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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
210/239

210 甘いのです

本日、東京五輪 開会。


今日という日。

止まぬ時の流れ、あなたが色付けするなら どんな色になるのでしょう。





 「では、そのように」


 猫の意見が通るも通らぬも、決まる事が決まってしまったのでございます。止めてないけど。実質、二人を預かる事になったロイズさんの負担が増しただけとも言えそうですけど。


 そこは猫も大変申し訳ないと思っておりますですからのはい。でも、お膝から動かなーい。ぐで猫、尻尾を揺らして終わりでぇーす。


 「それと先の話ではありますが、ノイ様」

 「にゃうん?」


 お馬さんで勘を取り戻し、竜ちゃんの騎乗訓練に移ったらヘレンさんのメイドさん衣装を新調する案が提示されました。


 『え!』


 お声と動きには出さなくても、お口とお顔を正直にしたヘレンさん。


 所属が俺になる以上、領主館のメイドさん衣装を着続けるのは不適切。私服も不適切。似たよーなメイドさん衣装もアウト。部署が不明な不審者は兵の皆さんに取っ捕まって当然なのであります。証明があればいーんですが俺が出す証明なんてございませんし、出した所で周知も効力も至らないんで証明にもなりゃしねえ〜〜ってとこ。


 過去の在籍とゆー輝かしい顔パスで通行止め解除は無理なのです。


 なので、ステラさんモードが提案された。最終の帰属は家で間違いなので着用する事に問題はないが、おとーさん伯爵様のご許可がない! 許可がない内からの着用はフライングスタート! こればっかりはセイルさんの許可でもダメ。ダメとゆーより無効、大元である俺の申請許可が降りてない。つか、出したばっかりですし…


 「竜の騎乗訓練にまで至ればあれらも納得しようし、ノイに契約を移譲する形で繋げばこちらとしても楽に終わる」


 おおお、猫はペーパーの授与を恭しく頂くだけでいーのですね! それは楽でいーです。


 「また、それなりに時間が掛かります」


 作るんなら、替えもいるじゃない。着た切り雀はあれじゃない。いや、どの季節でもそーだけど夏場は特に。 …あ、出立は秋だっけ?


 完全にオーダーメイド。シューレにステラさんが着るメイドさん衣装の型紙はない。個人調整で済ませられる原型がない以上、早めに動かねばなりません。そういや、俺の服も靴も良い感じにできたでしょうか?


 本当にお顔が正直なヘレンさん、キラッキラしてて人参を前にしたお馬さんみたい。比喩じゃなくて、あの時の子の目と一緒。


 「最も竜に騎乗できねば意味がないので」


 不要な発言はしないが、顔は『やってみせます!』と宣言してる。同じ祈りのポーズでも、力加減でグッと意味合いが違ってきてます。


 「…それでだがな、ノイ。全く同じでなくともよかろ?」

 「に?」


 『え!?』


 ステラさんの衣装はランスグロリアでも上級に当たり、下っ端ちゃんとは階級が違うのだそう。うぅむ、細かい身分社会… って、メイドさん試験突破組なんだから当然か。


 「シューレは我が領であるが我が家の母体ではない。母体に手が伸びる物を置きたくない。模倣できる者が見ればなくとも可能であるが、型の有無は大きい」

 「なぅ」


 「約の縛りは様々にあれど…  田舎で負担と誇りは混同され易い」

 「うにゃあーん」


 何か違う含みはどーでも、わかります。


 制服の悪用ですね?

 相手への信用問題よりも初めから元がなければ問題は起こらないですね? わかります。


 「にゃーん」


 そこ、制服に笑い制服に泣いてもダメなのです! 制服による征服は着服問題よりも大きいのです! 被害者の俺を考えろ!!


 「しかし、我が家とわからせる必要はある。また、ノイの専属である事は必然的に上級となる。色目を似せ、動き易さを重視した物としような」


 『きゃー! 別注オンリー!!』


 デザインからとのお言葉に、興奮気味な幻聴が聞こえた気がします。それでも、求められるメイドさんレベルは気にしてないよーなので頼もしい限り。全国共通メイドさん試験を突破しただけの事はあるな! …あれ? 全国共通なんて聞いたかな? 聞いてないよーな?


