201 ある、決断の元
ガチン!
ガチ、ガチ、ガチ、ガチ、ガチチチチチッ!!
小気味良い連続音で我に返った。
目を走らせると蜘蛛が巣を張り巡らせるが如く、素早くも規則正しく防護ネットが組み上がる。
「……セェエエエエフ! 流石、俺! どんな時でも俺のセーフティーネットは完璧だ! 力馬鹿で俺の牙城を崩そうなどと、はあーーーはっはっはっはっは!!」
踏ん反り返って高笑いしたが、やばかった。危うく自分で自宅の一部を吹き飛ばすとこだった。教訓とは活かされるものでなくてはならない。それが絶対正義! できる俺、素晴らしい。態と音を立てて構築する設定にしたのは実験だったが、悪くない。
「最終のネット噴射は… うむ、作動停止。システムも堅調、誤作動なし! 俺、さいこー!」
やっちまった後の始末はめんどくせーし、情けねーしで二度とやるかと暴発用に組み込んどいて正解だった。やあああっぱ、理性なんてもたねー時はもたねーっての〜〜。
「…う」
「あ、やべ。わりわり、生きてっかー」
呻き声に軽〜く謝罪するも倒れてた。ガードも取らんかったんかと思えば、あれ?的な。ギリギリと爪を床に立ててんのがまたやばい、睨む目付きもそら酷い。つい、うっかりとは言え〜 超至近距離でやっちまったからな〜。
手が力なく落ちた。
「ん?」
なんの引っ掛け?と思ったら、ゆらりと気が凝る。かと思えば、輪郭と色彩が薄れ… 一気に溶けるよーに姿形のけいじょーが… は? あ? あああっ!!?
「ま、待て。待て待て待て待て待てえ!! うわあああああああああ!!」
初期とゆーより第一号、他はどーでも消えてはならない精霊王! 俺の大事な大事なバックアップ、闇精霊がオチるで済まない消失の淵に立っていた。
「よしよしよしよし、これでよし。 あー、焦ったあああ」
とぽんと入れたら、ゆーらゆら。沈んで沈んで真ん中辺りで上手に停止、定位置に収まった。コアに損傷はないので、そこは安心。淡く明滅を始めたから、もっと安心。
「ん、吸収が始まったな」
ぐんぐん飲み込み始めて良い感じ、これで飲みが悪いと最悪だ。弱体の証明だからな。
「これを機に武装でも… いや、ガードも何も十分に与えてる。今回は例外だ、例外。かなり減ってるとこに直撃喰らって俺が自分の首を絞めただけ。 は、ははははは」
大いに冷や汗、掻きました。
こいつが居なくなるだけで悪夢が始まる。他に家を任せられるのは、共に添わせたみゅーなんだが… あれは能力が違うから代わりになるよーで ならない。一応できるが安心できない。
「バックアップ体制を変えてみるか?」
口に出すだけ有り得ない、無駄だと頭は否定する。今まで試行錯誤をどれだけ繰り返し… ても、ないが まぁ、きっちり検討はした。技術が上がって手法が増えた今でも、俺は現状のやり方が最適だと判断してる。
バックアップは大事だ。とても大事な情報だ。今回、仮に俺がドカンとやってたら大活躍する情報だが〜 その程度で使いたいものでもない。あれを使うと色目が変わる。同じものでも変わる理由は過去だから。
普通のバックアップは、まるっとコピー。
人にやるにも便利だし、普通に使う。だが、家のとなると話は違う。
「家のまるっとコピーで泣いたヒト…」
そうそう、家の情報をまるっとコピーでキープして取り溜めた。心配の余り溜め込み過ぎて別の余裕がなくなった。惜しんでも余裕はないので間を抜き取る形で消去を決めた。その際、つい遊び心が出た。
『我が家の直列! いっきまーす!!』
どうせやるなら景気良く。
