208 決まってたです
お尻を上げて這い蹲るロトさんの頭とゆーか顔面を踏み付けたら、この憤りは治まるのでしょうか? 生け簀に放り込みたい、この気持ち… そして生け簀でやりたい魚獲り。
『とったどー!』
お空に弾き飛ばした猫の喜色に陸地でビタンビタンと跳ねる魚体… 活きよく跳ねるは、縄で縛られた犯人か人質かプレイであると相場が決まっているのです。精々、跳ねるが良いのです!
ロトさん、あなたも跳ねなされ〜〜。
なんて思うのですが、嫌だと跳ねたからこーなってんですよね… もう、猫の爪研ぎにしちゃおっかなー。
「…にゃふ」
ロトさんの背中に飛び乗って、カリカリと爪研ぎする自分を想像したら背中の出血… やーめた、鞭でビシパシ悪役プレイは可愛さを自認する猫にはよろしくない。小悪魔的な表現はいーとしても闇猫落ちは〜 ちょっとねー。
「にゃー ふー うー」
大きく猫ため息をしましたら、ジュリちゃんがスイスイと。超低空飛行で泳いで俺の前にスタンバイ、見上げてくる。なんだか、お目々が潤んでる… 語れぬ金魚がうるうると俺を見つめてくるのです。かーわいー。
そうっとそうっと猫手を出すと、そそそっと前に出て猫手に収まる…
うああっ!
自ら猫の手中に収まるきんぎょー!
太っ腹な気分になります。
オネーチャンを侍らす男の心境とゆーか、ナンとゆーか… 確実に甘えてきてる金魚に「いーよいーよ、欲しいの買ったげる〜」みたいな気持ちに! ああ、そーゆーお店でなくても雰囲気で課金じゃなくて課金じゃなくて課金じゃなくて〜 それ手元に何も残らない課金だろーをしてしまいたくなる、アレな気分!
可愛くて可愛くて可愛くて食べちゃったら猟奇的な〜 いや、猫が魚を食べるのは猟奇的でも何でもないけどー あ、お魚マジック解けちゃった。
はい、猫は冷静を取り戻しー。
体勢の変わらないロトさんを見て、ヘレンさんへ首を向けると操縦桿から手を離したカーラちゃんが胸の前で手を組んでこっちを見てた。
祈りの人魚。
金魚としては手放したくない一心で、こーなるよーにと頑張ったんですネ。ご本人も心を入れ替えると言っているので手元に置くのが〜 が〜 が〜 あー。
ペシン…
心を入れ替えるってもー、逃げ出せないと本気で理解したから仕方なく言ってる訳でえー。
パシン…
生き残りを賭けたって言ったら聞こえはいーけど、それって子供が口先で言ってるのと同じでー。
ペシッ…
口車のよ… あれ、意味がちが? あーまー、本心でもなくー。こっちはその場凌ぎの嘘でも、その言葉を信じるしかないってのが基本でー。
パシッ…
ロトさんの場合は契約じゃない。なら、ヘレンさんみたく契約に持ち込む? 犯罪者に? なーんかやだなぁ… それに奴隷系は〜 ちょっとー。完全に俺に責任問題が発生するし。でも、金魚の為を思うと手放せ〜 いや、手放したいんだって。
ビシッ!
しかし、使って下さいと頭を下げた… ここでよくあるパターンは雇い主の搾取… 安易な奴隷思考をポイ捨てすると、ロトさんは更生対象者… 刑務所または施設での更生をすっ飛ばしての面談中… 金の売買契約もなし。そうなると、やっぱり契約の問題…
いや、契約問題を取っ払え。
更生対象者は信じてやるしかない。同じ事をするかもしれないとゆー疑惑の目を持ちながらも信じる事で人間性が… 信じてやる事で良い方向に… やり直しの可能性を否定する色眼鏡こそが… 犯罪者は何を言われても当然だとゆー見下しの態度が人の更生を妨げる第一の要因と〜〜 でもなぁ、これで通ったらロトさん再度ヌルゲー扱いしない? 俺の信じる気持ちをヌルゲー。信じてやりたいよーでヌルゲー。くう! 頭が普通に回って決めらんない!
