188 心へ返す
台風19号の被害が少ない事を祈ります。
本日の晩ご飯も部屋で摂っております。美味しいです。そんで、お菜には酢の物が出ました。それをもぐもぐ頂きますが…
「なにか味が… うーん、なにかこう〜」
「その何かとは、お酢ですか?」
「そうです。これがお酢だとわかるのですが…」
「ああ、慣れない味?」
「そう!」
「果実酢はなかった?」
「俺が口にしてたのは… こーこここ〜の〜 こーめーず〜 に、穀物酢が主でした」
「へえ」
そんなこんなと話しつつも、一人の食べる手は止まりません。半分は食べなよ、とゆー何時もの優しい言葉も掛かりません。まぁ、食べれるし食べてますが。
「生を搾ったものに変えようか?」
「へ?」
片手を握る仕草は生檸檬。生搾りの生果汁!
あっさり丸々一個を使用しよーとする所に贅沢をみる俺は貧乏人… お酢も檸檬も貧乏人も、どれも酸っぱい部類です。酸っぱさは人にどんな影響を与えるのでしょー?
「んにゃ、ちゃんと料理長さん達が作ってくれた味を頂きまー。次に無理なら代替品で頼んますう〜」
「ん」
反応が… ひじょーに悪い。後は黙々と食べます。
「書きますか?」
「はい、短文一発いきまーす」
気付けば食い遅れてた。速度を上げて完食し、ちょい休憩。ワゴンに移して場所を明けたら、教えて貰ったニュースペルと覚えてるスペルを駆使して書き上げ、斧正を仰ぐ!
「はい」
「にょー」
がっくり肩を落とします。一刀両断されました。赤ペン先生から花丸を頂ける日は、まだまだ遠い… 遥か彼方のそのまた向こうに輝く星は花丸の!
「現状を考慮すれば、よく覚えてる方だよ」
「だよねー」
うきっと切り替え、書き直し。見直しに「よし」と頷き、もう一度。今度は通ったそれをワゴンに乗せて、廊下へ出したら定位置止め。それから話を振ったら、その前にとシャワーを勧められた。それもそーだと風呂に行く。の、です、があ〜 そこはかとなく… いえ、ずっと… 塩対応、食らってる気がしないでもない。なんだろう、この感じ。
「あんまり時間が掛かるようなら」
「大丈夫、浸かるんじゃないし」
「じゃあ」
「ん」
そんな事もなかったよーだ。が、何となくのしょっぱさを拭えない。酸っぱくないが似たよ〜な感じが、どうしても。しかし、塩と酢は大いに違うので同じにしてはならないは ず、なのですが… うあ?
そーいや、お酢って塩が入ってましたっけ?
ザァアッ…
お湯を浴びると、ちょっと浸かりたい気分で頭を洗う。洗い流しに、また湯を浴びると頭は何にも考えない。流せ流せとよく浴びて、「違う違いも泡と消え〜 いえ〜」機嫌よく腕を上げて体を洗い、また湯を浴びる。
「ん? 足の爪、伸びたか?」
親指の辺を指で擦ると、指がずるっと滑った。
「…ぎゃああ〜 洗い残しぃ〜」
洗いが足りんかったかと指で擦れば擦るだけ垢が出てきて大量です。おかしいな、ちゃんと洗ったはずなのに。まぁ、新陳代謝でキレイキレイですからあ〜。
「きーれいはぁ だぁあっぴ〜 かーわをー むーくう〜 ほんとか?」
うだうだ歌って洗って、これでよし。
新しい寝間着を着ると気分爽快。しかし、サンダルが欲しい。今の室内履きさんは夏向きではないので、そろそろ変えたい。でも、靴よりは楽なので履く。
「押入れを探してからだな」
マーリーおばちゃんに頼む所を想像すると、「まぁまぁ、こちらに」と言いながら押入れから出してくれる姿が浮かぶのです。
洗面所を出て、部屋に戻ると居なかった。ので、寝室に向かう。
「出たよー」
ほこほこで帰ってきたら、エアコン様が止まってた。何故だ!? しかも、あいつ居ないし!
