187 心へ投じ
13日の金曜日。
11回目は十五夜で仏滅。
「…ん」
柔らかい、何かが頬を擽ぐる気配がした。
「…ふぁ ふ」
目覚めたが眠い、欠伸をするも払えない。眠りを欲する頭は目蓋をとろりと落としていく。しかし、そろそろ起きねばと思う気持ちが時を問う。妥協点に寝返りを打てば、少し離れて眠る姿。
その姿にたわいない感情が焼べられ、じわりと胸に何かが広がる。
広がりは心地良く、再度の欠伸がふわっと出ると、眠いに理性が剣戟を交わすも涙が混じれば勝者は決まって逆らえない。二度寝といこう。
意識が滑り落ちていく最中、影を感じた。
「う、ん?」
半ば落ちた頭を揺り動かし、薄く片目を抉じ開ける。至近距離の敷布の白さに自分の指。視界を掠める影もなく、ぼーっとするも静かなもの。気の所為かと再び眠りに身を投じ… んあ?
眠い頭で首を傾け、目を眇める。
短く、柔らか気で… くろ い、紐の よーな? あ?
ひょこっひょこっと動く短いモノを目で追えば、似た様な色に巻き付いた。全体が丸まり、淡い光を纏って形成される灰色のカタチ。敷布の上を音もなく歩んで遠去かり、ぽすっと座る。見覚えのある大きさ、背中の曲線、ピンとした先の尖りは 猫の耳。
「あぁ… ふふっ」
片耳が二度三度と連続で動くのが可愛らしくて微笑めば、首が動いて横を向く。顎が開いて鳴いた感じがする顔に、淡く光る体を透して眠るアズサの顔が揃う。二つが揃うと、どちらも同じに見えてかわ…
「ぃ!? !?!?!? !!!!?」
形容できない言葉と共に、今度こそ意識が覚醒した。
居ない…
両目を見開き、首を左右に振って探すが姿形も影もない。瞬きを繰り返しても居ないものは居ない。肘で起こした体の下を、もしやと確認しても姿はない。
「げ、んか… 」
呟きは口中に消した。沈みそうになる体を進めと鞭打ち、僅かな距離を腕を伸ばして匍匐する。居たはずの場所に手を滑らせる。温もりはない。気配はない。一人は全く起きそうにない。
片腕を伸ばした状態で、顔を敷布に沈めて沈黙。臥したる屍の如く、沈黙。脳裏を揺蕩う沈黙の海に『暗投』の文字が浮かび上がって光り輝く…
意が違うのでは?
自分自身に突っ込みを入れて浮上するも、心に留め置く。
腕を戻して身を起こす。
部屋中を見渡せど、どこにも居ない。アーティスも居ない。とても静かな…
風の流れ、開いた窓。
気温。
陽の加減、寝汗で僅かに湿る服。
総合的に考えると、夢。
今一度の観察に、誰かさんの口から垂れる涎。熟睡。
平穏な寝顔に脱力、何かの気力が喪失。尽きた思考を放棄。こんな状況で一人気負うなんて馬鹿らしい。項垂れるのも馬鹿らし過ぎて嫌になる。慌てず騒がず、静かに横になれば、体が沈んでいってえ〜 ヤリキレナイ。
「遠くに行くはずもなし… 」
本体はこれ。
この思考が良いのか悪いのかわからないが参った。
「…ん?」
事実に思考が指を指す。
「待て、ちょっと待て」
冷静に指摘する自分の知性が嫌な事実を気付かせ、眉間に皺を寄せさせる。確定でないものに、いや、こうなると確定出しも難しいと気を沈め、軽く拳で眉間を小突けば、骨と骨が当たる小さな音がした。
「ち」
痛くもないが自分自身に舌打ちする。自分を大事にせねばと指で揉み解すと 頬が擽ったい… そちらへと目をやったら、光る灰色のし っぽぉおお!?
思考と体が硬直するが、そうっとそうっと そうっっと!!
静かに静かに両手を顔の横へと持っていったが、結局なにも掴めなかった… その辺をそろそろと探っても触れるのは布地だけ。興奮と期待で高まった分、すごくがっかり。
静かに起きて、居たはずの場所を凝視。次に発生源を凝視。すると胸の辺りに覗く灰色。灰色の先端が右に左に小さく振れたら… ススッと 奥へと入り込み、消えていった…
消えて、いった。
『あーーーーーーっ!』
叫びたかったが叫べないので、盛大に心の中で叫んでおいた。
もう一度、出てくるかも。
公算は有りと期待を込めて待つが、待つ間にも背中に張り付く恐怖と俺の心が殴り合う。勝敗は決まらず、時間だけが過ぎていく。やっぱり、「待って、行かないでー!」と叫んだ方が良かったか?