 「それとだ」


 騎乗に便利なズボンもある方が良いだろうと作る事になり。そして… そして! そこに専用マークを入れてはどうかと!!


 ワンポイント、にゃんこー! ブランドロゴきたあー!


 「にゃにゃにゃにゃにゃっ!」

 「おっと」


 猫喜びで賛同を示しましたとも!


 お膝の上での猫ぴょんぴょんはセイルさんを驚かせ、うにゃっふにゃあーん。思いっ切り、セイルさんににゃふっといた。


 とりあえず、ロゴマークはハージェストに相談してからにします。つか、ハージェスト不在でガンガン話を進めてるがいーんだろか? いや、いーも何も〜 どうしよーもない以上、事後承諾して貰うしかないんだけどー。


 ま、怒らんだろう。


 


 そんなこんなで先を見越して竜ちゃんの訓練に入った時点で、メイドさん衣装ニューバージョンを作る事が決定です。この決定にヘレンさんの顔が光り輝く… そのキラキラビームを浴びるのは、俺。


 ちょっと気分いーですネ。



 「では、これにて」


 お馬さん予約の他、ご指導ご鞭撻を頂く教官へのご挨拶に行かれる事になりました。騎乗できる兵の方ならどなたでも、にはならず。ハージェストの部隊の方に面倒を見て貰うのは、今後の交流を深める目的も含まれます。うん、俺もまだ挨拶してなー。


 ギルツさんも行って部隊長さんに説明してくれる事になったので安心。


 二人に従い、ヘレンさんが意気揚々と下がっていきます。どこか微妙なロトさんは現実に付いて行きたくない感じで積極性はない。だが、隣のヘレンさんからも逃げられそーにないから諦めて欲しい。


 俺も、なーんとなくで諦めたから。

 集団金魚の黒流れに逆らうには実力が足りないからイケナイのよー。黒の流れに抗いきれなかった時点で流されるしかないのよー。溺れる勢いで流れちまいなー。流れに負けたら、また金魚スタートすればいーんだしさ〜。


 「にゅ?」


 金魚生に思い至るとあれ?的な猫、半眼で明後日を見て逃げします。ループはナシナシと尻尾応援旗をてきとーに振って、セイルさんのお膝にへばりつく。落ち着くわ〜、いろーんな意味でもこのお膝は落ち着くわ〜〜。



 …いや、ちょっと待って?


 「ふにゃ?」

 「ん? どうした」


 セイルさんのお手が猫の頭をナデナデしてくれますが… これって俺が雇う形になるんでしょ? 決めた衣装の代金てどこから出るの? 俺の財布から出るの? 出るの? まじ出るの!?


 …まぁ、出るんでしょうね。


 「にゃー」


 最初の出費は制服支給から。まぁ、必需品だから  って、ロトさんの分はあ!? そっちも要るから金額二倍!?


 …ああ、二倍だよ。一人が二人になったら、そら二倍だよ!


 にゃー、猫お金勘定しないといけないのねー。お小遣い帳が二冊は要るのねー? 頂いた死に金から出費するから困る事はないですが、支払いとして生き金になるなんて、なんて素敵な生き様でしょー。


 こーなると大雑把ではなく、きっちり金額を決めて軍資金… じゃない、基本金… あれ、何か違う… えー、し し そう、資本! 資本金として活用していきましょー。まぁ、出る一方の活用は運用じゃないからどーなんでしょー。


 出費がぽんぽこ決まる必要経費。


 金があるからまだいいが、シューレから移動する間の三食その他も全部経費で俺持ちで? それとも給料から天引きしていーんだろか?


 一番費用が掛かるのが人件費。一人、なし崩しの奴隷モードにスイッチを入れてもいーのかな? ドキドキするな? にゃふふふ?


 「ん〜 可愛いな」

 「なぅん♪」


 悪魔猫の降臨を魔王様のお手が妨げた…


 「ふにゃあ」


 全てを解決か無効化させるセイルさんに全力で媚びておく。媚びると良い事があるのを理解しているので媚びておく。決して現実逃避ではない。そして優れた縄師であるからでもない、あれはめちゃくちゃ楽しかった。


 四人に続き、クライヴさんも頭を下げて出て行った。


 セイルさんと二人きり。

 お膝効果で元気が出た。

 ここは一発、縄師の再登場を期待しても?


