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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
194/239

194 そこで、大きく腕を振り

細心が袖を引き、慢心を指差し、大きく腕を振るので前書きを削除します。ので、改稿となります。






 「ただいま」

 「う?」


 「そろそろ昼食だけど、起きれそう?」

 「う?」


 しょぼしょぼしますと、お日様金色あっかるーいがなんや主張してたんで目が覚めた。


 「あ〜 おかえり〜  おーきーるーう〜〜」


 返事をしながら、ん〜〜っと体を伸ばして起動します。隣に準備ができてるそーなので、移動しまー。


 洗面所から戻って、はい着席。すると何でかミニミニカップが鎮座してる。俺専用か。目で確認取ったら目で飲めとゆーから、鼻を鳴らせばこれはイケそう。カップを持って乾杯音頭で頂きますの笑顔です。


 「かーん… にゃーっす!」


 一発勝負、変顔頂きますで愉快にgo!


 点目のハージェストが時間差で「ぶふっ」たんで俺の勝ち〜。ニヤついたら、ナチュラルに変顔返してきた。


 「うぉうっ!」

 「ふっ、笑わせる」


 「待て、どっちがどっちだ!」


 飲む寸前で助かった。中身も撒かないで助かった! 予想外の驚きと破壊力でアクション的にも俺の負け、勝利の微笑みの前に完敗です。こいつ、お貴族様なのに平気で変顔しやがった。


 「あーもー、このひとまじっすか」

 「君こそ、よく思い付く」


 やればできるの構えじゃないのが、なーんとも。そこんトコ突っついてみたら、学舎でイジられた時にどーたらとか。しかし、話しながらも飲めのポーズを忘れない。黙って飲み干す食前茶。うーむ、美味くない。


 なので、さっさと口直し。今日のお昼は麺料理。やふふふふー、美味しそうでーす。



 「で、物はあったん?」

 

 フォークを取って食事を開始。食べながら午前中の成果を聞きますと、「あったあった、良いのを見繕ってきた」とご機嫌笑い。メタを細工する道具を無事getできたよーで良かったです。 …まぁ、そこが例の宝石商のお宅ってのが〜 合理的で〜 良いよーな、心苦しくも悪くないよーな。


 冷製パスタをちゅるんと頂きながら、思い出す店構え。あそこは現在、立入禁止になってるそーです。当然、お家の皆さん居られません。そこから、道具を取ってくる。朝ご飯で「取ってくるから、君は寝てて」と聞いた時には微妙だった。犯罪者であるとゆーても、人の物。無関係なはずのご家族も居らしててえー。まぁ、今はどこにお住まいか知らんけど。


 それこそ公私混同、やばくない?


 まともな俺の考えに返ってきたのは、『接収』とゆー名の光輝くケーブル線! 差し押さえでも押収でもなくガチの接収。そう、輝く国家権力。もしくは上層部の方々だけが持つ固有スキル、強権の発動!


 はい、まーきあげえええ〜 の つーりあげえええ〜。


 なんてゆーたら聞こえが悪い? 必要に応じた取り潰しで終わりです。店、土地、店内に残る全てのブツの所有権がセイルさんに移行しておりました。なので、あそこはセイルさんの持ち家… 領主様名義になったとゆーたら持ち家ですよね? うわ、すっげー。問題なく取り潰せるのは自国民だからですよね? 他国の方なら、出資店舗を巻き上げたと文句言われそー。でも、犯罪だから問題ないか。問題になる場合ってのは〜 国家が国家の為にどさくさ紛れに接収する いや、計画的に行われるう〜 都合のい〜〜い国家による犯ざああ〜〜   まぁ、知らなー。あそこ、何時か売られて税収になるんでしょか? それなら、ハメられた方々の被害者補填になるん〜 ん〜 ん〜〜 ならない気もするな。 あり?

