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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
185/240

185 心を繋げ

遅くなり。



 べろべろべろべろ。


 「…うむ、もうそろそろ」


 べろべろ、べろろ。



 やっと起きたね!の喜びの挨拶を受けてます。どう話をするかと思った所に帰ってきたので、ナイスタイミングか違うのかよくわからんです。ですが、もうものすごい喜び様で。


 「仕方ない。夕方起きない、夜起きない。朝も起きなくて昼も起きなかった。寂しかったものな、アーティス」


 鼻くんくんで生存は確認できても、反応のなさにしょんぼりしてた。なんて聞くと、黙って舐められるしかないと思うのですよ。よしよしと撫でるが、現在進行形で潰されてるから撫でるのも大変。


 起きてるー!の突進にビビってガードしたから、めっちゃ鳴いた。


 ベッドの上には上がりません!の教えを守った代わりに、拗ねて拗ねて後退りしながらヒュンヒュン鳴いて鳴き続け、鳴き声響いて慌てたです。虐待を疑う声でしたから。それが抱き締めに走ったら、くるんと一変。喜びのダイブに押し潰されて「うげっぽー!」とゲロ吐くとこでした。


 ふかあ〜く考えると誘い出された感じがしたり、しなかったり。しかし、それは穿ち過ぎでしょう。この喜びは自然な感情なのだから!


 「気持ちはじゅーぶん、わかった。ありがとな、ありがとなあ〜」


 べろん。


 「ハッハッハッハ」

 「物分かりが良くて嬉しい」


 「はい」

 「おお、天からの支援物資が」


 スッと差し出される御絞りが有り難い。が、助け出してくれるほーが有り難いんですけどー。


 「アーティス」

 「キュウ」


 呼ばれてあっさり乗り換えた。「良い子で待てたな」と褒めてる隙に、よっこらせ〜。顔をごしごし拭きまして、ホッと一息できました。贅沢を言えば、ホットの御絞りが良かったです。


 …ぜーたくな事を考えました。サービスの提供には時間と労力と金が伴うが、俺は提供できないですにゃーんってね。あ、そーか。その手があったな。人では無理でも猫なら返せる猫サービス。ちび猫のホットサービスは添い寝です、添い寝で贅沢お願いしよう〜 なんつってー。


 「ふーい」


 一人と一匹が戯れている間に、ずりずり下がってベッドに凭れる。体育座りから片足倒して力を抜くと間抜けな声が出るのです。使用済みの御絞りは、その場でごめんね・さよーなら。片手でお守りを強く握り締め、ベッドの縁に頭を乗せて「くはあ〜」とか言ってると〜 じーこ〜〜っと楽になるよーな…  あれ?


 「なんで、お守りが」

 

 半分以上、答えは出てるが目で問えば。やっぱり、答えはそうでした。昨日ご飯を食べて寝た俺に、「しまった、お守り!」と掛けてくれたそーです。


 「まだ効果あるといーんだけどね」

 「今の顔で十分効果あると思うよ」


 その一言で、やっぱなんかしんどいーとは言えなくなりました。同時にそんな気持ちも飛んだけどさ。効果が一時的でも良いですわ、その間に良くなりま。


 「寝台に上がりなよ」

 「いや、そこまでじゃ」


 「ほらほら、上がる」

 「だから、そこまでじゃ。 …さっき、もぐもぐしたはずですし〜」


 「取り込みが回復に繋がる保証はない」

 「へ?」


 相手の真顔にボケました。だって、普通は回復でしょう? 回復速度はわからんけど、じーんわりしたあったかさは回復だと。


 「ええとですね… 俺から見た一連の騒動は複雑なものがありまして。どこから話すべきなのか…」


 話しながらのジェスチャーで、アーティスが伏せ。


 「ま、褒める事から。あの火花、無力者が有力者の力を得て起こす発露と比べてもすごかったよ」

 「え、まじ? まじまじまじ! わお、俺って有望!?」


 伏せした隣に腰を下ろして、俺を見ながら撫で撫で撫でぽ。アーティス、嬉しそうに膝に頭を乗せて甘えてる。


 「最初の量とするなら素敵です」

 「やっりー!」


 御墨付きが出たんで腕を突き上げ、勝利のポーズ! 