「ん、これで良い」
「おお〜」
ぱちぱちと拍手しました。
俺の為のリモートコントローラーが完成した! ええ、作ったんですよ。それも短時間で。すげえ。実演の時も綺麗だったが、空中に描き出す光の構築ってのは〜 何度見ても見飽きない。
指を弾けば淡い光が生まれて、宙に浮く。見つめるだけで踊り出し、俺には読めない羅列が刻まれ、帯のよーうに伸びていく。視線が止まれば刻みも止まる。眺める眼球が羅列を浚い、スッと視線で押し出せば、羅列の最後が自分の代わりと光を零して滑ってく。零れた光は次の羅列を刻んでた。帯はくーるり体を捻って顔を上げ、状態をキープ。次のアクション待ってます。
素敵に頑張るポージング。
一連の動作が繰り返されて、螺旋は上へ上へと伸びていく。なんだか形はDNA。解読不能なそれが動かなくなったと思ったら、レールの方を眺めてた。視線を下ろして再び螺旋を読み直し? いきなり見えない回転台が低速で動き始めて動かないモデルさんを披露する。
「よし」
その一言で、DNAモデルさんは縮んだ。上下からギュウッと圧縮されたら反動で膨れて、お腹がぽこん。細長さんは丸い玉に変身です。変身後は重力を得たらしく、降下を開始。それがまぁ、ゆっくりと。
ブツに向かって角度を修正しつつ降りる様子は、重力に抗ってるとも言えそう。
ズレる事なく真ん中に沈んでいくのも、「単一の定着だから、直ぐだよ」と言ったのも。『ああ、こいつ… ほんとにすごいよなぁ』って。通信系でもオン・オフだけなら簡単だと聞く。でも、温度設定なんて難易度高くない? 基本のフォーマットなしで作成するこいつの頭。のーみその違いに俺ののーみそが痺れるう〜〜。
カタン。
「あ、どしたん?」
「いや」
手振りでいいよとされたので動き損ねる。席を立って部屋を出て行った。やはり、今までにない塩加減を感じる… 耳を澄ませて神経はあっち、隣に行ったよーだが…
直ぐに帰ってきた。
良かった。
だが、手にしたお盆に目が釘付け。
お盆をテーブルに置いたら、また移動。
箪笥を開けてる間に瓶をまじまじ。一つのグラスに二つの瓶。中身が半分な瓶の中身はなんでしょう?
荷物から取り出した瓶を片手に戻ってくると、お盆のを取り上げ、同じ二つを見比べる。かったるそうな顔で取り出してきたのとお盆のをチェンジ。一本、片付けに戻る。同じ物は同じままに入れ替わった。
無言で戻ってくる顔の眉間の皺に沈黙を選択。単に声を掛け辛い…
ドサッと座ると瓶を取り上げ、中身を注ぐ。とろりとした液体がグラスの三分の一を満たす。無造作に次のを流し込めば、空気がトポポッと声を上げる。二つが掻き混ぜられて、赤紫の液体が完成。
ぐいっと傾けてえ〜 「ふはあ〜」 中身を飲み干した。魔力水、一気飲み。そこからの脱力。行為の全てが何かを語り、態度の全てが示唆をする!
「あの、最初に入れたの何?」
「どうぞ」
単調な口調に視線は来ない… そっと手に取りふんふんと匂いを嗅いでみた。慎重に傾けて手のひらに一滴ぽちょん。んで、ぺろっと。
…夏の風物詩、濃縮還元にゅーさんきんいんりょーみたいな? 葡萄のよーな? そうでなくても希釈のジュース。水を飲むよか飲み易いと思われ。別々の方が雑菌は入らないかと思われえ〜 って、糖分摂取! 疲れた時には糖分さん、必要なのは甘味です。出番は甘味で鹹味の出番はノーセンキューのまた今度! はい、いらっしゃーいはお菓子箱!
「お菓子あるよー」
「ん?」
返事を待たずに動いた。
「で、使い方ですが」
「はい」
待ての解除に飛びつきます。できたリモコンはタッチパネル式でした。ちょんと触ると表面に広がる光。
「お〜」
…感動です。感動の嵐です! 液晶パネルでもない物が光るのです! 鏡面の様に映し出す、このこの、この画面がああ! さっきの構築がそうさせている。そうさせる為のモノも組み込まれてるってこったあーー!