バチン!
ぬぅう、難しい。
犯罪者を無条件に信じるのは難しい。ロトさんは重罪の部類だし。初犯と前科何犯は違うのだ! 態度が変わって当然だろう! だが、この分岐点での見放しは見捨てに繋がると思われる…
更生とは… 更生とは… 更生とは時間が必要だ。そして、見守りが要る。人に依っては監視とも。いや、監視と見守りは違う! 違わないと言ったら、そいつは馬鹿だ! 単一思考で単一指向の余裕を持たない直情型だ! しかし、猫とは真っ直ぐに走るもの!
「にゃぅうううう!」
ビシバシ、ビシバシ、ビシビシビシ!
落ち着け、自分! 思考が乱れてる! ロトさんを引き受けたら、他の人が楽できる。それに俺の場合は金魚指導が入るはず。俺の元にいるとゆーのは見守りが多いともいえる はー ず〜。
でも、俺。
あの子には牢に行けやで救わなかったんだけど… 連帯責任で妹ちゃんも同じだし… 違う、あの子はあの子で… あー、年齢考えるとロトさんより〜〜 んでも、ロトさん暴力が振るえる人だからー。それなりの事してくれたあの子もあれだけど… 既に振るう事に躊躇いを覚えない大人の方が問題だよなー。
しかし、よくある魔王の誕生ってこーゆー時の対処からのよーな… 抑圧に負の連鎖が防衛スイッチ入れたら方向性が決まって魔王になれずともバケモノへと… 次代の魔王への肥やしとゆーか導みたいな犯罪をー いにゃん。
でもロトさん、そこまで大物じゃないでしょ。
どっちかってーと、魔王やバケモノの力の一部として吸い込まれて決定打を作るモブの方だと思 う、あ!?
猫脳、キュピン!と閃いた。
まいるーむから根性で逃げ出そうとしたのは一匹だけ、本気で出たのは気絶赤だけ。カーラちゃんはそれを蛮勇と称したが… 蛮勇とは、正しく『傍迷惑』属性なだけの勇者では? 正しく勇者の気概と素質を持っているとカーラちゃんも認めたとゆーのでは!?
ロトさんも… 仮ゆーしゃ?
仮ゆーしゃの更生?? 魔王化の阻止!??
猫、愕然としてお尻を上げてる人を見つめます。ぴょいと手にした金魚を放り投げ、顔を見に「にゃ?」
目の端で、黒金魚ボールがすとんと落ちた。
慌てて拾いに行ったら、固まってた。「に?」手でそうっと転がし、ちょいと上へ飛ばすも硬化した金魚はふわふわせずにすこーんと落ちる。重さを感じる…
祈りの人魚に目を遣ると、こちらもカッチン硬化してた。石化… とゆーより、気絶中っぽい?
ロトさんの中のシーちゃんはわか、わか、わか… 「…にゃう〜?」ロトさんがびっみょーうに揺れてた。ご本人、白目がち。ちょいと額を猫手押し。ふにふにふにと遊んで離す。
すぽーん!
ジェット噴射のよーに飛び出た黒金魚はスライディングで床滑り。止まる。
「うななぁー?」
駆け寄って、ちょいとすると金魚弾なってた。なんで?
「ノイ、面白い芸だな」
「なう?」
尻尾が床打つ度に動かなくなっていったと聞いて、反省。尻尾指揮棒の使い方を誤った模様。でも、猫の尻尾は機嫌の指標。使い方としては間違えてないと思うのですが… 自然現象を止めろとゆーのも酷ですが!
二匹を並べたら、白目なロトさんの確認に。
顔をふんふん嗅いでみますが、勇者系の匂いとゆーのはわからない。仮ゆーしゃだとしても、ジャスパーさんと比較すると… いや、比較もアレだけど… あっちは完全に仮ゆーしゃでも、こっちはまだ卵と言っていーのでは?
…もう余計な事を考えられない程度に扱き使って頭を真っ白にさせた所で、課題を出して違う思考に導けたら。
そっちへ持っていけたら。
この人、変わるんだろか? 傍迷惑な俺様勇者ではなく品行方正でちょっと羽目を外すとかわいーなんて言われる勇者になるんだろか?