その決断の元、ズラララララララーーーーッと並べていくと遊びたくなるものだから、消去前確認も込めてキープ時をオープン。壮観さに感傷と自慢が混ざれば愉快になって、盛大に直列一発連続大消去をしよーとした。のを、家の子に見つかった。見えたもんだから、さぁ大変。驚愕+興奮=導きの発想で『並行世界!!』と叫んだその子は一番手前のコピーに飛び込んだ。から、まるっとコピーが作動した。
「次から次へと飛び移り、えっらい難儀をしたとぼやいてたのは誰だったか… 確か、三回目の… 打ち上げの時じゃなかったかな〜」
居座ると支障が出るから、混ざるな危険とマーカー付けて区別した。動く動く、よく動く。手前から順に遊び倒して飛び移る。これは制覇したいのかと見守る事にした。が、戻ると面倒なので移った後は予定通りに消去した。
時系列的に過去へ過去へと飛ぶのを『今一度、やり直しをー!』とか、何とか言ってたらしい。しかし、データの消去を見ちゃったもんだから悲壮感を漂わせ『…振り返らない、前に進むのみ!』と震えながらも意気込んだとか。
『いや、前はどん詰まりだって。制覇したら家に帰るぞ〜』
「ああ、そうだ。どこの子も遊び始めたら全く話を聞きやがらねえ。あー、でも終盤は時間制限設けてきゃーきゃー言わせて、消去もドラマチックに仕立てて一緒に遊んでたゆーてたな。 ああ、思い出した。あのヒトか。 なら、迫り来るスリルとサスペンスで楽しかっただろう。はは。 帰った後は遊び過ぎて熱出したとか言ってなかったっけ? もしかしてホラー要素も入れてたか?」
聞いた時は他人事で聞いてたが、結局、うちのも同じだったな。
「…しまった! そう考えると遊ばせ足りないのか!? まぁ、今はそんな場合じゃねえんだし」
ちょっと横道に逸れると気分が浮上したが違う意味で落ちた。から、思考を戻す。
家のバックアップ。
家も家の中も大事だが重点は家の中、外装はパターン別にどうとでもなる。
まるっとコピーは単なる写しに過ぎないが、同じ事を俺の精霊達が行うと特色に溢れた色付けがされる。感情が滲むデータとも言え、完全に好みがわかれる残し方だ。だからこそ、色目が違ってくる。時短は楽だし、些細な違いは塗れば良く、直ぐに馴染ませる方法もある。塗り重ねるも技法で、それこそ塗るを思い出にするのも悪くない。が、それではなかった事にはならない。
修復は早いが改善には繋がらない。塗りを一時の模索の繋ぎに使うも阿呆らしい。真っ只中で連続ループさせれば面白くはある。だが、過去を今と立たせるは良い場合と悪い場合がある。
何事もなかったと過去が今に立てば、俺の精霊達は 失った仲間に対する遣り切れなさで泣くだろう。育った心を時短名目で潰す、そんな病的に近い短絡な頭は要らん。傷口に爪を立てる事から抜け出せない頭なら沸騰した方がましってもんだ。
「なかった事にはならないが、なかったと繕う事はできる。有害指定の袋折りにして畳んじまえば、それでだけでイケる。その代わり、今の想いも袋詰めにするってえこった。 ふ、ふふ ふははははは!! んな、見栄えが悪い事だーれがするかあ」
やり直すならまるっとコピー。 選び抜くならずーっとレック。
コピーと違い、レックにはちょっとした技術が必要だ。それを思い出すと、薄く薄く笑えてくる。まるっとを使わない自分の優越性を感じて〜 まぁ、まるっとを使うと俺が負けた気になるだけで単なる神経質ではないと思ってる。
そう、思ってる。
「ん?」
吸収が停止。
時間を確認すると、大体予定通り。いや、少し遅いか?
