199 ある、落ちる時
あづ〜〜〜 あぢ〜〜〜 今週の最高気温とか、ひゃーーですね。
こんなに暑い時は食欲を減退させない為にも、大人の爽やかな辛さを… いえ、爽やかな大人の… から、さ を? をを? ううむ、辛味成分でコクはでない気がするよ?
ピ、ピ、ピピピ、ピピピ…
徐々に大きくなる目覚めの音に、腕を伸ばして止めようとした。そこらを探ぐっても何故かない。 ……おのれ、時計の分際で この俺の眠りを妨げ、る
ポ、ポ、ポポ、ポポ、ポポポ…
「うぅううう… はいはい、しゅーりょ〜〜う」
唸りながら目を開け、次の段階へ移行した目覚ましを音声操作で止める。グッと腹と腕に力を入れて起きる。どうして置き時計があんな所に移動してるのか不思議だ。俺が寝てる時に限って移動しやがって。
「まぁ、貰い物だしな」
あふ、と欠伸をしつつ思い出した夢に… 爽やかとは言い難い目覚めを感じて悲観っぽい顔をしてみる。ふと、思い出して腰を伸ばす。
…問題なく、宜しい!
「よしよしよし! んじゃー、どっから〜 着替えるか」
まずは気分転換だろ。何を指してるかわからんひよこを読み解くのに必要な事と言えば、んなの真面目に考えない事じゃねーの〜〜〜ってな感じでいこう。
「あ」
上を脱いでポイ捨てした時点で気が付いた。
「おーーーい、誰か俺の着替え持ってきてーーー」
『仮眠室は清潔に』をモットーに、着替えの一つも置いてない。持ってくるのがいるから困らない。だから、準備をしない。何時ものパターンだ。 …やろうと思えば、どうとでもなる着替えに時間を掛ける事が減り張りと心の余裕に繋がる は、ず。
「しかし、あのひよこ。どこで見たっけか。俺の手じゃないし〜 多分、集会だよな」
上半身裸で云々と考え込む前に持ってきた。
みゅーには紫を与えた。
着替えと飲み物。
報告を上げるみゅーに、全く違うみゅーがだぶる。
「…は、此処で途切れて終わりです。報告は以上となります。どうぞ、こちらを」
俺の前へと滑ってくるメモリーを指で押さえて、弾く。浮かび上がるのは、最終集計の一覧。口頭通り、みゅー・あるふぁ・さんのシリーズ名が並ぶ。
家の壁に穴が開いた。
異常事態にスクランブルした結果、消滅した。その場に居合わせ飲み込まれ、事態を把握せぬままに消滅した事も考えられる。だが、基本は違う。
職務を全うした、だ。
「そうか」
浮かぶ名前の一つ一つに目を通し、把握した数から個へと思いを巡らす。内部が燻っても、表面は戻っていた。それらは俺の技術であり、構築の結果である。それは、俺の作品であるシリーズも然り。
「お前達のお陰で復元速度が上がり、あの程度で済んだ。よくやった」
遺し名に、褒め言葉を。
「勤めを果たした、この事を 忘れず、我らも参ります」
零す言葉に迷いはなく、力の恐怖に震えもしないが、寂しさと悲しみが滲む。 …その姿に今更ながらに、長じを感じて『そうか』と感嘆が溢れてくる。おいでと手招き、頭を撫でる。
人と違い、肉を持たぬ身に触れ、柔らかく撫でる。撫でた先から光が零れ、輪郭を露わにさせるが 揺らぎが元へと戻してゆく。元より、これらに身などない。
「次代はまだ先の予定だったから、直ぐにはどうにもならん。だから、お前の同期を増やそうな。おめがに話して、調整数の確認と希望を聞いてきてくれるか」
「…はい!」
緩やかに笑み、滑る足取りで出ていく姿。
消失と 穴埋め。
現実 と、感情。
最新であるが故に、まだ幼く拙い面を残していた。それが… ああ、他者から与えられる衝撃とは 差を突き付ける その、横暴なる力とは 良くも悪くも成長を促し あんな笑顔を 選択させる。
こんな風に 育たせる。