 

 「なぁ、あそこで作ったほーがいーんでない?」

 「え、やだよ」


 「なんで? よー考えたら、設備が整ってる場所でやったほーが」

 「君が酷い目に遭った場所で作りたくないね」


 大口でも不思議な迄の上品さを醸しつつ食べながら、「集中し始めたら気にならない」が「気持ち良く作成したい」で「何処にも場所がないなら妥協もする」が「此処があるから馬鹿らしい」と締め括り。


 そら、そーだ。

 やなこった〜と言いますわ。



 場所は選ぶが道具は選ばない。


 業種が違えば逆パターンでも有りな言葉… そんな名言を恥ずかし気もなく真顔で言う!


 しかし、ちょっと困る俺。

 酷い目に遭った場所でも場所としての思い入れは然程なく… トラウマっぽいのは、あそこじゃなくて地下ですし? いや、降りたら歩けるなら階段か? 記憶に繋がる周知で未知なよくある階段… うっわ、締まらなあ〜。 


 ですが、ちょっと照れもします。

 こーゆー気の遣われよーとゆーのはあ〜  いやいや、気遣いではなく本音だと思  う?


 「うぬう、それは俺が狙って!」

 「残念、俺も狙ってた。先に食べ終わったから頂き〜っと」


 「あああああ!」


 でかいほーのヤツ、取られたあー!



 それで、ちょっと涙に暗れてたら「もう少ししたら兄さんくるから」「はい?」「うん、もう少ししたら」間に合わないので取り急ぎ、黙って食べます。


 「早食いはしない」

 「高速リス喰いは無理でした」


 前歯喰いきついから、数秒でキリッと決めといた。





 「顔色は良いな」


 何とか間に合わず、一人お茶とデザートキープしてる。怒られなくて助かるが、話が先でお預けを食っている。目の前の桃のケーキが遠い…  あ〜〜、ほんとに美味そう〜 ハージェストも美味い美味いと既に食い… く、食いたい〜〜!


 「予定を詰めていてなぁ」

 「はい、何も問題なく」


 姿勢、キリッと。段取り、大事。笑顔、装備。お預け、当然。時間は掛けないと言われた会合ですが、テーブルから下げるべきかと迷ってる。でも、誰も下げろといーません。せめて横に寄せるべき?


 「呼べ」


 ケーキ様への苦悩をするも、待ての姿勢を貫いたので号令が出た。開けっ放しのドアの先に立ってたリアムさん、目礼して廊下に向かって『ヘイ、カモーン!』と腕を振る。そして、入ってきたのは執事さん。 …お久しぶりの執事さーん! お元気で し、 た、  か? かかかか、か?



 「此の度は…」


 紛らわしい態度を取って騒がせたと頭を下げて謝罪されます。お言葉の間中、頭頂部の観察に走った俺はダメかもしれません。そんで前より渋みが走ったよーなお顔は何処と無くお疲れが滲み老兵の〜。


 色々のーみそ回りますが、大丈夫?なんて聞きません。ええ、絶対に。そんなんゆーたらどこのお仕事を非難する事になるのやら。だが、聞いた逮捕状況を思い出すと〜 介抱が紛らわしいだと、やはりナニかが拙いと思う。思うが、この身の安全に直結した結果の事案であるからしてえ〜。


 否定も肯定も何もせず。

 只々、「今度、宜しくお願いします」とへこっといた。三割増しでへこり具合を決めといた。


 執事のミゲルさん。

 取り調べを経て、灰白から白であると認められ今日から職場復帰でーす。おめっとーでーす。これからサクッとお仕事ですか、ご苦労様でございまするるるる〜。


 「あの、お祝いにケーキ食べます?」


 すすっと両手を揃え、差し出す感じで言ってみた。ええ、感じだけで出しません。気持ちを込めて言うだけ言った。




 「次を」


 はいはい、次の人影は〜 うぁああああ、スタッシュじーさんんんっ!!


 ガタンッ!


 「お元気でしたか!?」

 「おっと、椅子が」


 ストレートに躊躇いなく叫びましたの立ちました! すいません、忘れ去っておりましてあの後は見舞いにも行かず行けずのごめんくださいましでして!!


