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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
202/239

202 決めました。 …え、決めてます!?

13日の金曜日、14回目。

節目は忘れたり、思い出したり、焦ったり。 



 「入るぞ」


 返事がないので扉を開ければ居なかった。北向きの小窓から差し込む光で照らし出された狭い部屋は殺風景で温もりもなく、人が居た気配もない。光度を増す為に扉を開け放ち、中へと入る。寝台の脇を通って奥の小さな机を目指す。寝台を椅子とする机の上に書き置きはなかった。時間的には昼食を終え、戻っていると思ったが… 早かったか? それとも、不浄か?


 暫し、待つ事とし室内を観察する。


 しかし、見る物などない。

 年季の入った頑丈が取り柄の寝台と机、持ち込みの小さな衣装箱が一つ。居心地の良さとは無縁の部屋。唯一良いのは綺麗に整えられ、座った形跡すら見えない寝台の上のみ。


 誰が言ったか知らないが、此処が転落部屋(ランク落ち)とはよく言ったもの。単なる隔離も人の口に掛かると容赦も際限もないが、牢より十二分にましな個室だと思ってしまうのは間違っているのか。



 「…… 」


 少し待ったがこれは違うと見切りを付け、部屋を出る。不浄を確認するも居ない。だが、連絡済みであるのは確か。行き違いだろうと食堂へ向かう。


 途中で会うかと思ったが会う事なく食堂に着いた。


 入り口の横に立ち、食事を摂る者達を見回すが居ない。配膳の方に移動し、料理人の一人に声を掛ければ折良く料理長の顔が見えた。気付いてやって来るのに手を広げ、質問を制し、指で示す。出てきた所で端に移動、小声で話す。



 「…食事は終えたぞ?」

 「何時頃に」


 訝しげに眉根を寄せる顔に「部屋に居なくて此処に来た」と伝えると、疑う眼差し。「何か匿う事でも?」と付け足すと目を剥いた。「立会人を疑うか?」と返してきた。全くもってその通り。なので、片手を上げて謝罪。同時に焦りを覚えている自分を把握。そんな自分を妙だと思う。


 妙だと意識した途端、背筋から何から体がぞわぞわしてくる。何らかの予兆を思わせる感覚に陥るも周囲は変わりなく、手立ても何もないので嫌な気だけになる。そんな自分の表情が睨みとなったか料理長が話し始めた。



 「いや、実は午前の内から」


 休みとなった時間を持て余し、こちらに居た事を知った。一人離れた片隅で黙々と銀食器を磨いていたと聞くと、心情が予想できて納得と哀れを覚えもする。


 「隅とは言え、見える位置だ。こちらで出した物だけでやらせた」


 職域内で問題はないと意気込むを流し、続きを促せば職務上得た情報を流していた。昼食の予定が遅れている事から対話が遅くなる予測を話した上で、「食べ終えた後の磨きはなし、部屋に戻れ」とくれば誇張ではなく漏洩に当たる。物事を順序良く回すには良い事だが、そこで予測を語るなと言うに。


 「で、食事は何時お出しして良い? まだ連絡がないんだが」

 「その食事の前に話を済まそうと呼ばれているのだが」

 

 顔を見合わせ、過ぎる沈黙が面倒。


 「誰か、ヘレンが出た時を見てないか?」


 料理長の声が通れば、衆目が集まる。

 其々の目が様々な思惑を含んだのを見ながら、考える。


 待てと言われて直接行く筈もなし、遅くなると聞いてどこかに立ち寄ったか。もしくは、ふらふらと遠回りをしているのか。誰かの手を借りるが早いか、それとも。


 「確か」


 料理人の一人が指差すのを眺め、通ったであろう順路と時間を頭で弾けば食事をしている連中と目が合う。

 面白がる目と尋ねる目と。


 『手は要るか?』


 話さずとも語る目と全体に対し、「見掛けたら食堂へ戻れと、伝言を」と声を上げ、料理長にその後の指示をしてから食堂を出る。


 『なんだ、詰まらねえ』


 なんて目をされても困る。


 



 連絡が先か、補足が先か。


 補足を試みた後の連絡が正解だと歩きながら息を整える。許されたとは言え、環を外すには至らず。発する歪みの力は微細でも特徴的な波形であり、波は散発的に大きくうねる。そのうねり(信号)を捕捉する。見慣れたモノを見落とす気もない。それに、『伝言』を頼んだ。連中の連絡網は早いから、直ぐに下にも話は飛ぶ。出入り口は押さえた。


 それでも所在が掴めぬのであれば、セイルジウス様に聞くが早い。


 「ふ」


 気負う必要もない。

 視認を切り替え、狩りにもならぬ久しぶりの狩りに僅かな高揚を得る。




 「…何故に?」


 苦もなく痕跡を発見。

 薄れゆくうねりを前に立ち止まり、周囲を瞻望せんぼうすれば次を発見。うねりの間隔が短い事に首を捻る。普通であれば、もっと間が空く。


 これは、歩みが遅い?


