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召喚  作者: 黒龍藤
第四章   道中に当たり  色々、準備します
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200 落ちます

ひゃっはー! にひゃあーくっ!!


キリ番らしい副題と内容になったのではないかと。まぁ、何時もの感じ… です。 はい。




 素晴らしき哉、健診。


 違う、献身。

 そう、それは嘗ての場所において赤き十字紋章に代表されたあ〜〜〜 相互扶助の精神にもと もと もと  基づくと、扶助とは経済的に助けあ…   あや?  ええと?   お互いに経済的に助け合うのが相互扶助…  で、あればハージェストとの話もおかしな…


 あ、おかしくない。

 俺の場合は伯爵家の経済に負んぶに抱っこから始まり、そこが全ての起点であるからして「主様」「うわぁっ!」



 視線を上げると、ドゥエちゃんが見てた。まぁ、ロトさんだけど。


 「主様… 大それた願いをしてしまいましたでしょうか?」

 


 しょぼくれるドゥエちゃん。


 ここでピンときた。そうだ、便乗しよう! 本人が言った事に便乗しよう。それで丸く収まるとゆーものです! セクハラモードは可哀想だが、常時ではなく一時だ。だから、その程度はグッと我慢をするよーにと俺がキツく言え ば? ばばばばば? キツいとモラハラ? 道徳を盾に…  いやでも、そのどーとくが大事で… 


 馬の前の人参。

 ぶら下げてる人参… 人参の活用方法は…



 「少し前まで、私達と同じで共にある仲間で  仲間として有り続けるのだと思っていました。そもそも同じ判断の元、ああなったのだと理解してます。ですから願いを叶える者にとっても、それは理解と共感ができるごく自然の事ではないかと… こちら側にいれば皆が等しく願うものと考えておりまして」


 可愛らし〜い声が告げる言葉に、『体があるから、それだけで? それだけで!? それは等しくないはずです。 …逃がすものか、せめて一人だけでも!!』的なおどろおどろしい副音声が聞こえたのは俺の妄想でしょうか?


 妄想、ですよね?






 「代わって」

 「え?  きゃーーーー、ちょっ! どこ引っ張ってるの!?」


 「交代」

 「ま、待って待って待って! まだ、お返事を頂いて「お願い言って終わった」他の「さっき、待たずに引っ込んでろって」 きゃあ、きゃあ、きゃあああーーーー!」


 内部で素晴らしい交代劇が繰り広げられている模様です。内部交代は後退劇でもあるらしく身振り手振りに後退り。赤いお顔でバックバック、両手でスカートを押さえるよーな格好で座り込んで機能停止。 …ええ、ロトさんがね。




 「ん」


 再起動を始めるロトさん。

 眩しそうに瞬き、ゆ〜〜っくりと手を握っては開く。何だか不思議そう。軽く曲げた指先をしげしげと見て、腕を伸ばしながら立ち上がる。そしたら、ちょっとふらついた。


 最初の子と同じ事をするけど、雰囲気が違う。戸惑ってる感じ?



 「あ」


 天井見上げて、首を戻して足元を見て。顔を上げて首を曲げたらクライヴさんと目が合った。そこでクライヴさんを見たまま、そろ〜〜っと動いて気を付け姿勢で頭ぺこ。そこから俺の方を向く。


 俺と目が合うと、なにかこう〜〜〜  みょーに可愛らしい感じの笑顔を披露。両腕は体から少し広げ、両手は綺麗なぱーにして。ブーンみたいな格好で可愛くトトッとやってくる。


 ロトさんの個性ではないが個性が光る。ロトさんの顔で光り輝く! この献身者を、もう一人…  うーん。



 腹の中でそんな事を考えてたら、ベッドの横に来ましてね。はにかむ感じの笑顔を頂き。


 「えと…  自己紹介します。 僕の名前はネギオスです。 享年、十二歳です」

 「 …びぇええええええ!!」



 理解に頭がやられて叫んだ。

 態度と数字の延長線上に輝く声変わり前とゆーサインが真実のマントを纏っていたので、それは暑いと俺の発汗作用が働いたのです。

 






 「だったの」

 「そうなんだ」


 現在、ネギちゃんの自己紹介とゆー身の上話を聞いております。ネギちゃんは王都でお父さんとお母さんと暮らしていたそうです。もっとも、お母さんは小さい頃に行方不明なんだと。それはそれであれな話。