 

 「これがもう本当に調子が良くなって」


 俺の代わりじゃないですが、セイルさんがちょくちょく診に行ってくれてたそうで助かりました。すげえ根性で乗り越えた後は、お年なので体力の回復が遅れたといーますが…  遅れたって…  え、それで? 俺、寝っぱなしですけど? そんで、もう全快したあ??


 「ほ、ほんとに?」

 「はい、飯も美味くて世界も綺麗で。変に目が霞む事もなくなって… それに伴う妙な頭痛というか、目の奥の痛みもなくなり… 一生、こんなものだと思って諦めていた事が…  あー、もう坊ちゃんのお陰で」


 顎が外れそうな驚愕を覚えたじーさんの壮健さでしたが、顔面をくっちゃにする全開の笑顔に俺ののーみそじんわりじわじわ侵食されて同じモノが移ります。じわわ〜〜っと広がる、この感染力。恙無くご無事でいらせられ、ああ、良かったあー。基礎の違い如き気にしない〜。


 「あの女を憎ったらしいと乗り越えやしたが、そいつも抜けてしもうたようでして。そんな事より、今のこの、この楽になった  ほう〜〜っと緩むこの心地がですよ」


 じーさんの顔がすんげー優しいとゆーより… いや、優しいんだけど。


 思い出すのは、あの時の顔。

 語り手の顔が七変化する、面白おかしいヒトの体験談。怨讐と言い切る程ではなかった、それ。それが大きく手を振って、さよならを。



 じーさん、ランクアップしたっぽい。


 達観と諦観を越えた仏に似て全く違う顔に、良いアガリと書かれてる。目元がちょびっときらりするのもアガリに似てて それに釣られて、こう… こう、こう〜〜 俺もアガってい〜よね〜?みたいなアガリが俺のどっかを擽って〜  うにゃにゃにゃにゃーあ。


 セイルさんが「意図せずとも」と繋ぐ言葉に、ハージェストが俺の片手を取って繁々と見て緩く叩くのも。増幅させる要素です。


 「体調が戻られたら、また」


 続く言葉と手付きに、「お願いしまーす」と大喜びで予約を入れた。あっちこっちに頭を下げて仕事に戻る姿に手を振って見送り、爪を見る。




 「俺、猫のせんせーできるでしょうか?」

 

 ほんのり幸せ気分で呟いてた。

 

 ら、突如始まる脳舞台での猫踊り。にゃん蹴りぶっ込む踊り始めに、くるくる回る夢幻の踊り。セイルさん&領主館とゆー大きな補助がなかったら、じーさんやばくなかった?総踊り。アフターケアを猫はしません舞い踊り!


 「…やばい、猫のせんせー気紛れで放置ぷれーが基本だから看護者いないと危険だわ」


 そうそう最後は大先生にお任せよ〜と大きく手を振る盆踊り。猫のせんせー、遊びは遊びで本職違いますからね〜で立ち踊りからの見返りお辞儀で舞台の袖へ消えてった。


 「…アズサさん、どうされました」

 「ごめ、猫は戦力外で。真面目に頑張れば頑張るだけ猫飽きるから、下手に振られても俺できないから!」


 ちび猫ぐるうと暴れ出すのか、能力落ちか。

 どっちかわからんけど、迫り来る大いなる仕事を前に『no、遊びの逸脱!』です!



