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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
186/239

186 心を審し



 頭の中が苛ついて、思考が先走りする。直感も理屈も外れているとは思わない。今の理性はどーでも知性は捨ててない。言葉を選び、知性で勝負している俺の苦労を自爆とか。



 がああああっ! 


 湧き上がる怒りを力任せに投げ捨てる。一呼吸で気を静め、振り向けば、ふっつーうに何も考えてなさそうな顔してた。『ちゃんと聞いてたよー』で済ませる顔に、『君の知性はどこいった?』と言いたくなる。


 思考力、落ちてる? 落ちてる? 本気で落ちてんのか!?


 言うにも言えず閉口する俺に、にぱ〜と笑う。明るい笑顔にこそ、思考力の陰りが見えた… 瞬きしても見える陰りに…  仕方ないと腹を括る。



 「俺の力に犯されると言えば理解できますか?」

 「どーしてそーなる!」


 「どうして、そうならないと!!」

 

 瞬間の激情が溢れて怒鳴りつけたら、アーティスが逃げた。無駄吠えせずに逃げる速さに『しまった!』と目で追うが、話が途切れる方が拙いと顔を戻せば、こちらも逃げていた。頭から被って身動きしない。隠れてないが姿が見えないのは確か。


 拒絶を示す姿に、盛り返す感情が分裂する。


 「俺のスキル選択が、どーしてそんなコトになるー」


 一枚隔てた向こうからの、少しくぐもる問い掛けに分たれた二つが速やかに別の姿に取って代わる。『これが基礎を考えない者の末路だ』と愚痴を零す俺に、『なんだ、本当に先に行って… 』と脱力する俺。二つが『俺の価値は… 』と声を揃えば、それに反論する小さな声。


 「理屈がわかりませー」


 芽吹きは摘み取られ、存在ごと消えた。

 残った愚痴と脱力が緩く顔を見合わせ、頷けば。

 

 『感情を先立たせた俺が悪い』



 そう、投げて終わり。


 上手に説明しなくてはと思う反面、言わずとも悟って欲しいと苛立ちが募る。だが、それは叶いそうにない。叶わないなら足掻かなければ。



 この思考が疲れる… いや、思考に疲れる…


 気力の泉が一気に枯渇していく現実と既に出ている答えがしんどい… アズサの中で俺の優先順位は高くない。だから、そんな風に笑うんだ。






 


 「理屈ですがね」

 「…その理屈の範囲をですね」


 説明聞いたら、やっぱりこいつの理想の話。俺が自分で頑張る事。自助努力については懇々と諭さんでも、わかってますがな。俺だけが持つ猫スキル。まぁ、特異性が伸びてるとは思う。しかし、食ったは消化で犯されではない。納得できん。


 「そっちに繋がるルートが見えねー」

 「あ〜 なら、説明を変えよう」


 口調は大して変わらんでも端々に滲むご機嫌斜めに、俺の機嫌も斜め落ち。そして説明が羽化の話に。質は聞いたが?



 「つまり、お前の理想は蝶の羽の〜 表面がキラついてる感じ」

 「そう、付与でありたいだけ」


 「…付与、一時ではなく永続に近い付与」

 「表現としては合っている」


 「それ、ペイントじゃないと無理だって」

 「それこそ、付与の質が違います」


 「…その前にですがね? 羽化に餌は必要です。隣から影響を受けるのは当たり前だし、影響という活力で太って羽化する訳ですし。許可なく頂いた事には申し訳ないと思ってますが」

 「違う、その影響とは環境の違いに留まる範囲。教育における心身の育成と知識が該当します。俺の染まれは君へ贈る盾。猫の君が力を食ったと聞いて… 選ばれたと嬉しく思ったのは事実。でも、嫌な衝撃を受けたのも事実。力が直に響く事は望んでない」


