18 報復の末 (下)
王とは何か?
貴族とは何か?
そして、軍とは何としたものか?
我が国において、王は聖なる王。
聖王と呼ばれる。その意味は祈りの王だ。神に祈りを渡す者。渡すことが唯一許される者。
では、貴族は。
貴族は武を持って祈りの王に仕える者を指す。
王は祈りの聖なる王であるが故に、武を持たぬ。持ってはならぬとされている。だから貴族がその役割を担う。結果、我が国において覇を競うは貴族である。
付随する軍。我が国に統一軍などない。概ね、領地に基盤を持つ貴族がその一軍を担う。その軍は領地を治める貴族の家紋を持って、どこの一軍かを示す。
このことが我が国の軍の基礎といえば、わかりやすいか。
しかしだ。聖なる王といえど人は人だ。一国の頭を張るなら見栄も欲も出るもんだ。表立って出来ずとも裏では押えておきたいのが心情というものだ。
何時しか、その心情が高じて旧王家は軍の統一を試みた。一元化され一纏まりとなった軍を己の意志の元に動かしたいと願う、その気持ちは理解する。おそらくソレが最強を誇り、内乱などを抑止する術としても最適であるとも考える。
それでもそこから発生する事象は、『改新』や『改革』の一言では収まり切らん。実際、変革に伴う改正を上手く制御できず貴族の統制が図れずに反発の方が大きくなり、最後王家が転覆したのは笑う話だ。
皆やり方の既存心が強くてなぁ。ましてや、王家が王家として成り立つ主体は祈りの王だ。
ある意味当然とも言えるが、どこの国でも『王』を冠していても全てを掌握しているわけでもなければ、一枚岩でもないのさ。
しかし、旧王家のことを踏まえ現王家には直属といえる翼の部隊が容認された。最も、白翼は貴族を冠する者達からなる完全な儀仗兵だし、黒翼はある種の救済も含めて成り立つ部隊だ。
そして、人は神のみ業など見たことがない。魔力こそが、み業であるともいうが日常使う力に感謝はしても神を感じろとは、無理な話だ。
祈りを渡すと言っても最早単なる儀礼に近い。人々に信心がないわけではないが、なんであれ、遠くなればそれは薄い。単に一事象として捉えられる。
つまり、アレはもう建前だ。
それでも、その建前を手放すことなく在るのが王家だ。
王も人なれば、貴族も人よ。成った過程によっては貴族の王家に対する忠誠や度合いも様々だ。
聖なる王の名の下にーーー
素晴らしい煽り文句になるが、だからと言って黒翼に最強が集っているわけでもない。実践部隊であり直轄である故に力を持つが、黒翼の規模からして活動範囲は王都と北部に跨がる一帯、近辺の王家直轄領だけだ。それも、近隣地の軍との混成になる事とてある。
何より今もって武を唱えるは貴族だ。頭が王であるといえ貴族の私兵や、その子飼い等の方が強いものは強い。全体の総数としては微々たるものである黒翼に、自家の軍が劣ると考える上級貴族はおらん。王の直属で、ここが王都であるという二点で面倒いとは思ってもな。
信心が薄くなれど、やはり神の存在を思う時がある。
真実、神の采配というべきモノなのか、現在においても他国との戦はない。その代わりにか魔獣等の出没はある。どこの国でもある。ぽこぽこぽこぽこ出てくる奴らとの戦いは枚挙に暇がない。しかしそれでも、かつてあったと言われるような激戦はない。落ち着いたもんだ。
だが、自負は損なわれない。むしろ、それを気概に背として立つ。
昔もそうだが、単に戦闘特化しているだけでは貴族は務まらん。不測の事態に備えて近隣領地の貴族とはある程度の誼みを深めるものだ。…隣人が嫌いで毛嫌いする奴もいる。
面子を潰されたと判断した貴族が、どう出るか?
軍備を持った貴族が連携し事に当たった場合、総数に押されるのはどちらであるか? 数は力と良く言ったもの。
こいつらが本気でやるなら王の一軍だとて俺も引かん。
王の一軍であるから無敵であるなどと、片腹痛いことを考えているんじゃなかろうな。数世代前の話とは言え、旧王家が何故に潰えたか知らぬとでも言うつもりか? 旧王家の傍流たる現王家にそこまで力があると思ってか? 大樹が決して倒れぬなどと抜かすなよ? 貴族の面子のあり方をよくよく思慮しておけ。周辺における駆け引きに、俺が叩き上げるうちの私兵を舐めるなよ。
何より黒翼が羽ばたけん状態にもっていけば良いだけの話だ。必要なら風切り羽の一枚でも切り落としてくれようか?
