内容にそうかって、こうすれば良いんだって。規制条項突っ込んだら普通は特性殺してくのに殺さずに… ボクから見ても元のは下手くそ、それを入れ替えもしない。入れ替える事を考えてない、そっちの方が楽なのに。すごいなぁ、優しいなぁって… ひっく、うっ うっ… ボクとは出来が違うんだって… 肝心なトコで閃かない、使えないボクは ボクは足りないんだって 今、痛感して て」
「ちょっと待て、俺とお前は年数が違う。そこは勘案しろ、な?」
自身に向けた屈辱の加圧で歪んだ顔から、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。できない子供の癇癪に似るが制御を覚えた理性と怒りが交差する顔は、画面越しでも〜 あー、な気分。なんで俺、子守してんだろ?
「ボクらに年数とかカンケーないし!」
「いや、それはそーだけどね!?」
「だから、お嫁さんになる!」
「だから、待て!」
やっぱ子供の癇癪だろ、これ!
「家はできないけど維持管理はできるから! 作るはすっぱりきっぱり諦めても持つのは諦められないからお嫁さんでキョードーするうー!」
「それ、不動産業の一角でできるから!」
「そーなの、ふどーさん漁って誤魔化してたの! 作れない代わりに仕事も兼ねてあちこちキープしてるから! キョードー移行で飛び地拡大、領域倍増、一気に勢力圏が増やせるボクはすっごいお買い得! 評価もアゲアゲ↑サバゲも有利!」
泣いたカラスが気炎を揚げる。
しかし顔も涙もそのままだからノリに乗れない大人の自分がダメなよーでいーよーなんだが、キョードーには夢もあるが容赦ない現実の手間も付随する。名義変更だけで終われない以上、下手に手を広げると俺の理想と時間が潰れるだけだ!
「でねでね、髪はロング? それともショート? どっちがいー? 自分で言うのもなんだけど〜 ボクのメガミバージョン、可愛いーでしょー♪ どうかな、どうかな? 好みかなあ?」
しかし、得であるのも確かな話。
つい記憶を掘り起こし、キョードー維持の概要と配偶者控除の内容を真顔で思い出そうとする猫になる。だが、やはり思い出せない内容だ。
こればかりは仕方ない。
猫首振って顔を上げたら、きゃるん♪になってた。
とぅるるん、ぽん。
「あ」
とぅるるん、ぽん。ぽぽっぽーん♪
押せ押せでイケてたのに邪魔された。誰!って怒鳴りたいけど、入ったのはメールじゃなくて映像通信。
『手紙は一番に渡しておきました』
聞こえる仕事の話。
同じよーに仕事を請け負ってる相手と自分との差にへこむ。
ボクは映像通信のアクセス権を貰ってない。メールと音声通話だけ。今、映像が繋がってるのは緊急アクセス許可を連打したからだし。 …心配しただけだし。管理システムの精査能力が桁違いってのはヒト伝で聞いた。こーゆー時に、それが発揮されるのは知ってる。だから、それを見越して適度に依頼を引き受けてた。
でも、切られたら終わりな自分と権利を貰ってる誰か。実際に貰ってるヒトを思うと 正直、へこむ。だから自分もやらないと、とも思うけど。けど。
『それで二箇所の内の』
話の邪魔をしないよう、大人しく待つ。
普通なら切られてるか保留で待ち惚け。でも、繋がってる。これは仕事繋がりで聞いて良いか、はたまた珍しい失態か。
耳を澄ましてたら、聞き覚えがあるような?
変な音域も入ってないし、合成でもないから高確率で素の声… 同業を思い浮かべるけど誰とも合致しない。でも、どこかで聞いた声。
ちょっと音量、上げてみる。
『で、それがこちらの方です』
どうやっても紹介されただろうヒトの顔は見えない。でも、画面越しの顔が変わったのは見た。
祝! 覗き見の変態を捕縛!
苦労話は綺麗に端折って成果報告してくれる、どーぶつマニアさん。さいっこー! 流石、数多のどーぶつを飼育される事はある。別名が飼育のヒトだからな。
しかし、勝手に空き家に住んでたヒトかぁ…
んで、そんなに力のない弱いヒト。だから、空き家を荒らすにも至らない。その上、届け出についてもよくわかってない。どこの田舎者だと思うが網を擦り抜ける程度なら害にもならないし、仕方ないとも言える。故に生活も、まぁ慎ましいと。
周辺調査もした結果、単独犯であるのが確定。そして更に判明したのが、そんな営みでも勢力圏の安定に繋がっている事実。
うーん、弱者による地域貢献かぁ… うーん、うーん、確かにあの辺は寂れる一方らしいし? だからこそ、犯罪者の拠点としても考えるにぃ〜〜 うーん…
『顔を上げよ』
俺は見た。
その場に座り込んでぶるぶる震えながら、そろっと顔を上げた 彼女。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴォオオオ… ン!