 人目を気にして可愛くやってたのを取っ払い、猫の本気を全開にしてもいーんでしょーか!? いーなら、猫そこに置いてあるのを咥えてきますが!!


 心置きなく遊んで貰おう(媚びておこう)と、ターゲット・ロックオン。



 「ん? どうした」


 お手を振り切り、取りに行こうと足を踏み出「宜しいですか?」したらば、お声が掛かったです。リアムさんでした。



 「こちらをお持ちしました」


 お手に抱えたブツは、お菓子箱への補充品でした。

 パカッと開いたら、夏のクッキーは爽やかな柑橘系の香り… 俺のお手製、柑橘系タオルとは偉い違いでございますな。


 そーいや、あれどうしたっけ? 見てないな。


 あ? お洗濯の人からしたら、あれって単なる食べ零しのシミじゃ…  嫌ですね? 過去の心理なんて過ぎた事さぁ〜。


 「にぅん」


 クッキーの甘さと爽やかな… 猫の鼻を擽る… やっぱり、刺激臭か?


 「戻ってから、お食べ下さい」

 「ぶにゃー」


 セイルさんが一枚所望されたので、俺もとお口を開けて待ったのにダメだってー。


 「うにゅー」


 ダメ出しに拗ねた直後、天井から黒の輝きが次々と飛び出し降り注ぎい〜〜  わああああ、リアムさん狙われてますよー。


 「は!?」




 部屋中を泳ぎ回る金魚の群れ。

 煌めきを散らす黒の群れ。


 好き勝手、てんでばらばら無作為に泳ぎ回るかと思えば戦隊よろしく隊列を組み、素晴らしい息の合ったショーを展開。鰯の群れのよーな動きに目が釘付け。しかし、直後にぱああっとバラける黒花火。


 俺のブラックインパルス、カッコイイ!!


 それにしても、全魚かな? よく許可が出たなぁと感心しながら、確認に数えよーとしたけどショーの展開が早くて数えらんない。ので、鑑賞に切り替え。



 一頻り、金魚の舞い踊りが披露されました。

 今回は速度が基本のキレッキレの軍隊式金魚踊りがメインで竜宮城の鯛や鮃の舞い踊りのよーな優雅さは〜 ちょっとない。


 最後は整列。

 間隔を一つずつずらす顔見せモードで停止位置をピシッと決めたら、全魚ホバリングなしの垂直降下でゆ〜〜っくりと床へ向かいます。



 床に並んだ黒金魚。

 何時でもスタンバイオーケーのハリアー部隊が並ぶ様は… くっ! 初号機から最終機まで番号打ちたいかも! 個々の味を出してる白手形はケツ回り、失敗したあー!


 その間、入り口で姿勢良く立ってたリアムさん。

 口をすこーし開けてるのが、ご愛嬌。どうした?風情で戻ってきてたクライヴさんもリアムさんの隣で同じ顔してた。


 それが同時に正気に戻る仲の良さ。

 何かに慌てたクライヴさんが引っ込み、誰かに何か言ってます。なんとな〜く下がれって聞こえた、猫耳いーから。



 「ほう」


 セイルさんの声、金魚の頭上に立ち上る蜃気楼… 黒くて透明な蒸気に似てアレなモノの出現に遊び時間じゃなかったのを知った。カーテンの紐を諦め、ちょっとだけ残念感を抱えて戻ります。


 何かに備え、お膝への登攀はなし。


 金魚ちゃんのナニを見てるのか、セイルさんが笑う。目が細まり、唇が上がる。魔王様の笑みは愉悦風。


 「リリーが拗ねるな」

 「にあ?」


 猫の脳裏に『私も見たかったー!』と拗ねるリリーさんが浮かんだ。猫、対応したくない。お任せ依頼をしてしまおうと、すーりすりと頭で甘えておいた。けど、金魚ちゃんは何を始めよーとしてるのか?



