177 だから、それで?と言ってみる
呼ばれる、顔をあげる。
猫が笑う。
毒のない笑み。
子猫の無邪気な笑みに微笑み返すが、胸の中に毒を感じる。毒が広がり、毒が回る。
「にぃい、みにゃん!」
「…そうでしょうか?」
疑問を呈せば自然と苦笑で返せてしまう。返せる事が良いのか、悪いのか。それより、問題なのは自分の釣りか。釣り方か! あの笑いで、そっちに飛ぶか! 釣りに気が付かない頭は始末が悪い、自分だけが空回る様は虚しい。駆け引きに疎いと断言できる収穫は、あまりにも実りがない。打てば返るあの二人との駆け引きが、恋しい…
言い難い立場が… 辛い。
「ににゃにゃん!」
「それは… 有難うございます」
言いたい事を言いはしたが聞きたい事は聞けてない。右に左に気を回し過ぎ雁字搦めになっている、この気分は。
墓穴を掘る一歩手前か?
「強くありたいと望むのは確かなのですが」
「みにゃあ〜ん」
純粋な賞賛を目の当たりにすると、本当に墓穴を掘った気がする。背伸びをする年齢はとっくに過ぎているが目で持ち上げられるのには参る。賞賛に感嘆は、人の心を振るわせる。
それでも消えぬ燻りに、流れた毒が混じって新たに白煙をあげるのも感じる。
今の、この姿も。
あの金色の目に見られていると、理解している。
わかってる、出し抜けない。
「強さは様々でありますから」
「にうー」
「え? そんな事はありませんよ、主様」
「にぃあ〜」
黒の体に金の目の。
姿に何と理解して、理解できない。目にするモノだけが真実ではないとわかっていても、正体の把握は難しい。自分の感が今の我らと同じものだと告げるが、あれは違う。違うナニかだ。同じにしても絶対が違うナニかだ。
「強さには憧れます。その憧れが私を私としてたらしめる。私が育てた私の理想、それを貫くも一つの強さのはず。 …ええ、そう、強さ。人が大局に拘ると個は死んで数に成り下がる。
今日まで私が成せずにいた志、その理想。それが叶う現実は 今 と、みるべき なのでしょう。昔、誰かが何かにつけて等価交換を提唱していましたが… 何も出していない、出世払いもできない私には、お仕えが妥当で唯一できる事なのでしょう。ええ、それが釣り合いというもの」
「にゃが? にゃがががあ!??」
目を丸くして口を開け、テーブルの縁に寄ってきて、立ち上がって手を上げて、隠さない素顔が私の笑みを誘う。
「乗り出すと落ちます」
手を差し伸べれば、手が触れる。柔らかい、小さな猫の手。猫と触れ合った事はあまりないが、残る記憶とそう大差ない感触。『話してもは触れなかった』と思い出す二人に視線を飛ばせば、毛並みに重さが加わった。
片手ではと両手を添えたが、重さは膝に乗り移る。
「にあ〜〜」
この姿の所為なのか、憎めない。
何か勝てないなと思えば視線を感じる。盛大に不満をぶつけてくる蒼の目が、「今、話さずに」と繰り返して。
「に、に!」
「あ、はい」
「うに〜〜い」
この場を上手く纏める言葉を押し退けて、出たがる本音。そこに習慣化した疑心が口を挟めば、ぺらりと嘘も出てきそうな。それでも時期ではないと押し込めるは獲物を狙うと同じで変わらない。だから、待てる。逃げられる事はないのだから。
それまでは、偽りなきを話すとして。
「味覚に満腹、消化もあり。ですが、飢えは感じず。満腹を覚えましたので先々は不明ですが、どうも食わずとも生きていられそうな感じが。無駄飯食いには当たらなく」
「にー ぎ〜 いー」
「いえいえ、主様。大事な事です」
「にゃー」
昔、嫌った戯けも茶化しも… 全ては立場。立場が違えばできるもの か、ふふ。
「に? に… 」
「いえ、お気になさらず」
「うにゃー、にあが〜」
「…望める恋慕が寂しさを募らせるのは本当ですが、此度は降りる事を許されました。あちらに居ても此処に繋がれる。繋がりを否定されず、忘れよと決別を求められもしない。時の流れの中に厳然たる事実を垣間見るだけ。それだけの寂しさです。それより私は、主様の御許を離れて生きていけると思えず。何より主様は還す事がお出来になられる」
「う… うにゃあ〜」
話せば、話すほど… 私の中で白煙をあげる毒は広がり 広がり 広がって 薄れていく。 広がりに毒が薄まり、消えていく。
消えていくだけの毒の広がり。
自身で生んだ私の毒は、猛毒にもならぬ、単なる自殺発芽で終わるらしい。
世界の広さに 私の毒の一滴は 飲み込まれ 消えるだけなのか。 ああ、そうだろうとも。 世界に私が居らずとも 世界は 弛まぬ歩みを続けていくのだ。変わらず、そうとある上に 我らもいたのだから。 だから、 だから、あるが故の安寧が この身からは遠く 遠く
遠き、神よ。
毒ではない私は こうして 生きておりますが?