 「…君に押し付ける役目などありませんが?」

 「特にはないが? 遊んだ話をしてくれると兄は助かるが」


 俺のカードは滑ったらしい…


 「え、あの」


 便利能力違います?をうにゃらって聞いたら、「金も名誉も困ってない」とゆー実弾を込めた立派な返事を頂いた上に「量産化できんものを喧伝してどうする」とゆー ゆー…  確かな胸算用があり。


 「心配するな、類似は俺だ」

 「そうそう、兄さんを当てにする馬鹿は要らないと常々言いましたよね?」


 セイルさんが輝かしく君臨してた。なんと眩しい! さすが、黄金の魔王様! キラッキラ〜の金字塔、の、下は安全圏。より一層、この家から離れたくない。


 「やるなら、立ち回りと逃走経路を覚えてからな」


 「…はは」

 「大体、君のは破砕で医療と違うと言っただろ」

 

 頭の中に入ってるかと疑われ、頭をツンツンされました。俺は答えませんでした。そしたら、猫せんせー舞台の袖から顔を出す。再び登場、跳ね踊り。そうそう、遊びはこんな風〜と謎出現した障子にバリバリ穴を開けてく連続性の幻惑踊り。最後は華麗なキックで蹴り倒し、障子はオートで消えていく…


 外科しゅじゅつ〜 は〜 消毒してないから効くの〜っ


 なんて、せんせーにあるまじき発言をキメて舞台に舞い散る花吹雪。幕が下がって、これにて本日の猫踊りはアンコールも終了です。



 脳舞台の終演と二人の苦笑に喉が渇いたので、茶でも一服と手が探すのですがケーキセットは終わってた。美味しそうに頂かれ、人の腹へと消えたのでした。


 ええもう、こーなったら早く終わりましょう!


 「次の方、どうぞ〜」

 「呼んでやれ」


 俺ではなく、苦笑交じりの声に反応して腕を振るリアムさんの口元を凝視してたら、ふと思い出す。じーさん、爪、人、顔、腕。  腕。  腕に爪痕。


 それ、隣の腕。


 「ん?」

 「いや」


 ちょっと首を傾ければ聞いてくる。目的確認には服が邪魔。でも、今更。そう、今更。つまり、こいつは問題ない。じーさんのよーなモノは持ってないから、あーならない。だいじょーぶ。


 推理に満足した所で入ってきたのは、二人だった。



 

 「お元気そうで何よりです!」


 明るく元気なマチルダさーん、今日も今日とて元気です。ヘレンさんと仲良く恋人みたいな腕組みをしての登場です。相方をちょっと引き摺ってるのが、ご愛嬌? まぁ、この状況だと拘束なんでしょーねぇ〜 って。 …はれぇ? 何でまだ拘束が入ってんだ? 巻き込まれ判定が出たのでは?


 「…ぁ あ「マーリー様をヒットウに、皆とても心配して一日も早い回復をキネンしておりました。お顔の色がよくて本当によかったです! ご用事があれば、すぐに動きますのでなんなりと言ってくださいませ!」

 

 …心持ち早口で、とてもナチュラルにヘレンさんの言葉を遮った。全く悪気はなさそーな、にっこにこの良い笑顔。だが、ヘレンさんが泣き出しそーな顔で下を向いてしまったですよ。うあ、困ったな〜と思ってましたら。 らぁ〜 マチルダさん、ヘレンさんの腕をぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう締め付けてた。


 笑顔、ぎゅう締め、腕、紅潮、腕。 …足は平気そう?


 どうも、それなりに緊張してるっぽい。そういう意味では、ヘレンさんは緊張してない。 いや、違う。 してる。 二人して違う種類の緊張してる。


 かわいそーな事にご挨拶に失敗したヘレンさんをそのままに、セイルさんが話を始めてしまいました…



 「へ?」

 「だから、ちょっと出すよ」


 「へ」


 マチルダさんを呼んだのは、ハージェストだったよーです。さっさか動いて、俺の上着を取り出してマチルダさんに見せている。


 「はい、はい。こちらの部分を」


 マチルダさん、上着を手にして表と裏を確かめる。ちょっと眉が寄りました。どう頑張っても、『上手』とは読み取れない。そんで、ハージェストの言葉にふんふん頷く。それから袖口、襟刳、他も一通り確認して自信ありげな満面笑顔。


 「おまかせください、大丈夫です」


 待て、それは俺の上着で力作で。

 あなた、勝手にヒトの物をどーしようとしてますか?