 …きゃっほー的に上げたはいーが、上げたら上げたで腕がだーるーい〜。ので、直ぐに下ろします。はい、気分は高揚しても体力がダメダメです。


 「ですが、その実態はと言いますと。単純に君の中を素通りしたとも言えるし、拒否したとも言える」

 「ほあ?」


 ちょーっと天井見上げてぐる〜り目を動かす感じが、さっきのちび猫の雰囲気と似てるなあ。


 「いえね? 力を通すだけなら虚とも言えますが、人体ですから。虚と器は別物ですし。原因に要因が何であれ、君は全放出した。そこに全く手が入ってなかったので、得た力を要らねえと… 盛大に捨てたとも言えまして」

 「…ポイ捨て?」


 「表現としては合ってる、癇癪なんてそんなものだけどね。それで全てが消えた。そこで不適合を視野に入れるとですねえ」

 「待つ、消えたって何が?」


 その場を動かず俺を見て、黙って手の甲叩くから。のーみそ回って気が付いて、自分のを見た。皮膚が引き攣れた嫌な跡をまじまじと見て見て見て見て! わかりません、しかぁーし!


 「これ、消えた!?」

 「残念、活きてる」


 「えー!」

 「俺のが飛んでるけどね」


 「…ほわ?」

 「だから、今までの積み重ねが全て消えてましてね」


 甘えるアーティスを撫で続けるが、再び目は天井を向いて… 何か、こう…  半分、死んでるよーな…


 「俺もさ、もう… もうもうもうもう〜 どう考えて良いのか、一時わからなくなりましたよ。それに気付いたのは割と早かった。君の体調と連動しているよーなものだから、様子見するのは当然で。

 守りはある、眠りも穏やか。顔色の良さに回復の兆しが見える中、夕刻を過ぎても繋がる気配はない。目的を達する為なら、どう使われようと構わない。だから、「やった、俺の力が!」と快哉を叫び」

 

 うっす〜く持ち上がる唇と笑顔が悪魔風味。


 「それが、就寝前の確認でチャラになってた。浮かれ気分で踊っていたモノが地の底まで叩き落とされ、凍りつき。「この一大事に… 何を悠長に寝てるのか! 今すぐ起きて説明を!」と揺さぶりたくなりまして。ええ、昨晩の俺の感情の発露にツラをお目に掛けずに済んで幸いだと」

 「うにゃは?」


 「考えれば考えるだけ暴走するので、君が起きるまでは考えまいと。いえ、絶対に考えないと決めて捻じ込み」


 ちょっと、その握り拳いらんて。後、そーゆー声でゆーのもやめろやと前にもおもーてリクエストをだな…


 「君は力と称せるモノを全て吐き出し、空にした。なのに、何故それだけが」


 俺の手を凝視する蒼い目が怖い。

 悪魔が降臨する前のきゅーそくれいとーが始まってて、怖い。ほかほかご飯が来る前に悪魔が降臨するとか、やめて下さい。


 かき氷ではおやつです!


 「君の有する力が俺達と同じとは考えてない。力の異質を異物と捉え、吐き出したのなら不適合。だけど、俺と君には召喚の繋がりがある。だから、その線だけは薄いと。何度も心が叫び続けるのに、自重が自嘲を招き入れ。違いを念頭に症例の比較検討を行い、散々熟慮した。それでも、どうしてもそこに繋がり。それが不快で。


 何でかな? ねえ、何でそれは活きてんの? 捨てるんなら、それも一緒に捨てるもんだろ。間違いなく、それを引き剥がすに足る放出量はあったってのに。俺の力を捨てても、何処の何奴かわかりも  ああ、違う。わかってる。 あの犯罪者のほーが君の力と適合する? 俺よりも?  それ、どーゆー事ですかねええ?」


 じっとりとした目がナンか危険を孕んでおかしいんですけど!!