コアが覆われ、黒の点に。点から線が描き出されて面となる。面が奥行きを伴い、立を促す。二から三への移行。交わり、影が転じて伸びゆけば、色を持ち、形成へと進む。揺らめきの中で形状が成り立つ。
まだ、目は開かない。
「あの、こちらに居られますか?」
「ん? ああ、みゅーか」
「入っても?」
音声を通してこちらを伺う声の特徴に、シリーズコードの当たりを付けて返事をした。
「準備を整え、迎えに出た第一陣が戻りましてございます。限界値まで削られたらしく、衰弱が激しく、形状がぶれる状態の方々が殆どです。みゅーの総力を挙げて回復させてみせます。それと移動されたのか、行方がわからぬ方が出ました。捜索にはあるふぁ達を差し向けましたが、今も変わらず大半は外へと出しており。勝手ながら捜索と誘導にしーたを動かしました」
「…食い付きが悪いか?」
「匂いと歓声で続々と駆けてくるのですが… 乖離した子達は誘導がないと心許ない状況でありまして。乖離が剥離を呼び、一般に混じるには少々無理がある見掛けの子達も出ています。更なる剥離が解離を呼ぶは必至の流れ、その子の為にも良くないと判断します」
薄紫の髪を揺らして、切々と話すみゅーの言葉に棘を感じる… 黙った後の熱視線に痛みを覚える…
「我らが主よ、大事な大事な我らの主よ。お出掛けを止めて欲しいと不遜な事は申しません。大事な会合は主の息抜きであり、情報の収集であり。真実、主の力を伸ばす絶好の機会で、新たな機序を知り得る方との所縁の場であるとも理解してます。受けられた刺激が私達に反映されるのも楽しみではありますが! こんなに長期の不在はあんまりです!! それに、何時お帰りで? どうして、こっそり帰って客間でごろ寝してるんです!? 余韻に浸ったツケがここまで出てますよ!? わかってますか!? わかってますよね!? 連絡の一つも下さらないで!! 最初の内は大丈夫ですよ、でも長期不在に挙動不審になる子もいるんです! 下の子達の様子に心を痛めて泣き出す子も出れば、助けに出たおめがシリーズの手伝いをしたいと出た子が真っ向から力を浴びて恐怖で大泣きして! 結果、離れて見守る事が何時しか所在不明に繋がって!! 反省よりもピリピリしてますわよ!! おわかりですか、我らが主よ!! 挙句、私なんか力が衰えたものだから現場に駆け付けもできず…
テリザリア・コードの、あの方の様に… 状態変化で一気に力を取り戻し、立ち向かう事もできずにぃいいいいいい!!」
「お前は第四期だぞ? レミファリア・コードにそんな機能持たせてないから。シリーズコードが違う以上、同じみゅーであっても無理だってー なー?」
冷静に突っ込んだら胸を叩かれた。叩くと言ってもエアーだから痛くない。ないが、わんわん抗議しながらぼろぼろ泣かれると〜 ほんと、自律が成ってんなーと。
こんな時、我ながら上手にできたと言えば非情だろうか?
まぁ、ハズしてる感はある。しかし、こーゆー時にこそ感想と観察が必要なんだが。これができない奴は〜 詰まる所、仕上げられねえ奴だしよ。
作品と呼ぶか、子供と呼ぶか。
違いの線引きは愛情の質だと言うが、自律が成ったモノでなければ 意味もわからないさ。成っているのであれば 留まらない。その点、うちの子は良い感じで〜
「ぅうう」
有りもしない鼻水を啜り上げる風情も堂に入ったもんだし。
「ほら、落ち着いた」