…それにしても、こいつら本当に斟酌せんな。こんな時には下がらんということだろうが、こういう時だからこそ斟酌して良く見せておこうというものではないのか? え? こちらがどういう心境でこの場に来ているのか理解しているはずなんだがな。
大体ある程度公にするということは、俺の弟の心を抉り続ける事になるとは考えんのか? 俺の弟を笑い者にしたいのか? それとも憐れまれる存在に仕立て上げてやろうとでもいうつもりか? 代わりに我が家の名を広めてやろうと? …ああ、弟の名は出さずに結果だけを出して、これは己達の執り行った成果だと賢し気に広めることもあるか。 …やはり、横っ面張っとくか。
小さくリリアラーゼの声が聞こえた。
面前の連中から少しでも引き離す為に、わざわざ後ろに配置させた二人掛けの椅子に座らせた弟妹を振り返れば、眠る子犬を真ん中にハージェストは俯き目を閉じて右手でゆっくりと子犬の頭を撫でていた。
リリアラーゼは怒っている表情を露わに目で訴えて意思表示を示してきたが、左手は子犬の胴体に軽く置いて指の先で毛並みを撫でていた。
ハージェストの左の拳が膝上で握り締められて小刻みに震えている気がするのが、あれだが落ち着いているようで何よりだ。それにしてもいい状況だなお前達。 …兄もそちらが良いな。
体勢を戻し、向かいあって四人の目を見て言い置く。
「我が家は、公爵家でもなければ侯爵家でもない。伯爵家である。しかし、どこの誰からなんと言われようとも、仮に王家から言われたとしても先の言を撤回することなどない。
沈黙せよ。
検査機関もそうだが、黒翼よ。今の言葉は黒翼の名で動くと、力をもって事にあたると聞こえる。お前達が力で来るというのなら、こちらも力を持って迎えてやる。我が家が持てる術をつぎ込んで力を示してみせてやろう。我、ランスグロリア伯爵が継嗣、エルトシューレ伯爵セイルジウスの名を持って貴様等に確約してやろう」
俺の中で恫喝に類する笑みでもって答えた。
「は? ランス グロリア?」 「確かあの、南方 の?」 「「 ……エル 」」
機関の奴らが動揺し、黒翼が押し黙ったのを見ていた。
はっきり言ってだな。俺は普段エルトシューレの名は名乗らん。普段は親父殿からランスグロリアの継嗣として頂戴したノイゼライン子爵を名乗っている。
貴族家で家が複数の爵位を保有するのなら、継嗣はその内の一つを貰って名乗りを上げる。但し、親と同じ爵位は名乗らんし、名乗れん。下の位で名乗るのが当然だ。
ランスグロリア伯爵家は合わせて四つの爵位を保有する。その内の三つは領地有りで一つは称号のみだ。称号のみの先祖は報奨金を、がっつりせしめた記録が残っている。
こぼれ話として言えば、称号に報奨金を得た先祖を持つ者が名ばかりの貧乏貴族であることが多い。…いろいろだが。
で、その継嗣が違う伯爵名を名乗る。普通は有り得ん話だ。
こういった場合は幾つかの形式があるが、俺の場合は単に自力で爵位を得たというだけだ。エルトシューレ伯爵の名はランスグロリア伯爵の下には無い。俺が所持する名だ。つまり俺が代替わりしてランスグロリア伯爵になれば、ラングリア家が保持する爵位名は五つになるという話だ。そしてどちらの爵位名を名乗るかは形式やら、何やらあるんだがエルトシューレの名を名乗るのは、はっきりいって煩わしい。
王都の名称はエルカナンだ。エルがつくのはある意味王家の絡みの土地だ。
正確にいえば旧王家の直轄領であった場所だ。王家が移行する際に大揉めしたらしく、最終の編纂時にも色々取り混ざって全ての地名の確定ではないんだが、そういった事が好きな奴は好きで群がる。…必要情報であるから理解はするが心情的には非常にうざい。
エルトシューレを治めるエルトシューレ伯爵はランスグロリア伯爵であり、ランスグロリア伯爵の保有名にエルトシューレ伯爵の名がある。
俺が正式に継いだらこれで十分だ。しかし、叩く時に同列の爵位を名乗るという事は、間違いなく恫喝であり複数所持は力の証明だ。複数領地が近接領であれば一つに集約して、領地の全体規模の引き上げを計る家もあったが今は取り纏めて地名の変更をする奴はあまりいないな。自家の領地であるのは間違いないのだしな。
