174 だから、それはおやめなさい!
お待たせ、と言って良いものか… ま、どうぞ。
「食み食みしてはいけません!」
尻尾をぴょいと振ったのですが離れません… うそぉ、こいつまじで食ってる!?
「ダメでしょー、めっ! めっ、めっ!」
焦って尻尾をぶんっと振ったら、一本釣りの成功です。でも、空中で針が外れて金魚がぴょーっ。
ぱしゃん!
そうか、これが鰹の一本釣りか! こうやって次から次へと! …あえ? ……俺の尻尾に尻尾針なんてございません。あったら、とんでもございません。針の返しがあったら恐ろしい!
「うーむ… 釣りの極意は遠い。 ん?」
また、一匹寄ってくる。
ぱしゃっ!
ぱちゃ、ぱちゃっ…
「何?」
ぱ… ちゃぷっ。 ちゃ〜〜 ぷっ!
「………食み食みを食む食むにしても変わんないから! ポーズを変えてもしてる事は同じだからー!」
ぱしゃしゃん!
尻尾をピンして怒ったら、床に逃げた。
「ほんとにもう、ゆーコト聞かないうちの金魚は… うちの金魚達はぁああ〜〜」
ちょーーっとドスの効いた声をあげてみる。離れた所でぽこぽこぽこっと顔出して、こっち見てる。そしたら片鰭あげて、斜め体位ですいーっと。一生懸命、何かをアピール。
一匹がしたら、他もする。
その場で各自が右に左にすいーすいー。すいーの距離と呼吸が揃ってる。
「なにこの…… お茶目?」
適当に逃げただけだろーに、妙に見られる配置に芸術的な揃った演技。何だかとっても可愛いです。のーないで人の姿に変換するとより笑えそうですが、なんかねー? あは。 金魚かわいー。
波は小さく、音を立てず。
寄ってくる金魚が起こす細波は、形を直ぐに失って床に飲まれる。ちゃっぷん金魚の浮き沈み。見上げる金魚の目にあざとさは見えません。他に何にも見えませんから読みきれとゆーのが無理なのです。
「…あー も〜 仕方ないか、怒ってないよ。そーいや粗方居るとかゆーてたけど、やっぱギルドみたいなもん? マスター的な子いるの?」
ばしゃっ!
「お! 一番。んじゃ、副の二番目さん〜」
ばしゃっ! ぱしゃっ!
「あら? 二匹。そいじゃ、三番さん〜」
ばしゃしゃっ ばちゃん!
「三番、三匹揃って床跳ねた。なーんて素敵な演技でしょう〜」
何か違う気がした。とても違う気がした。しかし、ちゃぱっ!と皆が寄ってきて期待を目にして見上げてる。俺のお言葉待っている…
かわいーかわいーと猫手でポーズを取りました。それから、「にゃふん」と咳をして〜。
「えー… 酷い言い方になりますが、君らと赤金魚は同じではありません。赤金魚を優先してやらないと拙いです。せんせー達も大変だし、卵ちゃんの顔の痣は酷かったし。
でもまぁ… まさか、命の優先順位をする事があろーとはねー。医者でもないのにねー。
…違うもんも入ってたけどさ。あの場からちょっと離れたかったし、泣いた金魚ちゃんを問い詰める事もしたくなかったし。それで言うと金魚ちゃんを出しに逃げたとも言う。けど、逃げたら逃げたで金魚ちゃんの問題からも逃げだしたくなってたりー にゃはー、ダメね俺は〜。
んでも、放り投げてきた自覚はあるんです。すると小心者は早く戻らねばと思うのです。にーっこり笑顔も怖いしさー、にゃははははー。だから、後でね。金魚ちゃんも後でねー、落ち込み過ぎちゃダメですよー」
金魚ちゃん達と自分に言い聞かせたら、金魚ちゃんの隣に寄り添う一匹がこっちを向いて素早く回る一泳ぎ。そこへ、もう一匹がゆっくり泳いでく。
仲間思いだね。元から結束は強いのかな?
「…まぁ、何をゆーても限られた空間だからナカヨクね。共食いはダメですよ」
金魚ちゃん達が顔を見合わせ、固まった。軽く言った俺も固まる。
…たーましいの〜 きんぎょっ がっ とーもぐーい〜 しぃたぁらあ〜 へーんかは〜 どこまで つーづくっ でっ しょー つーづけーばぁ〜 あー あー あー〜〜
壺の中の虫達、鉢の中の金魚達…
いにゃん、同じに見えて怖過ぎる。猫頭をぷるぷる振って、べりっと思考を引き剥がし。
「いーですか、もしや食えるかもをしちゃダメですからね。絶対に、それはやめなさいね!」
救いを求めて籠のクロさんを見つめるが、マスコットのクロさんは全く読めない。何をどーしても読めはしない。強制終了につき、尻尾を振って部屋を出ます。いやー、ほんと尻尾表現便利です〜。
外に出ると声がした。
「はい、では」
誰かへの返事に、ドアの開閉と出ていく足音。すちゃっと猫伏せ、下を覗いて確認です。
真っ先に見えたのはレイドリックさんの背中。ばったりさんに手を当てて、ゆーっくりと動かしてる姿に思い出すのはスキャン。せんせー服を装備しないせんせーがおられました。しかし、背中が語る真剣さ。
これは邪魔をしてはいけません。静かに静かに降りましょう。
シャイニングカーペットに爪立てて、しゅしゅ〜〜っと勢いを殺しつつ滑り降ります。
間違えてしもーた。
前向きで降りるんじゃなかったわ。
ブレーキを効かせ過ぎると、前のめり。コロッと転げていきそうです。カーペットからは落ちなくても、転けるなんて猫としてあるまじき失態! こーなると勢いを殺そうとしたのが間違いだったか? しかし、後ろ向きだと俺とゆー壁がないからキラキラが飛び散る… 力を使ってるトコにキラキラ舞ったら邪魔なだけ…
うあー、キラキラ飛ばさないで降りるのって大変だー。 はぅあ! 忍足のレベルアップ大作戦でいーのか!?
