219 ある、現実の壁
ピンポンパンポーン♪
今日は時の記念日です。午後11時をお知らせします。
真っ黒な熱意は置いといて。
この煌めく目の為に、ヌイグルミの目を用意するとしよう。
「我らが主よ、どの二つを使います?」
「…うん?」
「色目なら、さんとぜーたが無難でしょうか? それとも、ぜーたとしーた? どの合わせも素敵ですが灰色ですし、片方は明るく、さんの星が良いと思います」
涙目から一転、うきうきと虹彩異色を語るから。俺も釣られて想像し、それはそれで可愛いな〜ってぇ 危うくその気になる所だった。やばいやばい。
「怖い事を言うな、お前」
「は?」
「大体、使われなかったら寂しいだろう?」
「? 星は三つで目は二つですよ?」
「使われなかったら拗ねると思わんか?」
「他の形で使えば良いのでは?」
「それ、目に勝ると思うのか?」
「…それなら、目をもう一つ?」
第三の目を持つ猫を想像。
如何にもな姿は俺のお使い猫としても、さーいてき。
つい、ヌイグルミを横目でチラリ。
額にサクッと切れ目を入れて、三つ目に。
うん、それはできる。かーんたん。但し、切れ目での嵌め込みは要注意。目の縁を綺麗に縢ってやらないと宜しくない。なんだったら、アイライン的にしてやってもいい。あ、ちょっと派手?
「イケてるが、その姿は似て非なる〜 自分と同じでないと怖くないか?」
「…目が三つあったら怖いと泣かれますでしょうか?」
顔を見合わせ、更に想像。
子猫の冒険、てってけてー。冒険の先で見つけた自分と同じ後ろ姿。やった、仲間だ!お友達! 大喜びで駆け寄って、こんにちは!
振り向いた顔には目が三つ。
「ふんぎゃああーー!!」
同じに見えて違った衝撃よ! 一目散に逃げ出した。泣きながら逃げた。ぽつんと取り残される、お使い猫…
「みゃあうー」
そこから縋るで始まる追い掛けっこは縺れる毛玉がゴンロゴロゴロ! タッチですまないタックルでしがみ付かれたパニック子猫の行く末は如何に!?
「…いや、頻繁に会ってりゃその内きっと慣れるだろ。無害で優しく寂しそーな目をして見てたら陥落するする。良心をザクザクしたら、うろうろ猫になるだろし? しかし、その間と… 本気で慣れなかった場合か。そーなったら、一番可哀想なのは誰だろな? 慣れなくても絶対に会うあの子か、拒絶され続けるお前か。どっちだと思う?」
「我らが主よ、二つ目でお願いします」
子供の為に見目より心… ではなく、見目の実を取る事で一致した。しかし、よーく考えんでも肉無しだ。第二形態だろうが第三形態だろうが! そんなもん必要になった幾らでも後付けしたるわ、任せろ! はあーーーはっはっは!!
「それで我らが主よ、色目ですが」
「おう、両目とも同色でいくぞ。それで三つ全部使うからな」
「…混ぜるのですか? そんなに綺麗なのに?」
「あの子と同じ色目にはならんけどなー」
「…本気ですか?」
不満な顔を無視して戸棚を漁りに行く。昔、ここに余りをだなぁ… よし、あった。
「ほれ、これを使う。裁縫用より、ちょーっと凄いんだぞー」
透明の義眼を見せて自慢する。
今からガラス玉の類いを細工するのが面倒とも言う。ちょっと時間もあれだから、わかってくれ。
「ほれ、ほーしを ひーとつ 入れまして〜」
入れると言っても全部は入れない。
こんなのに全部入れたら震えるわ。投入量を迷う頭だったら、もっと震えるわ!