 「…ふらついている で、正解か?」


 将来の展望が開けない心情を思い遣り、続く先を眺めると 唐突に嫌な予感に突き上げられた。



 「もしや…」


 胸に広がる嫌な予感と衝動的なナニかに押され、ふらりと一歩踏み出す。もしやもナニもあるものかと託宣の如く呟く自分の心に血の気が引く。


 過去、自分の予兆が外れた事は… 



 リンリンリリン、リン!! リィーーン!!


 「っ!」


 頭の中で全てを的中させる呼び鈴が盛大に鳴り響き、反射で駆け出す。瞬間、腹に手を当て  流れる動作で腕を振る。頭を真っ白にして本気で駆けた。





 クライヴさんの注意事項リターンを寝落ちしたい頭で聞く。「いってらっさ〜」と心の中で手を振る。既に体は寝てるのです。床に伸びてるロトさんは申し訳ないが放置。直ぐに人がくるからそれまでの辛抱ですと目を瞑ったら、「何をしている!?」「ひぃっ! きゃーーーーっ!!」と短くも耳に残る女性の悲鳴が発生。


 強制覚醒!!


 「え、は? えっ!?」


 開いたドアの向こう、怒声と悲鳴が応酬してる。


 「何をしていた!?」

 「違います、違います! 私、ついお祈りを  きゃあああ!!」


 聞き覚えのあるお声と「何故、此処にいた!?」の怒声が交差し、物理の壁ドン的な音がどん!で「痛い!」が再びクロスする。


 展開の早さにあわあわと身を起こした俺の視界を占めたのは、ぐったりロトさん。


 特大級の警鐘が鳴り響く。

 何が理由であろうとも、俺が第一にすべきは意識のないロトさんの保護である。それが俺の役目である!!


 「ボ ケ、てるんじゃない!」


 自分を叱り、彷徨う手を誘導。

 枕の下にズボッと入れて、掴んだ正義の呼び鈴を力の限りに〜 振ったのです。




 バンッ!


 音高くドアが開き、乱入者登場。

 廊下に人が増えたよーだが乱入者の声が聞こえません。


 クライヴさんのお声と同時に、パッとドアから顔を覗かせたお一人様。目がばっちり。ホッとした顔に手信号。『そのままで』の合図にへこへこすると、廊下へ引っ込まれた。


 ほんとーに間髪置かずに駆け付けてくるヒーローがすごい。感心してたらヒーローズが廊下で容疑者に何やら言い立ててる。


 「私は、ただ、お会いしたくて!   それだけでございます!」


 よくよく聞かなくても大変聞き覚えのある容疑者のお声は大きくなったり小さくなったりと、所々が聞き取れない。それでも、「直接申し立てるのは」とかゆー説教的な何かはぽろぽろ聞こえたりする。


 なんとなーく心が情状酌量をうにゃるも俺の口は沈黙を選ぶ。最終、「向こうで聞く」のお言葉と同時に引っ立てられていくのか「お待ちください!」の悲壮感がリサイタルしててすごい。


 「向こうで聞くと言っている、必要以上に騒ぐな」


 怒鳴り声ではなくなったが威圧スキルを発動したっぽいクライヴさんのお声に関係ない俺がぶるう。居た堪れない感じから鳴らさないよーに、そっと呼び鈴を握ったまま合掌した所に諦めない声が届く。


 「どうか、お聞きください! わた「静かに!」レジーナ様のごすいせえーーーー!  むごっ」


 恐ろしい人名を耳に体が全反射。


 チリン〜〜〜


 終焉末期のよーな鈴の音と不測の事態のきょーふの予測に、「はい、ちょっとそこまでえーーーー!?」と声が出た。勢いで腕と上半身を伸ばしたら、ずベる俺。リンリリンと鳴らす呼び鈴を手放す。気持ちは急いても体は付いてこないのが酷い感じのとろろろろろん。ええ、気持ちと体がとろろです。疲れてるのです。


 ベッドからずり落ちる体勢で全く起きないロトさん見てると…  なんか、ねー。あーもー、早よきて助けてくれんかな〜?




