表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
203/239

203 ある、配慮の末

随分、間が空きました。大変遅くて恐縮です。


それでは、仏滅から始まる新年おめでとーございまー! そんで、レイアウトデザインパターンBさんに長年のありがとうとさよならをー! はっきり言えば、君が恋しい!(笑) でも、これからはAさんと歩んでいくよー よー よーー  やっほー。



 ベドカチャッ!   ボトッ…


 「あ?」

 「ふ、間に合った」


 俺の耳に連続発生した変な音が届く。


 続く妙な言葉に顔を上げたら、ブツは壁に刺さってた。いや、刺さったと言うより… 濃紫のねっとりした粘性液に包まれ? あ、また分離した塊(小)がベチャ落ちした。


 あ!? あーーーーーー!



 「くぉら、お前!」


 振り向けば極卵から手と腕を出し、ひらつかせてる。目が合うとペッとした。二から三になってる手をペッペと振って、濃紫の粘液をそこら辺に飛ばして床を汚す。態と振ってる!


 「……おまーーーーーっ!」

 「あ? やらかす本人が怒鳴るとは」


 「それ、掃除が大変なんだぞ!」

 「それがどうした? 家の壁に穴を作成しようとしてからに」


 「あ? 筆記用具を投げただけだっつーの」

 「反省が足りん!」


 ザパッ


 「あーーーー!」


 真実を語っただけで、怒って極卵から身を乗り出しやがった。内包の力(濃紫)をビッチャと撒き散らす、このえげつなさ!


 「おま、俺がまだ中にいろと!」

 「どうせ後の手抜きを考えていただけだろが」


 「ぎゃー、そこで手を振るか! お前!」

 「あー、たのしー。子供の頃を思い出すなー」


 楽しげに手を振る非道に泣きそう。

 しかも怒れない良い笑顔でぶち撒いて、卑怯。

 

 「こーんな楽しい遊びをした覚えはないからなー」

 「え、そうだっけ? いや、まさかあ〜〜」


 「あー、遊びらしい遊びをしてない子供の頃の思い出がー」

 「聞こえが悪い、やめてくれ」


 真顔でごめんした。

 だが、やめない。


 「……おま、それが何かわかってるよな?」


 ベッチャビッチャと撒き散らす悪行に地を這うよーな声で言い募れば、ようやっと拙いと思ったか手が止まった。三にした手を二に戻して知らん素振りで極卵に浸かり直す。被害が止まってホッとした。


 「はぅ!」


 面前に気を取られ、被害の確認順位を間違えたー!


 慌てて振り返ったが遅かった。

 壁に張り付いた濃紫色の粘性体スライムがでろ〜〜〜んと這った痕跡を残して床まで滑り落ち、びろーんと広がって俺の筆記用具スタイラスを返してくれるが… がっくり。


 「成分的に早く拭った方が良いんじゃないのか?」


 呑気な言い分にゆらりと再び振り向けば、極卵の縁に手を乗せてこっちを見てた。そこからまた濃紫が伝い落ちてぇ〜〜〜  ひでぇな。 まぁ、極卵に受け皿は敷くもんだ。そこは抜かりないから、まだ良いんだけどー  ああ、良いんだけどよー。


 「聞いてるのか?」


 縁に当てた手を動かし、しなくて良いアピールをして中身を零す。 


 「おま、それほんとに態とやってるだろが!」

 「さっきの二の舞に家の消滅の危機は断る! それから、不要な仕事を増やすな!」


 「お前が増やしてるから!」

 「極小だろうが家に穴が開けば入り込まれる! この大変な時期に余裕だな!!」


 「お前がそれを言うか!」

 「言ってやるとも!」


 口喧嘩しながら、床に染みを作りそうな濃紫を宙に浮き上がらせた。


 …回復用に安定成分諸々突っ込んでるから、本気で落ちなくなりそー。ぽよんぷよん、たゆーんと宙に塊を遊ばせるが〜〜  しーろーいー ゆーかーにー むーらさーきの しーみーが〜〜 はっきりくっきり付いてんなぁ…


 こいつなら平気と成分濃度を高めにしといたから〜  あーははははは、泣きそうでも泣かんぞ。こうなったら、斬新か前衛で水玉模様にでもするか? それとも流し模様(マーブル)がましか?