「一つで、すーこし みたしましょー できたら、次はフォーカス しんしゅくせー」
最初にぜーたで義眼をちょぽちょぽさせたら、次は補助機能。単なる義眼に筋力なぞない。しーたで肩代わりさせて絞りの機能もつけてやる。これがないと生きていくのが大変になる。
「さいごは、ほーしで 色をつけ〜 ちょい、へんかあ〜」
んで、表面の配分量と全体統合。
すすすすっと揺すって〜 ほい、できたっと。うん、さんの星が効いてる。
「見ろ、できたぞ。猫の目だ」
「…わぁ」
三つの光が適度に混ざる色彩変化。色目、不思議目、気紛れ猫の猫目が完成。一般個体とは一線を画すが、一見して問題ない猫目の特徴がよく出た目ができた。
「我らが主よ、とても素敵です!」
「そうだろう、そうだろう。星の力を存分に使ったからなー」
「…え? あの、残ってますよ?」
「これでいーんだよ」
「…存分とは何を指しますので? 残りを見るだに十分とは」
「いーんだよ、これで」
「…そうですか?」
「そう、これで良いの」
「… 」
あからさまな不満顔に、どこまで説明したものか。しかし、この子に察しろと言うのは難しい。 …いや、それは偏見だ! 二位とて思いがけない成長を見せてくれたのだ! アリスリアコードだからと決めつけては はあ〜 あ〜 悟らせるより諭すが早いか?
「あのな、全部使うと重くなる。下手すると目からビームができちゃうんだよ」
「? さんの力が表立ったらいけないのです?」
「あー、そっちに取っちゃうー」
困ったな、説明を聞いた上で肉無しを選んではいるが… うーんうーん、多分こいつはわかってない。選んだ理由も生きたい理由も、全てが感情。まだまだ心のケアが必要な時期に現実を突き付け過ぎると、迷いと絶望が〜 まぁ、事実は事実。さっくり言っとくか。
「あのな、お前が選んだのは肉無しの器なの」
「はい、少しでも長くと」
理解と実感が出るのは、別。 …飛び出る遊びをしたのは何時だったか、こいつは居たかな? あ、やめやめ。
「どれだけ良くできても、これはヌイグルミの目」
「はい」
「完成するのはヌイグルミでしかない」
「? はい、私が入って動かす器」
「そう、器な。ヌイグルミが動いても、それはどこまでも生きてる風なのな」
「はい」
「なら、器と肉体の違いは?」
「? ? 肉の有無だと… 思います」
「その肉に付属するのは?」
「? …器?」
ほら、こうなるんだよ。
「ええと… ええと〜 我らが主よ、肉の器に入ったら出られません。でも、我が意に従い動きます。肉のない器であっても、この身の場合は同じ事。救命措置故に出れません。でも、これも我が意で動きます。肉があると存命期間が短く肉がない方が長いです。 違います?」
「合ってる」
「? 何が問題で?」
「構造の違いを問題として捉えられない事実が精霊としての有り様を示し、正しく精霊であると認めさせるが、その生き様と存在の理由が問題に行き着くから困るんだわ」
「はぁい?」
肉質に肉の重さを根底から理解しないのが精霊だ。だから、黙ってその辺は俺が調整してやらねばならんのだがー あー 仕方ない、ぶっちゃけるか。
いやいや、待て待て。
同じものでも違うもの。実感を得れば怖くなる、ぶっちゃけるにも衝撃緩和策が欲しいところ。だからあ あー、考えるのめんどー。
「我らが主よ… それは有り様が… もんだ、い?」
『自分が存続しては駄目なのか?』と問う目に、『何いってんの?この子は』目を返す。一気に安堵した目に、何か違うが衝撃緩和ができたよーなので此れ幸いと講習を始めよう。
「…だから、この義眼も肉でなら本物に。つまり、視神経ができて繋がるのよ。肉と。わかる? で、肉無しだと繋がるものはない。ヌイグルミだから。この義眼を覗けば見えるけど、目そのものはお前が動かさないといけない」
「…どちらも自分の力で視るのでしょう?」
「…そうだよ」