…ほーんと時間掛かりそー。
自分の大事な時間を、人生を。どーでもいー赤の他人に費やす? 無償のボランティア? えー、有償でも〜 いや、仕事でも… いえ、その道の方に大変失礼な言い方を… ああ、誰かやっといてーと言いたい。だが、褒め言葉にふふんと言った俺がそれを許さない! …にゃー、仮ゆーしゃを勇者へと導く使命を帯びてしまったとゆ〜〜〜のかぁー。
育成。
ゲーじゃない育成… 子育てじゃなくて大人育てってどーやんの?
「…なあ」
読んだ漫画で参考になりそーなのは〜?と記憶を浚ってみたがない。そんなん読んだ記憶ない。
友情が何とかしてくれるパターン。
自力で反省と立ち直りができて勝手にカッコよくなるパターン。
放置されて後は知りませんパターン。
三大パターンってこんなもんだっけ? この中に大人の立ち直りが煌めく話はない… 「倍返しだー!」の憎悪やる気系で勇者に… いや、勇者とゆー概念からは遠く…
ううむ、どうやったら手間暇掛けずに効率よく問題を起こさない人間になってくれるのだろうか? 方法を提示せよ!
「…にゃ?」
猫、白目な人を前に哲学な事を考えようとして。
悪魔の言葉を思い出した。
幻聴の金属音はガチンと。
奴隷の首輪のよーに見えて違う制御環、その本質は怖いものだと。ずっとずーーっと唱え続ける呪文はアレな言葉で力を阻む。でも、それが第一の目的ではないのなら?
狂う。
内部が狂う。
それが、やり易さの前提なら。
人権なんて。
時間は有限であるのだから。
着けているだけで。
合理的な方が。
中身が丸っと違ってしまえば。
まるくまぁーるく 世界は 治まるのでは?
見掛けだけが同じ 違う人。
真人間。
反省が望めないのなら 人格が 違ってしまえば いーんじゃない? 呪詛のよーうな言葉を浴びて 違う人へと 生まれ変わる。
同じモノになるなよ、と。
結ばれたものを無理やり開いて叩き切ったら 違うモノへと 結び直して なれますよと。
簡単に。
手間暇掛けずに、セットして ポイ。
それで出来上がる。
なんて便利な理想の追求。
利便性の良さは正義。
正義をアゲルは 人でなし?
『否や、正なり。其は義なり』
人の行いの輪から外れたのだから、人の輪に正しく戻り 在る為に。
必要な行いであると。
時間を取らないリセットは その人の為にも 有意義では?
問題のある人格が消えるのは 単純に厳罰なのでは? それで良いのでは?
歪めて初めて生き残る。歪みは繭で生まれ直す。
死んだ者より、生きている者。
死んでないなら 体が生きて 次へと心が羽化するのなら それは、優しいのでは?
生きている者が優先されるんだろ?
でも、優先は 優遇でなくて いーんだろ? 所詮、手向けの花は 散るものなんだろ?
『讃えよ、妙なる金属環を』
聞こえる、天啓に。
頭に響く。
重い調べが講じる しこう、の、言葉。 聞こえて。
ちび猫、じぃいっと。
じぃいっと、ロトさんを見てた。
なんか、俺が、歪みそ〜〜〜〜う ね?
歪んだら、ハージェストが泣きそ〜〜う な?
「にゃぁああうん」
体を揺らし、大きく鳴いたら声が震える。喉の奥のごろ鳴きとゆーか、素晴らしいビブラートを響かせてるのが自分で言うのもなんだけどー すっげぇいい感じぃぃいいいい。
人の作り物。
制御環の使い方なんかに頭を回したので猫頭がぽやります。ぽやった時にはあれですよ、猫歩きが一番です。
歩けば尊厳を唱える金魚に出会えて綺麗な影絵も見えるでしょう。世界を黒く塗り潰す、なんて勘違いも甚だしい。にゃんこくるっとターンの風上にも置けないどころか立てないじゃないですか!
