197 ある、震える日
今日から四章です、わーい。
しかし、仏滅。でも、内容的にはハズしてないような…
この日、俺の頭は真っ白になった…
俺は寝ていた。安眠を得ていた訳であり、惰眠ではない。 …いやまぁ、もしかすると誰かは〜 「惰眠だろ」と突っ込んで〜 きそうな気も〜 しないでもない。まぁ、ここんとこ寝続けてるからな。しかし、こんなん午睡の範疇だ! 寝たいんだよ、俺は! だらけたいんだよ、俺は! んで、やる気が出ねえんだよ本気で!!
だから、寝てた。
起きては、だらけてた。
そんで、ちっとばっかし思い出しては悦に入ってた。
それで、再度気持ちよく寝た。
その繰り返しだ。最も、それはやるべき事を遣り遂げた… そう、達成感からくるものだ! 逆に言えば、それが終わって落ち着いたからとも言える。燃え尽きてはいない、遣り切っただけだ。その後の安眠兼惰眠は… 満喫して然るべきなのだ。誰かに文句を言われる筋合いはない、約束も入れてない。俺は自宅で寝ているだけで、ダチの家でもない。だから、眠りを貪っていて問題ないんだ。
ないんだってのに!
ビー! ビー! ビー! ビー! ビー! ビー! ビーーーーーーーー!!ビーーーーーィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!
「ああっ!? なんだなんだなんだぁああ!?」
ズルッ!
ドタン、ゴン!!
「あだぁ!!」
此処暫く全く耳にした事のない警報音に驚いて、転寝していたソファーから滑り落ち、後頭部を打ち付けた。
「あでででで。いってぇ! あーもう、なんだっつーの!」
痛む頭を手で押さえ、唸りながら起きる。人が頭を打ち付けて痛えってのに、まだビービービービー鳴りやがる!
「うっせえわ!」
ガシャン!
「ぐはあっ…」
悶絶した。警報音を切ろうと腕を振ったら、ローテーブルにガツンと肘を当てた。これまた綺麗に入れた。「なんで、こんな所に…!」と、じんじんする肘を押さえて涙目で周囲を見た。らぁ、散乱する土産物に思い出した。 …しゃーないな、俺が置いたし。寧ろ、落ちた時にクリティカルしなかっただけ良かったんだろ。
ビ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
…鳴り続ける現状が普通にクリティカルか。
まだじこ〜っと訴える痛みを無視し、何もなかった振りして立ち上がる。止まない警報音を今度こそ切る。それから室内を見回す。ローテーブルと土産以外は何時も通りである事に頷き、拾い集め〜 るのを止めて、指をくるりと回して散らかしたブツを整頓。誰も居なくても、カッコつけてソファーに座って足を組む。
指を鳴らしてスマートにディスプレーを起動、連動で大型モニターを宙に引き出す。音声入力でスクリーンを稼働。サイド画面がシフトされているのを見て自画自賛する。自分の仕事の出来栄えにニンマリする。ザルいセキュリティなんざ組んでねえっての。
「そんじゃ、原因を見てやろうじゃねえの」
安眠を妨害し、負傷した恨みをがっつり込めて原因を見付け次第握り潰してやろうと鼻を鳴らした。
「…かしいな? 外装に問題なし、鏡面も問題なし」
設定から考えると警報の第一原因は外部からの攻撃… なんだが? 確認にあちこち飛ばすが、どこを見ても特にない。
「ナンか… ちっと大きなゴミでも当たったか?」
外部からの攻撃となる犯人像にも心当たりはない。そんな奴は浮かばない。変な敵を作った覚えもない。
「まさか… あいつの巻き添えじゃないだろな? あ、待てよ? 巻き添え路線よか、随分前の〜 あっちかあ?」
家のセキュリティーと現状を把握すると答えが出ない。本気で思い当たるモノがないから誤作動の検討を考えた時、オート処理で任せてた地表センサーに ピコン! と検知反応が出た。
「あ?」
意外や意外の内部発生に驚いた。
発生場所を特定し、フルに広げて映し出せば、某大陸のやや下方に発生源を示す点滅がピコピコとちらつく。出たアラートの速さに比べ、場所の特定に掛かった時間が遅いのでシステムの見直しと再構築を検討しながら、アングルを調整しつつ複数面映し出すよう切り替える。
「…ここになーんかあったっけか? えーと、この辺の〜 上空は〜 違うな、穴の類はないなぁ。 うーんんん?」
不審に首を捻りつつ、点滅ポイントの周辺も確認するが特に問題ない。
位置的にナンか思い出し掛けたが、ナンだったっけか?
