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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
196/239

196 異なる場所の、遠くて近い貴方に手を振った

本話、最長。副題も、最長。



 あれもこれもと見ているアズサと店内の品々を眺め、店の程度を測る。が、さっきの出来事が頭から離れない。不意打ちでぐったりした姿は見るだけで色々やられる。


 「また暗点が!?」


 焦って叫んで狼狽えたが、よくよく考えるとおかしかった。あの状況に俺が持っていけるかと言えば無理だ、できない。補助なくして、それができれば俺が倒れる。そんな理性の突っ込みは、アズサがげろっと転がるだけで道理と一緒に飛んで行く。


 心底、思う。


 あのお守りは素晴らしい。

 何時か気休めになるのだとしても、あるだけで俺が安心する。


 なんと素晴らしい波及効果か!



 しかし、原因不明が悩ましい。

 接触、吸収、濃度に速度… 自分の力を基準とし〜 


 つらつらと条件を選出するが、見ては首を傾げるアズサが微笑ましい。ほっこりした気分になって… 見ていた俺は馬鹿だ。産地も価格も品質も結びつかない上に、「思い切りが落ちた」と自己申告するアズサに任せてどうする!? 参戦しないと、何時まで経っても終わらんわ!


 物は悪くないが、流行を考えると少し古い物が多い気がする。四店舗回って、この現状。頻繁に買い換える物ではないが… 金の動きは、まだまだなのか。



 

 そんな事を考えてたら、上の空と間違われ、怒られて睨まれる。絞り込みに誠実に答えるべく立ち止まり、向かい合い、指折り数えて答えてみせる。


 「無駄を省く、支出を抑える、体を作れ。最も絞る肉がないと骨と皮、それは金にも言える事」

 「……ごめ、そっちじゃない方で」


 それ違うと、大きく顔に書いてあるから態とらしく声を上げる。


 「えー」

 「うそーん」


 力が抜けて、怒りも抜けた。だらっとした喋りに変えて、歩みを再開。肩を落とすアズサの体力の方が心配になる。


 「大体の予算を決めてきたのに」

 「…多分、君の希望には足りないと思う」


 「へ?」

 「それ以前に、あの部屋は一番の客室でそれなりですよ?」


 無意識に希望品質上げてるな。部屋で多少は目が肥えたか、初めからか? 悩ましい。


 「…俺、そこまで贅沢じゃ」

 「それなりの物に、うーんうーんと悩み続けていましたが?」


 「え、それなり? でも、なんかあれ」

 「だから、それなりが」


 「…はれ?」

 「ねぇ、出して貰えば?」


 金を回さずに、隅々まで行き届く経済を俺は知らない。どうせなら、と考えるのは当然。


 「俺の買い物ですよ?」

 「シューレを出る時、持って行くの?」


 「あ〜、リュックに入らないかと〜」

 「持てるの?」


 「そ、の時は おま… ちが、えー」


 徐々に歩みが遅くなり、これは止まると思ったから先に周囲を確認する。道の真ん中でもないから良いかと思った らぁ〜、向かいから来る連中が真っ直ぐこちらにやって来る。避けようとしない。態々当たりたいのか、煩わしい。その格好で当たり屋か擦りかと思えば笑いたくなる。


 「寛ぐのに小さいとね? 見てる内にだんだん大きくなったよね? 言ってなかったけど、真っ直ぐ帰らない予定」

 「え、かえらな?」


 肩を抱いて大きく足を踏み出せば、「お?」と言いつつも流れに逆らわない。動きながら視線を巡らせ、「あ、ぶつかりー?」と呟く小さな声。基本、アズサは鈍くない。合わせなくても合う息は気持ち良い。


 「その上で大荷物はね? 此処に置いていく可能性、大。君のだから片付けるし、使われない。置きっ放しは死蔵と呼ばれる哀れな末路。使う事で艶が出る物もあるけど、敷物は劣化の一途。まぁ、簡単に傷む物でもないけどさ。 …一夏使って捨てる物なら良いけど違うし、君が使うも僅かな期間」

 「ぬぅ…」


 「あ、それとも直ぐに売りに出す?」

 「うええ!?」


 「上物の新古品は直ぐに売れるよ!」

 「ちょ、それなし! 気に入るのを買うんだって!」


 口を曲げるが狙い通りに響いたらしく、「むむむ…」と唸って考え始める。「備品の購入は経費だよ」と押してみる。「いやでも、それ何か… ちが」「客、客」「え、客が要求すんの?」「持て成しの極意は参考意見を取り入れる」なんて遣り取りしてると、また歩みが止まる。


 再びの停止に、すすっとアズサの背を押し端へ寄る。


 「先に帰る人に…」

 「たくはいサービスは…」

 「あれでこれを買った報告…」

 「やっぱ、貰った分を使った方が…」


 呟きを耳に、周囲に目を。

 何気なさで来た道へと視線を流す。


 さっきから気の所為と思える程度の視線を感じて、癇に障る。離れた位置から、人と目が合っても離さない鬱陶しそうな奴が居た。






 雰囲気を装いもせずに、行き交う肉壁(通行人)の間からガチで見てくる目がうざい。喧嘩売ってやがるのか?


 そうかと思えば、そいつの後ろに歩み寄る奴ら。


 当たり屋の連中と仲間かと疑うも何やら言い合い始めた。仲間ではないらしい。しかし、顔見知り程度の気安さは伺える。食い詰めたとするには、身嗜みもそこそこで悪くない。冴えない顔が性格であれば知らん。動きからして連中は今の俺と同じはず、それでこっちを見る理由。


 仕事に溢れたか?


