221 ある、兆候の途
本日の副題ですが、途でお願いしまーす。
「此処は余裕を持たそう」
「そんなに幅は取れないよ?」
「随時変更可能にしとく?」
「随時より随意の方がよくない?」
「随意変更? こっちで? それとも、あっち?」
「幾つ様式組み込むつもりさ?」
「建て増し予定組む?」
「え、実際面積と容量を超過させるの?」
「下向きに超過問題なんている?」
「枠内に収めなよ」
「収まらなくても繋げれば?」
「じゃあ、隧道作っちゃう?」
「拡張するの?」
「隧道は良いけど… 縦横で形式数、変わるよ?」
「積み増し型は微妙じゃない?」
「横がよくない?」
「だね」
「それで無限の可能性を求めたり?」
「くるっくる回していけば楽しそう」
「回廊にする?」
「そこ、皆で塗っちゃわない?」
「塗った色で先の空間の内容、決めちゃう?」
「楽でよさそう」
「それなら、大体の形式美も決めとこか?」
「はい、そこまで。今は遊びの内容を決める時間じゃないよ。拡張するなら、その「待って、やっぱりそれ危険!」
「え?」
「なにが?」
「なんで?」
「………え、今 終わらない仕事の話をしてたよね?」
「…ああっ!?」
「!」
「なんの話?」
「塗っても塗っても終わらない、あの!」
「「「「 だめだ、恐怖の無限回廊はやめよう! 」」」」 「よ、よう〜」
資料の回し見から始まった議論に耳を傾けてたら、驚くべき壮大な構想を打ち立ててた。それをやるのか!と感動してたら らぁ〜、見事な団結力で却下した。自分達の力量を正しく判断でき、且つ、惜しかったなぁと相好を崩した所で誰か入ってくる。
「我らが主よ、お待たせしました」
「きたか!」
更に笑み崩れる!
俺の元へ歩みつつ、片手をスッと持ち上げる。その手を流れるように胸の前に回して腰を落とせば、そこには期待を乗せた盆がある。
「ご所望のスイーツセットでございます」
「よしよしよし、よーし!」
やっぱこれだよ、これ!
「でさ、決まり事みたいなのあって核が一番下だって」
「え、核?」
「頭? 頭を一番下にするの」
「逆さだから、おかしくないよ?」
「あ、そっかあ」
「そこに収めて到達者が破壊したら制覇だって」
「あそこの一番下って、あの部屋になるよ?」
「待って、正確な距離出す」
「うわ、短い」
「そんなに遊べないんじゃ?」
「子供向けだからいいのかな?」
「いや、飽きられそう」
「単発過ぎ」
「労力に見合わなくない?」
「核って破壊する必要あるの?」
「遊びで壊されるのも、ちょっと」
「映像美にして終わる?」
「その前に一番下に設置する必要あるの?」
わいのわいのとやってるのを耳にしながら食うスイーツが美味い。一仕事の後の糖分は美味い!
「こちらは我らが主が頂いてきたお品になります」
「お、いーい香り〜。お初だな、誰に貰った茶葉だっけか」
俺好みの香りを嗅ぎながら、ごくっと飲めば口の中の甘さと酒精が消えていく… うむ、ストレートティーが美味い。しかし、この口当たり… うーん、なんだっけ? 美味いんだけど〜 あれ、最近こんなの飲んだっけ?
「壊したら自分が困る中継地の灯りにしとけば?」
「模造品でも被せとく?」
「埋め込んで緩衝材巻いとくのが早くない?」
「どっちにしろ、循環回路型で一番下は効率悪いから変更ね」
「え、決まり事どうするの?」
「見本に拘っても仕方ないよ」
「循環型の記載ある? 成長回路型の決まり事なら要らないと思うー」
「それはそうだ」
「それよりさー、吸収線が現存してるよね」
「微弱で地味に啜ってる」
「逆活用しよか?」
「切った方がよくない?」
「基準線にしたらよくない?」
「使うなら、この辺?」
「え?」
「網掛け要る?」
「要らなさそう」
「収束させようよ」
「そうそう、全部引っ張って先端から下向きに整えて」
「あー、吸収線量で出現階位も区切っちゃおうか」
「それ、採用」
「ちょっと待って、網掛け欲しい」
「あ、あのさ」
「階層数を決めないと。確定後の変更は効かないからね」
バクッと最期の一口を堪能。
賑やかな主幹の取り纏めに、内心懊悩。
頭が勝手に精査して、配置とブツに思考が逸れていく俺のダメさ加減よ! 任せると言いながら、口を挟みたくなる俺の忍耐力よ! この甘さの前に平伏すが良い!!
