表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
179/239

179 だから、それが細波と広がりて




  『ぎゃー!』


 冷たい床を、ざかざかざかっと這い逃げた。根性での腕逃げ。げぶ状態でも間髪入れずに頑張ったのに… 運命は微笑んでくれず… 俺の足をドスッと  ドスッと人様の足があぁあ! 余りの痛みに黙って悶絶してました。これ、青痣なります。絶対なります。それでも、これも卵ちゃんと同じ勲章の一つだと思えば!


 ふ、ふふふ。勲章、勲章、男の勲章。

 捻挫回避成功した直後の、しょーもない〜 くんしょう〜。




 『いだーーーー!』


 「よし、骨に異常はない」

 「せんせー、もうちょっとやさし…  くぅうう! おさ、おさ、押さあ〜」


 「大袈裟だの。あっちに比べりゃ大した事ない」

 「あー…」



 現在、奥の木箱の上で悶絶中。悶絶犯人、せんせーです。しかし、座面の良くない木箱の椅子の座り心地がそこそこなのは、せんせーが取って来てくれたシーツのお陰です。そして世界は騒がしい。騒がしく、熱が違う。



 片方では、アーティスが叱られ。

 片方では、ジャスパーさんがぐったり。


 そんで、それらを眺めるセイルさんに、隣に立つレイドリックさん。そこが唯一の無風地帯。なのに、無風に見えない不透明さ。いや、遮るものはない。それはないんだが。



 「基本は貧血だ」

 「先の服用から、然程経過していない」


 「飲ませたのは?」

 

 制服組の二人が診察してます。レフティさんが救急箱から瓶を取り出せば、覗き込むギルツさん。


 「そんなものは劇薬とは言わん」

 「誰が劇薬を飲ますか。摂取量の話だ」


 ちょっと怖い事を言ってますが、問答している間も手は動いて服を剥ぐ。二人して、むっきむき〜をされるのです。幸か不幸か、ギルツさんの背中でジャスパーさんの怪我の具合は見えません。赤い〜 色が〜 付いた〜 服は〜 見えなーい。見えるのは〜 敷かれたマットレス〜。レスレスレースゥ〜。


 「う!」


 ジャスパーさんの声と被ったノック音。カチャッとドアを開けたオーリンさんが半身を出せば、せんせーが腰を上げる。


 「ゥオン!」


 アーティスが小さく吠えた。

 ご機嫌斜めの犬の目が、目の前の相手をじとーっと見続ける。俺の方を向いて『どーにかしてよ、これ』みたいな顔する。けど、無理無理。


 ドアが閉まる音に目を移せば、オーリンさんの手に茶色の瓶と丸めた布。


 「来ましたかね」

 「ああ」


 せんせーが手を出して受け取り、途中で寄り道。しゃがみます。


 「これを使っても?」

 「どうぞ」


 布を渡して、救急箱からちょいちょいとブツを抜き取るから物々交換みたいです。でも、単なる運び屋さーん。フットワークも軽くお戻りです。

 

 

 「いいっ!」

 「ガウッ!」


 人の声に心臓ドッキン!

 またドッキン!


 連続攻撃は二つを起点にした音の波! これも慣れると鈍くなれる。いや、なろう。ギルツさんの消毒べっちゃり攻撃に呻いただけなんだし。呻いても容赦なく、気遣いもしない背に蛇の影が見えるのは気の所為だ。


 それとアーティス、ジャスパーさんの悲鳴に対抗しない…


 「気を逸らさない!」


 これまた怒られた。何かアーティスが可哀想な気がするが…  俺は犬の躾をした事ないから〜。



 「さ、お前さんの薬が来たぞ」


 騒動をまるっと無視するせんせーが眩しい。輝きの反射で俺もぴっかりーんになれるだろか? そんな保証はどこにもないし、あんまり欲しくはないですねー。


 茶色の瓶をパカッとしたら、中身をヘラでぐーるぐる。瓶からご登場した薬は濃緑色した、どろ〜りさん。ある種の毒々しさとゆーのが正解です。しかし、これが普通な色の気も。