みゅー、俺の空間。
親鶏が先か、卵が先か。
力が先か、場が先か。
力があるから場が生まれるのか? 場があるから力が生まれるのか? それとも、力が場を生み出すのか? 何れにせよ、それらが求める本質は 安定だ。
そもそも、何もなければ 凝らないし、凝りようもない。
では、どちらが先か。
いや、どちらに重きを乗せるのか?と考えた時 それは既に決まっている。
俺が作り出した、力の闇。第一位とした力に添う、生起する場として共に生まれた。それが、序列二位とした俺の空間。この時点で、我が家の闇と光は双子でも対でも何でもない。
『…お前の言ってる事はわかるけどよ? けどよ? そいつ専用ぐらい作ってやれよ、可哀想だろが。単なるグラフィック作ってんじゃねーし』
『安定の保育器論に器が生きてりゃ、もっと安心!』
『お前の場合、単なる手抜きに聞こえるんだが?』
『片手間の芸当でできるモノではないのだが?』
所謂、精霊誕生。俺んとこの大いなる秘儀を語れば大雑把扱い。生起を命題とする俺の空間に、おくるみとしての能力まで疑われた。挙句、『天然待ちした方がお前んとこには合ってんじゃね?』とまで言われた。
『んな、時間待ちできるかよ!』
『お前の世界観、どこ行ったよ!』
…俺のとこだからこそ、アリだと思ってたのを否定された。
そこから、アリナシ論争に安定に何を求めるか討論を展開して主体となる互いの趣旨性の違いを相互作用と互換性で封じたら、『纏める手抜きは後に響く』で締め括れた。意見の合致にがっちりと握手もした。それからは、まぁ気を付けるように。同時並行当然論に丁寧を加味… 加味… ああ、加味してる。してるから、以前よりも深みが出たんだろう。下はオートにしてるのがアレだけど。
他人のとこだと対で見掛ける光と闇。俺のとこだと序列三位の単品。光の、さん。うちで光と闇の頂上決戦を見る事はない。見れるとすれば、それこそ勝ち抜き戦での決勝になる。それも闇に制限を設けないと無理だが… ああ、設けてなくても楽しそうにぶち当たりに行ってたか。
四対一で。
『足りぬなら身を以て、その場を治めよ』
だから、消滅した。
文字通り、身を挺して新たな壁となり穴を塞ごうとした。直属と与えたあるふぁも、さんも諸共に消滅した。もっとも、みゅーに取り込まれていれば意識は落ちる。落ちるとした。
塞ぐ総面積に対し、こんなに少ない 頭数で立ち向かったかと思うと… 怖かったろうに。
「あいつに頼んで行った演習時でも、こんな… こんな数で!」
特に今では希少となった第二期のみゅーが逝ったかと思うと… 悲し過ぎて涙も出ない。把握した現状に戦きながらも、 いや、傲然と憤然を撒き散らす姿が浮かぶ。二期の頃の作品は総じて力が強いが手数が少ない。それが必要だった頃の作品だから仕方ないが、もうそろそろ眠る頃合いだろうと そのままにしておいた事を悔やみたくなる。悔やむ事ではない事を悔やみたくなる。最悪だ。
至極色。
合わせる差し色をどれにするか、どう入れるかと悩んで迷って唸って どれだけ色合わせに時間を費やしたか。
楽しくも、あの工程を思い出すと 与えた役目とは言え… 本当に俺がもう少し早く気付いて、とっとと行動をしていれば〜〜〜 俺のボケがあ〜〜 しかし、早かったら絶対に助かったかとゆーと〜 それは〜 ちょっと〜 あれなんだよなー。
「くそお、俺の精神的苦痛に対する慰謝料と賠償金を請求したろか」
口にするだけ無理だと思う。逆に俺が叩かれる割合が高くて嫌になる。 …それにまぁなんだ、良い機会でもあった訳だ。演習では味わえない実戦で相手にヤル気がなかったなんて ある意味、最高だろ?