 「…ちらつかせて味見は許さねえとか無理過ぎね?」

 「味見するものじゃないから!」


 「そこで癇癪、起こさなーい」


 唸り声を上げて悶々するのに、注文が多いとしか思わない俺の危機管理は終わってるのか? 危機的状況であるとゆー実感が全くないのに? だるいはだるいが気分は悪くない。


 「受けたと言う嫌な衝撃がわかりません」

 「説明は空振りで」


 壁際で腕組みして、『あ〜』な感じで首を振られても俺は納得できんのです。


 「安心できるお前の力を選んで食った。お前が嫌がる意味がわからない。染まれは深くなる、貰う盾は強くなる。その思考じゃダメなん? そりゃー、食ったら羽だけキラめかせたいってのは難しい。お前の理想からは大きく外れてしまう。んでも皮膚までイっちゃってるから、あれみたいに切る事はできない。食ったも付与と言えるはずです。全体に行き渡るから底上げ、又は全面ガードだと思えば良いはずですが?」


 「今、怠いんだろ」

 「…まぁね」


 「どうして、そんなに怠いと思う」

 「…初めてだし、消化に時間が掛かってるだけだと思ってるよ」


 俺の答えに横向いた。

 壁に向かわないから良いはずだと思ったら、こっちに帰ってきた。よしよーし。



 

 「変質と変成は違う」

 「はい?」


 「根底から変える。これを掘り下げると変成で変質ではない」


 いきなり何を言っとんじゃ、こいつはなんですが。さっき同じ言葉を聞きました。偶然同じ言葉を使ったとは考え難いので、ヒントが隠されているはず。  


 「消化が変質かどーか? 食った後は出すものです。しかし、そこまで飛躍しても違うだろーから置いといて。消化は栄養もぐもぐで、その後は単なる滓ですし。カスカスカスカス、カスはカスで放置して。はっ! カスを変成したら変質するのか!? 変質でゆーいせいが保たれるなんて、れんきんじゅつじゃーないですかあ〜。


 あや? なんか変な。あ、話も違うわ。 えー、さっきの話は教育と躾で心を入れ替え… 入れ替えはチェンジ。チェンジは変身。変身した心。 え、心変わり? 俺の心変わりを疑われ!? 待て、俺は何にも変えてない。態度も何も変えた覚えはございません! つか、浮気! どーして俺が浮気をしたと!? いや、そもそも浮気と考えるのがおかしいが、浮気も何もございません!!」


 ブツブツ言って弾いた答えに、ガーッと吠えて隣を見上げたら。らあ〜、目が点になってた。あいた、違うんかい。


 「あ、のですねえ」

 「待て、まだゆーな! 違うのはわかった、わかったからまだだ! 再思考する。えー、強い力で根底からゴスッと〜  したら、したら〜〜 破壊・変形・劣化とか? ロイズさんが言ってたの、そっち系に聞こえたしな。でも、この場合は変形だと絶対変だからあ〜」


 ちろっと見上げた隣の顔は、正しく「あいた」な顔をした。それから片手で鼻から上を覆ってアウト判定したのです。


 「は、破壊は使い物にならないので議題から却下します。劣化は直ぐに壊れそーで意味は違うと思うが、これを変成とゆーかと言えばあ〜〜」


 語尾を伸ばして言葉を止めて、続きを待ってみる。待てば、手の隙間から搗ち合う目が苦笑して俺の辞書に変身です。


 「その定義は物になりますが、劣化は変質で変成とは…  まぁまぁまぁまぁま〜〜〜あ言うかもね?程度になら変成と言う人もいますね。学術的にも否定はしません。ですが、やって質が落ちた状態を『成りました』と誇張する人も珍しく。それなら普通に劣化で良いと思います」


 ご機嫌伺いは成功したよーだ。

 問題は解けてないが解こうとする姿勢に評価がついた!