 冒険者を引退してお店を始めたお父さんと、冒険者を完全に引退してなかったらしいお母さん。時折、その手の姿で出掛けてたのを覚えてるそう。お母さん、かっこよかったーって。


 『行くわ、良い子でね』


 そーゆー言葉と頭を撫でる手、かっこよく着込んだお母さんの後ろ姿が最後の記憶。まだかな・まだかなーと帰りを待ってたが何日経っても帰ってこない。『お母さん、遅いねー』とお父さんに聞いたら、沈んだ顔と声で『お母さんは、もう帰っては』内容をうにゃらうにゃらと言ったそうな…


 ネギちゃん、その後はよく覚えてないっぽい。しかし、ある時はたと気が付いた。『そうだ、お母さんを探しに行こう! 僕も冒険者になる!!』発想が飛び出た。だって、お母さんの死体を見ていない。


 そっから善は急げで決意をお父さんに伝えたら。

 

 否定も肯定もしなかった。賛同もしなかったが、体を鍛える事は賛成で仕事の合間に教えてみたら才能あるある。子供ながらに武器の扱いが凄い凄いで『お前はお母さん似だ』と太鼓判。そこで三日に一回のペースで教室だか道場だかに通って〜 更に、才能開花。凄い子(神童)扱いされてたみたい。


 ここで俺は思います。

 お父さん、なんでお母さんを探しに行かない。


 お父さん、お母さんが気付く様にとかゆーて仕事に打ち込んで店を大きくしたらしい… 努力はわかるが方向性。元冒険者のお父さんがお母さんを探しに行かない? 捜索隊も出ない?


 これは、夫婦間(離婚)の話では?


 それを子供に言ってない… めっさ、そんな気がするんですが!? 夫婦揃って言うのを相手に押し付けた? だが、お母さん行っちゃった。お父さん、言えず仕舞い。


 これが正解なら、それこそ似た者夫婦だと思うんですけどね!? ね!?  まぁ、褒めるとしたら子供の前で喧嘩してないところでしょーかあ!?


 

 「…それで、十歳の時に見習いじゃなくてお手伝いで入ったの。でも、お手伝いだから正式でもなくて」

 「いや、それでも入ったんだよね? 条件決めて」


 「うん、色んなの試せて楽しくって。お小遣いも貯まってたの」

 「はあ〜〜っ」


 教室の先生の仲介があったとは言え、ギルドのテストを受けて正式に武力を認められ入団資格を取得した? 十才の子供が? 一言、チートと言いたいが「僕、いっぱい頑張った」と言われると〜  言ってはいけない言い掛かり。チート=凄いの図式なら良いんだろうがあ〜。



 天井見上げ、クライヴさんを見る。『凄い』とストレートな返事をくれた。俺の感性、狂ってない。


 「半年くらい前、シーエお姉ちゃんが来たんだ。それからは三人で組んで課題に取り組んでみなさいって」


 もう一人は最初の男の子、ザビちゃん。

 以来、三人パーティで固定。


 ドゥエちゃん、魔術士(黒メイン)。リーダー、十八才。

 ザビちゃん、魔術士(白メイン)。サブリーダー、十六才。

 ネギちゃん、物理で戦闘担当。色んな武器の性能をお試し期間中。十二才。


 因みに、二人共サブ持ちだと。

 んで、このパーティーの指導教官はレッちゃん…


 ネギちゃんは背丈も体格もまだまだ子供で本人曰く、「絶対的な膂力が足りない」から押し負けてしまう事もあるとかとかとか。でも、まだ早いと重量物の取り扱い許可は下りなかったそう。


 「自分の体がわかってる分は良いけど、それ以上の力は変に回ると身長伸びないよって言われたの」

 「それはやだねー」


 「術式のお勉強もしてるけど、よくわかんない。でも、シーエお姉ちゃんが[構築の仕組み・初級]って本を読んでくれたの。ふんふんて聞いてたら貸してくれて。そしたら、外へ出すのは内回しと同じにしちゃダメだって! 僕、知らなかったー。でも、外でも内回しは良いですって。わかったら、わかんなくなっちゃったー」


 わからない〜と言っても、こーゆー回しがねと言えるネギちゃん賢いのでは?


