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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
218/239

218 慈愛ですとも

13日の金曜日、16回目は仏滅。

定数より、ちょっと多くなってます。




 「はい、おは は、はぁ 〜〜 ふ、でぇぇ〜〜す」


 うにゃわわわと止まらない欠伸をしながら返事をしますと涙が出ます。生理現象です。近寄る気配に顔を向ければヘレンさんが覗き込んでた。俺がしゃっきりするよりも先に、お声と共に手が伸ばされ額にぺったり。


 「… 」

 「ああ、良かった。落ち着かれましたね」


 「…うにゃはー」


 口が笑ってまうーう。ですますなんて言っても欠伸混じりでは丁寧でも何でもないですな。寧ろ、そんな言葉遣いでは問題しかないですなーとかなんとか考えて、このみょ〜〜うな気恥ずかしさをスルー。スルーったらスルー。そうだ、俺は雇い主。それに以前からお世話は頂いていたではないか!


 でも、布団を被って隠れたい。

 だって、熱が出てる時と今とでは何かの度合いが違うと思われえ〜 でしょ? しょ?


 「食欲はありますか?」

 

 ちょっと悶えてる間にもカルテを埋めるべく質問が飛びます。照れも飛びます。「ん〜、と」腹に意識を向けて返事です。そーいや、騒々しく『早急に!』『ないと問題が勃発する!』とか何とか言ってるのをぼや〜っとする頭で聞いたよーな気がする。定かではないが。


 「では、こちらを」

 「あ、はーい」


 出されたブツに、にこちゃんモード。

 口を開けて、パクリ。


 体温計ならぬ、体魔計を咥えます。

 あるんですね、こんなのが。子供用で。ふっつーに。


 世界の発展の証である恩恵を享受して、異世界の水晶球に想いを馳せる。同じ測定物であろう二つを天秤に掛ければ何かしらの愛情の違いを感じる… 


 どの様な点に対し違いを感じるのか、答えよ。



 素晴らしき自問に体魔計を咥えた口をうにゃらせると、思考の波間から現れるはクロさん。クロさんとの遊びに態々コメントが要るだろか? 要らんよなぁ。


 そう、それが答えで違いなのだよ! 




 うむうむと一人納得。

 しかし、自分の現状には納得ができない。


 セイルさんと遊んで遊んで遊び切った俺は恐怖も忘れて寝てました。そしたら、熱が出たとです。


 『飯、どうする?』


 聞かれても、返事ができない俺をロトさんは突っ立って観護してくれた。ええ、放置とゆー見守りの観護を頂いたのでした。いえ、『熱、出てんぞ』な後に… お水は飲ませていただ いただ〜 頂いた記憶がないな?


 『飯どうすっか、聞いてくらあ』


 ぐだあ〜な俺をしばらあ〜く何もせず観護し続けたロトさんは無情にも出て行った。この言葉に病人食の依頼だと思って、そっちじゃなくう〜と言いたかったがドアが閉まる直前の言葉で持ってきた現物の片付けだったっぽいの知る。


 あの時の若頭は本当に放流したかった。あの状態だと匂いも人情も投げ捨てたくなって当然だと思う。



 『ノイ様!』


 慌てたヘレンさんがやってきて熱を確認、うきゃー。そっから、あれ取ってこい・これも取ってこい・あそこにあるから間違えんなー!みたいな指示出しを受けるロトさん。指示の合間に『次に同じ事をやったら!』とか『自分と同じに考えない!』の、お叱りの声も飛んでた。


 それに対し、ブツを取ってきたロトさんも言い返してた。


 『俺らは黙って寝るだけだ』


 …ええ、何とゆーか熱が出ても薬を飲むとゆー習慣がなかったとゆーかスラムじゃそんなんなかったとゆーかわかっていても縁がないから抜けてると言っていーのどーかもわからない突っ込んだらすんごく辛い習慣の違いからくる常識が俺の敵だったとゆー話です。