 しかし、色彩的に酷い。目が痛い。「こんな色の中で生活できるか」と小さくぼやいたら、「感情論で動いた所為だろ」と全部俺の責任にされた。「こんな状態になったのは堪え性の問題だ」と小言が止まらないから「素直を美徳とし、ストレスを溜めないだーけー」と俺の口も止まらない。


 「それで良いなら、当たるなよ」

 「… 」


 「それに核なんて寄越されたら、三の体現が高まるに決まってる」

 「… 」


 「それが「うだうだうるせえわ」


 確率を語るだけの口調は普段と変わらんが、俺は捉え間違いをしない。こーゆー時、ちゃらける奴もいるが俺は真顔派だ。近寄り、頭に一発チョップをくれてやる。


 「悪しと語るな、捉えるな。その方が堪らんわ」

 

 黙らせて、後はもうせっせと掃除して。

 一瞬、極卵の中に戻してやろうかと思ったがやめた。嫌味と遊びを兼ねても、これはちょっとなー。


 ザパアッ!


 「おぉおおい!」


 掃除が終わった直後に出る! この性格の悪さよ!! 

 






 「だから、ごめんて」

 「何の反省だ」


 家の主人であるにも拘わらず、怒られてる。辛い。おかしいなぁ、上手い事締めたはずなのになぁ。


 「あー、はいはい。わーった、わーったからさ。もう遊びは終わり、んで次に進むぞー」

 「…しまった、つい不満が爆発した」


 「俺、そんなに不満を募らせてたか?」

 「優先すべきは、あのお子だったのに」


 無視された。が、終わらす事には成功した。

 微妙だけどな。

 

 しっかし、改めて原因の飾りを見ると… ピンポイントでぶち壊したくなる、言わんけど。本気で製作者をぶん殴りたい、誰か知らんけど。不良品なんぞ渡してからに。あ〜〜、しかしそれをやると〜 ご父兄に対して「見る目がねえ」と言ったも同然なんだよなぁ…


 読めん思惑がほんとに面倒。

 取り上げる事も想定できるだろうに、不良品なんぞ持たせて。俺の機嫌を損ねてどうしたいよ? それとも、俺なんかやってんだろか? どっかで会って迷惑かけた?


 いや、どー考えてもあぁあんな花火を打ち上げるよーなヒトとは会ってない。一度会ったら忘れそーにない、サバゲーで会った覚えはないー。





 「初期不良ではなく、接触不良による誤動作とも考えられません。枠自体は一般物で特に問題はなし、どう考えても設定ですね。では、内部の分析(トレース)から始めますか?」


 気分一新。

 仕事モードに入ったので、そうだなと俺も頭を切り替える。


 「…大凡わかってる事でもしておくか。まず、あの大きさから考えられる容量は?」

 「現物に即応した物であれば、容量の無限化は不可能。何より、首から下げる物。お子の体力等を考えても、無限化に釣り合う反転式は描けません。それに軽量化を図っている水筒とは違い、形跡もなく形状からなる類似点もない。一般に従う程度の容量と判断できます」

 

 「三に属する対応物、その容量から外れない」

 「はい、その上で輪は閉じ完結しています。内部完結型ですので先程の動作不良を必須前提とし、限界値まで引き上げているのであれば多いとした物ですが、基準に準じた括りで宜しいかと」

 

 「だよなぁ。自分で家へ連絡できる以上、余計な通信機能は要らねえし」

 「…あれは自宅連絡に準ずる?」


 「あ、見せてなかったか」

 「…そうでしたか、あれはお子が自分でですか。そうなると、降りた場所がこちらで真に幸い。もしも、自分側でしたら色々終わってましたね。上空での暴力に下の溜まりでは相殺になりません、寧ろ相乗効果一択。引火の一つで吹っ飛んだでしょう。…その点は?」