 で、薬を塗って湿布薬に変身したガーゼさんを〜  ぺちょ。


 「ひょ!」

 「匂うくらいがよう効く」


 「うわーい」


 包帯ぐるっとして貰いました。ちょっと大袈裟っぽいけど、打撲の放置は嫌ですし。よしよしと思ったら小さな唸り声、まだ怒ってる。



 「ゥウウ〜〜」

 「どうして、そう聞き分けが悪いんだ?」


 一人、首を傾げてる。


 「ゥウウウ」

 「アズサの為であっても、あんな馬鹿に釣られるんじゃない。そこはわかるだろ、な?」


 「ウ? ワウ!」

 「そうだ、アーティス。ちゃんとわかるじゃないか、俺の自慢のお前にわからない訳がない。お前は守ろうとした。第一を間違えない。それでいて、心配してくれたんだろ?」


 「キュ〜〜」

 「ああ、ああ、わかってる。目で言ってたものな」


 「ワフッ」


 すんごく頭を撫でられて、喜色満面の犬笑顔。それから顔を両手で挟まれ、うにうにっと揉まれつつ、耳もこしょこしょされて舌がぺろん。そんで耳元で何か囁く。褒められてるのか、犬目がキラキラし続ける。


 「最後の失敗だけが改善点だ。それだけでもっと賢く、強くなれる!」

 「ゥル!」


 気付けば叱られていない、この不思議。

 んで、アーティスの尻尾ぶんぶん。ご機嫌なってる、なんのまほー? でも、無事に説教終わって良かったです。アーティスの『助けてー』に何もできない俺ですから。



 残る片方は病人に逆戻り。


 よく考えると初めから病気ではない。が、病人状態を脱してなかった気がします。あのぐったり感には既視感を覚えま、す、と〜  金魚の集団暴行じけ…  ちが、集団  集団、 じんめー救助に勤しんだ大活躍大隊の勇士達の姿が浮かぶのです!


 ははは、薬で回復させてたの全部無効にしちゃったよ。完全回復はしてなかったはずです。卵ちゃんの制止の声が響いてたから、回復まっだー。


 それであの握力に筋力かと思うと…  怖い人だわー。俺はついて行けないが、あれが皆さんの鉄板だとしたら本気で怖い〜。しかぁーし!


 そんな定かでないものよりも、だ。


 「せんせー」

 「ん? そんな心配せんでも、地下から出れば回復は早まる」


 「…そんなに?」

 「もちろん。地下では力の回復がままならんが、医に立つと此処はある意味で非常に都合が良い。とても良い、冷たさが抑えてくれるのも最適だ」



 回復なしの現状維持が良い感じ…


 冷たさは冷蔵庫、鮮度の良さはチルド室、お医者さんのチルドは手術室。細菌の繁殖も抑えられる事でしょう! 脳内フローラも凍えてしまえ。



 「この地下から外へ出る時が好きでな。体が開くのを感じる。日の光を浴びた蕾が花と開くのに似て、自分の生命力を その活動を強く感じる。地下に長く居れば居るほど、外へ出た時の有り難みがまあーったく違う。好きな者は好きな感覚でな…  こう、薬酒より効果的でな」

 「せんせー、酒飲み〜」


 「嗜みな」


 くいっと飲む格好しながら、にーっと笑う。




 「ならば、これを飲め」


 あちらでも肩を包帯でぐる巻きされたお人が完成です。丸めた布は着替えさん、代わりに丸まった布はごめんなさい。見えない赤が良い感じ。それから、出された薬は口へ消え。レフティさんがポットを傾け、カップにお湯を注いで渡してた。