「しかし、俺は本当にできる男だ。常に理想と現実は違う… だが、俺は思い描く理想を理想のままに具現化した男! はーはっはっは!!」
画面上に映し出されるあらゆる角度の風景に、その中を悠然と飛ぶ飛龍が小さくなっていく後ろ姿に! 我ながら素晴らしい出来だと踏ん反り返る。ああ、自慢の出来だ!
うっとりしてたら、それなりーの雰囲気を持った家が映った。一発で上級種の家だと判断できた。そんで、内部の一角に結界が張られているのも見て取れた。
「あー、あー、あー、あー 調子こいて馬鹿がなんかしたんかよ」
またかと思えば嫌になる。
「かあ〜〜っ」
自分でまたかと思った事で過去の出来事を思い出した。気分はがっくり。だらけたい、放置したい。が、アラートは見過ごせない。指を弾いて画面の一つを弄り、内部への接続にちょいと連結をガチガチ食らわせて画像の鮮明度を引き上げ。
「はぇ?」
俺の思考は真っ白になった。
映し出された部屋の中で子供が泣いてた。いや、ガチ泣き一歩手前の泣きっ面。その子を複数人で取り囲み… 慰めて? る? んだろうな。必死か決死かわからん形相で話し掛けている奴と、近くで顔を微妙に引き攣らせて結界張ってる奴と。
「あ、今は此処に居んのか」
一つ、状況を把握。
こいつが居るなら話は違う、対応に幅が出る。
良かった良かった〜と喜んだ束の間のほっこり気分を突き抜けた光。他人の、光。
輝く、黒い加護。
それがぐるぐるぐるぐる内部で高速回転を始めて燦然と輝き出し、ぴっかあーんと光れば! 黒い加護に浮き上がる力強い達筆。でかでかと『俺んちの子』と書いてあった。
「はい?」
口を開けてボケた。素でボケた。
『俺んちの子』
って… え? なんで、『俺んちの子』? って、その子… 誰? なんで此処にいんの? 君、ドコの子? って、そうはいはい『俺んちの子』だったねー。 って、ちがーーーーっ!! そうそう、違う。あーもー、セルフツッコミはアレだからさせんでくれる? 大体ね、なにその書き方。普通は名前を書くでしょ? お名前は、きちんと書かないとわからないでしょー? つか、ナニ考えてんのこの子の親。名前書くのに特殊文字って… そんなん読めんの限られてるだろ? 普通に読めるの俺らだけだろ? それをわざわざ『俺んちの子』って… 馬鹿か、こいつ?
あ、やべ。
泣き出しそーな僕ちゃん、ごめんね? 普通、自分で名札に名前を書くならそんな書き方しないよねー。ちゃーんと自分のお名前書くよねえー。うん、俺が馬鹿って言ったのは〜〜 書いた奴で君の事じゃないからあー。
ナチュラルに親をディスってから、天を仰ぐ。俺の上に天は無い。天であるのは、この俺だ。そして、実質あるのは家の天井だけだっつーの。
ぐだぐだ考えながら席を立ち、居間を出る。
来客用モニターでできる事は限ってあるから、これ以上は仕事部屋に行かないと話にならない。起き抜けの一杯も飲んで行こうと台所に足を向ける。
コトン。
「せーいっと」
グラスをサイドに置いてから、どさっと専用チェアに体を収める。ゥインと起動し、定位置でストップ。宙に浮く感覚で意識が仕事モードに入る。チェアの起動と共にスリープモードが一斉に解除される仕様も俺的には結構やる気が出る。手早く繋ぎ直して映像を確保。名前の箇所を、更に部分拡大。
「ぶぅううっ!!」
バチッ!!