 「なななななっ 何ですか!? その、その… うわうわうわ、浮気を問い詰めるよーな目はあ!?」


 アーティスを軽く叩いて、ゆらりと膝立ち。

 ゆっくりと、ゆっくりと躙り寄って来る悪魔が完全にホラーです! 前兆からそのままチェンジするとか… やめろよ、こっちくんなあ〜 俺がガクブルするだろー。


 「それが此処に来て、一番最初に受けた力だとしてもだよ…  あー、あの糞屑風情が 「俺は何にもしてませんー! ぶっ倒れてただけですからー!」 り、兄さんが言っても 「今だって今だって「えー!」ってったろー!?」 後まで搾り取って、そ 「あああ、アーティス! ガード!重し!盾!バラスト! そいつ、抑えて抑えるこっちに寄せなー  うひぃ!」


 「クウ?」


 俺の悲鳴にも首を傾げて動きません。猫の遊びが一つ、『いやん、待って。行かないでえ〜』。爪の物理と可愛らしさで拘束し、移動を妨げ、時間を稼ぐ阻害遊びは覚えてないらしい。まぁ、犬は爪が違うしモップ遊びはイマイチか。


 あ、やべ。

 アーティスの阻害遊びは危険な香りが。



 「その余裕、なに」

 「うにゃっぱあー!」


 はい、目前に恐怖があー!


 迫り来る恐怖から飛び逃げたいがベッドが邪魔をしてからに、くう! どーして俺は自分の部屋でホラーに直面してるのか? 変なゾンビが揺れてます。アーティスを道連れにゾンビ化してはいけませんー! あ、してないか。


 「真実、不適合に依る拒絶反応だったのか? それとも、初めから俺の力が嫌だったのか。そこからの取捨に… 本能で捨てたのかと。滲む想いが広がれば、それもまた力を滲ませ広がり続け… 次第に力を取り戻して形状を成していく様を見せ付けられると… 昨夜はまともな睡眠がとれず、膨れ上がる疑念を抑えるのに精一杯で。ええ、健やかな眠りを得ている君とは正反対に悶々とした一夜を過ごさせて頂き」

 「ちょい、近い近い近い!」


 アーティスはゾンビに忠実でゾンビをゾンビと認識してない。初めから盾になる気もないよーだ。ぎゃあああ、俺がゾンビ化してしまうー!


 「だから、待てとー!」


 

 初めてのぎゃん泣きで、こいつが今まで一生懸命作ってくれてたカバーを捨てたなんて嘘っしょー!!


 『叫んだら、くらっときたよ いろんな意味で』


 ご・しちしちがでーきたあ〜 なんて思うが目が回る。しかし、ここでヒロインのよーに倒れたらゾンビにやられてしまうのです!


 「俺は気持ちよく寝てました! なんかの拒絶反応にアレルギー反応を起こしてたら、健やかな眠りはないでしょう!!」

 「そりゃあ、全部吐き出してすっきりしてる訳ですし」


 「ポイ捨ては事実無根の!」

 「いえ、事実は此処に。この通り!」


 「こんな事実を望んでません!」

 「心と体は別物で、嫌だ嫌だと言っ「だああ、変に聞こえる言い方すんな!」


 一発、ベシッと頭を叩いて横逃げします。


 「大体、別物とゆーのはだ! ぎゃああー!」

 「話の途中で逃がすかよ」


 逃走の失敗に片足がー! 即座に反撃、足蹴りしよーと力を入れた所で閃きました。


 「やり直しです!」

 「はい?」


 「やり直しの要求が出ていたのです!」

 「え、どこから?」


 「俺の心に決まってる! 上手にやってたつもりでも、どっかが綺麗にできてなく! 有り難く受け入れる身が不平不満を言ってはならぬ状態に、よくわからなかったモノが少しずつ感知できるよーになった今! こんなん、じょーだんでも嫌だと癇癪を起こしたのですうう〜〜」

 「…… 」



 必死こいて適当な事をゆーてみた。しかし、ゆーてる内に自分でもそれが正解な気がしてくる。『イケる! それで誤魔化せる!』と叫ぶ意識に黙れと沈める。


 「重ね掛けは現象であって、縫い目等の「無意識でやっちゃった溜めて溜めてのさよーならが、誤解と弊害を生み、お心を騒がせた事を心よりお詫び申し上げ。だから、やり直しをよーきゅーしますう〜」


 冷静な言葉を遮り、『もう一回!ヘイ、もう一回!』と笑顔でアピールしましたら。俺ののーみそくんくるくるくる回って、『唯でさえ、少ない奴の力を使い込んでの垂れ流し(時間差)』なーんて事をぶっ込んできた。んなの気が付くなよ、黙っとけ!いや、黙るな! そーだ、それは素敵なアプローチ!!