「ご謙遜を、主様が還さずに誰が還したと言うのでしょう? もしも、主様でなかったとしても。証を砕いたその御手で、我らを本気で貫けば速やかに還されますでしょう」
「 …なー」
そう、それが現実。
私の手が届かない現実。現実を直視し、語ると 萎える。
神は遠い。
『あの力、誰が どうして 何故に どうやった!?』
繰り返した疑問の渦は、私自身が直視した 力の現実に 魅せられて 静まり、泡と消えるのだ。そうだ、消えてしまえ。何もかも美しさの中に溶かし込んで終われ。有終の美を斯くあるものと決めたは人で、そこから外れるも人意である。
輪から外れたとて そんなもの、だな。
心が滑り落ちた。
そうと感じるのも、そんなもの。だから、それで?だ。
じっとりとした無愛想で不躾な蒼の視線が、また同じ言葉を告げてくる。警告の如く告げ続ける視線に、小さく笑う。返された視線に微笑む私は、微笑めた私は もう、そこにはいない。
本音と美学が小さく啀み合うも、溶けてしまった。
私の中の胸の火は 火勢を失い 種火を残し 残すは残滓 と、移ろい ゆきて。移ろうのなら、水面へと浮かびゆく あの 光の泡が良いと願い。あの美しい、記憶に宿った光景を 忘れ難き一枚の絵と刷りあげて 私は 決別を可能とした。
できる私を 私が 育てた。
私が 私である。
「は」
金魚ちゃんをどう慰めていーのか困っとりました。猫すりすりしよーかな?には、俺の猫感が違うと許さない。猫口、挟む隙もない。なので猫待ちしてますが、手詰まり猫って微妙です。もっとこう〜 こう〜 できる猫に! うあ?
なんと!
金魚ちゃんがぽややーんと光ったですよ!
突然で吃驚ですが、これは帰還命令か! 気分は、うわ、うわ、わああ!です。しかし、さっきのぽっちょんと同じよーで違うよーな光の中、一瞬だぶった輪郭に違う人を見た そんな気が。
しかし、一瞬は一瞬であーる。もーよくわかりませーん。入り口を仰いでる金魚ちゃんは、どーみても金魚ちゃんでえーす。
「はい …はい」
うああ、今度こそ時間切れか。どーしよー、俺まだなーんも!
「主様「にゃー!」
「え? いえ、違いま「にー!」
「…主様、お聞きを!」
「みぎゃあ!」
金魚ちゃん、猫顔掴まないの! うやん、猫髭がぁ。金魚ちゃん存外、荒っぽい?
「少し… よくわからなかったのですが… 主様に、えー 『テキストは、あと三枚と半分』とのご伝言です」
「にあ?」
テキスト? お勉強? お勉強のテキストペーパーが三枚と半分??
「……………に、にゃあああっ!?」
まさか、あのどこにあるか不明なテキストはクロせんせーのお預かりであったとゆーのかああっ!? 嘘っしょーーーー!! …って、ちが! 違わないけど、ちがあああ!!
きんぎょつーやくぅうう! 俺の金魚が通訳を!
「みにゃー! みやー! みぎゃー! ななー!」
「…あのさ、興奮してるとこも可愛いけど説明してよ」
「にあ」
あ、ごめ。
皆さん、置いてたわ。
「では、皆様。私は時間ですので… また、お会いできますよう」
「にあ!」
「そうか、有意義な会話がまたできるとよいな」
「嬉しいお言葉」
「ふん」
「そうですね、できれば今度はご自身で」
「それはもう ええ、それはもう 私には」
言葉を濁した金魚ちゃん、固まる俺をテーブルに。ふわっと笑って席を立ち、何の躊躇いもなく床に寝た。
「に、に、にー!」
猫の心臓が『待ってー! 俺の気持ちを考えてー!!』と叫んでんのに、お手振りとかしないでえー!