 「真の鏡、全てを映す鏡に映るは 人か、獣か。それとも、 魚としたものか。 いやもう、句が変わるな」


 優しく優しく猫の背を撫でながら、くっくと含み笑いをするセイルさんはご機嫌で。


 「此処に真の鏡はないが、鏡と同じを見ゆるとは。 遠き神は、何を思うて人を世界に還し給うか。その御心の一欠片を読み解くに今を好機と捉えるべきか、それとも不敬を恐るるべきか。 なれど事象は止まず、止まるを知らず。ならば、留まるに意味を見出せず。 時、同じくして  殊更に、人の愚かしきを笑い給うか」


 ご機嫌が 落ちた?

 うぇ? 猫、わからんのですが?


 「よかろ」


 低い声のトーンに見上げたセイルさんは止まらない。五指を広げて腕を振るい、黄金を舞い散らせた。




 しーんきろー はー かーげろー。 かーげろうはー ゆーらり〜。 ゆーらりーは かぁげぇでー かぁげーは ひーとーでー。 ひーとでーはー おほしさまー。 おーほしさーまは とーおくー ひぃとのてー はー とどかない〜〜。

 



 金魚ハリアーの上、黒の揺らめき。

 黒の陽炎から、光の粒。


 輪郭を刻んで。


 生まれた人影、黒い黒い衣装。

 彼ら、彼女らを取り巻くセイルさんの黄金。本体の暗さを引き立ててー  猫、ゆーれーを見ています。あれはゆーれーです。


 真の鏡は鏡面なくてもいーなんて、酷い。光が曲がってツルッとしてたら鏡です? ファンタジーな鏡の現象を見ていますがアイテムの鏡が不要な所にファンタジーを見るのですがアイテムが欲しくなるのはゲームの所為でしょうか? ゲーム脳が欲しくなるのは、ゆーれーを前にしてるからでしょうかぁあ〜〜?


 いや、違う!


 あれはゆーれーではない! プロジェクター効果だ! 下にハリアーが存在する以上、あれはプロジェクターによるものなのだ!!


 猫は正しく理解した。

 無敵の理解にうろうろ猫もパニック猫も出現しなかった。


 ふ、ふふふ! 猫の目を騙そうなんて甘いのですよ? にゃふふふーん。  にゃふーう…



 瞬間的なドキドキは無難に押しやり、機体を見つめる。羽衣があるから、あれはジュリちゃん。一番前にいるのがジュリちゃん。チラ見する影に羽衣はなし。その代わり、他の子とは陽炎の強さが違う。羽衣性能でちろちろ煽ってんだろか?


 猫目を細めて見つめる人影。


 …どこか淡く儚い感じがしてたのに、めっちゃ力強く一礼したですよ。ええ、生きている感じが すっごーい。


 え? 待って、ジュリちゃん! あなた、ロングヘアー!?  あ? うにゃー、ちょっと影混じりすると判別が難しー  まぁ、いいや。



 猫がうにゃうにゃ悩む間、気付けば魔王様は影のジュリちゃんと手話してた。できるもんだと驚いた。


 「にゃう〜」

 「ん? 単純なものでな、深い話はできん。見えんしな。  どれ、心話でも試みるか」


 「にゃふん!」


 魔王様のお言葉に金魚ちゃん達、嬉しそう。全魚を見回したら、ドアは閉められリアムさんが門番よろしく立ってた。影の間から垣間見える普通の人様、血色の良さ。猫は何かの落差を大変強く感じたとです。


 そして、次の瞬間 ぴっしゃあああん! 


 頭の天辺から尻尾の先まで猫の体が震えて毛があわあわあわあわ 泡立つ  いえ、逆立つよーな感じがしたとです!


 突然の、怖い感覚。

 見慣れた金魚に、この感覚。なんで? なんで?? なんででしょう!!? 何かわからんでも猫の霊感が全身で危険信号をキャッチしてます!


 いにゃー、やめてえーー!


 脊髄反射で叫びたかったが、現状を中止するとゆーのは金魚連合協同組合の熱視線を浴びる事であり〜 やめろなんて言えない。お試しすら止めたら金魚が嘆く。できるできないの確認を取る事すらさせないなんて悪意じゃないの?


 ストレスと不満が爆発するでしょ! しかし、猫は恐怖に慄いて!!


 「… 」


 ぐるった猫はセイルさんから距離を取る。うにゃった口のまま、ぽすぽす離れてお座り。にゃむにゃむと地鎮祭ならぬ安全祈願祭を執り行いましてございまする!