 「…ぶっ込み次いでに爪研ぎして行きやがった」

 「そうですか、火花が散って力場狂いが起こって暴発一発終了目前でしたか。守っていた動線がそのまま導火線になってどん!ですか。いやもう、考えるだけ怖いですねぇ。 ねぇ、我らが主よ」


 今更に嫌な事実にどんぴしゃりして、こわー。

 ナチュラルに嫌味の → 向けてきて、いやー。


 目を逸らし、『はい、はい』と言い掛けて〜 沈黙。にこーっと特上の笑顔で誤魔化して、先に進むべくにこにこする。言外に言っとく、起きたかもしれない恐怖で躓いてたら一生立てんわ〜。


 心臓に悪いけどー。




 「こちらが動作不良と認識した機能を、必須前提で組んだのであれば保全機能を踏まえた上での事と考えます。そうなりますと… 」


 子供の為に組み入れたナニか。

 それで子供の立場がなくなったら、どーする気だ?


 「ので、大まかな構造は割り出せますが系統で振れ幅がでます」

 「偽物作って掏り替えりゃー早いんだが、そうもいかねえしな」


 「理性の主で喜ばしく」

 「ひでぇなぁ」


 改めて静止画面を眺めながら、軽口を叩いて外装を終える。


 「では、内部の確認方法ですが…  照射での映しあげで宜しいですか? お子の生活時間を配慮する必要はありますが遠距離も可能ですし、短時間で済みます。自分がしても良いですが、さんに任せても大丈夫かと」

 「それだけどよ、良いもんがあるわ」


 「良い物」

 「おう、一発撮りで【ぜんぶ写ルンです!】」


 ナイス物件だ!



 


 「ここに〜〜 あったあった」


 貰い物をずいっと出して、にーんまり。

 

 「…ああ、皆様の間で一時期流行られた」

 「そそ、保護シート(スタンプ)の類いを無効化して無修整モードをバラすおもちゃー」


 「それ、効きますか? 対象と目的が違うのでは?」

 「の、上位版な」


 「…そんなのが」

 「おう、こいつはその中でもスケルトンモードが露骨過ぎて使い時を間違えると嫌われるとゆー大人の為の傑作だ。仕事用とも言う。連結開示でビフォーアフターを並べられるのも、また受けたんだよなー」


 「…はぁ、悪用する方が出そうな品ですね」

 「あ、それは子供の初期版で出たぞ。実力もない馬鹿が手軽に技術盗用を目論んであっちこっちでやらかした。んでも、子供向けの使い捨て教材に何を求めてんだっつーの。子供向けを甘く見てはならないが、子供向けである事を理解しなかった時点で詰んでるってんだよ、けけけけ」


 「それは… それこそ実力アタマが足りないから、なさるのでは?」

 「ぷーーーーーう!」


 表現の自由度の高さが良くて吹いた。

 これが俺の育成結果と考えるとにやける。真顔と嫌味が七対三の割合で混在する笑みを形作る俺の最高傑作! 現在進行形の自慢だ。あー、だからこいつに留守を任せられるんだよー。



 機嫌良く、取り扱いを説明する。近距離用だから望遠仕様にしないと拙いんで、これそれと指示して撮影を任せる。


 「は? 物体は持てませんが?」

 「何を言ってる、三の腕で持って行けばいいだろ? 許可する、撮ってこい」


 「…はい?」

 「だから、お前が行ってこい。問題あるか?」


 「…いえ、その。 え。 それでしたら、照射で良いのでは?」

 「あるもんを使わんでどうする」


 珍しく狼狽える顔に、笑って取れと差し出す。

 躊躇う姿に普段の勢いはどうしたと言いたくなるが言わない。できるだろと急かさない、差し出して待つ。待つ、待つ。笑顔で待つ!