 しかし、それに対してヘレンさんもドスの効いた声で返してた。なんて言ったか聞き取れなかったけど。


 でも、ロトさんが言い返さず黙ったからwinnerはヘレンさん。



 『ああ… お休みの最中に騒がしくして』

 『…そこまで言うよーな事かあ?』


 心配が詰まった顔と声、返す刀でロトさんを切り捨てるよーな目がすんごかった。『早く、行きなさいね?』って怖い声で言ってた。そんでヘレンさん、取ってこさせた体魔計をふっつーうに俺に咥えさせた。


 この当たり前の行為が次なる騒動に発展したのでした。




 『うぇえええ!?』

 『え!? 先生、何か!?』


 パシリにされたロトさんに呼ばれてきたせんせーは、俺の発熱にうわあ?うわあ!?な顔してた。そこにスッと出された体魔計。


 今はこんな感じです!



 叫んで固まるせんせーに、返事待ちで佇むヘレンさん。


 『渦の傾向が出ているのですが… あの、先生?』

 『熱が出たと聞き!』


 ヘレンさんが小首を傾げた所に駆け込みでドアをバッタン!と入ってきたのはレフティさん。その後の二人の、『『うぇえええ!?』』はハモってた。リアクションは違ってたけど。


 そうそう、そこで「うーるーさー」と思って目を閉じた。しかし、『料理長を呼んで来い!』と叫ばれたので寝落ちできず。レフティさんの指示に再度パシらされるロトさんを〜 見た記憶があるよーでないよーな。



 …その後の三者会談は覚えてない。


 でも、セイルさんに撫でられてたのは覚えてる。先生二人組に遊んだ事を話してたのも覚えてる。んで、怒られてた… よーな気がする。


 『それでは良くなるものも!』

 『気分転換はいるだろ? 良い気分で寝た方が『気分転換といっても限度がございます!』

 『それに、ハージェスト様が』

 『気にするな』


 とか、何とかあ〜 言われてたな。




 『体力の続く限りに遊ぶ時ではないのを理解してるのかの? ん?』


 次に意識が浮上したのは、良い匂いの所為。

 そして、朝でした。料理長さんの渾身の一品だとゆー病人食を食べさせて貰いながら、せんせーに小言を食らった。俺も同罪だと思うが病人レッテルを貼られたので全面的にセイルさんが悪い事になったらしくて〜 ラッキー。


 レフティさんがハージェストを連発してたのは〜 何だっけ? うん、何を食べたかも覚えてないな。でも、あの夜… 『そう言えば、こちらの彼女は?』ってレフティさんに真顔で振られたヘレンさんが、ご挨拶してたのは… うっすら覚えてる。


 『…つまり、君の進退問題が発熱の原因でもある?』

 『ひっ!』


 そうだ、最後はヘレンさんの声を遠くに聞いたよーな感じでえ〜 後は覚えてないや。





 「はい、もういいですよ。取りますね」

 「ん〜」


 顔を向けて、お手伝い。

 カルテに書き付けた後、「はい、こんな感じです」と見せてくれる体魔計。わーい。


 そうなのです。

 体魔計のお陰で、俺の中でちょっぴりの魔力がぐーるぐるぐるしてるのが判明したのですよ! わっはっは!


 その所為で過去の教訓からなる『誰が与えた!?』『どーしてあるんだ!』『変な物を食わせたか!』と想像を絶する狂乱の嵐のよーな取り調べが発生してたっぽい。いや、嵐とまで言ったら大袈裟でしょう。煩かったのは確かだけど、先生が俺の脈を取ったっきり手を離さずに話してたのも良くないと思われえ〜 るしなあ。


 「ほんと、落ち着かれて良かったです」

 「えあー、お世話かけ〜」


 「いいえ、ちっとも。三日なら余裕で徹夜できますから」

 「いえ、それはちょっと」


 力強くアピールをされても困りますが、丸々二日も寝込んだ人間としては助かります。


 「本当に大丈夫です、私も有力者の端くれ」

 「へ」


 「皆様に望まれる大器!」


 溜め込み型と言われても違う気が… あれ、違わない? 


