215 ある、禁断の卵
めりーくりすまーす まーすまーす、まーすう〜。
「「「きゃー、きゃー、きゃー!!!」」」
「あ、皆!」
「うおっ!!」
咄嗟に避けた。
こそこそ廊下に隠れて伺ってたのが一気に雪崩れてくるとか流石に怖くて避けるわあ! 待ちなさい!と止める間もない。しかし、ちゃんとわか わか わかあーーーー!! ぎゃーーーーー!!
瞬時に指を上下にクイして、二位が嚙ましたしゃぼんの口輪をガチ合わせ!
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バチッ⤴︎ ⤵︎ ⭐︎
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連結直後に光が飛び散り、全体のカバーができたのを見て間に合ったと安堵。俺の毛皮は助かった。安心感からずるずるとドアを背にへたれこむ。
「「「これ、これ、これ! はい、なの!」」」
部屋中を一周、二周の三周半走り込んだら落ち着いた。
クイッとやったから、みーんな入室を許可されたと思っちゃってまー まー まー かあーいー顔してまー 手に手に光を携えて、めっっっちゃ嬉しそうな顔してきゃわきゃわやられるとまー まー 仕方ないかー。入る事ができない部屋に皆で入ったら、こーなるわなー。
「はい!」
「わっぷ」
「はい!」「はい!」
「あー、取り零さずに持ってこれたのかー。偉いぞー、お前達」
「これね、これね!」
「きゃー!」
「それえー!」
「わーい!」
俺に向かって差し出すのは可愛い、まだ可愛い。が、もう部屋ん中に撒いてるー。盛大に撒いてるー。いや、撒いてる姿もかわいーんだけどー。ああもう、小さくないのまで一緒になってー。
部屋中に撒き散らかそうとせんでいーから。
「あー、はいはいはいはい」
諦めた。
撒いた先から、わさあっと掬い上げてはまた撒き散らす。撒き散らしては持ってくる。持ってきて俺の頭に撒いていく。うんうん、綺麗なー。あ、もっと頭を下げろ? はいはい。
髪に絡まる光を一つ手にすれば。
シャランと高い音を立て。
小さく瞬き、告げては爆ぜて。
爆ぜては告げて、また瞬いて。
星としての力が続く限りに、可愛らしい願いを 『叶えて』 と 輝いて。
「ああ、わかった。わかった。俺を埋もらせよーとしなくていーから」
ふんわり、ふんわあ〜っと落ちてくる願い星。
可愛らしい内容だから埋もれるのも悪くない。風呂のよーに浸かってやってもいい。しかし、可愛くない内容だったらこんな風にはいられない。
「ほら、一位が置き場所に困ってるぞ」
え?みたいな顔でいるから、困ってるだろーと顔で指示出し。瞬間のヌルい視線を遣り過す。優しい顔で微笑んだ一位が両手を広げるどうしようポーズで気を逸らせた隙に星砂から脱するのだ! 本気で埋め立てられて堪るかい。
「 」
小さいのは分別がないから容赦ない。
両手両足をズボッと引き抜き身を起こす。転がり落ちたそれらを掬い、転がし、零して、より輝かせ とりあえずのよゆーの笑み。
「さぁて、星を使うかな? どうしようかな? それより、まずは卵の置き場所だ。だが、向こうの部屋には別の卵があってなぁ… 向こうの卵に星の力は毒になる。さぁ、どうするお前達? さぁさぁさぁさぁ、どうしよう? 星の毒に当たったならば、向こうの卵は死ぬかもな?」
指差したシャワーブースを一斉に振り返り、口を開けて固まり、みるみる内に真っ青に。真っ青な顔を見合わせ、見合わせた瞬間から「「「きゃー、ぎゃー、わー!!!」」」
声を揃えて腕を広げ、ブースの入り口に殺到し、星を掻き集めようと一気に動き出した結果。繰り広げられるのは、舞い上がる星と接触事故。「あいたー!」「飛んじゃうー!」「そっちー!」 そこから二次的被害を受けるのは、俺。
まぁ、俺。
俺の方に集めたら安全なのは正しいが、俺を埋め尽くそうと〜 あのな、そこは速度を抑えろよ。星の嵐は綺麗でも当たると痛いんだってー。
顔面を襲うきらきら星の『叶えてー』『叶えてー』を無我の境地で受け止めた。
「…我らが主よ、無事ですか?」
「俺が無事だと思うのか?」
「星に埋もれて大変煌びやかで」
「素敵な道化とか言わんよーに」
「我らの願いを叶えて下さる主が道化な訳はありません。道化というなら、二位でしょう」
「ええー、そんな振り方いーやー」
一位の足元で幼児が嫌がってた。
姿を揶揄られ、ぷうっと剥れて… 完全に幼児。
的になり、さっきよりも埋もれたが来るのがわかってたから平気。星の山を崩し転がし体を叩いてキラキラさせて立ち上がる。俺、輝いてる。その分、被害は俺だけ。ほんと、俺だけ。しかし、輝く俺は悪くない。
悪くないが、こうなるとやっぱり道化かねぇ?