 二から三へと移行させる様を具に観察し、イケると確信した。そうっと差し出してきた手のひらに、無造作に乗せる。


 「…重い」

 「そら、物体だから。重みを実感した気分は?」


 「…ええと、持てる の、だと」

 「ああ、いいこった」


 「…何やら以降も都合よく扱き使われそうで」

 「ばれたか」


 にやあ〜〜〜っと期待に応えて笑ってやる。


 本心の笑みに嫌そうな顔されてもなー。基準()でもあるお前の手法が広がるなんて最高なんだぞ。


 「機能を除外すれば単なる写せる使い捨ての道具だ。対象物にバラすモノがないなら、それまで。あれを複数枚写した所で容量は残る。残りで、お前が写したいもんを写してきな」

 「…皆が大変な時に指揮を取るべき自分「おお、大変やってる時の姿を写すのもいいな。違う残し方も悪くない、行いの全てが何時かへの資料となる。違うか?」


 諭す風情で言うのが丸め込むには一番だ。嘘は言ってないし。文句として聞いてやれるのは、「今でなくても」程度だが「今やるから良いんだ」よ。


 「っと、そうそう」


 思い付いた風情で【ぜんぶ写ルンです!】にアシスト掛けて、万全を怠らない振りで後押ししてやった。




 「では、行ってきます」

 「おー、頼むなー」


 座り直し、取り組むカッコして見送る。

 なんとな〜〜く緩んだあの表情に満足。問題の解決とは程遠いが満足。俺、よっゆ〜〜〜う。余裕で筆記用具を指で回して遊んでる。


 「内部回路がどうでも、やるこた決まってるしな」


 不用意な事は聞かせない。

 それ、鉄則。


 改めて書いてた内容に目を落とし、ニヤリ。非常識のお陰で状況が引っ繰り返った! やっりーい!


 「不幸な出来事を放置したのは俺の責任問題としても、不良品がそれを維持しているのは俺の責任じゃねえ。不良品を渡した奴の責任だ! 最初を言及されるのは、ちと辛いが〜 ふふふふふ、規定違反は規定違反だ。守則は守るべし! そこんトコ追求すりゃあ相殺でチャラだ! それはそれ、これはこれでも同じ事だと言ったるわー! はーはっはっはっはっは! いやー、ツイてる。俺、持ってんな〜〜  いや、持ってるのが俺だけど〜〜  くっはーあ」


 逆転勝ちにはならんが戻したぞっと。


 「いや、逆転勝ちだ。不良品対応に取られた時間を請求したる! そんで貸しにしとけぇば〜 あ〜〜、土産でチャラか。外してねぇ土産は強え」


 考えが甘かった。

 仕方ないんで真面目に事後を考える事にする。


 一番早くて簡単なブツの取り上げは、簡単過ぎて他の選択肢がなくなる。そんな先見性のない事は阿呆らしくてできない。それに他に手法を思い付かない馬鹿のよーで嫌だ。


 「さて、判明後のやるこたぁ〜 躾とゆーか教育とゆーか、どっちで言っても構わない程度のもんだがあ〜 問題は回路の出来不出来より系統なんだよなぁ…」


 ハズレを引いた場合、時間を食ってしゃーないっての。そーゆーのが面倒いから規定違反者は嫌いなんだよ。


 「単純に強制停止で治した場合、残る懸念は再起動後の完治を認識しない暴走(cytokine)だ。跡形もなく消したものを新しく刻みかねん。その為には強制停止中も学習させるようにしてぇ〜〜 併用で善悪で〜〜 は、なくぅ〜〜〜 可不可で覚えさせるっと」


 系統別パターンを頭の中で洗い出し、思い付く要点を思い付くままに書き連ねてたら、ヒットした別の思い付きに「そうだ!」と期待を込めてモニターを入れた。



 「まじか」


 うちの子、あの子の手に力を重ねて一生懸命ないないしよーとしてた。その可愛らしい行動に何だか泣けてくる… そんなんやってもなくならねぇぞとしか言えんが言いたくないくらいの可愛らしい馬鹿さにやられる。


 矜持の一つも持ってるうちの子が、あんなん見て放置するか? 怒り狂った後には、どうにかしようとしてるだろ! きっと問題解決に乗り出してる!!