猫、やるなら めっちゃメンタル強くてニューゲームがいーなあ〜〜。
次への希望は明日への糧。
そして、糧とはメンタルのレベル上げ。
まずは、頭踏み台に手を掛けて。猫は踏み台に上ります。 …ちょっと足場がわる これ、足場が悪いじゃくて初めから悪い足場と言うのが正解? もう気にしない、上手にスタート位置に立てました。そーれと背中滑り台を逆走し、腰ベルトジャンプ台が見当たらないのが残念なまま勢いで尻山に登頂します。天辺から「にゃっふー」と山を蹴って飛び降りる。
タン。
ちび猫、華麗に着地です!
はい、この間たったの数秒です。数秒ぽっちです。 …爽快感が薄い気もするので、もう一度しましょうか。すてすてと頭踏み台に戻りまして背中滑り台を逆走し、尻山から山を蹴ってぴょーい。
「にーうー」
繰り返し遊ぶと爽快さは増しても飽きますね。今度は飛ばずに太腿ロッククライミングでもしてみよか? それとも太腿垂直降下でバリってこか?
「ふみ?」
な、なななななっ なんだ、尻山が動くぞ!?
ずずずっと沈降していく地盤に振り向いたら、毛山が隆起してた。シーソーの始まりにくるっとターンを決めて背中滑り台を逆走し、「にゃおーん!」毛山山頂で一鳴きしたら「あだっ!」毛の大地を蹴って猫は世界に飛翔する!
「あ」
勢いでセイルさんの足まで走って、そのまま とりゃああああ!
膝の上で飛び乗り飛び降り似非反復横跳び跳ね猫バージョンを披露した。腕から肩へ駆け上がって肩乗り子猫をしよーかと思ったが、それはやめた。セイルさんの背中滑り台は魅力的だったけど空気を読んで我慢した。
代わりに、お腹背凭れで遊ぶ。ぐるんぐるんと猫の体回しでお腹にぺっとりしがみ付き、「にーーーん」見上げるお顔に思いっ切りの猫笑顔!
猫足元に手の足場が出現。
猫体、オートでセイルさんのお顔に近づきます。頬っぺたに猫毛をグリグリグリグリ擦り付け、今たのしーですと主張する。
「ぁあああ〜〜〜〜〜」
さっきのビブラートに匹敵する素晴らしい吐息ボイスに猫の耳はぴくぴくです。
ぽやった頭がもっと良い感じにぽやったので恐怖さんとグッバーイ。猫の回復と共に金魚ズも回復してました。
泳ぎ出した金魚が俺の顔を伺うに、何だっけ?と本気で思ったのは内緒です。
「に」
忘れてないよと誤魔化したら、ロトさんをお供に加えるか問題に取り掛からなくてはなりません。
「ノイ、彼らの為と動くのならあれは連れて行け。唯一の手段なのだろう? 取り上げるは哀れぞ? 使うだけではなく安寧を図るも主の務めだ」
「なー!」
後方からの福利厚生金魚援護にして猫射撃がきたあー!
「あれが口先だけの男である可能性は大いに否定せんが、魂の追尾から逃げ切れるとも思えん。多少の悪知恵では実力差は崩せんよ」
うわ、容赦ねー。
あ、耳。耳撫で気持ちいーん。
「それでも不安ならば制御環を使うか? あれは歪みを囁くが他にも使える。 制御とは意である。 意のまま心の赴くままに動かす為の一助であるが、どう解するかで変わりもする。道具を使うは人であり、人を扱うも人である。そして、あれは罪人である」
…なんかね? 最後の断言で思考が戻っちゃうんですけど。
「使う方が試されもする。あれは成人、既に成った者なれば。そうよな、アーガイルは上手に扱えようが」
言われて首を向けると素敵な笑みをくれました。爽やか詐欺から目を移し、ヘレンさんの手首を見てからロトさんを見る。クライヴさんを見て、風呂場での姿を思い出す。あれこそ同じ用途で違う意味だと思います。それが解するだとわかりますが… わかりますが…
「うにゃぅ…」
思考の海に沈もうとすれば、現実を泳いでくる二匹。『ねぇ、ねぇ、ねぇ!』とお強請りにくる金魚! 金魚可愛さに恐怖思考がデリートされてく… 可愛いが強過ぎて怖い!