機関の奴らは土地名に反応し黒翼はエルに反応したが、こいつらはラングリアと聞いてもわからなかった。
ここにいる者は全員が貴族でないようだから、はっきり言って家名を言ってもわからんものはわからんだろう。王都の宮廷貴族なら知っていても地方貴族を覚えていない事はよくある話だ。
辛辣にいえば田舎で有名、王都で無名だ。
地方の一貴族だと判断する事はおかしくない。事実、間違いなく我が家の本邸は領地にあり、そこは王都から離れた地方だ。地方の一貴族で正しい。
現在、我が家は正しくラングリア家であるが、対外的には礼儀として爵位付けで呼ばれるからランスグロリア伯爵家となる。
もしも、爵位を失う・返上する等の過程を経れば、我が家は単にラングリア家になるわけだ。
そして弟妹達はランスグロリア伯爵の子であると、生まれながらの貴族であると儀礼称号を使用することは可能であるが、ランスグロリアの爵位名を入れて呼び表すことは出来ん。
一族全員が爵位名を家名として名乗れば誰が現当主か次期か不明になる。ただし、これは我が国においてだ。他国では違う所は違う。よくわからなくならぬものだと感心する。
家名は知らずとも地名ないし爵位名を聞けば、人は理解はできるということだ。…希に地名に疎い者もいて困る。
事の始めに、俺はハージェストの兄セイルジウスであるとしか言わなかった。当然、爵位名は名乗っとらん。
検査官との立会いに置いても、貴族名は不要と切り飛ばした。同じ貴族の正式なる第三者の介入があれば、それは無理だが無ければ誇りの在り方だけだ。大体、相手が誰だか判明すれば後の事を考え、手心を思案するのは人として当然だ。 手を抜かれた結果の勝利など要らぬわ。
それに社交の場であればともかく、勉学の場で貴族名が要るか? 他家は知らぬが我が家では要らん。自身の力を養うのに家の名だけで通してどうする? 王都での人脈作りも考えんこともないが、本人の意思が宮廷を視野に入れていない以上構わん。必要となればそこら辺は後からどうにでもできる。実際、俺と妹二人は王都の学舎に通ってはいない。
貴族名であれば対応が諸処において違うことが出る。良い意味なら構わんが、隠す方に動かれると時間だけがかかる。それを用心してリリアラーゼも自ら貴婦人の名称は使わなかったし、そもそも最初に学舎側に『本人が望まぬ以上、公にしてくれるな』と当家が願っている。
最も貴族名に精通した者がいれば、裏の意を汲んで話はずっと早かっただろう。
しかし、唯一無二の家名は王家以外に無い。
庶民に必要の無い名前の全てを覚えろというのは酷な話だ。そして俺も思い出せんものは思い出せん。ミルド家なんぞ、これっぽっちも覚えがない。
社交は絶対強制ではないから嫌う者は嫌う。俺も社交は必要以上はしていないが、必要情報は押えてある。
社交は上から言えば眼の飛ばし合いに物色だ。下から言っても物色だ。人生最大の山場とも評される色も確かにある。
社交を頻繁に行うのは、暇人か、交遊が好きか、社交を行う必要がある人間だ。必要性も数あれど一番目に付くのが、物色だ。
「こちらの皆様は、ランスグロリア伯爵家の方々に相違有りません」
学長の口添えで、もっと面白い顔になったな。
相対する者達を見ながら、笑みを滲ませる。
「こちらは貴族であると言ったが爵位名を出さなかった。この事に疑問を感じ、力がない家ならば与し易いと、もしくは事を拗らせ金銭でも狙っているかと、さもしい考えでもしたか? だが、同席している学長が何故沈黙するか考えなかったか?
先に言った通り、力ずくでの行為には容赦などしない。返してやる。
この王国で我が領地が賄う穀物量は王国全体の何割を担っているか、お前達は知っているか?
この王国が産出する魔石の何割を我が領地が占めていると思う?
お前達がそのつもりで動くなら、この国を内戦に陥れても抗してやるわ。
王家には、お前達四人、ああ、ミルドを入れて五人か。お前達五人の行いにより検査機関に黒翼と、一戦を構えると通牒しようか。
喜べ、お前達の名が内戦の立役者として王国の歴史に刻まれるのだ。
ああ、だが内戦となる前に… 果たして、お前達は生きていられるかな? …いや、お前達だけで済むかな?