 そう期待したら、ないないて。


 「どうしよう、馬鹿可愛いかも…」


 しかし、これが現実であると思うと怖い。

 うちの現代医術のレベルがこれだと恐怖に慄けるんで、その辺を調べたら。らぁ〜〜、なーんてこたねぇ。あの子の手を傷付けたくない方向だった。しかも、どうしてないないにするのか内容を真面目に説明して、互いに納得した上でやってた… あの子も、どこかちょっと「えー」な顔してたが安全の配慮と聞いたら、うんうん頷いてた。


 「配慮… 優しい優しい思い遣りで、そっちを選ぶかぁ〜〜〜〜〜」


 二人で一回、結んで開いて叩き斬って終わらせてぇ〜 くれたら飾りも断念、もしくは学習すんだろ〜〜〜によ〜〜〜〜 そしたら、こっちもも〜〜っとやり易い方法が取れるんだけどな〜〜〜?  最善求めて難易度あげるかぁ〜〜〜 くはー、うちの子だけはあるな! しかし、ないない以外の方向でやって欲しかったなあ〜〜〜 ちくしょー、良い感じで泣くしかねぇか!


 子供は子供で頑張ってるので仕方ない。


 「はぁ」


 でも、ちょっと残念。

 計算式の隅に書き留めた内容に目をやり、今の二人の顔を重ねる。


 どれだけ格下の奴が着替えと教えたのか知らんが、状態から引き算すればわかる事をご父兄がわからんはずはない。わからんよーな格下が俺を超える事はない!!


 現状維持で、うちへ寄越す事を是とした狙いは三つに絞れる。ヒトにさせる意義、自分でさせる意義、俺を嵌める罠。


 

 「…… 」


 モニターポチってうちの子を拡大、静止画像を眺めて、この子の行動を反芻する。それから、画面を切り替え猫のアイコンをポチる。


 「あ、これは見てないな」


 にゃうにゃう言って花を叩いて遊んでた。勇ましく見えて、何処となく拗ねた顔。花を叩いてくしゃみをするのが可愛いが、花弁を切り裂いた爪は可愛くない。


 爪と牙を染める力は、間違いなく他家の子である証。懐のと違い、普段からの全面主張を目的としてる。


 「しかも、この姿に証明を持たせる… くそ、やってくれるよなぁ」


 証の力は有毒だ。

 だが、綺麗に手入れがされていて滴り落ちる事はない。撒き散らさないのは心得ていると言っていい。


 「付け爪で覆うのが一番でも手入れをしている。その上に被せる… 証を隠す… 心苦しいモノがある」


 心苦しいより、拙いが正しい。


 証の隠蔽と受け取られれば、『下手すれば』なんて言葉を通り越して、普通に虐待を疑われるわ! 傷跡なくても『そのつもりでいたんだろう』『これからやる気だっただろう』なんて言われるのが恐ろしい!


 「うぅううう…」


 猫でなくても当たり前の武器、爪と牙。それ以外に問題はない。爪と牙は通常装備で取り上げるモノでもない。何より、もうとっくに二つを用いて捕獲行為から逃れている…


 これらを踏まえた上で、できるからできない世界へようこそ!を実行すると。『鬼畜の所業』『厳し過ぎる』の批判を浴びるのはとーもーかーくー、『あれさぁ、ペドなんちゃらじゃね?』の方向で疑われてくのが一番怖い! 実績的に否定しても簡単に悪意に浸かるのが常識だ、怖い!!


 「うわあーーーー! 俺の名誉が死ぬぅーーーーーーー!!」


 このまま突き進むと勝手な噂話が一人歩きして、後ろ指を指される俺が幻視できる!