 まさかな、割合できそうな奴に見えるしよ。最後の詰めはこれからでも、下の規制は解いている。シューレから出れないなら訳有りか〜 腕がないってか。


 ああ、そうだな。

 アズサに挨拶させたし、余裕があれば詰所に寄るのも良いかもな。 



 「なぁ、一枚なら持っていけると思う?」

 「本音で言うなら、他所にもっと良い物あるよ」


 行こうと促し、背を向ける。

 警告に鳴らしておくかと柄に手を伸ばし掛け、やめる。


 「え」

 「領に貢献するなら、此処で買って行くのが正解」


 「ちょっと待てや」

 「あは」


 馬鹿は警告を挑発と受け取るからな。そんな事で揉めたら無駄時間だ。今日という日は貴重だ。それにもし、あれが奴の援軍なら… 愉快なだけだな。ふ。


 「なんとゆーお試しをするのだ!」

 「だって、現在の此処シューレ基準レベルを話さないと詐欺になるかとー」


 「いやいやいや」

 「此処は、これから発展する。でも、大都市には向いてない。けど、本当の意味で過疎にもならない」


 「はぁ?」

 「元、王領だから」

 

 「…より、はあ?なのですが」

 「下賜されても、元と呼ばれても、此処は祈りの王の座所である」


 「…伯爵領ですよね?」

 「そうだよ」


 「…実績?」

 「うーん、少し違うけど同じかな。座所は静謐が望まれ、認められた場所である。信心と誇り、繁栄と利便。精神的充足で得られる幸福は物量で変わる。雑草魂でも、事実、傾く青息吐息。なれど、どんな無頼も奔放も、一時の敬虔は持ち合わせるもの。均衡者バランサーとなり得る者だけが、これからの発展を笑うのです」


 アズサがまた立ち止まり、小声でうんうん唸り出す。


 「せーやくゲー…」

 「それか特定のポイント…」

 「それとも、あれか? 永遠系の…」

 「元がそーなら、どんだけ汚く濁ろうとも聖なるほにゃららである説… 聖水で用水で水葬も当たり前の… 大いなる…」


 自答に沈黙を重ねると納得できる結論を得たらしい。


 「でもまぁ、何を言っても〜 座所の威光で街が寂れない説は見ての通り、現状では甚だしく」


 黙って、また肩を落とす。


 「うあ〜、勉強が山積みでー」

 「今、勉強してるから。ほら、小さな一山崩れたよー」


 「覚える違いがまだまだねー」

 「そうそう、それで何時しか常識に〜」


 事解の応援に笑顔を振りまき、道の先へと手を伸べて、同じ呼吸で足を踏み出す。



 「アップデート アップデート アップアップデートデート データは デートで くるっと回転、確認でーす。 あなたの更新、データのデート は なんじです〜?  俺は ちょーうど 今でしたー  構築ずーみの データを流す。 俺の場合は隣からあ〜 とろとろ どーんと 流れ込む〜」


 機嫌よく紡ぐ即興の歌は、俺に自覚と楽しさを告げる。同時に召喚者の心得が『それは単なる役目だ』と、色気も何もない平常心と義務と使命に号令を掛けるが、   それは懐かしい 昔の、期待感ときめきをも思い出させる。



 「そういやさ、人の喧嘩に巻き込まれそーになった時にさー」

 「うん」


 自分の獲物を取り落とし、動作的に重たいと誇示するのはどんな時?と聞かれた。馬鹿の話に顔だけで返事をする。


 「人は、何時でも ひぃなから〜  全員、仲良く初心者でーす♪ ひゃははははーい」


 歌って済ませる君は男前だ。



 



 「おおお、終に食べ歩きが実現となり!」

 

 どんな坊ちゃんだと疑われる台詞に、『打ち合わせなしに役所を掴むとは!』なんて思考で遊んでみる。


 「シェアシェアシェアシェア〜 もう直ぐ、シェ〜ア〜」


 弾む声と笑顔、自分の思考の至らなさとずれ。


 以前、同じ言葉を同じ意味で聞いた。同じであるのに、その時とは違う他人の万感が、自分の万感を呼び寄せる。感じ入る気持ちに、自分が馬鹿だなぁと思う。普通に嬉しいで良いだろうに。


 漂ってくる匂いに鼻を鳴らすアズサの姿。

 人の行き交う雑踏の中で、俺も 十分 締まらない顔してる。 絶対な。

 



 「あ、食べたいのあった?」


 通りに入って直ぐ、アズサが立ち止まった。じーっと見てるのは、肉の屋台。滴る肉汁がジュッと音を上げ、白煙と匂いを周囲に振り撒く。俺も肉で良いと思う。


 「あれ「なぁ、あれ買って」


 その言葉に固まった。


 「なぁ、あれ。あれが良い、買って」


 袖を引かれた。

 その行為にも固まる。


 目を向ければ、屋台に向かう目。見上げてくる顔。


 急速に溢れ出る感情が押し合い圧し合い鬩ぎ合い、俺を混乱の渦に叩き落とす。「俺が奢る」「宣言じっこー」「金はたんまり、困らない〜 なははははー」と繰り返してた言葉が更に渦の速度を上げてくる。


 鼻息荒く意気込んでたのが、この変わり よ、う?


 「兄さん、もう直ぐこいつが焼けるよー!」

 「あ」


 威勢の良い声に引き摺られ、そちらとアズサを見比べる。何かおかしいアズサの顔に、「じゃあ」と指で示すも動かない。行こうとしない。


 「 (やく そく)


 呟く、静かな目。

 何も映してない、何時か何処で見た顔。

 

 衝撃を、受けている自分。

 何故?が巡る。


 静かな顔は意志が抜けたとも… 誘導時の抜け落ちた… え、どうして今なる? 誰が何をどうやった!?