 自信溢れる(ふんす!)顔は眩しく、背後に『お買い得!』の看板が見えた。看板に「きー!」と噛り付くマチルダさんも見えて …幻想がひどいーん。




 「ところで、先生方のお話は覚えていますか?」

 「…えーと?」


 何の事やら、わからんので聞く。


 「では、お話をしながら」


 あったかお絞りを手に顔を拭おうとなさるので、普通に手を出す。


 「私がやりますのに」

 「だいじょーぶです、自分でやれます」


 「そうですか?」

 「はい、グダッてる時にお願いします」


 顔面にあったか〜いお絞り、さぁいこ〜。べしゃっと顔面に当てて、じっとする。くはあ〜〜ってトコロで離す。毛穴が開いた今こそ洗面ではないでしょうか!? 


 「では、こちらを」


 ささっと次のお絞り、洗面器は出てきません。出てきても困ります。ベッドで洗面、周囲に水を飛ばさずきっちり顔を洗えの実技試験には通らない自信あります。次のお絞りも顔面にべしゃ、か〜ら〜の〜 ペッペッペでクールダウン。した後にローションは出てこなかった。


 …残念、出てくるかと思ったのに。


 ハージェストが帰ってきたら聞いてみようと思ったら、この状態に御冠な顔が浮かぶ。浮かんだ顔が「ちょっと良くなったからって!」と怒り出す。やばーい。遊びが原因で重症化、なんてバレたら絶対に怒られる! まずいまずいまずい、早く良くならねば!


 …って、無理か。無理だな。説明されるし、誤魔化せない。 …しゅっちょーが長引きますよ〜にぃいい〜 よし。




 朝ご飯の前に診察です。その時に『おかしいよ』の詳細が語られるであろうと言われ、前置きの説明があった。


 「あまり深刻に受け止められませぬよう」

 「…あ、はい」


 俺の専属だから聞く事が許されたとゆーヘレンさんの説明を聞いて、うにゃーんな顔で答える。俺の中に魔力があるのは、ハージェストの染まろうで正解だとゆー見解がセイルさんにより成立しているそうな。理由は質が同じだから。しかし、それだと普通に考えておかしいらしい。


 『この日を始まりとすれば、こうなる。ならば、この辺りは論外』


 一、俺が領主館に運び込まれた日から今日までの日にちの書き付け。

 二、俺の体調不良やハージェストの不在等で行使しなかった・できなかったであろう大体の日を弾く。

 三、ハージェストの保有量と『染色』における一般的な量を算定、比較、割り出し、俺に対して行使したであろう一回の量を確定。

 四、一回目を起点に、行使後に設ける休息時間クールタイムを挟んで『染め』たであろう回数を算出。


 そうすると、どれだけ多く見積もっても俺が発熱するのはおかしいそうです。これで熱を出すのは異常だそうです。


 

 何故なら、お前はしただろう?ですよ。


 ええ、打ち上げ花火をどーん!とやってすっきりした前科が。あいや、あれは前科じゃなく。でも、そんなこんなに体調不良も重なってセイルさんとリリーさんの力に慣れようもしてません。


 だから、より先生方が『なんでだ?』と真顔で言われるのですね。


 規定と基準が規則正しく並んでいたら標準と呼ばれて、想定さんがうふふって指を差すんですねー。んで、多分とゆーか多大にそれはちびの所為だと思うのですよ。ええ、誰かさんをハゲにするのを厭わない姿勢のちびがですね!


 盗み食いとゆー素行の悪さが人にバレたら問題です。何より、ハージェスト以外は食わないとゆー保証がないのです。制御そのものがわからん上に神出鬼没札をぶら下げる俺のちび… 果てしな〜くアウトな映像が浮かぶからあ〜 一人で詳細を説明するなんて、むーりー。


 

 「あの時は魔力水が原因と」


 手を上げて、できるヘレンさんのお言葉をストップ高の前に止める。そっちから持ち上げられても当たりは出ないし、ちび猫銘柄上場してない。なにせ個人所有の銘柄でございますからあ? 当然、非公開ですよ。オープン投信はございません。


 「ハージェストが帰ってきてからで大丈夫、それっくらいの体力あるある。その為にもご飯をお願いです」


 ハージェストに相談してからの名目で問題の丸投げを決意し、明るい笑顔で屈託無くご飯を要求しました。


 あいじょーがあれば、どちら様もきっと笑って許してくれるもの〜。





 予定通り、ご飯より先にお越しです。ドアの開閉音に目をやって、挨拶をしようと口を開けたら人が違った。


 「って、レフティさんだ」

 「ええ、そうですよ」


 挨拶もそこそこにガシッと顔を掴まれる、うひぃ。ヘレンさんが置いてったカルテを手にしてお目を通され、ほぅっとされたら通常運転。お話モードになりました。


 なんと、詳細とは結論でした。



 「あ〜、そっかあ…」

 「そうです、症状からすれば一般の医者でも良いのですが」

 

 はい、ずばり!