こうなると釣りがしたい。
こーゆー時にこそ小道具、猫じゃらしが欲しい! あれを操り、ぴょんぴょんと飛ばせば楽しい釣りができるはず! お尻ふりふり飛び付く様が目に浮かぶ!! がっぷり噛んで捕まえたご機嫌な顔も… くぅっ。
釣りこそ、極意。
共に楽しむ良い道具!
取り除けない心因に凱歌をあげる恐怖を黙らせる為、道具の作成方法に思考を振って静かに待つが、過ぎる時間が今度は焦りを招き出す。これ以上、時間が経過すると判別できなくなる。まだわかるはず、まだ視えるはず。いや、もう遅い。これが最後な訳がない。行動は早く、勘違いは是正して。だが、人意が通じる相手かと言えばあ〜〜〜〜 通じない方がおかしかないか? いやでも…
作成方法の傍らで空回りする思考。
あああ、積極性を欠く手しか打てない自分自身がもどかしい! 主導権が欲しい!!
もう良いわと、実行に移す。
黙ってするが正解。一つ剥ぎ、二つ剥ぎ。消えた辺りを凝視して、そろりと触れる。五指を広げて、上から下へ、下から上へと撫で回す。
「…ふ? ふぎゃああっ!? な、な、なになになになに なにがどーし!? みぎゃーー! なにしとんじゃ、おまー!」
「触診してます」
「なんでしょくしゅーー うっ!」
「起きない、騒がない、ご安静 にっ!」
ガツッ!
「みぎゃあ!」
起き上がろうとする頭を鷲掴みにして、断固阻止。無理やり倒すと首が危険なので動かさず状態の保持に努める。
「うにゃー! 起き抜けのふっきんうんどーに ぷぷぷぷぷ、ぷるって ぷるってえ〜〜」
震え始めた薄い腹… ああ、もう判別つかねーわ! やっと付き始めたはずの肉も… 食事を抜いたら、直ぐこれだ!!
ペチッ!
「うぉうっ! は、腹ドラムはご遠慮します〜」
「…はいはい、失礼。痛かったですかー 大丈夫ですよー やさし〜く撫でて差し上げますからねー」
「ひぎゃー!」
今度は肘を使って転げて逃げた。うん、誰も肘を使うなとは言ってない。なんで腹筋で頑張ろうとしたんだろーな?
「なんと尻尾が見えたとですか!?」
「最初は幻覚を疑い」
「素晴らしい!」
「素晴らしいではありません! あれは君ですか?」
「はあ?」
「だから、本当にあれは君ですか?」
「へ? えー、そりゃー俺だと思いますけど?」
間髪入れない返答に笑顔を返す。歪みそうになる顔を歪むなと固定し、心の底からにこやかに。
「君は以前、俺が蹴りを食らう不興を買ったと言い」
「…ほわ?」
「猫さんではありませんよね?」
「…しまった、そっちの線が残ってたか!」
「第三の猫であると信じよーにも信じ切れないじょーたいの俺を、あなたはどう思われますか?」
「え、え、えー と」
「何かが俺の心に圧迫を掛けるのですが、どうしたら?」
身を屈め、下手からの笑顔でお伺いを立ててみる。
「うわあー、猫さーん! いらせられませ、おいでませ〜〜」
「いや、そこに消えたんだって」
「だから、呼んでるだろ」
「だから、おかしいだろ。そこにいらせられてるのに」
「…うにゃあ〜〜ん」
困った視線を彷徨わせ、にかっと笑って目を逸らす。片手は軽く握って顔の横。上げた片手を来い来いと、握って広げて誤魔化しやがる。如何しようも無い時は笑えと言うが、これに一緒に笑えと言うか。笑えば、忍ぶ悪意が滲んでくるぞ。既に、「それ、逆効果な」と冷めた心が呟いてる。
「うーにゃー!」
頑張って呼んでくれるのは嬉しいが、一抹以上の不安を覚える。何故か? 行動に理屈が伴ってないと見えるからだ。完全に気分だろ、これは。それでも文句を言えないのが俺。どう考えても繋がりを持つのは君、俺に主導権はない。明確にない。