 ちょっと落ち着いた顔して、ベッドに腰掛け。


 「アーティス」


 呼び声でわかるらしく、ガチ逃げしてたのが帰ってくる。ドアを自分で開けれるアーティスが出ていかないのは愛情でしょうか? こいつにとってもアーティスはセラピードックなはずなので、良かったです。


 撫でる手付きが優しい事にホッとします。





 「変成とは、既に成っているモノが他から力を受けて全く違うモノに成る事を指す。根源が(me ta m)変わる (or ph ic )。人に向けたそれを優しく言えば生まれ変わりで、更生です。心を入れ替えるは更正で、右から左へ早変わり… できるかは、人それぞれですが変質(change)と言えるでしょう。


 君と共に力を伸ばせたら。


 それが俺の新たな望みと言いました。はい、心から望んでおります。それが… 俺の力を食って、君の根源が変わったらどうしよう。変わって、本来の君の力が歪んだら。俺は利己ですので、そんな思いが一番に募り。君の安全よりも安定よりも喜ぶ顔よりも、君の力の方が気になった。変わる事で、俺の望みが叶わなくなったらどうしよう。そんな俗物的な考えが頭と心を占めまして」


 「はい?」


 ボケた声が出ましたが、よく声が出たと思います。理解は悲鳴を連れてくる… 冷や汗だらだらもんで見つめれば、首を回して俺を見て、またアーティスに顔を戻す。


 「根底から変わったものは以前と同じではありません。異なるものになったから、変成と定まるのです。変成は安易と言えば安易なものなのですが、容易とするものではなく。 …必要以上に言葉尻に気を揉む必要はないよ。本当に真っ新なもの、赤子になんてなれもしない。誰もそんな面倒しないって」


 うすーく笑う口元。

 心の中で「え」と出たのは安堵に対してか、それとも目の前の顔にか?


 セリフは悪魔風味が漂うが悪魔感は薄い… 悪魔感とか言ってる俺ののーみそも十分毒されてる ん、だ、ろうが…  があ〜 あ〜。


 「異なるものにでもなれば。 俺は何の為に君を召喚したのか? そんな声が自分の中で上がります。上がれば。 別の声が君は違うと返し。ええ、君は違います。契約は終わっている。


 では、過去が良いかと言えばそうじゃない。俺は今が良い。今を知る君が良い。過去の君の上にこそ、己があり、今の君がいる。そして今の君が良いから他の君では嫌だと心を振り解けば、可能性はここで終わりだとする現実が 全てを捻って過去へと繋げようとする。過去は過去と切り離し、進もうとする俺の足は掴まれてる。縋るそれを振り払えず引き摺るだけの俺は  俺の決意は 何だと言うのか。なのに「待て、ちょっと待て!」


 大声で制止しました! こいつが話すのを黙って聞くと、話が大袈裟になって困る!! ってか、意図して壮大に繋げてないか!?


 肩に手を掛け、こっちへ帰ってこいと揺するのですが目がイっちゃってんだよー!


 「…生きながらにして変わる苦痛は如何程か、とは思います。ですが、それが羽化と言うもの。これも、その一つ。与えられた試練の真意を摑み取れない頭であったら楽でしたが、そうでないので割り切らなくてはならないはずで。あれの様に他人にされて変わる苦痛と種類は違いますが俺の願いが再び叶わなくなる現状を黙って耐え忍びこの目で見届けると言うのも心を鍛えるこれ以上ない精神の、ええ、被虐ではなく昇華とする高位へと駆け上がる階段であればこそこれも変成と言えるのでしょう。俺の卵の殻を砕く大いなる罅がこれからの君との関係性を新たに繋げる大きな一歩とな「ちょっと待てえええ! どーして恐怖に接続するんだ!! 問題は盗み食いの小太りだろー!? 薬物中毒になるよーなもんも拾い食いもした覚えはないってのーーー!!」



 誰かあー、こいつの魂 戻してくださー! じゃないじゃないじゃない!! 他力本願要りません! こらー、勝手に一人でしょーてんすんなあああ〜〜。 


 「あー、もう! ちび猫なってお前の髪の毛全部毟食ってハゲにしてやんぞーーー! そんで意味なくゲロり続けて腹壊して体力なくなってぶっ倒れて寝たっきりだあーーーー!!」


 「そんな事態になったら兄さんの思う壺。ああ、俺は要らないのか」

 「だから、どーしてそっちに飛ぶ!?」


 覚醒の方向に、のーみそぶっちん! 一発ぶっ叩いてやりたいですが、さっきもしたんで拳を握って我慢です。俺、すごいー。しかし、この繰り返すボケとツッコミから進むには…


 引っこ抜くしかない。


 人のゆー事を聞かない、この蕪を!