うあー、馬鹿っぽいちょちょちょちょちょんが たーのし〜い。
「あり?」
「…あのね、連打は無効だから」
「何と! ショートカットで切り捨てえ〜」
「誤作動となるものは切り捨てて当然」
うあ、かっこいー。
二杯目作ってる姿が完全に酒飲みだけど。
「ところで、元々のはないの?」
「まぁ、ない事もない」
「ん?」
「此処は一番の客室でして」
「へ?」
「元々できる人間しか泊まらない部屋だったもので」
「…うあ」
「君が使えない物を差し出しても嫌味になるかと」
「うにゃーあ」
そーでした。
少ないとゆーこいつでさえ、明かりはお手振り一つでできるのです。
「学舎とか公共性の高い場所なら、大体は壁に設置されてる。最低限はないとうざいし、最低限でないと面倒だし」
「は? ああ、コスト?」
「…まぁ、そうとも言う。 ふふ」
塩気が抜けた、何時もの顔と何時もの声。自分の思い違いを反省。あの塩気は疲れた体に鞭打っていたのだと、感動。手にしたリモコンを言われた通りに操作すると、もっと感動! ハイテクな事にも悶えるぅ! 家のリモコン、タッチパネルじゃなかったぞー。
「ところでさ、あのレールの排熱とかどーなって?」
「は? あれに対する排熱… って、なに? 消費か劣化の話?」
…うん、回路が違うってこーゆーんだな。
とりあえず、感動をそのままに作ってくれたお礼を言ったら「明日には天蓋を設置させよう」つった。上から降り注ぐ分、冷えるのは早いし涼しいが直撃は寝冷えをすると言うんです。
「ちゃんと腹に掛けて寝たぞ」
「でもなー」
「や、涼しい中で布団かぶって寝るとゆーのも〜」
「一応、虫除けは植わってるけどさ」
「ほわ?」
そこから知った天蓋とは。
天蓋とは!
ええまぁ、普通に網戸はありませんから。寒い季節は一枚でも遮蔽物があると空気が変わる。幕を張るその心は?と問われますと〜 そりゃー、炬燵に掛け布団は必須です。ですが、男二人で寝るベッドにレースのひらひら素敵に透けてるお姫様カーテンとゆーのは〜 どう思われますか?
だが、夏のレース天蓋こそ偉大なる蚊帳。絶対正義!
「決定ね」
「…はい」
どーもこーもないよねー。マラリアとか怖いしさ〜。
「それから、俺の安心の為に床では寝ない様に」
「あれは事故です。不幸ではない事故なのだ!! 皆々様と一緒の雑魚寝以外は認めないと固めた決意は捨ててない!」
「兄さんの起こし方が違えば、俺は君を踏み付けていましたが?」
「お前の事を考えていた結果であるとゆーに!」
「俺?」
「そうだ、突発性の事故なのだ! うう、突発でない事故とゆーのはなんであるのか…」
不本意だと訴えつつ、寝ている間に確認した事とそこから推測した話を 話を 話を〜 ちょっと順序を間違えながらした。つっかえてはいない、滑らか〜に間違えた。いやほら、感情が先立つと前後が狂うよねー。
「あの後、そんな事を」
「そーです、俺は確認をしていたのです!」
「…俺が、「君も寝ろよ」と言ったのはどこに?」
「…はい?」
「…言ったっけ?」
「…言わなかったっけ? 手を掴んで離した時に」
言ったはずだと沈黙で押すが首を傾げて捻り続ける。本気で聞いてないらしい。そうなると、今度は自分が怪しくなってくる。言ったつもりで言ってなかった? それとも、この顔は演技か?