「ならば、何が変わるのでしょう?」
「変わるではなく違いを理解」
「? どちらも自分で動かす違い? 容量? 平均な あ、動かすのに必要とする固定値の違い!」
「…間を挟む、又は通すものが有るか否かだ」
「…はい」
「一番わかりそーな問題な。光の、さんが、単独で、製作した星を、お前の目とした場合、闇が光を覗き込んだらどうなるでしょう?」
「…あれ?」
「これを通す!」
頭をぐるぐる回してるのが見て取れる。
肉を選んで早めに還ってくれる方が嬉しいが、終生馴染めず、ずっと泣き続けられるのも辛い。その時に『お前が選んだ』と正論を投げて終わるのは好きじゃない。理解しなかったのかと馬鹿にするのは程度が知れる。
真実に責任は付随しないが、そうと口にするだけで そう、たったそれだけで 道が見えなくなるんだなー、これが。ちゃんと有るのに。
その点、肉無しは遣り易い。
その意味では、俺も〜〜 安堵してるのかねぇ…
「我らが主よ、大変な事になるところでした?」
「おおう、まだ疑問系。何が大変か言ってみな」
「他の皆と同じ物を視ていても、自分の視るは反転で さんを通すは適さない。さんの星だけを目にしたら… この先… この先、ずっと何も見えない確率が!?」
「はい、正解。紛れもない闇のお前に、さんの星を目にしたら焼けはせんでも常に眩しい白内モードになるんだなー」
「わあわあわああ〜〜」
良かった、一つ理解した。続けて次も理解してくれ。
「じゃあ、次はわかるかな? どうして、少量でもさんの星を使ったのか? 使われないと寂しいは、もう言いました。他でね」
「……使う理由。 理由。 …必要とする、必要とした」
アリスリアコードは統率者としては不向きだが、おめがシリーズなだけあって集中に入ると見違える。地は悪くないんだから頑張って欲しい。
「わからないけどわかりました! この先、生きて行く上で皆に感謝が必要なのです!」
「前半と礼儀は適ってるが、そうじゃない」
時間を掛けてもダメだったかあ〜 残念、必要が特徴と結べなかったか。
「見栄え以外にわかりませんでした…」
他と比べ、アリスリアは繋ぎがちょっと弱いんよなー。そうしたの、俺だけど。でも、普通にわかってはいる。
「見栄えで合ってるよ」
「えー!?」
「意味は違うけど」
「…えー」
「さんの光で肉眼らしさを出す、それは見栄え。で、もっと重要なのは義眼を通して光を取り込み熱に変換できるから」
「目からびーむ」
「…そっちに振らなくていーからね?」
教えた活用が早過ぎても困るんだわ。
力を振るう方向性の理解と即決が高いのはシリーズの特徴で良いんだけど困るわあ〜。
「びーむ」
「…ガチの出力には、ちょっとね。んで、そんな事やったら特異じゃすまなくて三つ目以上にあの子に怖がられるんじゃない? 良いの?」
「あ! …でも、「義眼が焼ける可能性を忘れるなよ」
「あ! …うー」
「…今、手法を考えないの! んじゃ、どうして熱を必要とするのかな?」
無理やり話を引っ張ったが、どうしよう? 課題に取り組む感が出てて困る。戦闘仕様への飽くなき熱意なんて組み込んだ覚えはないんだが? あー、あれか? 基本的に関与しない戦闘への憧れか?
「…ビームに気を取られない!」
「は、はい!」
こいつも存外、余裕だぁな。
「…生きた状態」
「そう、下に降りるなら見せ掛けでも状態が必要なの。だから、見栄えなの」
取っ掛かりから、やーーっと答えが出た。
「お前が入れば僅かでも質量は増す。しかし、熱量にはならない」
「…異常性」
「そう、熱量だけで認識する子にとっては単なるゴミ。でも、両方で認識できると異常だよね? 見回りの子らの手段は常に複数。感知力も高めだし、異常性から敵認識されると抹消対象。囲まれたら、お前 難しいかもね」
「あああああ」
考えた事もなかった事に声が震えてる。まぁ、下の子に敵認識されるなんて意識外だもんなぁ。
