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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
207/239

207 ある、決まり事

過日、片腕が状態異常にかかりましてん。


病院行って薬を処方して貰ったので飲んでた。

落ち着いたと喜んだ頃、薬で違う状態異常にかかりかけたよ。あっはっは! 処方薬の備考に記載された症例に相当したので「あー」と納得しましたが。


まだ時折「んあ?」になったりしますが、「ん〜」で終われます。治療は早期が一番です!




 ボケても悲鳴でも事態は改善しない。


 「なんで、こんな姿にぃー!」

 『よくぞ聞いてくれましたあー!』


 「あ?」

 『ガチで酷い目に遭ってまして! ええ、とことんやってられないってヤツでして!』 

 

 何か違って違わない返事とキラッキラした相手の顔に、あ、これヤバいヤツだと一回ぐるった頭が勘を取り戻したが、もう遅い。


 きーき、かーた を 間違えたあー。





 『もー、かんっぜんにサービス狙いで!』

 「あー、じゃー、家の方は無事で?」


 固めた俺の鳥を手中に愚痴り続ける… 話を終えるまで絶対に手放さない鳥質のよーで辛い。


 『ええ、家そのものは問題なく』


 要するに、回線喰い(DOS)にしてやられたと。


 「洗ってます?」

 『もちろん、丸洗い済みです』


 「じゃあ、投げ込みなしで起動もなし?」

 『ないですね』


 「んじゃ、誘導路は?」

 『流石になかったですよー。逆手で引き出すのは阿呆でしょう』


 『「あっはっは』」



 映像見ながら笑い合うが、向こうで説明と一緒に回ってるフリップが止まらないのが微妙。俺、このヒトん家の管理は一部分でも請け負ってないんだけどなー。いーのかなー? これだけでも何を使ってるか予想できる部分は予想できちゃったりするんだけどなー。


 なんて思っても出される物には目を通す。


 新しい情報なら欲しいもの。しかし、ツマラナイ。知ってるのばっかで目新しいのは出てきそーにない。これで情報の対価とか求められる事はないだろうが、されると辛い。まぁ、求められても流すけど。


 「…特に問題はないかと」

 『自分から見てもそーですけど、ないですよね』


 「現状ではないですねー」


 へろっと答えるが、オープンにしてるヒトだからなぁとも思う。そーゆー意味ではこのヒトもできるヒトだから、俺との会話なんて単なる答え合わせとゆーか… なくてもいーよーな内容ではある… なんでしてんだ?


 「回線喰いそのものがデコイな線は?」

 『あー、そこにつきまして有力な線がですね』


 「ほう」

 『実は星渡しの日だったんですよ、これが!』


 「は? え、星って貯まった時の不定期では?」

 『基本はそうですが、大口の顧客が数名おられて… その中に、ちょーーーっと家の事情に難ありのヒトがいましてね…』


 まーあ、半眼の良いお顔。


 「つまり、星の賄い」

 

 自分で言ってナンだが賄いブツが綺麗なので結構イケてる言い方したよーな気がして、ちょっと気分が良かったり。


 『そう、賄いからの巻き込まれの嫌がらせ路線の確定率が今現在進行系でぐんぐん急上昇中でしてえーーーー!』


 ゆ〜〜〜っくりと上がりが下がりになってたのに、いきなり上がり切ってガーッッと吠えてこられても。


 よし、美声で答えて差し上げよう。


 「星渡し(しーはらい)〜 時間のみーちを コーケて すーべった〜 キラキラキラキラ星落とし〜」

 『ちょっ、そこでヒトの心を!』


 「落ちたるほーしは、落ちゆくに〜 姿を転じて妖星に〜 本質どーおり おーきな災い連れてくる〜〜」

 『ぎゃああああ! 他のヒトが聞いたら、うちの財務がどーのとか言い出しかねないんでやめてくださいってええ!! 債務超過とか関係ないんで、ガチないんで!!』

 

 うん、そっちの顔のほーがいいんじゃね?