 『猫、悪い子ではありません!』


 悪・即・斬!に震えて、悪い子ではないと繰り返し『制服の着用性の必要に応じて光がきんきらぴかぴかなんですうー!』と必死で唱える。お試しの事象に問題の有無はわかりませええー いや、ないでしょーと訴える。


 『良い子の猫は好き嫌いはあっても、ちゃんと食べてるー』


 だが、訴えても罰される怖い映像が浮かぶ。その場面も乱れ飛ぶ! あっちもこっちも罰されないよーにと、お願いする。魔王様も魔女様もやさしーの、あく いえ、辞書はどこまでも辞書してくれて助かりと持ち上げる。


 『猫、お行儀よく美味しそうなおやつを我慢したのねー』


 お願いをすればする程、言い訳めいてて内容もあっぷあっぷしてくる。


 『き、金魚ちゃん達の努力を認めて欲しいのですー』


 金魚に祈りを寄せれば、猫さんが咥える映像が思い出される!


 『猫の金魚、とっちゃやだー!!』


 過去の恐怖に泣きそーになるが、取り上げられなければイケる!怒られないとゆー直感的謎思考に従いお願いする。罰されるとゆーのは天罰だ。そーなると、やはり家主様のお怒りだ。猫はお怒りを察知してるのだー。祈りを捧げる交信を続けねばぁー!


 『うな?』


 半泣きの自分の言葉で真顔になった。


 そうだよ、交信だよ。

 交信中のセイルさんとジュリちゃん。ぷらす、自分もキャッチできないか頑張ってる皆さんが問題なんだよ。


 『交信』


 頭の中でペカペカと単語が点滅する…

 

 『死人との、交信』


 恐ろしい単語が付属したら、次に『奇跡』が出てきてピカペカと。


 ここにきて、猫は漸く気付いた。

 奇跡の裏に気が付いた!


 今、目の前で この世界の 自然の 摂理に 逆らう行為が展開されている… ここここ、これは! これは家主様の祟りじゃぁああああーーーーー!!



 猫、祟り神にパニクってたましーが抜け出そう! 抜け出そーな所に正気に戻る金縛り! たたたた、たーたーりー が すーでーにー。


 動けない猫、恐怖に駆られて涙が出てきた。

 爪も何も立てれない猫は 猫は  役立たずな猫は うぇええええん!! みぎゃああああああ!!


 脳内で泣き叫んで転がり回り、ヘルプコールを飛ばすが魔法の辞書はいない。いないけど、いないけど、いないけどー! のーみそには居る!


 ハージェストは居る!



 『はい』


 食べ歩きのハージェストが出てきた。

 串焼きくれた。

 

 とりあえず、出されたお肉に泣きながらあぐあぐした。なんかごっちゃになっても『美味しいごはんー!』は再現率が高い。口まわり、ぺろっち。



 『今度、あれ食べよう』


 ハージェストの声と俺の思考が重なったら、ちょっと落ち着く(意識が逸れた)。でも、ハージェストのあれってなんだっけ? でも、あれ食べよーにうきうきしてくる。


 勝手にパラダイスが始まる。




 「…ぶにゃん」

 「遊びは終わりか?」


 幻の屋台に、ものすごく冷静になって顔を上げたら観察されてた。あの、終わってたら言って欲しいです。


 「いきなり転がって遊び出すから驚いたぞ?」


 …猫、リアル動いてました?


 「ああ、ほら」


 シーツに爪が引っ掛かってた。外してくれた。よく見たら、暴猫圏内はシーツが大層乱れてた。 …トランス状態の猫の祈りとは 祈りとは! 暴力に似て違う感じのあばれる君なのです。にゃっああ〜ん。




 見事、中断させた心話は再開された。しかし、お話とゆーお話にはならず。


 猫の前に進み出て、ご挨拶。

 お口を開くとセイルさんが名前通訳。通訳は以上です。


 非常に理に適ったご挨拶とゆーか、そうよねー みたいな? 金魚ちゃんが他に喋らんのですな。



 そうっと影の手が猫手に触れる。そしたら、驚く事に指先から光と色を取り戻し ええ、生前と思しき人の姿がはっきりと。


 この現状にリアムさんが動いてた。

 何時の間にか近くに来てメモ取りしてる、クライヴさんが門番やってる。猫、入室移動に全く気が付かなかった。



 

