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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
175/239

175 だから、それをやめろっての!



 猫が顔を上げると、そこには蒼い目の悪魔がいたのです… 何と言うことでしょう! 猫は悪魔の手中いるのです! こっわー、逃げ逃げ逃げえ〜〜。



 「どうかした?」

 「うにゃーあ?」


 にゃーんてね、本気で逃げる気は毛根ない!  …あや? ややん?  にゃ〜っはっはっははあ〜。 間違いました、毛頭ないでぇーす。ええ、もーとーがないのです〜。


 それにぃ〜、ここで腕の中から出てどーしろと? こーんな寒い所でぬっくぬく〜から出たら風邪を引くでしょー? あ、でもちょっとなんかヘンな涙が。 …おかしいなぁ、こいつのこんな顔を見るのは初めてじゃないってーのに。



 「ん〜」

 「! うにょー」


 スリッと頬摺りされました。

 反射で直返し、尻尾も一緒にうにうにです。ソッコーで返事をするのはプリティーキャットの条件なので! 絶対に外しません。


 「なぁー」

 「わあ」


 鼻と鼻をくっ付けて、スイートさを追加しておきました。


 「う、 うう…」


 しかし、その間も室内に響く苦悶の声… それを良しとしたこいつは…  そら、黙認よりかは良いと思うんですけどね? ですがね…  ん?



 ちび猫、きゅぴーん!


 首をブンッと振って、金魚ちゃんとジャスパーさんの握力勝負を見つめるが。 が、が、がぁ〜。 いにゃーん、黙認してんの俺じゃない? だーーって、金魚ちゃんに俺の心の声は届いてないよーだしぃ? 黙認ゆーたら、見ててなーんも言わないってな話でぇ〜。



 「調子に、の りやがっ」

 「調子? 誰が、誰に対して、調子に乗っていると言う?」


 ゴスッ


 「ぎっ!」


 誰か止めようよ!? いや、止めて! つか、やめい!



 「にっ「御前で行うに良しとなるか、この馬鹿共が!!」



 レイドリックさんの素晴らしい大喝一声でした。


 目配せにオーリンさんが素早く動かれ、べりっと二人を引き剥がします。安心と同時に『早くやってよ〜』と思うのですが、上手に引き剥がすのもタイミングとゆーものがあるのでしょう。ええ、きっと。



 引き摺られて隅っこに移動したジャスパーさん、ぐったりモードでお倒れです。そこ、寒くないですかあ? あ、元金魚ちゃんも同じだからいっかぁ〜。



 「礼儀の一つも知らぬと言うか」

 「いいえ、そんな事は。礼儀は円滑と知っていますが、それではこちらの気が治まらないものでして」


 うわあ! 今度はレイドリックさんと金魚ちゃんの対決が始まったああ!!



 ふっと笑った金魚ちゃん。

 笑いながら片手をグッと握り締める。締めたが、そのままフリーズです。どうしたのでしょう?


 握った手を静かに見つめて言いました。


 「本当に使い物にならない体だ」


 …いにゃん、なんて答えれば。猫は顔を背けちゃう〜。





 「我らが主よ、先の呼ばれに跳ねた二番が内の一でございます。言葉を交わせるこの喜びを、何とお伝えすれば良いのでしょう」


 さっきとは、打って変わったお人がいました。

 笑みも違えば態度も違う、声が甘く聞こえれば言葉遣いも全く違って礼儀知らずの言葉が裸足で逃げていくのです! そして、セイルさんにもご挨拶。


 立て板に水の流麗な美辞麗句と共に行った礼は、手慣れた感じで緊張のきの字もありません。 


 その、ちょーっと耳慣れない美辞をのーない変換すると〜『黄金の魔王様におかれましては、本日も大変かっこよく〜』とか何とか聞こえたのはどーしてだ。うーむ、俺の頭が誤変換起こしてるのか? …お日柄もよく〜じゃないだけ、だいじょーぶだろ〜。



 「にー」

 「…無きに等しき名でありますが、ジュリアスと申します」



 竜騎兵の皆さんにも劣らない落ち着いた物腰。バトル脳の人かと思っていましたが違ったよーです。そうだ、今度は確認しなくては。


 「ななー、なななにゃうー?」

 「……はい、そうです。口を借りてはおりますが、この身の声ではありません。この声は私の声、話すは私の意思」


 「うにゃな、にあーん?」

 「どの様に、と言われますと… どう説明すれば良いのか」


 困った様に眉根を寄せて考え出す。


 「うにゃななな」


 ふーんわりと微笑んだ。


 微笑んだ違和感、半端ない。さっきは男女の差による違和感だったが、今度は同性だ。なのに、ビシバシ感じる『ソレ、あなたの体じゃないよね。違うよね』感が半端ない! これは人格レベルの違いか? 将又はたまた、男としてのナニかなのか!?