「小さいの達は残らず出たか?」
残った面子を見回して廊下に顔を出す。左右を見回すと、ちょろちょろ片隅で固まってたり浮かんでたり。
「はしゃいだー」「ごめなさあー」「あー」
あちこちから聞こえる小さなしょんぼり声に自然な笑顔になれる俺。
「いいや」から始めて「持ってきたのは」とか「有り難う」とか答えて、そろそろと寄ってくる子達を撫でて、久しくしてなかったスキンシップを俺も楽しむ。しかし、物理で撫でていたら大変だ。しかし、撫でてやらんと撫でられなかった子が拗ねそうだ。だから、こーゆー時はそーゆー感じにしてやるのが正解だ。
「皆にな」
手を閉ざし、手を広げ、手の上に山盛りの甘い力を。
「ほーら」
ふわあっと風に乗せて廊下にばら撒く。喧嘩をしないよーに満遍なく広げた上で、ちょいと遠くまで。「あー!」「きゃー!」「わああ!」「それ、いるー!」「待てー!」飛び上がって掴み、追い掛け、楽しげな声を上げるのを笑顔で見守り。誰も掴み損ねてないのを確認したら、「いくぞー」「え?」「ふえ?」ちらちら残る光に追加を乗せて大きくポーズを取って見せ。
理解の早い子はパッと動いて構えてくれた。
今度は廊下の向こうまで。
ひゅっと送ればブワッと舞い上がり、渦を巻きつつ風に引かれて流れゆく光。甘い甘い香りが際立って、ちょっと鼻にくる。しかし、これはこうでないと。
「わーい!」「いってきまーす!」「きゃっほーい!」
「待ってー、まだ準備があー」「まだなのにー」
自分の隠しに掴んだ甘い力を仕舞いつつ、次々と駆け出して「「「配ってきま あー 」」」
元気に遠去かって行く声が良い感じ。
幸せ解散で一仕事終え、ドアを閉めたら一安心。
「お前達もご苦労さん」
「ほんとに、あっちに卵があるの?」
「どうして卵に毒になるの?」
「星が変質するの?」
「「「どういう意味で毒判定???」」」
今度はわからない子達の質問責め。只の疑問から疑わしさ満載の目付きにまで、「現実にあるある」と答える。さっきまで某一名がゆるゆる抱いて放さず可愛がってたと教えて興味を横流し、「ええー!?」と上がった羨ましを聞き流す。更に星毒が回っちゃうと言葉にできない怖い事になると恐怖の顔して言っといた。
「えええ…」
「我らが主も怖いだなんて!」
「ううう、嘘だああ〜〜」
ちょっと脅し過ぎたかな?