後日… 後日にしたら、猫はきっと きっと… そのまんまに… くぅうあわ〜〜! それ、ダメだから!! テーブルの上で置物してんじゃねえわ、俺!
とうっ!
「にゃが、にあ、にがががが! にあんにゃ、にゃうにゃふぅ〜〜 なう。 なう、なう、なううん!」
勢いでgo!が常に俺の正解かもしれません! そーでもしないと流しそうめん塩対応のぶっかけツユ〜 いや、しないけど一。そんなん色々まっずそう〜。
「…そうでしたか、既にお聞き下さっていたのですか。有り難うございます。 ……本当は、私もお聞きしたいと願っておりました。主様が知らねば、知るはあの方のみ。あの場に偶然紛れ込むなど考えられません」
「にうーん、なーあ」
「クロ、様と。体を表すお名なのですね」
「うにゃう〜な」
「主様がお名付けに? …心得と得心を。主様に話さぬ事を我らに話される事はないでしょう。いえ、聞く前ですから。もしかしたら。ですが、それももう良くなりました。
少し前までは私を屠った者が誰か知りたくて… 私は顔を見ていない、光を囮に背後からヤられたと思うだけで… それだけで相対する事もできぬ小者が鼻高声高自慢気に、『正面切るは愚の骨頂!』と笑っているかと思うと… 思うと、それだけで! 卑怯者と誹るよりも こう… こう、勢いで手が こう!
ですが今更な話でした。真実を知るも何も私は負けたのです。知る術を持たぬ敗北者、それが全て」
いきなり到達したよーなお顔にショックを受けまして、猫手で頬っぺたぶにゅっと攻撃。ぶにゅぶみゅにゅっと押しの一手!
「あの、主様… 」
「にあん?」
そんな顔で言われても、猫手攻撃止まりませんが?
「……レジーナが選ばれたと言いましたでしょう?」
「にあ」
「あれはずっとそう言っておりまして、私も否定致しません。付け加えるなら選定を勝ち抜き、己で道を切り開いたとも」
「な… なぁーん」
猫手、止まります。
「割り切るも割り切れぬも、我らは既に第二の生と呼べる道におり。それは人目につかぬ、人が歩かぬ、歩けぬ道でありますが、我らが歩む以上は歩道と呼べるものであり。茨の道でも稀なる道。ならば、時として優越も生えましょう。生への渇望に踏み出した道なれば、道の違えは致しません。違えたつもりもありません。夢と等しくとも、我らは 確かにおりますが故」
言い切った金魚ちゃん、凛々しく雄々しく清々しく。
本心の可視化、きっとこれがそうでしょう。そうじゃないとゆーなら、俺は何をきぼーして何を言ってほしーのか?
俺は… ではない! 今は金魚ちゃんを一番に考えろ!! そうだ、これからの金魚の飼育に肥育が だい ちがーー、肥育じゃなーーーー!! 肥育してどーすんのーー−!!
「…な、なぁなあーん」
「は?」
ちょい、金魚ちゃんとお顔見合わせー。うにゃ? 起きんの? うおっ、いきなりガバッと起きないよーに!
「…主様、本音でお話します。我らを正しく飼って下さいませね? 私は死ぬ度胸もない弱虫でございますから、飼って頂くしか生きる術がございません。何らかのお役目を賜わり、その最中に死すなら本望ですが飼育放棄で死ぬのは嫌でございます」
うやん、何その低い声。そんな顔もやめましょう〜。ほら、放棄の思考じゃないからさー。
「クロ様が良き様にお諮り下さるとも思っておりますが… ええ、クロ様は希望を下さり。心を潰さずとも良いとした、あの姿勢! 人と比ぶれば、どれだけ余裕が違う事か… 厳しさに包んだ優しさはわかり難くも、見たものに対する己の理解の高さが真実の道を見出す証明であると!」
金魚ちゃん、よゆーできたのね。ガッツポーズがいい感じ。
「ならば後は時を待ち続ける不屈の精神!! その養いに今があり! 事実、あの仕込みで伸び代が跳ね上がった気が! そこに偶の外出を希望するだけで… ええ、それだけで不幸を望んではおりません。 その、お話では その 終わりの際にと言われたので その」
「にゃにゃ にゃ〜〜ああ」
「……はい。 はい、ええ、それは。 もしも得られず、夢と終わっても悪くない夢だとも 思える心地に至りまして。それで、今を大事に。大事であるから、共にありたいと。 主様と共にありて、お供仕ります」
落ち着いた言葉に相応しい、柔らかく強い笑みだった。そこにぼやや〜んが広がる。 …うん、こーなると後光じゃない。朝ぼらけ〜でもないね。
あ、返事。
は、お澄まし!