 熱を出して倒れても俺は病気ではない。気の乱れとも言える、それは「それは、治るものではありません」


 「へ?」


 不治ですと!?

 ちょっとそれ、どーゆー事ですか!! 要らん事を考えてるばーいではない!



 …ふんふん、ふぅ〜んと聞きました。へえ、ほう、はぁ〜です。説明から結論を聞くのと結論から説明を聞くのと、受ける衝撃が少ないのはどっちでしょう? 結論は全く変わりませんけどねー?

 

 それにしても、ハージェストの魔力が重かったってか? 絶対に気の緩みも関わってんだろうけど、ちょっぴりの化粧モード・キレイキレイで熱出すなんて毒食らってんのかって感じ。それも、「ふ」みたいな程度で。


 「そうなると自分の方が適任でして」

 「はい、お願いします」


 それ以外、言う言葉ないよ。

 で、何かの予定を繰り上げてせんせーに頼んでたお任せを交代するそう。


 …何かってなんだろーと思わないでもない。けど、医者ですから? そっち系で正解でしょう。でも、そうなると口にするのも怖い感じ。心の平穏の為には聞かないのが一番です。ですが、俺が滞在中は医療チームの解散はない。


 なんてVIP待遇。

 

 小心者の俺としては、「うちのちびがすいません」と、ちびを手にして謝罪巡りをしないといけない気分です。しかし、ハージェストにも気付かれないちびですからあ? 他人が視認できると思う方がおかしい。

 

 「で、他の似た事例ですが」

 「はい」


 これまた、ふんふんと聞きますが… 難しいですねぇ…





 「事例は事例、思い詰めないで下さいね」

 「はーい」


 釘を刺されて朝の診察兼短時間受講が終了。

 ぴったりのタイミングでヘレンさんのお声掛け。


 朝ご飯のメニューをレフティさんが確認されて、まったねー。次の訪問診療はお昼でしょう。


 「では、こちらに」

 「あ、待って。トイレ」

 

 それから嗽もしてきます。起きぬけのモーニングティーは好みません。だって、寝てる間に溜まった口内菌とさよならしてからご飯にするのがいーよと向こうで聞いてます。


 朝起きて、ご飯前の嗽は推奨です。

 でも、殺菌作用で言ったらお茶で嗽は正解です。


 だが、ごっくんは排出ではない。腹ん中での相殺ってどうなんでしょう? まあ、潔癖じゃなくても生きていけるけどー。んで、潔癖が過ぎたら生きていけないんだろうけど〜。




 うまうま朝ご飯を頂き、ふうっとまったり。

 ヘレンさんが甲斐甲斐しくお片付けして下さるのを見てたら寝間着の替えも出して下さる。ご指摘で気が付く果汁の染みと… 汗臭さ。まじ?


 シャワーの許可は出たので、ザッと浴びてサッと出て着替えましょう。


 「お一人で何かあるといけませんので」

 「え」


 ヘレンさんと一緒に朝のシャワー!?

 濡れそぼったメイド服のおねーさんは好きですか!?





 ザァアア…


 「これで良いかと」

 「…はい」


 ええ、ロトさんがいるので当然そんな夢映像ありません。ですが、ロトさんが風呂の助さんになっているのはどうしてでしょう? と、ゆーか〜〜 どうした、この人!?