 …これは教科書の書き方が微妙なのか、単なる言葉のロジックに引っ掛かってんのか? 教科書検定あるんだろか疑惑も湧くが、ネギちゃんの口調はほのぼのでけらけら。内容との落差が酷い。しかし、ちょーど思い出すんで以前の得物すっぽ抜け事件を話してみる。


 「飛んできたの?」

 「そう、こうドスッと。わざとか余裕かわからんのだけど」


 その時の状況を身振りを交えて説明。


 「……そのおじさん、バカだと思う」


 ぽかーんとした顔から、ぽかーんとしたまま切り捨てた。子供の容赦なさ、かぁっこいーい。



 それから、何が好き?みたいな話を。『お話』をする事に飢えてた感じのネギちゃんは、何時しかベッド脇の床に両膝着いて、ベッドに両腕乗せて甘える感じの体勢で話してた。膝小僧が痛くなんね?的な事を思ったが…  まぁ、痛くて唸るのはロトさんだし。子供がお喋りしたい間は頑張ってみたいな。そして、それはきた。



 「あのね、主様。僕、お父さんに会いたい」



 キ、ターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!







 平穏から一転、吹き荒れる嵐。轟く雷!


 ネギちゃん、目が潤んでグスッとべそる。口から「うぇ」みたいな嗚咽に近いのが漏れそうなのをうにゃっと口を歪めて我慢する。しかし、鼻を啜り上げる空気がそれだけで全てを語る! 


 緊急事態にクライヴさんに振ってみた。


 応答なし。

 反応なし。

 ダメだ、置物に変身してる!



 その間にもネギちゃん、俯き加減でべそりがべそりにべそってぶるって湖を満たして今にも決壊しそうでして!!


 「レジーナ様、貴族の出の方で。きびしいけど… 優しい時は優しくて。そのレジーナ様が主様のこと、すごくすごく…  褒めて、られて  僕達、幸運だって。 今、違うと思うことも  先々では違う  よ、うに思えるって。 そうなるって。 この身でも、出会えた ことが 幸運だって。 すごく怖かったことも わからないまま みんなで動くことも  遅れずに、できるけど。  あそこのお空が 怖い、くらいに綺麗なのも すごくて  僕、すごく小さいんだって。 小さなひ、かりだけでも 僕が  僕でなく なる  わかるの、が   すごい、すごいけど、違うの。 僕、お父さんに会いた  くて。   主様、僕ね  僕ね…  お、と」




 はっきり言いましょう。


 後半からしゃくり上げが止まらなくなったネギちゃんに俺の方が卒倒しそうです。心臓がバクバクして持ちません。なので、ロトさんの頭を抱えました。これは黙れではありません! あわあわあわの泡食ってるのが俺なんです!!






 「落ち着いた?」

 「…う〜」


 体勢を変えて足は床、両足を広げてロトボディを入れ、挟む。鼻声で返事するネギちゃんは、涙と鼻水でべっちゃ。ええ、ya ku za な、にーさんのべそ泣き顔の中に十二才のネギちゃんを探す。見つけ出す! 見えなくてもいるのだよ!!


 慰めてたら、タイムアップで人へと戻ったクライヴさんがハンカチを差し出して下された。有り難くも辞退して、引き出しのタオルを希望。部屋の備品を使う。


 漸く落ち着いたネギちゃんと約束。


 俺がクロさんに話をするまで寂しくても待つ。一人で行けるとしても一人では行かない。お父さんに会えても見えないかもしれない等々の『もしも』を話して〜〜  「今は俺が動けない、相談するべきハージェストも居ない。それに、この家の問題もある。どうしても順番は遅くなる。それまで待って、ね?」で、納得して貰った。


 そーはゆーても我慢が見える。


 子供に我慢をさせてまする! こーゆー我慢をさせるのは嫌ですが仕方ない。仕方ないではないと言われても仕方なくない? なくなくなくのなくないでしょう? ええ、これ以上はできませぬ! 無理を通せば道理は引っ込むが俺が倒れる。限界を超えた先にあるのは清々しさではない。今と同じでベッドの上の住人だ!