 「すすす、少ないとゆーお前の力を無駄遣いして  すいません」


 祈りのポーズで下手に出まして拝みます。はい、此処らで逆巻くでんでろでろでろしたもんが収束する事を祈りましてえ〜  アーティス、どーしてお前はそんなに普通で居られんの?



 ため息が降ってきた。


 ゴチッ! 

「だあ!」


 頭突きも降ってきた。


 「…まぁね、どういう使い方をされてもと言ったのは俺ですし。君のやり直しの真意が不明でも、違う道は開けてるから遊びは終わろうか」

 「はい?」



 なんか聞き捨てならん事を。






 「いやね? 君の認識を理解した時点で俺の負の感情なんて消滅してる。何と言っても俺のを選んで食っただから」

 「…それなら、あんな迫真の演技は」


 「自然にできるものは、演技ではなく」

 「酷くね?」


 「伝えない真実に価値を見出すのは、自分の心。それ以上でも、それ以下でもなく。契約や政争上の何かでもあるまいし、個人間で後から知れる真実なんて… どうして言ってくれなかった?で始まる面倒事じゃない?」

 「…うにゃあ〜ん?」


 なーにを思い出してるのか、悪魔な笑み。しかし、ため息。そっから、一人苦笑。


 「君には、ちゃんと感情込めて話すから」

 「うわ、何か嬉しくて違うよーな。でも、わかり易くていーのではないかと思われ〜」


 「だよねー、だから兄さんの前でも突っ込んできたんだよねー」

 「うわっはー、それを出すなよ。恥ずかしい〜。俺はお前に話をだあー」


 「はい、君の英断に感謝を。お陰で俺は抱え込んでおりません」



 悪魔の影は去り、後には爽やかさんの登場です。俺もベッドの上から、同じよーな笑顔を返して良しとしま〜。


 「でもね、私的な感情を除外しても君は危険な状態でして」

 「へ?」


 「力の回帰を認めるのは腹立たしい。けれど現状を『回復した』と考えるのなら、俺の力は異物で自然回復が望ましい。なのに、目覚めて直ぐに新たに力を取り込んだ。それは本能にも反する異常性」

 「空腹の余り、ご飯がくるのを待てなかっただけだ」


 胸を張らずとも言える。それが真実だ。


 「あのね」

 「お前の力が異物なはずはない」


 「…気持ちは嬉しいけどさ」

 「ちび猫はうまうま食って満足してた。毒なら、あんな顔して食わねえって」

 

 「…その気持ちが誤認識させてるのかもしれない、用心は必要だよ」

 「必要なのは、もぐもぐしていい回復薬だ!」

 

 力説序でに、ビシッとお前と決めといた。


 「野生ではないが、本能の猫は危険を間違えないはずだ! つか、もう空っぽのほーが危険じゃね? 微妙に活きてるこれが全身に回ったら、どーすれば? これの対抗措置にお前の力を選んで食ったが正解だって」

 「良くも悪くも、それは印。対抗に食うなんて撞着だよ」


 冷静な俺の魔法の辞書は頑固でノリも悪い。無理が通れば道理がひっこむとゆー不変の真理が手を翳すと、あら不思議が生まれるとゆーのに。あ、そか。


 「通常とは別に俺専用のページ作ってくんね」

 「うあー、不整が公理に訴えてるー」


 「はあ?」


 何か悟りを開いたよーで開いてない目、こいつが浮かぶのはまだ先のよーだ。助けねば。




 「そんなに落ち込む必要あるんか? 本当に合ってないなら、そろそろ体調おかしくなるんじゃね? へーきだけど」

 

 問い掛けにも答えず、考え込む。


 その姿から何故か再び冷気が漂う… それ見て『人間ドライアイス〜』と笑う俺と、『前触れだ、まほー陣を潰せ!』と叫ぶ俺がいる。笑いと叫びが顔を見合わせ頷くと、『ちび猫の出番だ!』と声を揃えた。そら、そーだと思ったら頭の中に人権とにゃん権の秤がご登場。にゃん権がガコッと落ちた瞬間、人権が宙を飛ぶ。


 飛んで俺の人権、見えなくなった。俺、フリーズ。 プリーズ、フリーはマイセルフ。マイコントロールにコントコーラーどこですか?



 てきとーに思考を逃すと、全てを打破する素敵な音色が響きます。ぐうと奏でるは俺の腹、キュルキュルと返すはワゴン様!