 


 『こっちが不定期だっつーのを無理に対応して巻き込まれるとか!』

 「確定じゃないっしょ?」

 

 『焦って対処してる間にも、ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てて連絡ぶち込んできやがって! ちったあ待てやと言ってる端から!』

 「いや、そこで切らない…   あれ、回線は落とさずに?」


 『もちろんです! 回線喰いとの交戦中でも通常回線は生かしますよ、当然です!!』

 「……遮断対応した方が、心穏やかに対戦(潰しゲー)に集中できたでしょうに」


 『……そこは泣きそうなプライドで!』

 「お疲れ様でーす」


  そろそろ鬱憤も終わるかな? 

 

 『そうそう、そのキリッキリしてる最中に愉快な事がありましてね! きーて下さいよ!!』


 そう、思ったら終わらんかった。




 『…の時、端末がピロピーと鳴りまして! オープンにしてない、ほんっとに表に出してない端末だったから、もう驚いたのなんのって!!』

 「ほう」


 『まさかのストーカー説に震えつつも、放置できなくて恐る恐る開いたら! 某有名所から、やってやった覚えもないコード(PIN)が飛んできてました』

 「は?」


 『そう、こっちも「は?」になってボケてたら。またピロピーって。そんで開けたら、また番号違いのニューコード! 覚えがない、飛んでくる、操作は今! そこで浮かんだ誰とも知らぬ相手の顔! その顔に疑問符が大回転してるかと思ったら、笑いが込み上げて! 笑いに「は」と声が漏れそうになった瞬間、まぁたピロピーって!』

 「…うっわ、は は はははっ!」


 片手で掲げる旧式端末。


 こいつだけが持つ安全性に頭が回ると、俺の口角も上がって笑いが飛び出る。


 『でしょ、でしょ? 笑うでしょー! もう、殺伐とした気分が一気に和みましたよ! 和ませる為に誰かが態とこんな事をしてくれたのかと思う程度に和みましたよ!! 相手のオロオロ加減に泣きっ面を想像できたらあーはっはっはっは!!』

 「あっはっは、それなら良かったですね。和めて笑えたなら、何よりです。ええ、正気でやられたら面倒な事この上ない案件もそーなると愉快でいーですねえー」


 パンパン、盛大に手を叩いてやった。


 『そうなんですよー、数回で終わったから笑えてましたけど』

 「あー、限度超えたらムカつきますねー。でも、気分転換できて良かったじゃないですかー。やーっぱ、徳ですよ。とーく〜〜」


 『あっは、そうですかねえ』

 「ええ、そうですよー」


 このヒトの禍福はその場での相殺型だよなぁと、割と本気で思ってたりする。これがオープン形式の恩恵の一種かと思えば〜 ちょっと羨ましかったり。でも、俺はなー。


 「苦情も注意も通達も追跡も殴り込みもしなくて済んで笑いを貰ったなんて、徳以外にないでしょー」

 『そうですよねー』


 和やかさに安心。

 もしも依頼されても受ける気はない。


 「で、気分転換後はサクッと叩けて終わったんですね?」

 『はい、その間と言いますか… その際と言いますか。この子らも頑張ってくれてまして』


 「…俺の鳥、名誉の負傷ですか?」 

 『ええ… 実は、その』


 やっと本題に入れた。





 「…… 」


 俺の鳥が悲惨な目に遭ってる理由。

 それは褒められ、褒めるべきものであった… だが、悲しい。


 しつこくしつこい粘着液のよーな攻撃に晒された回線ガードは溶け始め、薄くなった所に、これまたベチャアと妙なのをぶっ掛けられ…


 徒ならぬ気配、見えぬどこかを這いずる異常音。

 これに気付かぬ【神】シリーズはいない。気付かないなら【神】を冠するシリーズではない。


 最大の警戒と威圧を用いて、全ての【神】シリーズが動き出す。

 家の中からの難しい探索を成功させたのは、俺の鳥。第一発見、偉い。偶然の可能性が高そうな気もするが偉い。


 「クェエエエエ!!」


 大声で『仲間を呼ぶ』を選択したは良いものの、助けが間に合わないままコマンドは戦闘に突入。しかし、戦闘能力には振ってない。だが、もう突入してる。結果、肉弾戦に。


 最終は、体を張れがうちのスタンス。

 当然、消滅してもだ。


 それは贈り物でも同じ事。


 だから、何もおかしくない。

 自分の生存と住処を掛けて戦った。


 ある意味、とても感動している。


 外に出した俺の鳥が俺の誉れを作ってくれた… 違う家に行ったのだから、そっちに染まって変わっていってもそれはそれで構わないと思っていたのに… 俺の教えで、ちゃんと生きてたよ! 