 「言ってしまえば、肉の虚がなければ声も響かぬものでして。あそこでは我らの声は何故か響かず、お届けできず。前回、各々が様々に試した結果、外にありては拡散が早過ぎるのではないかと考える次第」


 …現実はとても厳しいよーだ。魂なのに、魂が行う心話は無理なのか。


 「ですが、あそこでの我らの会話は拡散を留めるに等しく… 原因がよくわからず」


 なんてこったい! 魂は心で心と心が通じ合うのに片方の心が受け取れないと、いや、片方がガツンとやったら心が心を押し潰して心がココにあるのにと「こここけこー!」と泣き叫ぶのかもしれないとゆーのですか!?



 ふ。 推測が〜 ぐるりんぱすると真実が〜 行方不明になりそーだ〜。もう、できないもんはできないで良いですわ。一つ収穫終了でーす。



 「なにゃーん」

 「此度は主様のお心に添う為、降りる事が許されました」


 「に?」


 





 「行こうか」

 「に、に! ににゃーん?」


 え、早くない? もっと話をするほーが。つか、まだ碌すっぽ話してませんよー?


 「後で泣くのは君」

 「に、にあ」


 「現在進行形で理解しているホンモノの言葉は優先するべき」

 「うなあー」

 

 「ノイ、土被せが好きなら止めんぞ」

 「うっにゃー!」


 行ってきまー!


 「ガウ!」


 あ。





 「ヒューン、ヒューン。キューン…」

 「うにゃー、にゃにゃにゃー」


 『一緒に行きたいのにー』と訴えるアーティスを慰めます。本当に俺が拗ねててどーするのかと猛省。


 「行こうか」

 「自分も参ります」


 「にー」


 『ごめんよ〜、待っててな〜』とスリッてたのを止めて見上げると、猫ボディが浮上します。浮上しながら、手を振ります。


 「あれ、嫌?」


 違うって。

 じたばたじゃないって。


 上着さんを掴んだら、間に顔を突っ込んでぐりぐりぐりぐり入れて下さい。尻尾ぶんぶんさせながら、頭から入って隠れて準備ok。


 「…あは、尻尾出てる」

 「うやん」


 ドア、ガッチャンで進みます。





 「終わられましたか?」

 「いや、別件だ。他は?」


 牢番さんの声と足音が近づく。

 他に声は聞こえないから隠れなくても良かったかな? ぺったんに見えるよーに伸びてしがみ付いてはいるが… やっぱ、不自然にぽっこりしてるかなー?


 話終わって歩き始めたので、キュッと爪を立てましたが背中が安定しましたよ。





 ドア、ガッチャンで入った模様。聞こえるパッタンに、ほぅ。


 「お待たせ、どうぞ」

 「にゃふはー」


 ずぽっと顔を出すと部屋の中は暗かったです。でも、徐々に光度が上がって視界が明るくなります。中では、まぐろちゃんがゴロゴロしてました。


 その衝撃映像よりも猫の鼻は捉えてる! 何ですか、この異臭は!


 「く、く、くちゅん! くしゅっ!」

 「ん? 鼻にきた?」


 「くちっ!」


 鼻がムズムズするんですが!


 「鎮静香が鼻にきましたか」

 「うにゃあー?」


 「香そのものは…   大丈夫です、もう元は消えておりますから」


 俺の苦情にオーリンさんが奥へ行き、屈んで確認したのは香炉のようだ。そして確認に掻き混ぜてしまわれたので、強い匂いが こう、こう…  むわぁ〜んと立ち上ってしまいました…  ああ、失敗した。


 でも、お香だったんですね。それなら安心。


 皆すやすや、安眠香。だらけたまぐろちゃん達は、薬でぐうぐうなのですねー。 んあ? お香は薬に分類されるっけ? いやいや、薬とゆーたらおかしいでしょう。しかし、きゅーいんでぱっぱらぱーあになれちゃうお薬ってのも〜  いや、そんな事より肝心なのは俺が平常心を保つ為に深呼吸できない事か。