 前屈みになって丸くなろうとするこの蕪をベッドの上に引っこ抜く! 黄金の葉の根元に腕を回して外れないよーに締め上げて、一人でどっせええええいっ。


 「みぎゃー!」


 引っこ抜こうとした大きな蕪は黄金の葉を持つ大根でした。抜こうとした瞬間、ズボッと自ら立ち上がり、立派な二股大根であると証明したのです。そして根元を押さえる俺の手を、押さえてペコちゃんお辞儀をします。大根にしがみつかされる俺が一本背負いのよーりょーで頭から前に 投げ投げ投げ投げえええええっ!


 られませんでした。


 お辞儀が終われば、俺はベッドの大地に立てました。しかし、今度は反り返り。大根が手を離さないので逆らわず。尻餅ぺったん、両足つるりん広げます。広げた足の間に大根が足を閉じて静かに大地に帰り…  よー考えんでも、こいつ一歩も動いてねえ! 


 「は?」


 お、黄金葉を持つ大根が!


 「待て待て待て待て! 待て、この   むぎーー!」


 必死で突っぱねるが、大地に帰っていくはずの大根が倒れてきやがあーー!!



 「実りある大根… が、重いぃいー!」

 「あー、反発力うっすー。凭れ甲斐がないー」


 「俺は低反発枕ではありませんー! 高反発でもありませんー!」

 「はいー? 人の首を引っこ抜こうとする枕とか、こーわーあ〜」


 「俺は大きさの割に中身がスカってる大きな蕪をベッドに転がそうとしただけだー! でる、でる! うげ、食ったもんが戻ってしまうー! 腹がー!!」

 「えー、これでも腹筋使ってるのに」


 「うわあああ、ぐりぐりするなあ〜 ゲロる〜  あ〜  けろっけろっ けろけろげろげろげーろーろ〜〜」

 「美声には遠い蛙だなー  っと」


 「ぐえっ!」


 あ、楽。

 んでも、起死回生のカエル曲で腹筋と肺が死ぬかとおもーた… 

 


 「はぁ… 短い、とても短い蛙さまの鳴き「中身が薄い枕でしたねー」  うえええええん」

 「え?」



 泣き真似のやる気もでません。でない分、目で物を言っとります。そんで今一番の願いができました。こいつを力で止める事ができる男になりたいでーす。無茶を言うなと言われそーですが、無茶振り的にはアーティスが俺の後ろに回って一緒に蕪を引っこ抜いてくれるほーを希望しま〜。


 「ええええーん」

 「…えー、仕掛けたのは君だって」


 「寝させたかっただけなのにー」

 「はい?」


 「睡眠不足の自覚を持てよー」

 「…二、三日の徹夜は平気で」


 ふざけた事をゆー顔に白い目を向けて、えやっと起きる。おう、腹筋が!


 「そーゆー要らん実績を誇示すんな!」


 腹の痛みを声に出して誤魔化して、トーン下げ。


 「寝ないから自分の思考が偏ってんのを自覚しろ。お前が言いたい事は理解した。言われて気が付くなんとやらですが、確かにそれは気にしてなかった。とゆーか、全く思考に登りもせず。楽しい気分の浮かれ猫に浮かれるなとゆーのが無理。しょんぼり猫になって当然とゆーなら、ちび猫は上がれずに腐りますよ。良いとこ見つけて怒られたら、やる気も何も単なる堕落猫になって理性を失った本当のぱらっぱっぱっぱーな猫に落ちてしまうわ!」