 救いの時間がきたのです。




 「では、こちらを」

 「へ? …あ、どもです」


 もうすっかり元気になりましたと、ご挨拶くれたのはロイズさん。本日はウエイターさんでーす。受けたこの身に気兼ねも何も不要で、自分の力が脅威になる事などございませんとゆー ゆー… 意味はわかるが、そーなんだろか?な言葉を下さり、給仕に勤しんでくれてます。


 その一環で、先ほど俺の首にナプキンをセットしてくれました。病人用テーブルを設置し、ご飯が並んで出来上がり〜。


 「あれ、お前の分は?」

 「もう食べてる」


 「あ、そーなん?」

 「匂いに釣られなかった君が、少し心配でした」


 「え」


 吃驚な発言に目を向けると椅子に座ってた。思考は脱してないよーで目は見えない海を眺めてる。その足元でべったりなアーティスは俺をガン見、ピクつく鼻が目立つ。わからない振りして笑顔でスルー。首の回転でスルーな笑顔をロイズさんに向けたら腹が催促するので、いただきま。



 俺の大好き、豆スープ。一口掬って含みます。変わらず良い味で舌がめっちゃ喜んでる。そして何より!自分で食事ができる喜びを噛み締めるのです。



 無事、完食。スープと丸パンと、うまあまフルーツポンチで満腹です。がっつり食えない自分が少し悲しいが、出される黒薬湯Xにぃ〜。


 「要りません」

 「…味は我慢の程を」

 「そうだよ、飲んでおきなよ」


 高価と知ってるあなたを、no。


 「違う、もう慣れたから飲める。そうじゃない、これじゃない感がしてるのだ」

 「え、原因が自己究明された?」


 「…そんな小難しい言い方を、うぬぅ。 えー、究明されてません。そんで栄養士の資格は持ってない。だが、自分に足りない栄養がこれではないとわかります。そうとわかる自分がすごい成長を遂げていると思います!」


 良い感じで言ったのに反応が鈍い。


 「… 」

 「では、無理せず様子見としましょう」


 一人の顔がうにょーんとした所で、合いの手が流してくれました。が、テーブルを片付けつつ仰る言葉を直訳すると… それが何か早く理解して言いましょうに繋がり。ふ、しまったね。勉強さっぱりだから、栄養士さんにはなれそーにないのです。でも、五色食いなら知ってるしい〜。



 「それと、ご報告を」


 食事終わりで、あれな話がありました。


 ジャスパーさん、へたってるそーです。目覚めた直後はバリバリのパリパリで「うがーっ」な暴れん坊してたそーですが、誰もどーしようもないので徐々に萎れて静かになり。昨日は俺を「呼んでくれ」とご指名が入ってたらしい。正直に「お休み中」と断ったら不信が見えたと報告が回ってきたそーで… 同類であるロイズさんが確認に行ったら、自分の手を睨んでは逸らしで震えてたり、スボンの裾を握り締めて押さえてたり。


 「あの仕置に、この身は恵まれていると痛感しました」

 「うにゃあ〜ん」


 否定も肯定もできないので猫語に逃げた。

 

 ジャスパーさんは見たくないと包帯を望まれたそーだが、ミイラをご希望でしょうか? どの道、首吊り道具は却下だそーです。


 「あの、それなら手袋は」

 「温情を掛ける立場にございませんので」


 「うや」


 線引きはきっちり、馴れ合いはしない。素晴らしい遵守です。


 「挙動不審に自死を疑い、監視を目的に牢を移しまして」

 「へ? 監視… 二人部屋みたいな?」


 「はい、現在は三人にしております。見張りに入れた二人も罪人ですが、「振られた役目もできぬ者は」と言い含めてございます。どちらに転ぼうとも、それなりに。ご安心下さい」


 …なんか、安心感うっすーう。全身なっちゃってへたった人に犯罪者を充てがうとか。蛞蝓に塩じゃね? いやでも、本当に死んでからでは遅いし。


 「抑止となれば何をしても良いとしたので、多少の怪我は勘定に入れず」

 「ナニか、ひじょーに拙い気が!」


 「大丈夫です、配慮としてあちらに入れました」

 「暗いほーに突っ込んだとか! それ、監視が届かないとゆーのでは!?」


 「ですから、どちらに転んでも」


 にこやかなロイズさんが見せる指の仕草が、わからないけどみょーに怖い。


 「次に」


 報告は終わりません、進みます。そしたら、今度は良いニュース。元金魚ちゃん達、全員が目が覚めて快方に向かってるそう!