向こうは出入り自由でも、俺に止める手立ては一つもない。こんな恐ろしい事があって良いものか…
その恐怖も告げている。『猫さん』と敵対してはならないと。何より、アズサと同じ姿を持つ時点で… 嫌われたら、泣ける!! 二匹揃って顔を歪めて「けっ」と唾でも吐かれてみろ。
「にゃーうー! なーうー!」
精神的苦痛が最大値まで跳ね上が り、そうなものだが… 今現在の精神安定を図る為に、降りる事なく寝台の下を覗き込もうと頑張るこの… この突き出した尻を押しても良いだろうか? ドン!と突いたら「ふぎゃー!」とか言いながら踏ん張ろうとするはず。だから。だから、それを、更に、押したら… 押したら… とても気持ちが良い、かもしれない。
いや、やりたい。
「うう〜む… お返事はありません。心配はきゆーと呼ばれるものではないかと思われまするう〜」
右へ左へ揺れながら、両手を上げて「みーにゃー」言ってた結果がそれですかい。真摯とは言い難い似非な祈りに似たよーな呼び出しの結果が、 予想通り。やっぱり、尻を押したら良かったか。
だが、俺に手段はない。
「本当ですか?」
「えーとだな… ほんとーに地下と同じで反応がないのですよ」
ああ、俺の頼みの綱は本当に当てにならない。どう見ても、わかってない。俺と同じ水準でわかってない!!
「そうなんだー」
そうであっても寄せねばならぬ信頼とは… ならぬ理由は見られているから。根拠が定かでない上にわかってないとわかっていても全幅の信頼を寄せる事は 自己放棄に、 似ていると思う。
そうか、俺に必要なのは飛び降りる度胸か。
は、はははは。崖から飛び降りる程度なら大した事でもないのになー。あー、ほんと大した事ない。大した事にするなら指輪外して、環嵌めて、使い物にならなくしてから手足縛って蹴り落とすくれーの は、自殺に似てんな。兄さんに蹴り落とされたら修練なだけなのによ。
よし、寝よう。
大丈夫だ、寝て起きたら良くなっている。きっと良くなると信じて倒れよう。でないと、疑いが爆発して癇癪を起こしそうだ。ああ、どーせなら尻ドンの一つもしとけば良かったなー。猫でやっても可愛いだろなー。
「寝るわ」
「へ?」
即決こそ、最善。俺は選択した。
「いっ いきなり倒れるなよー!」
「委ねるは依存に非ず」
「はあ? え、ちょ、待った! お前が起きてないと俺も判断が」
「安眠希望」
「はい、安眠は大事なので守ろうと思いま「任せた、お休み」 す、す、するるるるう〜」
一人は寝てしまいました… もう、起こす事はできません…
揺すった手は掴まれて、ペッされた。今までされた事がなかった、ペッ。ペッペッペッのペ〜。驚きに萎縮した心は借りてきた猫になり、震えます。
無視して揺すると進化して、凶悪系が生まれてしまう。
「…え、ポーズじゃない?」
眠りに落ちた早さに、なんや申し訳ない気分に。なので、寝ずの番を務めます。気持ちをしゃっきりさせる為にベッドの上で居住まいを正す。これで小刀の一つもあったらナイスですね。しかし、猫さんに刀を向けてどーすんだっての。
寝顔、シーツ、部屋ん中。確認に首を回しますが、このローテーション以外する事ない。暇です。そろそろ膝を崩したい。大体、猫さんの気配はない。繰り返しの確認に感じるものは一つもない。室内は静かで、 待てよ? 初めて会った時と似てるよーな状況?
ちょっと… うん、なんかちょっと違うね。それに暑い気がします。気温の上昇が認められえ〜?