 「…いえ、あのですね?」

 「それ、おーれーのー」


 この前みたく、必要ならスカーフで隠すからあ〜っとご辞退申し上げ。しなくて良いと伝えたら、困惑された。まぁ、普通は〜 手直しして貰うもんなんだろうけど? いや、なーんかね? ね?


 「そんな事を言っても、位置が位置だから」

 

 「ずれたら、丸見え」に「丁寧に仕上げますから」が耳朶を連呼する。「生地と同じ色糸で刺繍もできます!」とか「家の外聞ではなくて」の熱意が続く中、見るともなしにヘレンさんをチラ見したり、一人むーんと唸っていたり。


 outだとわかっているが、これはほんとに力作なのです。一人でもと燃える想いに指をぶっすり「いでぇ!」としながらも縫ったあ〜 あ〜〜  まぁ、その程度のもん。


 「ノイが嫌がるなら、無理にせんでも良かろうが」


 思わぬ所から援護射撃がきたあ!


 「新しく作ればだな」

 「それについては、本人が拒否をしたでしょう?」


 違ってた、んで痛い。気付けば、マチルダさんは上着を抱き締めてた。俯いて震えてる。 …俺が泣かしたとゆー事に? えー、こんなんで言われても。


 「お、お…」


 ん?


 「お裁縫は計算(数学)なんです! これじゃまったくダメなんですう!!」


 マチルダさんが爆発した。




 爆発は怒涛の説明に次ぐ説明で、どんどんぱちぱち俺を直撃コースです。


 服を縫うのに、待ち針を打つ。待ち針は布を合わせるだけじゃない。待ちを打つとは計算なのだ、プスリとする場所から計算だ。針と針の間を何針で縫うと決めて突き刺す等間隔、同時に端から決めた高さに必ず揃えて打つのだと。縦と横が揃ったならば、後は勝ったも同然だ。できた並び(ライン)に向かって縫えば良い。高さに並び、縫い目の数も同じなら、普通に綺麗な縫い目ができる。


 「そりゃあ、周りは比べようもない綺麗な運針で! 私だけがイマイチだった! だから、上手に縫う為にはどうすればいいか必死で考えて考えて考えて… 自分でちゃんと気付きました! 気付いて私は頑張りました! 元がダメなら、それを補う術を身につける。それも一つの技術だと!!」


 裁縫は全てが計算だと。

 人より手間がと言われても手抜きをせずにやってます!と。


 それが認められて領主館でのお勤めが!に続く猛攻を受けました。 …はい、上着を前に受けました。こんな裂け目の場合はと、半ば講習のよーなダメ出しで俺のちっぽけな思い入れをちっぽけだと実力で覆す  …根拠ある説明でした。


 因みに俺にとっての止めは、「わかっていても、縫えてないなら意味がない!」でした。



 こうなると、俺の反論(感情)なんてゴミクズですよ。説明を受けてから眺める俺の縫い目は… 努力ではあるものの、服が非常に哀れに思え… そして、現在のマチルダさんも哀れです。爆発の勢いで俺に詰め寄り、吠えるよーに話したはいーが途中でセイルさん達の前である事も思い出したよーで顔色が赤から青へ変化のあわわわわ状態。


 「続けよ」


 優しさ皆無の口調に、これでやめたら完全にoutだと悟ったっぽく。しかし、凍れる魔王の視線に逆ギレも開き直りもできずに恐怖に震えて涙目… いや、真っ白状態で続けてた。セイルさんの静かあ〜な目と沈黙は堪えて当然です。大体、悪魔でないのが『あ〜あ、地雷踏んでやんの』みたいな顔したし。


 終了後は、すささっと下がって逃げた。


 結果、ぶるって俯く二人のメイドさんの出来上がり。



 心のどこかでマチルダさんを、俺は見下していたんだろうか? ちょっと反省。最初がアレな所為ではありますが、 あれ? それ以外で何かあったっけ? ないよなぁ?