 「え、一人おかしい?」


 えーん、微妙なニュースに。



 「額… 波乗り金魚ちゃんか」

 「これのお陰と言いますか。あの者だけ切れていない、とした感覚を覚え」


 縁切り判定機になってるロイズさんが、ぺっち場所を服の上から押さえられると… ありゃ〜って感じ。俺、失敗したんかな?


 「お心当たりは?」

 「ありません」


 「そうですか… ならば、ご意向やもしれませんね。セイルジウス様からのご指示もございますが、お元気になられるまで問題の二人は自分が管理しても宜しいでしょうか?」

 「ぜ、ひともお願い致します!」


 丸投げした。

 喜んで投げた。


 「受け賜り。状態が良いので、早速ロトには教育を施しましょう。教養の程度は不明ですので然程進まぬかとは思いますが… 誠心誠意努めてご覧に入れます」

 「ほあ?」


 ちょっとボケた。何の言葉にボケたかわからんけどボケた。でも、のーみそはボケてないとゆーので俺もボケずに右向け右して右だけ聞いてみる。



 「お名前でしたか」


 波乗り金魚ちゃんの名前が判明しました。ロトさんです。最初の連想ゲームは勇者札。だが、俺のゆーしゃ枠は埋まってる。なので金魚のロトさん、あっちです。はい、ロトロトロトロトロトうーんちゃあら〜。数字を〜当てて、いっかくせんきーん!のロトですね。


 名前で運を当てている、すっげえ当たりを引いた人。普通は引けない当たり籤。この人、連れてカジノに行ったら当たるかな? いや待て、俺が招き猫。運を招くは俺なのです! 人権・にゃん権取り混ぜて、俺はスキルをものにするのだ!


 

 「心を入れ替えるとするより、根底から変えましょう。楽しみにしていて下さい」

 「あの、そこまで張り切 いえ、頑張って下さい。俺、できないんで〜」


 「お任せ下さい」


 微笑むロイズさんのオーラを幻視した。

 

 見えないオーラは、ぼうぼうの炎上じゃなくてキラッキラのきらりんだった。先生のやる気に生徒が付いて行けるか不安ですが、イケると信じて待ってます。信じる根拠はないが信じよう。そうだ、ロイズさんを信じなくてどーするのだ。ぺっち持ちでお手をしてくれた人を信じなくてえ〜 持ってるスキルが怖く聞こえるだけだよ、きっと。


 そうそう、俺が無理した所で治りが遅くなるだけ。悪化は嫌、手探りは危険。できる人に甘えて無理せず、今は人に頼るのがベスト。間違えてない。


 「後は」


 それから、じーさんと執事さんとヘレンさんの容体と今後について。さらっとエイミーさんは省かれた。


 「待って下さい、それでは」

 「憂慮です」


 「あうー…」

 「放逐ではない、挨拶はさせるよ」


 「あ、ほんと」

 

 報告の終了に伴い、美味しかった伝言を頼んでベッドから見送ります。ドアがぱったん閉じてワゴン様がまたねを告げたら、椅子から立ち上がる。アーティスは片耳ピコッと動かしたが椅子の隣で寝たまんま。


 「お手」

 「とう」


 「お代わり」

 「にゃん」


 何も気にせず、出しました。


 「… 」

 「遊んだのに、なんで反応薄いんだよ。外したか?」


 「あは、いいえ。聞いての通り、君が寝てる間にも進むものは進んでいる」

 「ですね」


 「君のは進めたくない」

 「えー」

 

 「君が感じた熱の流れがわからない。けど、それには確実に流れてる。だから、目安になった。不本意です」

 「全くだ」


 消えないコレが測量計とか嫌だわ〜。


 「猫は君の力。感情の解放。萎縮はなしでと言ったのは、俺。君に安心と選ばれるは誇らしい。それでも、食うとするは…」


 嬉しくない?と盛り上げよーとしたら、言える顔してなかった。



 指に髪を絡めて弄る姿に、何かゆーてやらねばと思うが何も出てこなーい。使い方が判明した俺のMPゲージ。力が回ってぴーかんなったら、俺が元気になった証拠です。証拠の証明は契約が結ばれると、よーくわかりまああ〜〜  あー、嫌。嫌、嫌、嫌の嫌過ぎる。せめて、どっかが切れてくれないと安心して元気になれねえわー。嫌っつったら、今の体力も嫌でして。遊びに行っても俺だけへばって一緒に楽しめそーにない。そーなったら、こいつも楽しめないでしょう。