突然、鳴り響く鐘。
襲撃めいた鐘の音は、余韻と共に柔らかさを帯びて変わる。
リィイイン… ゴォオオン…
リィイイン… ゴォオオオン…
青い空、白い鳥、空に舞う花々。
音を変え、再び鳴り響くは 福音の鐘。
リィイイン… ゴォオオン…
『きゃー、花嫁さんだあ』 『結婚式ね、すてきー!』 『きれーい!』
リィイイン… ゴォオオン…
『おめでとー!』 『おめでとうございまぁーす!』 『お幸せにー!』
リィイイン… ゴォオオオン…
そう、それは確かに祝福の。
それこそ何時か何処かで見たよーな! 地上に咲く儚げで致命的な一輪のぉおお!
ゴォオオオン… ゴォオオオン… ゴォォオオオオ… ンン〜〜〜
今、此処にうんめーの花が咲き誇り!
「犯罪者の捕獲ですかあ? どんな罪を犯したヒト?」
「ぅあ?」
現実の罪状に、パリン!と夢が壊れた感。
やった! ぶち壊せた!!
『今、どなたかと?』
「あー、直前まで話しててさ」
でも、やだなー。
あんな顔、見た事ない。つまり、させた事もない… でもでも、もう決めたんだから。そう簡単には諦めない。
『いえ、問題でないのなら』
「えっとー、ご紹介頂いても? だめぇ?」
可愛く可愛く、首を傾げて強請ってみる。だって、顔が見たい。
「あー… まぁ、隠す事でもないか」
「…せーぶつマニアの飼育さんだぁ!」
『え、初めて では? うん? あれ? …ああ、性別変えました? 癇癪ちゃん?』
うん、びっくり。
既に標的のヒトを扱き使ってるとか、びっ〜〜くり。でもでも、流石!
「えー! なんですか、それえ!」
「ぶ」
「ちょっ… ひどぉい!」
実際、聞いた事ない呼ばれ方にぷっと膨れて目を眇める。その目で座り込んだヒトも斜め見しとく。 …ふぅん、こーゆーのがタイプなんだ。 なんて冷静に判断できても、自分とは違う風情にメラッと対抗心が燃え上がる。
ヒト聞きの悪い呼び方にも燃えるけどね!
元々の好みだけはどうしようもない。でも、それで引く気は全くない! 全然ない! これっぽっちも譲ってなんかやらないんだから。
「我らが主よ」
わぁお、癇癪ちゃんってか。
放蕩くんとか遊びやさんはよく聞いてたけどな。今度、由来を聞いとこう。しかし、仕返しだな。あのヒト、飼育さんって呼ばれるの嫌いなんだよなー。
はいはいと、二人のブーたれ遊びを止めようとしたら一位に呼ばれた。
「ご連絡が入っておりまして」
入室してきたので、[後で]と身振りで返すが引っ込まない。
「正規に頂いているご連絡なので」
「は?」
挙句、渡しておいた端末使って画面を呼び出し、即この場で繋げやがった。何やってんの?
「あ、お久しぶりです」
「あ、はい」
画面に映ったヒトに、わー。一気に蘇った記憶に、ぎゃー。そんで瞬く顔に今の自分を思い出して、やったあー。
「今日はとても可愛らしいお姿ですのね」
「いや、お恥ずかしい」
「いえ、違う姿が見られて嬉しいですわ」
お愛想でも、ホッ。
「それに…」
何故か口籠って、ポッ。淡く頬を染めたお顔は相変わらずの美人さん〜〜 眼福。
「まずは当方の製品に対するご意見に改善点のお手紙を頂き、ありがとうございます。それで、あの… 今、お話をさせて頂いても?」
…ごめん、背後が映ってますか。そりゃあ、気になりますよねぇ。
「無視して頂いて良いのですが」
「いえ、そういう訳にも。それに神聖生物愛好家の方には配達を」
「ご機嫌よう、そうそう何時ぞやは融通して頂いて」
「いえ、それは大したことでは」
挨拶を見守りつつ、要件を促せば。
「ええと、お手紙のお礼と… その、愛好家さんから… お子様のことでお悩みとか… お手伝いできることがありましたらと」
どこかもじもじと言われる。やっさしーい! んで、世間話でも言わんでくれーとマニアさんを振り返ったら。もう一方の画面の顔が酷かった。
「あは、お・ひ・さ・し〜 わかりますぅ?」
「……え、あら? え? …お変えになられて?」
「そーなのー」
「まぁ、どういった風の吹き回しでしょう?」
「うふふん」
鼻で括ったよーな含み笑いをした瞬間、二人の女の間で火花が飛び散ったのを見た …気がする。
だから、どうしてこうなった?