暫し思考に固まれど、追求そのものがどうでも良くなった。
気付いた光に心が歓喜し、急速に満ちる渦に邪魔だと疑惑を蹴り落とす。溺れる程に浴びれば良い。
それでも、「あんな状態で這い回れば床に転がって当然だ!」と唸る感情を「俺への気遣いを喜べよ」と折って折って小さく折り曲げ、『注意事項(二方向)』と記載して更に折り曲げ、形を変えて。
満ちて生まれた熱を吹き込み、膨らませ、宙に飛ばす。
滞空時間が長いのは、熱の力が… 膨張率に燃焼率が高いからだろ? なんて逸らしてみても嬉しいからに決まってる、舞い上がってる。どんな形でも、自分の努力の結びを知るは心が騒ぐ。
意識されるってのは〜 良い。
「…いや、だってほら。あの時でないとわからないと思ったし。その、まぁ、自分の体力を過信 して、いた と、ゆーか 全くそんな事は考えなかったといーますか。納得して頂ける事しか考えてなく えー えー 大変、申し訳え〜 ないのか、これ? あれえ〜?」
その時でないと得られない。
そこに分岐を据える俺が謝罪を受けるは間違いだ。ま、謝ってない。うん、君は正しい。
「とりあえず、謝っとけにならない君が好きです」
「うお?」
「俺が上で安穏と寝ていた間、君は下に転がってた。目にした事実はきつ過ぎて自分が燃え尽きそうでした」
「…いにゃー、にゃははは」
「まぁ、尽きる前に別の導火線に火が点いたけどね」
「うなー、はははは」
「はい、そこ猫語で躱さない」
「あー」
「君なりに、頑張ってくれた事に感謝を」
自分でも良い顔してると思ってる。
だって、心が浮かれてる。
浮かれた俺の心は飛び越える。序でに悪意の頭も押さえ付け、笑いながら置いていく。飛び掛かってくる恐怖も身軽に躱し、弾みをつけて空へ飛ぶ。飛んで見えない足場を踏み付けて、更なる高みへ飛んでいく。悪意と恐怖が見上げてる。飛べないから見上げてる。俺はそれを意識する。
意識が高みを感じてる。
あれらが動かず見上げる先の。
この手の中の、輝く星。
星が俺を引き上げる。この高みへと登りしは 星の導き。
「…怒ってない?」
「ない、努力を有り難う」
「…あ、あー あのさ、他に調べる方法とかあれば試すんだけど」
「いいよ、確かめてくれたんだろ」
「それはもう、きっちりと!」
「じゃあ、問題ない」
星を一つ、貰った。
「…解決してないけど」
「今度あったら、起こしてくれる? 俺も君を起こすから」
「…長期戦を視野に?」
「そうとも言うし、君を信じるとも言う」
「…うにゃーあ」
「照れて行う、ねーこ逃げえ〜」
悪意と恐怖を下に見ながら 踊るは、星の輪舞曲。
「い、いやいやいやいやあ〜 猫は俺で俺は俺で俺が にゃーあああ〜〜」
「あははは」
怒り続ける方がどうかしてる。
「今度は体力の把握をしないとねー」
「うう、一応は気を付けてたのにねー」
こんな形で貰うなんて思わなかった。
「鈍いとか」
「集中が高いのです!」
「だね」
「うえ?」
気遣いこそ、光の欠片。
輝く星の訪いに、悪意も恐怖もそのままに、優しくなれもするだろう。
二つ目の星は。
決意をも覆した光。
貴重な星を贈られた事が嬉しい。この星が嬉しい。嬉しいから、比較する。自分と。
だから。
輝きに見るは、自分の影。星に示すは、自分の形。
顕示せよと告げるは、
ごねられる。
又は、鋭い指摘がビシバシ飛んでくると思ってた。そろそろ飛んでくるなと思ったら、気配が綺麗に消えてった。
未解決事件が「再び起きる!」と宣言されるのも微妙だが、探偵と事件現場が不変な事件であるので仕方ない。微妙に解決するかも怪しいが、機嫌が良いのは良い事だ。
「君が我を忘れて頑張ってくれたので」
「ちょい待ち、そのいーかたは褒めてないのでは?」
「… 」
「… 」
「その頑張りに俺も応えねばと思いまして」
「しれっと飛ばすとか〜」
「集中力を高めて前後不覚になるまで頑張り、うっかり床で気持ち良くなって起こされるまで「それ、やめ。嫌。終わらない課題に集中した挙句、床で寝落ちしたとゆーしょーもな あ、まんまだ」
「ぷ」
「そこ、笑わない!」
「いやー、それが真実だと把握してるけどね」
塩気が抜けた何時もの感じ、空気に安心。今度は席を立って行ってもへーきです。安心して見ていられる。今度は何を取ってくるんかな?