なんて思ってたら、一位がじーーーーーーーーっと見てた。やべ。
「本当だぞ」
「いえ、何も」
これ以上の状態変化は俺の精神死を意味する!と目で強く訴えて逃げる。そう、問題逃げして躱しちまえ〜ってな。いや、まじその目から逃げるわ。
「さ、これからが本番だ。お前達、極卵の為に何をしてくれる?」
清浄な風を振り撒きーの、清光の水で床を清めーの、浄炎で揺らし枝を育てーの… って、それは無理だって。それをするには面子が足りないでしょ?
それと衛生面は大事だけど、そっちじゃなくてね?
「えー」
「じゃあ、呼ぶねー」
「違うでしょ、今いる面子でできる事が大事なの」
「むう〜〜」
「やっぱり、引っ張ってくれば良かった」
「だよねー」
「こら、小さいの達と違って分別も覚えたお前達が何を言ってる。そこ、ぶーたれない。そんで一位と二位はダメ。手伝ったらダメ!」
があっと口を開けて脅しとく。
「えー」
「理が通る方が確実だから、それでいーじゃない。出し惜しむような物でも時でもないんだしー」
「理で楽を覚えようとするんじゃありません」
こいつも平気で廊下を無視して飛んで行きそう。
「楽な方を選ばないなんて… 我らが主はおかしいの?」
「おかしいの?」
「我らが主は性質的におかしかっ「あ?」
視線でちょっとびびらせといたが、ほんっとに、もう… この年頃の教育的指導は… 指導は… 指導は遊ばないとやってられん! 生意気盛りにも程が有るとゆーが可愛らしーから可愛らしく取っ捕まえて、ぽいだ。ぽい!
「あー!」
「わー! すごー!」
「いいな、いいな、あたしもー」
「残念、これは一人だけ。しかし、時間で元に戻るから」
「うわーうわー、こんなになるんだあ!」
「いいや、正しくその姿になれるかどうかはお前の努力次第だぞ」
大人成長の感動で聞いてないっぽいが突っ込みを入れておく。こーゆーのをしておくと子供のやる気が上がる。しかし、多用すると馬鹿を見る手だ。想像が現実として見られるスタンスは目標を明確にする反面、ミラクルがなくなるんだよなー。
「さ、どうする? 成長しても無駄時間で終わるかあ〜?」
「あっ!」
大人成長させたのを中心に、わいわい始めたのを微笑ましく見ながら制限時間がわかるよーに頭上にタイマーを出す。セット、スタート。
ピッ。
「え?」
「なに?」
「ああっ!」
「早くしないと、本当に何の助けもできずに終わっちまうぞー」
「「「ぎゃーーーーーー!!!」」」
ちょっと急かすだけで、この体たらく。まだまだだよなぁ。
「我らが主よ」
「ん? どした、一位」
「成長を促す試みは理解しますが、それこそ今やらなくても良いのでは? 普通に星を敷き詰めれば宜しいでしょうが、ええ?」
気付けば隣に立っていて、低温火傷でもしそーな感じの声で言った。耳元でボソッてくる、うちの子が怖い… しかし、その程度で脅される俺ではない!
「卵ん中でちゃっぽんしてるそいつが可愛くないんなら〜 それでも、いーんだけどお〜?」
黙らせてやったわ、はっはっはっは! 次は、この星を〜 あのプールもっかい広げて突っ込んどくか。そんで卵の受け皿を出してだ。
「はーい、しゅうりょう〜」
「えー、もうちょっと」
「はい、やめなさい」
「もうちょっと!」
「これ」
「あとちょっと!」
「だから」
「見て見て見て見てできたのー!」
「これこれこれこれ、いーでしょー!」
「…うんうん、そーかそーか。い〜い感じにできてるなー」
二人が体を張って通行規制を仕掛けてくるが、時間稼ぎをしようとも無駄だとゆーのに…
ぽん!