 でも、回避に回避を重ねて逃げちまえば良かったのに!!


 そうも言いたいが、それを言ったらおしまいだ。俺が俺の鳥を侮辱するのは許し難い。ああ、生きてて良かった。本当に良かった!


 「…こいつが役に立って良かったですよ」

 『…観賞用として頂いたのに戦闘させて申し訳なく』


 「いいえ、クレジット付きでも貸し出しではないのですから」

 『…有り難うございます、そのお言葉を待っていました!!』


 「は?」


 さっきまでとは違い、殊勝な態度でいたヒトがめっちゃ良い顔した。




 『と、いう訳です』


 俺の感傷は、生活実態を知らない奴の不要な思い込みでいーらしい。ちゃーんと家に馴染んで過ごしてた俺の鳥は同じ鳥仲間から戦闘スキルを入手して、随分前に鑑賞用を脱してたそうな。


 「…まじですかい」

 『ええ、まじです。真顔です』


 「なんで?」

 『いや、その、何というか… 楽しかったみたいで!』


 ちょーーーーっと苛ついたんで、突っ込んで細かく聞き出した。


 飛行区域(縄張り)の問題等で、神鳥シリーズはうちのを含めて三種で止めたそう。方向性も違う子ばかり。初顔合わせに喧嘩をしないか見守っていたが、三羽とも羽を広げあった後は「ふーん」的に終了。


 『頂いたのは上品な子でしたし… 会得する方向に動くとは思いもせず… はは、すいません。ですが、そのお陰で消滅もせず大事に至らず! 結果、オーライと言う事で!』


 美麗と優美に特化させた俺の鳥は。

 生計を一にするお友達のお陰で羽扇と鉄扇の両方が似合う感じになっていた、と。


 これは進化だろうか?

 …まぁ、進化にしとこうか。


 しかしだな?


 「…そうでしたか、方向性が違うんで非常にアレで〜〜 も? 自分で覚えたのなら容認すべき な、ところなので しょう『ですよね、はい!』 が」


 相手のやったあ!な顔に、一喜一憂一番下まで突き落としたろか。



 同時に、見えたモノにあれ?

 無意識っぽいので気付かれない程度に目で追い、理解。


 『何時も』な雰囲気の中にも謝罪の為の殊勝さは出ていたが、それでもどこまで〜も何時もな雰囲気でいた。なのに、あんなのが出てる。出してる。気付いてない。


 …ああ、そう。


 このヒトなりに緊張してた訳ね。話を引っ張ってたんじゃなくて、俺と向かい合ったら言うべき事を今更ながらに言い出し難くなって長引いたと。ふーん。


 「で、クレジットはどうなっていましたっけ?」

 『ぁう』


 「配慮すべき事情ですが、熟慮すべき案件であると判断します」

 『はぃ』


 相手の小さくなる声とキョドる顔を、じーっと見て〜 問うてみる。


 「もしや… クレジットより、一般的な道義に重きを望まれる?」

 『えぇと』


 「道義が宜しい?」


 言葉に詰まった顔に、柔らかく爽やかに(腹黒く)微笑んでみた。 …まぁ、どっちを選んでも詰ませるけどな。


 『さ、先に頂ける配慮の範囲をですね! 是非とも範囲のお話をですね!』


 必死さを隠し、何時もの雰囲気を維持しようと頑張る姿勢は流石だ。俺のクレジットには「ちゅうかい〜」なんて言いながらやたらと良い笑顔で名前を書き込んだヒトビトがいるから、それが響いてるんだろうなー。あのヒト達に知れ渡っても地獄だろうし。