 


 「…はい、またね。主様」


 健気な声にどきゅん! 見えないネギちゃんにどきゅん! 俺の手に頭スリスリの子供の可愛さに落ちた気がする!! 『待って、俺ショタと違うからー!』と思った所でネギちゃんは落ちた。


 再登場したのはザビちゃん。

 初っ端のやり直しで自己紹介してくれたは良いが本名はポイ捨て状態ときたもんだ。それはそれで問題な。しかし、突っ込むと首が回らない〜。




 「…な、状態で現在内部変動が起きてます。ジュリアス様とレジーナ様の仲は良くも悪くも対立もなく。身分はレジーナ様が上なので、時に口調に棘が混じる事もあるんですが喧嘩にはなりません。レジーナ様は折衝が上手で、特に貴族と揉めた時は頼りなので」


 武闘派のジュリちゃんと総合受付窓口ではなく外務省なレッちゃんで一番金魚へ下剋上を仕掛けてるらしい…  ううむ、内部派閥の闘争とかドラマですね! ひゃー、実況聞いてみたいかもー。


 「俺らレジーナ様の下だし、ジュリアス様のアレかっこいいし!!」


 ねぇねぇねぇ!と両手で俺の腕を揺する程度には、ザビちゃんの物欲センサーは激しい。これはこれで可愛いよーな、うざいよーな。あー、年を聞いてなきゃかわいーのかな?


 不意にピースがカッチンコ。

 ネギちゃんはともかく、この二人は術式が読める子である。この手もアレも読めるのでは?









 廊下を歩く私の足取りは重い。

 自分で迷っているのがわかる。だから、重い。


 決めた時は勢いだと勇んだけれど 足取りは次第に遅く、それでも他に手はないと  立ち止まりたくなくて 歩いてる。けど。


 見慣れも、歩き慣れもした廊下。

 掃除もしていたし、少し前までは  普通に歩いてた。


 伺うお部屋も 当たり前に。

 掃除道具を持って  ええ、あれから全てが変わったのよ。私の世界が変わった。それを誰の所為?と問うのなら、決まっているわ。



 疑いが晴れたから、一人でも歩ける。まだ此処に居られる。でも、もう時間はない。だから、決意した。


 だけど、足が止まりそうになる のは、   怖いから。

 


 『自分の頭で考えな』


 そう言われて考えた。痛みに泣く中で考えた。でも、どう考えてもわからなかった。誰が、エイミーが、何時、何処で、此処で、どうやって、どうやった?なんて考えても当たり前の事しか思い出せない。わかるのは下着の自分とあっちの地下よりは断然ましな事と これからどうなるかわからない事だけ。


 震える私の心を占めたのは、『冤罪で死にたくない』それだけ。



 翌朝、来られた二人の方に正直に話した。

 こんな姿で男の方の前に立つ事に泣き喚きたかった。でも、私はそれができる立場じゃない。そして、方々の胸の内はどうでも淫猥な目ではなかった。もしも私が強姦か何かを  回されでもするなら、ご領主様の決が下ってからだと落ち着けた。


 思い出せる限りに答えた。

 時折、怒鳴られた。

 姿勢が崩れても怒鳴られた。


 間近で聞く怒鳴り声に身が竦み、殴られないと思っていても怖かった。そして、立ち続ける事に疲れてしまう。一日で終わるはずもなく、次の日には違う方達がやってきた。入れ替わりに、何人の方に肌を見せる事になるのかと 真っ青になった。


 続き過ぎると、何が何だかわからなくなって 自分が自分でなくなりそう。それもまた怖かった。泣きながら、「紙に書き出させてください」とお願いした。日付と一緒になら、間違えないと思うと懇願した。「思う? 思うとはなんだ! 初めから不確かであるを前提とするか!」とまた怒鳴られた。




 眠りに落ちる時、気が付いた。

 あの方達が嘘の報告を上げたら終わりだと。


 考えもしなかった事に気が付くと目が冴えた。心臓が跳ねる。悪意しか感じられなくなって突発的に泣き喚いた。喚いても喚いても騒がしいとも怒られない。両手を壁でも床でもどこにでもぶつけて叫んでたら、何時しか手の痛みは痛みではなくなった。ぶつけた衝撃だけが痛い。心が痛い。どうして、私が!


 上の部屋。

 窓がある。

 声が響く。


 上の部屋だったら。


 窓から叫べば、気付いて貰えたのに!!