「はう!」
「ほら、終了」
「…ふふふふ、なんのことー? ちゃーんとできてるんだからあ〜。ほら、かーんせーいひーん!」
ちょっと待ってなんかしなかったよと胸を張るのに苦笑。三人できゃはーと笑うのにも苦笑。
「一位、ここにな」
「はい」
そっと胸に手を当てると闇が零れ、ずるりーんと質量を出してくる。うーん、うーん、ビジュアルが酷い。そんな風に出さなくても出せるだろーがと言いたくなるが〜 安全に配慮してんなぁ。
出した極卵がスポッと収まり、サイズぴったり。
ぴったりなので適量を守ってると安心したが、乗せると同時にペペペペペッと動き出した重量メーターの勢いが怖い。レッドゾーンを突き抜ける一歩手前の値で止まって、今度こそ安心。ギリギリまで攻めるなっての。
「こちらが余りになります」
「ん、よしよし」
カプセルケースに入れた紫玉を受け取り、棚の鍵をガッチャンして片付けてまたガッチャン。
振り向けば、憂い顔で卵を見つめてる。しかし、透明な筈の卵の殻が闇に染まって暗黒の卵になっちゃってまー まー まー 安定してんなあー。
一本足の卵皿に綺麗に収まった卵の黒さが凄くて、どん引き。黒さに艶があるのも、どん引き。
「一位、この状態を説明してみろ」
「救出に当たり、皆から寄せられた想いが見える形になっただけですが?」
「…加減というモノをだな?」
「熱意に上限はなく」
「そうだよ、上限があるのは凍らせる方だもの」
「ぜーた、そこで違う突っ込みをしない」
「えー、ほんとの事なのにー。氷雨を降らせたから知ってるのにー」
これまた苦笑。
「そうか、ちゃんと手伝いを頑張ってるな」
「もちろん!」
褒めて撫でたら、残る二人もじっと見るので問答無用で頭を撫でる。これ以上、話がズレると面倒なので反対の手で卵を撫でる。
「ん?」
卵の表面を撫でる。
撫でる。
上下に手を動かして、キュキュッと撫でる。 落ちない。 …落ちない? 俺のキュキュッとクリーンで落ちないだと!?
「一位、おま… どんだけ力を!」
叱り付け、ギュギュッと擦るが擦る先から見せるもんかと闇が覆って窓ができない… 部分的にも綺麗にならないなんて、どんだけの熱意だ!
「どれだけと言われましても」
「治療する前の問診すらできない状態にしてどーするよ!」
「最善を尽くしただけです」
「胸張って、そんな阿呆な言い訳すな!」
「託された皆の想いを取り残すなど無理です!」
「無理って、お前!」
「それに会話の途中で意識が途絶え」
「お、おま…」
「皆で必死に助かれと!」
「それで善かれになるかああ!!」
「問題ないと!」
「悪しになっとるわ! くっそ、面倒い事を… こんな暗黒の卵にするとは… お前ら、こいつを闇の聖獣にでもする気かあ!?」
「え?」
良いこと聞いた♪みたいな顔しない!
「ったく」
「そんなに落とさなくても…」
「そうだよー」
「きっとかっこいーよー」
「それか、かわいいと思うのー」
好き勝手な事を言うので、ぎろり。しかし、手は休めずにベッタリと貼り付ける。あの子に使う前に、こんな形で試す事になろうとは。
「…うわ」
貼った先から新製品が真っ黒に染まってく。
本来なら、もっとじんわり時間を掛けて薄めていく物なのに即座に真っ黒。闇が濃過ぎて、じんわり吸着どころじゃねえわ。
「ねえー」
現実に疲れた気分で顔を向けると、まだ期待した顔でいる。
「あのな、意志確認ができてないだろ」
「そうしたのは消えちゃわない為で」
「みーんなの想いを受けてるだけで」
…どうして、こいつら俺の力を信じてないのかな? 俺がやろうとしてる時点で消滅するわけないのにな? ああ、やっぱり皆の想いの結晶とゆー名のモノを生み出したいんだな? ノリで悲劇を起こす気か。
「あのな? それは起きたら、勝手に魔改造の案件なんだぞ? 起きたら、戻れないしょーげきの事実なんて嫌だろう?」
勝手に進化が良いなんて誰が言ってんだよ。
懇々と説明したら理解したらしく俯いた。手にした贈り物を、それぞれがじっと見つめて動かない。二位は一位の足に引っ付いているが我関せずとしたいのか、背中を向けて微動だにしない。一位は珍しい手詰まり感を出して真面目に固まってた。
「でも、かっこいーならいーんじゃない?」
ブレない子がいて困る!