 部屋には透明な彩りが金魚の数だけ存在し、さながら… ぶとーかいのよーな? 挨拶が終わったら下がって、聞こえないお喋りを始めたのです。透けてる衣装にファンタジー感が強く出てます。


 各々が現状に笑顔で居てくれて嬉しいです。 …ええ、呪いの笑顔でも悔し泣きの顔でもなくて本当に嬉しく。

 

 最後の一人のご挨拶に、「にゃおん」。

 只々、じぃいっと万感の想いが篭ったよーなお目で見られます。猫、かわいーですかあ?


 自分の手と体を見つめる。頭を下げて、仲間の元へ。腕を伸ばして受け入れる仲間。なんて良い雰囲気。猫、入れないけど。


 少しだけ、思い出す。

 足と靴、揺れるスカート。


 可能性はあった。

 今と同じに ああやって仲間に迎えられる。可能性。今という可能性に  可能性を持っていた、複数形。



 選択の違い は 勝敗でしょうか?


 みょーな事を考える。今、此処に居るか居ないかでみょーな事を考える。たましーの行き先にすら勝ち負けを考える時点で〜 みょ〜〜うなのーみそしてるとは思うのよー。


 でも、ほら。

 人は対比がいるじゃない。


 これが〜 人の〜 の〜 の〜〜  幸福理論なんでしょうかね? 


 

 あー、なんかやだー。

 もう一回、ご冥福でも祈っときましょーか。


 にゃむにゃむにゃーむー って、あの複数形よか白ちゃんの方が理論上酷いんじゃね? いやでも、真っ白だし。


 うぬぅ、時の流れがバリエーションを生むから理論がわかんなくなるじゃない! にゃー!


 

 

 猫が幸福理論に悩む中。

 透明な彩りの方々に動じず、話し掛けに対応しよーとする非常に冷静な二人がランクアップかレベルアップしてんじゃないかと思ったので見習います。


 すると、髭に感じるか感じないかの小さな〜 周波数? ふぅうむと感じ入ってみました。


 そんな猫の元に、そそっとやってきのはネギちゃん。


 腕白坊主とゆーより、思ってたとーりに表情が可愛い子供な子でした。躾か、性格か。戦闘時は知らんでも、本当に子供な表情をする子で…  今またその性格を発揮してる。猫を抱き上げたそーな雰囲気で、雰囲気で… 本当に子供感が… 子供心が… うん、ごめ。そのエアーな手に乗るのは無理。


 そんな所を頑張らない、ね?


 


 人の姿でふわっと浮かび、ぽんっと黒金魚に転身。


 その際、小さくキラキラ星を飛ばす。 スィ〜〜 からの ヒュッ。 反転して滑空、低空モードで人へと戻る。聞こえないけど、「きゃー!」の拍手喝采が起きてます。うん、楽しそう。遊び足りないらしい。いや、できる事を確認してんだろか?


 内々できゃあきゃあしてた金魚ズ。

 血色はアレとゆーかナンだけど、大層良い顔になって… なんかビーチバレーでも楽しむよーな雰囲気なってる。何時、昇天してもおかしくない顔っぽく見えたけど俗世から一切離れてなかった。寧ろ、山籠りから帰ってきた雰囲気すらある。


 

 それが突然、上を見て。


 ぽぽぽぽぽんっと全魚一斉にスタート。えへーな顔して傍を離れなかったネギちゃんもくるっと回転、黒金魚。るーむに戻っていく皆を大急ぎで追い、待ってた二匹と一緒に三匹で光を散らして戻っていった。


 「名は書き留めたな」

 「は」


 「では、備考として書き連ねよ」


 セイルさん、金魚ちゃんの会話を盗み聞…  いえ、してたとゆーか… できてたとゆーか… させてたん? え、どこに対する抜け道!?




 「お疲れ様でございました。隣に昼食のご用意ができております」

 「うなー!」


 リアムさんの書記が終わり、間を置いてクライヴさんのお言葉。ぎゃー! そーだ、セイルさんはお昼を食べてない!


 「にゃなななん!」

 「ははは、そんなに騒がんでも大丈夫だ。ノイはどうだ?」


 「…うにゃん?」


 え、おやつ?