あー、うまー。
疲れてると、この濃厚さがいいわあ〜 いいわあ〜 たまらんわあ〜。
「ねぇ、本当に切るの?」
違う声音で一人が問うた。それでその場が静まり返る。薄目でチラッと目を遣ると妙に深刻そう。
「え、なんの?」
「あ、吸収線? 多少は残すよ? 危険だからね」
「うんうん、毛細防壁は大事だもん。切った後は、ちゃーんと硬めるよ?」
「それそれ、そこで光源を混ぜたいの。こう、ほわあ〜って」
「あー、謎の光る壁」
「イケてる!」
「でしょー」
「うんうん、雰囲気大事〜」
「ええと… うん、雰囲気… 雰囲気がね。 大事だよね。 その辺、ちょっと読もう よ? ね?」
再び戻り掛けた賑やかさは一人が放ったどんより臭に食われて消えた。今度は暴力にも似た静けさが舞い降りる。
気鬱な顔で、剥れる口元。
怖怖な様子見。
「…どしたの?」
「言っていいよー」
「ね、何か見落としたっけ?」
数回促して、漸く開いた口。
「…良くも悪くも、あれはあの子が残したモノで 啜ってるなら、まだ生きてる。まだ、生きてるのに なのに、なんでそんなに簡単に切るって言うのさ」
そこから絞り出すよーな声音はぶっ込みだった。即時撤退、徹頭徹尾で目を逸らす。素早く二つ目を手に取り、視線を固定して目を楽しませる。うむ、ツートンカラーの色合いも良し。実に美味そうだ。
徐に目を閉じて香りを嗅ぎ… しまった、馬鹿か。香りを楽しむスイーツではないというに、俺は何をしているのか。口角を上げたほくほく顔を維持して薄目でささっと得物を取り、器に向けてどーん。もぐっと。
さっぱり、うーまーあ〜〜。
スイーツを堪能する顔でダメさを隠し、一切なにも聞いちゃいねー顔しとく。視線を感じるが口は出さない、挟まない! そうとも、これを助けるのは簡単だ。しかし、助けるなど 甘くて美味くて全くもってできそーにない。
何より断じて俺の不徳の致すところとか言うよーうーな たらり〜とした あー、生クリームなんてまじ飲みもーの〜 お〜 ズズッとな。
「そうだった」
「ごめんね、気が付かなくて…」
「こ、こっちもおこ おこって」
「反省してます」
「待て、お前はまだ生まれてないだろ」
「でも」
「いやいや、それを一緒にするのは」
慰めて〜 上がって、逸れて、戻して回す。
捻れてもいない全員のもじもじと譲り合いと褒め言葉で〜 少々時間を食ったが気概と討論の息を吹き返し、再び勢いを取り返した。沼になりそうな湿っぽさから全員で脱却した。一人とて、『今、そんな事を言わなくても』とか『どうしろって言うんだよ』とか言わなんだ。かといって、『失言だった』とも言わなかった。
実に宜しい。
意を汲み取るとは、こうでなくては!