「中に居るの、おめがシリーズのアリスリアだって聞いたよ?」
「ん?」
三人が口々にアリスリアの特徴と特性を挙げ連ねて、「「「だいじょーぶなんじゃなーい〜?」」」疑問形でも明るく言う。
「お兄さんやお姉さんがすっごく励ましてたの」
「そうそう、これを足しにって」
「いいことだよね? ね?」
「くぉら、そこぉ… 余計なコトしてんじゃねえぞ? あ?」
卵の特性をわかった上で色々しない、言わないの! 事故からの生還劇に魔改造は微妙なの!
「だって、我らが主は初めから助ける気がなかったんでしょー」
「そのままにしておく気だってー」
「望みが薄いって… 薄いってえー」
してはならんものはならんのだと怒ったら、正論を突かれた。放置プレイの方向性を指摘されると辛い。ついさっき、機嫌が良くなったから助けようと思ってると馬鹿正直に言うのは躊躇われる案件だ。
「「「なら、僕(私)達が助けに動かないと!」」」
俺の思考がお星様になりそー。
動かない一位と二位を横目に、ほうっと溜め息。ちろりとプールで煌めく星の山を見て思案する。可及的速やかに、こいつらを部屋から出さねば取り掛かれん。大人しく見学なんてしそーにないし、見せる気ないし。
むうと頬を膨らまし、一歩も譲らぬ風情の顔を見て よし。
「仕方ない、秘密を教えよう」
「え?」
「何?」
「向こうの卵に、どうして星が毒になるのかだ」
「それ… 今、必要な話?」
「知りたいけど… えー?」
小さな事は無視、「聞け」と話を進める。
「星が毒になる、その心とは?」
「よくわかんない」
「希望の願い星なのに」
「そう、そこだ」
「そこ?」
「どこ?」
「ここ?」
首を傾げてナチュラルにボケるうちの子が可愛いから遊んでやりたいが! 合いの手はなし、真剣な顔を崩さない。
「星が違えば毒にはならない」
「…違う星?」
「星の違い… 願いの違い?」
「え、あれは願い星だから… 待って、私達の想いが毒!?」
「そうだ!」
両手を広げてポーズを取ったら、信じられないと書いた顔を見合わせ、ひそひそ話。疑い深い眼差しでじっと〜りと見られた。
幼少期はそんな目しなかったのになー。
「卵に与える星は栄養だ」
「成長… だよね?」
「お、お、お、大きくなぁれ…」
「ならば、向こうの卵に与える星はどんな色だと思う?」
「どんな… って、えー」
「…希望の反対を与えるの? ほんとに!?」
「与えていーの!?」
「向こうの卵には、まだ星を 栄養に満ちたご飯を与えていない。しかし、今! まさに、そのご飯が出来上がりつつある。そう、疑い深いお前達だ」
衝撃を受けた顔に、しめしめと話を続ける。
「星となるには、まだ足りない。だが、卵はそろそろお腹が空く。空けば泣く。そうなれば、食べたいのは今。与え時も今! 美味しい美味しい星になるのを待つよりも〜」
言葉を区切り、キラリと見やる。
「お前達、摘まみ食いとは美味いものなのだよ」