 その後のハージェストの言い分も理解、おねえさまからの頂き物で手作りだと話してた。お抱え持っててお直しの話もしないってのは〜 おねえさまに失礼である〜 のかもしれないし、そーでないかもしれないし。


 保身で気遣い。

 気遣いからの保身。


 うん、そっちへ振る俺の思考がびみょーに残念  …なのかなあ?



 それにしても、おねえさまがこの下手くそな縫い目を見てどう言うか?


 一、まぁ、すごい。自分で頑張って縫ったのね。偉いわ。

 二、できる人に頼まなかったの?

 三、誰も何も言ってはくれなくて?(チラ見)

 四、貸してごらんなさい、繕い直してあげるわ。

 五、何も言わずにスルー。



 …俺、拍手付きで一番だと思う。そんで三はない。

 大体、俺がどーにかするべき話であって、お気に入り枠から外れるとは思えない。




 「お願いします」


 ちょっとごめんねな気分も添えて、頼む事にします。パッと顔を上げて咲いたマチルダさんの笑顔に、ほっこり。しかし、笑顔の花はセイルさんのお言葉で直ぐに萎れた。爆発後の特定の言葉とポーズが非常によろしくなく、俺の『可』が出なかったらうにゃにゃにゃにゃー。普段からの心構えがoutだから、咄嗟の時にその手の言葉と態度がうにゃにゃにゃにゃー。貴族であろうとなかろうと客人に対する扱いの基準がうにゃにゃにゃにゃー。


 とりあえず、おばちゃんに通達が行くそうな…


 縮こまる姿に、「姿勢が悪い」と駄目出しが出た。「はいっ!」と返事をして背を伸ばすが条件反射的で魂の所在が明らかでない顔に掛ける言葉はない。数日後にキルメルからお客さんがお出でになられますしー。


 持ち前の明るさと度胸でも、ぽろっと零れた普段からの言葉遣いとゆー水は取り返しよーがないので頑張って。そこは俺の所為じゃない。



 それから、ヘレンさんの休職話に移りました。


 無事に休職なって良かったです。陰鬱な表情で視線を落とすヘレンさんを見てると、拘束的腕組みは支えだったと思えます。青い顔でセイルさんの言葉に頷いてはいますが、俺を見る目が何時かの誰かと同じですがな…


 なんで、たーすけてえ〜?


 退職でも首切りでもなく、ちゃんと復帰okでましたが?


 「お、お願い申しあげます! 非を承知でお願いします。どうか、どうかこのまま居させてくださりませ!!」


 勇気を振り絞るよーな声を上げ、ずっさーと身を投げ出すスライディング土下座〜 じゃなくて、ガバッと床に投げ出すへへ〜が展開。但し、視線はガッチリ俺を捉えて離さない…


 鬼気迫るお願いが飛び出たよ。




 どうやら、休職中にお見合いとゆーほぼ確定したご結婚が控えているそーな… 相手の方とはお会いした事ないそーな… つまり、下がったらこのまま帰ってこれないお祝い(寿)退社がご家族から出されるそーな… 領主館にお勤めの自慢の娘から、えー、意味が違うかもしれませんが傷物の娘になったよーでえ〜  えーと〜〜  ととととと。



 「領主が口を挟む話ではないのでな」

 「両親が案じているのも嘘ではないね」


 共犯ではなく被害者一択だが、その年で器にされた間抜けさん… 家の恥も否定しないが可哀想を除くと何が残るか? 下手するとマジで嫁ぎ先がない… 足元見られて、最後はスカでハズレな男の元に? こーゆーのは、時間が経てば経つほどoutらしい。なら、何が娘の幸せか? 


 未来はわからんでも、既に先の苦労が見える娘にせめてもの親心!



 「ですが、私は」


 あっちもこっちも混ざってますがな。そんでそこに俺が混ざる??