 肘で体起して、カップを手にする。

 そこで、ホッとした顔は。


 思いもしない、初めて見る弱そげな顔でした…



 これは駄目だと。





 足のイタイタに鼻にツーンときた匂い、自分の状態。


 もう、終わりましたね。土俵を降りたつもりはないが場所がない。消滅したらある訳ない。もう、そこじゃない。立ってない。立てない場所は場所ですらない。


 平常運転の青色なりました。

 でも、あっちは色んな意味でレッドゾーンに突っ込んでる…  後でもokな話し合いに命の危険は晒せません。






 そう思って。


 はい、これで終わったと思ったのは俺だけでした。

 現在、平常運転で続いてま。


 対戦カードが俺からセイルさんに移っただけで、対戦バトルは続いてまー!



 薬で無理矢理回復したジャスパーさんは、さっきの顔はどこいった?と疑うほどに生命力に溢れてて、見事な口論続けてま。


 「それで、誰が納得するんで?」


 力強さに溢れる声は、みょ〜うな尻上がりで締めて笑いを含む。内容に押される俺の方が視線落ち。俺、否定されてます。完全否定です。



 「ん? そんなに気にせんでいいぞ。今は興奮しとるし聞き分けれんだろうが、ちゃーんと説明してやるから。な?」


 こそっと言ってくれるせんせーが優しい… しかぁ〜し。


 「せんせー、最初の時からありがとです。ですが… ほんとに人だと思ってますか? 普通はない 拒絶反応出すとか  ふつーに有り得ないコトして、ますが。   せんせーは、 どこで俺を人 だ、と認識 して て、てて て」


 こそこそこそっと聞く内に、自分で不安に駆られてしまい。最後は俯き、恐々聞く事なりました。



 「決定的な証拠がある」

 「へ?」


 ちっちゃい声でキパッとです!

 そんなモノがあったのか!?と驚愕したら、せんせーの顔に驚愕した。


 「そうでなくては、お前さんが人でないと…  この首が飛ぶ」

 「は?」


 ガチな顔で首切りジェスチャー。やばい黒さが入ってる。


 「さっきの姿な、そりゃあ魂消た驚いた。召喚獣と聞いて納得しかけて… そこで納得すれば儂の終わりじゃ。恐怖が心臓を鷲掴み、あそこのタマがキュウウウ〜〜ッと縮み上がってだな」

 「ほわ?」


 「恐怖の否定に走れば答えは一つ」

 「えーと?」


 素早いリアクションにグッジョブポーズは格好良いけど、せんせー?


 「薬湯、ちゃーんと飲んでるな?」

 「はい、出されるから」


 「こっそり捨ててないな?」

 「見てるし、あれ値段高いって聞いたし」


 二人で、うんうんした。


 「あの薬湯な、人には無害でも犬猫飲んだら腰抜かすのが入っとる」

 「は?」


 「少しなら腰抜かしで済むが量が多いと嘔吐にふらつき、起き上がれんなって終わり。幼獣なら、もっと早い。一日の服用量に飲んだ日数。逆算しても、とっくに致死量飲んどる。人でないとおかしい」


 非常に真剣な顔でした。


 「もしも猫であるなら、儂、毒殺を… 試みていた事に」


 表情筋がおかしいせんせーの手がグッと。そして一段と声が落ちて吐息で囁く。


 「弟様の理不尽な思いが逆巻くと、 (儂が不幸な事故にだな)


 そそっと聞こえた言葉にぴっしゃーん! 息を吐かずに笑う、うひゃひゃひゃひゃー。愉快なお顔は声を絶対あげません〜。



 はーい、何にも聞いてませー。そーれ、薬湯うーたを歌いましょー。


 まっくろ、にぃがい くろやくとー。まずくて、いーやな くろやくと〜。 それでも、お値段よーくて 効果があるよ。飲んだら健康なるんです〜。 そこで実績重ねた現実が〜 情報公開されますと〜  成果がデータで出てくるよー! お薬 適正 のーんだらあ〜 それはそーれは良い感じぃ〜〜。薬が解決、してくれましたあ〜〜。



 なんという事だ、あの黒薬湯Xにそんな重大な秘密があったとは! 知らぬ内に俺の人証明を担っていたとはー!!