このままだと、お前がご飯になるよと言ってみた。肉の体でない分、飢えに吸われるとするりんなんだよと脅かすのも忘れない。
「何せ、あれは特別な卵だからなあ〜」
「う、うそ…」
「う、うえ…」
「う、うあうあ…」
青くなり、顔を見合わせ。
そろそろと身を寄せ合って、縮こまり。
三人で手を取り合って、『さあ、泣きそうだ』と判断した所で突っ込みを入れる。
「その感情も美味しいかもな?」
「「「ひっぐ!」」」
無理やり口を閉ざした顔がかわいー。
「主よ、幾ら何でもその様な」
「何を言う、一位。此処を何処だと思ってる? 生物実験室だぞ!」
場所を誇示して、あっちもこっちも黙らせて。
廊下に出なさいと手で示す。ぞろぞろ出してから、入り口でしゃがんで我慢の泣きっ面で震える三人と顔を見合わせる。
「どうなっても、それは使おう」
ちょーだいと手を差し出す。
物言いたげな震え顔に笑顔だけで答える。まぁ、質問なぞ受け取らない笑顔だから優しくはない。しかし、優しいから受け取らない笑顔を見せるのだ。
そう、なんと罪深きこの優しさよ。
この優しさで初めて成り立つモノが為、この笑顔を見せるのだよ よー よー よー はっはっはーあ。
「…はい」
受け取るが手を離さない。ん?と首を傾げれば、両手を広げてぎゅっと首にしがみ付いてきた。泣き出しそーでも泣かないじらしさに抱き締め返して、よしよし。それを三回繰り返す。
「お前達に良い事を教えてやろう」
みゅーのコードを教え、二人に会いに行ってごらんと送り出す。振り向き振り向き、廊下を行くのに手を振り、戻らないよーに見張 いや、見送る。
そして、残る大人組に問答無用で仕事を割り振る。
家の戸締りを指示した事を踏まえ、二位には召喚の一時停止を申し渡す。それに伴い、全あるふぁへの通達と待機所を構える事を命じる。
「一時停止でいいの?」
「非常に不本意だが、事業としてお前らが回した以上は仕方ない。これが家の子ではなく外部の為になったら、その時点で打ち切りだがな」
「えー」
「えー、じゃねえわ。慈善事業はしないんだよ」
「ストックー」
「…そっちかよ」
「だって、今は停止状態とそんなに変わらないから問題ないのね」
「あ?」
「えー、さっき提出したカードに詳細不明欄がありました通り… 当初にはなかった召喚の問題が発生しております。ので、現在は供給を絞っています」
「…ほう?」
これは最初から聞かねばならんのかと、後ろ手で実験室の扉を閉めた。
「なるほど、年間供給総数をそこまで絞ったか」
「はい、需要は無視ってます」
突然の供給ダウンに、そのギョーカイが慌てふためいていると誇らしげに言うのがなんだかなー。
「反省か、それとも衰退か…」
「えー、大丈夫よー。だって、希望とゆーのは尽きないものだから〜。代替わりで復活ねー」
……自分達の事例を引き合いに出すなとゆーに。もう、うちの子は。はいはい、で?