 「俺が引き止めた場合は〜」


 「勤めが伸びる事で破談になると思う?」

 「単なる猶予だろうが未来はわからん。只、器にされた事実は変わらんのでな。それを人がどう見るかだ」


 首切りはないけど、お客様の前に出られる上級ではなくなったと。ヘレンさんの合格証は紙屑になったよーです。キャリアがなくなったとは言わないが〜 キャリアは積めなくなりました? いえ、積み上げられなくなったのか。


 ヘレンさんの上級メイドさん人生は途切れてしまったのですね。ここから独立なんて夢のまた夢っぽい…  これ、誰の所為? セイルさん? ロベルトさん? マーリーおばちゃん? それとも本人? まぁ、ポイ捨てしようとしたエイミーさんの所為ではある。



 粗を探しても俺の現状は変わらないし、変える何かをするべきでしょうが… あの、こっちに向かっての結婚落ちは…  考えてませんよね? 無理ですよ? そりゃ、好意はありますけど。つか、なんで恋愛もへったくれもない尻拭い的な結婚を俺があー!? 


 りゃ? 向こうの旦那さん予定者こーゆー気持ち? いや、それはわからんし… ご希望者かもしれんし! あ、それよか嫁姑問題のほーか? 望まぬ嫁をいびり倒す姑に旦那は止めないとか! そっから始まるドメスティックバイオレンスーー!! 味方不在のDVが続く針の筵が一生もんとかあーー!?


 「えー、本人のご希望に沿ってもう暫く〜  したら、セイルさんの意向を潰すとゆー不敬罪で不経済になるんでしょーか!?」


 反旗を翻す誰かになるのは、お断り。財布に穴開けるとゆーのも、お断り! とことん、no! no、no、no! 俺にお願いするあたり絶対そこんとこわかってんな、ヘレンさん!? さすが、上級職!




 だが、今の俺は防波堤…

 不幸な女性を守る為の破防法…


 これが中間、板挟みぃ〜〜  にゃーーーん。







 「今日は疲れた」


 腹が満ちても気分は重い。

 ベッドの上でごーろごろ、これがなんて素晴らしい。


 俺の身分は客人なのに。メダル貰ってないし、伯爵様からのお返事まだだし。加入予定者ですが、まだだとゆーに! それがどーしてあっちを取り成し、こっちを取り成ししてたのでしょうか?


 「状況がおかし過ぎる…」

 「そりゃあ、俺達が君の意向に振れるから」


 正確無比な言葉に腹が立つ! しかし、振れないと困ったのもまた事実!!


 「ああ、桃のケーキも食べ損ね…」

 「残念だったね」


 「夕食にも出なかったしー!」

 「無いものは出ない」


 「うえーん、俺の桃が〜」

 「あげたのは君でしょうに。でも、許しに供与は無い事だから。ふふ、あんなに感激してたじゃない」


 …はい、もう言いません。


 「後は、ヘレンさん次第。時間稼ぎはぎょーこーでしょう」


 カリカリカリカリ、熱心に何かを書いてるハージェスト。書くのをやめて俺を見る。コトリと置いたら、頬杖に軽いため息を添える。


 「俺からすれば甘い対応だけどね」


 沈黙を選択したら、大きく伸びをして席を立つ。


 「甘さと優しさ、その違いは何だろう。そう考えた時、それは価値観の違いと考えた。だけど、価値を掘り下げると基準の違いにも行き当たる。では、基準とは何か。何を以って基準を為し、自分の基準と定めたか」


 ベッドに腰掛け、マットを沈めた基準なら。


 「そこを沈める前」

 「じゃあ、沈んだ価値は?」


 「お前が近い」

 「うん、密接」


 ぐぐいと顔を寄せんでも。


 「では、密度の高さが生んだ沈みは何になる?」

 「…近しい価値は甘さを含む、それは相手に手を上げると自分も危ない危険せ、いぃぃい〜  ぬあっ!」


 指先一つのデコピンで、抜け道を告げられ、更に起きる気力が失せました。

 澄ました顔が酷いです。



 「言葉は、毒で薬で水である。飲むに常なるその水は、終生飲みゆく水であり、鼓動を動かす力たる、解毒を含まぬ水である。薬で毒が薄まれど、水に解毒は含まれぬ」


 静かな声に見上げれば、静かな顔に薄く蒼の悪魔が見え隠れ。


 深い蒼さと冷たい水。

 毒が一滴、ぽちょんと落ちた?