 「は、遅くなり」

 

 テラス側のドアを開けたクライヴさん。入り口で頭を下げて入ってきたギルツさん。ドア、ガッチャンで全員集合と相成りましたあー。


 ロイズさんの隣で青い顔してるヘレンさんと床でまーだ伸びてるロトさんと、ベッドの上の俺とベッドに腰掛けてるセイルさん。プリンセスベッドのカーテンはフルオープンです。


 気絶中の可哀想な状態であるにも拘わらず、健やかな顔して眠りを頂いてるロトさんが〜〜  少し、羨まし。ええ、うらやまなだけで落書きしてやろかーとか思ってません。


 ギルツさんがヘレンさんの斜め後ろに立ち、クライヴさんがドア横の定位置に立ったら始まりますです。



 「まずは」


 セイルさんの主導で始まる尋問?により、ヘレンさんの常識を知りました。ええ、とても重要な常識を聞きましてん。


 領主館からお給料を得ている以上、現在のヘレンさんの雇用主はセイルさんです。しかし、拠ん所無い理由から席を切られる。新しい雇用先を見つけるのは、此処でも自分。故に自分で動くのは当然です。ですが、俺はお客様でありまして。しかも、客人から家人へと昇格予定でもありまして。


 メイドさんズ全員が知っているはずの情報です。


 なので俺に話を通すなら、本来はハージェストを通さねばならないとゆー鉄則が〜 あるんですね。知らんかったけど。居ない場合はご家族を交えるのがこれまた鉄則とゆーか常識とゆーか、お貴族様のうんちゃらとゆーか。


 個人契約であろーとも間を通さないとゆーのが常識でダメなのですよ。


 そんでハージェストが居ないから、お話はセイルさんにいきます。そこでokを貰って初めて俺への取り次ぎが成功なのです。その前に勝手にしてはならんのです。それがメイドさんの常識なのです! なので、ヘレンさんの行動は非常識でメイドさんとしてはアウトなのですが、なのですがあ〜 先に俺の許可を得ていたらこれまた話が違ってくると。ええ、大きく違ってくるよーで…



 ここで問題です。

 先程の常識を踏まえた上で答えなさい。


 問題。

 私は職場を変えたいです。組織から個人へと鞍替えしたいのですが、どちらも勤め先の上は繋がっています。穏便に鞍替えするには、どちらの解答が正解でしょう?


 解答、A。

 「このまま此処で働く事は自分でも難しいと思っております。また、不遜にも私の父がご領主様の相手にと望んだ事はお忘れください。私はそのような器ではありません。 いえ、結婚を望んでいない訳ではありませんが… 幸せの見えぬ結婚を望んではおりません。 いえ! ご領主様とのご縁が私にとって不幸であるとは思っても! そのような事、私は微塵も思っては!  いえ、はい、申し訳ございません…  


 はい、辞めた後の当てですが…  その事に関しまして、ノイ様とお話をさせていただきたく…  いえ、それは違います! この度の騒動の関与ではありません、責任とは違う話でございます! はい、その ノイ様に雇っていただけたらと… いえ、そうではなく! お願いする理由は他にございまして! 決して、決してご領主様方への不満の元に思い付いた話ではなく! 腹立ちからの搔き回しなど滅相もなく!」


 解答、B。

 「はい、お心遣いをありがとうございます。今後の身の振り方ですが、勝手ながらもノイ様とお話をさせていただき… 個人的にノイ様が私を雇ってくださるとのお約束をくださいました。仰ぐ方は変わりますれどノイ様が伯爵家と共にあられます以上、私めも伯爵家にお仕えするも同然。お仕えするに変心などございません。今後は誠心誠意ノイ様にお仕えさせていただきます。どうぞ、どうぞこの度の変則をお許しくださいますよう。そして、お認めいただきたくお願い申しあげます」



 この二つの解答が出たら、どっちを選ぶ?


 選ぶとしたらBじゃない? Bのほーが正しいとゆーより楽でない? だって、Bに続きはないんです。その後の雇用に関する経過報告と事後承諾に必要ならば説得の義務は… 全部、ノイ様に発生するんです。そーなると口を挟まず聞かれた時だけ、お答えするのが基本でしょ? そーなるでしょ? 基本がお任せなら、そっち選ぶでしょー?