 


 空回る疑問に心が縮み上がれば、俯き加減のアズサの目がキラリと光った。俺の直感が絶叫する。


 『やばい、試されてる!!』

 『予定を話さなかったの、不審火なって燃えてんぞーー!?』


 直感の周りを良心の呵責っぽいのが飛び跳ねる。

  飛び火が裾野を広げ、ぼうぼうと盛大に延焼し、収拾がつかな く、なる…  恐怖。



 「買ってくる、そこに居て」


 反射で動いた。

 約束が何かわからなくても、動く! 動け!

 

 こんな状況で「え、なんの?」と呆ける度胸はない。

 そう、黙って買うのが男の度量で甲斐性で! そうそう財布に優しい、この程度!


 「親父、二つ頼む」

 「あいよっ!」


 金を払いながら『約束、約束』と反芻するが思い付かない。アズサとした約束はある。あるが、あれは奢る奢らないとは次元が違う。他、他には…   い、意趣返しで良いんだろうか? そうだよな? 他にないからな!?


 振り向くのが怖い、どんな顔で…


 「待っとうさん! 熱いからよ、気ぃつけてな」

 「ああ」


 あ、でも。

 そうだ、もしやこれで。


 これでさっきの事をなかった事にしよーとしてくれてるのかも〜 だって、アズサは優しいしぃ〜〜。



 「はい」


 その場から一歩も動いてなかったアズサに、にこっと笑って大串を一本差し出す。気分は貢ぐと供えるを合わせた神物だ。しかし、その時になって『護衛、失敗?』と『仕事の範囲』が互いを肘で突き合う。


 穏やかな協議により、仕事で可とした。



 差し出した肉も見ずに俺を見上げる目は、俺を見てない感じもする。しかし、焦点は合い瞳に俺を映してる。


 違和感。

 強い違和感と既視感。


 アズサは、何を見て…  違う! 馬鹿か、俺は。俺だ。


 俺の視点だ。

 俺は、何を見てる?


 

 「ん」


 両手を伸ばして、そろそろと串を掴む。


 違和感。

 アズサでない、違和感。


 でも、アズサで。


 串を握った手、着けた手袋。革手ではないから、汚れたら。


 思考が入り乱れる中、ゆっくりとした動作で肉を見て。

 見つめる目と口が緩やかに笑う。少し遅い動きで、あーっとしたら肉をがっぷり。


 ふにゃあと笑った。



 『ぎゃーーーー、かわいぃいい!!』

 『誰だ、こいつぅううう!???』


 両極端な思考が飛び出て絶叫し、激烈な動悸がした。跳ねる動悸に目眩いがするが、倒れる暇があるなら今の姿を見ていたい。寧ろ、凝視の一手で目が離せない。


 笑顔の咀嚼に感じる違和感。


 膨れ上がる喜びが違和感の首を絞め、「そんなんどーでもいーわ!」と叫んで引き倒す。そこに疑問が走り込み、「違うだろー!」と引き剥がす。理性が「審を告げよ!」と平定を叫び続け、俺の動悸と悶絶が向かい合い、両手で互いの肩を掴んで「平常心!」と繰り返す間に違和感が息を吹き返す。


 よく考えろ、アズサがこんな顔を…  いや、してるけどな? してるけどな!? 


 おかしいと否定したいが目の前の現実に溢れ出す幸福感は止まらない。肯定感が強まり、広がり、取り巻いて、違和感に消えろと…   良いのか、これ?



 「ありが とー」


 片手と指先で串を持っての噛り付き。食べながらでも、確かに聞こえた。その声に疑念は淡雪と消え、心が震える。酷く心が揺れる。自分がわからない、礼なら他でも聞いているのに。


 「ん? …あり?」


 ゴクッと肉を飲み込んだ後の一声が違った。

 いや、違ってない。


 「もう買ってきてくれてたんだ。あや、礼を言う前に食ってる? わりー」


 面白い言葉に口角が吊り上がる。


 心に不和が生まれて、生まれた二つが声を揃えて互いに向かって叫び合う。どちらもが『それは違う!』と叫んでる。だが、現状を戻ったと認識する俺は…  認識、だと?



 「…? どした?  食べないん?」

 「あ、いや。食べるよ」


 その場で肉に齧り付く。

 舌に広がる焼けた肉と脂は美味かった。


 「美味いね」

 「だあねー」


 何時もの笑顔に安堵と不安が込み上げる。それらを笑顔の下に押し込め、残りの肉を食らって串を脇の木箱に放り込む。


 


 「うわ、歩き食いでこっちくんなー」

 「しぃ、あんなのと近付かない。それより、あれはどう?」

 

 嫌そうな声でぼやくアズサを引っ張り、次を買い込む。さっさと金を払って、同じ現象が起こらないものかと繰り返す。


 「俺も出すのに」

 「まぁまぁ、買い物はこれからだって」


 「それもそうだ。む、うまー。肉と野菜の薄焼き包み、うまー」


 アズサの口に合って何よりだが違和感は発生しない。普通にない。さっきのは何だったのか? どうしてだと思う反面、がっかりしている俺がいる。そして、それを表に出すなと自分で自分を圧してる。


