表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
217/239

217 ある、慈愛の砦

いたいー、ぎゃー。

いたあー、ぎゃー。

これ、まじか? ぐあー。

だから、いだあー!! まだ治りそーにないー!


色々酷い目に遭ってたら、世界も酷い事に。好ましからぬ事です。


そんな中で… 過日、某番組で命を大事にからの退避がどーのでうにゃうにゃと五年十年二十年な意見があったとかなんとか。詳細は触り程度で流しましたが、七十年を過ぎても戻ってもこない北方の地を持つ国の民なのに、どーしてそんな短いスパンで話をしてるのか? 話したとゆーヒトの年齢を含め、そっちに気がいったりと。


愛情とは、何とも 難しいとは言いたあ〜  あ〜〜  あー。



駄文を綴り、お待たせを。どうぞ。




あ、先に本日の国語遊びやっちゃいましょう。


・真成

・真正


上記の単語が本文中に出てきます。

意味を取り間違えないよーに、ご自分の言い回しで読まれると楽しいかと。





 頭の痛い卵の中身、現時点ではわからない。


 わからないが、当たりか外れの二つに一つ。

 要はそこに尽きる。


 そう、当たり(有精卵)でなければ卵なぞ! 幾つあっても構わんのだあー!!




 「ねー、かわいいよねー」

 

 中身こそ大事!

 中身が将来を左右する!


 画面の中の卵に向かい、グッと拳を固めていれば二位が同意を求めて裾を引く。伺い顔でヘラっと笑うが、ちらちらと握り拳を心配げな目で見つめてる。


 俺が卵をグシャッとするとか思ってんのか? うわ、そんな風に見られてる? え、酷くねえ?



 そりゃあ、割れた卵に零れた中身は戻らない。この場合、戻らない事が問題を解決に導きもするが酷くねえ? 俺を誰だと思ってんの? 家主様よ??


 ぐーをぱーにして、へーらへら。


 なんで俺、こんなアピールしてんだろ? しかし、にかーっと笑ったから まぁ良いか。しかし、何か違う… はあ。


 

 それから、改めて見た二頭は…  全く変わらず寄り添っ(Love)てた。心境的に『俺の苦労』が出てこないでもないが、超然種とも言える二頭が見せるきゃっきゃうふふは微笑ましくある。


 そんで、こんなになるほど寂しがってたっけ?とも思う。


 情緒の堅ったい野暮で無粋な子にした覚えもないが、寂寥から仲間を求めて泣く様子もなかったのにな? あれと同種は作らなかったが、そーゆーのの為に作ったんじゃないしー 能力引き継ぎ繁殖はちょっとやべえしよー。



 「うーむ… そうなると、やはり一目惚れか? 瞬間落ちは強えなー」


 うん、そればっかりは如何にもならない。相手にビビッとくるのだけは〜 オフにしたらダメな機能だ。



 べったりしている二頭の幸せを祈ってえ〜  も、俺が行動しねえとなーんの意味も出てこねえ。祈りなんざ一周回って突き刺さるだけだしぃ? 時間の経過でなーんか勝手に変わってえ〜  いくと、カネが飛ぶだけ。んで、後悔。



 「くく」


 笑える。

 いやもう、問題が山積していく現状が笑えるー。


 そんでこの程度、家主(ナニ様)たるこの俺が絶望に震える程度でもないわー。本気でないわー。


 

 「そうそう、肝心要は当たりか外れか。そっからあー」


 卵の中身なんて、ペカーンと光を照射したら判明するからかーんたん。なーんーだーけーどー 今、ペカーンとしたら二頭が騒ぎそう。何でもない事でも過剰反応しそう。


 積み上げ型コロニーの一番上に陣取ってるこいつらが本気で騒いだら、普通なら持ち堪えられるものも堪えさせずに一気にゴンゴロゴロッてロストコロニーにしちまいそう。天辺から雪崩てグシャる卵を想像すると、そら悲惨。柔らか吸収でグシャらなくても卵の中身はグチャってそう。