 「それはもちろん、回線喰いに関わる事だけですよ? わかってますでしょ?」

 『あああ、そこにもう一息!』


 「はて?」

 『この子の居住年数と飼育実績に適応環境の良さを求めます!』


 想定内の返事に、少し考える振りして時間を取り、にこりと静かな笑顔をお返しする。口にしてない事はカウントしない、当然だ。


 「今回のような不幸な事故であっても、有責は… 有責でしょう。有責を軽減するポイントとしては、消滅なしの汚染であり洗浄を試みて下さっている事です」

 『はい、諸々を懸念して無理に強い洗浄剤は使わず! 世間一般に出回るコレを使い末端の部分洗いからしたのです!』


 即座に、どん!と置いて見せる洗浄剤の容器。

 ぐるっと回転させて示す尾羽。


 「…ああ、なるほど。ナイス判断です。洗浄ルールを守って下さり、最高です」


 尾羽の一部がぼんやりと綺麗になっていたが、しつこい汚れが残ってる。無理に続けたら羽が傷んで色落ちしそう。


 その成分構成(アンチウイルス)も悪くないんだけどな?的な顔をしてから、しれっと流す。希望に縋る顔に対し、自分も合わせて苦悩(演出)をして見せつつ〜 そっと吐息を吐くようにダメ出しする。


 「ですが、抵触してますでしょ?」




 本音で言えば。

 やりやがったよ、このヒトは!と思ってる。丹精込めて作った俺の鳥をーー!!とも思ってる。そっちを引き伸ばすとフツフツと滾ってくるモノはある。


 がなり立てて罵りたい感情を肥大化させないのは俺の理性の賜物でえ〜   なんてぇのは嘘。いや、陶酔してもいいんだけど。


 まぁ、怒りより打算。打算より俺の鳥。

 鳥の心。


 ここまでわかって自分の衝動的な怒りを優先してたら良い作り手じゃないっての。作り手の気持ちってのは〜 優位性の確保で十分。


 「そちらの希望で与えた能力は、基本に影響を及ぼす物ではありません。ご理解頂き、クレジットを結んだと考えておりましたが… 違いますか?」

 『…違いません』


 「ならば、時間があった事は理解されましょう?」

 『…はい』


 「戦闘のスキルはクレジットに抵触します。鳥の意志も望みも関係ない。クレジットはクレジットです。そこに理不尽も不条理もありません。


 俺の鳥(作品)に対するクレジットです。


 変質も変成も許さない。

 それがクレジットの有用性でしょう?」



 俺の鳥は、芸術作品だ。

 攻撃性が全くない時点で分類分けができている。


 愛玩動物扱いしたがるヒトもいるが、最初から鑑賞指定に入れてるっての。




 「定期的な測定はなさられていませんでした?」

 『この手でセンサーを配置し、定期的な測定は怠らず!』


 「…蛾でも入って誤作動しました?」

 『正常に動作して正常に動きませんでした! 設計でも設定でもミスが見つからない謎ダーク状態が発生してましたあ!』


 「は?」


 逆ギレに近い泣き零しを静聴するに、『あー、原因が判明しないで終わる闇落ち(トラブル)かー』と俺も愕然と肩を落とす。


 ちらりと見れば、鳥を押さえる手が震えてるよーに見える。寧ろ、縋ってるよーに見える。うーん…



 美麗と優美を芯に据えた鳥は。

 性質に反する局面に遭遇した場合、真っ先に離脱を選ぶを善しとした。自分の形成芯と反するスキルを一度で覚えられる訳がない。どうしても時間が必要になる。


 このヒトは その兆候を 完全に 見逃していた事になり  その上で、長期間センサーの異常性に気付かなかった。


 普通にやばい。

 センサー頼りなのもやばけりゃ、目視確認どうしてた? こうなると飼育観察記録も怪しさ満点。


 ほんと、やべえよ。

 


 「俺のは一点物でして」

 『う』


 「新しく作ろうと思えば作れますが、次にできるのは同じモノでも違うモノ。同じレア度ができる保証はありませんし?」

 『はぃ…』


 「言われる事を理解はしますが、知らない内に作品に手を加えられていたと聞くのは…」

 『あの、ほんとに事故で… 意図も他意も本意でもなく!』


 目を逸らし、不安を煽っておく。

 

 『ほんとですって! 申し訳無く思っています!』



 このヒトの家はオープンだ。

 オープンにする事で家を回している。


 クレジット付きは有益で、複数になると実績で、見せ場を上手く回すと収入源の一つにもなる。だからこそ、クレジット破りは考えられない。


 そーゆーのもあるから安心してた。


 芸術作品と、そうでない物に対する倫理の違いは大きい。皆の価値基準が違うからこそ作られた倫理協定。


 着実に実績を積み上げていたヒトが積み上げる内に倫理観を薄くしてた。 …んなの普通に後世に名を残す事例になるわ。信頼性がガタ落ちするとか経歴に傷が付く程度なら軽傷だっての。


 芸術品の違約対応に誠意を見せない場合は、全力でボコっても問題なかったよなぁ?