 「あ、あははは」

 「で、あれはどうやっとる?」


 「ええーと、 と、と、特殊技能で。他にせつめーのしようがなくて え、えへえへ えへへ」


 せんせーに答える顔のニヤケが止まりません。


 「そうか… 本当か? わかってないか? ん?」

 「ええー、そんな顔で疑われてもー」


 でへへへな笑いがあ〜。


 「皆様と話しているな?」

 「あ、それはもちろん」


 「なら、良いか。そんな特殊技能があるなら本当に庇護がないとな。世界は広くてやっとられんの」


 ご意見を、キリッと心に刻みます。


 「そうそう、薬湯に何を使って、どれがそうか分量と合わせて書き出しておこうな」

 「あい」


 小声での会話も終了です。にへーっと一緒に笑います。


 これで安全の二重化がなった。できた。我は安泰じゃー! ヒートアップしてるジャスパーさんの声も無効化する素晴らしい二重化の!!  て、あれ?


 室内、音声終わってます?






 黄金の魔王様は、豪奢と華美から遠いお椅子にお座りです。その隣に立つ蒼い目の悪魔は黒い犬を従える。二人と一匹に向かい合う勇者は眼光鋭くも、武器も持たずに満身創痍で… じゃない、傷だらけは間違い。過労と貧血に咬み傷で包帯さんのお世話になってて立てずに床に  ちが、マットの上に座ってる。 …尻が冷たくなくて良いよねー。そんで皆様が壁の花と化して取り巻くと。うん、俺も花の一つ〜。


 この構図から読めるのは、勇者のレベルが低過ぎて話にならない事ですね。ええ、どっからどー突っ込んでも勇者レベルが足りません。魔王に立ち向かうのに装備が布の服な上に、その服も自前じゃない時点で   ん? ジャスパーさん、勇者?


 あ、しまった。ちが。この人、勇者じゃない。


 えー、楽しいお使い的冒険(ピクニック)に出たら魔王とエンカウントした恐ろしい強運の持ち主な魔法使いか剣士か盗賊か、そんなとこですよね。お供の三人が〜 つぶ、れ、てえ〜 あ〜   死体は見てない。


 見てないったら見てないです。そうです、皆さん潰れた潰れたと仰るが! 死んだとは一言も! そう、きぼーの星はぴっかぴかと輝いて! 能力が潰れただけで、実は全員生きてました!の素晴らしい展開が〜。


 「ならば、返せ!」


 うひっ!


 「返す? 返すねぇ…  潰れて終わった三人を返せと」

 「そうだ、生きて返せ!」


 ちゅどん!と直撃弾が俺の輝くお星様を粉砕したのです。ええ、星屑の粉末価格はわかりません。その後は、ひゅるり〜と風に流され消えていく。キラリーンとも光らないが風に舞う粉は目潰しになりそーです。痛くて涙が出るでしょう。出てもおかしくないのです!


 「もう一度、聞いてやろうか? 潰れたは誰の所為だ」

 「お前達の、そこの召喚獣の所為だ!」


 「だから、彼は人であると説明したが? 聞いてないのか、その頭は」

 「飼い主の庇い立てに重みはない!」


 魔王と悪魔に平気で突っかかる ゆ うしゃに似てるだけの人。あなたは死体を見たのですか…  どこで見たん?