「元はと言えば、我らが主が」
「ごめん、ごめん。今度から長期対策して行くから」
「そこは暫く行かないが筋だと思います」
「…あは、さーすが古参になると口数が増えて」
「もちろんです! …ですが、私もそろそろ時期かと」
何も言わずにゆっくりと髪を梳いてやり、軽く軽く頬を叩く。それが答えだ。
「私が時間を取りまして… ところで、我らが王はどうしたのでしょう。どうして揺籃たる極卵に入っておりますの? 帰還時は、まだまだ元気で余裕もおありでしたのに」
顔を背けた。
続く追及に体ごと逃げる。俺、余裕。サバゲーで鍛えてるから余裕です。
「…そうそう、私達の一位から伝言です。『わかるから、説明を』以上です。逃げたら全員で追い掛けますわよ」
「……回復に手を抜かないよーに」
「そんな事しません!」
誤魔化したら怒られる。ああ、可愛い。しかし、やっぱりバレたかあー。
追及劇の一区切り、隙を見て矢継ぎ早に頼む。不服そうな顔から真剣な顔になり、メモリーとキューブを取り出し置いて行く。薄紫の残映を見送り、ホッと一息。
最新には弟妹をと言ったが…
次代の構想もそれなりに固まっているが…
「先に二期を二、三体作製すっかなぁ」
二期の特徴からなる長所と短所に悩むが、まぁ〜 作製する気分になってしまったから仕方ない。ので、決定事項は置いといて急ぎを思案。メモリーとキューブを手のひらで弄びつつ、主原因の手を思い出すと〜 転がす手も止まる。
心臓が痛い。
焦りが過ぎると痛くて逆に落ち着くのが末期色っぽくて嫌んなる。気分的には救急箱を持って駆け付けたいが、あの子は吐いていた。うちの水で吐いた。だが、降下地点での水は飲んでいる。時間の経過もある。それで吐く不思議。
「遅効性と… 体質… それにしては〜」
首を傾げつつ、あの子の為で自分の為のよーな気分で救急箱を取りに行く。
「まだ使えるよな、これ?」
取り出した未使用の絆創膏をまじまじと眺め、一枚剥いでみる。ペリッと良い音、貼ってみる。経年劣化もなさそうだと思ったら吸着性が弱い?
「いや、こんなものじゃね?」
別のを取り出し、びーっと伸ばせば伸縮性が落ちてるよーな?
「…合わん薬は与えられんし、新しい薬を作るか。そうだ、こんな味気ないモノより子供向けにかわ いい、よりかっこいいか? 両方作っとけば間違いないか。 ……待て、他所の子の可愛いと格好良いの定義はなんだ!?」
他人んちの流行なんて知らんのだが。
絆創膏をびよんびよんしながら「俺の好みでいいか」と投げた。
新薬作りを決めて、まずは画面を立ち上げる。仕事部屋に接続。放ったらかしの映像を引っ張り込んで、暫く拡大図を眺める。
ごちゃごちゃして汚い。
美しさの欠片もない構築に目が据わる。が、土台が良い。異なる接続にも対応可能な土台が非常に良くて疎ましい。これがこの阿呆みたいな書き込みに手を添え、構築を成り立たせている。これでなけりゃあ、混ざり過ぎでイカレて終わるだけだろうに。
「あー、あー、あー、あー、嫌んなるなぁ。それこそ、これは袋詰めにした類いじゃなかったかねぇ。 あ、みゅーに聞くの忘れた」
なんで召喚できるのか?
過去、袋折はしなかったが袋詰めはした。これはするなと怒って盛大にプッチンプリンして関連ブツと知識は袋詰めにした。その後は平穏。降下地点もできたから召喚なんぞできんのだが? え? 抜け道でもあったか?