お陰様で成長しましてと言うべきか? あー? 試し撃ちでもしないしなー。
「二期の最大の特徴だからなぁ… お前、見切って即全員を取り込んだな?」
隣に誰も居なかった。
最後は一人であったと断言できる。
何時から、効率と優しさを混ぜる事を覚えたのか… そんなの狙ってないんだぞ? この上なくキメて 逝ってからに。
そうだな、次代は至極に回帰しようか?
地表の者に見えずとも、気付かずとも、そこで暴虐の嵐が吹き荒れた事を悟れずとも あの盛大な花火とは 比較にならない 小さな火花であったとしても 俺の至極が 家の守り花と 咲いて散った この事実。
「他人の力が原因の 散り花なんぞに させた事は なーかったんだけどな〜〜〜 あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 あ」
湧き上がる感傷と感傷と感傷を吐き捨て そっと目を伏せ、メモリーを閉ざした。
気持ちを新たに仕事部屋に戻る。
まずは、あの子の様子を確認しようとチェアに向かうが… 「何だ、今の?」と振り返る。入口脇に設置した下からのメールボックスのボタンがあわぁ〜く点ってた。
「…なんだ、こら。こんなんじゃ気付かねえぞ? え、なんでこんなにう 」
すいんだと言い掛けて、沈黙。
薄いに直結する事案に、硬直。
ものっそい嫌な予感に、悪寒。
しかし、固まるだけ時間の無駄。
心中を押し殺し、ちが。心を無にして点灯ランプをポチッと。
『…ちゃんとしましたぁぁぁ〜〜〜!!!』
叫んでた。
音声、ちっさいけど叫んでた。
投書日時と場所と入れた奴を四度見した。 膝から クズレ、オチタ。 オチて頭をガンとぶつけたが痛みを感じない。
「は、は、は、ははははははは」
何故でも何でも笑い声しか出てこねえ、ちゃんと聞いてないのが俺だとさ!
この時、何をしていたか? 何してたっけ? 思い出したくないと頭が拒否ってる。だから、まだ軽傷だと思える方へ逃げるよーに頭が回る。
とりあえず、そうとりあえず!
こんなにも淡く薄いのは下の力が弱いから。なんで弱ってるのかを考えると、一にも二にもそれは力が回ってないからだ。では、どうして回ってないかと言うと足りないからで。そこで何が足りないかというと〜〜
「ぐはあっ!」
瞬間的に閃いた。
つか、あっちもこっちもそっちも一気に全てが繋がって炸裂した。記憶の連鎖に頭がやられ、両手を広げて更に撃沈。沈む、沈む、沈む。
伸びきった俺、屍モドキ。
サバゲー。
終了後の食事会、兼、懇親会。そこで偶に行う交換会。正しく友好の為の… 自慢も込みの交換発表会。その場で必ず開封し、やっはーと見せ合う。
『誰も自分の回ってないですねー? いいですかあ〜? では、開封でー』
思い出す、俺のブツが当たったヒト。
そして、俺が当たったブツを出したヒト。
初参加で交換会に当たったのは悲劇か、幸運か。初回は家の世界観と決まってるから、そこは楽だった。そこそこ悩んでそこそこの物を用意した。何時の間にかそこそこがここぞになってたのは、あるあるだと思う。出来栄えに気を良くし、透明の卵ケースを出して〜 ちょい迷った。
一回だけの、デモンストレーション。
どうせならと、みゅーに時を抱かせ空の卵を作らせた。発光する透明の卵に満足。そっと優しく入れて、緩衝材と一緒に箱詰めしてリボンした。
『世界観が近いヒトか、粗雑に扱わないヒトに当たりますよーに』
俺の希望の祈りは通じたらしい。難を避ける為に美麗と優美と気品に特化させた幻鳥は概ね好評で、そのヒトには大好評だった。この分なら、飽きても片隅に飾ってくれそうだと喜んでたら。
『なぁ、これ名前ある? うちで飛ばしても良い?』
まさかの採用に、うひょう! 面倒事に、うぎゃあ!