「そーよと かーぜが 吹きまして〜 りょーうを ここへと 呼ぶのです〜」
吐息で風を歌ってみましたが、願い叶わず吹きません。痺れが切れる前に足を伸ばしてベッドから離脱。靴は履かずに、忍び歩き。
窓から外を覗く。
目に優しい緑もお日様元気で、ちょっと眩し? 天然水の恵みで頑張ってくれてる皆々様に笑顔を振り撒きつつ、異常がないか確認。あからさま〜な足跡でもあればいーんですが、ふつーに見当たりません。次に進みます。
カーテンを掴んで裏を確認しながら揺すってみる。それから、しゃがんで四つん這い。這い這い這って、部屋中を下からの視点で探します。一番怪しいベッドの下も注視しますがおられません。位置を変えても問題なし、と。
「ふぅ…」
床に腰ぺちゃ。閉まってる立派な押入れに目を止めて、脳内検索開始。扇風機の類いがhitしないので無駄はしない、煩くしない。起きたら空調を聞いてみよう。
ベッドに戻って寝顔を覗き込んだら、眉間の皺に髪が少し汗を掻いてる感じ。 …暑がりさんは起きすべき?
『空調ないなら氷でも』『タオル取ってこい』『いや、起こして聞けよ』
のーみそが「俺の方が先だ!」とうおーにさおーと俺を引っ張る。そしたら、ベルトに意識が向いた。 …腹を締めて寝るなよ、お前。そりゃ、安眠も遠いわ。
まずは弛めようとして、stop。両手をぱーに広げます。
過去の絞め技を忘れてはいない。そんな馬鹿ではない! 回避の為に、のーない予行演習といきましょう。
あれは、こうで外れる。から、俺の向きがこう。だから、こっちからこう外せば〜 いけるはずだ。んで、ぱぱぱっと 留め金を外すだけで十分。 よし、ばっちり!
「 」
「…ん」
小さく断りを入れ、素早さ勝負。
『うわ、待ち!』
体の向きを変えよーとしたので慌てたが、成功。起こさずにやり遂げた祝いに、小さくガッツポーズ。これで一安心だと笑顔になったら、こいつの首が絞まっ!?
首を襲う金属は、スタイリストが選んだネックレス。
服から飛び出て自己主張。主張にぽりぽり自分の頬を掻き、胸元のお守りに目を落とす。犬笛と一緒に置いてるほーに目をやって思考終了。
見なかった事にしよう。
寝てるこいつの首に触れるなんて、死ねって感じ。
「…ちょっと失礼」
服に指先を引っ掛けて胸元をチラリ。
指を引っ掛けたまま数秒、固定。呼吸は止めて思考は無にして素肌を観察。 …肌着を透視!! するも、できないので想像。両手を揃えてご機嫌だったちび猫を思い出しながら念じる。
変化なし。
鏡の前で寝間着を引っ張り、お守りはしたまま手に持って上げる。胸の辺りを観察。肉付きの違いはスルーして、角度を変えつつ確認。ピコピコ尻尾が消えたとゆーのを想像。ちょい怖い。
リアルホラーな映像を消去し、デフォルメファンタジーで誤魔化す。俺の知識が俺を救う。から、笑顔になれる。大丈夫、そう技術。俺は手伝って貰って練習した。それが技術でなくて何と言う! 落第の文字はポイ捨てえ〜。
そうだ、三枚と半分残ってるって。 …そう、あれは俺にとくれたもの。だから、俺の中にあるのが正しい。預けた覚えはないし、クロさんなら見えておかしくない。
なーんか冷静に考えると体ん中に色々収納してんなぁ。
気を取り直して、お務めに戻ります。
取って来たタオルでちょちょちょいと寝汗を… 寝汗を… 拭いたら起こしそうで拭き難い。起こすなと怒られそーで怖い。タオルを頭元に置いて終わり。
疲れました。
横になりたい気分で椅子に座る。
どっと疲れが襲ってくるが、寝るのは結論出してから。
この体に猫さんを収納するスペースはない。そんな隙間はない、はずだ。猫ならちょっとの隙間にも余裕で滑り込みそーですが… 猫さんはいないでしょう。あるなら、夢。にゃん蹴りも夢。もう殆ど覚えていない夢。でも、悲鳴と蹴りは覚えてる。それだけが記憶に残ってる。
この時点で同一ではない。夢の中でも別々だった。
見たのは第三の猫のはず。
本体は俺、にゃんぐるみも俺。第三の猫も俺。透明な俺… 魂? 俺の魂? 俺の魂がこいつの力を食った…
食った力の浸透。
浸透、圧力、変化、変成、熟成、追熟、変質、完成。もう元には戻れない… 戻らないシチュー、戻せないスープ、失敗した無残な味付け! そうなっても食材には戻らない悲劇!
この場合の分岐は味付け?
失敗したのは、調味料の所為ですか? それとも、煮ずに味付けた?