 「こちらで泡立てますので、どうぞ浴びていて下さい」

 「…はい」


 湯船に向かって出されるシャワー。

 浴室内に湯気がもわ〜んと上がる中、若頭助さんの誘導で丸椅子に座り、シャワーを浴びる。程よく浴びてたら、シャワーを手に取り背中に当ててくる。気持ち良い。そしてまた、湯船に向かってシャワワワワワー。


 腕を取られて洗われます。

 自分でやると言い出せない顔してて、困る。怖い。やべえ。


 腕、肩、首ときて背中へと移行。『あああ、あの局部と腹は自分で良いんですよね??』なんて思ってる内に上半身、終了。泡流し。手早い。


 「先ほどより、少し熱めになります」


 浴室内に置かれる疑問なバスタオルを肩に掛けられ、ザアアッと浴びせてくるお湯!お湯!お湯! お湯を吸って肌に密着、あったかさん! そして始まる下半身の洗浄、ふぎゃあああ!?  あ?  はい、はい、はーい。


 よいせっと。



 最後に締めの湯をザアッと浴びて終わり。髪は洗ってないですが出ます。


 「お待ちを」


 立ったら、ストップが入って濡れたバスタオルが取られる。ジャッと絞る音の後、髪がそれでワササササッと〜 されると頭と足が同時にふらつくも直ぐに支えられて倒れません。


 …助さんや、介助さんやって感じ。


 

 浴室のドアを開けて貰って出ると涼しい。

 タオルを掴んで顔に当て、ふ〜〜う。ん? うわー、すげー、体があーかーいー。血行がよーく見えるうー。


 変な感心してる間に出てきたロトさんが背中を拭いて下さる。ので、慌てて俺も前を拭く。ちょっと湿ったで済む頭はぶんっと振ったら、のーみそ振れた。


 「んな!?」


 ロトさんを慌てる声を遠くに〜〜 セーフ。助かり。


 即、水差しから注がれる一杯の水。

 くうっと飲むと体に染み渡る、いーのーちーのー みーずぅううう〜〜〜  ごっごっごっ ごっくん。くはあ〜〜。



 風呂に関する一連の作業が終わったんで、寝室へと返される俺。


 「後で伺いますんで」

 「はい」


 どうぞ、服を着てから来て下さい。にしても、なんとゆー働きぶりなのか。どうしたんだ、ロトさんは?



 部屋に戻るとシーツ交換が終わってた。

 窓も開いて換気もされて世界がキラキラしています。しかし、ヘレンさんがおりません。と、思ったらテラスの方から音。


 階段を箒で掃いてた。


 「こちらは、よしっと」


 元気なお声に少しだけ見えそーになった過去のメイドさんずはあっさりと消え、上げた顔が慌て出すので「お疲れさまー、続きをどうぞー」。庭を見渡し、某地点を眺める。まだぽっかりとした空間が見える場所に、周りのみみみみ みーどーりーがー  一応、綺麗な色で助かり。枯山水は高度なレベルに達してからで十分ですからして。



 「ん?」


 部屋に戻ろうとして、視界を掠めた黒い影。確認に目を戻すと影が跳ね、跳ねて真っ直ぐ直線行路。


 「これで終わりですので、私もすぐに上がりますね」


 あ、やば。

 階段の後ろにお片付けするヘレンさんにぶつかる勢いの〜「アーティス!」


 「ギャオーン!」

 「ひゃああ!」


 風の加護でも得てるよーな素早さで別方向に伸び上がる二つの声と体。この勢いを受け止めたら、多分俺も伸びるでしょう。うはー。






 「ヒュッ」

 「うん」


 「キュッ」

 「うん」


 賢いアーティスは優しい子、俺に対する愛情がみっちり詰まってる。ドン!と階段に両手を着くも、ワッフー!と伸び上がっただけで俺を押し倒す事なくスーリスリ。まじ、どうやって慣性殺した? 