「これの話を、しようか」
ハンカチの中身は黒の指輪に銀の指輪。色違いの二つはそっくりさん。でも、大きさは違う。はい、あれですね。
「本音で話すと最初から意図は読めてた」
「なんですと?」
「読めたから、試練と考えた。だけど、捻くれた考えは損だとも思った。深読みに好意と物欲と時期と矜持が鬩ぎ合えば、哀れみが乱入してくる。現物への感嘆が敬重と傾倒を呼んだら、最後の機会なんて詐欺にも似た後光が差し込む」
「ほわ」
「正確過ぎる狙いに、間違いなく俺を把握してると唸ったよ」
おねえさまには聞かせられない口調でしたが、話の続きを聞いてると俺の方がうにょってくる。読み解きを聞けば聞くだけ、過去のうにゃりが顔を出す。
「…ぺしっとすれば完成」
「そう、完成」
「その後、がっちゃん」
「いやいやいやいや、そんな乱暴な。嵌め時は優しくだって。その擬音だとブツが違うよ」
「しかし、やっちまったら同じでないか?」
「思考力の低下を認めます」
「う」
「大体、雰囲気の一つも出せない相手の所に行きたい? あ、もしかして野外の方が好きだったり?」
「はい?」
「公開形式の方が盛り上がる口?」
「あ? いやいや、なんか話が飛んでるぞ」
「ああ、そうだね」
二人して「あはは」と笑って手を振って、目を逸らした序でにリュックを見る。水筒も見る。上がる気持ちを落ちるけつ! …違う、落ち着けえ〜。ちゃんと俺も好かれてる。俺にもくれてくれたのあの水筒は確実に俺んだぁ!
「君に使うのが一番手っ取り早いと考える。対外的に無理のない説明が可能だから」
「………ぬぅうう」
「でも、ここにきて新たに選択肢ができた。本来の目的で使用する」
「リアル呼ぶのか!?」
「現実に現実を叫ばれても」
「…成功すんの?」
「昔よりは楽、力は増してる。成功の保証はない、理念に従うから。言ったろ? そんなもんだって」
「でも、出来はする」
「行うなら立会いが必要で、それなりの場所も要る。学舎は最適だけど、あそこではやりたくはない。日程もある。その点、ここの地下は適切。対処できる人材も揃っている。俺に瑕疵をつけた奴らなんぞを呼んで、この指輪を確認の名目で晒すなんざ絶対に「おーい、どこへ行く気だ。帰ってこーい、顔があっちにいってるぞー」
引き止める一方で俺のボルテージは上がりつつある。
一目見て、指輪の意味を読み取った? あの時、そんな顔はしてなかった。ちくしょう、こいつは演技派だ!
「使用を迷ったあなたは偉いです」
「ですよね」
「仕様に悩んで正解です」
「そうですよね!」
「だけどさ、フェイクの為に呼ぶとゆーのは…」
「そうなんだよね、動機が不純だし。馬鹿正直に呼んでも来ないと思う」
そうだろうとも。
そこで一つの妥協案。いや、成功したら楽しいし。
「俺も参加できない?」
「契約を拗らせるは哀れだよ。離反や相反に苦しむは呼ばれた側、両側から手を引っ張るの?」
「あー」
名奉行は手を離すを良しとした。やはり、妥協は良くないよーだ…
「心配しなくても、呼んだら俺が最後まで責任持つからさ」
さらっと流した笑顔。
その笑顔に緊急自身速報が流れる。しかも、さっきから点灯してる警戒信号が最大限まで引き上がる。
がちでまじに流れ続ける緊急速報。
見落としはしない、警戒は怠らない。これが運命の分かれ道。ならば、慎重に。検討・審査・選考よりも実行を。
「最善ね〜」
緊迫感ゼロを演出しつつ、呟く。即答はない。メリットとデメリットがゆらゆらする話を聞くが、『違う、そうじゃない』感が満ちてくる。
「他は?」
「え?」
わかってない顔にイラッとした。
「わからね?」
「何が?」
懲らしめねばなるまい。
「ちび猫にライバルを呼ぼうとは… お前、どーゆーりょーけんだ!? ああっ!?」
「ちょっと待てえ!」
「そんでアーティスも捨てる気か!」
「どーしてそーなる!!」
「古いものより新しいもの、ニューフェイスが可愛いと!」
「なんで君は人を捨てるかな!?」
「にくいすのぶんざいで 「 あ?」 よくもちび猫を捨てようとーーーー!!」
力の限り、吠えたった。
猫の恨みを思い知り、泣き叫べええっ!