 それにしても、この対応。


 …もしや、このヒト こんな事態に陥った事がなかったとか? え、まじだろか? 対処が定まらないままに連絡してきた、誠実さ? え、俺が選択しなかったやり方してんの?



 「…今まで対処された類似案件を知りたいのですが」

 『言い訳します。預かりやクレジットでこんな失敗をしたのは初めてです』


 「へ?」


 当たりかよ!


 闇落ちが原因なら回線喰いと同じく不幸な事故だと思うが、どっからどーみても 完全に 有責。ほんとーに助けらんねーくらいに有責。あっはっは。


 しかし、そうなると見捨てた方が早い。


 回線喰いに汚染され間に合わず消滅しました、洗浄してたらイカれてダメになりました。こう告げた方がロスが少ない。回線喰いは外部確認が取れるから馬鹿正直に言わなければバレない。


 何かの折に、ひょこっと口にしない限りは。

 

 ここらで天秤を揺らしたんじゃねーかとは思う。このヒトも飲むの好きだしな。


 「あー、そうでしたか…」

 

 有責を被る前提で逃げも隠れも まぁ、スパッと本題に入らんかったけど 怒鳴られる姿勢で向き合いにきたこのヒトの理性と性格と正直さを〜  買ってあげましょうと〜〜 俺も思うんだけどー  やぁああっぱ、嵌め落としも嵌め殺しもできる時にやるのが楽しいんだよなー、これが!!


 作品を一つ、ぶっ壊された程度でヒトを嵌め落とせるなら安いもんだわ。


 それに、覚えたんなら覚えたかったんだろ。コンセプトをあげて作ったが、柔軟性は持たせたからな。そーゆーのがないと他家では生き辛い、何より俺の美麗と優美に唯我は合わない。


 早いとこ気が付いて、クレジットの見直しに持ち込めたらこーんな事にはならなかっただろーになー。あっはっは、ご愁傷さーまー。



 『話を長引かせましたが』


 誠心誠意の低姿勢で規約の履行説明をしてくるのに、こちらも調子を合わせて目元を和ませ、云々と頷く。


 羽振りが良くて、できそーで、初対面でも態度は良かった年上のヒト。それでも『上』な顔したこのヒトを 下に引き摺り落とせる日がくるとはなぁあああああ!! あーはっはっはっは、やっりーい!!


 変に頭を下げずにイケる! できる! 俺の鳥、さいっこうぅううう!!




 「…お話はわかりました。では、財務諸表に貸借対照表を出して下さい。それと星を回している方の名簿もお願いします」

 『え』


 「内々に済ませたいご希望分、こちらも不安要素は減らしたいので」

 『いや、でもその情報の開示は』


 えげつなく要求するのはセオリーだから言ってみた。が、やはりブロックを付けてるヒトは付けていた。これを破ると、このヒトやばいだろな〜 はっはっは! あー、楽しい。めっちゃ駆け引きが楽しい! もうちょっと苛めとこ〜。


 ヒトの足元見て、ちょいちょい突っついて困らせてたら『あの、話は変わりますが!』遮られた。わぁお。


 『保証期間は過ぎてますが、この子は綺麗になりますか!?』

 「…手元で見ないと断言できませんが、さっき伺った内容だと落とせないのも変なんですけどね?」


 『え?』


 強引なぶった切りに内心ニヤついてたが、内容が内容だったので真面目に切り替える。大事にして貰う事に異論はない。


 …この流れでキメるかな?


 「今は立て込んでいるので仕上がり時期は不明です」

 『それは待ちます』


 キメ顔で言ったので、趣味と実益を兼ねるヒトは違うと実感。


 「…その事で、お尋ねしますが」

 『はい?』


 本当に要るのかストレートに聞いてみた。

 揉める原因となった以上、今後も変わらぬ愛情を持てるのか俺にはわからん。本音は捨てたくなっても不思議じゃない。それなら引き取ったがまし。


 『…それとこれとは話が違います! この子に過失はない!』

 「こちらとしても贈った物なので、取り戻したいのではなく。しかし、あなたの家の財務を引っ繰り返す状況を作り出したのも確かで… 行く末を思うと」


 言葉を濁して目をそらーす!