 最悪、ロストしちまえって思ったのは俺なんだけど〜 ど〜 流血の大惨事からのロストはスマートさとゆーかあ〜 ちょーーーっとロストが違うんだよな〜。


 「仕方ない」

 「……ヒドいコトしないよね? ね!?」


 「…何を考えてんだ、お前は」


 さっきの安堵を忘れる頭か、俺の平素が問題か? ギュッと腰にしがみ付き、妨害を果たそうとする二位の頭を鷲掴む。


 「ふぎゃ!」

 「はい、邪魔。取るぞ」


 「ええっ!?  …あれ?」


 二位からコントロールを奪って、画面をぽちぽち。

 あちらさんのに焦点を当て、ぱぱっと細部等を確認。一位が二位に「ほら、他に提出物があるだろう?」とか何とか言ってるのを聞き流す。

 

 「えっとねー、はいこれ」

 「あー?」


 「セット、スタートしまーす」

 「あ? こら、待て。こっちはしてるだろ」


 「開始でーす」


 ヒトがしてる時に平行で仕事をさせようとするか? そーゆーのはするなと俺は教えてなかったか!?


 「我らが主よ、単なる補足です。お目通しに苦労はないと判断します」


 冷静な一位が困るわあ〜。

 ヒトの限界を理解して突っ込むの、嫌だわあ〜。俺が飼われる状態なんて、じょーだんでも嫌じゃあ〜〜。



 腹ん中で愚痴るが仕方ないので片目を振れば、画面に並んだのは合意文書らしい。

 

 とりあえず、平行確認しつつ読む。

 日付、現場、状況、接触理由、提示内容、合意理由が簡潔に纏められてた。簡潔過ぎて突っ込みよーもない。


 文書の方を目でキー操作、次に移ると音声が入ったので聞く。




 「…まぁ、そんな状況ならふつーに合意しそーなもんだぁなー」

 「でしょー、いいとこ取りしたでしょー」


 うちのあるふぁ、狙い目がわかってる。

 しかし、手法は間違ってないが兼ね合いを間違えると相手の心を殺す までは、イかなくても傷付ける。しかし、代償的な考えからするとその程度は当然ある事。しかし、うちの招きとすればあ〜  行き過ぎがないか、他の合意文書も幾つかランダムで確認しておくのがいいかねえ?


 「我らが主を真似ると最高ね!」

 「ぶっ!」


 …なんか俺が常日頃から極悪非道な手法を取ってるみたいな感じに聞こえた。酷い。


 「我らは我らが主の背を見て進むのです」


 一位がきらきらしい目で重々しく言ってるのが態とらしくて、いーやー。 …いやまぁ、いーか。


 口元だけ、にこーっとさせて二人を見ると嬉しそう。


 「この合意で我らが主が不利益を被る事はないでしょー?」

 「ああ、ないない」


 小煩い奴が難癖を付けそ〜うな点もないこたないが、そこまで言ってりゃ終わりもねえ。ねちねち言うなら状況判断もできない奴だと笑ってやろーっと。


 「ん、そっち片付けていーよ」

 「はーい」


 あ、割り込みのない画面がらぁーくぅ〜。

 



 「ん〜 ロックがなー」


 周期設定がわからん。やっぱ、このクラスだとオープンにしてないか。しかし、そうなると内部の読み込みになる。だが、現状あんまりその辺(pass)は弄りたくない。触れるは兎も角、弄るは違う。後々の説明責任なんて考えるとしないがまし。


 そうなると直接聞くのが早いが卵を前に聞くのもな。それなりの頭は持ってるだろうレア種、聞かれた時点で不安になってもおかしくないし?


 「見栄えはどーでも系譜が違う。系譜の違いは同じ家の異種族間以上に可能性を低くする。だが、周期が合えば  それ以前に愉快設定ぶっこんでると〜  あのヒト、流行りに乗るヒトだった気がすんだよなー」


 相性はどうでも絶対はない。

 最初から、当たりの可能性はめちゃくちゃ低いと見てはいる ん、だが…



 「二位、卵の生成時期は知ってるか?」

 「ん〜とねえ〜 最初に気が付いたのはあ〜」


 手を伸ばしてペロッとnoteを取り出し、生き生きと読み上げるのをふんふんと聞く。逆算すれば、卵の中でうりゃーとした半回転からの形状が整うかどうかの時期ではなかろうか? 