「他と触れ合わなくても、あの子は別だろ? 毛並みで返す熱に摂理はない、おかしいと思えば怖がられる」
「あああああ」
「俺の使いが一歩引かれる対象になるのは悪い事ではない。寧ろ、正しくある。だけど、会う度に畏まられて終わり〜 なんてそれこそ寂しいだろう?」
「はい! 光を熱に、完全なる擬態を目指します!!」
「良い決意」
見ろよ、この顔を。
覇気も生気もなく、小さく丸く固まってたのが嘘みたいだろ。
体温としての適度な温度と風と水での調整を教える。こればっかりは教えとかないと耐久実験で毛皮を燃されても辛い。
「本当に皆の星に助けられ、生かされて…」
「おう、どの組み合わせでも構わんが三つ以上は却下だったからな」
「はい?」
「お前、すっげえやばくなるから」
「? 星の一つもぺろりとできなくなったのに、やばいのですか?」
「本気でな」
「どうして?」
「擬態可能な見掛け生物」
「…はあ」
「闇の本体に土を喰ったろ? そこにちょびちょびでも光と水と風が追加されるとだな。お前、五属性になるんだわ」
「…そうですね?」
「他家でもな、全属性がどーのと騒ぐ事は聞くが基本は下の子。精霊が精霊である所以を語ると一体の精霊が複数属性とか聞かんのな。精霊王も分類すると属性でどーのが基本だし、うちで精霊王と呼ぶならあいつだし? 詰まる所、属性は根元と馴染みとモタせられるかってな話でもあるんだが〜 お前、肉無しだから一応精霊枠な。で、外部じゃなくて内部装備。一体の精霊が五属性なんて本気で非常識なんだわ」
はあ〜〜っと義眼に息を吐き、キュッキュッとクロスで磨いて綺麗にする。
「えーたはわかります… でも、あの、え、内回し の、他… 他!? 外部干渉に使え!? え、しても!? 本当に!?」
「目からビームは論外にしとけ」
キラッキラの目に、どうしてか戦闘が透けて見えて怖い。どこで何をする気だっての、家の中で振り回すんじゃねえぞ?
「おおおおお、お使い猫として! 下の子達の前で、さいきょーを誇る「前に訓練な」 え?」
やっちゃえるぞコールを折っておく。
義眼を入れてた容器に納め直して保存したら、次は鋏と。
「お前に一足飛びは無理でしょ」
「何がです?」
「お前、どうやって力を扱うの?」
「え?」
「えーたをぺろりとしたところで根本は変わらんのよ?」
鋏を持って、吊るした生地へ。
上部でガチった輪っかを下ろして元に戻し、毛皮地をぎゅっと握ったら乾いてなかった。
「…はい、何も変わった感じはなく」
「…そーだろなー」
ガチ留めで乾燥入ったつもりになってた。やっだなー、そーゆーのしないから吊るしたってのに。俺の頭、無事かあ??
感覚ボケに鋏を置いて、確認。
手を広げ、小さく振って水の粒子を強制移動。
「しかし、追々だと遅いしな」
水気を引かせた端っこを、よーく確認。下手すると染色になるし、毛に力が絡んだり籠もった末の大惨事は勘弁だ。よしよしと一安心。吊った上部から下へと粒子の結合力に〜 兄弟仲良く皆引っ張れの道連れ落とし。
チャパパパパッ
「…えーたのお陰」
「そ、だから保温については容易になってる。でも、纏うから今までと同じ方法では難しい。これらを踏まえ、光を扱う算段を話してみな」
輪っかを通って排水溝の奥で流れる水音を聞きながら、問題を提起。
片面終えたら、もう片面へ。
水が毛皮の滑り台を遊んでいくのを見守っていたら返事がない。見たら、考え込んでいたのでよし。
最後に先端を握って水送り、みゅーの輪っかを外す。それから毛皮地をそーれっと引き降ろす。自然乾燥も待てない現実が、つぅらぁ〜。
台の上に広げて手触りを確かめる。そんで始めと終わりを比較、始めの織りの方が不出来なので決定。
「なってないので、わかりません」
こんなこんなと話すも最終結論は想定通り。えへっと笑う顔に〜 まぁ、いいかと予定より幅を取って端をジョッキン!