 「あぁあぁ… ぶるった」


 被害妄想に突入した頭が漸く鎮まり、現実に戻ってきた。




 人ではなく、猫の姿に。

 当たり前の物へ添えた証明は。


 「もう配慮が詰まってるわ… 」


 忌避すべき着替えは。

 本来、誰よりも俺が容認すべきものである。


 そこに証と配慮が加わると相手方の意向の大筋が読める。だが、相手の意向に甘えるのは危険だ。こちらが是とした根拠を述べれなければ、しくじった際に突っ込まれる可能性が



 「……あぁ、そうだ。そうだった。最初から容認でいいじゃねぇか」



 手は治す。

 飾りの頭には学習させる。

 しかし、着替えとしたモノには手を出さない。


 遠くに見えたアタリはハズレるかもしれないが、それはそれでいい。もしも罠でも、大人しく怒鳴られてやらねえよ。我が子に理ありってな。


 「ああ、問題があろうと此処は我が家だ。それがどうしたと言ってやろう。大なり小なり抱える子供の問題を俺が潰すのが理想だと言われたら〜 鼻で笑って見下してやんよ」


 隅の書き連ねを丸囲みして、日付と所見と理想の対処療法を添えて終わり。



 できる、できない。

 信じる、信じない。


 そんな事より、うちの子が理を示した。最高じゃねえか! それだけで、ご父兄だろうとナンだろうとガチでヤリあってやらあな。




 い〜い気分で部屋を出て、端末片手に薬剤室に向かう。


 【使用中。呼び出し不可、緊急速報のみ可】


 プレートのスイッチを入れて点灯モードにし、所在を明らかにしておく。




 端末を所定台に乗せ、再度計算式を見直す。 …問題なし、問題が出るとすればうちの子のないないが無駄になるだけだが、「あんなんで浸透圧もへったくれも、はっはっはー」と笑い納めしておいた。


 「さぁて、始めるか」


 身綺麗にした後は沈黙で行う。

 まず、取り出したシートを男の子用にかっこよく切り出す事から始める。


 透明シートを挟めば切り込みもありだが、手の甲を覆う形が必須なのでデザイン性は似通ってしまうのが難点だ。数枚仕上げて除菌に回し、今度は塗布に必要な薬剤をあれこれそれと取り出して調合を開始する。




 「特製の絆創膏、皮膚キレイキレイの完成だ!」


 新製品ができた。

 成果はこれからだが、見立てを外さないのが俺だ。治験無しでもイケる、何故なら俺が家主だから!


 暴論ではないので直ぐにもあの子に与えてやりたいが、治験の一つもしてないのはご父兄からすれば不快かもしれん。吐いてるし。だが、あれは意味が違うと思ってる。


 「そうだな、他所の子だ。適当なサンプル取り寄せて確認を終えてからにするか。そっちで数を熟せば、成功実績で売り出しもできるしなー。製品として他家に送り出すにはあ〜」


 共通新薬の認証過程をぺろーっと思い出すと、どうしても新薬に対して否定的な奴らの声も思い出した。


 「ヒトの体で実験する気ね!」

 「まずは様子見だな」

 「そうそう、どんな副作用が出るかわからん。慎重が肝心だ」

 「そうだ、そんなに言うならお前がして見せろ!」


 作製時間が通常より短いとひでぇ扱いを受ける。規定に則った治験済みで言われる。アレな意見が飛ぶどこぞとは違うってのに。


 治験を終えて初めて出回る薬で自分が治験扱いされると言い続ける奴らの頭はわからん。そこだけを切り取る奴らの頭はわからん。全員に副作用が発生する薬に初めから認可が出るかっての。薬効の高さを疑問視する方なら、まだわかるんだがな。


 奴らは、本気で治験(サンプル)の意味がわからんのだろか?