 言葉と笑顔が俺の中でぐるってる。それをアズサに重ねて、違うと…  視点を変えろと思うのに嵌まったのか抜け出せない。




 「うわあああん! あれ買ってー!」


 雑多な音で賑わう通りに、子供の金切り声がよく響く。


 「買っていいっていったあー!」

 「それは昨日、今日はもう買ったから! ほら、これ」


 「それ、ちがあーーー!」


 慌てて宥める親を物ともせずに泣き叫ぶ子供は抱き上げられ、嫌だ嫌だと暴れても素早い親の歩みで声を残して遠去かる。


 「あーゆーの、見てる分にはかわいーやねー」

 「そうだね、見てる分にはねー」


 二人で軽く笑って小さな嵐を見送ってたら、「け、うるせえ」「躾のなってねー親だぜ」なんて声が聞こえた。声の主が横切るが普通に大人の二人だった。手段を持たない暴力は哀れむべきかと、愚かしい事を考えた。



 「でも、花火は上がんなかったなー」

 「は? ああ、火花」


 「はれ? 違ってる?」

 「違ってる。それと、有るか無きかで散ってたよ」


 「ええ? 俺、見てないよ」

 「埃みたいなもんだから」


 「うっわ」


 可愛らしい要求劇の終わりと、その感想を肴に食い終える。そろそろ水分が欲しい。


 「夜だと見えたかな?」

 「見えたかもね」


 「子供の盛大な夜泣きが一斉に〜」

 「ぷ、そんな顔で変な期待をしない」


 「だってさぁ〜」

 「子供の夜泣きで世界が崩壊するなら、遥か昔に滅んでる」


 「いや、滅びまで持ってかなくても」


 そんな想像、するだけで笑える。


 何気ない日常の、よくある親子の会話。あの子も適当に忘れていく、それが当たり前の成長。昨日は過去でありながら、あの子の中ではまだ過去になってない。それは成長の証でもある。買ってくれると言った時だけが切り取られ、その時が今も心の中で続くあの子供の「あの子、なに買って欲しかったんだろなー」


 似た様で、違う先の言葉に可愛らしい思考を終える。同時に、納得しなかった子供の頃の自分を想うがそれも終える。何か飲むかとアズサを見遣って、突然、俺は理解した。


 過去は不動。

 日常は提起。


 理解は暴力を伴い、俺の頭を殴り付けた。衝撃の裏で鮮やかに思い出すのは、君。



 君の、声。







 「お、ベンチはっけーん」


 前に行った市場へと続く短い食い物ロードの終わりには、ちょっとした広場。ベンチはあってもテーブルはない。そして広場を抜けて行く、人・人・人。はい、単なる通過地点ですね。あの賑わいに比べると此処は裏通りでぴったりですし。しかし、市場の混雑を考えると〜 ここで食べ終えたほーが良い気がしてきた。言いたくないが、ちょい疲れてきてる。食ったんで徐々に回復すると思うが、最初に体力取られたのが痛い。この頃、運動してないしー あー。


 「なぁ、あそこでちょっと休も、 う?」


 しかし、できたらあっちもこっちも行きたいのですよ! だから、まずあそこで休憩入れて〜 と、思ったら返事がない。隣が居ない。


 「…あ?」


 居ない?

 居ないだと!?


 「れれれれれっ!?」


 こんな所で迷子は勘弁!!


 焦って見回せば、発見! 食い物ロードに置き去りモード! 大急ぎで戻りながら名前を呼びそーになって、out。はい、今日の禁句は『ハージェスト』でーす。しかし、偽名が舌に乗らず。もう走り戻れの戻れは走りぃ〜。


 「ごめ、なんかあっ…  た?」


 俯き加減で反応がない。から、覗き込んだら自分そーしつしてそーな顔に青を潤す水の膜が見えて右から雫が一滴と左の雫が〜〜  ぎゃああああ!!


 「あ、ちょっと目が… いや、目に あ〜、何でも… あったけど、もう乾くから」


 音もなく生まれ落ち、足元にできた小さな黒い染みに俺ののーみそ真っ白的な何かを生むが、あんたそんなゆーちょーなななななにをうおおいっ!!


 勢いよく振り返ったベンチは、まだ空席。問答踏破の引力を発揮。「驚かせた、ごめ。もう平気だから」なんて聞こえる言葉を「そかそかそかそか」と適当に聞き流し、腕を取ったまま座ってお前も座れと最大に。


 一蓮托生の引き摺り落としは成功です!



 一息二息三息で俺の心臓、落ち着きました。周囲は何も変わらず平常モード、小さな波は人の波に直ぐに飲まれて消えるのです。だが、そこで安心してはいけません。上着を脱いで次へ次へ。


 「暑いから、ちょっと持ってて」

 「え、いや」


 頭から被せて、これで良し。

 どこからどー見ても、ちょっと暑さでバテた人とその介抱劇!


 周囲をキョロって立ち並ぶ屋台を確認し、目的を発見。


 「あそこでジュース買ってくる、待ってろよー」


 一目散に行ってきまー。




 その場でまるっと生搾り、ミックスジュースのお店です。買ってる人の後ろに並んで拝見しつつ、ポーチから財布を出す。この店は果物のリクエストができるよーだが、そんなんされたら迷いますし困りますがな。


 「お勧めのさっぱり味を二つでー」

 「当店自慢のお勧めで良いですかー?」


 「はーい」


 「自慢の特上、さっぱり二つ入りましたあー!」

 「「はい、いますぐにー!!」」


 オーダー通った。

 店員さんずの掛け声にビビる。


 そして、さっきの人よりかなり割高な値段を聞いた。店もメニューも違うが、前よりかなり高いです! しかし、通したのはリクエスト。後ろに人が並んでる、既に果物は潰された。特上がぼったくりでないのを祈って金を払い、お釣りを貰う。この計算は間違いなし!