 「それに人なら何が目的で、どうして重ね掛けを行う? 何故、力を通わす? 不幸な事故なら解けば良い。剥ぎ取った上で癒しでも何でも重ねれば良い!」

 「醜い傷跡を残すだけでも不快な上に、深部に達する浸透があればどれだけ表面を繕おうとも引き摺り出そうとする馬鹿はいる」

 「は、良い嘘だな。それなら、お前は自分の力をどこへ隠して流したよ。それっぽっちが全力だあ? 嘘だろが。そんなんで兄弟仲が良いはずない、使えもしねえ弟が何で可愛いよ? 恥だと叩く奴はいるんだぜ?    ああ、それならお貴族様の優しさは憐憫か。いーですねえ、お優しい兄上様で。そんな優しさ、少しはこっちへ回して貰いたいもんだ」


 なんかねえ… 前に聞いてた『勝手に解釈してくから、後はそこをこしょこしょと』が現実に展開されてます。しかし、ジャスパーさんの言い分が。それに量を正しく見極めてらっしゃるよーで… 目が良いんですね。


 「ふん、確実に目が悪いお前に言われてもな」

 「ああ?」


 あり?


 「何故に類型で判断する? 逆から言えば見えんのだろが。複数で見れば確かなものを何故にわざわざ一つに絞る? あ? 特化と言えば聞こえは良いが、判断を下す材の決め手は一つかよ! 頭が悪くて笑うなあ、ははははは!」


 素晴らしい悪魔! ガチで良い顔しますねええ!! しかし、ジャスパーさんも負けてはいない。

 


 その腕にチラリと見える赤。

 クロさんの愛情。


 怒鳴り返す、ジャスパーさんの愛情。


 どちらの愛情がより重いですか?と聞いたなら、誰が、どんな秤を使って調べるのでしょう。罪を計る神様が心を秤に乗せますが、基準値の心は磨耗しないんでしょうか? 現実の秤の基準を決める錘は、ガラスケースの中にあっても劣化に磨耗するから基準の見直しをすると聞きました。 …永久保存版の心の錘って、感情が付随してないだけの気が。


 心が育ってないだけの気が。




 思い出す三人。

 チーズ踏んだ馬鹿に、笑った二人。 …何度思い出しても性格は良くない。俺にとっては最悪だったが三人的には普段通り。何時も通りの、日常。


 それは、大切とされる日々。




 「…と!」


 仮ゆーしゃの叫びで意識が帰還。


 「馬鹿が」

 

 それに吐き捨てる悪魔の顔が、めっちゃ悪魔っぽくて。


 「赤の痛みに気が触れて、使い潰したのはお前だろが。切っ掛けがどうであれ、潰したのはお前だ。発生と過程は同一ではない。お前の選択の結果に三人が潰れただけだ。お前が一人で死んでいれば、お前が限界を超えさせなければ! 大事とすれば、生きていただろうに。


 それだけの事。

 お前が選択した結果に潰れた。


 それで、何故にお前は責を被せる?


 逃げを打つ心が正面を見たくないと、責を移してしまえと。移して身軽になりたいと、そう言うのか? 金に換算して返せと言わないだけ上等ではある。が、あの女が嗤うも道理よ」


 とても悪魔らしい良い笑顔でした。

 俺は傷心してるとわかる年上の男の人に、あーゆー風に笑って言える自信はない。


 「……心に傷も負わずにいられるお貴族様の言い「あ? 失い、自分を罵り謗って泣き喚いた経験ならあるわ。己の判断の過ちに、過去をやり直したいと震えた事ぐらいあるわ!! だがな、お前と同じにするな。結果が同じであっても、過程は違う。そこに至る心情が同じであると言われれば吐き気がする! 最善を望み選んでも道が至らなかった俺と、初めからわかっている道を歩いた後から気付いて泣き喚くお前と一緒にするな!  滓が。 貴族だろうがなかろうが、人が人である以上、個として向かうは己一人よ!」


 ……もうね、なんとゆーかね。徹底的に、仮ゆーしゃの逃げ道を潰したいみたいです。とことん悪魔を極めたいらしい。しかし、仮ゆーしゃもゆーしゃでした。激情に駆られて、すっげえ顔に。


 「ふ、ざ けるなぁああ! 向かう一人だと!? 一人で耐えただと? 真実、一人でもない奴がでかい口を叩くんじゃねえよ! 一人ってえのはな、慰めてくれる者さえ居ない奴の事を言うんだよ! お前は違うだろが!?


