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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
193/239

193 銀の力をカタチに変えて

十三日の金曜日、記念すべき十三回目。さすがダブルで十三の日! 世界同時株価大暴落だな! パンデミック宣言と某大統領の宣言が効いてる。結果と連動と連鎖がよくわかる。そんで、原油も下がってる〜   うむ。


前書きがアレになり、失礼。

では、本日は増量でお届けします。どうぞ。




 浮かれた足取りで進んでは、立ち止まって考える。

 俺を上げ落とす罠ではないかと考える。呼応するのは過去の言葉、知り得た知識。


 「寄せられたは、愛情。 あいじょう。 ……問題も寄せられたが価値ある物に問題は付き物、故に問題は外す。売買も外す。 俺に寄せられた愛情が、この形。 …これが詐欺なら全て嘘、嘘を前提とするなら嘘の価値は何か? そして、それ以上に俺に遊ばれる価値があるのか?」


 …自分の価値がよくわからない。だが、この煩悶も愉快と言われたら何と返そう。


 「見世物の礼なら、わかり易いのに」


 思い出せば、またときめく。心の片隅で未だに悄気る気持ちが反発を生むが、原因も包まれているだけに静まりもする。乱高下が酷い。が、アガリが強い。強い反面、速さに気持ちが追いつかない。切り替えが上手くいってないのに笑えてる。二度と取り戻せない嘆きより、与えられた喜びが勝るのは  土台の所為だ。


 あれがあって初めて今があるのだと。



 『だから、浮かれていいんだ』


 そう思っても、やっぱり少し心が軋む。軋むと捉える以上、無理をしてる。これに関してだけは引き摺ってる。だけど、きっと作り始めたら。この軋む痛みは羽化する痛みに変わるのだろう。羽化は生まれ変わる喜び、それは第二形態へんしん


 ああ、女神なるヒトに純粋に感謝の念を持てる日が来ようとは。




 「少し遅くてよ」


 感慨深くも何か酷い事を呟いた気もしたが、姉さんの顔にそんな事は霧散した。気付けば食堂の扉を開いてた。取っ手を放し、食事が終わって食器を片付けつつある様子に「確かに」と頷く。


 「ノイはどうした?」

 「起きれなくなりまして」


 「体調が戻らなくて?」

 「いえ、そうではなく。状況が回復を… いえ、回復から全てを使い込む状況が…  いや、俺が使い込ませて」


 二人の気遣わし気な視線が生温さを帯びる。後ろめたさも多少は出るが、それより気分が浮かれてくる。


 「何か摘まめる物を、軽くて良い。ああ、甘い物も頼む」


 席に向かいながら注文を出し、「多めにな」と付け加えて退出を促す。戸惑う顔に再度促そうとして忘れていた事を思い出す。進路を変えて歩み寄り、「それから、これを料理長に」と書き付けを渡せば含み笑う声がした。


 「ふふ、まだ駄目よ。淹れさせてないわ」

 「…では、久しぶりに俺が淹れましょう」


 食後の茶を所望する姉さんに微笑みながら、早く行けよと言いそうになる。受け取れど動きの鈍い一人に、片付けを終わらせたもう一人。笑顔で促す、早くしろ。そろそろ境界線を突破しそうな感情が『喋りたいんだ、聞いてくれ!』と叫んでる。その為には、お前達が邪魔なんだよ。


 そうだ、それがわかる俺は冷静だ。冷静だとも!


 「ハージェスト、座れ」

 「え」


 「給仕を受けよ。兄の場ぞ?」


 …優しい目付きで笑われた。キツい。及第とも落第とも取れる柔らかい笑みに頭から冷水を食らって、真の冷静さを手に入れた。その間にも、今一人が俺の席を整え、「どうぞ」と一礼する。


 席に着き、茶が供されるのを待ち。


 

 口に含めば、抜ける香りが鼻腔を擽る… 美味い、非常に美味い。余りの美味さに自然に息みが抜けていく。


 「…はぁ」


 こんなに美味い茶が此処にあったとか!