 「し、思考が回復を… いや、あれで思考が… 」

 「おいこら、あんまりな事ゆーな。うー… まぁ、その心配に気付かなかった点に関しては謝ります。ごめんな。でも、それだと合ってないだろ」


 「何が合ってない」

 「だから、まずはこっちに来て寝ろやー!」


 しゅぴっとベッドを指差した。ほんとは腕を引っ掴んで蟻地獄へ引き摺りたいが、それで潰される現実が… ちくしょーですよ。





 「向こうで猫になった事はないとお伝えしました」

 「はい、聞きました。覚えてます」


 「…それ覚えてて、どーして過去の俺に飛ぶ? 猫になれる時点でお前が呼んだ俺じゃない。気持ちが過去に向かった所で俺は元に戻れません」

 「…はい、そーですね」


 反省を求めております。


 「力を食う食わん以前に、状態が違う」

 「あああ…  ごめ、それは理解してる。いやほら、言葉の綾と言うか… 美化した記憶がどうしても引き合いに〜」


 ごろり逃げしたので、俺も安心して横に伸びます。


 そこから突っ込むんですが… 本人前にして昔の俺が「カッコよくてよくてよくてえ〜」なんて、その時の話を語り始めて止まらんです。これ、どーすりゃいーんでしょーね?


 猫なら尻尾ぱたんで、ざっくり切れるのに。


 「はいはい、もういーです」

 「君の武勇伝なのに、何その淡白」


 「あ〜、いーえ〜。ありがとでーす。でな、話を戻すが」

 「はい、俺も言い直します。俺が恐れたのは猫になれる今の君の変成です。俺の力が増したのは、今の君のお陰ですので混同はしておりません。ですが、最初に感情込め過ぎた為、比重がずれた感覚を持たせました事をお詫び致します」


 「にゃーむう〜〜」


 指摘が指摘にならんかった、つまらん。条件反射で過去を持ち出すその癖をそろそろ改めろとは思う。思うが、まぁ、なんだ。 なんだ。 持ち上げられるのは気分が良い。記憶に残ってるのも良い。そんで、その記憶をこう〜〜 かっこよかったと話せる今のこいつの状態も〜〜  いーはずなのですが…  はぁ。  


 「で、俺の場合わからなかったんだよ。気付けば増してたから。短時間での急激な何かではなく」

 「…はて? 俺が言うのもナンですが、増した原因に急激な変化でぶっ倒れたとか言わんかったっけ?」


 「急激な変化で死ぬ思いをしたよーな記憶を否定はしませんが」


 黙って顔を見合わせた。

 互いに真面目に、にーへーら〜からゴングを鳴らす。


 「物事が発生、終了、後の落ち着きに体調が戻り。その後、漸く気付いた次第。判明に時間が掛かってます。後からわかる事実を、どうお考えで?」

 「俺は急激な変化の直後にゲロり。体質を考えると該当しません。食ったモノは合ってます。お前を通した、ちょうど良い塩辛さなのだと」

 

 「塩分じゃないから」

 「んじゃ、必須アミノ酸で〜」


 「…必須?」


 疑わしきを罰する目付きに、言葉を間違えたよーです。


 「あーはーはー、必須は言い過ぎました。現状なくても生きてます。ますが、あると楽しい栄養素〜 なーんて辺りが当たりかと、ほい」


 笑って手首を差し出して、脈拍測定を依頼します。 …うっわ、しまった。こいつの手あーつーい〜。


 いや、ちょーど良いわ。

 この熱さを借りていってみよー。


 「お前の言う変成に該当するか不明ですが、人は変わるもので、変われる奴が強いとも。自分で変わったつもりもないですが、向こうに居た時とは違ってます。 此処にくる前、「違うお前になるだろう」と予言されました。された時点で、俺は既に俺ではなかった。最後はどーなるんだと恐怖した気持ちは真っ直ぐ下に落ちてった。


 けど、今ならきっちり理解できる。


 あれは恐怖の予言ではなく、心構えをしろでもなく、餞の言葉。だってー、自助努力しろって散々言われたしー。努力の果てに、違う俺になるのです。努力をする俺は変わる。変わるからなる。なるならできる。できるなら、なれる。


 未来には、できる俺がいる。だから、「きっとなれる」ではなく「なるだろう」。その断定を恐怖へ振ったのは、あの時の俺。それを今の俺が振り返す。見え隠れする背中合わせの言葉を選び取るのは、分岐。餞は祝福。


 違う違いはできるです。


 できるから俺は違う俺になる、それはお前が居るから。俺は変わってる、お前も変わってる。実感出た。あの時を笑って話せるお前が変わっていないはずがない。無理やり生まれた気持ちで、あんな風に笑えやしない」


 測定中は動きませんが、喋り捲ってるんで正しく測定できてるでしょーか?  …も、いーかな?