うりゃあ、美猫ちび猫降臨です!!
「…にゃーあ」
猫が笑み。
私は祝福を得たのだ。
世界に還るは世の理で。理から外れるは擬きでしかない。逝ってしまった彼らと同じ祝福ではないとしても。
この道が、真、続くかわからねど。
私は 力あるモノに 自らを語り 笑まれて 祝福を得たのだ。生きるに良しと笑まれた祝福に、何の違いがあるものか。
そうでしょう? 遠き、神よ。
応えぬ、遠き神よ!
神よ。
「お待ちを」
再び横になった金魚ちゃん。そこにお声が響きます。オーリンさんが片膝着いて、こっち見てた。猫とも視線ば〜っちり。
「温かきを頂きました」
静かな声の静かな動作。
手のひらが示す先は、木箱の上のカップ&ソーサー。
ごちを言う為の引き留めですか! オーリンさんてば、やっさし〜 い? いい? …あの、その目怖いんすけど。
「温かきは其の心、如何なる心も色を持つ。色に見えぬ色とても 必ず そこに熱を持ち 持ちた熱は叫ぶもの。叫びし熱こそ、汝が心。道を照らすは汝が色ぞ。照らすに 堕ちたると叫ぶは短慮なり!」
最後は息を吸い込んでの怒声です。
オーリンさん、なんでかめっちゃ怒っとりま!
怒られるの俺じゃないー!と金魚ちゃん見ましたら。 らぁ〜。 固まってたんで、猫、空気読まずにぶにゅっと押した。
「… 」
口パクにもなってないよ?
「に?」
「あーははははは! こいつ、叩かれやがった! だーはははは!!」
「ぶわははは! 悲嘆に暮れようものならば、か。 横っ面を叩かれるも好かろうが? はーっはははははは!!」
バババババンッ!
無遠慮なまでに二人が大笑いしたとですよ。二人でテーブルも叩いたですよ。音がダブルで重なるとか、なんつー兄弟。しかも肝心のストッパーが作動しない。横向いて、隠す口元ピクついてんのを猫は見た! そんでアーティスがビックリドッキリ『動こうか?』でキョロってんのも見ましたよ!
はい、アーティスこっち見る! 動かない、動かないのですよ〜 まだ、良いからね。そうそう、猫手理解できるアーティスお利口さん〜。すっごく賢い良い子です〜。もうちょーっとそこで寛いでいよーね? よーしよしよし。
「あー、腹いて。あー ぶふっ!」
「にゃー!」
くぉら、俺の金魚ちゃんを笑うなー!
笑うなんてひど って、金魚ちゃん。どしたの? 金魚ちゃ〜? ちゃ〜?
「あー、なんと言う愉快。どれ、俺も一節 誦んじるか」
へ、セイルさん?
「ああ、其に比ぶるものなし。 世に天意あり、世が移ろうとも天意崩れず。「崩れぬ天意は神が証、神は坐せし。汝、夢と疑う事なかれ。 この現世に、神は坐せし!!」」
途中から一人加わって二人の声が響きます。
間を開けながら歌う力強いユニゾンは、腹の底から響く声。部屋を満たす良い声が感動を呼んで持っていかれそーですよ! 実感なくても信じそう。 …まぁ、疑ってはいない。知ってるから。会った事ないけど。
金魚ちゃん、じっとじーっと見てました。
「に? に!?」
顔をペシペシしてみましたが、タイムリミットだったよーです… 何か言いたげだった唇に、目は閉じられて もう答えない。
しかし、ほんとに悲嘆する暇ありません。
ぽやややや〜な光が、いきなり目の前浮かんでま。
まーた出てきた瞬間、不明です。んでも、まぁるい光の玉の中。黒い金魚がゆーらゆら。
金魚ちゃん、上見て下見て周囲見て。
どーやら、どっから出たらいーのか困惑中。くるくる確認していたら、玉の光が収束し、上中下で三つの光の輪になりました。エンジェルリングにも見えますが、中に金魚がいますので、拘束具にも見えるのです。輪っかの間から出れそうでしたが、出る前に玉がずんずん縮みます。縮むと、やっぱり拘束具。
その中で、くるりんくるりん金魚ちゃん。活魚にさせる、とっても素敵な金魚鉢〜 あ、止まった?