 唯一、無事でなかったのは掃除が終わった階段。だが、外階段の宿命なので問題はないと思われ。ヘレンさんも無事にお決まり(運命)のパターンから外れて何よりでした。




 「あの」

 「はい」


 ベッドに腰掛けた俺の膝に横から伸びてべったりなアーティスがかわいーけど重い。両足は床に着いてるけど、いい体重してます。そして、ロトさんの話を遮るとゆーか『俺、俺、俺を見て!』と割り込む甘えたが〜 可愛くも困ってる。


 「…後にし「いえ、今で! アーティス、お座り。ね、お座り。  で、待つ。 まぁーつうー!」

 

 「ヒュウッ」


 拗ねないってえ。

 あー、お座りは拒否なんか。


 



 「…あのような態度を取り、申し訳ありませんでした」


 それは謝罪から始まりました。

 何かと思えば、俺を観護してた件でした。実はあの観護、態とやってたそうでえ〜 ヘレンさんとの口論はとんがった勢いもあってえ〜 全くの嘘でもないから言ったが実のところはってヤツでえ〜 うやあ〜。


 叱られ、不貞腐れてた夜。

 それでも、病人の俺に対して不衛生ではならぬと風呂に入れた。


 でもって、風呂場のじーさんことスタッシュさんにお会いして して  声掛けられて て  俺の側仕え的立場であるのをベラって じーさん相手だったから不貞腐れた態度を変えずにほんとにベラって って って  内容にキレたスタッシュじーさんにぶっ叩かれたと。


 『ってえ! なにしやがんでえ!』

 『ふざけんじゃねえわ! 坊ちゃんの近くに居りながら、なんじゃお前はあー!』


 そこから騒動に発展。

 口論が近く&風呂にきた竜騎兵の方々を呼び、口論の内容が制止に至らず。至らなかった事と公平を期す事がバトルモードに進展させ、ちょいとそこでゴー・ファイト!になったのだと。


 『じーさんがイキがっても仕方ないんだぜ?』

 『タイマンで力自慢が通じるのはガキだけだ』


 竜騎兵の方々が、ちょいと散らばり組んだ円陣の中。ロトさん、華々しくじーさんに負けたそう。うはあー。その展開も語ってくれたが、目が見えるよーになったスタッシュじーさんは非常に強かったよーです。


 何故なら、シンガンを開眼済みのじーさんが真実開眼したからです。


 目が見え辛くなって幾星霜… は言い過ぎですが、目が見え辛い故に他の器官が研ぎ澄まされ自然と心眼的なものを備えていったらしく… その状態からの戻りです。ええ、出戻りとは違います。


 『見える事で見えてねえんだよ、てめえはっ!!』


 なんのコンボを決めたのか、竜騎兵の方々から拍手と絶賛の嵐! じーさん、竜騎兵の皆さんと何時の間にやら大変仲良くなってたらしい。なんかね、目が見えるよーになって行動規制ラインが撤廃されたら当たり前に活動範囲が広がって竜と遭遇したそうな。


 しかし、そこは元冒険者。

 慌てず騒がず、シンガンを駆使して竜との近接でも絶妙な一線を見事に画し! その距離感の良さに竜からの心象も宜しく元冒険者な経験値も買われて竜舎の清掃の手伝いに抜擢。


 今では竜との触れ合いにまで発展してるそう。

 どうしても年齢がどーのと言われるらしいが体力いけたら竜騎兵も狙えそうとか、なーんとかで評判は上々ですってよ。


 なにそのじーさま無双。

 俺だって、まだ竜とわふわふしてないのに!


 ロトさん、そんなじーさまにバッシバッシと叩かれコロコロされながら説教を受けたと。


 『運命ってのはなぁ! 足掻いて踠いて泣き喚いても、どーやっても自分じゃ切り開けない抜け出せない。そんな時が開く時の事を指すんだよ! 下向いて俯いて、どーせ俺はこんな運命なんだとグチる時に使う為の言葉じゃねえんだよ! わかれや!!』


 お叱りを受ける中、方々からもお言葉が降ってきたらしい。


 『じーさんの言う通りだ。仕える立場が不満なら、さっさと辞してその場を空けろや』

 『そうそう、華々しい武功と無縁で良いなら悪くない立ち位置なんだぜ?』

 『要らないものは寄越して落ちな』

 『自分からは無理ってんなら俺らと稽古でもするか?』


 『そうだな、それがいいんじゃねぇか? 行動を共にできない体になったら、どうしようもないものな』

 『な・ん・で、こんな奴に即断と即決から掛け離れた運命が開けてんだよ』


 なんかね? 言い回しがよくわからんのだけど〜 皆さんから態度が悪いとか図々しいとか何とかそーゆー指摘を受けて怒られたらしい。一斉掃射ですな。


 しかし、ロトさん的には〜 そこで初めて理解したものがあったそう。


 「自分から使って下さいと口にしましたが… どうしても屈した感があって、それが嫌で。牢に何年と考えれば、それも嫌で。だから、お願いしたんですが… 今の気持ちを我慢するくらいなら牢屋に居た方がましだとか、なんで俺とはこんなに違うんだとか… ずっとそこでぐるぐるしてて… 今までも、ずっと何もかも納得できなくて! だけど、あの目が」