 「ええ、良いわね。上手になってよ」


 褒め言葉に、はにかむ姿。


 疑問は解けた。

 姉さんの私物なら美味くて当然だ。



 「急ぎ、ご用意して参ります」

 

 押して出て行く二人の姿をゆったりとした気分で見送れた。「そういや姉さん、ステラは? 用事でも?」と尋ねられる程度には頭が回り始めてる。




 だが、話し出すと中間線をあっさり突破する。盛り上がりに過程を素っ飛ばして支離滅裂な話をしそうになる。挙句、こんなに舌が縺れるのは久しぶりだ!



 「ほぅ、完全に溶解させたと」

 「…ノイちゃん、それに当てられたの?」


 「…いえ、それはないかと」


 姉さんの言葉に一瞬不安が過ぎったが、流石にそれはないな。


 「常温でか」

 「異臭もなく」


 質問に説明すればするだけ、設定値の高さに驚く。どうやって俺と連係させたのか不思議でならない。一番最初に触れた事実ならアズサの心遣いなだけ。人の心遣いに気遣いを前提に据える? それは単なる賭けだろ。方法としては不確実。況して、異界の女神。干渉は控えると言ったのならば。



 「そうね、状況から推測する限りは共振だわね。でも、鍵はわからないわねぇ」

 「ノイが嵌めたのだろ?」


 黙って頷く。アズサの行為を容認したのは、消失を前提にしてないからだ。何より、俺は触れてない。それでどうして決定する? アズサで良いなら、俺という指定は要らないだろ。


 「個人を判別するなら、力を特定させなくては」

 「だが、特定させる為の付与で契約の指輪として確立すると」


 現状の考察を続ける兄達の言に口を挟まない。俺は最後の一手を決めなかった。アズサに託したのは、間違えても発動させない為だ。本当にどうやって俺を特定させたのか… この疑問を解かずに女神の力と割り切れば! 異界の女神の大いなる力と決めて掛かれば! 技術の習得にはならないがぁ〜〜  なくても、俺の未来は輝いてるか。ああ、アズサが言う暁の女神は確かに俺に微笑んで、光を投げ掛けてくれていた。


 くっ、なんて有り難い。

 今後、俺もアズサに倣ってお会いした事もない貴女を暁の女神と呼び、その尊称を疑う事をしないと誓おう!



 力強く、心の中で宣言し。

 宣言した直後、悪寒が走った。


 頭の中で、どぱっとナニかが溢れ出た。



 

 …我らが遠き神よ。 ああ、我らを見守る遠き神よ。 神よ。 真、御身は  いえ、我は。語る我は。 我が先の言葉で誓いしは  異界の女、神。 女神を 女神と呼べる力の主であるとした は  尊称は尊称で、あり   女神と奉拝するとした自分は




 咄嗟に紡いだ言葉は立ち消えた。


 何に端を発して、何故に言うのか。理由は心が知っている。理解してる。だから、言葉を紡いだ。だが、語るに言葉を表すと冷や汗が滲み血の気が引く。頭の中が白くなる!


 しかし、衝撃に突っ立っていても意味はない。黙っていては時間稼ぎにもなり得ない。それなら、泣き叫ぶ子供がましだ! だが、時を置くなと逸る心が余計に言葉を詰まらせて  例句として習い覚えた麗句すら出てこない。


 『なんであんな言い回しを!』


 言い逃れ… じゃない! 違う、含みを持たせる幅がない!


 今更ながらに、馬鹿正直な言を紡いだ自分を殴りたい。

 心が焦るが体は動かず、意識が  囚われる  そんな感覚が俺を押し包んで 気が遠くなる。



 兄さん達の声が近くて遠い。はっきりと聞き取れるのに遠い。そして自分自身を強く感じるのは、遠く離れていくこの感覚の所為だと思うと!


 『拙い拙い拙い! ぎゃーーーー!!』


 自責の念も悲鳴も混ざって、必死で足掻くが気持ちで元には戻らない。



 切り離され。

 押し込められた。


 動けない。

 遮蔽感と嵌まった感。


 突き上げる恐怖。

 それでもまだだ、まだイケると自分を鼓舞して抗えば!