「…出入りを自由設定にしてるのか?」
「ううん、渡した地図を使った時点でもう入れない。そこは大丈夫、安心して。で、専門チームを立ち上げて追跡調査中です」
「うむ、そこも取り組んでたか」
「詳細不明と記した時点で数は把握してるから! それで問題が発覚したのはすこーし前の事なんだけど… 連れて来た途端、大怪我して帰っちゃった件があったらしくて… あるふぁ達が『がさ入れだー!!』って怒って怒って大騒ぎ。それから基準の改正等に着手しました」
「…すこーし、前?」
「うん、すこーしだけ前」
すこーしの言葉の裏の時の流れ。
俺の頭の中で、あの子のアイコンが『わーい』と遊ぶクリテリウム。ぐるぐるする周回が辛い感じ。
「あるふぁ、すっごく怒ってたのよ? だって、連れてきたのは希望だし。交渉に努力してるし。何より、身一つにするんだもん」
「…身包み剥いだか」
「剥がないと、ザーッとできないよ? ザーッの後はあったかーでリラックスさせて、その間に内側も検査して終わり。衛生面も精神面も抜かりなくやってます」
「温める気遣いは偉い」
褒めれど、俺の頭は換算してる。
酷い格好で帰ったあの子。あの時点からの本腰…
「…でも、ごめんなさい」
「ん?」
何のと思えば、手探りでの行いに止めも助けもせずに長年見ていた事に後ろめたさは感じてたらしい。しかし、聞こえる家の子の希望。叶えてやりたい、明るい未来。そして、自分達も打破したい現状。単に繰り返すだけでは、ど突かれるのはわかってる。
そこで、入れ知恵はしてた。
本来の希望とは外れるが安全性を見込んで専用スペースを与えさせた。それはそれは悩ましい判断だったと。仕様を変え、接触の機会が減れば心が離れ絆が薄れる確率が高くなる。事実、そうした気配は出てしまった… しかも、スペースを与えたのは全てに対してではないとなると〜〜
「そこは特性・特徴の分類が為されてたみたい」
にこーっとする二位の顔を見てると、絶対に試験的な事案で終わらせてる。まぁ、仕様変更なんざ実験だ。
「それにスペースが嫌になったか出て行ったり、空きスペースに気が付いた子が入って別宅にしたり、迷子になったり。それを個々に合わせて強制を排除した場合、どの様に対処して、どこまでが容認すべき期間なのか思案にくれる議題に突入し」
うんうん、ぐっちゃだった訳ね。
若いのが知らんでも完全にプロジェクト化してるわ。
「スペースを与えた事が呼んだ子に対する横暴の下地となったは不本意です」
完全に廊下で話す内容ではないが安息が必要な卵達に聞かせる話でもない。寧ろ、聞かせたくない。
「でも、あれの時とは違うから」
言葉と共に表情が揺れ、転じる視線。
二位が見ている別の場所。
共に見ても見なくても何を見てるか理解してる。
情が湧いている。
内包するみゅーの特性が強く出ている。想定の範囲内だが預け過ぎたかとも思う。だが、俺の手元で保管していれば現状は訪れなかった訳だ。その事実は悩ましいようで〜 実に、どうでも良かったり。
「手探りでも、前と同じではないもの。事後説明とした心苦しさはあったけど… でも、それだけではなくて! 成し遂げる、その事に夢中であったのもほんとなの」
説明する姿が徐々に幼児のモノから抜け出し、一位の裾を握る手は離れ。
「スペースは下位に。理由は利便と危険性。我らが主の死角を目的としたんじゃない、それはほんとだから!」
その辺の強調は失敗だと思うが?
「…どちらにとっても喜ぶ顔に善かれと。気持ちは助け、助かれと。それが停止ではなく継続に持ち込んだ理由です」
主張を貫く二位の凜とした姿に… 全体の統括を確かにしましたと話す顔に… 急激な成長の連続驚いてる。刮目せよ!と言わんばかりの成長に、感動の嵐!! ま、何時俺に気付かれるかわからん時間との戦いが一番の成長源だったんだろーがな。
「二位、立派になったな… 本当に、よくやったなぁ。どうせ、お前の事だ。当初は本当に見守りしかしてなかったんだろ」
「え? う、うぅん?」
「初めから提出物なんざ揃えてなかったんだろ?」
「うぅうん?」