言われて気付く反省はあれど失言だと判じなかった。その場の勢いに押されず負けず、正しく俺の意を汲んでいるのが偉いっ! てか、指定外対象物を特別視されても困るんだわー。
しかしまぁ、見事な葉脈残しまで後一歩だから枯れ切る最後まで待ってやりたいのも、わからんでもない。芸術品だしぃ? だが、それを言い出したら他はどーなんだよってな話でもある。
「まだ生きてる」
「うん、生きてる」
「生きてるから活用できる」
「そう、生きてるからこそ 次への変質が可能なんだ!」
「そーだ、そーだあ!」
「いやっふー! やっちゃえー!」
「ちゃえちゃえー」
「いまのうちー」
「やったがさいごだ、ゆうしゅうのびー!」
「「「いーきてないから気にしない〜 きゃーーはははははっ!! 」」」
心優しく、いーたーみー なんて思ったら違ってた。
「「「 かーえる、かえる みーんな、おうちへ かーえる げっこ、げこう〜〜 ♪」」」
『にしし』、『いひひ』。
そんな擬音がめっちゃ似合う、実に楽しそ〜うな顔でぴょんぴょこしてた。
かわいーんだが困る。
一番若いのがついていけなくて、まごまごしてるのが可哀想で可愛い。しかし、直ぐに真似をしてぎこちなくも『うひひ』顔を習得して、ぴょん…
だー、も〜〜 どーこであんな顔を覚えたんだあ? 俺か?俺か? あーんなぴょんぴょこした事ないぞ? あーゆーのは絶対ナニか見て覚えたんだ。刺激からくる取り入れだ。でないと、うちでそんなん覚えられるかい。
やっぱ、外部対応の子達の資料映像が娯楽に〜〜 あー、うま。検閲とゆー二文字がちらつくのが悩ましい… そんで器の底のクリームも悩ましい… 解決方法はと言えば、残しておいた具材をくるっくる回してクリームを舐めるよーに よーにぃ〜〜 最後は器を傾け、飲み干すよーに食べ切る。ごっくん。
「…じゃあ、これで採決」
「異論はないねー?」
「ないよー」
「いいよー」
「よし、我らが主よ」
「んがが?」
三皿目を、がぶってた所で呼ばれた。
雑把な図案に、ふーんのほーう。
ダンジョンとアスレチックの併設、これをどう持ってくるか。初めての試みにどう対処するかが楽しみだった。それで俺の評価が出るからな。
ダンジョンを骨格に据え、アスレチックルートを巻き付けたり交差させたりしてた。所々に覗き窓がある。これを問えば、にゃんにゃんアスレチックフィールドは子供の為の施設だが、使用する子供は一人。一人遊びは、いつ寂しくなるかわからない。そんな時、ちょいと覗けば人が見える! これは強み。そもそも併設、入り口で別れる迄の通路は同じ。それを理解して音が聞こえないのも、おかしな事。今回の音は安心要素。ならば、特等席で見せるが一番だ!と力説した。
「頭が入れば、全身が抜けるタイプだぞ? 落ちようとは思わんでも、うっかり落ちるのが子供だ。頭が一番重いしな」
「セーフティネットは万全です。動力は吸収線から引っ張るので問題ありません。意図的に飛ばれても困るので視認は不可にしましたが受け止めた時は光ります。また、落ちない登らせない乗らせない為に、何もかもをぴったりに! 何より、させない為に意識させます!」
「ほう、その心は」
「交差地点での窓から窓へのジャンピングルートです! 他に道はありません!」
「おう、思い切ったな!」
スリルあるアスレチックができそうだ。しかし、ぴったりはぴったりで問題なので走り書きをしておく。
「…うーん、逆手にねぇ」
「作られた年代と構築方法、現存する吸収線。予測では、この辺りから脆さが出ているはず。これを、こう活かそうと思いまして」
「…硬めずと」
「スリルが味わえるかと!」
「崩壊したら?」
「隠しルート解放で」
「…うぅむ、そうではなくて」
「崩壊こそ、人の心を煽るもの!」
「面前の危険に煽られる奴は… おらんでもないが」
「ちら見せで釣ります!」
「いや、だからな」
「巻き込まれには奇跡で対処します」
「…そう?」
「はい、記載回数以上の崩落は作為となります。なので、限られた『奇なる跡』に相応しい愉快な体験を誂えた方が良いと判断しました!」
「ほう! ならば、よし」
「ありがとうございまぁーす」
『作った奴、人を馬鹿にしてるだろーー!!』
そんな怒声が聞こえる救助な気もするが… ちょいと手を伸ばして食い掛けをぶっすり、口に放り込む。うむ、しっとり感もまた良し。