 「!!?」


 ずるっと片目が動いた。

 片目だけが。


 ………自分の、この、眼球の、動きが、怖い。



 進行形で怖い。視界のあっちとこっちの写り具合に、なんか変な感覚。素晴らしい視野の広がりに、自分の頭のおかしさを感じて… 一旦、目を閉じる。閉じて目元の筋肉を 基、顔を顰めてみる。その後、瞬きをしてみる。繰り返す。 あ? 繰り返す? 


 なんだ、繰り返せてる。



 噛み締めてもいない口元、体も指も普通に動く。意味なく息を吐けば窮地を脱した感が押し寄せる。


 トッ


 「ハージェ?」


 肘を付いた軽い音に、どうした?と言いたげな二人の顔。 …本気で何もなかったらしい。俺だけ。俺だけが、勝手に、感じた、感覚? 嘘だろ? 嬉しくもない特別感が半端ない。これを神に近づいたとでも言うのだろうか? いや、何か違う。やめてくれ。


 「何時もと勝手が違って参ったか?」

 「そうね、こちらの事情を汲めと言うのは無理なこと。お兄様、ハージェは完全に外した方が良いのでは」


 日常会話。

 続ける二人の会話は既に話し合った今後の予定。キルメルへの。

 

 何時もの口調。

 何時もの会話。


 心が落ち着く。


 だから、強張りを理解する。今も心に薄く滲むモノ(怯え)を見なかった、何でもないと いや、『ないないない!』と手を振って盛大に放り出す! 地面と仲良くしていてくれと、二回三回四回と踏んで踏んで踏み付けて!


 誤魔化す。

 

 そう、俺が神に近づくとかない。ないったらない。俺なんかがとは言わないが、あるはずもない! どちらかと言えば、目を付けられたと言う方がただしぃいいい〜〜〜   いやいやいや、そんなの神への冒涜だ。そう、冒涜。さっきの悪寒は俺の良心の呵責が引き起こした自分に対する戒めの! 


 右の心で祈りながら、左の心で踏み付ける。

 同時進行で双方を等しく平らにしてから、明るい声で明るい話題に振り替える。


 「大丈夫、俺も出ます。礼儀知らずと貶される口実など与えませんよ。それとは別に報告が遅くなり。名前が解禁されました。お前と君を脱して先へと進み、希望通りに愛称呼びも決まりました!」


 「まぁ、認められて!」

 「取られずに済んだか、よくやった!」


 相好を崩して、頑張った頑張ったと手放しで褒められる。嬉しい。二人の褒め言葉と笑顔に少しだけ重ねる過去は、あの時の顔。失敗の内容に恐ろしく言い難い顔をした  忘れ去りたい、遠い顔。


 喜びで思い出すのもナンだが、結局、俺の中で直結する事案なんだろ。痛い時に思い出す代表格な顔だから、今後も何かあったら思い出しそうだ。はは。それなら、対である今の顔も覚えておかないと。


 「ま、あそこまで進んで逃げられたら笑うけどな」

 「どんな外れ(へタレ)をしたのか、逆に気になりますものねえ。うふふ」


 「うっわ」


 晴れやかな笑顔でイジられる。

 当たり前に毒は感じない、感じないから余裕で笑える。軽口を叩いて笑い合える。


 只、心の中で呟いてる。


 俺は礼儀を成しただけ、それだけだと。感謝に礼儀を返すは当然だと、呟いてる。本気で呟く自分にも驚いてる。


 

 『神よ』


 呼び掛けに続ける言葉は出なくても。それでも恥じる事などしてないと。礼儀に反した事は何一つしてないと。呟いてる。御身の前に 隠せるものなど何もなく、何もない。だから、嘯く事など愚かしい。


 俺は、礼節を守っただけ。





 「で、その肝心なブツは」

 「幾ら何でも直ぐに触れる度胸はなく」


 「本当か?」

 「本当ですって」


 「ふふ、お兄様諦められませ。出来たら見せてくれますわよ」


 姉さんの言に深く頷き、「後のお楽しみで」と逃げといた。見せる程度でなるはずないが、素材に混ぜ物はしたくない心境。


 「でも、ほんと異界の女神様はハージェをご存知だわ。あなたを気遣ってくだされる」


 優しい口調に賛同し難い。

 