「みゅーとあるふぁを束ねるのは、お前だ。どんな始まり方であろうともプロジェクトリーダーは、お前だ。今、それなりの説明ができて良かったなぁ。でないと仕置き部屋に直行だったなぁああははははは!!」
「ひゃああああ!!」
めっちゃ悪くてカッコいーと評された顔で笑ってやったら、凛々しさを捨てて一位の背に隠れた。まだまだダメらしい。それとも、俺の顔が良過ぎるのか… ふ。
「で? どこら辺に設置した」
「え、え、え、えと… えとえとえとは、この辺に」
ひょっと手を振り、空間に映像を出す。
上空からの全体映像を地上へと落としていく。はいはい、此処かと納得。見つからないよーにと頑張ったカモフラージュに苦笑い。大掃除に重水をざばーっと流したら一発で丸わかりなので、もう何も言わない。
しかし、カモフラージュを抜けたら驚愕だった。
禁じられた遊びの後の山積みの残骸のよーに見えてびびった。ほんとゴロゴロしてた。 …はいはい、だから怒らねえよ。この程度の容量でどーにかなる家じゃねえよー。しかし、景観はあれだな。
「積み上げブロックとしてはアレなんだけど、イジってるから」
なんつーか、こ〜 こ〜 こ〜〜 笑える卵のコロニーだな。積み重なってできた隙間に入ってる子もいる。
「あのね、あの隙間ね」
…なるほど、それこそその大きさでのみっちり感が良いと。なら、蜂の巣のよーな区画整理をするのも可哀想か。
「しかし、妙に種類が… お前ら、なんかのコンプでも目指してたか?」
「んー? んーん? ふほーとーきとか不当に殺されそーになってたのを助けたりとかは聞いてる。んでね、あそこの子とかは「ん?」動けないよーになってた子でねー」
驚愕に二度見した。
ゴキュリと喉が鳴る。
あああああああああ、あれは!
「暫く前に瓦解したヒトんちのじゃねーか!!」
「うちの子の希望に添ってた子しか連れてきてないー!」
「ちょい待てちょい待て、意味がちが! いや、だからちょいまあああてぇえええ!!!」
変な興奮と冷や汗が出て体感が酷い。
ざっと見だが、我が家に妙な種の保存箱ができてた。さっき見た詳細は抜粋だったかと、がっくりきてる。我が家の系統に合ってるから、まだ助かるが…
「ちゃんと選んで声を掛けてます」
それにしても、どうするか?
レアがある。
垂涎もののレアがある…
高額、売り抜け、参考資料、コレクションで思考がふらつくが良い事ばかりじゃない。あのクラスには基本条約が制定されている!
「ちゃんと合意は取ってるのよー」
「よっしゃああああ!!」
合意がなってりゃ、まだましだ!
それに、いざとなれば此処だけだ。この区画だけだ。そう、このラストコロニーを黙ってロストしちまえばいーんだ。
「ん?」
頭痛を覚える画面に最終想定をぶっ込んで落ち着いたら、いきなり画面を横切る黒い影。ヒューッと旋回、降りてくる。
「あ?」
「あ、そうなの仲良くてね」
影でもわかる、お気に入り。
一番上の山に降り立つと、いそいそと入ってく。
「それでね、見て見てこれえ〜」
画面が切り替わり、ズーミング。
「……… 」
うちのと、ヒト様んちのが、うんめーの恋人のよーに寄り添ってた。そして、そこに あってはならない禁断の卵があった。
………どうして、このくそ忙しい時に次から次へと用事が増えるかな? あたまいてえわぁー。
金縁が付いた緑と赤のおくるみに包まれし、命の象徴たる卵ちゃんズを言祝ぎ給へぇええーー!! んで、うちとこの召喚獣(一部)は次元を切り裂くよーにかっこよくハウスから出てくるのだあー!
本日の少年少女。
水のぜーた、風のしーた、光のさんの三人組でした〜。
現在、お手々繋いでみゅーの元へ向かってます。三人とも地味な泣きっ面、真ん中のさんが二人を少しだけ引っ張る感じで行ってるよーです。
禁断の遊び、自分ネタ。
過去、とある金魚を回したら黒しか出なかった。日を変えても黒だった。赤とか白とか出なかった。
先日、『ふん※り雛龍』ってのを発見。
卵と雛が直結する上に龍である。これはやらねばと回したら、これまた黒が出た。
己のネームカラーの強さよ… ふ。