 諸々を考慮しても、今なら問題ないだろう。


 「どら、視たるか」


 こーゆー時、卵は気楽で良い。

 母体に気付かれる心配が低いのは本当に有り難い。神経質に彷徨き出す母体を見るのは忍びない。

 

 それでも直視は要注意。


 二頭の察知能力も考慮して、視るのは極小に留めようとポイントを区切って区切って小さな窓枠を作ってモノクロームに設定。完了。


 呼吸を整え、『せ、え、の』で眼を向ける。



 「… 」


 殻の内部、血流が視え細胞の活動が視えた。

 当たりだった。


 当たってた。



 ・う、う、嘘だろう!?

 ・いやはや、さーすが俺のお気にとあちらのレア種! 引きも当たりも半端ねえな!!


 俺の心を真っ二つに引き裂く、この衝撃! あまりの素晴らしさに泣きそう。いや、本気で泣こうかな?



 「どうでした?」

 「脈、打っとるわ〜」


 あ〜 じゅにく〜。


 「わあ、やったね! おめでとうー!」

 「次代の竜が… あの子に子供が! 長く長く見守ってきた自分としても、こんなに喜ばしい事は!」


 続く言葉を右左。しかし、感激が止まらないので「まだ孵化してねえよ」と言ったら、白い目で見られた。だから、言いたくなかったのにー。


 しかし、卵は孵化するまでが勝負です。卵は誕生の確約ではないのだ。まぁ、俺が手を加えたら確約だけど? 期待を込めて見られても、それはしない。しないったらしない。


 だから、ひっそりこっそり『当たりかよー』と溜め息混じりに胸中で呟くに留める。


 「ね、我らが主?」

 「ん? ああ、まぁ…   まぁ、当たりだぁなー」


 強請りに祝福っぽいのを返すが、どっくんどっくん元気に動く細胞を目にすると平坦な声が出た。しかし、冷淡でないのが良い所。だが、当たりに対して副音声()が混じりそうになるのはあ〜  俺のご愛嬌で終わらせときたい。


 が、ちょーーーっとばっかし気分が⤵︎で肩も⤵︎落ち。面倒な手続き等を思うと更に⤵︎る。それでも、半分はうちの系譜であるから  ん?


 「!!?」


 目端をチラッと過ぎった黒いブツ。 え、今の何? 飛蚊症? いやいや、それは人のびょーきで俺の眼はそーゆーものとは意味が違ってアレでええ〜 だから、今のはだよ?


 じいっと窓を見つめる。


 グリッと回転する細胞に流動、まだ整わない形状。周期計算はできんかったが今の状態を見ると〜 どー見ても〜 なんだ、俺の見間違いかぁああ ぅぉああああっ!?

 

 べたりと張り付く、黒い影。

 その塊。


 …先に尻尾が形成されてえ〜 なんてしょーもない思考逃げ。嫌な予兆に口が勝手に笑い出す。直後、カッ!と開かれた縦縞模様。


 はい、力の瞳孔で正解な! 



 『覗き込む時、それは覗き込まれる時でもある』


 浮かんだ格言に盛大なツッコミを入れたいが今の優先は俺じゃねえ! 今すぐアウトで遮断で、モードチェンジィィイ!!




 力の加減速に言葉の危険水域、ダウナーとアッパーをぐりっぐりしてできた表情筋からの花開く宣言 は、にっこー。


 両目は大きく見張ってからの、じんわり細め。


 生誕時によくやる優しさオーラをぶわああああっと膨らませ、便乗で柔らかエアーも撒き散らす。後光なんて遅過ぎる上に使えるか! 上半身固定の慈しみの水面下、片足揺すって期待上げ。


 上げても反応が出ないんでエアーをぶん回す。星がふわんと舞い上がり、大成功! オートで取っ捕まえて顔の周囲にナチュラル配置。



 なんでか星が降ってくる。

 

 と、思ったら二位が集めて一位が降らせるコンビネーション。

 黙ってやるのがわかってるぅ〜。実に良い最後の砦を持った。お陰で真成の微笑みにグッと真正性が加味されて、嬉し〜。


 さぁ、今だ。

 今、微笑まずに 何時、微笑むのか!? 感動に打ち震えなくても当たり前に微笑め!!




