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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
182/239

182 大事な鍵は 

令和、初回。

新しい元号は好ましく、気持ち良く進んでいきましょう。





 言葉、一つ。

 それで表情が溶けてゆく。

 

 子供の頃に知り得た言葉のときめきは、現実を積み重ねる毎に色褪せ、変わっていったが、それが今、時を経て初めて正しいと思える形を見た。


 知れた!と喜ぶ心。

 正しい?と反芻する心。


 相反する二つに、特別に気付けと呆れる心。


 どんな事でも一番上へ押し上げる特別は、格別に心を柔らかく溶かし出す実感をくれた。この心が溶けゆく様を『肩の荷が下りた』とするが惜しく、彼の顔をそうと評するも合わず。


 惜しいとするを嫌だと思う。



 胸に手を当て感じ入る姿に泡雪を思い、溶けゆく様を重ねる。似たような顔を返しているだろう自分。これが俺の成果だと思うと、間違えなかった事が嬉しい。 ん?


 

 「どうかした?」

 「ど」


 「ど?」

 「どーもこーもそーもゆーも ぎゃーーーー!」


 ……うあー、もう溶け切ったのかよ。まぁ、泡雪だからな。早く溶けるのも仕方ない。でも、もう少しゆっくり溶けてくれると味わい深くていーのにな〜。残念。


 「どーしよー!」


 あー、そう揺さぶられても〜。



 「金魚の集団暴行事件が金魚の集団強姦事件になってまうーー!! いにゃー!」

 「はいはい、落ち着こうねー。暴行事件は確認されていませんから強姦事件に発展する見込みは薄いですよー」


 かる〜く宥めてみた。


 「あああ、ちがー! 今後が強姦事件にーー!」

 「え、今後? つまり強姦事件を傍観した事実?」


 「違いまー! そんなん嫌だから叫んでます、えーー!」


 あはは〜、混ぜっ返すと反応良いね。

 



 「赤もぐもぐ事件は…  とても、とても必要な事件でした!」

 「あれを暴行事件にしては問題が発生します」


 「ですが今度は全身がやっちゃなってます! それを金魚ちゃん達がやったったするよーに、やったをしてやったとなるのでしょう!」

 「そーですね、多分そうなるのでしょう」


 「やっちゃをやったするのは希望どーりでありますが、ジャスパーさんにしてみれば希望してないやったです! やったったをやっちゃったらやっちゃった時点でやったったが完全に起訴猶予にならないやったではないかとー!」

 「あのさ、やっちゃってくれないとやったにはなりませんが?」


 「そのやったが問題だろ!? ジャスパーさんはジュリ金魚ともレッちゃんとも「は? レ? 待った、それ誰?」


 「あいや、レッ金魚ってゆーのは微妙かと。ジーナちゃんのほーがいいかな?」

 「…あれはレジーナだったと」


 「愛称呼びのほーがよくね?」

 「…あー」


 「でだ! あの二人は組織の人間、そしてジュリ金魚は周り中が仲間とゆーた!」

 「そうだね、一つの組織が丸々壊滅したと考えられる状況だ。家の情報網には引っ掛かってるはずですが、此処だとちょっとね」


 「…ええ、と。  ちが、そうでなく。そっちでなく。  …そう、ジャスパーさんと知り合いであるとゆー事が大問題で!」

 「ん?」


 「ジーナちゃんは上! ジャスパーさんも実力者! 組織に出入りしてたなら、他の下の人達とも顔見知りなはず!」

 「だろうね」


 「だったら表も裏もあっちもこっちも顔見知りな金魚達にされたとゆー事で! やっちゃってのやったったは顔見知りの皆々様に食われるとゆー事になるのでは!? フィッシュドクターの名目を使っても、次は集団強姦事件だと! 全魚が顔見知りとわかった時点でジャスパーさんの心が死ぬのではないかと思います!」

 「ああ、はいはいそれですか。あははは」


 「ちょっ…  俺は本気で心配してですねー! ちび猫の手がどれだけ心と体を守っても、クロさんのお手が反対側から爪研ぎしてます! 爪研ぎするクロさんの気持ちを考えると叱るも怒るも間違いで、直ぐに消してなんて言えません!!」