 「お前が利己なら、俺も利己。ちび猫の行動を明確に説明せよと言われると、夢を語れと同じで無理ですが、自分の為にしたのは間違いないと思われ。つまり、現状に満足してない」


 測り終えてもまだ握る手が、あっついんで抜きましょう。一気抜きは危険なので、そろりそろりと致します。


 「お前も俺も変わります、変わってます。でも、何も変わってない点はある。 …力にブツブツ言ってるとことか、あは」

 「…まぁ、それが始まりで」


 ぐはあ、そろりを失敗! 蛇の巻き付き食らいましたあ〜 熱いんだから、見逃せよ〜。

 

 「その始まりを俺が考えられるじょーたいだと? そんな余裕ないですよ。あっちこっちで上がる悲鳴に俺の悲鳴も入ってます」


 

 無駄な逃亡を図る手を、逃がすものかと掴まえる。捉えて離さないでは芸がない、ので弄ってみる。手のひらを押さえて押し広げ、指の腹で叩けば自分の心を示すよう。


 言いたい事なら見えている。


 「君が変わるは自分の為」

 「そう、遊ぶ為」


 遊ぶと聞いて指を離して手首に触れるが、これは違うとやり直す。指を選んで絡めて触れてを繰り返したら、向こうからも擦り合わせ、親指での勝負(指相撲)を仕掛けてきたので受けて立つ。

 

 「遊んで変わる」

 「絶対は言わない、地下ではそーゆー気分になれないし。空気は読むし。あーもー、街へ繰り出すはずだったのにー」


 「これで気分変わる? それ」

 「多少は晴れるかと。 ううう、くぉの!」


 「お」

 「お前の心配わかったけどさ、お前の力で変成するとは思ってない。寧ろ、お前寄りになるだけだと思う」


 「俺に寄ったら拙いだろ!」

 「だあ! そっちに向くな!」


 「あ」

 「はい、やーり直しでーす」


 「ひっで」


 もう一度、指を合わせて始める。


 「食って力を理解したら、何が足りないのかわかったりとか」

 「…成分分析?」


 「ごめ、思い付きで言ってみただけ〜」

 「上げ落としを」


 「可能性でーす」

 「…はぁ」


 「第三の猫を信じなさい」

 「ぷ、表現がいいね。でも君の場合、第二も猫だろ」


 「で・す・ねー  くあ!」

 「残念、押さえが甘い」


 「だあ! あー」


 勝負あったので手を離す。

 離れた手は、その場に そのままに。


 この手が俺を変えると縋った、手。


 寝ていた時と同じ筈の手の熱が無責任な違いを語って「わかれよ」と感覚を押し付ける。有るか無きかの感覚に幻聴を聞いた気分だ。それで心の何処かが安堵する なんてのは  は、毒されてるな。



 「お前は上の立場だし、手持ちの情報で決断を迫られる時もあるんだろうけど、俺に関しては俺を置いていかないよーに。そんで俺が希望に沿わないメタモーフィックしても捨てないよーに」

 「は?」


 「チェンジで捨てる非道は許さない、その時は猫の呪いを思い知れえ〜」

 「一生、思い知る事はないと宣言しましょう」


 お互い真面目な顔でキリッとします。ベッドにごろんのだらけた状態ですけどねー。


 「あ、留守番は頼むよ」

 「ぬう」


 「ごろごろしてていーから」

 「なんだと? 猫遊びを開発しろとゆーのか!」


 「勉強の合間にどうぞ」

 「…ちっとも進んでおりません、俺に合間があるんでしょーか!?」


 

 同じ呼吸で言い合って、同じ間を取り「あは」と笑う。力を抜くのも同じになら、おまけの欠伸も合いました。


 気の緩んだ顔に猫の欠伸の顔も重なります。そしたら、脳裏に形が浮かぶ。なんだと思えば箱みたい。ちょっと深めの上品な〜 菓子折りの箱? りゃ?