 そろそろ自分を質にすると言ってくれんかな〜?


 『いえ、もうこの子はこっちの子です! わかりました』


 感情で、あっさり名前を出した。名掛けした。



 ………ふ、ふ、ふぁはははははは! ぃやったあー!


 腹の底から突き上げる衝動的な笑いを心の底から安堵した笑顔に変えてとゆーか 変えなくてもフツーに出てくる良い笑顔! 下心は鳥の心配です、そーですそーです! 俺はやさしーヒトですから! あーーっはっはっはっはっはっは! 


 あー、まじ変顔しそー。


 「…有り難うございます。憂いが晴れました」

 『いえ、信じて頂けて…  嬉しいです!』


 あ〜あ、ふよっちゃってさー。まだですよー?


 なーんて口にはしない。


 相互理解が深まった所で手打ち。

 実際に三本締めで手を叩く。強く返してくる音に、このヒトほんとに大丈夫だろうか?と思わんでもない。


 だから、アフターを忘れない。


 「ところで、お恥ずかしい話ですが」

 『はい?』


 自分を下に落としてみせる。





 『これもイケますよ! どうです!?』

 「うわー、うわー、うわー」


 即席の訪問着ショーをして貰ってる。

 読み通り、面会が多いヒトだから着道楽クラスで持ってた。サイズが合うのを十着ほど並べて貰って、わーい状態。


 『これはどうです?』

 「んー、俺としては三番目とか七番目とかが」


 『ゆったりした感じは、あまり?』

 「ええ、だぼっと着るのは普段着みたいで。それは織りが違うので訪問着であるのはわかるんですが」


 『…こっちの方が楽ですよ?』

 「あー、楽なのはわかるんですが」


 『いえ、そうではなく。こういうのだと押し通していけば問題ありませんよ? 体型も何も隠れますし、デザインも古来からの物を大事にしていると言えば大抵は気にされませんよ?』

 「ぶーーーーっ」


 内容にショックを受けた。確かに、あそこまで覆っちまえばサイズが合う合わないは関係ない…! なんで俺は思いつかない!?


 『ああ、でも』 


 まじまじと… まじまじと、話を聞きながら俺の美意識とは違うそれを凝視した。


 

 『小物はいかがです?』

 「え、そこまでは悪いですから」


 『この程度なーんて事ないですよー』


 服飾談義をしつつ、小物も合わせて二着分を頂く事で決まり。


 『…残念ながら、ご希望する灰色地は持ち合わせがありません。何に、ご使用で?』

 「あー、そちらもですか。実は、今」


 鳥の洗浄が遅くなる理由も含め、我が家に他所の子が来ている事を説明した。暗黙の了解的な『そこら辺』を活用して随所を省く。不祥事の対価から差っ引くと言ってあるので、非常に積極的で協力的だ。

 

 


 

 「では、これが調査を依頼する座標。こちらが配達依頼品です」

 『では、こちらが訪問着その他一式の詰め合わせです』


 詰め合わせして貰ってる間に、遅くなった詫び状と使用感想と総評を大急ぎで認めた。これで約束が果たせる、落ち着ける。



 星送りを相互間転送として活用。

 負担の軽減に同時に行うので、一時的に映像を切る。


 ころろん、ころろん、こーろろん♪ ころっろろろん♪ ころっろろろろん♪ ころっろろろろろ ろーん♪


 

 普段より長い星転がりの可愛らしい音と共に、メモとメモリーは消え、代わりにボックス(宝箱)が出現。


 転送台から取り出し床に置き、ビッ!と梱包シールを剥いでパカッと開封。一番上に置かれた透明の卵ケースを手にして、カッコイイ顔して固まってる俺の鳥に「…お帰り、初の里帰りー」と笑ってやる。