吹き出すと同時に、勢いよくコンソールの一つをぶっ叩いて映像をぶっ千切った。
ばくん!!と跳ね上がった心臓を宥め、一気に引き上がった心拍数と血流に落ち着けと言い聞かせ、言い聞かせで言い聞かせて! 唾を飲み込み、今し方見た物を脳内再生。
「最初の… そうだ、最初の単なる見せ場的な」
よくある最初の印象操作と呟きつつ、そっと映像を入れ直す。大丈夫、今度は心構えしてますよって。
再びの確認でも変わらなかった。
「本気かよ」
思った以上にシュールな声が出た。
どうして名札にここまで力を入れるのか?
俺はやらない。つか、やった事ない。だが、やってたダチも程度もんしかやってなかった!!
呆然と見ても見ても見ても現実は変わらない。
「常識を考えろ、常識で考えろ」
やるなら他にやるもんあるだろがと思いつつ、ボソッと呟きが零れても変わらない事態に自分自身を顧みる。
我が家を作り、維持管理する己は弱くない。良い感じで作り上げた家は他人に見せても恥ずかしくない、俺の持ち味が出た自慢の家だ。当初予定してた完成型には達してないが、それは途中でやめたからだ。何事も余裕がある方が良い。整然感が雑多感に思えた時点で失敗だしな。途中で俺好みの距離感を実感できたから、設計を変えた。 …まぁ、オープンにしてないからあんまり自慢は関係ない。
「拙い。何秒チャージだ、これ」
光点が周囲に散り、パワーチャージを始めた。
冷静に呟き、即座に停止させるべく周辺一帯を閉鎖空間にしようとモニター上から指定範囲を丸囲みして、決定しようと… しようと… して、躊躇う。
ムカつく事に、この俺が躊躇う!
今まで気付かせなかった。
アラートを響かせる突き抜け具合。
その癖、繊細な制御。
力が強ければ余波も又、強い。どうやってもある程度は漏れるもんだ。その余波そのものを完全制御する。ある意味、非常におかしい。上手だと思うがおかしい! 流す道筋を固定化するのは手法としては理解する。
『流して逃がす余波を逆利用して循環還元させる』
もちろん、意味はわかるとも。
逆回転で高質量を生み出す暴走状態に落とし込んでから、安定させて常態化に持ち込んだ揚げ句に端末浮遊の出し入れ可とかしてやがるのも見えてんよ! んだよ、その面白暗黒玉手箱は! ああもう、ちょっくら混乱箱になってんなあー!
まっずい事に俺がわからん。俺の見方がなってない? まーさーかあ〜〜 この正解形がおかしいだろ。
「真逆に落とし込むなよ、理屈に合わねえ」
どうして通常でしないのか? 途中まではわかる、確かに理解できる。俺は馬鹿じゃねえ、馬鹿じゃ家は作れねえ。だが、その後に続く流れが見極められない。過剰分を差し引いてもわからない。大体だな、飛び出させた末端がどうしてここまで力を出せる? 普通は末端だから限られて力が落ちる。それなのに落ちる所か一時的にせよ、本体より超高質量の力を放出している。送受信設定端末じゃないでしょーが、これ。ガシガシガシガシぶん回してんじゃねーの! どーしてそっちに回んだよ!?
そんな事したらだ、普通は式に破綻が起きる。絶対どこかで無理をさせてる。
「あれをこう動かすと、ここで破綻する。かと言って、そっちに回すと今度はこっちが破綻。併用だと」
瞬時に頭を回すが、どこかが違う。説明がつかない。ナニかが違う。しかし、俺の理解が追いつかなくても確かに此処に存在する。 …でも、考え出すと楽しい。読み解いてやろうと刺激を受ける。うっすらと見えてくる形に掴み切れない、このもどかしさ! もうちょっと、もうちょっと時間をだなー!
「計算式が合わねえ… これで突っ込んだら、くっそ あーーーーー!!」
燦然と輝く、俺んちの子。
閉じても、突き破られそう。
賭けに出て、賭けに負けたら。いや、この時点で負けそうな。 …ああ、既に負けてるか。
ふ、ふふふふ。わかります。
そちら様、俺とは階級が違うんですね? 『俺』でわかれ、なんですね? ナンかあったら『俺』が出張るぞ、なんですね? 階級によって異なる臨界点や極点を遊びがてらに超える事ができて当然の、半端ない力と頭を有する者だけが行使する事を許される『俺様』で、ございますね? はい、ちゃんと理解しました。ええ、もちろんです。
俺はできる上に読める奴ですから。
深く頷いた所で、伝送路が繋がろうとしていた。
「いやあああああ!! やぁめぇてぇぇぇっっ!!」
死にそーな勢いで泣き止む事を願い、居合せる者達に声援を送り続けたった! 下手して痕跡を残す愚は犯せんから、声援を送るしか手が無かった。
こんなもんを遮断したらバレる。絶対にバレる! バレたら最後どうなるか? ご家族宛てのヘルプコールを遮った。それは監禁か、軟禁か、幽閉か、缶詰か!? ああっ、どれだと思われるよ!!