 「あ、そこは気付いてたんだ」


 「だからですね!」

 「はいはい、そんなに気にしない」


 それは無理だと否定とするのに、問題ないと軽くかる〜く否定する。あいつの事は心底どうでもいいから笑顔で否定したいんだ。


 「どうせ自分で気付くって、それなりに自負してたろ? 君がどうこうしてやるより、自分を受け入れるしかないんだよ。意味合いが少し逸れるけど、あれもまた敗者。それでも文句を言い続けるなら、その時にぶっ刺せばいいだけ」


 だから、説明も適当に。

 情報を様々に得て、魂を見た。振るわれた力の威力、体験は人を変える。何より変化を遂げた赤の縛りが以前と同じとは思えない。全身に回り切ったあれは、体より魂を束縛したのではないか? 自死もできないと理解した時、実験を問うた口で自分を何と謗るのか。


 そこからの歩み次第でロイズとは違う道が開けそうだが…   はは、今できたら褒めてやるよ。

 


 「ぶっ刺…   それよか、やっぱ気付く? 俺がわかる位だから普通にわかっちゃう?」

 「うん、わかるって。クロさんは横暴ではなく、理由に基づき行動してる。気持ちを汲んでくれたからロイズは軽減した。この事実をどう思う? 一度解放されたのに、あいつはどうしてまたなった? あいつの心情をあげるより、クロさんにお任せしては」


 「…そっかな」

 「クロさんは一番である君を優先すると思います。だけど、クロさんにも心と頭がある。時間を置くのが正解じゃない?」


 「あ〜」

 「クロさんとあいつ、どっちが大事?」


 「クロさん」

 「即答なら問題なく。人目に晒される事を気にするなら、人目に晒されないクロさんの気持ちは考えなくて良い事に「なりません!」


 「だよねー、お任せした方がクロさんも嬉しいって」

 「そ… そうだ、よね。 ポイ捨てしようって  は、なしじゃ ないからあ〜。き、きっといー  よー なぁ〜〜」


 「それよりさ、本当にクロさんの中身をご存知でない?」

 「はい?」


 「いや〜、何と言うか。理解度の高さを考えると、生まれたてのナニかだとは思えないんですけどー」

 「えー」


 「生まれたてで心の機微を理解する? それ、なんて撞着どうちゃく。心が示す力は、あっちの垂れ流し。心となる感情が安定して初めて頭が回り出すかと。ここを守れとするは魔具でも可能ですが、応用は構築に組まれた分だけ。それ以上に回す知識が詰め込まれているなら、心臓部。心臓を回すは頭。そして応用が高いとなると〜  それも機微を解すだから」

 「や、クロさんは特別とゆーかあ〜」


 「特別無理をさせて生まれた?」

 「うえ!? なんでそっちのほーに!」


 声と違い、顔は笑って。

 内容の重さを軽くさせて、初めから答えはなくていい。


 それでいい。


 誘導なだけ。完了で放置決定。あはは、もう暫く泣いてしおらしくなりやがれ。形を変えても出たのは叩かれる要素があったんだろ。改心するまで叩かれとけ。


 反省を促す。

 それが最初からの条件だったと思うと優しい対応だろが。



 「そうだ、湿布はした?」

 「まだ」


 「薬は?」

 「向こうの部屋、頼む〜」


 「ん、行こう」


 立ち上がれば視点が一点で止まるから「痛くないよ」と腕を振り、序でに灯りを消す。笑って、本音で。


 「これで爪痕が残ったら驚異だよ」




 


 「あ〜、見事に浮かんで」

 「…はい、押したら痛いです。ああ! 押さ押さ押さなあ〜」


 「押してません」

 

 ビチャ!


 「うひょう! 効く〜」

 「ところで、膝は?」


 「転けた」

 「追加か」


 「あう、お手を掛けます」

 「以降は用心を」


 「うう、内履きさんの体格が少々よろしいよーで」

 「ぷ」


 「うあ、笑いやがったー」

 「はい、動かないー」


 ペチ。


 大人しくしていましょうと、軽く叩いた。




 治療を終えて片付けて、ふと気付けば雨音が止んでいる気がしたが閉めた状態では見えない。


 「どした?」

 「ん、ちょっと確認」


 外の様子を見に行けば、アズサの声が後を追い、遅れて足音も追ってくる。





 「残念、居ないね。今日は竜達と寝るみたいだ」

 「あ〜、ちゃんと帰ってるよなあ」


 「普通に帰ってるよ、きっと」


 見上げる夜空に雨脚は弱く、雨雲が流れる速さに空全体を覆う厚みは薄い、遠くは切れ間が見えている。


 「夜の内に上がりそうな… 明日、晴れたら遊びに行こうか」

 「え、まじ?」


 「色々やって疲れたろ? 俺も気分転換したい」

 「やっほー、明日はお出かけ〜。内履きさんも買い物リストに記載しまー」


 「晴れますよーに〜」

 「晴れてくださ〜」


 二人で空に願いを唱え、部屋に戻って寝る事にした。



 