 セイルさんに抱っこされて隣へ移動。戻ろうかと思ったが、まだやる事があるので猫でいます。それにセイルさんがいる間はセイルさんに張り付き、媚びる! ハージェストがいない内に全力で媚びる!!


 言うのも間違っていると思うが言っておこう。ハージェスト、これは浮気ではないと! 死活問題だと!!


 大体、浮気なんて言い方がおかしいんだ。他に適切な言葉がわからないのが困ったものなのだ、うむ。



 「うん?」


 猫頭を空っぽにして、お膝の上で人様のご飯を楽しみます。ええ、目で楽しむのです。お行儀よく、セイルさんのお口にお肉が運ばれていくのを目で追うのです! 決して手は出さずに目で滑らかに追い掛け、おいしそ〜〜って見てるだけです。


 差し出されても遠慮しますよ? セイルさんのご飯ですから。


 「食べたかったのだろう?」

 「うなー」


 いえ、クッキーなら俺の分でもお肉はセイルさんのですから。


 「…今なら大丈夫だと思ったのだが」

 「ななん」


 ありがたやー、気を使って貰ってる。


 「しかし、そうも…  そうだな、ならば」


 猫、首を傾げましたら。 ら! セイルさんてば、お肉のソースを指先につけてええええ!!


 「うにゃ!」


 甘美な魔力(匂い)に抗えず、べろんぺろんと舐め取ります。実に美味です! あ、ちゃんとお手拭きして下さいねー。

 


 お呼ばれのぺろっちを楽しみ、満足して体を丸めます。

 リアムさんの給仕の元、ご飯を食べるセイルさんの膝でまーったり。眠くなる。最初に遊び過ぎた?




 「…そうか、そうきたか」

 

 食後のドリンクで、レイドリックさんがご報告がされてた。お久しでーす。会わない皆様のご苦労が忍ばれる… 猫の耳には、だらーっと聞こえるので睡眠学習にはならない。


 「子供を寄越すか」

 「もしやと確認させたのですが、神童との呼び声もなく」


 「神童なぞ、そうはおらんだろ」

 「誠にもって」


 キルメルからくる団体様の代表者がご領主のお子さんであるのはいーんだが、未成年なのはどーゆーこったいな話してる。そんで代表者は二名とか。猫も話を聞いておかねばと思うのですが… うとーっとしてきます。ご挨拶したら引っ込むし。


 「その事で」


 耳がピクンと反応するのはリリーさんのご機嫌が心配だからです。でも、眠いです。



 


 「に?」

 「すまんな」


 セイルさんが持ち上げよーとしたので目が覚めた。お話は終わってた。液体を発揮してにゅるんとお手から逃げてみる。


 「おぉおお」

 「にー」


 猫体引き上げ山背を作って、うぅんと目覚めの一発伸び。あっちに戻るか聞かれたので返事をすれば、「よし」とオートで運ばれていく。便利。


 お腹見せ抱っこでも文句は言わない。もちろん、特大のサービスです。




 「…もう一度、あれで遊ぶか?」


 魅惑の申し出に「にゃうん!」です。猫目きらりですよ!






 「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ…」


 へにゃーん、縄師が… この縄師が無敵過ぎてぇええ!


 「いやー、楽しいな! ノイ、まだやるか?」

 「な、なぅうん」


 信じられない、縄師なんて裏サブ職でしょ? レベル幾つよ!? 幾つなら、あんなに華麗なピシパシするりんに達するんよ!? ぁあああ、こんなん知ったら戻れんでしょー! 


 ハージェスト、スキル枠空いてんだろか?