どっちにしろ、相手の受け取りは最悪に決まってんじゃねーか!! 発信しちゃったのを遮り落としたら! 心配して向こうがやって来たらどーすんよぉおおおお!!
それでも少しでも時間を稼いでた。必死と決死が混じり合う中、黒い影を感じながら周辺に圧力を加えて抑えて地味にチャージ妨害してた。この程度なら、妨害ではなく家の安全点検と言い張ったるわー。そうだ、そっちがこっちの力を盗み食いー してねえな… どんだけ、ぶん回してやがる!!
心中で赤と青の点滅を繰り返す中、俺の真実にして事実の切実なる聖なる祈りが通じたらしく、繋がらずに済んだ。寿命が縮んだ… 本気で縮んだと思う。
深く深く沈んで休みたい。
そう願えばチェアが変形していく。ゆらゆらと包み込まれる安堵感。良い仕事に動きたくない・見たくない・何一つとして聞きたくないと死に体を装う右脳を左脳が『早く保身を考えろよ!』と半泣きで揺さぶり説得する声が聞こえるが… 俺は、俺は…
『次に繋がる前に確認するんだ! あらゆる事を想定しろ! 階級が違う相手になんて言い訳するつもりだ、おまえぇぇぇ!!』
「ぎゃああ!」
左脳の論破に我が身の危険を感じ取って、飛び起きる。
確認作業を開始。
指を滑らせ、現状の接続先から住人基本台帳を掘り起こす。二度手間を避ける為に、時間を大幅に遡る。スクロール、スクロール。名前と年代でぶちぶち区切り捲る。
「…だっ!? やべっ!」
複合作業に手空きを呼んで過去の方から手伝わそうと、チェアを揺らして呼び出しに手を伸ばしたらグラスに接触。腕を伸ばして落ちるグラスをナイスキャッチ! 流石、俺。バランス良い〜。しかし、片足あげた変な横倒れの姿勢が股関節をキメて泣きそうになる。
「ぐああああああ…」
フィン…
自由自在のチェアが時間差で傾き戻って助けてくれた… もう少し反応速度を上げるべきか?と考えながら中身を飲み干す。
「は〜あ」
脱力したら、何や背中が痛い。捻ったかあ?
あの子の様子を確認すると少し落ち着いたらしく安心した。だが、油断大敵。突然、泣き出されたら怖い。子供は脈絡なく泣くからな! と、思ったら疲れたのか寝始めた。
良い子だねー そうそう、寝る子は育つだよ〜 怖くないから、ゆっくりおやす ん? 寝て る、よな?