「…以上を持ちまして、ダンジョンとにゃんにゃんアスレチックフィールドの躯体の概要説明を終わります。これを元に図面を引き、試作品まで作ります。作品のスケールは普段通りです。躯体の強度が見込みよりも大幅にずれる事が判明しましたら、ご連絡をお願います」
「ん〜、強度不足は考えなくていーわ」
「…全面許可?」
「従来ならやらんが今回は別だ。崩落予定地以外は俺が硬め直す。それと吸収線も弄って、お前らの希望通りにしよう」
「はい!」
キラッキラの目に苦笑。
提示見解は良かったが、ちょっと早口で説明を遣り過ごそうとした点もあったから〜 俺としても、まぁまぁなんだろう。
「それで、内部についてですが あの〜」
「うん?」
「我らが主はダンジョンの最下層… 終着点に何を配置する予定でしょう?」
「あ? 何をって?」
「ですから、攻略対象です。頂いた資料には討伐成功でご褒美が、とか書いてますけど…」
「あー、それか」
「ダンジョン内部で一番強くて、この世で一番強いとか何とか」
「我が家の最強は俺だよ。んで、下の中で一番強い子はダンジョン予定地の上の家に住んどるわ」
「ですよねー」
「攻略対象外だっての」
「なら、どうしましょう?」
「ないと無理かな?」
「対象が不在ですと調査後は難しい気が… 【到着、おめでとう!】にして宝箱でも設置します?」
「それなぁ… いかにも〜な宝箱なんぞ置くのも、どうかと思うんだよなー」
「では、本当になしでやりますか? ダンジョンは定期的にパターン組んで音響でも流せば良いと思いますが、御子様の方は…」
「あー、うーん… ないと遊び場として魅力ない?」
「いいえ、なくても楽しい場所だと思います!! ですが、その あの、この資料読むと… それに、遊んでも一番下まで行き続けるかなあって気も」
「あー、何もないから降りないと」
「競争相手がいれば違うと思いますが… お一人ですし」
「真剣にやる子はやるんでしょうけど…」
「遊びの醍醐味を強くするしかないんじゃ?」
「行きと帰りを別々に作り直す?」
「でも、疲れて戻るのしんどい〜とかありそう」
「帰りは登りだもんね…」
「休憩所を作ろうか?」
「緊急用避難ルートを帰りのルートに設定する?」
「何か持って帰るなら、ルートなくても頑張れない?」
「その場で開けて捨てたりしない?」
「え、ゴミ扱い?」
「ゴミ処理も必要なの!?」
「だって、他に誰もこないんだよ?」
「それなら、何か退治した方が」
だんだんと俺が画策するアスレチックフィールドの概念が揺らいでいく… ダンジョンもアスレチックも楽しい楽しいお遊びでしかないんだが…
宝箱も肉ダネも考えた。
楽しく考えた。が、実際に新システムの導入となると話は別だ。
しかし、数回の調査で終わらせないよーになんぞイキモノを配置すると。そしたら〜 全討伐後は即時閉鎖するな。湧き出させたら楽しくなるが、今度はあの子が使用禁止を言い渡される… それか、怖くて自主的に行かなくなると。
「最終手段、無限回廊…」
「だめだよ! それは危険だって!」
「禁じ手には理由があるんだ!」
「そんな最終手段いらないよー」
内輪揉めに震え声も可愛いが技術破綻は勘弁しろ。だが、だーれも遊んでいないアスレチックを想像すると… さ、寂し… それに廃れてないのに廃れた状態は… 悲し〜。
『飽きた、詰まんない』は敵だ。
年齢が上がるに連れて足が遠のくは問題ないが、ある程度は長く遊んで貰いたい。アスレチックの造設はノリと勢いで決めてない。
あの子、ちょっと運動した方が良いんだよな。水、吐いてるし。
単純に上手く取り込めないのなら、我が家の精霊達が作った構造物で遊ぶのは有効だ。吐いてわかった以上、苦手意識は生じるもの。治癒で治らぬものなれば、できれば辛さも苦痛も省いてやりたい。だから、アスレチックなんだ。
「でも、増改築は」
「資料には瘴気がどうのとありますし、そこからぐるぐる回してるけど…」
「それ、元から却下案件だって。ね、我らが主よ」
「俺のクリーンシステムは今も正常に作動しとるわ。ヘボい設計もしてなけりゃ、早々にイカれる安っぽい作りもしてないわ」
「ですよねー!」
「さすが、我らが主です!」
「かっこいー!」
「うむ」
あの子には、健康で 文化的な 最低限度の体力はつけられる遊びをさせてやりたい! そう、健全に 実直に 遊ぶ楽しさを!!