地を裏に返して、手でぐい〜〜っと。
キュキュッとクリーンで強制処置し、端と端を縫い合わせようと丸めたら、安全ピンでの誘導法が閃く。その方が早く覚えられそうだと予定変更。クリップ入れの中に突っ込んだ安全ピンを指で探して三つ出したら、「我らが聡明なる主なら、難問も簡単に解決できると思うのです! そうでしょう?」不と負が一緒に裂けるよーな事を言い出した。
見たら、この上なく甘えたの目がキラッてた。
……はっはっは、子供の何でもできるマシーンて奴だな。あー、あぶね。もう少しでピンに要らんコトするトコだった。
「他家では出入りも容易とか!」
「ふぅん?」
「あれは確か」
業務中に入手した話題を嬉々として披露するのを聞いてやりながら、安全ピンでてきと〜に留める。残った三つの星を転がして、一番近くに転がってきた星の力だけをピンに塗す。後の二つは自力でやれ。
しかし、間近での輝きは辛かろうと手頃なボックスを見繕って星を並べ入れる。上蓋の開閉が容易いのを確認してよし。星の光を遮るのに実に丁度良いので真っ黒い想いで詰まったキレイキレイシートをボックスに貼り付け、光を通さぬ暗黒ボックスに。
うむ、この粘着力の良さよ。正に愛情の見本のようだ。こんだけ密度が高いと他の浸透なんて考える必要もねえわ。
「さぁ、できたぞ」
「え!」
「まだヌイグルミは出せないからな。その間、この毛皮地と残った星で練習しなさい。羊水の中で熱の扱いは不適だし、実際の感覚とはまた違うだろうが操る意味では同じだ。通してやってりゃ覚えられる」
「…はーい」
「後、砂時計もな」
「? …底に置きますので?」
「支柱の裏が貼り付けタイプだから、ペッタンして回して使いなさい」
「…はい」
ぽぽぽいと卵に三つを投入。
「練習しやすいよーに羊水、すこーし抜いとくな」
ゴゴッと流水、はい終わり。
文句は言わないが期待外れな顔に、家主様の最高ににっこーでぺっかーんできっらーんな尊顔たるものを見せてやろう。
「あのな、他家はどうでもなんだがな? お前が言ってる相反する力を簡単にとか簡易にってのはな? 俺から言やあ、純度が低いか作りが雑いかってな話でよ。お前クラスでそんなグレードのひっくいの、俺はした事ないんだわー あははははー」
その分、やればできるできると持ち上げる。
なんたって、うちの子だ。
「現実の壁なんぞ軽い軽い。お前にヌイグルミをやるから、こっちを仕立てる必要ができた。裁縫部屋でやってくっから、お前も時間見て休みながらやりなさい。延々とするんじゃないぞー」
手早くあっち出しのこっち片付け、毛皮地にクラフト本にその他も抱えて「行ってくる」。
「あ、あ! 行ってらっしゃいませー!」
ここで音を立てて扉を閉めると阿呆ですよっと。「ん」振り返って、にこっとね。
縫い目のない衣装、第二弾は生地の裏からあ〜。
台の上に生地を広げる。
さっきの端はキレイキレイで済ませたが、こっちはそうはいかない。
肉からできた毛皮地の裏は普通に肉。水分が多少抜けた所で裏は肉。いや、血の通ってない肉擬き。大体は平らだが所々に多少の凸感があるので、そこをスライス均等に。この手間が着心地を良くする。
「型紙をどうすっかな〜」
引き出し漁ってアクセサリー・爪と牙を取り出す。
「付け爪タイプ〜」
爪をぷらぷらさせながら、あの子が言ってる『着ぐるみ』を再度思案する。同じに重点を置くなら自前がベスト。 うーん〜〜〜 俺もネイルにしとくかあ?
自分の爪と付け爪を見比べる。
舌で歯列をなぞりつつ鏡の前に行って、 あー で、 いー。
口をぐにぐい動かして、健康美ににんまり。キラリと輝く爪と牙はネイルと弗素コートでよし! アクセサリーを片付ける。
小物の切れ込みが不要になったら型紙も簡単、体型合わせも不要だとほんと簡単。パーツ切りに毛並みの向きだけ注意する。前後に手元足元上下の揃い。フードに猫耳、猫尻尾。全部できたら仕立てましょう。
「たたたたったあ〜〜 肉に溶ける、いーと〜〜〜」
縫い目が消えた後に肉処理すれば、かーんぺき。肉の特性、活かして縫うは猫ぐるみ〜 なんてなー。
フードを半ば仕立てたら、猫耳を仕立てる。猫耳を縫い付けつつ、フードも仕上げる。生地をくるりと丸めて尻尾を象ると内巻きにした毛が飛び出る飛び出る。尻尾の先端部なんて、もう毛詰まり状態。これを最後に引っ繰り返さんとならんのだから、ほんとに大変。
「ほいほい、ほほいっと」
袖付けも厚みがあるもんは引っ張ってやらんと生地が回っちまう。今回は切れ込み処理をしたくないから、伸びをよーく見てやらないと。
「…着ぐるみって背中ファスナーだっけ」
縫い縫いしながら、あの子の着替えを思い出す。 …って、ガードがあったわ。しかし、着替えが何かわかってるから〜 もう、そこまで忠実にしなくてもいーか。
「身に宛てがうを着ると言う。ふはははは」
猫尻尾の取り付け場所を丁寧に縫ったら、残るは直線縫いのよーなもん。
「よし、もう二手」
縫い上がったら、要所要所を金具で挟んで目印に。
ブスッ!