 『早起きさんだ』


 窓から覗く、好奇心を宿した動きに優しく褒める。配慮に配慮を重ねて出した淡き声に反応を返す瞳孔。まだない腕と手を伸ばそうとする気配、形状も成らぬのに力を駆使して触れてこようとする小さな命。


 まだ早過ぎると止めたいが、やめよと制止は掛けたくない。況して、卵の中であるのに制止なぞ理不尽よ。それに出会うは卵を割ってからで良い。


 だが、成長に響きそうな予感がするので止めたい。止めたいがオーラとエアー以外に触れさせる気はない。いや、触れさせてなるものか!


 では、どうするか? こうしよう。


 即座に算段を付け、映らないよーに距離を取ってる一位と二位に指示を出そうしたら らぁ〜、いきなり張り付いてた目がぐりんと回転して窓枠から消えた。


 プツーンと窓を終了。

 平穏が戻る。



 いやー、短い。

 実に短い会合であったあ〜〜 あははははは!



 


 慈愛溢れる笑顔で何がどうしたと画面を見たら。親が卵を返してた。


 「そっかそっか、転卵かあ〜」


 はっはっはー、親の強制運動には勝てないなー。

 花の笑顔で、『んびゃあああああー(なんで、いまあーー)!?』とかなんとか叫んでる声を聞き流す。


 「転卵とは偏りを無くす為にある、ぐーるぐるぐる回して貰え。十分に回って栄養と一緒に撹拌されて正しく自分に成りなさい。変な偏りがあると今後の成長に良くないし、回らんと足も弱く歪になる。お前を回す親を有り難く思えよ!!」


 聞こえなくても、ビシッと決めて言っといた。

 片方がうちのじゃないから、変なの引き継いでても困るしな。


 『んびゃあー!!』


 ちょっと耳を澄ませば、やっぱりなんか叫んでる。



 くはー、かーわいー。

 一生懸命なにやら訴えているよーだが〜  うむ、聞き届けられないのが世の常よ。誕生前から、その強大なる真理に直面しようとは… かあいそーになー。もう思い出ができるとは、いいこったあ〜。


 なんてニマってみるが微妙な話だ。


 「…今のでストレスを覚えねば良いのですが」

 「好奇心でいっぱいの子だ、外への期待値が増しただけだろ」


 「覗きのチラ見で夢いっぱ〜い?」


 一位と二位の突っ込みを流して顔に手を添え、もにもに戻してたら二位が下から覗き込む。 …その妙に残念な顔はやめなさい、お前もさっきまで残念だったんだから。


 「二位、覗きの格言というのはだな。大抵のものが半分当たりで半分外れだ、そう半分だけだ! 真理を固定観念化してはならんのだ!!」


 「…はーんぶん?」

 「おう、どれだけ覗き込もうとも! ガードを下ろした我が家を覗き込めると思ってか!?」


 ポーズを付けて、格好良く!


 「あー」

 「何か… 主体が違うのでは?」


 「そう言った時点で甘い、細分化を語ればそれで変わると思うなよ。んで、お前達。そろそろ行きなさい」


 「は?」

 「えー?」


 「えー、じゃないの。二位、俺は発令しただろう?」


 それが?みたいな顔してる。

 お前、ほんとに二位から降ろすぞ?


 「あのな、現状と変わる変わらないじゃないの。同じだからって直ぐに取り掛からないのはダメだろー?」

 「…その事についてなら、我らが主ともう少しお話を詰めてからとする希望をね?」


 「もう他にないから行きなさい」

 「んえー」


 「一位、お前も行け。行って、平時に戻ったと皆に知らしめなさい」

 「…ですが、まだ」


 「後は俺の仕事なの」

 「…ですが」


 「お前が安定の要で一位なんだよ? シリーズ中の一位である以上に安心感なのよ、お前は。それをほっとくの? ん? 放置すんの? 黒卵は元に戻すけど、それで想いは消えやしないよ? ほーらほらほら行きなさい、行って俺の代わりに仕事しとけー」

 「… 」


 「卵を優先するから俺が行けないんだっての。だから、お前が仕事しろ。希望を抱いて仕事しろー」


 ぱちん!