寝付きは良かったが… 妙に寝顔が怪しかった。画面に顔を近付けるも、「ここだからあー!」といきなりナニかの絶叫が割り込む。喚き続ける乱入者にものすごく嫌な予感がして、そっちを大きく取り上げる。これまた系統が違う点滅の光が目を射る。
「…ふ、ふふふふ」
物事を理解し平行に推し進める為に、俺の自慢の最終シリーズを呼び出す事にした。
手早く確認し、あの子の私物っぽいのは一時的に黙認した。機能は不明でも発する力は家のモノ。これが外力であったらば、大問題で即座に潰すが… 「ここー、ここーー!」と、あの子を呼んでるのが痛い。地味に痛い。家の中に響く子供を呼ぶ金切声なんて、真面な俺には耐えられない!! そこへ向かっている奴らに早く手にして黙らせてくれと、これまた願ってる。
そして、そんな事より問題なのは。
あの子の言動と台帳から一人に絞って追跡したが、此処をホームにしていなかった。情報、薄過ぎ。直接繋げるのは可哀想かとホームと思しき方へ繋げるも、転居組。苛っとした。無理やりでも直接繋げて情報を引き出してた。そしたら、まぁまぁ体に負荷が掛かって良くない感じ。しかし、四の五の言ってる暇はない。今回の主犯は絶対お前だろと無視って引き出し続けるが、こいつ速度が遅い。非常に遅くて苛々してくる。そしたら遅いのに、なんでか体内上昇を引き起こし始めた。この時点で三分の一にも達してない。
「根性ねえな」
発熱の前兆に仕方なく切った。
結論。
必要な所は取れてた。
うちの子が他所様の子を喚んでた。
どうやったと思うが、それより「なんじゃそらー」な形で帰してた。その場面は、(何度も+何度も)x5に画像再生停止・コマ送りをして確認したから間違いない。
その時、この子はなんにも付けていなかった。それが今、きちんと守り札を付けている ってぇ〜 こ・と・は、だ。黙って遊びに行って酷い格好で帰宅した。どう見ても一人で転けた傷じゃない。そこで、ご父兄は次の安全対策を講じたと。
イコール、「俺の子に怪我させたのはどこのどいつだ!? 引き摺り回して同じ目に遭わせてやろーか、糞がぁぁあ!!」ってな話になんね? 俺ならやっちゃいそーなんだけど?
判明すれば、タコ殴り。
未来の自分の姿を幻視して、ふらあっ… とした。
後ろに倒れた所で問題ないが、そのまま逃避してしまいそうなのでチェアから立つ。
ウィン…
態々設定したチェアの浮遊音が聞こえる中、『もう、とっくに判明してね?』と聞きたくもない指摘が聞こえる…
俺の家が此処だと判明してるなら、後は特定作業で居場所を割り出せば終わりじゃね? 俺個人はまだでも、我が家=俺で終わってんじゃん。こんな階級の違う相手が見逃すか? 見付からなくて捜すのが煩わしくなれば… 家ごと強制終了。
絶対、できるじゃんか。
あちこちに飛ぶ思考が纏まれば、世界が白く… 頭も白く… やっぱり、ばったり倒れ…
ビー!ビー!ビー! ビービービィィィイイイイイイ!!
「またなんだあーーーー!?」
られずに、再覚醒した。
画面を埋め尽くしてくる人様の力。間違いなく、ご父兄の力!! 俺様的な力があー!! だが、こればっかりは許せるか。ここは俺の家だ。んで、俺が家主だ。原因が何であれ、強襲など返り討ちにしてくれる! 舐めんじゃねぇぞ!
家の中に広げてなるか、一気に取り纏めて片付けてやるわとゴミ袋を広げたら。らぁ〜 初めて見た他人様の力に、うちの子が大興奮してた。大喜びで真似して遊んでた。んで、ぶん投げた。うちの子の力が真下からぶち当たる。当たったゴミが盛大に弾け飛んだ。
「なにしとんじゃあああああ!!」
怒っても、きゃわきゃわ興奮してて聞きやがらねえ。
「こっちは片付けてんだぞ! それを片っ端から… おま、こら! ちょっとそこで大人しくしてろと くおら、止めんかい!」
遊びに夢中で聞いちゃいねえ… 楽しそうな顔に俺の中でナニかが芽生える。しかし、広げたゴミ袋も邪魔で 違う、これを放せばどうなると! 両手が塞がってて殴れないのが辛い所だが感情的に殴れないのが良いのかもしれんのが辛くとも正しくて正しくないよーな気が、ああ、もうよくわからん!! いや、わかってるけど!!
「だっ!」
目眩し的に広がる力。
濃度は薄そうだが冗談じゃない。
「は、そうくるか。こうなったら」
ゴミ袋を閉めてたら、様子が違った。形状からして道ができた。単なる通行安全にも見えたがルートの作成は冗談でも断るからグレネードでもと出すが、真っ直ぐあの子へ繋がってた。困った。
あの子、やっぱり外に出てたんだ?