「土台は完全にアレだが土台だけ。まぁ、土台だけ」
存在の抹消は袋折に似る。その嫌さと憐憫に僅かな温情を掛けたのも事実。そこから、希少・隠匿・偽装・悪用・偽造に続く流れを予想する。哀れに繋がる物語は眠らせてやるに限る。ん、だが〜 その結果、この子にこんな形で繋がってるってのは〜〜 あー、頭いて。
受け取ったメモリーを弾き、土地と領知者からなるプロフィールを一読する。補足的に知りたい事ができたら、台帳から飛んで飛んで飛んで確認。
俺の住民基本台帳から逃れられると思うなよ。
間違いなく、問題の飛び地の一角だった。
地域独自進化の芽は潰れたから、頭の中で薬剤等をピックアップする。
「にしても、此処をどうすっかなー。こいつに所有権が移行してるってんなら〜 この子もいるし、その間は据え置くがましか? ん〜〜 しかしなぁ… はぁああっ! そうか、此処で遊ばせ機嫌を取る! 上書き保存で変更する!! 元気になったら遊ぶが、子供!! よし、後で弄ろう」
形状を活かして、 子供の遊び場にしようと決めた。
楽しい事は後。
一つ、息を吐く。
調合前計算に当たり、「全て平坦にあれ」と心を鎮める。
肌も弱そうで、絆創膏で気触れさせては意味がない。子供用で持続性を伸ばし、吸着力を高める。パッチテストもできそーにないから、ちょっと泣きそー。しかし、腕の見せ所。特製を作ってやらねば。
「よっしゃー、これで良いだろ〜」
計算ができたので今の状態を確認しようと、スイッチ・オン。要点録画をスタート、あの後からリアルタイムまで視聴する。
…なんでか子猫になってた。
「え、どーした? ぴよひよじゃなくて君にゃあにゃあ!?」
うちの子にフギャー!と叫んで逃げてった。
うちの子、へたる。
完。
「まじか?」
呆然。
しかし、次で子猫を抱いていそいそと帰り猫洗いに従事してた。
子猫が溺れてた。
うちの子、プチパニック。
完。
「だから、まじか!?」
叫ぶが次に流れ、荒れた内容も流れてた。要点録画の高性能に自画自賛して良いのかわからんなる。だが、猫だとカバー性能が認められた。それより、どうやって猫になったかが問題。
要点から通常モードへ切り替え巻き戻し、問題時から再視聴。
「………はい、はい、はい、はい、はい。 はああ〜〜 」
俺の口からなんか出てる気分。
他に言う事ない。
上手にやったなぁ的な感想は良いんだけど。
「うちじゃあ、変身系統は却下してんだわ。でもまぁ、体の作り変えではない訳だ。へぇ、着替え。上手いこと言うね。でも、それ着替えじゃないだろ。なーんで着替えなんて言ってんだ、この子は?」
見えたモノを計算式の隅に書き連ね、そのまま進んでいく映像を眺める。
「特例ってのは面倒い」
呟きながら、うちの子が「再契約を」と意気込むのを見て〜 頭いてー。しかし、それを言うだけ理性の子。アレに便乗しない程度の意地はあるらしい。
計算式と連ねた内容。
傾向と対策が示したあの子の能力。俺が下した判断。
固有能力と、着替えでないもの。
「誰が着替えと教えたか? 自分で言い出した? それにしては妙な話だ。無意識下なれば確証とは縁遠い。なのに、着替えという認識に揺らぎがない。 誰かが肯定したか? ご父兄? …あれを? あれを子供に着替えと教える? 何故に?」
考えても答えが出ない。
有り得ない事を疑問に思うからだと判断。
「逆に… あれを着替えと教えた者がいる。 ならば… それは、どこに向けた気遣いだ? 本気で言ったなら、どこまで格下だ」
吐き捨てても現実は変わらない、こうなると考慮より憂慮が先立つ。
「調合に… 混ぜるか?」
混ぜるが良しと思うが自問を繰り返せば悪しと出る。なれど、放置は更に悪し。確認した上での放置は俺の有り様に反する。だが、悪しの先にこそ輝点が垣間見える。悩ましい。
「…… 」
くるりとチェアを回して立つ。
流し見る極卵に変化はない。
映像を切って部屋を彷徨き、今後を予測。
何れ、ご父兄にご挨拶。
本来なら何れではなく今行けだが、今行ったら間違いなく終わりだ。正しく降下地点に降ろして土産も持たせた。その上で、この現状。
「なんで俺の子にあんなもんが? ああ?」
聞かれて返事ができない時点で終了。「知りません」と返しても終了。「それより、あの子おかしくないか?」と聞き返して話は弾むだろうか? 「調べて、また来ます」なんて言葉は家の管理もできない無能者… その家を優先した事で俺は危険を回避した。
だが、何もわからずとも逸早く駆けつけるのが正解か? 多少、時間が掛かってもある程度内容把握して相手に返答ができる状態で行くのが正解か?
どちらを選ぶか? どちらが正しいか?