妙に手慣れた交渉に、オープンにしてるヒトだと知った。第三者どころか第四者も五者も勝手に入り込んでわいわいやった結果、俺の幻鳥は俺のクレジットを外す事なく他人の家を飛び回り、集めた賞賛の一部が俺に入ってくる事になった。クレジットを外さないから、『ある異界神からの親愛・神鳥xxx』とゆー名前を戴く事になった。交友もないヒトに親愛はどうかと思ったが、贈答と銘打たれた鳥を見て「なら、落としても何してもいーんじゃね〜〜」等と言い出す馬鹿を否定しない。そっちの方が許し難いので親愛にした。
しかし、余りのオープンさに『まじか!』とは思ってた。んで、リクエストに応じてそれなりーの能力と命数を付与。その際、攻撃型にしないで合意して安心。
後日、正式名が決まったと通知を貰い。初フライトにお呼ばれ。
他人の家で伸びやかに翼を広げて飛び立った俺の鳥に、感慨深く胸アツ。そして、あっちでもこっちでも上がる歓迎と歓声と賞賛に胸アツ。飛んでくる『異界神』への純粋な賞賛に激アツ! 勧められる酒と肴と土産と会話に、更にム・ネ・ア・ツ!
帰る時には小さな星を貰った。
祝。
他所からの、取り分。
初めて手にした、星。
それがなくても生きていける、それがなくても代替はある。賄える。だから、本質を理解しても 然程、興味を持てなかった。寧ろ、要らないと思ってた。そんな俺を 手中の星は惹き付けた。
興奮したまま、家に帰り。
勢いで、特別降下地点を数カ所作った。
ずりずりと屍から復活。
「一時的な熱に浮かされ作ったが… 後悔はない。まだ、ちらほら星も届くしな。逆に作っといて良かったんだ」
他に連絡がないか、確認。
入ってた。
『お腹すいたー!』 『なんでー!? どうしてー!?』 『うぇえええええー!!』 『頭、馬鹿んなるー! ひぎゃぁああああ!!』
投書日にばらつきはあれど、内容はほぼ同じ。ほとんどが恐慌状態に陥ってた。視線を外し、目元を指で拭う振りして小さく呟く。
「すまん、もう少し待ってろ」
もう、どうしようもない。猶予を争う時は過ぎている。焦っても無駄だとナニかを心で噛み砕く。指でチェアを呼び、どさっと座って深呼吸。
某所の台帳に接続。
真っ白台帳に記帳を見つけ、何とも言い難い感情が湧き上がる。
花遊びして… 大人しい感じ。敷き詰めた石に反応してるから、わかる子っぽいと思ったらそうでもない? 何をそんなに迷うのか、選び出すのに時間が掛かる。音声を拾おうとしたが、無言。決めたと思えば、「一個だけ」としなくていい遠慮をしてた。性格をみた。にぱーと笑うが不安と期待で胸いっぱいを把握、俺への挨拶も確認。到着の際にのみ設定していた呼び鈴が鳴った記録が… あるのも確認した。
「ふ、ふ、ふはははははは やはり、ひよこは此処にいたー!!」
笑うしかない。
回った確率変動が出た。
俺が当たったブツは、ソフトウェア『診断と対策 改訂版・アニマルバージョン』。キャッチコピーは「能力と性格が丸わかり♡ 落とし所がよくわかる捉え方付き」だった。
製作者の彼女はナニを家に放り込まれたらしい。家のと然程差異のない見目と狼狽える様子に哀れを覚え、受け入れた途端にナニの態度が豹変。「ゲームだ!」と喜んで家を荒らす荒らす。で、これを作ったと。安易にわからんもんを受け入れた結果だよな。
改訂版なだけあって知ってるヒトは知ってた。から、聞き流しが続出。当たった俺は彼女の直視を受けて、愛想笑いで拝聴。