その楽しみにナビは要らん。
迷子防止の必須アイテムがあったら冒険にもならんわ。最初のワクワクもドキドキもないのが楽しいなんておかしいだろ! 勇気の一つも振り絞らないで何が冒険だ!! 複雑な迷路にするでもなし、要らんて。
どうにもならん場合は、ヌイグルミとなったあれを遣わそうと思うが… あの子の爪と牙の対策をしてからでないと無理だ。
だが、どれだけ遊べば慣れるのかがわからん。中途半端な元気さで終えたら『最初に戻る』になりそうで… それが そうで そうなると〜〜 物で釣るのが正解か? しかし、元気になったからと出した玩具を引っ込めると…
出ないとうろうろする姿に、徐々にしょんぼりする姿。
今日は出るかな?出るかなあ?と淡い期待を込めて待つ姿に、ちょんちょんと猫手で突っつく姿…
くうぅ! 可哀想で可愛くて一度出したらやめられん!
仕方ない、出すなら回数クリアでやるか? そしたら、伝達系システムが必要になって… しかし、『あと、何回!』で頑張るのも事実。このシステムは簡単だが、どんなタイプにするかってのと〜 どこまでやるかだろー? やるなら、ダンジョンとアスレチックの両方でやるのが基本でぇ〜 しかし、そんなんやったらあ〜〜 あー、あー、あー 家のコンセプトに合わねえぇええ〜〜〜〜〜 虚し。
「よし、決めたぞ」
「はい、どうしましょう?」
「家のコンセプト、ちょっと弄るわ」
「はい?」
「これ以上やったら、大人の隠れ家っつーコンセプトに合わねえわ! くそお!!」
「ええ?」
「我らが主は、どっかスケールが違うのね」
「でも、それが我らが主でしょー」
「急がなくていいの?」
「さあ?」
「あの子、あそこに定住するのかな?」
うわ、頭いたー。
そーだよ、熱出してもちょろちょろどっか行くのが子供じゃねーか。
せめて、独立系システムにして何時でも切れるよーにしたかったんだが… 移動を視野に先々を見据えるとワールドワイドウェブにした方が楽か? 今、ワールドワイドにしてて、あの子の通り道として直ぐに使えるラインは〜 給餌ラインか。やべえな。突然のフードの奔流に飲まれて『わあーん!』が見えるな。その後どうなるかなんて考えたくもないな。
かといって転移系は、うちの子との差別化に繋がるからしたくない。体力作りの為に転移させるのも、どうかと思う。それなら普通に走っとけ。
やあっぱ、無限回廊で一発解決させるかあ?
カチン。
「ん?」
…思案に暮れて、もう一口と手を伸ばしたら全部食い終わってた。じゃあ、茶をと思ったら、そっちも残ってなかった。
仕方ない、あっちもこっちも決定打に欠けるが準備だけは万全にしておくか。んで、駒は全部任せよう。宝箱も中身も障害物も肉ダネの製造もその他も、もう全部やったれ!!