 指を鳴らし、まだその辺に浮遊する星を集める。キラッキラな輝きを頭上から降らせてやったら、力の供与に目を細めて気持ち良さげ。


 俺の力も星にして追加追加。


 ああ、もう俺も甘いなあー いや、これ機嫌取りか? そんなつもりは〜 ないけど、そう見えるかあー。







 『 (ふぅー)


 実験室に戻ってドアを閉めたら、零れる吐息。ちょっと遠くを見てしまう。しかし、どっこも見る気ねえ。


 しぜーんに薄目になる目で室内を見渡せば、黒卵が斑になってた。笑う。貼った箇所は黒々と、貼ってない箇所は墨を落とした流れが渦巻く水墨画みたいだったり薄まった灰色だったりと個性際立つ卵になってた。 …あ、鳥の卵でこんなの作ったな。


 「…ん、よし」


 濃度の下がり具合に、まぁまぁと頷く。次いでシャワーブースに顔を向け、浸け置いた卵を思い出す。再び斑になった極卵に目をやって、親に回された卵を思い浮かべる。


 三つの卵。

 中身が違えば、卵の意味もまた違う。だが、三つとも正しく守りの砦。中身を守る為のもの。


 「卵が先か鶏が先か、力が先か器か先か、自我が先か受肉が先か」


 わかりきった事を呟いて問答する。

 力と共に芽生えた自我か、余分なモノが付いていたか? 魂魄とは言うが、あの次代は力が先で肉が後。ある意味で一位と同じだが精霊と呼べる子でもない。その上で、力に肉が負けている。


 果たして、あの肉は育つだろうか。


 『んびゃあー!!』


 思い出す元気な声と、訴え。決して悲鳴ではなかった事を考えれば、あれこれ思い悩むは杞憂かと 笑えてくる。


 


 『んび、びぃ…  びぅ、ぶぅー』


 意識的に耳を澄ますと、何やら拗ねる可愛い声が聞こえてくる。まぁ、活きは悪くない。しかし、系譜の理が肉を育た『ぶぶっ ぷっぷっぷー びっびぃびびっびぃ〜〜〜 んびゃあ ああああ〜〜 ん』


 …こいつ、余裕じゃね?


 そりゃあ、確約しないのがミラクルなんだが。 ………従来通りでいーな。保育器はなし、誕生には手を出さない。


 なら、俺がしてやる事は。

 誕生に与える祝ぎは。


 そりゃあ、決まってる。俺でないとできない事をしてやるこった。


 

 レア種は瓦解した家の出だ。

 瓦解が借金取りに債権者、盗みとカネと好事家を呼ぶ。


 生まれて『んびゃあ〜〜』としか言えない子を公的に守るのが俺の家主としての責任ある行動よ! 合意文書を盾にうちの子権限を発動し、債権者等から守らねえと、どんな竜生を送らされるかわかったもんじゃねえわ!!


 それに系譜の混じりが将来、家から飛び立たせるやもしれん。レア種の合意場所を考えると可能性はある。その時に「危険だから、やめなさい」なんて言いたくはない。



 外に出たいと、行きたいと。

 願った時に、行かせてやれる状況(戸籍)を整えておく。それは俺にしかできない事だ。公的安全保障の有無が、あの子の将来を左右する!


 うんうん、さーすが俺。

 何があの子にとって一番か、わかってるとも〜〜。



 生まれていなけりゃ、誕生も危うそうな卵の未来を考える。誕生を確約しない卵の未来に動くは無駄か? 生まれてからで十分か?


 ヒトが騒いでいた。

 制定が古いと、自分を優先せよ!と、声を上げる姿は滑稽だった。


 その制定、お前の為にできてない。

 たった、それだけの事実に噛み付く滑稽さ。制定の成り立ちすら理解してなさそうな様子に、「自分があってこそ!」と混ぜっ返す苛立ち。


 ほぅ、お前と子供は同一かと眺めていれば違うとさ。そうなると、子に与える保障よりも自分らしい。


 自分が一番だから、子の一番は考えない。


 触れたくもねえ、ジアイだな。不思議と思うより低級と考えた方が納得できる。そっから先の未来なんて大筋でパターンが決まってる。低級が中級に上がるには、まず知勇が必要だ。力ではない。だから、何も言わないがあ〜 知勇の勇さえ間違えそうなのが何とも言えない。


 ああ、言えないが ハズレな前例遺すのに必死になるなよとは言いたい。それでも既に詰んでいると思えば理解してやらんでもない。だが、主旨がズレた前例なんぞ何の役に立たせるつもりか。