 そんな思いが湧き上がり、涙がどっと出た。

 運がないと泣いて泣いて体がずるずると沈んで床に転げた。



 あの人達が、そんな事に気付かないと思ってる?


 自分の嗚咽が響く中、気が付いた。上か下なんて 言った所で初めから地下に決まってたのよと自分の声が聞こえた。その意味を考えたら、もっと力が抜けた。そしたら、肌寒さを感じる。



 眠った。

 直ぐに起こされた。

 

 ぼやける頭と腫れた目で、こんな時間にと思っても意味はなく 尋問は始まる。


 食事も何も不定期(故意)なのだとわかったら、その瞬間から時間の感覚がわからなくなった。でも、時間より何より意識が保てなくて自分がわからなくなりそう。ぐらぐらする。

 




 綺麗…

 透き通った水のよう…


 涼やかな色に、うっとり見惚れていたら同色の瞳に見つめられてた。初めて見た様で、違う様な… 記憶が曖昧になっている私に、その方は優しかった。夢見心地で付いて行き、許されて入ったお風呂に お風呂に!


 湯気で意識がはっきりと。


 体を清め、そろそろと湯船に浸かれば体が蕩けるかと思った。気持ちよくて生き返る。そうして、正気に戻った私を 更なる試練が襲った。鏡に映る自分の口元、上唇の上。疎らに生えた産毛という名の 悪夢な顔に  泣きそうに。


 「まだ刃物は渡せない」


 そう言われて、その方が剃ってくだ  くださって! 私の心臓がもたない。男の方の大きな手が私の顔に 顔に 顔に添えられ   水色の瞳がとても優しく細められ られて  お声が 力強いお声が「ほら、動くな」と ぁああああああ  これがご褒美だとしても も!  ああああ、甘い甘い 甘く聞こ、聞こ、聞こえるお声に息が触れそうなほど ちか、ちか、近くてぇえええ  きゃああああああああ!!!



  


 「は!」


 両手を頬に当てた所で我に返った。心臓がドキドキしてる。多分、顔が赤い。思い出すと今でも心がときめく。


 「私、恋に落ちたのかも」


 かも、なんて言いつつ落ちてる。とっくに落ちてる。だって、私 揺れてない。



 火照る顔を無理に引き締め、背を伸ばす。

 この熱も私の背を押してくれた。


 これから、ここにはお客様方がお出でになる。人手は多い方がいい。でも、もう私は表に立てない。裏方にしても問題となる可能性がある者はいない方がいい。それは、わかってる。


 でも、下がったら居場所はない。どこにもない。


 親が示す先は嫌。

 でも、私の状態が私に一人で生きていく困難さを伝える。指折り数える現実は、無職・金欠・困窮からなる生活苦。最後の手段の歓楽街は…  どんな男に知られてしまうか、わからない。況して、そこを住処にする男が心優しいなんて… 夢は見れない。女を食い物にしてる場所なんだから。そこからどう身を持ち崩して落ちていくかなんて…  火を見るよりも明らか。



 だから、思考が流された。


 ああ、どこか遠くへ。

 私を知らない、遠くの  誰も知らないどこか田舎の片隅にでも。


 そんな夢想イメトレしてたら、ここが田舎だった。領主館があるここからちょっと離れるだけで周囲は全て田舎。よくよく考えたら田舎なんてどこも一緒よ! ぱーっと噂が一周したら全部知られてるわよ!!


 事実を前に後はないと震えたから、決意した。





 「ザビちゃん、俺の手なんだけどね」

 「俺は無実です」


 ちょいと聞こうとしたら、顔を逸らした。「無実無実」と首を振る。なんでしょう?



 「見えるし、読めるんだね」

 「見えます、読めます、でも、できません。無実です。後、俺は技術足りない方でできません」


 元気さが鳴りを潜め、話が通じなくなりました。それが続く。もしやと思い、安全保障したら顔を上げた。


 「…お部屋様に怒られない?」

 「クロさーん、ノーカウントねー」


 ほや〜っと安心、良いお顔。


 やはり、気付いた金魚はいたらしい。狭い中、話はあっという間に回りきる。どれどれと見た。できる派と、できない派。慎重派と早急派。手柄派と脅し派。その中でも、特に輝く乗っ取り派。


 「闇落ちしました」

 「へ? やさぐれた?」


 「いえ、滑り落ちました」

 「待て、どこに。出れないでしょ? あ、プール底の角っこでダーク?」


 「いえ、ですから。その…」


 その後のザビちゃん、ジェスチャー派。


 あーん ぱくっ  ごっくん♪  ぺろっ  にやあ〜。



 「闇落ちって…  まさかの消化、腹の中!?」


 驚愕に吠えたら、ザビちゃん青い顔してうんうんした。


 まじか?