「やった、好き放題できるー!」
「倉庫、行ってくるー!」
「今だ、使い込めぇええー!」
「絶対足りなくなるから増産頼んどくねー!」
「あっちのも追加依頼しといてー!」
蜘蛛の子を散らすよーに駆け出してった。
「……うっわ、なにいってんの? あの子達は」
「我らが主の名に相応しく仕上げる為ですから」
『ぷくく』な目で『うくく』な口を手で隠して言われても、『うきゃきゃっ』しか見えん。こーゆー時に財力は惜しまないのが俺の主義だが… こっわーあ。
「でも、ほんとにいいのです?」
「いい、いい。その代わり、売れる物にしとけ。使わなかったら売り払う。肉ダネは最悪、鳥の餌にでもすりゃあいい」
一つ決めたら、仕事が増えた。なくなりゃしねえな。
「では、躯体と施設内部の設備その他を引き受けました。安全に配慮した楽しいものにしてご覧に入れます。それと、肉ダネですが増産体制を取りますか?」
「それな。後、売り物としてのランクをだ」
ちょいちょいと細かい事を決めて、ほい。指示書を持たせて後は任せた。
「悪い、これ返してきてくれる?」
「はーい」
ポッケに仕舞う間に盆に食器を積み上げて、差し出す両手に乗せてやる。
見送って、時間を見ると思ったよりも経過してた。沼に落ちなかったから、よし。その為の時間なんてかわいーもんだ。そーだ、時間に追われて泣くのは俺だが逆転させるのも俺だ。
「完全に糸が溶けたと思えば、時間なんてえ〜 っと」
着ぐるみを手にして、確認。
猫耳、脇の下、指の部分、尻尾、子供が戯れて噛みそーな部分は気を付ける。特に尻尾は取れたら怖い。
「よし、肉処理すっか」
このまま普通に処理すると裏地がガチで革になる。それは蒸れるし、伸縮性は欲しい。それと匂い付けも必要だ。
着ぐるみを台に広げて整える。
糸も縫い目もない代わり、着るも被るもできない着ぐるみの顔の部分から手を突っ込んで。力を込めて、じゅうっとさせたら はい、終了。
着ぐるみ内部で力が広がり、瞬間的にブワッと膨れて暴れるが、指の部分からザアッと抜けてく爽やかさ。まぁ、フード内で逆流したのが俺の顔を直撃したけど。
「後は、毛を櫛で梳いて 子供に優しい雰囲気、フローラルケーア〜 いや、俺の力を付けたばかりで何をだな… 他にやるなら防水スプ あー、子供が噛むからやったら拙いか。艶出しもやめとこ」
「ん、こんなもん」
梳いて梳いて綺麗にしたら、次は撮影。
ピッ ピッ ピピッ
枚数撮って作品ファイルにポンポン放り込む。作品名はまんま、『猫の着ぐるみ(灰色)』にしとく。これで次にタグで作る時も簡単。
さて、試着するか。
トルソー代わりに吊ってたフックから降ろして両手で持つ。正面から見ても実に良い出来。ボタンもファスナーもない一品で思い出すのは、刺草の娘… 鳥にされた兄弟を救わんと、沈黙の業を行いながら素手で刺草を編んで服にした。どうやって鳥に着せるのかと思ったが、放り投げて当たったらイケてた。解除の容易さに閉口すると同時に、時間を掛けただけの事はあると納得した。
そう、これも同じ。
ボタンもファスナーも前立てで隠せばイケる。それを敢えてしなかった、この誠実さよ!
「それっ」
手にした着ぐるみをバッと宙に放り投げ、向きを正面から背面へと反転させる。反転後、くたりとした着ぐるみのフードが持ち上がり、猫耳も綺麗なシルエットが生まれる。尻尾が揺らめけば両足が揃ってピンとなる。落ちた袖は腕を伸ばすが如く横に伸び、十字の形に。
俺自身が同じポーズを取り、むん!
それだけで即座に着ぐるみが反応、動き出す。十字を維持し、静かに宙を滑りきたる着ぐるみ(背面)を待つ!
引かれるは性質。
惹かれるは同化。
それが面と面に至れば一心同体。そう、これこそが合体!! はーっはっはっはっは!
壮大な音楽が流れて盛り上がるでもなく、極々ふっつーうに一体化。着ぐるみを着た。腕を上げて〜 脇を叩き〜 腰を落とし〜 膝を曲げて〜 これまた普通にストレッチ。うん、密着性も問題なさそう。
運動しつつ、姿を見ようとその場でぐるーん。
姿見に映る自分を見ながら肘を掴んで胴を捻り、腕を伸ばして右左。背面伸びをして〜 満足。遠目で見ても問題ない。
十分に体を解して、準備万端。
「んじゃ、あの子を真似てみよーかね。 そーれ、にゃんぐーるみぃ〜」
ちょいと飛んで、くるんと回って、スタッと降り立ち。
灰色の子猫に転身した。
たったかたーっと姿見へと走る。
おお、これが俺か!