 「まぁ、そんな事よりご父兄に資料請求される方が事だからな。そっちを  って、あーーーーーーーー!」



 自分の馬鹿さに棒立ち。

 売り出しは後でいいんだよ、余裕をぶっこいた時でいいんだよ! あの子の為に作ったんだから、あの子の細胞試験でいーんだよ! なんで複数設定の治験に話を飛ばしてんだ、俺はぁ!


 「ぁああ… なんでパッチテストをゆーて細胞試験に頭が回らない!? どーしたこの、あーたーまぁあああ〜〜〜」


 絆創膏を掲げ持つよーなカッコで項垂れてみた。腕がダレるからやめて絆創膏をびよんびよんしてみる。よく伸びて良い。


 そんで残りを詰めた薬瓶を見る。


 「…とりま、あの子の細胞入手するか。んで、データ作成してご父兄に渡せるよーにしとくと。以前のデータ貰えたら比較できるし、うちの水がどう効いたかわかるかもしれん。そうでなくともデータのベースにはなるしなー。うん、入手確定。どこで取ろ? 接触と非接触… 非にするなら、みーずの〜  いや、垢はなぁ。そら、ぜーんぶ回してるから? 排水溝から俺のトコまであげよーと思ったらあげれんコトもないけど」


 ぴちぴちボディがあるのに老廃物で検査なんてしたくねーなぁ〜〜。下のに、こっそり取りに行かせるか?


 「ぜんぶ写ルンですと同じで見抜けた場合… 怖がるだけならまだしも、また家に連絡されても困る。段取り組んだ俺が不信の目で見られるのも… そうだな、挨拶返してないし。俺が行くか」


 いや、俺が行かんでどうするって感じか。最後の最後に会うなんてナンかを間違えたラスボスみたいだ。


 「さーて、そうと決めたらどんな感じで会おう? 大人しいし、あんまり強くない子に素で会ったら怖がられるか? いやでも、大人の礼儀としては。いや、大人が礼儀を外すのは。そうだ、遅くなってる分を取り戻さねえと」



 『でね、君の細胞がちょーーっとだけ欲しいんだよ。ちょっと、ちょっとだけで痛くないから。直ぐに済むから、ほーら動かない〜〜』

 『ぎゃーーーーー、ふしんしゃー! へんたいー! うぇええええええん!!』



 「ぶーーーーーーっ!」


 会ってからお願いまでを想定展開してたら子供に泣かれて逃げられた。しかも俺、やばいヤツになってた。何故だ、配慮してるのに!


 「ん? 待て、待て待て待て! ハズさないのが俺だぞ!?」



 現実とゆーか実現しそーな感じが怖い。

 怖い。


 「おおお、俺…  悪人顔? え、そんな!」


 自分の顔を押さえて鏡を求め、キョロって いや、キョドってた。







 「よーし、終わりっ! これでイケる、かんっぺきだ!   っっっっっっとおおおおおお!!」


 意気揚々と薬剤室を出たら、目の前に三角錐の先端があった。キラリと効果光を放って突き込んできやがる!


 体をぐにょっと曲げて回避した、俺すごい。


 「こ、こ、こ、この馬鹿が!! 此処を何処だと思ってる!!」

 「あー、逃げたあー」


 「違うだろうが!」

 「実体を伴わない幻想はー」


 キラリと再び光を放って〜 突っ込んでくるなと言うに!


 「薬剤室の前で遊ぶな!」


 ガコッッ


 「ぎゃん!」


 先端をへこませ、うちの第二位をめっちゃ怒っといた。


 

 「全く… で、どうした」

 「帰ってきて探してもいない! どこやったわけー!?」


 三角錐はやめたが、円錐が飛び跳ねるのもどうかと思う。



 「完治したから使いに出した」

 「…直後に? ええっ!? 休ませないなんて、なんて悪党!」


 「関係ない方向から抉るな!」

 「なんのことー!?」


 対抗に先端を向けてくるから、腕に挟んで抑え込み、のしのしと歩く。


 「大丈夫だ、楽しそうに行ったから」

 「…ほんと?」


 「ああ、嘘を言って何になる?」


 疑問で返すと腕に挟んだ円錐がするりと抜けた。ら、円柱になった。機嫌が治ってきた証拠に「はは」と笑い、歩みを再開すると跳ねて倒れてコロコロと転がって付いてくる。そこはもう球形で良いと思うが、まぁ仕方ない。