 「飲み終わったら、こちらへ」

 「はーい、あそこで飲むんで」


 ビールグラス形状のウッドカップを二つ手にして戻ります。ちゃーんと上着を被ったまま、こっち見てた。



 「これなー」

 「ありがと」


 飲んだジュースは美味かった。適度な冷たさに甘みとさっぱりが渾然一体となって違うレベルに跳ね上がり! なんという事だ、市場のと遥かに味が違うぞ!


 「ああ、美味しいね」

 「お勧めで頼んだら大当たり! 値段だけの事はある〜」


 「そうなんだ」


 店の方を眺めながら穏やかに言葉を綴って飲む顔は、さっきと違って良かったが… 原因の究明に至らないパターンに到達しそーです。追求… したい訳ではないのですが、ねえ?





 「君の中に君が居た」


 飲みながら始まった話は酷かった。


 「非道な事に、その可能性をないと判断していた。だから、悼み泣いた訳で。今回、覚えた違和感の強さ… いや、その、ちが… 先に覚えたのは違和感ではなく…  くっそ、本能の理解の速さに理性の足が遅かった」


 バンダナに手を当てて唸る姿に、こいつの悲しみの濃度がびみょーにわからない。あんなに衝撃的な顔でぽつっと零してたのが今や歯軋りするとか。待てや、そこ。


 それにしても、召喚された時の俺かよー。お前の俺も根性いいなぁ!


 「こう… ふにゃあって笑ったのが心に響いて… 今より、すごく幼い感じで」


 何とゆーか、ちょっとした照れ笑いに引く。引く引く引く! いや、引いても原因は俺だがな。だから、胸に手を当てて考えると… 肉を受け取った時の記憶はないんだがあ〜〜  不思議だ、これが捏造とゆーものか? あった思うと思い出せる…


 「受け取って笑った気がする… だと?  待て、人の頭は騙され易いと…  思い込みで人は記憶を作り出しそーな!」

 「思い込みによる記憶操作は否定しない、ちょっと待って」


 すっかり落ち着いた一名様は律儀に被ってた上着を俺に被せて、屋台へ買い出しに行った。ちびちび飲んでたジュースは温くなったし、お昼を回って人も増えた。次、食ったら移動するかな?


 

 「うおお、揚げパンですか〜」

 「肉と菜では足りないし」


 うきうきと油紙に包まれた四角さんを頂き、ガブッとしたら熱々の熱!


 「はふうっ!」

 「だから、揚げたてだと!」


 隣にぶんぶん首振って顔で返事しとく。チーズがあつのとろでうーまーあ〜です。しかし、締めが油とか食べる順番間違えたかも?



 ぺろっと食べ終え、油紙はごみ箱へ。カップは店へ。店員さんと話すのを聞いて、金額は適正価格であったのを知った。高級マスクメロンではないが、そーゆー高級を飲んでたよーです。お店の隠し味的アイテムをメインにしてのガチ飲み… うん、美味かった。


 だが、桃ちゃんのほーがコスト掛かって高級らしい。

 でも、こんな屋台にも高級品はあるんですね。田舎っても回る金はちゃーんと回ってんだね〜。




 そこから、ほてほて歩いて腹ごなし。賑わいの中を通りつつ、去っていくのです。市場はまたにしまー。


 「んで、お前はへーきなんか?」

 「あ〜  ま〜  衝撃が過ぎ去ると、最後の笑顔に中途半端な笑顔を返した自分の顔だけが心残り。だけど、君は此処に居るしね」


 「…そりゃあ、居るけどさ? 過去には勝てませんよ?」

 「大丈夫、わかってる。過去は遠く、時は手を振る」


 …こいつ、ダメージ負ってない? へ? 昼飯で衝撃の涙が蒸発した? 完全に? まじで? うえええええ? おかしいだろ、それ。 ……待て、その程度の涙だと? だとだとだと!? あああ〜っ?


 「二重人格ではありません、今度に期待されても」

 「そうだね、あれを人格と呼ぶのはどうなんだろう。そりゃあ、もう一度あると嬉しいけど  ふふ」


 一瞬の停滞。

 胸に手を当て、グッと感じ入るよーな顔をした。


 直ぐに目を開け、歩き出す。

 俺も上手に人を避ける対人ゲームを再開する。窓が不要のショッピングも継続展開してるが、楽しさ半減。こんな予定ではなかったのに。



 肩に手、耳に声。


 「黒が全て、それでも約束が残ってた。約を握るは君であり、俺ではない。歪める事なく、その時を示した君の強さに感服する」


 手と熱が離れ、風が抜ける。

 斜めに見上げる顔は淡く笑い、長い指が俺の頬をぷすっとした。 …おま、これ気にいったんか?




 何でも奢る約束、それは食。

 暴露させられた時の餌付け兼、道路標識の話は覚えてる。だから、そーゆー約束もあったんだろ〜とは思う。


 「それだと、俺が食い意地汚いさんになるんでないの?」

 「いやいやいやいや、約は約。服なら着道楽になるだけで」


 「その方が聞こえはよくね?」

 「どう聞こえても質は同じ」


 「…俺でないほーがイイんでないの? あ?」

 

 なーんとなくの納得とムカつきから、襟元掴んでぐいぐい絞めたら笑いやがる。


 「君は君だ。俺の君は君で正しい。過去への嫉妬は不要です」

 「待て、そこ違う」


 「いえいえ、人の不満は似たもので」

 「似てるで同一と統一は良くないです」


 「では、過去への苛立ちで」

 「…うむ、それでよし」


 「あは、どちらにしても君だけど。過去が今に顔を出そうと、今の君が主体で本体だ。言い切るだけの根拠があり、根拠を立てる自信はある。それは過ごした日々から導き出された。共に過ごした事にこそ重きがあり、そこで示すは為人ではない。暗点を発症した事も火花を散らした事も、俺が暴露させられ告げた事も、全て踏まえて、俺は今を判断した。