 まぁ、今現在解答Aが展開されてるんですけどねー。あっはっは。その流れで解答Bのノイ様責任論が出てきたので、うほーな気持ちで静かに拝聴してる訳でございます。


 ヘレンさん、レッちゃんの話に進みたそーで「恐れながら」と進もうとするとロイズさんが「ご質問にのみ答えよ」とぶっ刺すんですね。ええ、冷たい声に遮られ進めません。セイルさんもわかっててショートカットキーの使用を許されない感じです。


 ヘレンさんのメンタルが削れるだけ、次回の耐性が強化されると〜 良いなぁ。


 それにしてもAは課題が多い。

 言葉選びを一つでも間違うと不敬判断が下されて失敗、俺へのルートが閉ざされてポイ。ヘレンさん的にはバッドエンドコースに一直線。


 まぁねー、お腹空いてるのが良くないと思うんですけどねー。



 眺めるセイルさんの横顔。

 髪をオールバックにしてないですが、ご領主様モード。


 あの顔で昼ご飯がまだだとゆーた。


 ここで一発、セイルさんの腹が鳴ってギャグにならんだろか?と、どーでも良い事を考えつつ〜 クエストに出た魔法の辞書が恋しい。クエスト消化に出た辞書が恋しい! 辞書さえあれば、こんな問題ちょちょいのちょい。あっさり解決してくれる。話を聞き、条件を提示し、問題を詰め、確認を取り、「こんなもんだね。君の不利益を考えるのなら」なーんて言って纏めてくれる。


 苦もなくはいはいと取り仕切(無双す)る頼もしい姿に、ふむふむと頷く自分の姿が浮かんでは消え 消えては浮かび… やがて、やさしいやさしい眠りの園が…



 「戻ってきなさい」

 「あぇ?」


 魔王様の呼び戻しで白昼夢から覚めた。


 現実は進んでた。そんで、レッちゃんの「使えるわ」推薦と倍率からヘレンさんが『待て』をできなかったのを理解。「主様が優しいとは言え、採用枠は一つだろう」とか「御心からして志願者が優先されよう」とか「決まった後で手を挙げたとて」とかゆーてる所にレッちゃんの作為を感じる。「決定後の覆しがお前にできようか?」なんて心配りに強く作為を感じるのです。


 いや、普通に普通な話ですけどね? 単なる事実確認でレッちゃんの言ってる事は何一つ間違ってはいないんですけどね? そのとーりなんだけどー、普通に煽ってると思う。


 「しかし、本当にお前は役に立つのか」

 「立ちます! 日々の生活をお支えし、ノイ様の面目を保ってみせます!」


 セイルさんの言葉に喰らい付くヘレンさんは滔々と自分のセールスポイントを語る。その上で器にされた間抜けさを否定しないが、発覚まで気付かなかったのはマーリーおばちゃんとて同じ。それと同じで今までの実績は別物だと。実績の全てが否定されるのはあんまりだと括り、最後にレッちゃんが「気配りに関しては、候補の中ではお前が一番であろう」と言った褒めポイントを投げ込んだ。


 その一言で俺の心も傾きます。

 レッちゃん達の器に加え、できるメイドさんがいればホームへの旅が快適になるのでは? 俺の快適の為にレッちゃんは推薦したのでは!? さすが、俺のきんぎょー!


 「アーガイル」

 「は」


 ギルツさんが上着の中に手を入れ、封筒を取り出す。用紙を取り出し、女の人の名前を読み上げる。年齢・家族構成・職歴・犯罪歴等を述べていきます。一人終わり、二人終わり、三人終わって、四人目で終わり。これらの基本情報は自供で裏付けがなんたらで下に降ろされ等々のご説明が入りました。そんで四人の中で一番回復されてるのが一番目さんで、四番目さんに至っては『ぼー』な状態からまだ脱却できてないとか。

 

 だが、その『ぼー』な状態をギルツさんはちょっと訝しんでいるのだとか。俺もちょっとぼーっとしたい。



 「全員、有力で間違いありません。しかしながら、言葉遣いに言葉尻から人に仕えた事がないのは窺い知れます。教養も微妙ですが、それなりに目端は効くでしょう。性格を判ずるには足りませんが期待できる者もおれば、現時点で登用をお勧めし難い者もおります」


 はい、その人きゃっかあー。


 「それを、かの… えー、魚の者達が見抜けぬとも思えません」


 ぬ? そー言われると〜 むぅ。


 「入る、が前提ですので… その辺りは入ってしまえば、どうとでもなるのやもしれません。そこは詰めた方が宜しいかと」


 きーんぎょーのほーぞーん〜 ほぞん〜 ほぞん〜 うーわがっききーんぎょの はーしー がっけー。


 端っこの崖じゃない。

 俺と器さんを繋ぐ金魚は仲介で中継で洗脳なんてするはずないでしょー。


 「その上で、先程ご指摘された体力についてですが」


 はい?