 まじか!?


 マスコットが金魚を食えるわけ、ガーーー  アリゲーターガーーー  は、たましー。どっちも実体ございませー? 何時だったか、金魚の減数に首を傾げたよーな気も…


 他には、容赦ない一撃(猫パンチ)で瀕死とか…



 ロイズさんと仮ゆーしゃ。

 あの二人の理由を考えるとありえなくない。なくないったら、なくない。そらー、怖くて無実申請しちゃうよねー。






 でも、やっぱり別の意味(次元)で怖いものは怖い。あの夢の意味は怖い。でも、多分これが最善。最善でなくても  私に術はない。


 『ご領主様が午後に時間を取ってくださいました。午前中の内に心を決めなさい。あなたの気持ちもわかります。私も何故にと言いたいほどに。でも、この状況下でご両親の声を抑える事も難しい。事の非も、話も縁談である以上は』


 理を説くマーリー様に、私の両親は『それなら、ご領主様の妾にでも』と言ったそうだ。そして、『そうだ、それが良い!』と押しに押したそうだ。その話に、少しだけ心が揺れた… それはそれで有りだと思うから。でも、その先の扱いを疑う私は正気だと思う。誰もが振り向く絶世の美女でもなければ、恋愛感情がある訳でもない。見方を変えると不始末なだけの私… その私が姫様の近くに立つ? 優雅さ皆無で苦労が見えてどん詰まりよ!


 それに、私はあの方が…


 


 「ふぅ…」


 息を細く吐き、思い出す夢のヒト(女性)


 他人を従え慣れた口調は貴族の方。話し方は理性的でも、とても蠱惑的な方だった。指の仕草すら魅惑的で、これがこの方の普通なんだと思ったら  お仕えする事を生き方として選び、過ごしてきた私とは差があり過ぎて  どうしても自分が貧相に思えた。



 「夢渡りなんて、ほんとにあるのね…」


 夢の中で言われた。

 『知らぬ内に他人に為され、器とされて生き難い。他人に道具と貶められた。そこで、まず第一に出たのが己が未来。理解に恐怖と衝撃。そこから派生するであろう怒りと悲しみ、口惜しさからは憎しみが募るもの。


 でも、あなたが強く見つめたのは未来。


 まぁ、憎しみを育てる前に現実が連なる言葉となって襲ってきたのだから、そちらで手一杯になるのもわかるのだけど。 ふふ。  でも、それがあなたの性根。可愛らし』


 含む口調に嘲りはなく、哀れみもなく。


 『望んだ未来でなかろうとも、道は示された。ならば、己を潰さぬように守るも己の務め。問題の主軸を己にのみ据え、感情の律と相手に委ねる従を証明した。器としてなんと好ましい。己が力を活かして生きなさい。求める者がいて、求められる者がいる。引き合うは天の配剤。


 主様にお仕えする我らにそなたの器を供せよ。怯える生を捨て、自ら約して抗うのだ。我らで満たせば、他にはやらぬ。やらぬ以上に守ってやろうし、そなたでは決して振るえぬ力を味わうが良い。器と有りて意識を保ち、底知れぬ快楽を覚えるが良い。我らを介して世界を知るなどない事ぞ』



 私は器として優秀なのだと褒められた。

 誰かと違って私は完全に意識を失う事なく、共有が可能らしい。それは素質で力の適正だとも言われた。でも、それ以上に今までの職務経験キャリアが物を言ってるのだそう。仕事で培った姿勢と心構えが私に共有の能力を紡がせたのだと…! 私の努力の賜物だと!!