 過去の君が過去のままに顔を出した。


 それは君が「ある」と告げた穴に由来する。傷に触れるなと俺は言ったけど、心は繰り返しに反応した。 綺麗に埋まって、でも少し混ざって。 だからあの時、正しく君が約を問うた。これを退行とは言い難い。そして、今の君は俺と日々を過ごした君である。自力で穢れを祓い流せる君である。そんな君が力の器になる確率なんてない、同じ確率で乗っ取りなんてあり得ない。


 あれは、最後の地均しだと。


 もう二度とない回合は、君の努力の結晶で 俺が願い続けた  祈りへの… ちょっとしたご褒美だと。 ねぇ、今の君に 言葉に詰まらない今の君に 消失は 感じられますか?」



 言葉の終わりの顔に、俺の口がうにょーっとした。


 穴穴穴穴、落とし穴。

 俺の中の永遠のブラックホールは、もうないのでは?


 指摘に心がざわざわし、手をさわさわと動かす。胸から腹、腹腹腹で肩にあげ。もっかい腹だが胃袋過ぎたら腸ですか? 撫でる腹は食べた分だけ張っているが、それよか腹筋感じれない?


 「過去が恋しい悲しい子供は、今を選ぶ大人に羽化できました。君の羽化に引っ張られたとも、理解が俺に羽化を告げたとも言いまして。今が楽しい、心から嬉しい。君が君である事を疑う理由は初めからないけれど、裏付けにも似た真実を 自分の理解の果てに 見出せた。その時に立ち会えた喜びに、理解に至れた喜びと。ふふ、君の食い意地の心残りが、 絶対に手放さなかった力の糸が、 時を巻き取り 俺の心に喜びと言い表せない感激と 純化と等しい昇華の雫をくれたのです」



 羽化と真理と食い意地と。


 あったかも?の記憶が正しく、時間のループが繋がった? 途切れた繋ぎは接続溶接完了で? あれは俺、今も俺。俺が俺として真円を結び、改めてないけど世界に降臨したのです…  とか? 


 えー、降臨が食い意地? 俺の心残りは本気で食い気か!?



 「口開いてる、口」

 「う?」


 ちょいトンでたっぽい、口を閉めます。誰も間抜けさんを見てませんよね?の首振りで、あそこを思い出す。同時に今のハージェストの髪の色に物思う。


 「大変な俺の食い意地」

 「素敵な食い意地です」


 「じゃあ、猫の髪食い許されるな」

 「え」


 口を開けて固まった顔に、にーやーあ〜ってやった。「えええええー、そっち?」に「んにゃ、あっち」。「え、あっち?」「ん、あっち」と、歩みを揃えて進みます。




 「青いシロップかき氷、ブルーハワイは非単一」

 「何?」


 「…ミックス、のジュース美味しかったなーって」

 「ああ、それはもう」


 「でさ、お前の言う糸さんですがね」

 「はい」


 占いコーナーへと足を進めながら、さっきの返事をするのです。しかし、消化がまだ不完全。ごっくん、ごくごく『整ったー!』と言われても、こいつのよーな整然は難しい。






 「確か、この辺!」

 

 お一人様の漫ろ歩きと反対に、あの時のばーちゃんはどこだ!?を真剣展開。机と椅子と体が半分出る小さい天幕を捜索中。色的にあれか? あれか!?


 「あれだあー!」

 「あ、見つかり?」


 喜び勇んで「こんちはー!」と行ったらば、ばーちゃんを驚かせたのか「ぎゃあ!?」つった。真ん丸の目が『お前さんは!』って言ってた。覚えてくれてて嬉しいです。



 「そうかそうか、見つかって何より。よかったの」

 

 相変わらずのお椅子に座って、詳細を二、三部省いた話をしてた。一名様は俺の真後ろ立ってます。

 

 「で、今日はどうした。なんぞ占うかえ?」

 「それなのですが… 前回は闇の中、じゃあ今は? どうなってるかわかります?」


 「…荷も見つかり、生活も安定した。後ろに人もおる。普通におって、なんぞ心配が?」

 「心配は〜 ないですね。ないとゆーより終わったのかな?」


 「ほぅ?」

 「なんてゆーの? 単に今の俺どうなの?みたいな。そこで、ばあちゃん思い出して」


 「助言が要らぬなら、今の気持ちでよかろうに。しかしまぁ、求めるのなら不安か期待か。形にならぬものがあるのだろ。よし、もちっと聞いてやろ」

 

 ばーちゃんの占い前の質問要項に答えてると、カウンセリング受けてるみたいな。



 結果、気分は上々で不安はない。


 意見を求めて振り向くと、妙に楽しそうな目。同時に自信に溢れてま。期待、期待、期待、その形。形にならぬものの確認。確認?


 「あ、理解。鏡を見たいんだ。それか客観的な視点からの〜 写り具合?」


 あれだ、『今を残したい!』。しかし、残念。ここに写真はないのです。このアゲアゲ気分を実感として見たいのに見られない、残したいのに残せないー! そこで、ばーちゃんが出てきたのは写真屋さんのノリですね!