 そんな指摘、誰かした?


 「普段の生活が違えば基礎も違います、回復すれば問題ないかと。その点は比べるべくもないと思われます」

 「だ、そうだ。どう思う?」


 「ふぁい?」


 振られても、意味がわからないので口調も馬鹿になる。


 「では、本人に確認しよう。お前は何処まで乗れる」

 「わ、私は…」


 勢い込んでたヘレンさんが萎れてた。



 はい、うっかりさんが此処におり。今後の移動手段は竜でした。乗った事ない自分に、お馬さんには乗れるがそこら辺のヘレンさん。しかも、メイドさん修行時代の最初の頃の経験値で近頃は全くしてないとの事。まぁ、普段の仕事に関係ないなら乗りませんよねー。だから、お馬さんでも長時間乗れる自信はないそーです。


 その点、ぶっ倒れてるオネーサマ方は普通にお馬さんにも乗れそーだと。運動神経ゼロじゃないだろし? それらを踏まえると竜に騎乗できる日も早かろうとか。


 「まぁ、相性もある。嫌われれば乗れん。彼らは家畜に似て非なるもの、決して同じに考えてはならん」

 「はい、それはもう心に刻んでこりこりと」


 しゃきんと背を伸ばしてお答えしますが眠たいので持ちません、背は丸くなります。しかし、話は続きます。容赦なく続いて、約束していた場合の雇用問題が取り上げられ、お勉強タイムが始まります。


 今回のよーに使えない事実が後から発覚した。

 雇った後の解約理由が自分の確認ミスである場合、お前は放り投げるのか? 


 『希望に合わないんだ、ごめんねー』


 これは契約前に検討しろよ内容で、ごめんねがし難いとなると… 手段は一つ。


 「金と時間を投入し、育成ゲームを始める」

 「そうなるな」


 「人材を選ぶ事なく、チャリンチャリン」

 「投入金額が少ない内に使えるようになると良いな」


 「でも、注ぎ込む前に解約もできますよね?」

 「もちろんだ、こちらの不手際と認めるか?」


 不手際とするなら、後腐れないよーに金を包めだそーです。うーん、ちょっと驚き。お金包むんだー。向こうでそんな素敵な話はあったっけ? 首を捻るがピンとこない。さらっと包んでやれと言えるのが貴族でしょうか? 常識だとゆーたら、どんだけ俺は金を飛ばすやら。


 「包むのは常識で?」

 「常識とは、時に非情である」


 …ケースバイケースな返事は辛い。ちろりと横目でヘレンさんを確認、聞き難いが勉強は必須なので続ける。


 「口約束雇用で労働前判明でも包みますか?」

 「判明した過程を加味せよ」


 そう笑った。

 不手際と認めるも大事だが、想定できる事実に口を噤んでいなかったか聞き出せと笑う。


 優しい魔王様が優しい笑顔と優しい口調で「過程は十分、今に戻そう。ノイが雇うにしろ、まだあれとの雇用は切れていない」と仰られた。そのお姿に背景と言わず、全体的にスターダストが舞いまして、どよーんなヘレンさんを際立たせてしまわれた。




 金を出すとは厳しいのである。

 必要であれば惜しみなく使えと言うが、現状は賭けである。


 背水でやればヘレンさんも乗れるよーになると思われる。が、如何せん労働の方向がねぇ… 内勤がいきなり外勤に飛ばされて、どこまでやれるのか? しかも今回の外勤先には逃げ場ない。インドア派にはきつい話で雇うのは考えものです。


 体力増強と練習が一番必要なのは俺だろうが、疲れたら人の服の中に逃げ込むとゆー裏技がある。荷物の中で寝てもいーし。


 俺はハージェストが「行こう」と言ったら、「おー」と二つ返事で行きたい。だから、育成ゲーは短期でないと。 …ほんっと相談したい。

 


 「金は無尽に湧くものではない、人材は選ばねば」


 今は小金持ちな俺も有限ですから、シビアなお言葉に頷きます。


 「最終日は何時でしょう?」

 「今日でも可能だが予定では今日ではないな」


 賭けに半分負けてるからか、ヘレンさんの顔色が悪い。その顔に、俺がちょっとしんどい。夢と希望を持たせたのは金魚だし…


 隙あらば忍び寄る睡魔を起きよとぶん回す。


 冒険者のオネーサマを選ぶか、メイドのヘレンさんを選ぶか。どちらも一長一短な気がする。その上で、女の人だから気遣い上手とゆー夢は捨てる。あれだ、女性だから花は好きで育てる事も好きだよねーのできるよねーな思い込みは捨てるのだ! 花壇の花々を全滅させる女性も当たり前にいるのだ!