縦回転で確認したら、直ぐに真ん中からの攻略を決めた模様。上か下の小さい輪っかの方が楽だと思うが… 狭いが嫌なんかな? それとも小さい分、厚みがあるかな?
武器はないから体当たり。
己の体を武器にタマゴの殻を破るのです!
そーっとそーっと体を当てたら、ぐーい〜〜っと押し押し押し! 金魚の顔が歪んで見える。俺の心の中では歪んでるう!
しかし、そんなに力まなくてもイケたらしい。金魚がつんのめりそーに。拍子抜けなほど、あっさり輪っかが崩れて光の金魚鉢さよーなら。キラキラキラランな光を引き摺りながら、金魚ちゃん無事脱出できましたあ〜。
あれ? キラランが消えません?
金魚ちゃんが進むに従い、ゆうるり〜と空中を漂い伸びて… 長い長い金魚の糞のよーに… ちが、胸元から伸びてるからそれはちがあ〜。
再びの困惑金魚。
鰭でわちゃわちゃしていたら、光が纏まり始めます。それに気付くと一生懸命泳ぎ出した。
ジャンプする度、小さな光の飛沫と波紋を広げます。素敵なキラキラ空中ショー。セイルさん達の好感度も上がる金魚ショー! 必死だけどね。うん、縺れはしないけどさ。わお!金魚スクリュー三連続に大ジャンプとか、かっこいー。これ、編隊でみたいな〜 みたいな〜 編隊飛行、かっこいーもんな〜。あ、金魚ちゃ。
「なぁ〜う」
あんまり低空飛行すると椅子の背とかに、
べちっ!
「…に」
不要な声掛け、すいません。
注意を散漫にさせた事を反省します。
頑張った結果、光の帯は幅が纏まり、厚みを重ね、金魚ちゃんの光の羽衣になりました。俺の金魚、羽衣そーちゃくしたですよ!!
「にゃー!」
「おおお… 圧縮しとるぞ」
「あれはクロさんが与えたって事になるのか?」
「…それは防御なのですか?」
金魚ちゃん、鰭をツンツン羽衣具合を確かめます。
「おい、何かするならあっちにな」
セイルさんの指示通り、木箱に向かってえ〜 鰭を上下に溜めをして〜 ツイッと動かしましたら、光の羽衣ぺっかりーん!
シュッ… ドスッ!
「にゃああああ!」
ぶそーーーー き・ん・ぎょーーーーーーっ!!
うわあああ、俺の金魚が武装したあー! こえー、木箱がドスッと! ドスッとぉおお!! あ、金魚のドヤ顔。 うっわ、ドヤ顔って金魚にも表情与えるんかー。つか、やったぜ感満載で泳ぐ金魚、かわいー。飛び跳ねて、か〜わいーい。
背面跳びした金魚ちゃん、羽衣揺れても崩れない。なんとゆー不思議。それにしても、男金魚に羽衣か。羽衣は天女と相場が決まって あいたー、仁王像様してましたあー! あれは名称、領巾な気がーー!
それなら鰭で領巾をヒラったらひらった領巾が鰭に従い、ひららららんと見せる領巾が翻って ひっひーのひーで うにゃあ〜?
「ふにゃあ」
口パクの聞こえない報告くれました。俺の周囲をくるっと回ったら、テーブル上へ行ってしまう。
「ほ〜お」
「ああ、まぁ、 すごいな」
「声が聞こえないのが残念です」
三人にも報告してんのかと思ったら、反対側にゆるりん降下。なんでかアーティスにペコちゃん。そっから、ばびゅん!とオーリンさんとこ行きました。
うえ! オーリンさん、まだ跪いてたんですか!!