 黒を食らった銀はどろりとしてた。輝きは以前より鈍く見えたが、それよりも。銀に浮かぶ黒がどぷんっと沈んだ。衝撃を受けた。「あ」で『救出が!』と喚いた頭が遅過ぎる。目が合ったアズサにふらふら〜っと近寄って現実から逃げた。そしたら、アズサが沈んだ。色々混ざって、とりあえず泣いた。泣きながらアズサを引っ掴んで上に転がし、俺も転んだ。



 時の流れは無常の海。

 海を海と知るから抜け出せる。


 抜けて眺める、どろったブツ。どう剥がせば良いのか現実を前に再び押し寄せる悲しみの潮流に誰か救ってくれよと浸ってた。浸りながら、思案してた。ら、いきなり銀が伸び縮み。伸縮性を得て、ゆ〜〜っくりと伸びてえ〜〜 神速で丸くなる。


 余りの速さにボケた。


 丸いそれが今度は左右に伸びて伸びて伸びて伸びてえ〜 ぷるんと二つに分裂。直後の神速の丸まり。一雫も残さない吸着力… いや、粘着? 待て、圧縮… いや、圧縮とは押される訳で…  反動… いやだから、反動なら起点となり引く力がぁ〜〜  あ?


 「流動体を集約するには、だ…」


 初めからそうだったと言わんばかりの塊の前に沈黙と観察を捧げ、多分二つは同量だろうと思考逃げした。

 

 そこに浮かんだ薄い影。

 次々に形を変えて、見事な影絵を生み出して。


 望む形に作れば良い、好きしろと。そう、言葉の代わりに告げて消えた。



 素材となったこれが本当の贈り物だと… アズサと語った事を汲み上げた、素晴らしい贈り物だと! 思いつつ、思いつつ、罠じゃないかと疑ってた。


 「食らう事で補ったのだろ」


 やっぱりな意見を聞けば文句の付けようがない。そこそこしかない俺の技術を考えても、量があるのは助かる。




 「どう考えても、あなたに向いていてよ」

 「お前の力を食ったに過ぎん。その上で含まれるならノイだ。以前とは違うと言えど、実害は出んだろ」


 気に病む事ではないと微笑む裏付けに、やはり女神への奉拝は必須だと思う。


 「やる事が増えたな」

 「本当に」


 「此処で作っていく?」

 「ええ、早い方が良いですから」


 シューレを出立するまでに作り上げないと! あ、真珠。あれまだ何にも。 うっわ、優先…  優先…  ぐはー、並行かよ。本番前に練習もしたいし〜〜〜 でも、今なら石は選び放題だし何か使いたい。大きさを考えると小さめ。屑石より…  削りに仕込みは時間が掛かる。本体は曲線勝負… そうなると、それはそれで腕が要る。


 「特性を忘れるなよ」


 注意喚起が飛んできた。

 そして、俺の食事もやってきた。







 「…うあ?  あー、夢か。 夢ですか。 しかし、なんとゆー」


 横になったまんまで、うーんと伸びをしますが起きる気はない。見た夢を思い出しますと、なんつーかこ〜〜  二度寝で続きは見たんですが…


 女の子の夢を見た。

 十歳前後の女の子。どっちかと言えば、下なのかも。その子が夢の主人公。他にも子供が出てきたから、学校が舞台かと思ったがなんか違った。制服はなし。そんで、同い年くらいの男の子が〜 ヒーローなのかわからん微妙な立ち位置だったよーな…


 彼女達の日常生活を見てた… はずだ。うん、確か。二度寝の前の第一部は、そんな感じだった。


 見てて気付いたのは、彼女は浮いてる。皆の中で一人浮いてる。でも、イジメは見てない。才能の違いのよーな気もしたが、それよりも『この子は、この国の子じゃないんだ』って考えのほーがスルッと出てきた。留学生かと思ったが、人質?なんて思いもした。状況はわからない。でも、ぼっちじゃない。会話はしてる、シカトもない。