「我らが主よ」
「お付き合いがね? 福利厚生お菓子の情報、頂いてるしー。どれもほんとにおいしーんだからあー」
「…ああ、うん。それは良かったな」
「もー、反応うすいー」
一位の非難と二位の擁護。
あちらさんの持ち駒が、うちのあるふぁの救助と送り届けをしてくれた時からの付き合いらしい。報告はしたと言うし、記憶を漁ればなんとなくある。
珍事に一応の礼を出せと言った記憶もあるが… 基本、あるふぁクラスで他家と遣り取りなぞしない。真面に取り合えば負担でしかなく、時に情報戦となる。だから、助け合いがあったとしても現場限りが暗黙でだよ?
その手合いが続きに続いて今では仲良しときたもんだ。しかしだな?
「だーかーらー、ボクがお嫁さんになるの!」
「それはあなたの妄想で願望でしょう?」
「ボクの方が価値があるもんね」
「…まぁあ、自意識過剰なのでは? 癇癪持ちさん?」
「…それ言い出したの、誰?」
「ヒトの粗探しは癖かしら? それとも業? どちらでも治した方が良いと思うわ」
もう、さっきからずっと口撃が繰り返されてて… 立て板に水の喋りに、口を挟むタイミングが掴めない。どーぶつマニアさんから「いやー、羨ましい」と心ない言葉を掛けられ、じと目で返す。次いで、もう一人にも目をやったら。
「わ、わたくしは あの あの子を、 母の気持ちで見ておりました」
現状を全く気にせず、掠れ声で訴え出した。あー、確かにこの図太さはそれなりだ。しかし、ストーカーとは一線を画してやるべき言葉に〜 ちょっと、ときめく。マニアさんのアイコンタクトも受け、耳を傾ける。
我が家を舞台に、うちの子を対象に。
本職さんがやってくれてた。
ぐはー、どんな基準で選んでんだよ。俺の隠れ家特性、大した事ないってかあ!?
交渉情報が増えるのは良いが良い気はしない。
しかし、本人談は主旨が違って「気付けば、あの子は特別で。姿を重ね合わせ」と続いてく。延々と語るは自分ネタで交渉に使えるモノでもなく、残念だ。
「こちらの御方とは 比べるべくもない… 端た女同然の力ではございますが」
うん?
あー、涙に濡れた目で仰ぎ見られたりするとー イケナイ思考が戻って〜 きかけたら爆弾落とされた。
「…はい? もう一度、どうぞ」
「ですから、どうか… どうぞ、あの子の母として御身のお側に居させてくださいませ!」
連鎖が如く、次が爆発した。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「あなた、自分が何を言ったかわかっていますの!?」
「あの子の母に相応しい心構えは誰にも負けは致しません!! 努力も惜しみません!!」
「犯罪者がなんの逆転狙ってんのよー!!」
「…罪状持ちで母となりたい? …色々お聞きすべきはあるのでしょうが、普通そんな押し掛け養母は望まれませんわ!」
「愛情からの見守りの受け止め方が違っただけです! 現に他は見ておりません! 変な口出しも手出しもしていません!」
「きせーちゅーで自分の延命と増強を謀ってるだけでしょー!」
「座に着いた途端に浅ましさを発揮される方はおられます!」
「我らが主よ、聞いてませんが」
「えー、変なヒトはいやー。こっちー」
「手を出してはいません!」
「出すつもりで言うのは馬鹿だけ!」
「それで罪をなかった事に? なんて自己擁護が強い方なの」
「貶めたいだけの発言と聞きます!」
「自分がかわいーだけでしょ」
「過去が未来を示す、それが世の常。行いの怪しいあなたの元で育つ子の未来が不安です」
「上から目線で弾くばかり! それは、あの子に合いません!!」
「会話ないんでしょ、思い込みからの断言? やーだあ〜〜」
「母となる資格でも問いそうな勢いですわね? 何を基準にした資格かしら? 資格と結果を結ぶにおいて、ここまで合わぬものはないでしょうに」
「ならば、私が母で何も問題ないでしょう!」
「ふざけるんじゃないわよ!!」
「自分だけの話のおつもり!?」
「あの子が大事なだけです!!」
「まさか、誘拐する気!?」
「我らが主よ、セキュリティーを上げましょう」
「安全な場所に預ける??」
「我が家でしたら、すぐにでも」
「そこ、待ちなさいよ!」
うわあ、これどうしたら?
一人は、うちのせーれーズを囲い込み。
一人は、情報と土地を手に力と若さでウィンクしてる。
一人は、マニアさんをバックに泣き濡れた顔で必死に言い募る。そんで今もリンゴン聞こえたり聞こえなかったり。
まぁ、音も甘さもカオスにぺろりされてるけど。
元を辿れば、うちの子が。
うちの子が。
うちの子の行いが俺の嫁を引っ張ってくるとか、本当か? しかも全員、立候補とな。そんな高等召喚、できるよーにさせた覚えはないんだが!?
子供が親の嫁(又は婿)を呼び込んだぞー!
これは親孝行と言って良いものか?
今回の副題は『女難の相』かと思ったが、よゆーでナンにも至らず三角で収まった。