第三が俺の魂なら、俺に意識があった事が不思議。幽体離脱と考えても〜 おかしいっしょ? だから、技術なはずなんだ。自分の魂を切り分ける器用さなんてございませー せー せー せえ〜 ん。
「魂… 魂はぁ、金魚ちゃん達でイッパイイッパイですから。金魚以外は要らんのです。はい、要りません。プール水槽びちびち過密じょーたいは鑑賞に向きません。大漁旗はびみょ〜です。
たーましいの〜 きんぎょーにー ねーこがゆーく〜 とーらえっ るっ ねーこ、の たーましい〜 はー ひーとつのからだにー なーなつ あっる〜う。
猫でよかったっけ? 夏の風物詩で七つ持ってたの〜 なーんか、そんなのいた記憶あんだけどな」
まぁ、いても俺じゃない。うん。
「しかし、七匹もいたら分身の術ですね。一人の背中に入り乱れての子猫の集り。乗ったら最後の灰色にゃんにゃんパラダイスをお届けできるかもしれません〜。あ、一匹くらい黒でもいーかも。クロさんとおそろ〜」
想像してにやついてみるが、一人の寝顔に萎んでく。
心の中でもう一度、猫さんを呼ぶ。呼びながら、ちび猫になるかと考える。考える反面、時間の無駄な気がしてる。自分の問題が解けないなら、逆を解け。
猫さんは何か?
魔獣。
魔獣以前に、俺にとっては?
『そんなん食べてはいけませんー!』
…はい、鬼猫です。「有り難うございます!」としか返しよーのない恐怖の鬼猫でございます! 知識を与えてくれた恩人ならぬ恩猫で猫の遊びを堪能させてくれたお方です!!
「仮に猫さんであったとしても よし!」
一人、納得。
躾とゆー好意しか貰ってない。
すっきりした気分で椅子から立って、大きく伸び〜〜をする。寝顔に俺が頑張らねばと頷いて、伸ばされた手に思いつく。逆パターンでいこう。
そーっとそーっと手を取って、手首を押さえて探ります。
あなたの脈はどこですか?
一つ二つと数えるが、指先が感じる発振に同じものを測ってる実感。しかし、数える内にとろっと眠くなってくる…
「う」
寝落ちしそーになりました。
そっと手を離し、頭を振って眠気を払う。
椅子に戻るかと思う反面、今なら見えると突っつく心が袖を引く。引っ繰り返せば、あなたはキラリと光るでしょう。じっくり見た事ないんだよねー。
これも眠気覚ましに良いでしょう。機会と捉えていーでしょう、へい!
「見せてな」
力ある石。
内から光る石。魔石。宝石。これがこいつを助ける、指輪。
間近で見つめた。
波動とか一切わかりませんが、宝石職人さんがすごいとゆーのは理解。音を立てずに手を叩き、拝んどく。これで石の寿命が伸びる事を期待します。レベルアップは無理でも、気持ちの投影が石に幸運を運ぶのです! きっと。
そーいや、あの石どーしよう。小遣い稼ぎができそーにないあの石を、できるよーにと割ったら割ったで勿体ないって嘆かれそーだし… 下手に売れんし… 家へ回して金を貰う。金は金だが稼ぎではない。これを稼ぎと言うならレベルが低い。家からの金は邦貨であって外貨ではないのだ! ん?
「ぉ!」
石が光ったあ!
うそーん、もう俺の祈りを聞き届け!?
石の中で光がぐるぐるぐるぐる回って… る? え、なにこれ。なんか拙い? それともこんなもん? とくちょー? もしや、充電に入ったとか? これ、術式か? 構築中?
え、まじでどうしたら?
「あ、止まった」
何だったんだ、今の。
「…あなたに着信系の機能はあるのでしょーか? ……起きたら、言っておきますから」
指輪に向かって言っといた。
起きよーとしますが、ずっと膝立ちしてたんで膝が痛い。よっこらせ〜と向き変えて、ベッドサイドに凭れます。もう少ししたら、ご飯をお願いしてこよう。今度は俺が匂いで起こす番。厨房の場所は知らないから、誰か外に居てくれるといーんですがあ〜 あ? なんだ、食堂に行けばいーんじゃねーの。ちゃんと教えて貰ってたのにね〜 はっはっは。
「はぁ… 」
脱力とヤリキッタ感がしてますが、なーんか抜けてるよーな、考えが足りてないよーな気もしてる。けど、はっきりしない。ボケるとゆーか、眠い。変に眠い。
起き抜けで頑張り過ぎた? でも、最後の難関があ〜。こいつ、全然納得してない。どー言ったら不安を払拭してやれるのか?