 「原因… なんだっけ?」


 見たよーな気もするが、第一部は既に薄れてる… 見た記憶はあるのに夢過ぎて、思い出そうとすればわからなく〜〜  まぁ、第一部が終わったのは俺が怒った所為ですが。


 何かがあって女の子に対する態度が悪くなった。

 それがエスカレートした。


 見てたから、「それはその子の所為じゃねー!」と吠えました。すんげー腹が立ちまして、怒ったとです。そこで第一部、完。目が覚めた。夢のドラマに怒ったのが俺です… 


 自分で「うわー」って頭抱えた。「続き、続き、続きをきぼーしまー」つって寝直したら、続きが見れた。俺、すごい。


 但し、第二部では場面が違ってた。


 女の子はドピューンと大地を駆けてく鳥さんに乗ってた。草原の真っ只中を単騎で駆けてく。途中で周囲を見回し、空を見上げて、スピードを緩める。鳥から、バッと飛び降りる。お疲れ気味の鳥を伏せさせ、自分も伏せる。


 草に隠れよーとするけど、隠れきれません。


 そこで周囲を再度キョロりつつ、中腰なって両手で草を掴んで「うーん」です。そしたら、大地がズルルルッと引っ張られたんでビビりました!!


 ですが、実際は複写コピーだったよーです。


 だって、草原がダブりましたから。持ち上がった状態でダブってたから、本物じゃないでしょう。大体、根っ子も泥もはっきりしないし。持ち上げた草原を頭から被る。片手を大きく動かして鳥も覆う。そして周囲に溶け込んだ。


 だけど、夢が夢でわからない。あの時、あの子は一人と一羽だった。なのに、迷彩として被った草原は広かった。広過ぎた。あれ?と首を捻ったら、いつの間にか複数の気配。誰かが一緒に隠れてた。何でかさっぱりわかりませんが、こっそり紛れましたじゃなかったです。


 それから、空中に人の手。


 見上げる青い空、手首。同じ高さで見てる背中、揺れるマント。俺の視点が定まらない中で、腕と逆光からなる黒い影。最後のピントは、手。その手と体が動いたら、ぱああっと広がる何か。


 ううむ… どーやら、誰かが投網をされたよーでして。


 落ちてく網が途中で炎に包まれた。

 ボッと燃え上がり、あっとゆーまに燃え尽きて灰も残らず空中消失。


 手が握り締められ。


 再び網が広がりました。今度の網は銀色ピカピカ、キッラリーン。これまた綺麗に広がって落ちていきます。さっきより落下速度が早いです。


 今度も着火しましたが、ボッと燃えはしませんでした。どうやら銀色、ワイヤー製のよーですよ。しかし、それでも着火はしてる。火を纏って落ちていく所が何とも言えません。


 燃えてる部分を先頭に銀色はヒューッと落ちていきますが、落ちてく間に形成変化。バタフライからスネークへ、捻れて歪んで白蛇ならぬ銀蛇になって〜 最後は丸く塊になって地面に激突、ドーン!です。


 ええ、もうすんごい衝撃音に土煙。


 大地も草も大惨事。でもって、銀塊燃えてます。メーラメラと燃えるのですが不思議な事に飛び火はせず、火災による大惨事は発生しませんでした。ですが異常な事態ですので、異常なままに何時でも大惨事になるのかもしれません。


 そこで、場面転換した。



 草原から森の中。

 木漏れ日が注ぐ先に、溶けた銀色。

 鈍い色は黒くも見える。


 歪な塊。


 そこに人が立ってる。何をしてるのか不明だが、いきなりせーめー反応もなさ気な銀色が動き出した。小さな動きから右へ左へ小刻みに震え出して〜 ぶよんとしたら、小型のメタルなキングっぽいのになった。


 はい、他に適切な言葉が浮かびません。


 その人の前で暫くぶよんぶよんやってた。その後、あっちへびよんのこっちへびよんで周囲を見回してるよーでした。一通り終わったら、今度はぶるぶる震えてる。


 何やら、訴えてる感じ。


 「寂しいのなら、二つに分かれてごらん」


 首を傾げる雰囲気で、ぶよんと震え、ぷよよよよ〜んから二つのメタルなスライムっぽいのになった。うん、二つに分裂した。やってごらんと言われて直ぐにじっこーできる所が有能ですね! 『すげー!』って驚愕してたら、分裂した二つがぶよんぷよんしてた。