内戦を今の王家が望むと思うか? 望めると思うか? まして、王家が起こすものでもない。原因があるなら取り除こうとするだろう。仮にお前達の口から事の次第が伝えられても、国を割るようなことは望まんだろうなぁ。
五人の命と国の安泰、どちらに比重が落ちると思う? お前達の命はそこまで重いのか?
先にお前が言ったな。無体を平気で行う貴族であったかと思い違えたと。
お前達がランスグロリア伯爵家そのものを侮辱したと、ランスグロリア伯の継嗣たる私がお前達を斬り捨てた時、何の問題がある?
実際に、誰がエルトシューレ伯でもある私を咎めるのだね? 誰が何の言をかざして私を裁くのか?
私は私の姿勢を貫いたまでよ。
最もお前達の家の者は、さぞや嘆くだろうな。しかし、我が伯爵家に抗する力を有しているか? 非がお前達の側にあると言われ、その咎が残った自分達にも降り掛かるとなってなお、声を上げ続けるか?
黒翼の指揮官長は、貴族を侮辱したとして斬り捨てられたお前の為に一軍を動かすか? なんと無体なと言って憐れむか? それより、まともな対処もできぬ愚か者として唾棄されるだけではないのか? 検査機関の方はどうなのだ? 黒翼も検査機関も必要として生まれたのだろうが、そこにはお前が必ず必要か?
それとも、お前達が思う通りに、これは傍若無人の振る舞いよ、承服できぬことであるとして。
もし、 国が、我が家を潰しにかかるというのなら、
何を用いても、 必ずや、 この国を、 割り引いて、 混迷の渦に叩き落し、 争乱を招いてみせてやろう。
…今一度聞く。二度は無い。
この場で選べ。 黙するか、しないか。好きな方を己が意思で選び取れ 」
口角をつり上げ、見下げる為の優位者の笑みをもって作為と意思を見せつける如く、魔圧を撒き散らしながら言ってみたとも。
人は他人に言うことを聞かせる時、様々な手法を取る。
その一つに脅し賺し宥めて言うことを聞かせる方法があるが、今回それに当てはめるなら、脅し、脅し、賺し、脅しになるだろうか?
しかし、俺としては単にこいつらが知っていなかった情報を開示して、そこから発生する『かも』しれない事象を懇切丁寧に分かりやすく語ってやっただけで、そんなつもりはないんだが。一部偏った内容になっているのは俺が当事者だから当然だ。多少強調したとしても当然だ。俺は第三者じゃない。そして、人間だからな。感情の起伏で力が零れるのは仕方あるまい。
まぁ、俺も若輩者だ。ははははは。
提示された内容を自分で吟味して、自分で判断するのは当たり前の事だ。判断した後の事は自分で責任を持つのが当然だ。こいつらの判断は、こいつらの物だ。それを奪い取るような事はせん。
ま、これで下がらず、今の言葉を逆手に取って動いてもやりようはいくらでもある。そうなれば、この国の勢力図がちょーっと変わる位の話でしかないな。 …いや、いま俺が抱えている懸案、勢力図が動けば簡単な… あり方を考慮すれば動かすには、ほどほどに悪くない理由か? …そうなれば後は非の持ち出しようだな。 こいつらがそっちに出た方が一石二鳥か?