 「目?」


 「はい」


 竜騎兵の皆さんの目に〜 羨望?が見えたんだと。

 そこで、本当に今の境遇を  信じて、受け入れて、これでいいんだと。


 そう、思えたそう。




 俺的には放流で。

 ロトさん的には放逐で良かった事が。


 第三者の目を介せば、幸運とされるモノを掴み続けているのだとようや〜〜〜く理解したってさ。


 いや、そんなん理解しないほーがいーんでない? だって、鯛焼きからの金魚が猫のスパルタであっぷあっぷですよ? 逃げ出したいのが普通で正解じゃないかと…


 「それから、じーさんに場所を変えるぞと引き摺られて昔の話をさせられて」


 うわ、すごーい。

 ガキの頃の暗いほーへ暗いほーへ向かう話を聞いて貰ったそーで…  いえ、今その一端を明かされなくていーんですよ?


 ほら、俺って病み上がりですから。這い上がれない泥沼のべっとり感を醸したぐだぐた臭は嗅ぐだけで倒れそーで〜 …あ、やっぱされるので? そうですか、ターン制では仕方ありません。


 なんて思ったら、されずに噤んでしまわれた。




 …いにゃん、その顔。

 懐かない猫のうろうろ感を出すってどーゆーコトよ!? え、あなた狂犬でしたよね!??


 衝撃にぐらつくも足は全く動かない。重い。

 ぐだぐだ臭対抗スキル【あったかモード・アニマルセラピー】が重い! にゃーはっはっはっはっは!!


 物理的に重い、幸せだけど。

 足、痺れそーだけど。

 

 その上、あれ?と思ったら後ろ足もベッドに上がってて全身で俺の膝を占領為尽くしてるのが問題だけど。しかし、それを乗り越え! ロトさんと話さねばなりません。


 でも、重いわ!


 「アーティス、ちょっと退いてて」


 退かない。

 あ、猫ロトのタイミングを逃しそう!?


 「アーティス、退く。退くの、たいひぃ〜」


 甘えた顔で嫌だって。え、まじで重し? 逆を言ったら逃げらんない重しは要らんのですが!? 

 

 「ちょい、ロトさん!」

 「ノイ様」


 踏ん張ろうとしたら、ヘレンさん。待って、今はダメ! ロト猫が逃げえー!


 



 「…あの、スタッシュさん」

 「そんな他人行儀な呼び方をせんで下さい、坊ちゃん! ジョゼフ爺と呼んで下さいや!」


 「へ? あ、えと… はい、ジョゼフさん」

 「〜〜はい」


 惜しい、もうちょっと!なジェスチャーと顔で返事をされるジョゼフ・スタッシュじーさん。元気になられた時より更に別人のよーなお元気さですね。




 「まーだ言っとるんか、お前は」


 バシッ!


 ロトさん、背中を叩かれました。


 「もう十分に言い尽くしただろうが、あ?」


 バシッ!



 喝か活かわからん感じで慰めにしては強めです。

 叩かれる度にロトさんの目がきらめくとゆーかなんつーのか… え、叩かれる刺激で目覚めてる? 耳元で「ワン!」にしといたほーが… 成り立ての猫には無理ですかねぇ。


 やっと退いたアーティスは俺の足にぴったり、隙あらば再びを狙う頭をよしよし。幸せそーな顔がかわいー。


 「こちら、活けてみました」


 テーブルに花瓶とお花。

 ジョゼフじーさんのお見舞いです。本館で飾るお花の購入に合わせ、一緒に注文して貰ったのだそう。


 「香りもおとなしやかなものばかりで」


 大変良い顔で花を語るヘレンさん、喜びが溢れてる。ロトさんを見て、どこか〜 ふふふんな表情。そこに響くペンッてな音が… 音が… 指導的ぼーりょくではないと思うのですが、俺と違って「もう、そっちから離れんかい!」 違って、会話をされているので「そんな事より教えた事はちゃんとできたんか!」「あ、それは で、できたはずです!」お任せしたほーがいーんでしょう。