子供の送迎と思しき状況に、親に何を訴えたのかと危惧する事態に! うっかり、迷った瞬間。嫌がらせか、裏で力を飛ばしやがった! その力を追って、家の中から似た力が小さくも鋭く閃き… 家の中に傷跡を残す。
「待てや、ごらあーー!!」
怒鳴ったら、直ぐに消えたが他の場所でまたやった。キラッ、キラッと光っては消える。 …その補修を誰がすると? ある程度、自動で直しはするけどよ? てめ、その刻み目ぎざ目じゃねーか! 傷がしつこく残る一番厄介なタイプじゃねーか! が、が、が、があああああああああっ!!
とりあえず、とりあえず、とりあえず、とりあえず!! 事態は収束したらしい。送迎の序でに他人の家でやらかして行くとは…… 何と言う、非常識! もう二度と来るなよと大声で言いたいが、見上げる先の、ちょーーっと遠くで見える、珍しいタイプの、距離感を疑いたくなる大花火を眺めてる。
炸裂音は凄かった。
ちょいと通じてた所為か、よく聞こえた。ちゅどーん!からのどどどどどん!て。
「あー、綺麗だなー どんだけ注ぎ込んでんだろ、景気いいなー すげえなー、久しくこの手の見た事ねえやー はっはあー」
何か知らんが祝いだろうか? そう見えなくもないが違う気もしてる。多大にしてる。余韻が暫く残るだろう艶やかさに… 純粋な賞賛と基盤の違いを思い知る。手順とやり方とその他がわかる分、余計な事を考える。
綺麗なモノを綺麗だと眺めるだけで、少し… しんどい…
だが、まだ終わりではない。害獣を駆除せねば! 家を荒らすもんを飼う趣味はねぇんだよ。
「判明、こちらです」
「出たか」
部屋に戻れば探知できてた。そしたら家の中に居るとも居ないとも言い難い、判別の難しい形態であの子に紐付けされた場所があった。こうなるとギリギリで許容範囲とも言える。
俺の家とは、また違うミラーシールドの展開に頭が痛い。ちょっとだけ、ぷるぷるする。いやもう、ずっとしてる。俺の家に、許可もしてない他人の力が。
あれ、絶対仕込んでね?
今後の為に、嫌味の為に、程度を測る為に、見続ける為に 絶対、仕込んでね? いや、表立ってはしないか。そんな事をすればあの子の立場が危うくなるだろ。そう、だからあの形態を取ってんだろし。
少しだけ。
少しだけ、相手の常識にほっとする。
しかも今回の事はセキュリティー問題ではない。そして、ご父兄とは顔を合わせてない。普通なら失礼に当たるそれが… あの花火を見ると、配慮と他のナニかを感じる…
「全シリーズに家の中を調査させるべきかと」
「そうだな… だが、少しじか」
時間を置いてと言い掛け、噤む。即座にすれば塩を撒いたになってしまうが… 時間を置く、だ? 家の中に他人の力を蔓延させる? 他人の、力を?
他人の力が付着… いや、潜伏状… 態? 潜伏期間を設けるだと? 俺のセキュリティーの問題では… ない? ないが、そうではないだと!?
「おい、あれが入ってきた辺りをだな」
「倍率を上げた映像が、こちらです」
外装が汚れているのは良い、外装だから。しかし、そこから内部へと通じる〜〜 薄い、妙な、抉じ開けてはいない… ような が、確かに他人の力の痕跡が。その色が。
愕然と集中と無心で眺めたら痕跡が小さく蠢いた。そう、動いた。うにょって。他人の力が家の中で。家の中に? 内側で? 他人の 他人の 他人のぉおおおお!?
き、気持ち悪い… 激しく気持ち悪い!
「う、うああああああ! 窓窓窓窓窓、窓全開!! 窓に閉じ込め窓を捨て去り窓でまるっと掃除だあーーーー!!」
「え、丸っとですか? 展開は兎も角、窓の締結は少々時間が必要ですが。それより、あの手が集まる吹き溜まりと設置済みの罠を見回らせ「総入れ替えの総取っ替えだーーーー!」
「…了承した、我らが主人よ。新たに窓を引き出し、その中に既存の窓を廃棄して窓ごと滅します。滅すると同時に新設の窓を展開、正常に戻します」
「おう、そんでそれが終わったら色々すっから」
心臓が恐ろしく高鳴る中、落ち着けとグラスに手を伸ばすが空だった。辛い。お代わり欲しさに別のを呼び出そうとしたら、「みゅーが報告に来ます。その際、持って来るよう指示しました。お待ち下さい」とできる返事があった。あ、脱力。
俺の安全と安心と健全は俺に掛かっている! もう、やることが山で寝る暇なんぞ考えられずに 辛い。
「あああ、疲れたあ〜〜」
窓の新設はどうとでもなったが外装が拙かった。現場に出たら、自慢のミラーシールドが部分的に蒸発してイカれてた。即、機能が働いて表面上はイケてたが内部は燻って未だに力がバチバチやってた。忌々しい… だが、俺の自慢のシールドだからこの程度で済んだのかと思うと〜 ガチの本気でなくて、これ? まじか?