黒翼が降りた。
あー、あ そっちは不可か
椅子から立ち上がり、背筋を伸ばして歯切れの良い口調で述べる。
「この度、自分の部下が監督役を務めましたのに、このような憂慮すべき事態となりまして誠に申し訳ございません。改めて、部下共々この不手際をお許し頂きたくお願い申し上げます。また自分共は貴家の召喚獣の消失を阻止できなかった事実以外に一切の関与なく、又、その能力につきましても一切関知していないことを誓言させて頂きます」
この時、後方の椅子に座っていたヘイゼルは上官の動作を同時に一筋の乱れなくなぞりあげた。訓練の賜物か、息があっていて見ていて実に気持ち良い。
上官の名前、黒翼内の部署、階級、その他を含め明言させヘイゼルも合わせてその場で魔力誓約を行わさせた。させている最中、検査機関の連中はそれを青褪めて見ていた。
先ほどこの同僚は仲間のミルドの為に、貴族に対しても力に屈従することなしと気概を行動で示してみせた。そういうのは嫌いではない、どちらかといえば好ましい。好ましいが、やられて嬉しいわけではないんだよ。特にお前のお陰で俺の弟が、躊躇無く力への狂化に走りそうになったからなぁ。
そんな想いを込め、二人に対して爽やかに笑ったつもりだ。
結論をいえば、残る二人も誓約した。
「お前達検査機関の者は、渉猟して知識をその頭に詰め、新たな知識の獲得を望んでいるのだという事が今回よくよく分かった。知識欲を持つお前達からすれば今回の事は、力を持って握り潰された納得できぬ事だと憤っているのだろう? 融通の効かぬ愚か者と腹の中で扱き下ろしているのではないか? 確かに情報は力だ。だが、その事がこの自体を招いたとも覚えていろ。お前達のあり方そのものが我が弟の召喚獣を失わせたのだ。お前達が知りたいと感情を動かすように、こちらもまた不快と感情を動かしただけだ。ミルドの件もある、明日にでも機関の長に会いに行く。その旨伝えておけ」
不快感を前面に押し出して言っておく。言外に『お前の罪だ』と聞こえるように言う。
こちらからわざわざ会いに行くのは癪だが、我が家に上げるなんぞもってのほかだ。来たら追い返すわ。
イーリアの身柄は黒翼に引き取らせた。このまま検査機関に居れば色々な意味で潰されるだろう。
一時的に機関にいるだけなら召喚獣の為の本来の待機所に帰ることとなる。そっちでも一目瞭然だ。イーリア自身が潰れたところで痛くもないが、その為にこちらに手が来れば煩わしい上に一件の内容が忌々しい。
その点、黒翼なら色々と都合がいい。それにイーリアは魔力を保有する肉弾戦派だ。本来は魔力で自己回復を図りながら延々と接近戦闘を繰り広げるタイプだ。おそらくは契約者を護衛する為に召喚されたものだろう。僅かな魔力しか使えなくなっているが、少量回復あたりなら問題なかろう。
本人が嫌でも、一時的としても黒翼に行ってもらわんとな。存外、あそこなら違う意味でも新しい契約者が見つかりそうなものだ。
「明日、検査機関に行くのなら供を致します」
黒翼の上官が何を考えていると思ったが、その後で良いのでヘイゼル共々稽古をつけて欲しいという希望が出た。 …そうか。黒翼は実践の実力主義だが、一部はみ出しものが行く場所でもあったか。黒翼と聞こえは良いがその待遇は、まぁな、アレなようだしヘイゼルも殴ってなかったな。翼の軍服を連れて行けば、また違うかと承諾する。
残るはミルド自身とイーリアの承諾、学長への処置と医者と補佐か。
ミルドには医者と補佐がついている。そこへ二人には話をさせに行かせ、黒翼にはイーリアの承諾を取らせに行かせた。
その間、学長と我らだけで話をした。
ぐだぐだ言わん。面白い話をして終わらせた。事に関わった職員などの対処も任せる。
弟妹を振り返る。
リリアラーゼは微笑んで頷き、ハージェストは落ち着いた顔でこちらを見て静かに頷いた。
学長の提案で明日、検査機関の長とは学舎であうことになった。学長としても検査機関に言いたいことがあるらしい。別個にいうよりまとめた方が早くて良いとしたか。それとも便乗か?
ミルドは右足と左腕の怪我から発熱が出て動けず、薬で眠らせているとのこと。術による治癒より薬を選んだなら完治には日がかかるな。せいぜい痛みとその痕にでも泣けばいい。
機関側のミルドの引き取り準備を含めると、明日、長と会ってまとめて誓約させるか。
イーリアの承諾は取れたから、このまま黒翼の保護兼監視兼推移観察で可とする。医者は医者としての守秘義務の一環として、補佐は将来性を踏まえてか、あっさり魔力誓約を終えた。
良し、帰るか。
帰りしな、イーリアがハージェストに話しかけて何かを言っていたが、それはあの二人の話で関知することではないだろう。
貴族の設定。英国貴族設定を基礎に各種取り混ぜ、まーぜまぜ。
当初は貴族のあり方とかガリガリ書いてましたが説明文なんざ要らんわと、がっすり削りました。かなりすっきりしたんですよ? これでも…
エルカナン → エル=カナン
エルトシューレ → エル=トシューレ or エル=ト・シューレ 表記としては、こっちが正しい… ような(遠い目)
ふと見直せば誤字つか、間違い発見。他も訂正したつもりで忘れるんですねぇ…
改の文字をつけたくない一心で放置してましたが、気づいた以上訂正すべき、ですねぇ… ほんと大した事でもないですが、今度直そうと思います。
にーちゃん、大活躍。
…ネタとしては、兄の方が良いとは思います。ええ、年食ってる分、色々ネタがある兄の方が。ですが主人公ではございません。