 「…ごめ」

 「ん?」


 「俺の禁断箱、緊迫感なくなってる」

 「…なんの話?」


 「元々は暗黒箱で虫食い箱、開けたら最後のダークさん。それがお前と話して穴塞がって、セイルさんとリリーさんも補強をくれて、皆々様との会話で〜 綺麗になった感じがします。はい、そんな感じが。でも、やっぱり基本はお前。

 丈夫で綺麗で大きさもぴったりな良さげな箱、猫は好きです。お前と一緒に作り直した禁断箱は、素敵boxなったので、猫が入り込んで寝ていたよーです。そして猫が飛び出る吃驚箱に様変わり」


 「…はい?」


 直視を浴びます。黙って浴びます。



 「…俺の禁断箱と違って可愛らしい感じだね」

 「なんかね」


 「驚くより笑うしかないね」

 「すまんこってす」


 「そこで何を謝るのさ、俺の禁断箱にも入るかな?」

 「するっと入ると思います。入ったら、居心地良いよーに邪魔なものは蹴り飛ばすか〜 玩具と噛んで遊びそう。そうなったら禁断箱じゃなくて猫箱に」


 「うっわ、荒らされ?」

 「いーえ、整理整頓良い感じ。要らない物は猫も捨てます、箱からポイです。もしかしたら、食べるかも?」


 「それはやめよう、口が汚れる」

 「汚れるゆーな、お前のだ。無理だったらゲロるはず、汚れたら洗って下さい。一緒に洗えば、あなたの心もピッカピッカ〜」


 「…そうだ、これも洗おうって」

 「急がないから寝不足さんは、夕食までおやすみなっさーい」








 「ヒュー…」


 父ちゃんと母ちゃんが寝てしまった…  えー、父ちゃんとお散歩いこーと思ったのにー。


 「…うあ? ……アーティス、トイレ? ふぁ、ふぁ、ふぁわあ〜」


 母ちゃんが起きた。

 けど、やっぱり母ちゃんはいけそーにない。仕方ない、置いていこう。




 「…な」


 わーい、母ちゃんに褒められたー。

 

 「首輪はよし。気を付けてな、皆といろよ」

 

 うん、いってくるー。



 母ちゃんと父ちゃんが仲直りしてよかったー。けど、やっぱりあれはよくわからない。母ちゃんも大きくなったから違ったんだと思ってたけど、あれはどうなんだろう? 違いがわかる違いがほんとによくわからなー。


 でも、仲直りしたからもういーか。


 兄ちゃん達に頼もうと思ったけど、わかんないのをわかんないって言ってもわかんないしー。それに伝えてくれるの、たまーにおかしくなるもんな〜。


 かき混ぜないで、せーいかーい。 ひゃっほーう!


 





 


 竜と人は心話で解す。

 竜が取り次げば、意思の疎通は可能である。


 但し、竜主観の通訳なので、緊急性に程度が低いものは説明も飛ばされ簡略される。ニュアンスと言うには些か違うそれを纏めたからと気にしない。通訳としては微妙である。




 解すと言えば、こちらも些か違う形で解したお守り。


 本日も能力を遺憾無く発揮し、混乱に陥った。今まで努力を「要らねえ!」と吐き捨て、同じ力を取り込む。「ほわあ〜?」な気持ちはあれども手は動く。ささっと分析、どうしたの?


 結果、自分の役目の終わりが近い事を知った。予定外だ。もっと長く掛かると思っていたのに。


 しかし、ちょっぴりの流入量から先を見積もれば、完全な自立はまだまだ先のはず。入れ替えも体力に応じて少しずつ。緊急時の備えも現在の蓄積量までは持っていきたい。そうなれば時間は掛かる。いや、案外早く終わるかも。できたのだから、どんどん取り込んで、あっと言う間に…  傍の供給源が…  入れ替えそのものが、要らな?  では、では…  この身は。



 思考は乱れた。

 独立独歩の目処が立ち、安定に乗れば、お役ご免。


 祝うべきお役ご免ではあるが、そうなれば自分は無職だ。無職を嘆くと言うより暇である。役目を終えたからといって自壊などしない、只の飾りになるだけだ。

 

 だが自分は特別仕様のお守りで、終わった後も燦然と輝ける! それだけの力はある!!