 しかし、寝間着を着替えたい。着替えよう。取ってきてくれたのは嬉しいが長袖は暑い。


 「ごめ、漁るのはどーかと荷物置きんトコの棚のやつを〜」

 「そうだね、ありがと」


 自分の荷物を漁るより備え付けの方が楽だと移り、ざっと棚を眺めて当たりをつけて、これだと取り出せば、当たりは当たりだったが子供用だった。ち。




 「あ と、き   なに書いて、たぁ〜」

 「ん?」


 何か聞こえた気がして首を向けるが違ったか。さっさと下を履き替えると涼しい。やっぱり、生地が合ってなかったなー。


 「お待たせ、さっき何か言  あ〜」

 

 両腕広げて、もう寝てた。

 顔の前で手を振ってみたが完全に寝てる。


 「熟睡…  あれで寝が足りてないとか」


 腰を掛けた状態からの爆睡に足は上がってないし、向きも悪い。寝返りで転げ落ちるかと思えば、上がれずに震えていた時の記憶が蘇る。嫌な記憶がすっごく嫌だ。


 「はは」


 着替えた寝間着を放って、下準備に毛布を体の近くに寄せてから前に立つ。背中に片手を回して体を抱え、毛布を引っ張る! 浮遊感を感じさせないよう静かに体を戻し、両膝を持ち上げれば室内履きが片方脱げた。


 「ん〜」

 「もう少し、そっちに寄ろうね。寝てていいよ」


 よいせっと体を滑らせ向きを変え、上へと引き上げたが全く起きない。顔色を確かめ毛布を胸まで掛けて灯りを落とし、寝間着を拾って椅子へと放り、反対から寝台に上がる。


 「そういえば、三枚が何か聞きそびれたな」


 寝転がってから、思い出した。




 


 「ふ…」


 眠りが訪れない。

 吐き出した息、それなりに疲れを感じている体。


 首を向ければ、気持ち良さそうに寝ている君。静かな中で単に眠りが訪れない。寝とけよ、と思えば思う程に思考が回り始める。


 今、考えるべきだと。

 明日、遊びに行くのなら その前にと。しかし、あれ以上に猛省する事などあっただろうか?



 「ふっ」


 鼻で笑って否定すれば、そっちじゃないと否定が入って考えるべき事に気が付いた。





 周回。

 同じ所を回る。


 廊下でぼやいた。気力が湧かないと、以前も似たような事を廊下でぼやいて。同じを繰り返している自分。進んでいるようで進んでない。


 俺にはない愛称呼びだってさー。



 羨む声に返事はしない。


 彼と違い、知識はあるつもりだ。それで何故に進まないのか。本当は進める気がなかったのか? …変化はしていると返す心が馬鹿のようだ。学友達が見れば、「なんでそんなに態度が違う」と言いそうな変化は前進ではない。俺の、前進には当たらない。


 今日、彼は新しい知識を得て前に進んだ。その手助けができた。それは良かった。そして、良いか悪いか多少わからない状況ではあるが、あいつらも進んだ。進むべくして進んだ。その為に彼に願った。願い通りに叶った事実と今の自分を比較する。


 様子見に時期を伺うとして、わかり合うのではなく、単に彼に折れて貰いたかったのでは? 否定の言葉に否定を返す自分なら直ぐに浮かぶが、未だに別の名前で呼んでいる自分は浮かばない。解決しないから、君とお前になるしかない。それが嫌だと今更に。


 明日、気晴らしに行って  やっぱり、俺は  君を君と呼ぶのか。





 寝顔に向けて、手を伸ばす。


 届かない。

 これも同じ。そのままに天井を見上げる。




 どうして、俺はこんなにも… 進もうとしないのか? 譲ると譲れないと頑迷は違う。俺は頑迷なつもりはない。ならば受け入れ、新しく始めるのが良い。良いと言うより、心機一転…  一転か? いや、それは違うだろ。