 「顔、引っ込めてたら?」

 「にや〜」


 ふんふんふーんの鼻呼吸。


 鼻息飛ばして遊びますが、ほんとアーティス連れてこなくて良かったです。背中の上は安心できるが、破砕で正気に戻ったまぐろちゃん達がアーティスを見て「うぎゃー!」とパニくったらクソめんどくさいとゆー意見に賛同する。


 「ああ、確かに分散化が始まっているな」

 「…こちらも始まっているかと」

 

 どのまぐろちゃんから行うべきか二人が診てるのですが、どのまぐろも状態は良くなさそうです。


 「彼の言う通り、今日を外すと終わりか」

 

 怖い会話が飛び交ってる。



 コココンッ!


 ドアの連打に首伸ばし。

 

 「お待たせを  ぇ、ぜ はぁ」


 せんせー、そんなに息急き切ってこなくてもまぐろは逃げませんよー。それと、猫の技術に惚れるなよ。  にゃーんて、にゃーんて、うにゃん! 猫、照れるう〜。


 でも、ほんと驚いて叫ぶのはなしね。






 簡易ベッドの隅に座って待ってます。


 「確認は終わったな?」

 「はい」


 三人の説明で知識が少し増えました。血の流れと同様に内なる力は体を巡るが巡りに波もある。「その波が一番強くなるのは心臓」と言われたら、そっちの話かと普通に納得。ところが、それが分散化しているそーです。


 波の分散化。

 力の光が、どこも一緒。


 それなら説明としては均一化でもいーんじゃないでしょーか?


 一瞬、そう思ったんですが心電図が均一化したら終わりですよねー。いにゃーははははーー。



 「あ、お待ち下さい」


 しかし、大いなる問題が立ち塞がる。

 猫の目には、その分散化されてるとゆー力の光が見えませんでした…


 「今現在、この体を巡る力がここから始まったとして」と指差しで教えて貰ったんですが〜  これがどーしてか、さっぱりさんでした。どーしてでしょう? セイルさんのどっぱーんは見ましたし、酔いました。クライヴさんの時は『え? 無いの!?』と驚きもした。チカチカもキラキラも見える猫の目に、なーんで今回見えんのでしょう?



 やっぱ、あれ?


 良すぎる天上の光を見過ぎた為に、地上の光はわかんなくなってる? それとも、これは地上の光ではなく、地上の明かり? 人工の光に天の光、人の明かりは光の資質に波長も波形も大きく違っているものです!


 うむ、適当過ぎるが弱っちいのはわかんねーでいいかな〜。わかんないもんはわかんねーしぃ〜。仕方ない… 今、考えてもわからないものはわからなくてよし! 


 「始めようか」

 「に」


 ん、謎解き脳トレしてたから緊張してないよ。へーき。んじゃ、やりますか〜。


 



 「にっちゃーあ!」


 ぶすっ!


 はいはい、流れ作業でいっきまーす。



 とは、なりませんでした。キャッチャーはあってもベルトコンベアーはないのです。あっても、俺が流れる作業は酔うからやめろっての。

 


 「ん。じゃあ、次に」

 「な」




 「うなうう〜〜」


 …青果の猫は桃の目利きをしています。傷のない良い桃だったので、しょーがないから引っ繰り返して貰ったのです。なのに、ない。どうしてない? おかしい。


 「にちゃー  あ」

 「もう一度、返してみようか」



 ぺちぺち、ぺちっ…


 今度は丁寧に桃を確かめながらしてみましたら。 らっらっらあ〜。 桃の割れ目にございました。青果の猫は『ふ』で、『くっ!』になりました。猫手はグッと握り締めれないのが辛いです! ええ、本当に目利きとは容易ではなく… そして、大変薄皮の部分になるので慎重にならねばなりません。


 「ううう うなー」


 クッと皮に爪を立て、引っ掛けるよ〜うにして上向きに上向きに上向きに!!


 「にぃ!」


 ビッ!


 よし、成功です!