鏡の前にちょこんと座る猫の自分… これはヒトが釣れるか?釣れそうか!? なーんて内心ネタ振りしながら右に左にポーズを決めて、体を回して、見返り猫。片手を上げれば、見える肉球。
姿見に、ぽんぽんスタンプしてみた。
良い感じだと爪を出してにぎにぎ、足の爪もよしよし。猫髭も良い感じで、口を開けて舌も出す。ベー。
抜かりはない。よっしゃあ!!
「しかし、あれだけの生地を使ってこの面積… ま、それだけ毛皮の密度も高いし、あの子よりちょっと大きいし」
密度で高温になると辛いが、ガードが効くともいう。それは子供に蹴られても、痛くないってこったあー。よし、ちょっと行ってくるか。
ぺん♪
「ん?」
ぺん♪
ぺん♪
ぺん♪
あ、連絡か! やっべ!
ぺん♪
駆け出し、机の上に向かって とーーうっ!
ぺん♪
ぺぺん♪
我が跳躍に問題なし! 端末を手に 手に 手にできんから、肉球で押すが反応がうっす〜 え、変な遮蔽してる?
なんでだと肉球をまじまじ見て、端末を見る。
ずんちゃちゃちゃっ♪ ずんちゃちゃちゃっ♪ ちゃっちゃーちゃちゃー♪
「うわ、そっこーで入った。おし! はいはいー」
「仕事おわったー、報酬ちょーだーい」
「まだ見てないー」
「なんでー」
「今、タップがちょっとー あ、イケた」
「へ? 調子悪い? 送ったの、ちゃんとでてるー?」
「いやー、ちょっと手がさあ〜」
「怪我でもした?」
「お」
映像通信に切り替わった。
「ひぎゃああああああああああああ! なに、そのすがたあああああ!!」
「可愛かろ? 要領がわかった、今から見るからちょっと待て。んで、説明頼むわ」
「ううう、うそうそうーそー そんな趣味あったんだあああ!!」
「ないわ」
「へ? じゃあ、なんでうやあああああ!! 売るから写真! 写真ちょーだい!」
「売るな、やらんわ」
「えー、君のアンチに売ったら絶対面白いってえー」
「肖像権、わかってるか?」
なーんや勝手に写そうとしてるから猫手で阻止。
「あ、ちら見せもいーね! にくきゅーアップ〜 これも売れそー」
「売るなと」
しょーもない攻防で、はたと気付いた。即、背を向ける。
「あ、後ろ姿もいー」
サービスで尻尾をちょいと振るが、俺の姿はあの子の姿。あの子の姿を模しただけ。ちょっと大きいけど、基本はあの子。これで写真がばら撒かれた日には〜 ご父兄、どう出るだろな。
気にしないかな? 気にすると思うけどな。
「こっち向いてー」
流出と責任問題、嵌める相手と巻き添えを最善とした場合。粗利でどれだけ出るものか… 気になるな。
家主のスイーツセット。
一皿目、ねっとり濃厚ネグリタラム。(濃厚チョコレートケーキ・スクエア型)
二皿目、あっさりさっぱりレモネードパルフェ。(生クリームとレモンゼリーのパルフェ)
三皿目、しっとり甘酸っぱベリーベリーベリー。(三種のベリーケーキ・ホール型)
ストレートティー。(サバゲーMVPで貰った物の一つ、茶っ葉。製造過程で命の水を使用した最高級の一品)
命の水が含まれるので、エナドリ系とも言える茶葉。過去、本文に記載した命の水の製造方法とは違う物と思われ。
本日の精霊。
みゅーが4、さんが1。計、5体
その内、1体が樟脳が漂わない問題を知らない世代。
某二箇所で「」の数を削りましたが全員でコールしてます、げこっこう〜。