金魚ちゃん、オーリンさんにべったりです。オーリンさん、無視ってるけど。
「許可なく発言しました事をお許し下さい」
「なぁーーーう! なにゃう、なうー!!」
何をゆーかと思いきや! 俺ののーみそ、リオネル君が出てきたぞ!! 気にしない、しない、しないのです!
「ああ、構わぬ。立て。お前の返しの良さに笑うたわ。詩歌は習っていたか?」
セイルさんの質問に、どっか照れながら嬉しそうに答えるオーリンさん… 金魚ちゃん、ほんとべったりしてんのね。ひらひら泳ぎでオーリンさんの周囲をキラキラにするとか… 叱られて目覚めたお礼? ぬぅ、俺の金魚ちゃんがあ〜 あ? あーーー! お礼なら猫が言わないと!
飼い主の務めに逸早く気付けよ、おれー!
「なー! にゃごろごろにゃん!」
「なんで君、そんな声出してるのさ」
「にあ?」
どーしてクレームがくるよ? お前、俺の言ったコト聞こえてっだろ?
「にゃがーあ」
金魚ちゃん、何時迄も引っ付いてるんじゃありません。オーリンさんにご迷惑でしょー。これから、ちび猫もっとお世話になるんだから〜 ほら、謙虚になさい。謙虚の意味はわかるでしょ? 子供じゃないんだからあ〜。
渋々でも戻ってきた金魚ちゃんに、にーっこり。それで笑顔ののーみそ、きゅぴーん!からのフラッシュバック入りました。
『謙虚になれ』
自分で言った言葉に硬直中、笑顔のままでカッチンです。どっかで聞いた言葉を俺は口にしたよーで。ええ、ほんと口にして。
人様の言葉に従順であれ、お前は子供じゃないだろーでしたかねえ。ええ、ええ、謙虚とゆー言葉ではなかったけれど。これは同意でありましょーか? 俺は同じ事をゆーたでしょーか?
いえいえ、そんなまっさか〜あ。
自分にとって都合の良いコトほざいて、聞かなかったら逆ギレで『何、あの態度』なクズのクズの綺麗な星屑とは似ても似つかない似つけもしない度がつくクズの一等星と同じよーな事を言った覚えはありません!
俺のと意味が違います。
人の人生壊してなんぼで見下して、利鞘稼いで笑おうとほざいたクズ精神のクズ野郎!!
あー、思い出したらムカつく! 今からでも、にゃんぱんちしてえええ!!
「ふぅうう…」
金魚ちゃん、クズに謙虚は不要です。
遠慮なくシバき倒して薙ぎ倒せ! クズを相手に我慢する必要はない!!
ちび猫、ふぅうが止まりません。
ムカムカムカムカ、猫暴れしたーい!
「にぎゃー!」
俺の前をチラつくんじゃねえよ!
目の端を掠めた黒いのに即座に反応、襲います。バシッと叩いて猫手でがっちり押さえ付け、掴んだ黒いのを! 猫口あーんで!
「にゃーにゃっにゃっにゃっ!」
「それ、殺処分?」
「に?」
あ、あのさー 今ねー 俺ねー い? 上下コマンド、何指してんの? 下? ぎゃああ、俺の金魚が!
正気に戻った猫、ぶるぶる。
手の下の触感がああ!
黒金魚、ぷちっと潰れてなかったです。うあああ、魂が抜けるかおもーた… 平面金魚に遭遇したら失神できる!
元気元気元気元気。
只今、元気な金魚が旋回中。
天井向かって、シュピ・シュピ・ピピピッと小さな真空波を連続で打ち出して大喜びをしとります〜。
目覚めた時は、ぼーっと泳ぎでふーらふら。それが直ぐにぴょーんと覚醒。なんや興奮してました。どーも猫手のぷきゅっと押しは、金魚ちゃんと羽衣をガチ押ししたっぽい。
右に左に、見て見て見ての金魚演舞。
最後は華麗に帰還です。
嬉しそ〜うな鰭万歳。
どうやら怪我の功名なりました。羽衣感覚、掴めたお祝いくるりんターンで猫ボディにすーりすり。
「にあーあ」
ほんとに良かった。俺の怒りんぼに付き合わせてごめんよー。押し付け謙虚はポイします。こんぽんか〜ら〜 ポイですよ〜。ストレスってダメですね〜。
そうだ、金魚ちゃん。
「なあーあ、にゃなあーあ」
ん?