「しかし、想定外だ」
イカれた以上に見逃せないクラックができてた。
わかっている事だが守る側は常に厳しい、だから実力が物を言う。衝撃は吸収系で取り込むのが早いし、それで倍返しは楽しいが… 混ざりってのが俺は好きじゃない。わかってる分は良いんだがぁ〜 当たる直前の無効化も良いが映えないし〜 つか、あれ処理速度で問題が他に飛ぶんだよなー。やっぱ、俺の場合は一度当たった方がましかぁ。その上で平然と佇む姿ってのもイイしな。
なのに、あのクラック… があああああっ!
「絶対、あそこからやる気だったな」
本気で忌々しいのと怖いのと興奮で感情がぶれる。から、興奮を上げて他は逃す滑らす震えて落とす。これが基本だ。そうだ、その上で立つのが俺だ。スタンスは変えない。後はシールドの向上をどうするかだな。
「ま、綺麗になって良かった。ならんかったら意地でも報復してやるけどな。あの子もうちのも問題だが優先順位は家の防御だ! サクサク改良して、それからだ!」
気勢を揚げたら腰にキた。グキッて鳴った。 …やだな。
「ちょっと、休も。起きたら、情報確保に連絡入れて〜 いや、拙いか? 足が付くか? うー… ダメだ、一度寝て そうだ、あれしよう! んで、タイマーっと」
家主は一時の休息に時間を決め、目覚ましを掛けてから午睡に入った。午睡も有効に使おうと未来視の活用を決めた。
そうして、一つの夢を見た。
普段とは違う分岐の一つもない夢は何かの妨害か、午睡の時間が短過ぎたか。
どちらにせよ、不可避の未来を透かし見た。
それは。
『ひよぴよ、ぴぴぃ! ぴよぴよ、ぴぴぃ! ぴーよ、ひーよ? ぴぴぴぴぴ? ぴよぴよ、ぴぴぃ! ぴよひよ、ぴぴぃ! ひーよ、ぴーよ! ぴ? ぴ? ぴぴぴぴぴ? ぴぴっぴ、ぴぃいいいいいっ!!
…ぴ? …ぴぴ? ぴぴぴぴぴ??
……ぴーぃ♪ ぴよひよ、ぴぴぃ♪ ひよぴよ、ぴぴぃ♪ ひーよ、ぴーよ ひよぴよ、ぴぴぃ ぴよ、ひよ、ぴぴぴぴっ ぴ〜〜〜〜〜ぃ♪』
オープニングから、とても可愛らしいひよこの冒険動画だった。BGMは『ひよぴよ冒険行進曲・一人歩きは危険だよ』である。主人公のひよこが周囲をキョロキョロしながら歩き回り、駆けてみたり止まったり、真正面から飛んできた大きな虫に顔面強襲されて悲鳴を上げたり。飛んでいく虫の後ろ姿にときめいたり、自分も勢いよくカッコつけて飛んでみたりと警戒心皆無で遊んでいるだけの至極平和な内容だった。
「ひよこ、かわいー」
夢の中で呟けど、何を暗示してるか皆目見当も付かない。なれど、自分の力を疑ってはいない。平和なだけにじわじわと広がる胸騒ぎと、ひよこに妙な既視感を覚えるが思い出せない…
寝てる間も休息とは程遠い家主がいた。
全国の『ひとり情シス』さん、おつ!
うちの家主は似てるよーで違うと思われ。
このベースは2014年に書きました。
どうもそっちに引っ張られ片仮名やルビにその他がアレな感じになりましてん… 当時を思い出すと懐かしく、年数の経過が恐ろしく… うにゃーあ☆