「みぎゃー」
「うぎゃー」
「返事しろー」
「肉椅子が返事をするとでも?」
「あああ、猫の主張がこのよーな不測の事態を引き起こしぃ〜」
「はいはい、猫猫猫猫 ねこのいすー」
「重いだろ? 今、退くから」
「平気」
「ぐえ」
離脱に失敗。腹に衝撃。
「…暑いだろ」
「まぁね」
「猫は気まぐれ、そろそろお暇いたしましぃ〜」
「ねーこの腕を〜 引っ掴み〜 高い高いと頑張ると〜」
うおお、腕に背骨に背筋が!
「ぎゃー、伸びる伸びる伸びるが腕が伸びるとゆーより胴が伸びてるー!」
「猫は胴もよく伸びて」
「次回からは膝枕と訂正します故に、平に平にごよーしゃを〜 どうせ伸びるなら足がいい〜」
「伸びた姿も可愛いですが、きゅっとシメて上がった足も良いですね」
「みぎゃああ! 肉椅子がごーもん椅子にぃい」
「そんなモノはありませんが?」
「うええ〜」
「ふふふ、多頭飼いの確認をしただけで後頭部を思いっ切りど突かれた俺に対して… よくも抜け抜けと言ったものだと」
「へ?」
「ん?」
「誰にど突かれ? セイルさん?」
「…あ? だ、れ? え、そんなの …ああ?」
なんでか、後方フリーズした。隙を逃さず、そそそそっと両腕を脇に降ろして、手首をそ〜っと前に倒します。形を維持して上手に前進、こそそそそっと離脱した。振り向くと、両手を緩くぱーに広げたカッコで仕上がった彫像がありました。誰でしょうね? あんなの作ったの。
「誰に… 誰に、俺は… 俺はぁ!?」
さぁて、俺もジュース飲も〜っと。みーず〜。
「えー、では。他にご意見はございませんか?」
「はい」
本会議で可決されます。成立の見込みです。
「この指輪を使用しないに賛成の方は挙手を願います」
満場一致で決まりました。もちろん、議長も投票権を持ってます。この結果により、指輪は誰の指も飾らない観賞用となる事が決定しました。頂き物を溶かすのも、売却もできません。恐ろしくてできないとは口が裂けても言えません。
「遠い未来、血族の誰かが使うかもしれませんが… 手紙を認めておくから」
「そうして下さい」
お宝部屋に仕舞って終わり。それまでは荷物の中。おねえさまには申し訳ないが、これが最善なのだ。そして、黒の指輪も一緒にいれる。これできっと寂しくない、だからきっと化けて出ない。
「他に不満があれば聞いておきます」
「ないよ、元々お前贔屓だったんだ。それに、よーく考えると貰った弁当とおやつは美味しかった」
「…食べ物かよ。まぁ、食は命だけど」
「見送る三人の誰もが問題にしなかった事実、その上で迷子になった現実。山中での遭難事件! おねえさまの弁当がなければ危機に瀕した命と精神力!」
「うわ、偉大!」
「だろ」
それから黒の指輪を手に取って、じーっと見てると思い入れはないが感慨深さを感じたり。これでこいつの召喚獣をやってたのかと思うと〜〜 うん、やっぱ妙な感慨が湧くね。
ハンカチにそっと戻して、今度は銀を手にする。
「じゃあ」
顔を見合わせ、頷きます。停止したのに合わせて席を立ち、一緒に窓へと向かいます。カーテンを開け、窓を開けるのを見守る。部屋に入り込む風は、存外涼しい。でも、流れ込む風の出口は他にない。なーんて事をチラッと。
「これで良いね」
隣に戻ってきた所で、姿勢を揃えて並び立つ。