 一つがぶよよよよ〜〜んと高くジャンプしたら、もう一つはぷよよんと円を描く横転がり。うむ、個性が違いますな。


 ぐるぐるぽよぽよやってた二匹。二匹同時にぽんと頭を撫でられ、落ち着きます。しかし、ちょっとぐにゃってる。ぐにゃる視線の先は互いの頭、人様の手。そこでどうやら、これは自分ではないと理解したらしい。それから、ぽよぷにぷにぽよスライム遊び。先ほどのが『謎』感情でしたら、今度は間違いなく『嬉』感情。


 ご機嫌な二匹。

 揃って冒険の旅に出た。



 しかし、直ぐに一匹が振り返る。


 こっちに向かってぽよんぽよん。最後の挨拶っぽい。だが、もう一匹は気にせずどんどん先に行く。挨拶に満足した一匹が振り返った時には素敵な距離間。まじにビビって、びょんと飛ぶ。聞こえないが叫んだよーだ。そこで、もう一匹も気が付いた。あっちのジャンプ力もすごい。


 慌てて双方突き進み、ぶつかる寸前でびよんとくるり。くんくるくるくるメタルバターで衝突回避。


 でろーんから復活。ぷよんとぽよんを繰り返し、落ち着いたらしい。こっちを向いて二匹で一緒にびよ〜〜んと飛んで、ご挨拶。今度こそ、冒険の旅に出た。



 森の中へ消えてった二匹のメタスラっぽいの。


 簡単に狩られるなよーとか俺の一推しははぐれだけどな〜とか目の位置よくわからんかったな〜とか思いながら、何とな〜くで手を振った。元気でな〜って。


 それから、問題のお人。



 居なかった。 

 忽然と消えてた。


 いや、もしかしたらメタ達に気を取られ過ぎていたのかも。居ない人を探して、あっちこっちそっちを覗く。しかし、どこにも人は居なかった。


 立ってた場所に立つ。

 メタ達が生まれた場所は緑の草が生い茂る。痕跡があるよーでないよーな… 周りの木々を見回して、空を仰ぐとぽっかりと開いた空間。




 「そこで第二部、完。くは〜〜」


 ベッドの上でごろごろしましても、それ以上は思い出せません!


 「うぅむ… 綺麗に纏まって終わったが…  肝心のあの子はどーなったと!? くっそ、三度寝したらどっちか続きが見えるだろーか」


 無駄な気はするが丸くなる。横向きで毛布様を足の間に引き込みつつ体勢を整える。頑張って思考放棄してたら欠伸が出た。寝れそう。続きを希望して、顔を毛布様に突っ込む。



 「…んぁ?」


 妙な音がする。

 耳を澄ますと何か聞こえる。小さな… 何か、そう小さな気配が…


 「ヒューン!」

 「ぶっ、アーティスか!」


 バッとドアを見ましたら、「ヒャウン!キャウン!」でドアがガッチャ!と文句言い。なれど、ドアさん不動です。誰かさん、もしやの危険に備えて鍵を掛けて行ったよーでして!


 「いくいくいくいく、今いくかんなあー!」


 毛布様から抜け出し、降りようとした。


 「っぬあ!」


 バランス崩してダイブする。手を突っ張り、激突を拒否! 片腕ぷるぷるなる前に、素早く足を巻き込む毛布様ごと横滑り。成功! ちょっとドキドキ、心臓さんがビビってる。


 「かあ〜、あぶね。にしても、おかしい… ちび猫を…  なれるもんを持つ俺がドジっ子スキルを獲得するはずがないとゆーに!」

 「キャウン!」


 「違う、怒ってなー! ちょっと待つー!」

 