実験室から持ち出した瓶の蓋に注射器を差し込んで、ヂューーーーッと吸い上げる。金具部分の肉に打ち、部分的に細胞を活性化させて癒着を高め、強度を増させてカシメ代わりに。
糸が消えた時には一体化。
その後、肉を処理して着心地良くして尻尾を付けたら出来上がりっと。
糸もなければ縫い目もない衣装。
これで安心、あの子も安心。
この後、第三弾が必要になったら〜 らあ〜〜〜 その時はもう手間だから、描いたブツをタグ付けして次元化する手抜きにしよう。そーしよう。
最初から手抜きしてない分、言い訳は十分に立つ!
「さぁて、後は時間待ち」
呼び出しのコールをしたら付着物。
あっちこっちと確認すると白にも見える灰色の抜け毛が付き放題。頑張った証を集めるのも面倒くて片手を振って片付ける。
「はい」
「あ、無事に閉めれた?」
「その件でしたら」
一位の安定した喋りに平常に戻り始めた実感。しかし、進行は上手くなかった。三班で取り掛かって閉鎖できたのは一班だけで、まだ一つ? え、そんなに難しい?
「マニュアルは簡潔に、わかり易く書いたんだが」
「いえ、単に裏に変なゴミが溜まって目詰まりが。清掃を兼ねてますから」
「…うわ、ごめんね?」
よく考えなくても定期的な開閉作業がなかったら、そら動作は鈍るしゴミも詰まるわ。早いか遅いか微妙だが時間稼ぎ的には良い感じ?
「それで控えさせておりますが、伺わせても?」
「うん?」
「設計をお考えとか」
「あ! そうなんだわ、寄越して」
「はい、では」
一旦、連絡を切る。
ダンジョン兼アスレチックフィールドの説明を考えて、はたと停止。ダンジョンは良いがアスレチックはなんて言おう?
クロスリリアは構築設計、コルディネリアは建築装飾。
どちらも使用目的は細かく聞きたい追及型で失敗と原因と担うべき責任は分けたがる… 家の被害換算、出してるだろし? そこに、あの子の為にと話を振る。
確実に被害の原因、加害者だと断定するな。
そこで、あの子の泣きが始まりだと知ったらあ〜 理解はしても泣く前にやれる事が、やりようが!とか言い出しそー。んで、嫌いそう。俺の過失を加味しても、あいつら被害に重点置くから本気で嫌いそう。
今後の起爆剤か誘導剤か… うきうきで作るよーんなんて言えねえな。
「我らが主よ、どこを改良するのでしょう」
「近くで待機してたのに」
「もしやと出たら、もう居ないんだもの」
「はいはい、ごめんね。ごめんねえー」
まだまだ続きそうな文句を打ち止めにさせたら、残りが剥れた。
「極秘任務を出します」
「現在の家の見通しからお願いします」
「何が原因で、この様な事に」
「図面を引くに否やはありませんが… 反撃ですか?」
何の説明もしていない。
俺への一位の機嫌がよくわかるう。
黙って裁縫部屋のモニターに簡易地図を開いてポイントを指定、瞬きに顔を見合わせる子が続出。
「…我らが主よ、あそこは確か」
「…確か、回収した地点の一つ」
「処分は終わったのでは?」
「そうだ、あそこを改造するぞ。強度の確認が必要だが、高さやその他は現状でやるから」
「では、過去の資料を元に」
「あの様な場所… 何を希望されますのか?」
独自のアクセス権を用いて直ぐに資料を引き出す子や訝しげな顔で見つめる子に、爽やか宣言。
「我が家初、ダンジョンとアスレチックの複合施設だ!」
「「「 はい? 」」」
一拍おいての返事は、今やる事か?ってな胡乱さが滲んでた。何を言っても反論せず二つ返事で引き受けるよーな子達でないのは美点なのに、今は説明の壁を感じたり。まぁ、いい。式殿に落とされた莫迦の壁より低いというもの。
「我が家の安定した存続の為に設計せよ!」
「「「 は?? 」」」
「にゃんにゃんアスレチックフィールドが、あの子の健全性に大きく寄与するのだ!」
良い感じで訳がわからない顔をして黙ったので、我が家が直面している危機を伝える。危機管理の甘さを嘆く暇はなく反省する時でもない。今は手を打ち続けるしかないのだ!と煽る。
恐怖を煽る煽る煽る!