 まぐろちゃんがビクビクビクッと震え、小さく呻いてましたが左右からの押さえ込みで問題なく終われました。真っ直ぐ突っ込んでのにぎにぎは、びてーこつに突き刺さります。ええ、考えなしのぶっ刺しは波乗り金魚ちゃんで懲りました。


 「……香の効果は切れておりません、大丈夫です」

 「心因が重なったとしても今更です」


 「続けてよいな」


 問題なしと判断が下ったようです。



 「次、イケる?」

 「に」


 イケる、イケる。

 ほら、貸して貰った布で俺のメス()はきれ〜に拭い済み。ちゃーんと衛生面にも配慮します。


 「疲れたなら言ってよ」

 「なー」


 さっき手間取った理由は、只一つ! 傷のない綺麗な桃でも張りのある桃ではなかったからです! それが見極めを左右した。もう同じ失敗はしない。目利きのレベルは上がっている!


 コココン。


 んあ?


 「宜しいでしょうか?」


 …ギルツさんですかあ?


 

 


 よし、見つけた。ぶすっ!とね。


 はい、これで無事に全まぐろちゃん しゅーりょ〜〜う! いや〜、実に遣り甲斐がありましたねえ〜。何だか、すっごく集中できた気がします。途中で疲れて眠くならなかったし、そんなに疲れてないし。


 せんせーの診断が終わったら戻りましょう!



 「よし」


 お、行きますか。


 「次は隣の部屋ね」


 …へ?






 お〜 となっり きましたら〜 ま〜ぐろちゃんがゴロッとしーてぇ〜 いましたよ〜   はぁ。



 「…にあ」

 「どうかした?」


 腕の中から見上げ、室内に視線を戻してため息です。そんで、あれ?と気が付きました。


 「に、にあー!」

 「はい?」


 女の人ばっかじゃないですかー!


 「え? 意識がないとは言え、同じ部屋に入れるのはちょっと」

 「にがーあ! にがにゃがにー!」


 「…優先順位?」


 そうだよ、どーして女の人を先にしない!? 体力面を考えるとだなあ!


 「質問、君は何故くしゃみをしない?」

 「にう?」


 ご意見に鼻をすんすんしましたら、鼻は問題ないと答えます。


 「香を焚く程に重篤ではないって事」

 「…なーぁ」

 

 そうか、あっちが重篤だったのか…


 「それでも体力は勝る。だから、確認を含めて。ね」


 体力がある男で実験って話ですかあ〜。にゃはは。でも、それはそれで性差別では?


 


 腕の中から見つめます。間近で見る肌は白く白く… あの肌と同じで蝋みたい… ピチピチキュートなピーチ肌とは、とてもとても言い難く… 寧ろ、死んでんじゃねーのかと…


 「此処には有力者しかいない、それも普段から力を使っている者達だ。その証拠に内なる力は明るい」

 

 えー?


 見上げると冷静な教授がいた。伊達メガネはないのか。


 「肌色で判断するなら確かに危ない。だけど、力は内を綺麗に包み込んでいる。わかり易い表現は繭。このやり方は女性が上手で、男は…  全くできない訳ではないけど、あんまり上手いとは言えない。こればっかりは性差に起因するから」


 …せ、性差!? 女性限定スキルか!  


 

 死にそうに見えるが繭状態の安定した女性。

 保ちそうに見えるが、もしかしなくても危ない状態の男性。


 「真剣に考えられても、そう大差はありません。比較で言うなら力の器の大きさで、他は若さか熟練です。それでも決定的なとするのなら、それは運でしょう」


 体を少し屈めて覗き込んできたオーリンさんの笑顔に、俺のどこかが「そーだ、そーだ」と合唱してる。



 「お待たせを、手筈が整いましたので大丈夫です」


 せんせーが入ってきたので話は終了。はい、始めます。






 はっきり断言しましょう。蝋色の桃には興味がもてません。


 猫手で確認押しすると、冷たくて硬くて弾力と呼ばれる大事なものが…  これはアレです。行う前と後に手を合わせ、「にゃむにゃむにゃむ〜」と拝むヤツです! 今も俺の肉球から熱を奪っていってますー!


 気分は殺人事件を解明する臨床医… じゃない、監察医。男の方もそれなりでしたが、女の人はより顕著です。これで同じ位保ってると言われても… 嘘だろうとしか。猫せんせーは、猫せんせーはぁあ〜〜。


 「あのさ、同調で見える様になってから悩んだら?」

 「…にぁん」


 ぶすっ!


 その時を期待してます!