頑張る説明に、納得。この手の問題点は安全性、デリケートな部分に他人の構築を突っ込んで馬鹿にされても困る。そこを解決してるから、彼女がこれを広めたい意気込みが伝わってくる。同時にサンプル説明の狼が絶妙に良い味を出してたから受けてた。俺も笑って終わった。
次へと続く中、彼女が俺の傍へとやってきた。見つめられた。煌めく瞳にたじろぐ、俺。騒めきの中、妙な殺気に振り向く。顔を戻すと彼女が隣で肩が近い。俯き加減の恥じらう姿。頬を染めたさっきと違う小さな声に… 顔を寄せると野次が飛ぶ。
ときめきとめんどさが重なり、一気に冷める。
なだらか〜におだやか〜に俺から話を振って最後は転じて終わろうとしたら、使用後の感想を求められた。逆に俺が恥ずかしい奴に。使う予定もないのに「使ったら〜」で逃げた。思い出すのも恥ずかしい… 色々と恥ずかしい、あの…! うあー、忘れてたのにー。
勢いで作ったセーブポイント。
そこに専用ソフトとして取り込んだ。
その後は一度も動いてない。まっっったく作動してない。容量食う程、重くもないから忘れきってた。動作確認に使用したのは熊と亀、ひよこではない。ひよこは取説でしか見ていない!
無言でぽちぽちと操作し、スタート。
今の映像に重なるよーうにひよこが現れる。夢で見たひよこと同じよーに可愛く尻を振って走り回る。ああ、俺の未来視ハズレねえ。ハズしてないが近過ぎる!! 自分自身にぬるーく涙目になってたら、ひよこが虹色に光った。
「そういや、改訂版には付属がどうとか あれ?」
色に合わせて説明を出そうとしたが出なかった。
仕方ないので取説の表紙を思い出す。
どこに置いたか考える。普段、使用しない取説なんぞ手元に置かない。
「…ならば、やはりここ」
漁る、漁る、漁る。
「これか! 違う、これだ!!」
置き場は間違えてなかったが埋もれてた。片付ける積もりで積み重ね、埋もらせてた。新品同様、色褪せなし。手引きより先に仕様を確認。納得。構築方法の違いと時間の経過で今の設定状況と互換性にちょっとばっかし齟齬が生じてた。から、その辺を手直し。
「まーもー、これも古いからなー。彼女も新しいの出してるだろ っと。 よし。 おー、動きに滑らかさが お、お、お」
虹色が収束したら、ひよこがアイテムを装備してた。
「お〜、お飾りしてお洒落ひよこ〜」
可愛らしさに拍手、荷物と水筒を背負ってる姿が微笑ましい。カチッと合わせると、今度はちゃんと説明が出たので取説のパターン説明と見比べる。相違ないので、これ以上は自分の方でやったがましと立ち上げ 立ち上げ 立ち上げ… 悩ましい。
「ん〜〜」
現在、手荷物検査を実施中。
地点に降りてる時点で検査は要らんが初回だし、ソフトの評価と俺の方が劣ってたら本気で笑えないから実施してる ん、だが…
「どう見ても手が違う」
それなりの仕上がりの飾りは力に欠け、水筒はどう見ても後書き。どちらもできてはいるが、あのご父兄のブツにしては手が悪い。基礎からして違う。
「貰い物か依頼品? 普通、できる奴がヒトに頼むなら消耗品じゃねえの?」
雛は雛、親は親。
実力で親を超える雛はいない。超える雛なら擬態だろ。
なんで大事なブツを格下ので済ますのか? わからん。防寒用の毛布は少々アレだが誤魔化してない。ご父兄が持たせたにしては割と真面。ご父兄の作品でもないよーだが〜 愛用品か?