「で、で、ですが我らが主も!」
「そうです! 引けを取るなんてこ、こ、事が!」
「いや、あちらさんの方が上。上ったら上。真っ向勝負回避できたら勝機はあるけど全回避するほーが早い」
良い感じで締めたら、みーんなあたふたわたわたしちゃって『あの子の所為だ!』に行き着かなかった。思ってたより壁が低くて助かった。恐怖耐性を育ててなかったのも良かったな。我が家でそんな耐性高かったら、おかしいけどな。
とある男が一人、道を行く。
白い道の果て、光の溜まりに踏み入れると草原に出た。
周囲を見回し、ぽつんと遠くに見える小さな影に目を細める。他にめぼしい物もなく、彼処かと足を向けると体が淡く溶けていった。
次に現れたのは、白い柵で囲われた家の前。
静かに佇み、家を見る。
前庭の花や緑を眺め、一本の樹に目を止める。そこから、もう一本の樹へと繋がる結びを見て何やら納得する。
柵の前で呼び鈴を探すも見当たらないので、木戸に手を掛け、庭に入った。玄関までの道すがら、足に絡まるモノを感じたが気にせず進む。
小さく虫の音がした。
玄関先でも呼び鈴の類がない事に首を傾げる。
口を開こうとした矢先、一枚隔てた扉の向こうに気配を感じ、これはと黙って待つ。
一向に扉が開く気配がない。
待つ間に扉の向こうで佇む気配が薄れ、奥へ奥へと遠去かる。
しかし、どう感じようとも扉の前に本体が佇んでいるので動かない。膠着無用と声を掛ける事にした。
「こんにちは」
無難に呼び掛けたが返事がないので、単に扉を見つめる。見て見て見て見て見て見て見てずっと見て 扉の向こうで揺らぐ気配に、にこりと微笑んでみせる。
同種に同位ではないと十分に推測できたので、害悪なく佇み、待てに徹する。表情も困った感じで柔らかく儚げにした。
そろりと開いた事に喜色を隠して待つ。
そろそろと開く扉を見守り、相手が顔を少し覗かせた所で視線を下げて黙礼する。躊躇う気配に、体勢を維持して口を開いた。
「初めまして、こちらの主人であらせられる?」
場所は聞いたが、相手を知らぬ。
自分は使いであるので違う方に語る失態はできぬと断り、御身の確認を望みたいと伝えれば。
「あ、もしや」
思い当たりに扉がもっと開かれた。好機。開閉に素早く身をずらし、片手を伸ばして扉を押さえる。同時に片手を自分の胸に置く。扉を引きつつ、片膝を落として身を沈め、跪く。
「あ、あの?」
扉から手を離し、掬い上げる形で前に差し出す。
「御目通りが叶い、恭悦至極」
幸運が微笑んだ。
差し出した自分の手に相手の指が触れ、置かれた。
万感の想いを込めて、恭しく握り返して身を起こす。 …ああ、壁を一つ越えた。この身と家の運命が、この手に掛かっていると思うと感無量!
「あの」
「はい、こちらの主人である貴方様に 児童保護育成条約・性犯罪防止条項に抵触された件に付いて、お話を伺いに参りました」
「…え?」
ええ、放しませんよ。絶対にね。
Yes、xxxx! No、タッチ。
しかし、女は某家主に捕まった。放して貰えそうにない。
精霊と家主の壁、並びに容疑者捕獲時刻、午後11時をお知らせしました。ニャッフッフッフッフーン♪