 落ちる波紋を感じるが… 広がりますと消えますね? なら、消えるは混ぜ物いーますですか?


 「ゴールドブレンドの真髄が、水であるとは露も知らずと人は言い。軟水と硬水の、なんと大きな違いでしょうか」


 悪魔にピーカン笑顔を見せて、太腿にデコピン返ししてみたが、あんまり効果は見込めない。つっまらないので手のひら、バッタン。その後の静かな空白時間。空白は、灰白でないので落書き時間。


 落書きに伸びた手は俺の手に重なり、重みを食らった手は沈み、「俺も風呂に行ってくる」「おー、いってら〜」で、再び二つに離れていった。




 美味しい水に不味い水。

 甘い水に苦い水。

 こっちの水にあっちの水。


 違いがわかるゴールドさん? 俺の手に流れてきたのは正しく魔水でいーんでしょーか?







 欠伸が「あー」と出るのです。

 昼寝して、風呂入って、夕食食ったらだらけてて。それでも眠くなる、この不思議。


 「む、そーだ」


 よっこらせ〜と起きまして、そそそそそっと見に行きます。隠してないので、見ても問題ないのです。


 「おおお」


 覗くと、デッサンの横に文字と数字が書いてあった。眺めて眺めて、枚数ペラリ。最初に戻って連想ゲーム。もしやこの数、配合比率? にしても、一応指輪以外も描いてんだな〜。


 納得納得とベッドに帰還、ごろっと横になって吟味する。好みとしてはあれが良い。しかし、リングよりトップのほーが楽だろか? …作り易いほーで良い気がするな、メダルは財布に入れてもいーし。


 出てきたら、話してみるか。


 



 「んあ?」


 部屋の灯りに、あれえ?です。ちょっと落ちてた模様。


 「…ふゎ?」


 視界に居ないので、ぽんぽんとそこらを叩くが探り当たらず声もなく。首を起こすも居りません。 …風呂にしては遅過ぎる、どーしたと? まさか、あいつが溺れたか? うそっぽー。


 起きると寝たいが交差したら、ドアが小声でカッチャと言った。続く小さな音で灯りが落ちる。形勢が逆転していく中で、俺ののーみそ覚醒しました。


 お日様の輝きが行方不明。

 そうです、頭が光らない。あるはずの光が! 頭に輝く光がない!!


 動かず、騒がず、慌てずに。

 薄目で最大限の観察を。


 光さん、もっとゆっくり落ちてって!




 体格はハージェストと同じ… 髪の長さも、多分 同じ…  ハージェスト?  え? えー? いやでも、ナンか… ナンか違う…  違う?  ハージェストじゃない? いやでも、ハージェストのはずで。


 首にタオル。


 髪、乾かしてない? え、なんで? あいつ、乾かしてからじゃないと戻って来な… 俺が濡れたらなんとかゆーて… 


 え?


 変な感じで心臓ドキドキ、起きれません。いや、起きてるって気付かれたら拙いんじゃ? え、あれ誰だ? え、誰ってハージェストじゃ? え、え? なんか騒ぎあった? なかったろ!? あああ、光の力がそろそろやばいーー!!


 確認したいが怖い。

 光が消えるのが怖い。


 見えなくなるのも怖いが、寝転がってるのも怖い! 



 俺の感が告げている。


 あれはハージェストじゃないと叫んでる! リオネルくん? いやいやいやいや!!  …なら、泥棒? 黄金の魔王様が居城してるのに虫が発生するはずが!!?



 ギィ…


 たたたた、箪笥… を 開けた、ん、ですよね?  ぎいゃああああ〜〜   こっち、くるぅうううう!!




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