 一度あれば十分、そりゃあそうだ。だから、それを何度も味わわされるもんの気持ちはわからねえってか? そうだよなぁ、そんなトコにやられる前に金と力で終わらすもんなぁあ!」



 さすが、仮でもゆーしゃです。

 悪魔の言葉に恐れ戦き、ぶるって背中を見せて逃げよーとはしませんよ。俺の人生を、そんな言葉の一つで食われてなるかと逆にがっぷり噛み付きました。


 「事の本質ではない事で自衛を図るなら、他でやれ!」


 即座に返した悪魔の言葉に、ちょっとだけ「ぎゃん!」と泣きたい気分。ジャスパーさんの言い分は、わからないでもない。そうやって泣いた回数が多いと人は強くなれるんか? 心がポッキリいきそーですよ?


 良くも悪くも人は鈍くなれる。

 慣れでやり過ごした共感が人と手を取らせる。


 そーゆー意味では、あいつの言い分はわかり合おうじゃない。追い詰め形式でえ〜 ある種の潔癖ってゆーかあ〜  自分で立てよコールでもあるんだろうけどぉ〜 でも、それが神経逆撫でしてる気も〜  悪魔は応援には向いてないんじゃ… 黙って旗振るだけのほーが…


 「本質だぁ!? 単に事実を突いただけだろ!」

 「個と取り巻く周囲を同一視して喜ぶな、呆け!」  


 待て。

 あれは、あいつ特有の「ざまぁ」なのか? そうなのか!?


 『てめえの行いが被ってんだろが、ばーか』


 形式としては、ざまぁな気もするが…  いや、心情的には違うだろ? あいつは嘲笑ではなく本気で「馬鹿!」と叫んでるだけだし。今までの言動を考えても…   そうか、あいつは「ざまぁ!」なんて笑わないのか…


 とことん叩くあいつの「ざまあ」。止めを刺してなんぼだの「ざまあ」。そうなるとざまあの意味が少し違うよーな気もするが、あいつにはそれが合ってるよーな気も。


 それでも、傍観してる魔王様よりは優しいはずだ。躱さず、受け止め対応する。それは優しさのはずで。で。 でえ〜  うげ。俺、嫌かも。


 「その周囲で人が育つんだろが!」

 「その周囲から己を選び取るんだろうが!」


 受け止めに返し方は個性で良いのでしょう。問題がないよーにマニュアル出したら〜 マニュアル〜  マニュアル〜  マニュアルでの対応〜    にゃははは〜 や〜さしさって なんだろう〜っと。



 しかし、二人が罵り合う言葉が弾みで俺に飛弾する。避けれず見事に被弾・着弾・ちゅっどおん! 「同じ事をしていて」とか「俺より良い立場の癖に!」とかがストレートに炸裂する連続攻撃に俺のダメージ大。俺自身が逃げ出す始末。


 『ジュリ金魚ちゃんと… 俺は違うのだ!』


 構えた盾が自爆弾、ちゅどん!と炸裂重軽傷。しかし、違うは武器なのです。


 『違うのだ、違うのだー!』


 迫り来る口撃に、呪文(違う)を繰り返してガードする。個を全面に押し出す違うは無類の盾で、俺は彼ではないのです! 差を知る一番早い手段なものに、感情を嵌めるなとーーー!!