 『ノイ』


 兄さんも姉さんも、そう呼んだ。拘りがないから受け入れた。聞き続けると違和感は薄れる。最初に拒否した時と違い、耳に馴染み始めてる… アズサと呼びたがる自分だけが置いていかれる。置いていくなよと告げる先はどこにある。


 『ノイと呼んで』


 新しく始める言葉を聞いて、即座に拒否した自分の心。受け入れようとしないのは  俺の我が儘か傲慢か稚拙さか、そんなところか。


 一緒にと望まれて何故に拒否する馬鹿になる。よくよく考えても機会をふいにしているだけだろが。あの時、否定せずに心を押し込めてでも前に進む姿を祝福していたら。多少の違和感なんて呼べる事実の前に消えるだろ! 慣れだ慣れだと自分で言っておきながら… 


 重ねる現実、隣にいる現実。死んだモノより生きているモノ。



 あの時、受け入れる度量があれば。俺は、こんな事を考える事もなく、名前を呼び合いながら気持ちよく先へと進んで…  いたはずだ。きっとそうだ。彼にしても、名前を呼ぶのに躊躇う必要なんてない。



 なんでそこまで考えて動けなかったのかな。どうしてあそこで否定したのか。したところで戻るものは何もないのに。ないとわかっているから、新しく繋ごうとしたのに。どうして俺は、否定する事で夢を見ようとしたのか。


 新しい名前で呼んで良いと言われたのに。





 機会を活かさなかった。


 そう思えたら、自分の望みが無意味に思えた。意味のない遠回り。未来を妨げる、自分の心。


 腑に落ち掛けるも、もやっとする。 …これは感情の否定だからか? 感情が過去を望んで未来を閉ざして、俺を置いていくのなら  あ〜。




 「は」


 馬鹿らしさに息を吐き、頭を空にする。


 小さな声で、そっと。


 「ノイ」


 


 呼んでみた。

 転がす言葉に違和感はないような気がする。あの時の様な反発はない。



 「心の整理がついてない? 違うとわかっても、しつこく混同をし続けたいと?」



 そりゃあ、俺はしつこいけどな。


 「引き摺ってるさ」


 ボソッと言えば、自分の駄目さが心に刺さる。


 そのままでいれば、もう進もうと指差す自分の幻覚が見えなくもない。そうだ、違う。彼は人だ、俺の召喚獣ではない。一番の違いはクロさんだ。あの存在は大きい、大き過ぎる程に大きい。クロさんの力に焦点を当てて、どうしてそれをやったのかを忘れると死ねる。いや、やられる。



 もう、本当に遠いんだなぁ… 


 感慨か感傷がしんみりと告げる声に、歩速を合わせた『今だ、行こう!』と弾む声が聞こえた気がして。心の中で、一歩踏み出す。続けて脳裏でサクサク歩く。


 は、なんて事ない。歩けるじゃないか。


 不意に笑いたくなる。笑える程に軽いと笑う。あんなにも重く大事だと手放さなかったモノがこんなにも軽くなるなんて 思いもしなかった。


 明日、遊びに行った先で君にノイと呼びかけたら  どんな顔で 君は返事をくれるだろうか?





 「ふふっ」


 想像に微笑んで、君に目を向けて、寝顔を見たら  心が軋んだ。





 衝撃に激烈な痛み。

 息が詰まり、軋む強さを思い知る。


 知るが意味がわからない。



 何故に軋む?

 何が痛む。


 どうして未来への歩みに絶望を叫ぶ!!


 自分自身に怒鳴り付けても硬化した体は戻らない。只、原因である彼を凝視する。伸ばした手、届かない距離、眠る顔。


 何時かの様に伸ばした手は届かない。代わりに敷布を握り締めるが痛みは引かない。





 「アズサ」


 解除の鍵と、小さく転がした言葉は格段に甘い気がした。甘さが心を宥めると実際に体が弛緩していく。何か違う気もする、俺の精神どうなってんだ。


 理不尽を誤魔化すも、舌が転がした甘さは優しく、口は覚えてる。 …ずっと大事にしてたものが甘くないとおかしいけどな。



 自分の安易な精神には参るが、どうして未来を拒否するよと問い掛けて   漸く、気が付いた。



 アズサ。


 それは君がくれた名だ。

 俺が付けたのではなく、君が、俺にくれた名前だ。


 そして、ノイは。

 アズサである君が、アズサである事を否定する為の名前だ。



 じゃあ、アズサは?


 俺のアズサは?

 一時でも、俺と共にいた彼は?