真剣に考える → 時間が経過 → めんどくなる → 思考が逸れる(ご父兄の住居確認) → 思考を修正する → 逸れる(初対面での挨拶の言葉) → 修正する → 逸れる(ご父兄への手土産) → 修正する → 逸れ…
「だああ! あーもー、要するに うちのガキの為に俺が怒鳴られりゃいーんだろ!! わーーーってるよ!!」
みみっちく出てる決断を先送りにしよーとする自分が自分らしい気もするが! それ以上に引きの一手になってる自分が悲しい!!
「俺の代わりは存在しない。存在すれば乗っ取りだ!」
喝を入れ、不安を飛ばす。目の前の計算式を睨み、頷く。そうだ、階級が違えど俺のやり方に文句は言わせない。文句を言うなら、『初めから俺の家に送ってくるな、他所に行け!』でいいんだよ! 大体、腹立ちなら送迎で済ませるわけねーわ!
力に眩んで自分を見失い掛けた… この、この 恥は去れ!
「ふ」
自分自身を取り戻し、心が安定。
チェアに戻る。
「さ、次やるか」
無駄時間が終わったんで、けろっと気分が良くなった。菓子でも食いたい気分でキューブをセット、スタートさせる。
ゥイン…
「ん? 連動式にしてんのか?」
立ち上がった画面に地図が出て、全体から某大陸に固定。地点を目指す縮小からの拡大で一帯の地域を大写しに。特別降下地点から白の点線が伸びてゆき〜 某地点で停止。
ピコン。
降下地点に、あの子の顔のアイコンが立つ。
ゆるゆると動き出し、アイコンが点線の上をなぞって進む。進んだ後は明るい緑のラインになった。アイコンの動きを最後まで一通り見る。
「どれ」
降下地点に戻して再度スタート。
直ぐにアイコンの表情が変化、俯き加減に。迷子の泣きだなと思いつつ、クリックして詳細を出す。日時・移動手段・接触者数・概要・再生が出たので、概要を押す。
「…… 」
再生を押す。
「…… 」
汚い場所で美味しそうにない食事をしてた。その後、下の子達に集られてた。馬鹿になってる筈なのに実に理性的なタカリで、みゅーが嘆いた乖離も剥離も見受けられない。うん?
「〜〜っ ちっ」
腕と体を伸ばして頑張るも、届かないので立ち上がる。仕事部屋のと同じチェアに変えたいが、『運動不足解消!』プラカードを掲げる顔も思い出す。ので、文句は終了。
あれ? 今はサバゲーしてるし、変えても良くないか?
放り込んでたサブを取り出し、下の子の設定一覧に繋げる。地域指定で配置種を検索。管轄に問題地が含まれるから通常よりも上の奴らを配置してた。
「…よっしゃあ、当たり前の設定で助かってらー!! やはり、俺は持っている! あの子も笑ってるから問題なし!」
歓喜を上げて、次へと進む。
通常と嬉のアイコン確認は数回に留め、他を重点的に見る。
街中に入ると地図が変化。
再び、街中を足取りが進むも途中で途切れる。そこでデフォルメされた灰色の子猫が出てきて、ててっと歩み出す。子猫がお座りすると、また足取りが出現。進み始めると同時に子猫はごろ寝した。
ピコ、ピコン。
停止後、顔のアイコンの横に子猫のアイコンが立つ。アイコンを選択。
「……… 」
息を吸ってえ〜 吐く。
吐いてえ〜 悪人顔で笑い出しそーうな自分の口元を押し留めえ〜〜 え〜 え〜〜
「なぁにやっとんじゃ、あそこの奴らは!! 阿呆か、馬鹿か、俺を殺す気か!? 誰に俺の殺しの依頼をしてやがる!? 俺の思考にして神性なる祈りの発動で、そこら辺一帯焦土にさせたろか!? 無駄でも何でも俺がすっきりすんぞ!! あーーーーー!?」
『泣くからやめろ?』
「そうか… なら、焦土はやめて沈めるか!」
『だから、泣くだろ?』
「そうだな、証拠隠滅にはならないかー。なら、やっぱり原子分解レーベールーでえぇえええ あーははははは!!」
『だから、聞いてる状態で聞き流すなと何時も言ってるだろうがあああっ!!』