 「なんじゃ、そちらか。なら、気持ちじゃぞ。気持ちでな〜」


 偉大なるお気持ちの広げ具合を示そうと、にぱあーっと笑顔で腕を広げるばーちゃん。意味が違うとわかっているが俺も釣られて、に・ぱ・あー。


 ばーちゃんの水晶占いが始まりまーす。






 「ふはははは」

 「いやいやいやいや」


 「よくあんな人と知り合ってたね!」

 「それほんと、ばーちゃん商売じょうずぅ〜〜」


 俺とハージェストは水晶の欠片を手に入れた!!


 「本気で見抜かれたのかと焦ったよ」

 「あの「この目で世の中、渡ってきたわえ」なーんて、ばーちゃんかっこいー!」


 口に手を当てて隠す小声に、俺の声を被せます。高笑いするばーちゃんの口調をモノマネするが、すげーしか出てこないー。



 水晶玉は闇を映した。


 闇の中に光が生まれて、色が生まれた。その色が俺だと言われた。そしたら、別に光が生まれて違う色が広がり、「影響受けとるのー」。後の色が広がったら、俺の色が濃くなった。負けずに後の色の濃度も上がる。「ほう、反発かと思うたら違うかよ」からの「これを見い」で、水晶玉を食い入るよーに見てました。


 そしたら、水晶玉から色が溢れ出し!


 不意に見え易くなったのは、後ろからの光が遮られたから。人体シャットアウトが生み出す影の中、広がる色に金魚ちゃん達のよーな煌めきが混じる。それらの一体感か全体感か… 混然の中の整然は  どこか懐かしく、どこか違って〜  あー、もうこれ良い〜って感じでえ〜〜〜。




 「互いに影響を与え合い、高め合う。有り触れていようとも、無敵の言葉だ! あ、もうそろそろだから」

 「うんうん、楽しみ〜」


 透明だった、二つの水晶の欠片。


 『ほれ、これで今の思い出の品ができたぞえ』


 映し出した水晶玉から溢れた色に染まり、同じ光を宿して輝いた。


 「ほんと術式ってのは、構築してあっちなんだな」

 「基礎中の基礎ですから」


 同じと言っても、置いた位置の所為か少し違う。俺の色目が濃いのとハージェストの色目が濃いのと。


 「手ぇ翳して、むーんなのにな」

 「いやいやそれより、「こっちのは、お前さんだろ」なんて言われた方がときめきで殺されるから!」


 そんで水晶も形状は同じだけど天然だから同じじゃない。


 「いやー、水晶を染められるなんて思わなかったよー」

 「水晶は塵を受けずなんて言葉も、まだあるけどねー」


 転がすと、中の小さな光がキラキラする。


 「水晶は映し石の代表格だし、転写に適してるんだよね。紫水晶とか黄水晶とか色枠的に好まれるよ」

 「わーお」


 この二つを合わせると、カチンでパチッと弾けるキラキラ火花が飛び出すのです! ええ、リアルで出ます!! すごいだろー、二つないと意味ないけどー。すごいだろー、チャージ切れたら出ないけどー。


 それなり〜のお気持ちをずいっと差し出して、世界に二つだけのお宝をgetした。  




 

 「おおお… お馬さん、久しぶり…」

 「こうも興奮するとかっ飛ばしたい!」


 予定を変更、ハージェストのリクエストでちょっとそこまで駆け回りまーす。一頭でタンデムツーリングするんでーす。  

 


 「ごめ、乗る時点で難しい」

 「あー、ちょっと顔出し頼みまーす」


 貸し馬屋さんが心配して、手綱を取って反対側にスタンバイ。


 「くっ!」


 「そこで足を素早く!」

 「物分かりの良い馬だから、安心して一気に!」


 ポーラちゃんより大きくドーラちゃんより小さいお馬さんの背に、敷布はあっても鞍はない。だってタンデムですから。だから、直に馬体に手を掛けると〜 ナマの暖かさに気を使う。気を使っているのに、何故か嫌がられて乗り損ね… 跨るのは大変ですよって。


 「しゃあー!」


 ガッツポーズ!


 成功に鼻息を荒くしたら背後にあっさり乗るお一人様。まぁ、こいつが失敗するはずはない。


 「よしよし、良い子だ」

 「お客さん、街中は気ぃ付けて下さいよー」


 「はーい、行ってきまーす」


 見送りに手を振って、ポックポックと出発です。ちょっと違うけど、ぽちとの乗… 乗… 乗羊を思い出す。そうだ、あれはジェットコースター。あれに比べたら可愛いもんです。手綱握ってる奴がいるんだし。


 「初心だったよね?」

 「そう!」


 「じゃあ、今日は楽しむ事と動きに慣れる事だね」

 「もう既に楽しいけどな!」


 ハージェストの前に座って揺られてく。視界はちょいと高く、荷馬車を思い出すが違いますね! つい、手綱を掴んでみたくなるのは我慢。暴走は恐ろしい。俺が持つのは、馬の胸飾りと敷布を締めてる綱に持ち手として付属された綱。馬屋さんからのご指示です。


 「そうそう合わせて揺れるだけ、上手だよー」

 「おー」


 人・物・動きに合わせて進むお馬さん、歩むに斜めに止まるの動き〜。


 揺られながら今後の予定を聞いてます。今日は前だが後ろに乗る練習もするそーな。つか、馬も竜も二人乗りを熟せないと騎兵としての合格は出ないそーです。俺はそこまでできんでも、乗る以上はやらねばならぬで頑張ります!


 あ、子供が羨ましそ〜うに見てくるのが良い。実に良い! 


 「う!」

 「はい、油断」


 落馬、こわ。鞍、欲し〜。





 入ってきたのと違う門。

 門番さんが一人いらっしゃる前をお馬さんに乗ったまま抜け… 抜け… 抜けまして?  え?