 毛布様を足蹴にしてはならぬので、蓑虫ほどけるごーろごろをしてたらドアが開いた。


 「…何やってるの?」

 「たーすけえ〜 より、アーティス頼む〜」


 頼めば、そこから全てが正常に動き出しました。




 「よしよし、大変良い子です」

 「キュッ」


 ハージェストの帰還と共に俺の軽食がやってきた。時間に気付いて驚きです。しかし、準備をしてくれるメイドさんの声は聞こえど姿は見えず… そして、遠去かる足音… 


 最後はハージェストがテーブルに並べて、俺はうまうま頂き係。


 「午前の希望が、もう叶うとか」


 果物たっぷりフルーツサンド。

 そこには、もももものももさんもお出ましです。くあ〜 思ってたのと違うけど、これも良い〜。


 こいつに頼むと仕事が早いと感動しながら飲み食いしてた。もちろん、アーティスにはジャーキーやった。アーティスの強請りは俺の強請り! だいじょーぶ、アーティス太ってない。 …ないよな? 数回だもんな。




 食べ終えて、満足したアズサが「夢を見た」と話し出す。ふんふんと聞いてたが技術的な話が出たので詳しく頼む。「こんな感じで」と腕を動かす。「そんな単純な」と呟くが、どうやれば俺の技術で可能になるか?と、つい考え込みそうになった。「それで」と続く言葉に意識を戻す。


 「三部を見損ねて残念です」

 「二部で既に内容が飛んでるようだけど?」


 真顔で言うから、真顔で突っ込む。

 それから、『真実の突っ込み所はどこだろう? ああ、あそこだろう』と自答した。


 女の子の正体や示唆するものは不明でも、どう考えても最後のは〜  間が合い過ぎだっての。見てないのに見てる、見えなくても見る。

 

 なーんか怖いなー。


 

 「では、嘆きをぶち撒け。君の残り僅かな体力を空にさせた、その後の顛末をお見せしましょう」

 「あ、無理すんな。直視は石化だ!」


 「大丈夫、石化なんて可愛いもんだよ」


 腕を伸ばして、傍にどけたブツを取る。



 どこかこーわい返事に食器をどけてスペースを確保。そこでハンカチ様が静々と開かれ、俺は見た。


 「メ、メタスラ… お前ら、こんな所にいたとゆーのか!? 冒険から即捕獲の道を辿ったなんて!」

 「いや、初めから旅に出てない。生まれたてを旅立たせるなんて非道だよ」


 冷静な突っ込みに、ちょっとツマンナイ。そんで気付く。


 「…お前、怒んないのなー」

 「ん?」


 「いや、不真面目だとか茶化すとか」

 「あはは、怒ってもいいけどね。君のは素で安定だろ? さっきので絶対言うと思ったし」


 「にゃっはー」

 「でも、苛つかせる手法(精神攻撃)と自覚してるなら〜 ああ、そうだ」


 そこで、もしもの注意喚起をくれました。できた標語は『気を付けよう、レオンさんは真面目な部類』。まーだ習ってない、うーん。



 

 「溶けて一つに、そこから二つ(ツイン)になりました。間違いなく、一つは君の分」


 最後の挨拶で遅れたメタスラと、進んでったメタスラ。光る個性。あれが俺とハージェストなら、俺はどっちのメタスラだ? そんで、俺の分て… え、貰っていーんか?


 目で促すから一つを摘んで、そっと手のひら転がし。スライムとしてはとても小さく、球と呼ぶにはよろしくない。


 「でね」


 説明を聞きながら、ハージェストの手にぽい。もう一つもころころ遊び。どっちがどっちと言われてもどっちも同じな気がします〜。


 「ヒュー…」

 「ん、どした? 無視してないよ〜」


 これもハージェストに回して、拗ねるアーティスの頭をナデナデ。ふすーっと鼻を鳴らして喜ぶアーティスは可愛い。その間にハージェストの手のひらから、ハンカチに降ろされるスラ達。


 「悲しくはある。だけど、だから二つ。正しく、君と分け合える。 …………これで良かったんだ」


 

 うわあ…  笑顔が眩しい…


 この眩しさの裏には、動揺と涙の物語があったのです。「全部、溶けた」の棒読みに、俺の心臓止まりかけ。「どーしよう」と俺の肩を掴む顔と手の震えにダブルの衝撃。その後、揺さぶりのトリプルに俺のたましーは体力を道連れにしょーてんの振りしてぶっ倒れ逃げした。今も片隅でビクビクしてた心が… ほんと〜に楽になり。ああ、これが徳の光とゆーものか…


 だって、あなた。


 なにをゆーても所有権はハージェストにあります。結果、オーライのリサイクルなんてドロボーと何が違うか言ってみろ!って感じです。まぁ、俺がしたんじゃないんだけどさぁ!