やり方さえわかってたら。
何も変わってないと直ぐに証明してやれたら、こいつもこんな憤りを覚えずに済むのにな。増やす方法なんて知らない。できないとゆー思い込みを捨てるにしても、変わってないの証明は… 口で言ってるだけでしかない。
「できる世界は遠くて鍵の形もわかりません。ですが暗黒はにゃんこグッズになりました。なったは意識改革で、そこは進んだのですが… 望みは高みで高みは遠く。だからこそ、爽快と感動をこの手で」
行き詰まる思考と不安に最悪の想定が顔を出すのを全力で拒否します。手を貸して貰って、飛んだ高み。あの高み。俺が登れば、こいつも登れるはずなんだ。こいつができたと言うなら、できるんだ。連動相場制を舐めんなよー!
自分の手を見て、グッと握って、目を閉じた。
「全く、お前達は」
「すい、ませ… そんな、つもりは なくう〜」
「兄さん… 不可抗力とゆーものを…!」
「あー、まー、そうか?」
「違うと言うなら、どうしたら!」
「あー、わかったわかった。ノイ、眠いと思った時点で上がりなさい」
「寝るつもりもなく〜」
「頼むから、君は実行を! 目にした俺の衝撃を… どう、どう言い表せば君に伝わるのか!?」
「いえ、そんな声で言われても〜 そのー、なんと言っていーのかわかり兼ねえ〜」
怒られております。
セイルさんの隣に立つ人の目が恐ろしいので、手にしたグラスに目を逸らす。頂いたフルーツドリンクで、ごくごく逃げ。
「これ、すごく美味しいです」
「そうだろう。夏場の眩みにはそれが一番だからな」
セイルさんが間に入ってくれるので助かります。同意にうんうん笑顔を返すのですが、本当にスポーツドリンクみたいな味でして。見た目といい、飲み易さといい、同じっぽく。違うのはフルーティな香りと果物特有の甘さ。
「塩分に水分を必要とするなら、甘さも要る。お代わりは?」
「まだこの三杯目が…」
「こういう時の対処ですが「はい! 安眠妨害してでも、叩き起こせば良かったのです!」
お互い、口を目をうにょーっとさせてます。
「お前を気遣う事なく起こしていれば、こんな事には!」
「それは嫌です、俺を気遣って下さい!」
「気遣ったから、こんな結果にぃー」
「あーー もう泣くぞ、ちくしょうーー」
以上の言葉はありません。
二人して、しょっぱい泣き顔するしかなく。こんな同調のレベル上げ要らんです。
「今日は午後から妙に暑くなったからなあ」
室内で熱中症(初期)になりかけたのは不幸な事故です。同じ室内でこいつが平気なのは幸運なだけです!
「俺も知識は持ってます。道中、何かあったら水にジャーキー突っ込んで飴玉投入しよーと思ってましたあ〜」
「それは煮込みだ」
「水出し? 時間と灰汁と匂いと屑が」
二人の視線が物を言う。
「…俺も不味そうだとは思いましたよ? よ? 俺は褒められた舌の持ち主ですよー?」
まぁ、知っていたかと褒められたからいーけどさ。
「他には塩漬けだ。赤い実でなあ」
「か、果実を塩漬けに?」
「君の所にはなかった? この位の実だけど、酸味が強過ぎて生食には向かない。保存に最適」
「赤い実で酸っぱい… それは、もしやもしやの!」
「ああ、あったか」
よくよく聞いたら、梅じゃなくて桜桃のよーです。収穫方法に形状が、どー聞いてもそっち。世界が変わっても、変わらない何かは確かにあるとわかりましたが… 桜桃を生で食えないとか、悲し過ぎる。
「もう、いい?」
「あ、飲む」
ぐいっと残りを一気飲み。
「ふおっ!?」
「あ」
「どうした」
何でか手がふにゃってグラスがつるりん落ちそうに!