 うん、早いとこ体力回復して俺を変えねば。あー、だるう〜〜。



 「あのさ」

 「はい」


 「俺は君を変えたい訳じゃないんだ」

 「なんじゃそらーっ!?」


 「ヒャウン!?」


 反射でガバッと起きました。怠くてもできるもんです。ギリッと睨んだ顔はギョッとして、ギョッとする感じで黒い塊跳ねました。一人と一匹、シンクロしてる。


 『なんで怒るの?』


 シンクロした二組の丸い目に意図を読み間違えた感がして、ぷしゅーっと何かが抜けていく。


 「ど、どうしたの?」

 「…いにゃ、なんかタイムリーで。うにゃうにゃ」


 妙な過剰反応が恥ずかしい。

 先に進んでくれとアゲアゲしたら意味が通じんかった、失敗。




 「力の取り込みってのがね」

 「できたが聞こえる世界に行く事に何の不満が」


 「不満… そうではなく、 いや、そうなるか。俺は君に君のまま… 君の力で伸びて欲しかったのであって」

 「待てや、こら。お前の力に染まって、余力ができたら遊べるとゆーたのは嘘か?」


 「あ〜〜〜〜 だからあ! そーじゃなくてえ!!」


 ダンッ!


 突然、お一人様が片足キックで床を苛めたですよ。

 心臓がちょっくらビビったのを『足癖、わーるーい〜』と宥めて誤魔化すが、腕をブンッと振るのにひええええ。




 黙って、壁に向かって行きます。こっちを見ない背中は苛々感が満載で危険な状態が丸わかり。壁に手をつき、頭を寄せて…  はうあっ!




 時間経過しても、ゴン!はしませんでした。良かったです。こうなると、俺のほーがゴンを期待してた気がします。いけませんねえ、人の苦悩を見たいだなんて性格が悪いですよ。


 とっとと捌け口を見つけてえ〜。でも、君のままってのがな。



 「おーい、悩んでるとこ悪いけど自爆はなしで〜」

 「…だいじょーぶ、君を置いて自爆はしない。道連れにするから」


 「ぐは! お前、優しさ飛んでない?」

 「飛ばす優しさって、何?」


 「壁に向かって言わない事だと思います」


 多分、こいつは自分の理想でぐるってる。理想の押し付けは拒否だけど、こうやって悩むとこがなー。俺のままでいーなら、今を納得してくれねーと。良くも悪くも無意識でも、俺がしてんだから。



 あ、良かった。こっち向い…  た、顔が悪魔じゃなくて氷になってる。どーしよう? ま、氷のままでもいーか。こいつなんだから。送信するから、ちゃんと受信して下さいよ。


 あー、あー、繋がりますかー? こちら、繋げてますよー。









 父ちゃんが危険だ。

 危険をはっしてるものに近寄ってはならなーい!


 そう教えてもらってるから動かないけど、おかしい。母ちゃんが危険だって父ちゃんは言ってた。心配してた。だから、俺も急に心配なった。でも、起きた母ちゃん変じゃない。ふっつ〜うで危険じゃない。どこが?って感じ。


 危険とゆーより、なんかなー。


 母ちゃん、それ父ちゃんのだろ? ちがうー?


 

 うーんうーん、あってると思うけどちがったりー? ん〜〜、よくわかんない。えー、どうしよう。はしわたし、できなーあ。





 もう、なるよーになれとか? あれ、なるだっけ。


 そうだ、怒り出したら割り込もう! それまで良い子で大人しくいよーっと。でも、母ちゃんわかってねーから父ちゃんがわかるはずないよなー。


 …なんか、いっしょーけんめーな父ちゃんがかわいそーな気がする。父ちゃん、俺は父ちゃんの味方だよ! 後でいっしょにおそとにいこー。


 


一匹、視えてはいる。

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