 離れ離れになった不幸な事故から、できる限り長く勤めたかった願いが早期退職に。逸脱に越権は許されない、そっと静かに終えるのも勤めの内。そう思っても辛いものは辛い。理不尽だ!


 ぐるぐると巡る思考の乱れ。


 だが、幸いなるかな。

 歯止めが効いた。


 本人が「やり直し」を希望した以上、維持は正しい。迷いながらも、優先的に回した甲斐があったと言うもの。最早、この身を空にして終わりにするなど考えられない。使命ができたのだ!



 大事な飾りを維持しなくては。


 察するに塗りの良し悪しでも、遠い未来には図柄を変えたくなるかもしれない。不仲はある事、別れた後も見るのは嫌だろう。写しておいて正解だった。


 勤めを終えたら。


 感嘆していた先日(地下)の飾り。あれは写りが悪い上に不明瞭な点がある。その分、枚数重ねて角度を調整すればイケるだろう。得意分野だし。


 備蓄に余剰ができたら、飾りを(表面)に映そうか? きっと驚いて、きっと喜ぶ。


 これからも飾りの類いを見掛けたら残していこう。

 そうだ、残していくのは思い出だ。一緒に歩いた道になる。一緒にいないと残せない、大切な  大切な記憶。


 離れていた間の分まで、がっつり埋め合わせる!



 この顔に飾りを浮か…  待てよ、この身は平面… いや、曲面よりだから… 綺麗に見えるかな? もしかして、浮かばせても目立たない? 目立つ様に()を上げた方が良い? 


 浮かばせるより、照射がいいかな? こう、ぱああっと… 光らせ、目立たせ、見え易く…



 視覚ビジョンに訴える為に、幻影ビジョンから始めるか? はっきりした光景ビジョンにするには〜


 そーだ、立体だ!


 立体のほーが絶対に見栄えがする! 他の者にも、ちゃんと見えるし! あ。 そうなると余剰で作成するから大きさの問題が出るな…  この身から、ぴーっと照射して形状描いて〜  ああっ! 今してる飾りから、ぱああっと出したらカッコよくて喜ぶんじゃ!?


 そーだ、絶対そっちのほーが良い!


 作成したのを下から押し出す感じでやれ ば、 体に負担が…  掛かるよーな?  だったら、周辺だけ流れを早めるか… もしくは、十分に回して滑らせ たら   負担は、ない  はず。


 要、検討。



 よし、展望ビジョンが見えた! やる事いっぱい、夢が広がる♪ 元気でたあー!!








 人が知らぬでも花は咲く。

 小さな芽吹きは育って咲いた。


 最後は力を全て渡して空となり、そのまま眠りにつくはずが、不測の事態に強烈な自我を持ち、自我を育て、自分は一人の為の特別である!と吠え続けて、寄り添う事を求めた結果である。


 気遣いから咲いた花は、人工知能。役職は分析官で調整官。ボディは飾り玉で発声に該当する部分は無し。代わりにあるのは発光力。一点照射レーザーも可能で、対象物が可燃物なら炎上させる。



 お守りは、退職後の余暇の過ごし方を見つけました。





思考もあれば心もあります。人が見えないものを見て、人の手助け(特定者に限る)しています。存在するが気付かれない。目的の為ならごちと頂き、騒動の引き金もガチで引く。



妖精と呼ばれるものと行動が似ているかもしれないお守りは、自分で自分を掴み取りました。




では、本日の英和と国語が混じったじーしょ〜。

自分は変成を、変成岩(metamorphic rock メタモーフィック-ロック)の方で覚えましたあ〜。 以上でーす。



それと副題は、しんし でーす。




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