 地味に嬉しい。

 快楽は倍増になりそうねと微笑まれ、ここがと夢の指で触れられた。感触を覚えたのは不思議で恥ずかしかった。そして、さらりと言われた内容を反芻し…  取っ付き難い方ではないと思えた。





 「主様に入ったら消えそう」

 「え?」


 「お部屋様と同じだよね、主様」


 そんな事ないと言い掛けて、口を噤み、手を見る。うん、あれに触れて無事かと言われると〜 不明ですね。


 「やっぱりぃぃいい! 主様の罠、怖いー」

 「うわ、ひど」


 「あ、罠と言えば  実は〜」


 こそっと声を潜め。

 ザビちゃん、解放後も俺がぶっ叩けば時間の問題はどーにでもならね?検討がされてたと言った。


 「怖いんで交代しまーす」

 「え?」


 どっちが?と聞きたくなるセリフを残してザビちゃんは落ち、ドゥエちゃん再登場。恥ずかしそうに「さっきは変な落ち方をしまして」と頭を下げた。



 「…なので、私達には無理なのです。申し訳ありません」

 「謝る事じゃないから、ありがとね」


 俺が勝手に流れ弾に当たるならまだしも、主様に術式を使うなんて以ての外!のよーだ。今もちらちらと上を伺ってるのを見ると〜  あれは良いがこれは駄目とわけるより徹底してて良い気もする。


 「後、聞きたいんだけど」

 「はい、なんでしょう?」


 「ドゥエちゃん、君は…  どうして、自分が   いや、君は俺を 今を恨んでない?」


 


 


 曰く、なった理由がわからない。

 その時は五人でいた。気付けば、上の方々と知らない面々。二人の先輩はいない。でも、自分はいる。顔触れに選ばれた感はあるが、同時に巻き込まれを疑う。


 「先にお話ししました通り、私は疲れて流されました。三人の中では一番力がありましたのに、私は心が弱かった。自ら解放の道を歩まれた方々の後を追う気概もなく。でも、それは私だけではありませんし… なんと言いましょう…  ジュリアス様は自死を強く拒まれますが、お部屋様に その、踊り食いされるのは認められ」

 「え、ちょ  踊り食いて」


 「真の強者に膝を折るは当然と。また、お部屋様は術式を行使されました。踊り食い直後の事です。食われた方の得手だと聞きました…  私達には最後まで使い道があるのだと、生き餌のあるべき形を知りました」


 クロさん、完璧なソウルイーター!!


 生き餌表現、キツいです。アフターケアが必要っぽいのに必要なさげなこの子の心は無事ですか!?


 「あの時ほど真摯に祈りを捧げた事はありません。そのお陰か、強烈な生の自覚が芽生え。存外、鈍かったんですね。私は。レジーナ様には自分を潰さぬよう守ったのよと慰められましたが あ、野暮な事を。 主様を恨むにしろ、差があり過ぎて私にはできようもなく。ひたすら自分を高めると決めたら何一つ悩む事なく、与えられる課題も心地よく。不明な到達点に怯える心は消えました。それは、こうやってお話ができるから。主様が心に灯火をくだされた」


 ドゥエちゃん、強かった。

 そんで、ネギちゃんが一番幼いと教えてくれた。これは、温情を希望されてる。


 

 「で、主様。話を振り戻すのですが」

 「うん?」


 空気を変えるドゥエちゃん、明るく明るく献身者のリクエスト上げてった。


 「この中からお願いします♡ やっぱり、弱いと使えませんものー♡」


 胸の前で両手を組んで、きゃぴっと言った。忘れたい気分なのでクライヴさんにメモお願いした。クライヴさんが復唱し、間違いなしと頷いた所でキラキラッと光が降り注ぐ。



 「帰還のお達しです、本日はこれにて。またお話ししてください。御前で失礼を」


 丁寧なお辞儀をした後、その場に横たわる。

 口元に幸せな笑みを刻んで、目を閉じる。


 ロトボディから出てくる黒金魚達。出てきた順に俺の周囲をくるくる回る。


 「ネギちゃん、ザビちゃん、ドゥエちゃん」


 直ぐに整列、横並び。「はい!」が聞こえる。




 「…だからね。最後にドゥエちゃん、女性陣を代表したお願いは聞きました。今度は自分の願いを考えておいで」


 一拍おいて猛烈な勢いで泳ぎだす。高速泳ぎに大ジャンプ、部屋は一匹の大舞台。全力で纏う光を撒き散らしに撒き散らし、残る二匹も加わって更に光を広げに広げてキーラキラ。まぁ、綺麗。