 心の内で、『お前、すっっげぇ良い感じ! ナイス頑張り!』と褒め称える。この子のお陰で楽ができた。贈っていたから楽ができた。


 素晴らしき偶然を自画自賛! 偶然でもハズさない俺はすごい! そう考えないとやってられるかー。


 そっと大事に床に置き、訪問着と飾りの小物と培養キットが入ってるのを確認する。


 「ん?」


 キットに添えられた白い封筒に気が付いた所で、ころろろろん♪と星鳴りがした。


 


 『ちょっ! この座標、どーゆー事ですか!?』

 「はい〜?」


 メモとメモリーを持つ姿に、すっとぼけて対応。


 『二箇所の内のこっちはいいですよ、こっちは! けど、こっちは!』

 「ええ、「うげえー」でしょー?」


 卵ケースを胸に抱えて受け取りました証明をしつつ、にこっといた。


 「身バレしないよーにお願いしまぁーす」


 蹴り入れポーズを正面に、卵ケースで顔を隠して頼んどく。


 『あぁあああー!』


 嘆きの声を最後に通信が切れた。素敵。


 


 「で、この封筒はなんだろな〜?」


 宛名書きはないが、どう考えても俺宛だろう。


 「ありゃ、封してないのか」


 詫びにしては厚みがあるので疑問を持ちつつ開けると写真が出てきた。小鳥が三羽、木の実らしき物を蹴っていた。


 「…自然の風景?」


 次の写真は、さっきの写真と同じポーズをした小さい三羽の神鳥が写ってた。最初のと見比べて理解。


 「…レックのデータに【全部写ルンです】を使ったな、これ」


 ほうほうと次の写真を捲ってみる。


 一羽が木の実を踏み潰す写真。別の一羽が踏み潰す写真。俺の鳥が同じく潰そうとして失敗、木の実が転がってく写真。最初より少し大きな木の実を潰そうと頑張る俺の鳥に、木の実の転がりを阻止しようとしてか隣で様子を伺いながら片足を半端にあげる一羽に、二羽の前で両翼を広げて踊る一羽。


 砕けた殻に木の実を頬張る二羽、その横でへばってる俺の鳥。お裾分けを頂く姿に、再チャレンジに挑む姿。見守り一羽、チャレンジ一羽が頑張る中、何があったか大蛇を仕留めて引き摺ってくる一羽…


 「あはは、ノーマルだったら何の合成かと思うわー。かわいーなー おっ!」


 俺の鳥が木の実の踏み潰しに成功した決定的瞬間が写ってた。そして、砕けた木の実を前に三羽が羽を広げて喜びあう姿。砕いた木の実を前に何やら譲り合いしてる姿。最後の一枚は、三羽が寄り添って眠る姿だった。


 めちゃくちゃ可愛い写真に顔が緩む。

 戦闘鳥の二羽にクレジットが付いてるかどーかは不明だが、おそらく誰かの作品だろう。


 「…写真集が欲しいなー」


 こんなん見たら、もっと欲しくなるに決まってるじゃねーか。



 最後の一枚に目を落とし、感慨に耽る。封筒に写真を戻し、床に置いた卵ケースを取り上げケースの中の鳥を見る。


 美麗と優美からは非常に遠い顔だが、実に味のある良い顔をしてる。

 

 同じ鳥のシリーズ以外にも友達はできたと思う。優美を入れた時点で派手な社交力はないが好奇心は高めておいた。



 「あちらで生かされ、観賞用を脱したか。 ああ、俺は本当に外さない。 適材適所、良いヒトにお前をやれたよ」



 自然に上がる口角に、緩やかに高揚する気。


 これを先に出せば、情状酌量の余地が増え交渉の幅が広がっただろうに。黙って入れてくる所に性格を見るが計算だと強い、計算でなくても賞賛はやれる。


 原因の根幹は変わらないが、伸びやかに生きている証拠は 俺よりも仲介者を黙らせるのに有効だ。


 「…消極ではないし、下手でもない。どちらにせよ、手は打つと。なーるほど、戦闘力がそこそこな割に大きな顔で上を張るヒトな訳だ。だけど、そんな手だから甘いんだよ。俺に頭を押さえられてさ。 …いや、状況としては成功か?   ……仕方ないから、もう少し差っ引きますかね」



 こんな時でも気分は良くなる。

 穏やかに、とても優しく 嫌味なく。


 こんな時は 心のままに  言祝ぎ(うたい)たくなる。



 


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