 眠ったまま起きない。

 近くにいても届かない手の距離が何よりも正しい答えだと   軋む心は、理解するより理解してた。だから、俺は大事と抱えて回り続け。





 目を逸らし、心を逸らして、上を向く。


 目から雫が滑っていった。

 右に一つ、左に一つと上手に滑った雫に皮膚を意識する。形状を保って耳の奥へと流れる。上手いこと入るもんだと手をやれば、指先が湿った。



 そうか。

 俺は、もう一度、君を悼まなければならないのか。


 呟きは胸に落ち、心に広がり、言い知れぬ感情を呼び起こす。



 此処に君がいるのに。

 君を前に、俺は君を悼むのか。


 心のどこかで被虐か加虐かわからない暴力的な感情が頭を擡げるが、それを圧倒的に上回る感情が心を占め、熱を生み、逃し、君を見て、痛みを感じ、目を逸らし、するなと閉ざし、思い浮かべた彼の笑顔に  あの笑顔がわからない。今の君と重なって当たり前に区別がつかない。


 同じ顔に 救いにならない救いを求めた。



 求めるがおかしいと突き放す心に未来の為に沈めと言い掛け、 沈めてどうすると自分を嗤う。ズレた行為に俺のアズサが文句を言うと冷笑すれば、俺のアズサが文句を言ったか?と静かな怒りの声が滲み始める。それもそうだと鎮め返して、祈りも昇華もどうでも良いと放り投げる。


 明日の朝には無理でも、行った先で 呼べると良い。呼べるだろうかと呟く嘆きを聞き流し、違う嘆きで心を満たした。







 普通に朝が来て、普通に陽が昇り、普通に起きた。多分、普通に飯も食える。


 体内時計の正確さに、こういう時は狂えよと思う。多少眠いがそれよりどうして目が腫れてない? 薄情な。釈然としないが予想通りに晴れだ。


 雨なら鬱、曇りでも鬱、涼風で八つ当たり。晴れでまし。炎天下で最良か? けっ。



 「おはよう、何時もより早いけど朝だよ」


 毛布にしっかり包まり、丸まって寝てる姿に声を掛けた。が、普通に起きない。寝台から降りて、伸びをして、光を取り入れるのに開ける。


 少し待っても反応しないから、悪戯心を忍ばせて。静かに近づき、勢いよく剥いでやろうと手を掛けた。


 「え? …え?    えっ!?」



 触れた肩はやけに冷たく、動かない。笑い事抜きに一気に引き剥ぐ。顔色は白く、体は冷たく、揺さぶっても力が入らず伸びたまま。


 死んで?



 理解する混乱に、手が離れた。


 血の気のない顔と血を吐いて笑った顔が重なって、思い出せなかった顔が鮮やかに蘇って心臓が痛い。自失したい。


 逸らしていた目を更に逸らせば過去が戻ると微笑む支離滅裂な思考が頭を占めたが、呆然と見ていた唇が微かに動いた。


 「あ。   ア、ズ サ…  う、うわあああ!! アズサアズサアズサアズサアズサ、しっかり! そうだ、ボケんな俺!」

 「ぅ え〜  し、んど…  おき  れぇ〜」


 生きてた、生きてた、生きてたあああ!! とりあえず、がっちり体と腕で押さえ込んだら全身が冷たい!


 「何時からだ!? ちくしょう、気を確かに!」


 酷くならない程度に顔を叩いて、顔は駄目だと腕を叩き、手を叩く。太腿も連打で、血が通ええええ!! 赤い痕がつけえええ!!




 「発熱なし、咳き込みなし、くしゃみなし。 体温の低下だけだと!?」


 頭を俺の肩に凭れさせ、冷たい首に手を回して考えるが原因がさっぱり掴めない。小さな声で、「寒い、しんどい、起きれない」とだけ言った。手足は氷の様に凍えてる。昨夜は暖かくして寝た。毛布に包まってた。気温は低くない。何かの気配も痕跡もない! なんでだ!? 何が原因だ!!


 「薬は いや、原因が。風呂は いや、原因不明で突っ込むのも。魔力水 いや、もっと拙いだろ! 誰か医者、いやそれは俺がだ!  だから!  とりあえず、湯でいーのか!!」


 寝かし直して毛布を掛けて、焦る心を寝かし付けて! 