 「それで」


 はい、メタスラ達は生まれ変わります。希望と宝飾スキルとメタスラの重さと身分証明書その他を合わせて現実を擦り合わせると、一番無難なのが指輪。なので、メタスラ達は双子の指輪(ツインリング)に輝く予定。素材を活かしたメタスラの耳飾りを想像した俺は〜 毒されてる?


 「何せ、初めての事だから」


 一つを分けた二つだから上手い事できたら、よくあるサーチ&デストローーイ! じゃ、なーくーてえ〜


 「なぁ、それって矢印出るほーこー?」

 「え?」


 map出ないし、基地局ないし。 …りゃ? 片割れって割符的な? え、どっち?





 「あのー、普通そこまでしないんじゃ?」

 「うん、普通のにする必要はないね」


 問答無用で俺のリュックに片付けた。メタスラ達は道具が揃うまで寝てなさいです。ハージェストの作ろうとする方向性を聞いてた。すごく楽しそうでアゲアゲで、俺も楽しくアガるんですが… どーしてか、睡眠要求がですね。


 「ごめんよ、簡潔に話さなかったから」

 「うやー、あれを簡潔にされてもー」


 「ほら、横になる」

 「うー」


 「体調が戻らなかったら「だいじょーぶ、今日明日寝たら回復ばっちり! 絶対、明後日遊び行くー!」


 キルメルから人が来る。

 明日と明後日を外すとハージェストに暇はない。そーなると遊びに行くのは先送り。来た人に俺がご挨拶する必要は微妙な所のドキドキさん。


 明後日、絶対遊びに行く。

 なので食っちゃ寝ですが、夕食までお休みなさい。


 


 





 女が贈った銀環。

 力を宿した契約の銀。


 贈った時点で約され済み。ハージェスト・ラングリアの願いを叶える事が約された力である。


 但し、叶えるのは一度切り。


 説明書は出せないので、本人がよく知る召喚を模した。これなら想いを込めて願う事が大事であり、機会は一度とわかるはず。この解釈の元、女は力の形を決めた。模したが故に召喚仕様と考える事も想定内、思い違える事を承知で贈った。


 贈る女の真意は、『疑わなかった』に尽きる。



 


 摘み(二指)で目覚めた銀環は認証(指紋)を照会し、十の内の二と認め、接触部と周囲に合成物がないか念入りに探知。その後、声紋と生体を登録。個人登録完了後は、ずっと願いを待っていた。


 

 斯くして、黒を寝床に吟味する。


 二人で使いたいから使わない? → 同じ物が二つ欲しい → 二人分の願いを叶えたい → 個別案件聞いてない → 二つないなら使わない → だから、二つ欲しいです?

 

 寝床から感じる力は閉じて終わった残留ブツ。薄くともブツはブツ。先の二人の気配に、くれた寝床。重なるブツと行動に吟味を続ける。願いを叶えるに重要なのは、理解であり曲解ではない。曖昧ファジーの中から見い出す事こそ、叶える力のぜっこーちょー!


 銀環は理解した。


 絆を望む、その心。

 食わずとも、イケるが食ってみせよう 心意気!



 心してモグッた。

 他愛なくも大事な願いを叶える為に取り込んで、使わないとした願いを叶え(覆し)てみせた。



 全ては願いを叶える為にある。








指から把握。

かの状況下で一指も触れなかったら残念賞 を、通り越して珍事ではないかと。






本日の連想ゲーム。


メタルバター


一、 食べたら危険、水銀。

二、 そのままでろーんと、はぐれ。

三、 壮大なスケールで、銀河。

四、 真実、溶かしバターの海にアラザンを投入。


四は大量投入で真価を発揮するでしょう。さぁ、どれを選ぶ?

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