 「まぁ、全くだ。俺も己が一番だ。己が一番だからこそ、己が抱く理想と最善を模索する。だから、最も必要とするモノを与えてやるのさ。飛び立った後はどうでも飛び立つ事も出来ない状況になんぞ置けるかよ。置いた時点で泣きっ面が確定するってのに、よく満足できるもの。所詮、短いスパンで見たものなんざ…  くくっ! 同じで違う所を巡り続ける愉快さか」


 態々、未来視するまでもない話。

 しかし、それで良しとするが個なのだろう。個である以上、優しい俺は指摘しない。リストにぶっ込んで終わりだ、区分にも値しねえ。



 ぼやあ〜っと夢想する。

 嬉しそーに楽しそーに公のソラを自由に飛び回る、うちの子。


 うむ、実に良い。


 元々隠れ家仕様の我が家から、あるふぁは出しても公に飛ばすよーなのは一体も居ない。こんな事でもなかったら、果てしなく出ない気がする。


 「命の砦から無事に出てこれたら、最上級の保障を取ってやるよ」

 『んびゃ?』


 卵の中でぐるんと自ら回転して遊び出した姿に、笑顔が溢れてやる気が出た。よし、誕生までは落着だ。次に進もう。


 




 「…で? ちゃんと声、出せるだろ? ん? 中からでも聞こえるから、言ってみなさい」


 べりっと剥がしたキレイキレイ。良い仕事をしたので卵の殻が綺麗に戻って、あーんしん。なのに、喋らないとはどーゆーこった?


 生気が乏しいのは仕方ない。寧ろ、どっこも消えてない時点で良い仕事なんだ。卵の中にいるんだし、普通に話せるだろー?


 発声器官も不要な子が喋らない。

 表情だけで頑張ってるのか、どーなのかな姿に〜〜 は、まさか!


 「おま、仕事中と同じ遇らいやってないか?」


 視線をあっちにこっちに、最後はそろ〜っと横向き逃げたので正解らしい。


 「生存を賭けたチャレンジはしなくていーから、出した直後に還すなんて事しないから。ほら、まずは任務に就いてからの行動を報告しなさい」

 

 ぽわっと緩んだ可愛い笑顔。

 流石、第七アリスリア。シリーズ中、一番の可愛さだ。




 「え、既に還りそーになってた? 回避しようと大地に潜って、そのまま寝落ち の? うん? そこに居た、えーたが? いや、えーたを?」 


 ぽしょぽしょと話すのに相槌を打って聞く。

 聞き出した地点を、こっそり手元に映し出す。見せはしない。


 どうやら任務遂行の為、合理的手段としてえーたをぺろりとしたらしい。


 その辺一帯の録画データを引っ張って視認。もちろん、音源はカット。通常、激戦区でもない場所がハラヘッタ集団の暴動で席巻されてた。そら、泣き出しもするね。


 シリーズコードが示す実力。

 最強のおめがシリーズとはいえ、第七期。そら、ぺろりの一つもしないと無理だわなー。


 正当行為でも、ぺろりをしたから静かに還るに還れなくなったと。『ぺろりした分、意地でも何でも還らない!』を遂行すべく〜 家主としては普通に還っていいんだよと言いたい。


 言ったら、絶対に問題視されてデリカシーを疑われるがな。しかし、数体ぺろりしたところで闇と土は相性良いから苦痛もなんもないってー。



 「だから、まだ還りたくは  あ」

 

 声が途切れた。

 何に気付いたのか? ふあわわ〜っとしたアリスリア、特有の笑顔。


 「うん、どうした?」

 「ああ、我らが主よ。遅くなり」


 「ん? 何が?」


 卵の真ん中で丸く小さくなっていたのが、伸びやかに。スウッと端に寄ってきて両手を殻にべったりさせる。


 「お帰りなさいませ、ご無事で何よりです」


 ゴン!っときたね。

 エアーハンマーの威力が重くて、うっかり星を幾つか光華に変換する程度に心にキたよ! 改心とかしないけど!!


 



 「…でな、二位がお前をこれに入れようと画策してな」

 

 培養キットを前に説明。困惑顔にもっと説明。流石に想定外だったらしく、目が彷徨う。そうだろうとも、それが正常だ!