 駆け出した。







 「どう考えれば良いのかしらね…」


 あああ、湯たんぽ様ばんざーい。あ〜、あったけー。あったけー。あったけえ〜。もう冷たさとはおさらばじゃ〜 おめでとう、俺!



 ぼや〜っと目を開けたら綺麗なグリーン見えたです。長い金色も何かと思ったらリリーさんがお椅子に座って、こっち見てた。


 「ノイちゃん? ノイちゃん!」

 「目覚められました!?」


 ステラさんも居たよーで、ゴトン!と音がしたらリリーさんの隣にお顔が見えた。




 昼前だそうです。俺、意識不明確な重体っぽかったです。返事はしてたとゆーが記憶にない。うん、普通にやべー。


 「失礼して」


 ステラさんが上手に起こしてくれて、ズボズポ背中にクッション突っ込んだ。ちょっと変な感じに「うー」と言ったら、「ここですか?」とタオル丸めて入れるのです。すごい的確、楽。


 「連絡を貰った時には心臓が跳ねてよ。またノイちゃんの体が冷たくなって起きないって言うのですもの」

 「あ、すませ」


 「そこで謝罪は要らないわ。それにしても、どうしてかしらね。  …でも、もう大丈夫ね」

 「こちらをどうぞ」


 「あ、どもで…  す?」


 ステラさん、カップではなくソーサーを下さった…


 「白湯です」


 とぽぽっ…


 クッションの上に手を置き、真っ平ら〜ではないソーサーに白湯を頂き、捧げ持って〜 くうう〜〜っと盃飲みした。カップで飲むより飲み易い。ソーサーで盃ごっこしてもいーみたい。


 「ほああ〜」


 熱くもなく温くもない、ちょーうど良い白湯が喉を流れて腹にいく。俺の体もずるずるでーす。せっかく起こして貰いましたが、体は横になるのを希望しているよーでして。


 「どうぞ、お楽に」

 「お手、お手をおかけ しま〜」


 パパッとクッション、宙を飛ぶ。素敵。んでも、意識は起きてます。なので、「休んで良いのよ」に「俺、どーしたんでしょう」と聞いてみた。




 あいつは出たり入ったりをしてるよーで、さっきまで居たけど今は執務室に行ってるらしい。昨夜の夕食と薬湯の確認が取れたとか何とか。


 「なにか、おおごとに」


 「もちろんです」

 「これが大事でなくて、どうするの!」


 女性二人に怒られると反論も何もなく。そして、非常事態にセイルさんとせんせー方も駆け付け、ぎゃあ!だったと聞くと〜  記憶がプレイバックすんなあ…  やだなあ。




 「お菓子箱なら〜」


 何か食べれそう?と聞かれたので、簡単に返事した。


 お菓子箱からクッキーを一枚取り出して、じっと見るお顔がちょっと困ってる? しかし、口元に持ってきてくれると甘い匂いが〜  あれ? お願いしてナンだけどあんま食いたくないよーな…


 「やっぱり、固形物は良くないわ。別にしましょ」


 アウト判定によりクッキーは退場になりました。代わりにのーみそきゅぴーんで、あれあれあれ!

 

 「あ、あっこの引き出しに 飴ちゃんがあ〜」

 「…どこでしょう?」


 「う、えの いちば、上の引きぃ〜」


 ステラさん、無事に飴玉袋を発見してくれた。


 「喉に詰まらせないでね」


 はい、横になってあーんで飴ちゃん貰ったです。ほっぺたと歯茎の間に挟んで飲み込み防止、うまあまでーす。歯の間から甘さが染みるう〜。


 甘さにぺろぺろしてたら、ステラさんがお使いに。別室待機のメイドちゃんに俺のご飯を言い付けたら、執務室に行かれるそーな。


 「普段と違って警備に立たせていますから、ご心配なく」


 …なんか厳戒態勢敷かれてるっぽい。







 「そう… 眠った後、起きてはいないのね?」

 「ないです」


 リリーさんの質問に答えて原因を探ってます。しかし、何を聞かれても本当に寝てて起きた覚えがないのです。でもまぁ、なんつーの。言われて考えると、考えるだけ忘れるっつーか、ぼやけるっつーか、ぐちゃなって訳わからんっつーかあ〜。


 「ノイちゃん?」

 

 夢を見た気はするが覚えてないと、ぽそぽそ返事した。


 「どんな夢だった?」

 「ぐっちゃのぐちゃぐちゃ、よくわからな」


 「断片?」

 「ええと… ど汚いぐっちゃに体中べっちゃになって、明るい所で甘辛ダレの焼き鳥食ってうまうまで…  寒くて泣きそう思ったら、青い部屋で青い蜜のかき氷食べてた」

 