「だだだだ、だいじょーぶ。落としてないです」
「はいはい、動かない〜」
「思ったより弱ってるか?」
「そんなはずは!」
「お前も準備がいいな」
「…そういえば、どうしてあるんだ?」
「お前の汗を拭こうと取ってきてー だー、ちょっと湿ったあ〜」
タオルとグラスを交換し、喉元を自分で拭き取ります。
「…気遣いの証拠が」
「最終的には自分で使う、この準備の良さあ〜。いえーい」
笑うしかない。
「寒くはないな?」
「あい、大変気持ちよく」
「隣に居るからね」
「ん、寝てます」
「…用心に」
「…あ、はい。どもです」
ぼすぼすとクッションを並べて防護柵を設置。柵としての機能を果たし終えた時点でマットに変身。保温機能を兼ね備える活躍は大変素晴らしく、有り難い事でございますです。はい、いってら〜。
「あ〜 涼しい〜」
冷気が優しく降ってくる〜。
ふんわり優しい冷気さん〜 その手で部屋を包みます〜。
カーテンレールは猫の足場。立派なあれが魔具かどーかはわかりませんが、そこから冷気が吹き上がり、天井に当たって降ってくる。冷たい空気は舞い上がらない。部屋全体を上から冷やす理屈は降雨と同じと言いました。
この場合、冷気ですから正しくはこーれいですかね〜。
…金魚ちゃんの呼び出しをこーれいと言ってはいけない。金魚ちゃんは金魚ちゃんでいーのです。違う形は恐ろしい! ……そーいや、ジュリ金魚ちゃんはどんな姿なんだろう? レッちゃんと同じで黒だろか?
「まぁ、後で れいぼーの使い方を 教え もらあふあぁあああ」
目が覚めた。
ぼーっとしてたが欠伸を一つ。まーた外は暗いよーで。
「んぅ〜?」
部屋の中は程よくひんやりしてますが、音が何にも聞こえません。止まってる?
カシュン!
「ひょっ!?」
何の音だと起きて首を振りますと、ひよーんと冷気が横流れ。どうやら、向こうのレールで稼働したらしく。これはモードの切り替えでしょうか? まさかでもしやの時間で吹き出す噴水式? …いや、それを言うなら噴霧式? 噴霧は散布で加湿のよーな?
「や、出てるのは冷気だし。噴射噴出、噴れいさま〜〜 暑さに冷気を下さるあなたは、さいこー」
また、ゴロッと横になる。
だらけつつ考えるのは、ご飯とあいつ。
話したら、少しは落ち着くといいな。適当に言ってるんじゃないと主張しとかないと。あいつに一番効くのは検証で、言葉はその次だと理解した。落ち着いたら、折り合いが付いたら、何時かは変わるでしょうか?
検証方法が杜撰と言ったら、できるだけ意見に沿ってやって〜 その後は丸投げしてもいーかな? まぁ、普通にダメか。
「さぁて、明かりを。 じゃない」
方向転換、手を伸ばす。
「あ、わり」
設置してくれた防護柵の一つを落としたが、それは後。枕の下を探りします。はい、ありました。起きて居なかったら呼んでと隠した、呼び出しアイテム。呼び鈴さんの登場でーす。部屋の備品は進化した!
「鳴らせば、指輪に連動する。見えるだろうか?」
期待を込めて一振りすれば、高く澄んだ音が鳴った。
暗い部屋の中、音と共に生まれた光が輪を成して 余韻を裾の広がりに、星と散らして 壁を突き抜け、消えていく。
なぁ〜んてのを見たかったんですけど、音波を見る事は叶いませんでした。でも、届いたのはわかります。だって、ドアのガッチャン聞こえますもん。
でもこれ、普通に音が届いてね?
本日の遊び。
暗投。
『明るい珠を〜 闇にむかって 投げーる!』
投げられたと感じた1はやる気とストレスを感じてる。『』内の字でできる四文字熟語が元です。
んで、文字そのものの暗投。
1「そーれ、とってこーい」
2猫 「うにゃあー!?」
黒犬「ワオーン!」
暗い中でも良く見えて、楽しいかと。
フルーツドリンクでスポーツドリンク。
某メーカーの『ソルティー ラ*チ』。美味かった。ポ*リがあったんで成分比較したら、然程変わらず。その際、ソルティーにはカリウムが記載されてないなーと自分で言い… 時間差で…
最後の「果物」にはカリウムが含まれてないか?
と、ゆー基本的な知識のツッコミが… 読み解くのーりょくがうにゃらうにゃうにゃうにゃああん。