 毛が伸びて本物らしくなったヌイグルミ。まだ目がないから軽いホラー。与えるのもどうかと思うが妥協点がここにある。 …辛い。


 「俺としては、お前は還るが道理。理由は、お前の中でえーたの力が息衝いてるから。それは第一に素晴らしく、第二に良きと悪しがごっちゃ混ぜ。 …精霊のお前が二属性とか良くないのよ、本気で。俺がそうとしたのであれば話は違うが、そうじゃない。でも、お前はそれで居たいんだろう? でも、そのままだと高確率で崩れてみたいなもんになる訳よ。基本がおめがシリーズのお前だと、どーしてもそうなるんよ。そんなお前の姿は見たくないとゆーか、嫌でさぁ」


 身も蓋もなく言ったから、ぺしょっと萎れる。


 「でも、みーんながお前を維持しようと塗りたくって塗りたくって… ほんとあんな黒卵、初めて見たわ。 ああ、ああ、泣くこたない。話はまだ終わってない、ないから な? ああ、ほらほら」


 一番頑張った大賞として与えるしかねーだろ。ほんと予定外。しかも、どっちで与えるかも問題。聞きたくないが授与とするなら希望を聞かねば。


 なんて誠実な、おーれぇ〜。


 「で、このヌイグルミな」


 作成目的と付随するお使いを説明。

 そして肉付きなら寿命ができ、肉無しなら自由度がガチ落ちする事を説明した。


 それと器との兼ね合いで従来ほど力は出せない事も説明。結果、あっさりと受け入れ肉無しを選択。俺としては、せめて還るが早い肉付きを選んで欲しかった… が、仕方ない。甘いけど仕方ない。


 実際、お使いモードで維持するなら肉無しの方が便利だし。


 「我らが主の御手からできたヌイグルミ、比類なき愛情の…  完璧なる砦です。私は守られ、お子も喜ばれる。お子の存在がヌイグルミに繋がり、私に至った。こんなに可愛い写し身に形を持てるは幸せです」

 

 続けて、あの子に感謝な事を言う。

 いや、あの子が俺の忙しい原因の一因で!と言いたくなったが… これは俺のぽか、あの子は無関係。それより、還させなくて良い道理を作っちゃってる原因になってるんですけど!!


 くっそう、怖い子だ。かわいーけど。




 それから、授与に相応しい褒美を説明。


 「器に入れば、考える以上に不自由を覚えるだろう。だが、肉無しでも器持ち。二属性を持とうと問題ない。良かったなぁ、えーたの力も定着するから活かせるぞ」


 …なんと言うか、これ以上ない可愛い顔して泣き出した。できる優しい家主としては最高の結果だと思う。この笑顔とポリシーの前ではルールも予定も儚いってな〜。


 「それから、これだ」


 さんとしーたとぜーたが作り上げたと教え、ヌイグルミの目にしようか?と問う。


 うん、うん、と頷く顔に殊更柔らかな笑みを見せて 残るキレイキレイに吸い取らせた真っ黒な想いをどうすっか?と考えるが、ちょーーーっと思い付かなくて困る。













 ピチャ…


 足元が揺れる。何か温かい。

 でも、温かいのに感覚がない。痺れてでもいるのか…  



 目を覚ませば、光も射さぬ暗闇だった。


 見渡せども暗闇で 怖い。怖い気持ちでしがみつく。しがみつき、顔を埋める暖かさ。その暖かさに目を開けるも、暗さの怖さに きつく目を閉じる。


 少し、そのままでいると落ち着く。

 けれど、足がと思い直し 温かな水から出ようと腕で這う。


 濡れそぼったか、張り付いて動き難い。なのに、足は素足で。這うとするより、必死で体を捩り しがみついた何かを伝い、這い登る。そうする内に、足に力が戻ってきた。その事にも勇気付けられる。



 這って、這って。

 この身を落ち着ける場所へと 這って。水辺から離れ 暖かさに、しがみつき。頬を擦り寄せ、ほぅっと 大きく息をして。



 眠くなる。

 力が抜ける。欠伸が出て。


 暖かさの中、埋もれるように。次の目覚めに夜明けを求め、願い  願い?  じわりと湧き出る恐怖に どこまでも広がる暗闇。


 目の前の暖かさにしがみつき、これだけは離すものかと  温もりに顔を埋め、やがて静けさに 平穏を感じ。


 ここは安全だと、安全なのだと。


 

 眠りに就く。


 『忘れたい』

 そんな願いが過ぎる中、 今は 眠りたい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