 「…汚いまま?」

 「それは〜 なかったかと。聖水じゃ〜って万歳したら溶けたよーな、わーいで滝行してたよーな、雨に濡れたら〜  氷漬け?」


 「…その順番は」

 「さぁ? なんか他もあった気も」


 「確かに夢ね」




 

 とろ〜り眠くなったら、質問は終了した。優しい手がそっと額に手を当てて、熱を計って頭を撫でていくのです。だるさは解消しないが、ぼっち死にはないと思うと幸せ。思考回路、弱ってんね。


 「お兄様の見立てなのだけど」

 「ふぁ?」



 『地下での出来事に当てられ、精神がダウン』

 『地下で複数の力に当てられ、体力がダウン』

 『その両方でダウン』 


 『以前からの慣らしの上に、地下での出来事が響いてダウン』

 『力の積み重ねでダウンしたのではなく、浸透速度が問題でダウン』


 色んなダウン判定の元、セイルさんは長居をしてはと急いで部屋を出たそうな。せんせー達も似たり寄ったりで、魔力水は絶対に使ってないと言うから、変なもんを食った説は確認後に消滅予定…


 「だからと言って、放置なんてとんでもないわ。安静は必要、有力者も必要」


 うん、風邪じゃない。だとしたら、これはアルコール中毒か。酒を力に変換したら、そーなる。急性かどーかはわから…  あのままイッてたら急性ですねー。


 「近しい力が一番だけど…」


 つまり、俺の許容量の問題。まぁ、容量あっても高速で突っ込まれたら破れそう。一つ一つは小さな力でも、積み重なったら重いとゆー実体験を〜。


 「こんな時、ハージェは不向きなのよねえ」

 「あいた」


 残念な話を聞いた。そして、もっと残念な事に今の俺は赤ん坊の魔力溜まりに似ているらしい。あっちもできない弱っち〜い…  レアな子。


 「重症化し易いわけではないの。力の強弱に発症度と言う人もいるけど、初めての顕現(できた!)にそんな言い方はないと思うのよ」


 何か色々ショックです。マイナス方向のできる君って、どーなんでしょう? しかし、できるに向かって踏み出したと思えば素晴らしく誇らしく! 面倒見てくれる人いる今が倒れ時!!

 

 「?  リリーさ、ど、しまし た?」


 にへ〜っと気分があがったが、お姉さまは眉間に皺を寄せてた。口元に指を当てて考える姿もお綺麗ですが、綺麗なだけに目が怖い。



 そしてタイミングを見計らったよーに帰ってきた。バンッとドアを開け放ち、ダダダの足音も高く、また勢いよくドアを開けてえ〜


 「気が付いたって! 大丈夫!?」


 はい、思ったとーりの顔が俺を覗き込みましたあ〜。あ?


 「ハージェスト、下がりなさい」


 ひっくい声と険のある眼差し。

 肩を掴んで力技で引き剥がされる力強さに見惚れます。



 「え、姉さん? ちょっと待っ「ステラ、私が呼ぶまで入り口に。 誰がきても入れないで、お兄様であってもよ」


 内緒話にしては、声のトーンが違い過ぎ。後から来たステラさんの反応はよろしく、直ぐに踵を返して行ってしまう。対立するきょーだいと言っても… 片方、わかってませんが。俺もわかりませんが。



 「あ〜 の? 姉さん?」

 「お兄様は直ぐに出られた。急がれ、判断するほどに視られなかったとも言える。  誰も気付かなくても、理解が及ばなくても、私の目を誤魔化せるとでも?  ハージェスト。  あなた、ノイちゃんに何をしたの」



 とても素敵な声音に凜としたお顔は、とてもとても優しさとは遠く、とてもとてもとても恐ろしげな言葉を言われたのです。


 黄金の善き魔女にチェンジしたお姉さまが唱えた石化呪文は強力で、俺と一人は石化した。「はあ?」とも言わずに石化した。



 


書くのもどうかと思いつつ…


とある所で、とあるワードを見たのです。

どこか覚えのあるワードに何であったか、ぐるぐるしまして。探して出てきたのがこの歌でした。


やし*たかじん 「砂の十字*」


部分的になら、1に重なるものがあるかなと。

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