 高みの見物はしてませんが、けーけんちの不足で割り込みと修正のポイントが見極め「坊ちゃん」「はい?」





 「自分では登る事のできない高みに…  どうか、俺もお連れ下さい」


 へこられた。

 ロトさんにへこられた。


 口調もしっかり、目もしゃっきり。

 また見事な土下座にじーさんの諭し切った清々しい顔。


 そんで言葉が俺の記憶を引っ掻きます。


 背中を押された高みは、天辺の。

 あの一瞬。


 押して貰えて初めて見えた、そんなあれを… ロトさんに? 俺が?



 ふと、ヘレンさんを見ると何故かのドヤ顔。なにその勝ち誇った顔。ジョゼフさんのお顔もどーしてか輝いてて…


 

 「ま、ちがえません から」

 「うぇ?」


 俺は間違えそーですけど? 


 反射でのーない反論したが絞り出すよーなお声でズリ寄ってくるロトさんの顔を見ると、なんでか額がきらりん。


 え、なにそのライン(縦割れ)? まさか、入り口が開いてる!?



 思わず立ったら、「うぎゃ!」なのです。空気を読まずにアーティスが両前脚で足に掻きつくホールド! つんのめる、俺!


 「きゃ!」

 「坊ちゃん!」


 結果、ロトさんと間近でご対面できました。アーティスは、「キュウン」むぎゅっと。




 じーっとロトさんの顔を見る。

 上から下へと目を走らせて全身を確認。見間違い?


 目を瞑り、また頭を下げてくロトさんの頭をぽす。ぽすのぽすで、そろっと顔を上げられたので今度は人手でなーでなで。


 …うむ、どこにも切れ目はない。霊的な金魚に想いを馳せたら「良かったですね」「これからだ」 は?


 二人を見て、ロトさんを見る。

 客観的に見て、現状がどーなのか考えてみる。


 よくわからないが、若頭臭を感じさせないロトさんって詐欺みたいな。


 









 薄闇が広がる中、入り口だけが淡く光を湛える。

 

 黄玉が開かれ、世界が力を取り戻す。

 入り口で屯う金魚は明けゆくに身を翻し、眠る金魚は目覚めを迎えて浮上する。


 パシャン…


 光の紗幕が煌めいたと見るや否や、特等席の確保に鎬を削る金魚達! バシャバシャと、そこを空けろと水弾を響かせる争奪戦!

 

 そして大鑑賞会が始まった。




 何とか役に立ちそうだと満足気に笑うも、あれでは滅私奉公とは言い難い。だが、あれがあれの精一杯(デレ)かと思うと仕方なし。それに奉公と口にすれば、御子が気に病みそうでもある。


 然すれば、あれで良かったのだ。

 そう、奉上精神の目覚めと解すればできたもの。


 それにしても、最後の最後まで己を見失わずに抗い続けたものよと微笑み。それなりなあれに対し、よく善き教導(Spanking)を為したと今一人にも微笑む。


 やがて必ず行き着くも早いに越した事はない。そして、後押しするはヒト(同種)が良い。それで綺麗に閉じられる。


 取り込み(落ちたる)に佳きや佳きやと頷いて『一雫、振る舞うか』と思うも、それで行動を制されてはと思い直す。しかし、繁吹き程度であれば見逃されようと当たりを付けて。


 金魚を一匹、差し招いた。






お使い、お使い、嬉しいなー。二匹で仲良く行ってきまー。


あいが実を結ぶ。

ええ、いつくしみですとも〜 うにゃん。



今回、うちの軍医が言ったのと同じ事をリアルで医者に言われましてん。

命に別条はないんで、さらりと触れて流れた話です。


流れるを是とするも、お星さまを歌わずにはいられなかったのです! そんで余所見もしてたんで遅くなり申した、はい。




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