 ほら、大器晩成型に早期完成を求められても。大体、俺ほにゃらら系だし。




 「理を説いてもわからぬ以上に縺れるか」

 

 余裕の魔王様におかれましては、できたらもう少し早く止め   あ、いや  ええ〜 と。 言ったら最後、自分で動け言いますよね。ええ、そら、言うでしょう〜。 あー。


 「他人事の様に言うが!」「要は貧しいのだ」


 魔王様は、仮ゆーしゃの言動を一刀両断しました。




 「彼が人か獣かと問うは些末である。我が話して人と認めた。須く、是とせよ。そこにお前の意は要らぬ」

 「な!」


 「お前の保身は知識が足りぬ、それが赤へと繋がる。それは我が手に負うものでなく、彼の手に繋がる。その上で叫びたくば叫べ。術を持たぬ我はどうもせぬ」


 魔王様、突き放して終了です。


 「あれは心が貧しいのだよ」


 魔王様、俺に向かって言われます。固まった仮ゆーしゃも、固まったままにギギギギッと俺を見る。


 表情が緩和される事もなく、目だけが複数のイロを映し出す。至極あっさり定まってボルテージが上がってる。そうして、呪い殺すよーな目付きで笑い出しました。掠れ声から始まって悪意満載の笑いが響く中、ナンかのバッドエンドを連想して心臓が痛くなる、俺。此処から退去したいです。


 「それで、結局お前ら貴族だけが」

 「お前が何処の生まれで、何処で育ったやも知らぬが、お前の行いがお前と同じ者を生み出そうとした。お前がその手で下そうとした」


 「はあ? 俺が何をしたって?」

 「貧しさは人を飢えさせ、飢餓は心を食らう。その様な中でも清貧を説く者はいる。そんな者の心でも信心一色ではなかろうよ。王領であったとしても、心の奥底では何故に?と渦巻くものがあるだろう」

 

 「当たり前だろ、お前らだけがぬくぬくと!」

 「それで、お前は手を染めたか」


 「あ?」

 「お前が持っていた玉は私の手中にある。お前達に殺されそうになった彼は逃げるを良しとせず、あれを慰謝料としたそうだ」


 直撃に〜 睨み返す!


 「お前の約は見た。見たが、約に心理は刻まれていない」

 「…そんなもんまで刻む奴がいるかよ」


 「そう、だから証明できない」

 「何を!」


 「このシューレを陥れようとしなかった証明が、だ」


 セイルさんの声が、いやに静かに響くのです。




 「お前の言葉に流れは読める。嘘偽りに誇張妄言が含まれていないかは不明だが、その心が穢れを呼ぶのは不思議でもない。吹き溜まり様な恨みは条件さえ合えば良いのだ。貴族であれば誰でも良い、無差別で良い。それで溜飲が下がるのなら愉快」

 「何を言って」


 「心の貧しさを叫ぶお前は哀れではあるが、それに対し、一人に責を負わそうとするは認められぬ。負わせたくば神に回せ。そして、祈りの王へ願うが良い。


 恨む心を抱えて、お前は何を持ち込んだ? ラングリア家が私財を投じて興す場を、その心根で踏み躙りたいと。自分と同じ者を増やしたいと そう、願って 表と裏で」



 そっから、「違う!」と叫んだジャスパーさんの顔が青くなってた。「そう思ってやりたかったのだが」と返すセイルさんの顔が冷たい。


 不幸な人認識はしたけど、何度も貴族に対する恨みを言った事で「何も知らない」は嘘なんじゃねーの? わかっててやったんじゃねーの?が発生したよーです。それに「魂の実験をした、王の場を穢した」の発言が… うん、ふっつーうに宜しくなく。侮辱罪から始まって〜 ほにゃららが見えます。


 「だから!」

 「そう、だから何処の家に駆け込んで訴えるのか? それとも半紋か? 正しい勢力図を知っているなら有効ではあるが」


 うすーく笑う魔王様から黄金キラキラ流れてる〜。そこで尋問なりはじめー。どうして、俺はこーゆー所に立ち会って? いえいえ、裁判員裁判じゃないのも立ち会い、いや、座り合いましたけどー。正しくない勢力へ訴えたら、仮ゆーしゃはどーなると? その前に、どーやってこっから出るんです? 無理じゃね? だから、そんなん後にしたら〜。