 

 この思考こそ、男女平等であり!


 平等の自由と実現とゆーものは学問の自由にのみならず! そこに投入される金銭がどのよーに使用されたかであり、後発的にその実態が判明するよーに帳簿に正しく記載するものである! 誰が、何時、何処へ、他国へ、何の学会に出席し、どのよーな発表をして、その結果に何を約束し、以降はナンの継続を求めたかが重要な案件であるのだ! 金を無くして学問は修められず、お前が出してなくとも誰かが出してる! 清廉潔白もへったくれも金がなくては難しい。金で白が黒になるのは許し難いが、報告の義務をなくして金を要求するのも許し難いのである! 学問の自由を声高に叫ぼうとも、その自由を用いて己はナニを自由にしていたか申し開きをせねばならぬ。なければ、それは歳入に非ず!! 無駄金であり捨て金である! よって法案を可決に至らしめるは、科学的根拠に基づき判断されたもののみ。科学の狭義は自然科学、普遍的とされる法則の探求! そこに一個人の思惑を乗せるが間違いであり、大いなる竜の御手に委ねられねばなるまい。竜こそが自然科学の真髄なのだ。真髄過ぎて、まっっっったく当てにならない真髄なのだ! 故にチャリンチャリンと数えるは、金と人と竜と金魚と〜〜  お馬さんと相成りましてえ〜〜 当学術検討会議一人委員会は、可能性に自然科学を追求するものと決議致します!



 「えー、ガサツなオネーサマがメイドさんの心得を習得できる可能性がある以上メイドさんが冒険者になる可能性を肯定します。この度の利害の一致は金魚ちゃんの喜びの器の為であって俺の為は二の次のおまけでいーので金魚ちゃんの使い心地が優先されるのではないかとゆー「待て、何の利害が誰の間で一致した?」 ぅえ?」「ちゃんと起きてるか? 茶でも飲むか?」


 顔の前でセイルさんのお手が振られる。


 「もう一度、最初から言ってみろ」

 「…も、もう一度?」 


 最初から言えと言われますると平等のじゆ… じゆ… 字湯… 字の湯? 湯水の如く無駄に流す文字の数? はて、何のことやら?? 


 意味なくにこちゃんスタンプで対応したら、セイルさんのお手は翻り、速やかにロイズさんに合図をなされ〜 ティータイム、入りまーす。



 俺よりではなくセイルさんよりに病人用テーブルが置かれたので、布団から脱出。お菓子箱も取って貰ってセイルさんに提供、一緒に楽しむ。濃いめのお茶にほーっと一息。皆々様が見守る中、遠慮なくふぅふぅしながら啜る音と菓子を食う音を響かせる。


 「後で補充させよう」

 「わっはーい」


 欠伸はお茶に溶け、菓子は血糖値に早変わり。血の覚醒に頭も回ってきたよーです。


 「全員と会ってからじゃダメですか?」


 そうだよ、オネーサマ達でも竜に乗れるかわからない。今日決めない妥協路線で、それまで首を繋げて欲しいと目で訴える。 …厳しそうです。


 うー、ハージェストが居ない時に限って発生する痛恨の一撃が重い。リストラ確定者を不確定要素で横から留めようなんて綱渡りです。これで『その間は俺が金を出します』なんてゆーたらあ〜 有効と言われつつも、赤点食らって追加試験が発生しそう。出さなくても済むルートがあると思うんだよ。だってセイルさん、赤点出そうかな〜な顔してる。


 「篩い落としをすれば、待つ必要もなかろうに」

 「…ふるい? ああ、笊のあれ。 え、落とし? …落としは試験、試験は問題。 問題は 問題は  問題を絞れ?」


 「そうだ、賭けに出た相手に対して行うは絞り込みだ」


 魔王様が言われると何か違う気もするが… ええと、何を  そうか、あれか! 入社前のマッチングですね! いや待って、金魚ちゃんが絞ったはずです。仕事内容と現職推薦貰った後の絞り込み? 給与面? 後のない人に給与の絞り込みって非道のような? 