「浸透率がまぁあるよなー」
少々不明だが不審に至る程でもない。
それより、他が問題だった。
「大きさもそこそこで数もそこそこ… これ、ぱっくり割ったらあれじゃねぇ? 高純度が あ? ……もしや、これ空か? うわ、空だ! かあ〜〜〜〜、純度は高くて中は空! それこそ好きに使えってか!!」
荷物の中に、どう見ても俺的に使い勝手の良いブツが入ってた。貰った星と違って中身が入ってないだけに用途を選ばない。どれだけ良くても使えない物は要らないが、これは有り難い。
あの子の生活費としては過分で、ちょっと難アリ。
だが、最終はばらける。そして、還元方式で俺の元へと上がってくる。違いから必ず濾過で引っ掛かる。もしもそこで変な溜まりと化したとしても、んなの重水でも流して回収すれば良いだけだしぃ〜。
詰まる所、上納。
あの子が持てる程度だから、本当に挨拶程度の… 気遣いの… ちょっと気後れしないでもない カ、タ、マ、リ。
「ガチで入場規制文を読み込んでんな、おい。そうなると… 最後は、やっぱり俺じゃねーか!!」
ひよこひよこひよこひよこのひよこ豆! まだ芽も出てない豆ひよこ!! 右も左もわからないヒヨコ指定のひよこを… 家の中とは言え、広大な敷地内を一人にさせてふらふらと…
「いや、ちゃんとうちの下の奴らが道案内の手助けしてるから!」
言い訳に『それだけかよ』と幻聴が聞こえる。
『手土産も持たせたのに、それだけかよ』と聞こえる…
「土産要求してませんよー」
ゆるーく手を振って突っ込むが… あの子が一本道で遊んでたのは知ってる。何をどーしたのか道を外れてくるっくる回って遊んでた。「え、何がそんなに楽しいん?」と言ってしまったが、子供ってそんなもんだっけと思い直した。遊びながら行く子かぁと、ほのぼのしてたら震えてた。道に迷って、クスンとべそってた。
「どーしてそこで迷える、このひよこ!? 流石、ひよこなだけあるな!」
大声で突っ込んだ。
ひよこが興味本位で突き進むのはわかる。冒険もわかる。しかし、先が思いやられる。この行動パターンを先々も踏むのかと疑えば、土産が意味を成してくる。ご父兄の要望を推測すると… ナビでも必要なのかもしれない。
色々考えると面倒でしかないが返そうにも返しようがない。それに子供の生活費を取り上げるなんて、どこの悪徳… なんてヒト聞きの悪い…
「ううううう、だがこれは」
可能性。
自分なら与えない、力。
中身が伴わぬ故に害意を感じない。
だが、力ではある。
それを器と言う。
どんな形でも、あれば波立つ。
隆起なくして、底上げはない。
他者に触れる、それは刺激。
「平坦を好み変動を嫌うヒトはいる。俺は自分の理想が荒らされるのが嫌いだ。それを籠もるとするを否定しない。変わらぬを佳きともするが長き停滞を好みはしない。図星を突かれるときついなー」
しかし、裏がありそうなので悶々と深読みし続ける。生活費兼土産だと持たされたのなら、なんで地点で披露しない? 地点に一部でも出せば、口頭の挨拶より確実。何故しない? 手渡しは考えてないみたいだし〜 なんでだ?
「聞いてない、もしくは 生活費に重点を… あ? あれを使って此処に慣れろ? 図工!? いやでも、それならうちので」
家の粘土を持ってきた。使って遊べば少しずつ減っていく。そこで新しいのを継ぎ足して、混ぜて混ぜて最後は全部我が家の粘土。上手にお家に慣れました?
「移行期間?」
扱う事の必要性と重要性と疑わしきは被告人の利益に従、う? いやいや、待てよ。こっちも水は用意してるし、汲んでったし? 飾りも持ってきてるなら…
出てくる出てくる → の多さに、俺の思考が入り乱れる。
下の奴ら。
家の中で感じた妙な視線。
ヒトから指差されそーうな俺の現状。
その前に、なんでうちのが喚べたんだ?