 俺の淡い希望は別方向に流れてった。


 「は、黙って殺される俺じゃないぜ」

 「うん?」


 「それに俺が居なくなれば探す奴らはいる」

 「ほう」


 「用心は怠らないさ」


 仮ゆーしゃ、追い詰められても良い笑顔。しかし、何か展開が違う。どーして、こんな物騒な話に。


 「そうか、死体となってもお前を探しに来る者がいるか。ならば、良い」


 

 魔王様が上機嫌で頷かれ、キラキラがふわりと舞い上がる。優しげなキラキラが仮ゆーしゃを彩れば、絶望の黒がべったら漬けしてる。

 


 仮ゆーしゃに、魔王…  ちが、ご領主様からクエ… ちが、強制イベントが言い渡されました。元おーさまの地下牢の探索です。それも、行っちゃったら帰ってこれなさそーと言ってた某地点の探索です。探索内容を包み隠さず話されましたので、更に仮ゆーしゃの顔色が悪くなります。


 そりゃあ、そーでしょう。あそこから、ほんとーに出られないか確認して来いってんですから。


 「アーガイル、入口の術式を緩い物に書き直し誘導しろ。それと、滑り降りた先の扉は片方だけ蹴破れる様にな」

 「諾」


 ギルツさんの清々しい返事が右左。


 あんなトコから滑り台〜 そんで片方だけ開くと〜 それじゃ股裂きなりません? 高確率で片足掛かって、ぐるんと回転。 尻から行けば〜 行けば〜 尻イキは〜 天国に近く〜  あ〜〜     神さまあ?




 しかし、領地の問題についてはノーコメント。つか、タッチできません。する立場にないですし。ですがそれでは仮ゆーしゃが死んでしまう…


 監督不行き届きの上に、俺を見殺しにしよーとしましたが。それでも、それは猫の姿で。人の姿に、同じ事をしたとは思えず。だって、それに対しては厳しく教えたと言った人で。


 あの時、俺が慰謝料を請求しなければ? 逃げたまんまで終わってたら? この人は穢れを躊躇った人で。それは醜くなりたくないであり、自分がそうなりたくないとなる。そこから最善を考えた時、自分から届け出たかもしれない訳で。だって、違うと見せられる契約があって。単にクエスト実行中で。三人、潰れてなくて。運び屋にさせられそうだと警察に通報するのは、ある事で。



 この人は、全て無くして死ぬんですか?


 死ぬべき行いをしたと。

 


 

 覚えてる、覚えてる、覚えてる。

 この世界に降りた時、何を考えていたか。 あそこで考えた事を覚えてる、思い出せる。 だから、花を編んだ。


 忘れてない。

 ずっと引き摺ってると、気付いたのは  少し前。










 …だから、そーじゃない。違う。



 …だから、違うって。こっちに来いって言ってんの。


 『もうちょっとで終わるから、待っててね〜』

 『うん、わかったあ〜』


 に、ならねえから。


 『だから、後ちょっと〜』


 じゃないって、違うとゆーとろーが。





 …そこの悪魔、どーして俺のアイコンタクトがわからない! アーティスとしてただろーが!! 俺とできない詐欺は認めません。読めてなんぼの悪魔の本領、どこいったー!? 





 それ、違うから。

 それが違う、だから。



 違うの違うが 広がると〜〜  ふふふの、ふー。




 



本日の問題。

一か二を選択してお答え下さい。


一、マニュアルを活用する時の利点と注意点を説明して下さい。

二、マニュアルを活用する時の心構えをお話し下さい。


余裕でしたら、両方どうぞ。





薬は手助け。

自分の体に合わない薬で進むと酷い事にも(遠い目)。




秤。

基準の錘は時間の経過で、どれだけ極小単位であっても磨耗する。それが今年の世界計量記念日(5/20)に国際キログラム原器からプランク定数に移行するっぽい。


分銅から定数へ。

時代の流れというより進歩ですよねえ…  改定前に出せてよかったー、あっはー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