 「なーあ」 


 「いくぞ」

 「どうぞ」


 呼吸を合わせて、蝋色の体が引っ繰り返ります。このまぐろちゃんの桃には見当たらなかったのです。


 今度は胸部に蝋色の桃が見えた。 …すいませ。興味がもてないとは言え、治療の為とは言え、見えちゃった事にナニか心苦しく申し訳なく〜  と、思ってみたり みなかったり 見たくなかったり 見てみたかったり〜。


 正直、絡む縺れるこんがらがるのが気持ちなはず〜 う。  …そして、こんがらがる俺の思考。胸と尻。桃と呼ぶに相応しいのは、果たしてどちらだ!? …にゃん道を踏み締め、直に踏んで押して確かめるのが正しい道か!!



 あ、みっけ。うりゃ〜。


 ぶすっ!





 「に?」

 「はい、これで終わり。他の部屋はない」


 これにて、元金魚ちゃんの『正気に戻りなさい! 矯正プログラム』を全終了致します〜。よかった、よかったあ〜。 ちが、一匹残ってる。 ん?  んんん?  ……………赤金魚ちゃんの数と元金魚ちゃんの数が微妙に合ってないよーな?  な?


 「にあ?」


 「他に?」

 「彼方此方で香は焚けません。ですので、全員詰め込みました」


 あ、地下空調の問題。


 「常習香は以ての外、日がな一日焚く事もしません」


 取り零しはないよーですネ。では、最後の金魚ちゃんの元に戻りましょう!






 「ははは、そうか。それは面白いな」

 「で、ございましょう?」

 「セイルジウス様… ですが、一考の価値ありですか」


 「ええ、試してみて下さい。悪くないですよ」


 

 部屋に戻ると簡易なベッドは分解されてた。

 壁際に整然と並ぶ木箱に、木箱ではなかった二つが顔と顔とくっ付け手足を伸ばして倒壊するなとお立ちです。別に並んだ三つの木箱の上には、「やっす!」と言える厚さのマットさんにシーツさん達がお座り中。 …未使用か洗濯済みの日干しなら飛び乗りたいです。


 綺麗さっぱり片付いた中で、三人が和気藹々とお茶してた。アーティス、セイルさんの足元で口をむぐむぐ何か食べてる。


 食べてる。

 飲んでる。

 寛いでる。


 俺が頑張ってる間に平和なお茶会が開催されてた… 大人な大人が大人を発揮すると取る行動は大人とゆーコトに…


 「ワフッ」

 「に〜ぃ」


 「戻ったか」

 「お帰りなさいませ、主様」 「終わりましたか」


 「只今、戻りました」


 カタン。


 会釈をするレイドリックさんに、立ち上がる金魚ちゃんとアーティス。軽快に寄ってきたアーティスのお帰りに腕の中から鼻を合わせる。俺が終わるとアーティス、もっと背伸びする。


 「ちゃんと待てたな、偉いぞ」

 「キュッ」


 俺の上で鼻を合わせて、すーりすり。アーティスが足を下ろしたら、テーブルに向かいます。俺は歩かないけどね。





 カチッ…


 椅子は三つだったので、金魚ちゃんが座ってたトコに遠慮なしに座りました。「此処に座っても良いですか?」なんて聞かないのが、こいつです。ええ、立場と思考が違うな〜と思う瞬間です。


 抱かれた状態で座られると、俺は自動的に膝の上に座る事になってえ〜 え〜 椅子が合ってないんでしょーか? テーブルの上に顔が出ない! いや、半端に出てる! 耳は出てる!


 この自動的なグッバイは仕方なくても嫌なので登ります。



 コポ  コポポポッ…


 よいよいっと登ったら、金魚ちゃんが慣れた手付きでお茶を注いでくれてました。



 「どうぞ」


 一人の前に二つのカップ。

 ソーサーに乗せて出してくれたウエイターさん姿が…  ナンバーツーってほんと?みたいな。


 「飲む?」

 「にぅあ〜」


 うっすらと湯気が立つ茶を猫の舌で飲めと言うのは無理。ぺろんちょしたら火傷するので後で貰います。


 その間に呼ばれたオーリンさんが二人の間で片膝着いて、ご報告。金魚ちゃんのお茶汲みは終わらず、オーリンさんの分も淹れられ…  本当に気の利く金魚です。


 そして、こいつは淹れた人間がアレでも迷いなく茶を飲もうとしている。ここら辺がアレだな〜と思うのですが、飲むのに猫がいたら邪魔でしょう。気の利く猫は退くのです。ええ、下ではなく上へ〜 とうっ! 