行きたくもないご父兄への挨拶に、変動値が爆上がりしそーうなうちの子達。
「だぁあああ! そーだよ、誰だ!? あの子から大事な飾りを取り上げた馬鹿は!!」
あの手のブツがないと、うちじゃかなり辛い。
やがて慣れるとは言え、しんどい事は代わりない。わかっているだけに、ちょっとあの子の足取り追いたく ない。
「まぁ、まぁ、まぁ! もう終わってるしな!」
ドキドキする自分を鼓舞して明るく言ったら、過去が突き刺さる。
『ま、いっか。気の所為だろ。やだなぁ、なんか神経過敏になってる? 自意識過剰は恥かしいっての〜』
気の所為と放っておいた、あの視線。あれがご父兄のなら… ならぁ!!
「あ? 待てよ、俺が感じたのは結構前からで… でも、あの子が来たのは近日で… ま、まさかの覗き魔!?」
あの子の為の下見?
目を付けられた?
もしや、堤の切り崩し… 倒壊は 乗っ取り劇? え? え? まじで家の中を見られてた? 俺の… 俺の生活パターン掴んでる?
冷静に 考えると 普通に、気持ち悪い。
「いいい、家中の掃除… いや、模様替えが先か!? 駄目だ、違う!落ち着け! 落ち着けって!! そう、あの子が先で… 違う、先にするなら掃除の頭数をだ! そう、給餌機!!」
俺は出掛けにセットした。
間違いなくセットした!
開眼。
画面を睨んでタタタンッと接続し、画面上に映し出す。
「うぇえええええ!?! タイマーがまだ回ってるぅううう!!」
餌の入れ忘れじゃなかった。
入力ミスだった。
たましーがレジェンド級で抜けそうに。
凭れたチェアが俺の気持ちに反応し、落ちて沈んで蕩けてく。そして最後はずべった。でろーんと床に広がるチェアの元。その上にいる俺。衝撃は一切ないが床に伸びてる。
ああ、もう嫌だ。
「ああ… なんでこんな… 俺は悲劇の って、まじでどーしてこーなってる!?」
二度目の屍モドキから即、復活!
信じられない凡ミスがなんで放置されてる? 玄関先で「後は頼む」と言っといた。あの子の対処は俺だとしても、俺への連絡と下の奴らの面倒はどうした?
「おい、出てこい!!」
来ない。
「あ? なんで来ないよ?」
待っても待っても来ないので、他のに聞いたら下に居た。
道理で呼んでも直ぐ来ねえ。
頭にキたから力技で引き上げた。強制に姿勢を崩して驚く顔に、怒気を滲ませ間髪入れずに詰問する。
「お前、何してたよ。な・ん・で、お前が下に行ってんだよ!」
「え」
「行ったんなら、飯抜きの奴ら見ただろうが! 記憶が飛んでいる理由を言ってみろ!!」
「……は?」
ゆらりと立ち上がった顔がみるみる硬く、絶望に似せた無表情になって… いくのを通り越して眉と口が吊り上がる。一気に怒気を孕んだ笑顔になって、俺のシリーズ最強の名に相応しい闇とゆーか暗黒面を全面に押し出し、背後にゴゴゴゴゴッと妙な暗黒物質を… あれ?
「私が、何を、していた、か だと? あ? この、私が、どれだけ、心を、砕いて! あいつらの元に居たかだと!?」
「ちょ、ま!ま! おま、おまなんで実体化し ぐえええ!」
人の首元引っ掴んで絞めてくるから、頭をぶっ叩いたらスカッた。
「てめ、この! 勝手に都合よく部分実体してんじゃねーよ! そんなん、どーやって覚えたあ!?」
「やろうと思えばできるもの! 怒りに任せば何でもできる!!」
「器用な力技でトータルを上げんな!!」
殴り合いになる前に、今度こそベチッと叩いて実体化を潰す。なんて心臓に悪い。一番目だからと自分の理想を詰め込み過ぎたか。そんで、もうちょっと〜 顔面偏差値下げときゃ良かった。
闇シリーズには、俺の理想を詰め込んだからな。
剥れる口が紡いだ言葉は聞きたくなかった…
「俺の所為だと」
「限界突破を語っただろうが」
上がる苦情に給餌機を見に行った。タイマー設定を見て愕然。与えようと思うものの、先日誰かが語ってた。『今度のが終わったら、久しぶりに下に手を入れるか』と。狙いなのかと疑えば手が出せず。しかし、配給の停止は後々に響く。現状の放置も容認できず。だが、優先すべきは誰かの意向。だから、餌はやれない。かと言って、全てが落ちるなんて冗談ではない!