 下の様子と救護の状態を聞いておく。

 

 「ん?」


 返事が滞ったので振り向けば離れた位置で止まってた。しかも体積を増して立ち上がっている。


 廊下に立つ無意味な円柱。

 ある意味笑えるが、俺の美的感覚だと思われるのは嫌だな。


 「どうした、引き籠ったか? それとも「繋げてるー!」  そうか」


 この場で待つか、先に行くか少々悩む。





 「こちらでしたか」

 「あれ、早かったな」


 「そうですか?」

 「あー! 無事だったあ!? あー、今ちょっと手が離せなあー! うー、うー、う〜〜〜〜」


 右へ左へ揺れる愉快な円柱は放置しとく。


 「撮れたか?」

 「上手く撮れていると良いのですが」


 「途中、保てなくなりそうな事は?」

 「大丈夫でした」


 渡すと同時に二に戻るが、明るい表情は変わらない。

 気晴らしの成功に購入を検討して、みゅーの拗ねた声を聞く。宥めるのは任せ、「先に行くからなー」と歩き出す。


 「ほら、姿を戻せ」

 「ほんとに平気!?」

 

 背中を追ってくる声の遣り取りに、親鳥の気分がしないでもない。




 

 「よしよし、できた」


 全部、一気にプリントアウト。大容量でも困らん。


 「わぁ、ここあそこだよね」

 「おぉ、狙った通りに」


 空間に貼り付け、目を輝かせて見入る二人に混じりたいが、「こっちの修復箇所が」「この辺の下の子の動静は」許されそうにないので俺も仕事をする。


 「さて、内部はど…」


 全部で七枚。

 ちゃっちゃっちゃっちゃと見ていく手が止まる。


 「んだ、これ…」


 系統がデタラメだった。

 あっちこっち取り混ぜる馬鹿さ加減に驚愕する。


 プリントを食い入るよーに見て、「ここがこっちに… こっちからあれに?」と流れを追うが… 「何で、そこでこれを回す?」意味がわからん。だが、稼働している。俺に読み解けないはずがない。



 「あ〜〜、はいはい。これを元にしたと。んで、あ? これ、期待値か?」


 なーんか癖が読めたとゆーか、分野違いが手ぇ出したらこんなんできたみたいな感じがしてる。してるが、よくこんな手間を掛けたと思う。思うが、だ!


 「…ここまでできたなら一度書き直せよ。なーんで、その一手間を惜しむ?」


 期待値が弾く確率と再分配の構造と、構築過程と過程に依って違う出来。全体の出来で評価しよう。


 「こいつ、賢い馬鹿じゃねえか」



 配慮の末の確定はストレートだと決まっとる。


 

 



精霊王の卵、第二位のみゅーの登場です!

二位だけあって、ちょーっと他の子と違います。


三角錐は危険だと思う人、手ぇあげて〜  はーい。




本日の問題はリアル問題です。

ニュースでは、「どこそこのワクチンの臨床試験が始まります」で終わる程度です。必須以上に内容を知っていて当たり前らしい問題です。


問題。

国が示す臨床試験(もしくは治験)の流れを説明してください。

一段階二段階と進む形式で説明願います。


形式を問うだけの問題なので関連する副作用や心理面、安全性に悩むワクチン等のお話を混ぜる必要はござません。




答えは厚生労働省や病院が出してます。

検索して答え合わせしてくださいませ、フローチャートもありますよー。



「大変よくできました」

「よくできました」

「もう少しです!」

「がんば」

「大丈夫、今日から完璧さ!!」


終えられましたら、スタンプをどうぞ♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