 ちび猫は〜 テーブルマナー 知ってます〜。


 俺の分のカップの前でお座り〜 するには、スペースが少し心許ないので横に回る。反対に回ると二人に背を向けるのでしません。尻尾を体に回して顔を近づけ、すーんと胸いっぱいにお茶の香りを楽しみます。


 「にゃふ〜」

 「はぁ、人心地が付くな」


 この香り… この香りは、あれじゃない! うん、まだ飲んでないけど利き茶できてる〜。違う事だけわかる〜。 あ、これ嗅ぎ茶?


 堪能してたが、ハッと気が付く。

 アーティスにはしたが二人にはしてない。


 ちび猫、とととっ進んでセイルさんの前に。お座り、尻尾回し、小首傾げて。


 「にゃふ〜」


 「ああ、お帰り」

 「頑張られましたね」


 レイドリックさんにも、「に〜」で報告終了。全くもって、猫は楽。



 ちょいと首を回すと金魚ちゃんが俺に笑った。んで、カップ&ソーサーを手に進む。しかし、差し出されたオーリンさんは謹んで辞退した。身振りで行う二人の攻防に終止符を打つべく人を頼る。


 「受けて良いぞ」


 これで良し。

 自分の席に戻ろうと立つと、ふっと香った。

 

 「ん? どうした」


 すんすかすん。


 セイルさんのカップ…  酒の匂い…


 テーブルの端に歩み寄り、二段重ねの木箱を眺める。持ち手付きのお盆の上にあるのは、布巾に保温瓶にティーポットと〜 酒瓶を認めて納得。セイルさんの前に戻って「にあぬあなうーん」。


 「…わからん」

 「香り付けだから。酒に依存できる人でないから心配ない」


 素敵なフォローが入りました。が、否定の中に何か違う響きがしてね?


 「心配してくれたのか、有り難うな」

 「にう」


 手が伸びてきて、俺の頭と顔をなーでなでえ〜〜。長い指が耳を擽ると、もっとやってとお願いしたくなるのですが〜


 「にゃう〜」


 顎の下の擽りは、ちょっとやめてえ〜なので席に戻ります。



 座って気付く凝視線。

 目での問いに、仰視線で問い返す。


 「いえ…  主様は、この方々に馴染んでおられるのですね」


 感慨深げな声に、じー。

 視線を落とし、記憶を探って言葉の意味を考える。


 馴染む、馴染む、馴染む… 



 「にゃーん(そだねー)

 「…心安くあられるのでしたら、何よりです」


 うん、まぁねー。でもさぁ、俺もそれなりに努力しましてね? こっちの皆もそれなりに努力  つか、理性に納得しろやってやってくれてるし。まだ人は限定されてるけど、何もしなくて馴染める訳ないですよ。


 

 金魚ちゃんと目を合わす内、猫微笑できました。


 金魚ちゃんの言葉に、ちょっと斜めの見方をしてたんですが気持ちに自慢が入りまして。いや、自信か? どっちにしろ、チェシャから始まりそーでもそーはならない猫微笑ができる俺になってます〜。


 にんにんしてたら金魚ちゃんも笑いました。どこかとっても良い顔です。


 腰を落として俺と目を合わせる金魚ちゃんの目から、迷いと言っていーよーなもんが消えたと思う。迷いではない気もするが。



 「我らの事、私が知る事に話せる事、その全てをお二方に話しておきました。今更ではありますが、この身は器でございます。これが私を凌駕する事は不可能ですが長く居座るのも哀れなもの。主様もお疲れになられましたでしょう? 我らが事は、お二方からお聞き下さい」

 「に?」


 ちょっと待て。

 仕事を終えて、さぁこれから一杯やろーかと言う時に帰る? 何ですか、それ?



 「にー! みにゃにゃにゃにゃ〜〜あ!」

 「主様の事を思えばこそで」


 「みに、みに、みにゃあん!」

 「嬉しいお言葉です」


 「………み」

 「主様との会話を拒否する理由はなく。また、あの姿に戻りますと会話は難しく。できれば、もっと話をしたいのが本音です。ですが、どうも勝手が違いまして」


 「みゃあう?」

 「纏う光が減少している感じがするのです」


 「に!?」

 「いえ、疲れは感じておりません」


 「なあ」

 「御印を持つ体であると言うに… 本当に…  ですが原因を探るにも時間がなく。それに、主様のお気持ちから外れます」


 笑った顔に瞬間的なショック。



 不意に湧き上がる罪悪感。


 俺の行動は間違いじゃない。やらないと拙いし、時間ないし、廃人決定はお荷物だし。そーなったら後味悪いで済まないし。でも、金魚ちゃんは。俺の金魚ちゃんの安全性は、だ!