餌の代わりに自分達の力を与えて最低限を死守してた。結果、動けず。引き上げられた時は安堵したのが実情。
「…他のシリーズは?」
「関与させてない」
「俺への連絡は?」
「書き置きした」
「何処に?」
「定位置に」
話しながら廊下を進む。頂点に立つおめがシリーズの数は少ない。その半分が出た。なら、要所は守られてる。だが、だが、だが、だが! 思考をフル回転させながら私室に駆け込む。
シュッ…
部屋に入ると何時もの場所に連絡ボードがなかった。その前に放り投げ… てない、山積みの荷物を退かしたら出てきた。落ちてた。
「…我らが主よ、見なかったか?」
「いやいやいやいあ!」
「皆様方と楽しくされてきたか?」
「それは、まぁ。何度も言うが遊びじゃないぞ? ゲーはゲーでも大事な底上げでだな」
疑わしい眼差しに、「今回は拠点防衛を一人で回してハメた数でMVPだ!」と力説し、まだ出してない戦利品の数々を指差す。
「酒を飲んで帰ったな」
「…ほろ酔いな」
更に疑わしい眼差しに背を向け、ボードを拾って元へ戻す。連絡を消す。
「で、何処で寝た」
「…客室な」
「何故、客室に」
「いや、ほら。見ての通り片付けが…」
「では、何時戻った?」
恐ろしいので黙って部屋を出て階下へ向かう。しつこさに閉口していては負けるので、先の事案を早口で説明。
「…それはまた外れた場所に」
「運が良いのか、悪いのか」
「…良いとした方が幸せだと。来た早々、怖い思いをさせては可哀想だ」
「下手すると汚染で大泣きだよな」
だかだかと早足で到着。
未だ回る給餌機タイマーをガチャン。ガションと開放口を全開。ザラザラと餌が落ちていく音が響く中、蓋を開け、壁に沿ってずらっと並べたペットフードを取りに行く。現状を考慮して、『みんな大好き、一番ご飯! 〜栄養よりも美味いが一番!〜』の特大袋を二つ取り出す。『みんな大好き、魅惑の薫り! 〜鼻を鳴らして、まっしぐら!〜』の大袋も二つ出し、四袋纏めて持ち上げる。
前が見えない。平気だけど。
減り具合を確認しつつ、投入口にをザザッと流す。流す流すの流し込む。二種類を纏めて入れて落ちる過程でブレンドさせるが魅惑ががっつり鼻にくる。最後は耳を傾け、一定量で落ち続ける音に頷き、蓋を閉める。
「これで良し!」
「…理不尽が渦巻き労力に対する殺意が湧くが心の底から落ち着いた」
疲労が滲んで毒舌に力が入ってない。
わかっちゃいるが容赦なく引っ立て仕事部屋へ連行、休ませる前に覚えさせる。
「で、これが問題の子だ。覚えとけよ」
「……やばくないか?」
「あ?」
「これが」
かったるそうな態度から一転、急にモードが入った。
横から手を伸ばし、割り込み操作。
枠取りして焦点を合わせ、拡大。
粗い画像を処理、クリア。
見た。
「見間違いではなく、如何しましょうや」
さらりと尋ねる声と。
あの子の手と。
「…我らが主よ!」
何やら叫ぶ俺の闇が薄い。
酷く薄い。
なんだ、俺の中の光束がガチ上がりしてんのか。
確かに光が出てるよーな気もするが 気分的にはオチルより、このままどっかにぶっ込んでオトシてぇな。