呼び鈴がないので、お顔を思い浮かべる。これまたよく思い出せないので、代名詞にした暁の女神様像を脳内で立ち上げる。
組んでた両手を広げ、指輪を確認。
腕を掲げて、祈ります。
祈りに、声を上げるのです。
「おねえさま、すいませええー。安全と納得と折衷案と抗議からなる未来を二人で審議した結果を、どうか受け入れ給へ〜〜」
「御身から授かりし好意に心よりの感謝を捧げ、祈ります。差し伸べられし御手を喜べど、先に見ゆる幸いに惑いを感じ。惑いのままに非議を上げるは愚かと閉ざすも、閉ざして得られるものでもなし。よくよく二人で話し合い、互いを知り、親睦を深められた事をこの上ない幸いと転じ、環の役目を終えたものと致します。お力添えに、そのままの形で心返せぬ事を お許し下さい。我ら
「 二人で定めし、形成の妙をお認め願います」」
深々と二人で頭を下げて、もう一度「有り難う」の意を伝えし。揃って頭を上げました。暫く体勢を維持。ゆーっくりと顔を見合わせ、お疲れ様。
「外でなくても許してくれるだろう、うん」
「君が風邪を引いても困るし、見世物ではないし」
簡易でも、重大な儀式が無事に終わりました。
黒の指輪の隣に置こうとしましたが。
「だー、ぴったり〜」
「何が?」
黒の指輪の中に銀の指輪がすっぽりです。
「…綺麗に嵌まったね」
「だろー」
「狙った?」
「んにゃ、そんなつもりは」
「…ふふ、過去が未来を抱いて眠るのか。これも形の一つでも、まぁ、 感傷」
「なぁ、これ封印っぽい?」
一つの形になった指輪に浅く笑った。
俺が笑った理由。黒が白を食い潰す。銀は白、白と同じ。意味は同じ、完全に同じ。それでも、これは未来の証。
「封印より心印にしてくれる? 気分としては、断然そっち。君と歩む一歩を封じるなんてごめんだね」
「にゃはー、わり」
遠い未来に使う誰かに、物思う。
おねえさまの作成だから強力だろう。強制に鼻高すんなよーってね。
「あー、これで終わった。ほんと終わったあ〜」
試練の終了だと喜んでます。そう言われると、隠し事をしてたと責めれない。それに貰ったのは俺じゃない。プレゼントを試練と受け取ったのはこいつ、ちょっぴりうらやまーと拗ねてたのは俺。
こいつの判断が俺の未来を明るくした。
俺が明るいのだから、こいつの未来も明るいはずだ。しかし、解決はしてない。これもしてない。でも、気分は最高。
その最高の気分に影を落とすのは、俺の背中に張り付くナニか。隠してるつもりはない。話してないだけ。こんな気分の良い時に、どうしようもない不動の過去を話しても胸糞悪くなるだけだが…
話すこいつと、話さない俺。
成功に笑うこいつ、捨てる事にも失敗した俺。
うらやまーな心と変な僻み?
比較で事態は動かないが、比較で得手は見えてくる。
「未来に繋がらない、終わった話をしたいです」
「はい?」
「どうやっても自分では解決しない引き摺ってる想いがありまして」
「…何、そのしぶとそうなの」
軽く胸に手を当て言ってみた。笑いを含む軽い返しにイケると思ったが、ががががが。こいつが胸糞悪くならね? やべ、あの笑い恋バナと勘違いしてるか!?
「胸糞悪い話な」
「……へぇ、良いよ。どうぞ」
優しい心へ、返す話が悪意でごめん。
二つのかんみはミライを刺激し、斧が正すは真っ二つ。おねえさまは甘くて甘くない。星と花は綺麗です。