 …そうだ、こうやって生きてる人間を優先する訳だ。

 そうだ、まだ生きてるから。


 でも、魂の安全性って優先されそーなモノなのにね? でも、違う訳だ。だから、それをやめろってのはあ〜〜    あー。




 「お心に傷は不要です」

 

 楚々とした笑みの金魚ちゃん…  ああ、俺の金魚ちゃん…  俺の金魚なのに、どーして俺は器の中の金魚ちゃんが見えんのだ!


 器の中の人の姿っちゅーのが見えたら、正しい姿が見えたなら、人としての認識ができるのにー! どーして猫目で見えんのだ!? 霊視がしたい、屈折率が合ってないんか!?


 ああ、もう真実! 真実の鏡はどこですかあー!? あるんでしょー、誰か持ってきてー!

 


 「では、お伝えした事を」

 「確かに話そう」


 ん?


 …ちょっと、お待ちなさい。今のアイコンタクト、ナンですのん?


 「なぁあ?」

 「はい?」


 「にーあ〜 なぁぁ〜〜ん??」 


 じーーっとりと熱視線を送ります。猫声、自然に楽しくなります。


 「え? あの、今のはと言われましても」

 「なーあーあーあ〜〜」


 猫の目を誤魔化せると思ってんのか?


 「…… 」



 金魚ちゃんで埒が明かないなら、セイルさんだ!


 テーブルの上でも埃を立てない肉球歩きに文句は言わせない。さぁ、教えて貰いましょうか。なーんか隠してるでしょー。


 「なあん?」

 「ん? 可愛いなあ」


 猫の脅しを躱しやがった!


 「にぃん?」

 「セイルジウス様にどうぞ」


 レイドリックさんが旗振りやがった!


 「にゃー!」

 「うん、わからないから頑張れ」


 おお、声援頼むわ! あんま役に立たないけどな!



 「にーぃっ」

 「まぁ、雑談をしたのは確かなんだが…  あー、ほら。男同士と言うか、大人の約束みたいなも「ぎにゃー!」


 「俺と同い年の男に、その発言はちょっと」

 「あ?」

 

 ふふふ、セイルさん。

 俺を大人の男ではないとお言いですか。


 「いや、その姿が可愛くてな」


 ふふふふ、そーですか。

 では、猫暴れですね。これ以上はない放熱線を発してみましょーか。俺は大人でないから問題ないとゆーたのは、そっちだ〜。


 見よ、猫暴れの構え!


 「うに、うに、うににににに〜」

 「ああ、可愛いな」


 「にっ!?」


 素早さレベルが違って回避不可。両手でがっしり抑えられ、胸元に着地。猫爪出番で上着をキャッチ。したらば頭と顔を撫でられ耳擽られ、尻尾を挟まれ遊ばれる!


 「にー!」

 「かああ〜」


 ちょーっ! あ、あ、あ、あ、猫まじ遊ばれてるー! 猫、団子にされてえー!


 「可愛い、可愛い」


 …それはそうです、猫かわいーです。


 「ほらほら」

 「にぅ」


 あ、喉擽りは〜 ちょっ、やめ。


 「ん〜」

 「に、に〜」


 それは〜 ちょっと〜 喉の〜 奥から〜 甘えの声が〜  あ〜  やめておくんなまぁ〜  うああ、この指が! この指が… この指は…


 ガタン。


 「にぅう〜 に、にぁ」


 まーしょーうーの〜 ゆーびーに〜 かーんーらーくー しーそーう〜。


 「兄貴、やめろ」

 「ん? 嫌がってないぞ」


 「尻尾が震えてるだろ」

 「気持ち良いだけだよな〜」


 「に、に、に… 」


 終わりだ、ちび猫は陥落する。グッバイ、俺の人としての「だから、それをやめろっての!」


 ガッ!


 「あ!」



 揉みくちゃ猫、力づくで引き取られましたー。




今回の自分ポイント、兄の表情。

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