 「現実を打破するに飛び込むは勇である。なれど、心に蓋をするは最善ではないぞ? 何を想うて祈りをあげた」


 ヘレンさん、ビクって震えて固まった。


 そこに「後悔はせぬな」と問うセイルさん… 静かに語られる様は… まるで魔窟へと向かう乙女に対する最後の別れの言葉のような…  あの、金魚ちゃんは黒いけどブラック企業になる予定はございませんよ? は!あれもこれもとお願いし、気付けば何時しかブラックで!?


 「選びしは、汝。なればこそ」


 突き放した感のあるお言葉に、ヘレンさんが蒼白。まさに生贄の乙女っぽい。片手で口を覆い、過呼吸でも起こしそーな雰囲気に『雇用は見送ろう』と『理由を聞いてから』に『言い難いって俺が無能か!』が揉め始める。三者の間から、『万事解決、猫探偵!』が飛び出して、にゃーんと鳴く。三者、沈黙。猫、揚々。


 そうですね、形から入りましょう! できる雇用主は話を聞くもの。


 「えー、聞きたい事があればどうぞー」

 「ノイ様… レジーナ様は…   生きて、おられるのですよね?」

 

 明るく言ったら、決意を込めた震えるお声が返ってきた。



 『なーんだ、解決済みですかー。謎でも何でもなかったねー』


 そんな言葉で、あっさり消え去る猫探偵。

 粘着力を発揮する自分の口と膠着中。セイルさんに顔を向け、ヘレンさんに向け戻す。


 「レジーナ様は遠方に居られ、夢渡りの ような、形で… 一時、器としての体を欲しておられると  それで、合っていますよね?」


 粘着性、高し。

 但し、瞬きは可能。


 「あ、そ… そうですよね! 呆れられますよね! おかしな事を申しまして  ええ、ええ、人は皆、等しく世界に帰る…  流れから外れるなど…  そんな事が起きようはずも ございませんのに、私ときたら早合点してレジーナ様を勝手に 死、死人にするなど  あ、あ」


 あはーと笑い切れないお顔で「神の道理に逆らう愚かな、申し出を  どうぞ、お忘れ くださ」と引き攣るお口で発せられる。


 視線をずらし、一二の三と見回した男性陣。四は除外。動揺のない姿は静かで普段と変わりなく見えます。なので、ヘレンさんのほーがおかしく見えます。


 しかし、脳裏で流れるミュージック。


 ペッポンペッポンと緊急自身速報が小音で響けば宗教観が殺戮と手を取り踊り出す。そこへ割り込む『最後お別れ、ゆーれーさん』。ゆーれーさんが踊れば、みたいなものさん寄ってくる。似ていて違う四者の奇声が真夏の夜の夢とハロウィンを呼べば奇祭に様変わり。おかしな宴が狂った価値観で包まれると透き通った暗黒が広がっていく。


 そこから、『ぶっ込むなら、今だ!』とダークサイドな声が聞こえた。


 「じゃあ、そうならやめる?」


 隣の魔王様みたく、笑って聞いた。





 天秤は一度、停止した。

 その後、大きく揺れ動く。

 掛けられたのは信仰心と常識、本能と今後の生活。


 この二つがゆーらゆーらと釣り合いながら揺れている。秤になった本人見てると思うとゆーよりクるものが。

 

 

 「生きてないと思って話をした?」

 「いえ、そんなことは」


 「なら、どうしてそうと?」

 「………何か、何かおかしいと。どうしようもなく胸騒ぎが」


 恐怖を含んだ声に怖がりな俺がうんうんと頷くが、それよりも  イラッとしてくる。ムカついてくる。怒る所ではないのに、それに近しい感情が生まれて悪魔のよーな気分になってくる。


 「へえ、疑わなかったからじゃないんだ? 疑っていても話をしたんだ。それだけ自分が大事なのは当然だけど」


 自分でもちょっと吃驚な冷たい声が出た。そんで、しまった言い過ぎ!と焦ってる心と平気な心が混在する… おかしいですね。可能性を問われたから可能性で聞き返し、『話したのも決めたのもあなたです』な点だけを〜〜  お忘れなきよーに願おうとしたら違う路線になってる。


 悪魔の風情が滲み出てる自分を思えば、俺の気苦労に悪魔が心で駆け付けてくれたのかもしれない。帰って来てーと呼んでたし。



 「俺に内緒で話を進め推薦状も出した。その行為を生きてるとは言わないの?」


 決定打を言わずに、そこんとこどーよと聞く俺もあれだけど? 聞いても、こーなると意味はないよーなものだけど? なんてゆーか、金魚が不憫。ジュリ金魚ちゃんの話は全魚に通じる話でしょうしぃ?