 まーたねー。





 「色々、教えて貰った。主様が誰かもわかった」


 多分、私に損はない。

 お給金は出なくても、方法はあるとも。



 お部屋の前に誰もいない事に首を傾げる。曲げた指で小さく扉を叩く。少し待ち、一礼して扉を開けて中に入る。兵の方がいない。ゆっくりとした動作で背を向け、扉を丁寧に閉める。そっと足を運ぶ。


 寝室の方で、小さく話し声が聞こえた。


 ホッとする。

 何かあって連絡に走ったのが私なら、疑われる。


 お茶でもと思って、それは後だと首を振る。私はお願いにあがるのだ。私を使ってくださいと願うのだ。他にも採用検討されていると聞いた。


 意外にも、私には競合者がいた。

 既に門は狭いらしい… 早くしないと!



 そう、意気込むのだけど。

 グッと両手を握り締め、前へと思うのだけど。


 怖い。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。


 夢渡りのあの方は生きていないのでは。明確ではないけど、言葉の端々からそうと聞こえた。聞こえた上で、そうとわかった上で、お前はそれでどうするのかと…  それもまた自分が試されている気がした。天秤に掛けられている。妥協・疑惑・不安と様々なモノが混じって躊躇う瞬間から時間は滑り落ちていく。


 手を取れば落ちる。

 でも、取らなくても落ちる。


 気持ちに蓋をして、なんでもない・気付かない振りで受け入れた。事実、どう考えても力を活かして自分を守る方法は  安心できる有力者に仕える事。


 でも、弟様では駄目。

 弟様に話を回されても終わり。偶然でも絶好の機会。




 だけど、怖い。

 会話が成り立つあの方は、みたいなものではない。


 だけど、と心が足踏みする。私が進んで手をあげる。それは間違いではないのかしら? 世界に還る。皆、最後は等しく世界に還るのだと  器になるとは、それを留める大罪なのでは? できるからと行うは神に対する…  不遜なのでは? だから、私は怖いのではないの!?


 『どうして世界に器は存在するのでしょう?』


 思い出す、あの方の 歌うような口調。

 試されているのは。



 「持てる力を 驕ることなく 与えられし 時の流れを 過たず」


 私は望まれた。

 能力を 望まれた。


 騙された。

 それもまた 望まれた事実。


 恵まれたのではなく、培ったが故の 誇るべき能力。私は望まれたのだ。望まれるは罪? それが罪なら誰も生まれるはずないわ。 私が悪い? どうして悪い? 何故、私が悪くなる? 私が悪いと切り捨てる。そんな人は それ以上、物事を考えられない頭の持ち主だからでしょう? そうよ、親身にならない。それだけだもの。


 供与、貸与。器の私。

 私は現状を変えたい。私は幸せになりたい。私は誰かの駒じゃない!


 「神よ、遠き 尊き御方よ。どうか、私に祝福を。恐れる心に踏み出す一歩を。力持ちて、望みし人の手を取るを 善かれと。人の役に立つ、その心の元に動く私を  道を選ぶに 導きを」

 



 きつく目を閉じ、苦渋でないと。

 神に祈りを。

 

 囁く祈りを。

 私の祈り。王を介さぬ祈りは届かぬと  わかっていても、どうか届きますようと。




 ガチャ…


 「では、アーガイル殿を」


 突然の開閉音にビクッとした。聞こえた名前にドキッとした。パッと寝室へと顔を向ける。薄く開いた扉から光が零れた。


 「直ぐに戻りますので。あ、それと」


 細やかな言葉。

 私の耳朶を打つ。


 けれど、私は呆然と。 光。 隙間から射し込む、光。 開けずとも、扉は開き 煌めく光は私を招く。 私の為だけに、光の扉が開いたよう。


 光。

 高貴なる輝き。


 波打つ力は。

 煌めき、流れて。


 ああ、神よ。大いなる御手よ。



 感じるままに膝を着き、両手を組み、頭を垂れて 祈りを捧げた。 真を知らず、御心を疑う自分を恥じて、光をくだされし 遠き御方に  これ以上ない敬虔なる祈りを。





乙女の祈り・発動☆

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