 「入門と出門の問題が!? 俺、入る時ちゃんと うぉう!」「大丈夫、もうやってるから!」


 俺が後ろを向くなり、馬足を早める酷いさん。しかし、声が弾んでる。そして門番さんの怒鳴り声もなし。あそこ、ETCゲート? なんて考えるの、終了。




 「おおおおそ、おそ、おそ、おそ!「遅い?遅い?遅い? 気が合うね! んじゃ、もっと上げるか!」「や、ちが! それ、ちが! ちょいま!」「ひゃっはー! 二人乗りでこれなら、こいつ当たりだ!! お前、一角種の血を引いてるな!?  行けえええええ!!」「ふぎゃあああ! 嘘だろ、このスピードきょーーーーー!!」


 郊外ルートをお馬さんが走る。走る走る、まじ走る! それに合わせて体が揺れるわ、跳ねるわ、持ち手が拙くてしんどいわ! 握る手が下向きなるのがキツイ、体が飛んだらどーしてくれる!!


 お馬様の鼻息が、応えようとする鼻息が!


 「うぎゃーー!」「だぁーいじょーぶだって!」「わか、わか」「前傾で腕の中、飛ばしやしない!」「たのたのたのー」「ソールに乗れないよ!?」「ぽぽぽぽ、ぽちとー のーー!」「舌噛みそーだね!」



 ダカダカダカダカ、かっこよく駆け抜けてくれました。風を浴びて気持ち良いのも楽しいのも確かだが、初回でやるな。

 


 

 

 「うはあああああ…」

 「はいはい、無事で?」


 「ううう、尻と内腿が… 腿肉がパリッパリの…」

 「馬体バイクを足で挟むのは基本です。初っ端でそれ位なら、かっこいーよー」


 「ぎにゃー」


 馬から降りて草っ原のごろんです。かるーく汗を掻いたお馬さんのお世話は任せました。やれと言われても立ちたくなー。あああ、メンソレさんを置いてくるんじゃなかったあーー!


 「広げたから、こっちおいでよ」


 リュックから取り出した布製レジャーシートに向かって、ごーろごろ… は、止めて起きる。おやつが出てるので巻き添えは大事です。


 

 「あ、これうまー」

 「運動後は、より美味い」


 ご飯散策してるお馬さんを眺めながら頂くおやつは最高です。現在地からあっちがどーの、こっちがどーのと聞くのも楽しい。その間、少しだけ笑う事を考えた。ゲームなら、此処って初心者用の狩場じゃね? スライムでも出てきそーな感じの。そこに俺は馬で来た。徒歩でも一人でもなく、武器も持たずにおやつを頂く。


 「水は?」

 「あ、くださー」


 ハージェストの水筒はカップ付き。そして、中身は水。お茶でないのが残念ですが、お茶でないのでお馬さんも飲めました。

 

 「…穴兎かな?」

 「え、どこ?」


 指差す方に黒い点。うーん… 「わかるよーでわからない〜」終了。ばったり。



 空は白い雲が棚引き、所々で青い晴れ間。午後でこの気温なら、すごく楽。目を閉じると風の音。ちょい、草の匂い。あそこを思い出せば、もっと前も思い出す。そういや、メールは届いただろか?


 「周りに人は居ますかね?」

 「ん〜、視認距離には居ませんね」


 「では」


 ごろ寝から起きて立つ。

 汚れを払うのに、二、三歩離れる。

 払ったら、片手を掲げる。

 掲げた手に見えない玉と姿を思い出し、宛先をチェック。


 すうっと息を吸い込んで〜〜



 「お兄さーん! 友達いました、会えましたー! つか、なったでーす! んで、進化で相方・相棒なりましたあー! 俺、楽しんでまーーーす!!」



 叫ばなくても届くだろうが、そこは気分で叫ぶのです! 他では叫べませんよって。


 「え、え、え! あいあいあい…!  ひう、うわ、くわ! くわ、ぐわあっ!」


 空に向かって「二人にも宜しくお伝えをー!」と追加してたら、相棒が奇声ならぬ鳥声を発する。面白顔を見てれば直ぐに立ち上がり、埃を払って隣に来る。空を見上げて、息吸い込んで〜〜



 「えー、この様な形で失礼を! 御尽力頂いた方々に心からの謝意を! そして、女神! 一時期の自分の不平を、どうぞお忘れ下さあーーー  い!!」



 顔を見合わせ、にぱっと笑って切れ間が覗いた空に手を振った。




 「ふう」

 「届いてたら良いね」


 「うん」


 さて、ここで忘れてはいけません。しかし、ずばりな言い方は微妙です。大体、総合敬称って呼んでるよーで呼んでないのでは? そうなると、指定名称アレになる。


 「では、次に」

 「はい?」


 はい、また息を吸い込んでえ〜〜



 「自宅警備員さーーーん、ここここここここ俺ここでーす! 花と石と水! ありがとーございまーーーーーす!!」



 また空に向かって両手をぶんぶん振っといた。次元が違っても、きっと見える。見てくれてたらいいなぁと期待してる。隣からの「じ、たく? けいびって… けいびって え?  それは… ええと」には「指定の感謝なのですが、人前では注意します」で終わらせといた。



 「いや、でもあの 遠き…  えー、えー」

 「個別案件は世界の違い。ある種の最強さんの名称だから、かっこいーさんだから!」


 「…そう?」

 「全てを守る最強さん」


 押し切っといた。不敬ではない。

 







1と2は、互いの中に自分の地位を獲得しました。

この地位は、度重なる揺り返しにより構造に耐震性を持ちましたので土台からして安全です。

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