 あいつ、縄師取得しないかな? 犬使いに猫使い… 竜にも乗れるんだから獣使いになれるんじゃ… でも、犬と猫じゃ縄の遊び方も違うからなあー。



 へばったまま考え込む猫の隣にセイルさんがお座り。猫頭をゆーっくりと撫で… 猫に安眠を誘う…



 「ノイ、此処だけの  今だけの話をしようか」

 「ふにゃ?」


 優しい顔の優しい目。

 優しい手付きと優しい声で猫に昔を語り出す。


 過去を見つめる目は遠い。



 「それでな、本当によく真似たがってなぁ」


 はい、本人から聞いてます。凄いと真似して やって できて できたはずが できなかったと。


 「その時だがな…」

 「うに?」


 「実は、兄は最初から見ていてな」

 「ほにゃ?」


 片っ端から色々やって物にして、充実してたセイルさん。弟がやってるのを鳥の目を使って見ていたと。ハージェストがやってるのを 見てた んだと。


 「一人でこっそりしていたのは叱らねばならんが式は良し、後は完成させるだけの量があるかどうか。暴発の要素もなし、足りねば散るだけ。 だからこそ、見ていた。 見守り、完成したと。 そう、完成したと見たのだ」

 「…なぅん」


 甘く語らう優しい目が、後半で一転。


 「だが、結果は違った。 後になり、見守るのではなく傍に行けば良かったと。まだ小さいのだから無理はせず、もう少し… もう少し易しい術式で経験を積んでからと 止めに行けば良かったと、思い悩みもしてな」


 後悔とゆーには難しい顔をしてますな。


 「思い返すだに、あれはおかしいと 幾度となく、空回ってなあ」




 ハージェストの問題は荒波となってセイルさんを襲ってた。見ていただけに、自信がへし折れた出来事であったそうな…


 不幸の上に成り立つ図式。

 そこから全体が跳ね上がる底上げ式が、ご家族を襲ったと。


 いやー、幸と不幸が入り混じり。

 結果、メンタルが強い代わりに泣かない子ができたと。


 ご家族も心配するメンタルの強さで… 待て。 ハージェスト、めっちゃメンタル強くてニューゲームしてる? できてた からの できないで始める、ニューゲーム。


 ニューゲームですよね!?



 ぬぅ、めっちゃメンタル強かったらと思ったけど。俺はあいつじゃないけど。想像するだに読みが甘い?



 メーンタル〜 が でーきてーもー 強くはなー もーとめーる強さの あーれが、そう〜〜 そぅれが


 だめだ、やめよう。

 でも、そーか。


 セイルさんができないおとーとに優しいのは自責の念に駆られての「その不条理について考察を求めた事がある」「にゃむう?」


 眉間に皺を寄せた怖い顔になってますよ?




 『嘘だろう』 ← なんだと?

 『見間違え』 ← なんだと?

 『君、気を引こうとしてる?』 ← なんだと?


 『…悪い、その子供が気を引こうとしていた』 ← なんだと?


 『良くも悪くも巡り合わせ。その時、見ていたからと君が思い詰める事はない』 ← なんだと?



 セイルさん、とある先でとある貴族の高名ってなお人に「この様な事例があり」と尋ねたそーな。ところがどっこい、返事は一括全否定で講義もなし。挙句、どちらも子供であるならとゆー形に縺れ込み。子供?相談室の様相がおかしくて丸っとおかしくないよーな事に。


 これが鑑定(眼)レベルをガチ上げさせた最大の要因と聞けば、なんか納得。にゃむにゃむ。




 「気に掛ける事が優しいと、故に自分を責めてはならぬと諭す風情で言いおったわ」

 「にゃむ〜」


 「この話で、どうして問題が自責に擦り変わる? 見守ったが過ち? 過ちとは後悔と同義か?  は! 混同も甚だしいわ」

 「にゃむー」


 吐き捨てる魔王様、後悔と自責がワンセットの扱いに非常にご不快であらせられえー! お顔が酷く魔王寄りー! 


 「有責と引き換える優しさ、そんな下を向いた優しさなど要るか。 なぁ」

 「にゃむ!」

 


 猫、反射でキリッとです。

 優しいの罠が張る縄を猫は縄跳びで遊び倒すのです!

 そして、できない弟にも優しいのは責任を感じるからではないのです!


 魔王様の素晴らしい  …んにゃ? 優しいのは悪魔になったから? あれ? なんか素敵な兄弟愛が変な感じに。



 いえいえいえいえ、セイルさんは優しいのです。悪魔が「扱き使われて!」と泣いててもセイルさんは優しいのどえす!


 「…にゃむ?」

 「どうした」


 真顔の猫のするりと撫でるお手。


 「にゃあーむー」


 魔王様は優しく甘いのど ど ど どすぇええ〜〜  よし、完遂!





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