……金魚ちゃ。我慢してなくていーとはゆーたがゆーた先からオーリンさんとこ戻ってどーすんの? あ? 俺の金魚馬鹿なんか? 元はと言えば、お前がオーリンさんにべったりと ん? んんん? 待てよ。 確かぁ、最初こっちからこっちだったはずでぇ。んで、あっちに向かって頑張ってえ〜 あっちにはドアがあってえ〜 ドアの横にはオーリンさんが だって、そこが持ち場な訳で。
顔を歪めた輪っか頑張り。
しながら見てたのオーリンさんか? まさか、あの時点でロックオンしてたのか!?
…そうね。 しりょーは やさしい人が好き〜 だって、やさしい人だから〜 後を付いて回って行くのです〜 私に気付いて、そのやさしさで〜 期待を込めて見つめるの〜〜 見れば見るほど 良い体〜 じゅるり、ほんとに良さそうね〜 だから、その身を狙って 狙って 狙ってぇえ〜
やべえ、金魚憑きにさせたか!?
「にあ〜」
…ふ、ふははは。そうか、決定か。
金魚ちゃん、ボディ狙いはいけません。色んな意味でダメなのです! 戻ってらっしゃい。
戻ってこないなら、こうだ!
クロさ〜ん、帰還命令出してえ〜。
名残惜しげに引っ付いてたが、キラキラキラリをしながら悲しげに昇って行きました。月の姫と違うのは、何度も振り返っては一回転して時間の伸ばすしぶとさでしょうか?
ちょーーっと可哀想な事をした気もするが〜 原因が判明している以上、俺の責任問題なるからな。
さ、元金魚ちゃんのお尻をぶすっとしなくては。
ぶすっ!
ゴロリからのズリ下げの間。
金魚ちゃんの安全にクロさんの通訳、最後の一人を天秤に掛けて… 猫は迷っておりました。
しかし、時間は待ってはくれません。しかも考えてるのは薄情です。だって最後の赤金魚。「頼むよ」に頷いて探しても『どうしよう?』が出てきてしまう。それでも、見つけると機械のよーに猫手をあげて爪を出し、心の中で惜しいなぁと思いつつポーズを取ってえ〜 取ってえ〜〜
「どしたの?」
「にぁん」
内心、ドキッとしましたが何でもない振りしてぶっ刺しました。こうして最後の一匹は解放され、俺の赤金魚は全滅したのです。みにゃーん。
俺の赤金魚、ぐっ ばあ〜〜〜い。
他に金魚いないかな〜? 白黄緑に青とか桃とか欲しいなー。でも、グループ金魚の中に別なの入れると喧嘩するかな? しそうだよなー、喧嘩が勃発したら…
まっず、闘魚が誕生してるじゃねーか。
「さて、診せぬとな」
「み」
「それで良いよね?」
「に」
「では、呼びますが宜しいですか?」
テーブルの上でお行儀良く座って、皆を見る。ちらりと上も見たが、消して貰ったまいるーむの光はない。よし。
「み〜」
指示を受けてオーリンさんが呼びに行く。ガッチャン開いてパタンと閉まらず、少しだけ開いてる。開けてったの。心の中で、い〜ちです。猫耳ピクピク、人の足音補足中。牢番さんへの声掛けキャッチ。ゆっくり数えがじゅ〜うごなったら、ドアがゆらん。
「連れて参りました」
皆さんのご入場。
せんせーとレフティさんは元金魚ちゃんを診ています。ジャスパーさんはオーリンさんとギルツさんの間、手首の制御環がきっらりーん。不遜な態度とは言いませんが、顔に謙虚さありません〜。
「それで、そいつが何を見せてくれるんだ?」
ドキドキが声のトーンで落ちました。ちび猫、ギンッ! 睨み負けは勝負負け、勝負の前から負けてなるか!! それで負けたら、この先々がうるせーとわかっとります!
はっ! 冷静に、冷静に ちょーはつに乗らないちび猫、大人です。ぐるぐるしない大人猫!
文句ゆーたら、俺も「それで?」返しで進んだるーー!
うにゃ〜 せんせー達、まだ? まだだよね? そう、まだですよね〜 はふぅ。