「ノイは制御環が怖いのか?」
「にあ!」
おお、セイルさんが現実に引き戻してくれた!
「そうか、怖く感じるなら… よくよく可能性を考えているのだな」
「にぁん!」
お褒めの言葉が嬉しいです! 感心顔に、優しく優しく撫でてくれる手。この手に問題を放り投げたい気分です。
「制御環は塗り潰しを可能とするが、それに気付いて憂いてか?」
「にあぁああああ!」
即座に金魚ズが謎アピールに泳ぎ出す。
「そうか… しかしな、ノイ。お前が変に怖がる事ない」
「なぁ?」
「似た事を為したは、お前ぞ」
セイルさんの言葉が猫を撃沈させました。
力の流れを狂わす事なく流し込めは大変で塗り潰すも大変だが、そこは道具の… 機能をぽちぽちすれば、うにゃらのほにゃら。その制御環がドスっとする事を、お前もハージェストにしただろうと。
力が増えたは、どうやったか知らんでも。
俺がハージェストに対して、間違いなく制御を掛けたとゆー事で。意のままに… 心の赴くままに俺はハージェストを… ハージェストの内側をー!!
「無意識に心は付随するか否か? 当たり前過ぎて無意識なのか? しかし、お前達の場合は… 体調を崩して、だからな。無理に暴いたが正解ではないか?」
「にぎゃー!」
「まぁ、機能が正常に作動したと考えても… 結局は同じ事だがな」
機能は性能、性能は俺のハイブリッド!
間違いなく俺のやったった…
俺は、あれと同じ。
俺がハージェストを意のままに… 心の赴くままに扱い、操る… マリオネットショーの仕込みをしたと! 最初にやらかし済みだと!!
どうしよう?
制御環で人様の人格がどーにかなる疑惑なんかに震えるよりも、俺自身が既にハージェストを制御してた件について、どう悩めば!?
悩む事か、これ!?
悩みなく流してたぞ!!
「一言、宜しいでしょうか?」
ギルツさんがヘレンさんのお手を取り、ヘレンさんの頬を染めさせる素晴らしい姫様扱いをしつつ手首の環を示して言った。
「こちらの性能では完全なる塗り潰しなど不可能です」
品質を語られた。
語り口が商売人みたいに滑らかね。
…ふ、ふにゃふふふ。
そうそう、道具レベルがございましたね。安心ね。真正ブツは数が少ないのが基本ですよねー。所詮、塗り潰しなんて言っても禿げたら終わりのメッキ塗装でもそう言うんだわ! 禿山も植林すれば変わるんだしー。
「では、主様。私共は話を詰めておきます」
「に?」
ちょっと意識を飛ばしてたら、復活したカーラちゃんが操縦桿を握ってた。そんで「ご存知でしたら」ギルツさんを誘い、少し離れて三人で話し出した。
そっちから目を離すと金魚が一匹いないです。
代わりに、立ち上がるロトさん。
「主様、こちらも話を詰めますんで」
躊躇いなくロイズさんに向かって「これの指導についてですが」と話し掛ければ、「ご意見を聞きましょう」と返される。仕事の顔した二人が三人とは反対へ移動、指導要綱と優先内容と方針の有り方について話し出した。
あちらと違って二人の声しかしないのがアレな感じ。
…猫、勇者の育成しなくていーのですか。そうですか。でも、その前に俺はgoサイン出してないんですけど?
何もしてないのに何か上手に纏まった感じがしています。非常にしてて、おかしいです。空ぶった感が実に酷い。
「なぅ」
泳いできたジュリちゃんをヌイグルミのよーに抱き抱え、ころん。セイルさんの太腿を背凭れに「うにゃ」と「うなっ」を繰り返す。あむろうとして、本体の上の羽衣を咥えた。 …危険もなく、ちょうど良い感じ。
楽しくなると足が出る。
ジュリちゃんに後ろ足キックをするのは可哀想なので、足を伸ばーす。そしたら、黒い影を見た。俺の腹へと伸びる影の本体、セイルさんと目が合う。手が止まる。
セイルさんのお言葉がなければ〜と思うと、猫目が細まる。揺れる手を眼力で拒否。体を起こし、羽衣を咥えてぷらぷらさせながら移動。
「あ」
手の届かない場所で寝転び直す。
話はまだ続いてる。クライヴさんと目が合う。ゆっくりとした瞬きで微笑まれ… 猫は尻尾を一振り。
泳ごうかな?ジュリちゃんをタシッと捕獲。手元から離しません。
ハージェスト、今どこら辺だろう?