「あ?」
振り返れば、極卵の中。
俺のバックアップが目を吊り上げてこっち見てた。酷い顔。すまん、お前の起き抜けを考慮 じゃなくて、その辺はすっぽり抜け落ちてたわ。
「出るな出るな出るな。まだ中に居なさい」
『いや、もう出る』
「まぁまぁまぁ! まだ大人しくしとけよー」
出ようとするのを笑顔で押し留めた。渋る顔に全力笑顔で押し留めた。纏めて片付けないと後が大変なんて読み取らんで良いからな。
「よし、どっこもイカれてない。よかったなー」
『…お役御免になったと思ったが?』
「冗談、お前が居るから安心して留守を任せられるのだ」
『…建前で言われてもな』
「建前で誰が初期化を語るかよ!」
『…世代が皆無な訳ないだろ』
「だって、お前。最新は俺が家をまるっと掃除しろーつったら、規定の場所で十分じゃね?なんて言ったんだぜ。どう思うよ?」
『………まぁ、その辺はあれだ。いや、もうどちらも問題有りで十分だ』
「俺のどこが問題だ」
『そこら辺が』
なーんかほんとに嫌っそ〜うな顔をするのが辛いなぁ… 気分転換でも図ってやるのが良いかもしれん。
「気分一新、姿を変えてみるか?」
『は?』
「男形から女形に移行してみるか? 今ならどーとでもイケるぞ」
『……留守預かりが前提なら、このままで。見目に左右されるは面倒』
「あ? 誰に」
『…留守中の外部対応で、アリスリア・コードが淫猥な発言を浴びせられ続けてな』
「なんだと」
『あまりないが、それで対応に違いが出られてもな』
「そいつは? 近くにいたのだろ?」
『式殿へ落とさせた』
「ん、それで良い」
溶けゆく心地良さと引き換えに自我を意識すれば、安定した馴染みの力に引っ張られる。珍しく揺れ動き波打つ力に、『ああ、起きなくては』と自然に目覚めた。
起きたら、現実がアレだった。
自分が不憫なのでは?と湧いた疑問に… こんな疑問をぶつけたら、どうせ思考を捻くり回すと黙っておく。黙るは機微の遇らいらしい。
「でな、この子に危険察知能力があるかどーかは微妙だ」
話を聞きながら、映像を中から見続ける。
「ちょっとしたアトラクションと言い逃げできると思うか?」
結論の出終わった事より、あっちが問題だろうと極卵の中から黙って示す。あれに気付かないとは… 家の存続の危機を覚える。子供の扱いがわからなくて困ってる程度の心境でいて欲しかった。
「どれだ?」
御友人方に子供を持つ方は… 恐らく居ない。子供祝いに何かを用意した覚えはない、同じ理由から子供の御友人は居ない。家に他所の子供を迎えた経験もない。なかなかに由々しき問題だ。初回は失敗するものだと聞くが最初からやらかすのも問題だ。
そして、持ち込んだ守りが不良品である事に諦念を覚える。また、あの手の動作不良は直りが悪い。このお子、なかなかに運を持っていないと。
ある意味、感心した。
指摘を受けて即座に確認、何が何がと目を凝らす。
よーく見ると、一般的な他家とは違う我が家の重さに対して調整を取り組むべき守りが妙な動きをしていた。表を見れば正常だが裏に回るとやらかしている、あの手法の… そう、バレないように形跡をズラす動きに何処か似て…
「な… なんの維持に… なんの維持に力を回そうとしてやがる!!」
咄嗟に掴んだ筆記用具を力の限りに、
「指定外動作は不良品だと! どーして理解しやがらねぇええええ!!」
ぶん投げた。
本日の副題、『高貴な』を入れたい気分で〜 やめておく。
プリン。
柔らかプリンより固めプリンがおいしーでーす。ぷーりりんりんりん。
あ、まるっとコピーの話。
今回の発動は、『我が家の子』の命の律動です。発動条件は家主によりけり。
理由不明な死に戻り… それは、まるっとなのです。まるっとが発動されたのです! まぁ、自分とこの話で他所は知らんでーす(笑)。