 波に攫われ、流され続け、陸地を求め、漸く掴んだ生還の地から声を上げたら郷里の人から弾かれる。


 どう考えても不憫。苛々する。

 頑張ったのに。生きてる限りに頑張っただけなのに。ジュリちゃん、あんな顔して言ってたのに。生きる気概に満ち満ちてんのに。ちょおおおおっと猫よーせいが住む別天地に呼ばれただけなのに。


 …そーですよ、呼ばれた時点で召喚でしょ?


 現世から猫よーせい界にチェンジリングしただけでしょう!? まぁ、戻る体がないのはアレだけど〜 でも、消える前に呼ばれるのがそーゆーものの定石ではあ?



 「……生きていると  ええ、それは思いました! だって、お給料のお話もしてくださったんです! 私が取りに行く必要があるからノイ様にご相談とも言われましたが、そんな点もちゃんと考えてくださって! だから、私…  でも、ただ…  私、私は」


 レッちゃん、お給料の話もしてたんか! うわー、俺の金魚すごーい。自前で雇おうとしてますよー。



 でも、もうダメですね。

 

 涙ぐむヘレンさん、いっぱいいっぱい。信仰心の厚さもいっぱいいっぱい。内容的にはウィンウィンだと思ったんですが精神的苦痛を伴うお勤めはダメですよ。オネーサマの誰かにしましょう、あっちは金魚経験者ですし。残念ですけど… さよならの方が良いんでしょう。ハージェストに相談したかったけど、発狂系になると本当に人生が狂ってしまう。


 狂いは制御環でじゅーぶんなのです。


 怖いものは、ふ…  怖いとゆーたら、家主様。よし、祈っとこう。俺は金魚を大事にします。しますが、それに合わせて誰かを引きのずりずりにしよーとは思いませんのでどーぞ部分的加算点を入れてお許し下さいますようお願い申しあげまするぅうううっと。


 一番上に人事についてのお断りを理として断っといたので、ヘレンさんに人事採用権を振るおうとした、ら。 らぁ〜〜、とーとつに脳裏に閃く連結案件。


 「…うぇ?」

 「ノイさ ま。 わ、私は自分の「あ、ごめ。ちょっと待ったー」  え?  あ、「はい、待ったー」 は  は、はい」


 「ちょっと中断しまーす、ギルツさーん」


 カモンとお手呼び、耳を借りて内緒話をヒソヒソと。ギルツさん、ちょっと考え普通に返事を下さった。

 

 「その可能性は薄いです」

 「黙ってたりは」

 

 「…微妙ですね。ですが、非常に有効な口実ですので使わない手はないでしょう。交渉は出た後で良いのですから」

 「そうですよね」


 ドゥエちゃんは代表として選抜者名を伝えに来た。レッちゃんは選抜者に面接に行った。この小さくない違い。これがフライングではなく、女性金魚ちゃん達の総違であれば?



 『私達ができることと、できぬこと』

 『持ちえぬ技術は』

 『経験者も良いですが、安心は履修者でしょう』

 『そうですよねぇ… 後、細やかに続く気遣い』


 『『『 やはり、お仕えにはあれ(メイド)が良い。他は我らでできようとも、あの技術は持ってない!  あれ(ヘレン)にしよう!! 』』』




 決めた結果に仕組んだナニかであったらば!?



 「…ちょっと、金  いや、レッちゃん! 降りてきてえーーーー」


 金魚の夢をぶっ潰す前に確認をしなくては!!







いないから呼ぶ2

いなくても居る1




上のフレーズが妙に気に入ったもんで。

本日の、実に書かなくても良い共有耐震性能問題。定例日だし、問題内容もちょうど良いかと。


一、2の震えを察知した(物理的に遠去かる)1がその身を案じ、心を飛ばして憑依した。騎乗中に付き、悪路は不可。

二、不満と怒りに震える心を燻らせた2が無意識に1を対象とした悪魔召喚LV.1を行った。低レベルに付き、短時間のみ。

三、単純に心配し、後ろ髪を引かれていた1の心と2の「えー」な心が時間的に合致して相乗効果を呼び込んだ。

四、単なる思い込みで性能は発動していない。

五、転嫁っぽくして2が安心感を得てるだけ。


どれが一番近かろう?


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