動き出すジュリちゃんをちょいちょいと手であやしながら、俺が制御環な事実を 「…うにゃあ?」
俺は今、危険水域にいるのでは?
危険察知に猫の髭が震えてる… 突然の感覚に猫の頭は混乱してます!
目の前にいるのはセイルさん。
俺に触れたそうにしているセイルさん… 魔王様のお手が引き起こす恐怖? 何故に何を引き起こすのか!?
待て、落ち着け。
危険を察知した時、考えていたのは制御環な事実を理解した か、ら、で? 制御環は無茶振りであって安全弁でないと… 安全装置ではないと理解して。
猫、きゅぴんきゅぴんしてます!
俺はハージェストと話をした。
一緒に頑張って、それでもダメなら仕方ないとあいつは言った。
言ったけどな!?
俺はプラスとマイナスだ!
俺は何をどーしたかプラスに持ち込んでハージェストの力を増やした。それで大喜びしたのはいーが、制御環であるとゆー事は減少も可能だろ?
プラスに持ち込んだモノが次にマイナスに転じて、その次もマイナスに落ち込む事がないと言い切れないのでは?
「にゃ、にゃにゃにゃにゃっ!?」
「ど、どうした? 何か見つけたか?」
一点凝視の猫騒動!
寝転びから跳ね起き、足元のジュリちゃんを安全圏へと転がし逃す!
上手い事プラスに舵を取ったから今があるのであって… もしも、知らない内にマイナスに舵を切っていたら? 切っていた可能性は!?
猫、ちらりとセイルさんを見た。
手が彷徨ってた。
セイルさんは可能性を言及した…
さっきもよくよく考えていると褒めた人が俺のマイナスの可能性に気付いて… いない? 嘘でしょ、どー考えて気付いてるでしょ!?
「ふみゃあぁああ!?」
「な、何が見える?」
マイナスに振ったら、マイナスに振ったら、マイナスに振ったら!
連続のマイナスでハージェストの泣きっ面はともかく魔王様の降臨も見える。恐怖の大魔王が見える。
さっきもサクッと食った光のよーに俺の命も刈り取られえ〜 怖い。
こんな体勢はダメだ。
うろうろ猫ではなく、スフィンクスでないと!
「ん? もしや、遊ぶか? 遊ぶのか?」
尻尾ゆらゆら叩きつけなし!
そう、持ち上げて落とすはセオリーだ。自分がやられたらたまったもんじゃないがセオリーだ。増えて減って減って最初よりもっとできなくなって終わったら… ハージェストは「仕方ないよ」と言って俺を許すだろうか?
仕方ないとは思っても!
もう一緒にいたくないと言うのが普通だろう。
「あ〜、ほら」
お手を見た。
ちょっちょと動かす、指先。
恐る恐る伸ばしては引っ込める猫手。
俺の… 俺の相棒はハージェストだが、ハージェストが忘れたとゆーかもってきてなかったばっかりに! 俺はセイルさんのメダルを貰うのだ…
大きな保護者を得ています!
猫頭、ぽやっぽやしてたら後で地獄を見てしまう!
俺に何かあったらとか怖い事をゆーて、あいつは正当化していたが! それを仇にするなんて… なんて恐ろしい回し方をしてるんだ。
お前と縁が切れてもセイルさんとは切れない… 切ってくれたらいいが、切られないパターンだとー 果たして、俺はどーなるのか? ナンに使われる道具になるのか!? 輝かしいメダルが奴隷の首輪にぃー 泣くぞ。
「くるか、くるか?」
見える。
見据えなくても、先が見える。
マイナスの先には黒い黒い未来が確定している!
許せ、ハージェスト!
俺は地獄を見たくない、右へ左へ彷徨くだけでは指先ほどの打開もできない。行動あるのみ。あんまり好きじゃないお腹見せ抱っこも、擽られる喉ごろごろも、やらせた事ないお腹なでなでも! 全てを使ってでも俺は明日を掴むんだ! 肩乗り子猫と離さないの手首ホールドだけは死守してやるから。
「うにゃあーーー!」
全力で、媚びなくては!!
見つめ続けた指先にジャンプした。
うにゃー、もういい〜。
「主様、ご機嫌ですね。こっちも話は纏まりましたよ」
「主様のご機嫌が良いと私達も安心です」
シーちゃんとカーラちゃんにへろへろ尻尾で答えます。声を出すのも億劫です。
「実に楽しかったなぁ、ノイ」
「ふにゃあー」
ぴよんぴよんされても、もう、もう体力が…
プリンセスカーテンの括り紐様、あなたどーしてそんなに魅惑なの!? 俺の爪と牙をものともしない無敵振り、猫釣りも可能にするなんて! 空中一本釣りされても猫は離しませんでした!
あまりにも遊び過ぎたのでグッタリです。寝そうです。寝るならあそこと膝の上に倒れこむ。べったり張り付くお膝から、じんわりと伝わる熱が気持ちいー!
決まったと話してくれるが、右から左へ流し聞き。うとうとしそーなのです。
「…で、宜しいですか?」
「うな?」
えー、と?
ロトさんは引き続きロイズさんに指導を仰ぐ。ヘレンさんはロイズさんの下に部署移動。お馬さんに乗れるよーに頑張る。二人が一緒に頑張るのは、竜のお世話と器慣れ。竜の方は竜騎兵の方の許可と指導の元に騎乗体験。乗れるかどうかの大問題。俺もしないといけないヤツ。器の方は…
「…なぅなぁ?」
「無理はさせません、何があっても決めた時間内で終わらせます」
「就寝前の一時を予定して、普段の生活にも支障はないかと」
ヘレンさんは笑顔で頷き、ロトさんは無表情。
毎日、決まった時間の金魚指導。顔見せ。許可の不要制度の確立。一日、二匹のお散歩コース。単独行動はなし。ラブロマンスも出会いと逃走の慣れが肝心だと言ってた。
「にゃう」
「「有り難うございます!」」
声を出せないジュリちゃんの舞い踊りが目立ちます。羽衣を使ったよーでジュリちゃんのキラキラが部屋に広がる。
光の花吹雪は少ないが、風に舞う分、非常に幻想力が高い…
「う」
シーちゃん飛び出て光に波乗り。
人魚のカーラちゃんは両手を広げて、器から跳ねた。
三匹で輪になり、くるっと泳ぎ。
カーラちゃんを真ん中に、猫の前で〜 一礼。
「あっ」
ヘレンさんの手、光の器が崩れ始める。同時に人魚の姿が薄れてく。黒金魚に変化。連動式のよーです。
三匹が嬉しそうにまいるーむに帰還してった。
「ああ…」
ヘレンさん、両手を重ねて胸に当て。
感動に打ち震えてます。
「どうした」
「消えましたのに… 私の中に変わらぬ力を感じます」
ヘレンさんの言葉にギルツさんが観察してる。そろ〜っと俺の背中に触れてた手が離れたので、セイルさんも見てるよーだ。一呼吸で再開したけど。
「再構築の手間を省くに型を残したな」
「え」
「試しに」
ギルツさんがヘレンさんの手を取り、何やらしてたが器は出なかった。 …ちゃんと大事なモノには鍵を掛けえ〜。
大丈夫証明されて、すっごく良いお顔。
拳を握り締める姿が決まってるう。
「やる気のない同期のやる気も引き出して、頑張ります!」
単語に猫、驚いた。
同じく驚き顔したロトさんが「お前」と言ったら「同期と言えども、お前呼びは却下です!」遮った。
問題しかない男を同期呼びする女性の強さが際立って決まってたです。
ヘレンさん、カッコイイ。
兄、犬で失敗したので猫ではしない。
膝の上のぺったりに、内心かなり悶えている。
本日のアレな質問。
細かい点は置いといて。
現実にあれば、死なない死刑を あなたは容認しますか?