よぉし、肉球で〜 しっかり押えて 押えて 我慢です〜。そろっと そろっと慎重に〜。じゅーしん移動は お手のもの〜。爪を出さずに 爪立てて〜 光りを出さない こーぎじゅつ〜。猫の先生、じょーずです〜 うにゃー!
そぉれ、それそれ♪ じょーずにじょーずがじょーずで さいごはしのびになるのです〜。しのびの先生、すといっく〜。 おー。
ふははは、忍びのにゃんこ!
なんつーて笑っても、シャイニングカーペットは滑り台… この下山は本当に大変で。あー! 抜き方、間違えたー! シャイニングスターがこんころりーん! ちょい! 消える消える消えろ消えてけー!
チカッ
わぉ、想いが通じたよ。
あ、めっちゃ光度落ちた。クロさん、ありがとう〜。やっぱり、クロさんは俺のだ… あや? ややや?
光度が素敵に落ちました。すると、下が見えるのです。これはまた素敵な高さです… ええ、ちび猫が一人で登れるはずもない高さがですね…
ふ、ふははは。
ちび猫は空中歩行の術を手に入れた!
うむ、仙猫にはなれんが超強化ガラスの上だと思えば怖くないー! 足、踏めてるから気にしないー! このドキドキはきょーふではない〜 楽しく体得してみせる〜(涙) クロさん、やっさし〜〜い。
にゃまっと笑ったら、オーリンさんが見てた。見てた見てた見てた。いにゃーん、オーリンさんてば見てたのですか。
猫、恥ずかしーをうにゃらに変えて首を傾げる。優しい笑顔を返してくれた。現在地は真ん中まで、後少し。気を抜かず、跳ばず、必ず着地をするのでお待ちあれ!
はれ?
視線をキャッチ。
横になってる元金魚ちゃん、こっちをじいいっと見てました。
「ぁ あああ!」
バッ!
声と同時に勢いよく起立。直立不動でお立ちです。しかし、こっちがビビります! ビビると猫はこーちょくするんで、やめて下さい!
「あ、お帰り」 「落ち着いたのか?」
「に。 に、にー」
ムシられさんを見てた二人に声を返すが目は離せない。向こうも全く逸らさない。そんで顔が百面相を! 眉が跳ね上がり、目が凄んで怒りの顔に変化してぇえ〜〜 一気に無表情に。無表情から口元ピクピクしましたら、引き攣るよ〜うに持ち上がり歪んだ笑顔を作ります。笑顔で白目を剥きそうです。冷や汗どばっと噴き出しそう。
それらをグッと堪えた頑張り屋さん!! よっ、面白顔!
しかし、再びの無表情は失敗した変顔… 血管でも浮かす気ですか? ままま、待った! そーゆーのは… の、のーいっけつとか怖いんでやめたほーが… いーんじゃないでしょーか?
「こ、の… 」
ギリッと歯軋り俯きました。
あ、視線はずれたー。良かった、良かった。ばんざー。
「く、ぉの! く、そがぁああああ!!」
みぎゃあああ!
爆発に高速反転! カーペットを一気に駆け上り、ジャ〜ンプ! 着地でソッコー腹這いべたして、そっから再び百八十度の高速反転で下を確認!
広げた手が迫ってた。
「うにゃがあーー!」
キララ… ラッ…
「うぉおおおお!」
グキッ!
鈍い音と更なる野太い「ぎゃああ!」を置き去りに落下して行きます。垂直落下で床にドン。衝撃緩和に足を引くも膝のガクンで尻餅「いでぇ!」。横に倒れていくのをギルツさんのお手が鷲掴みで止めました。
更なる悲鳴に聞いてはならない切れる音。
………坊主頭でしたら倒れていたのでしょう。皆さん、手癖が いえ、お手が いいえ、ナチュラルな行動がすごいです。自然体とは良い言葉。
「ま、 つう!」
ガッチャン!
音が響けば終わりです。元金魚ちゃんが尻を押えて呻く間に、ギルツさんが肩から押えて転がして腕をキメて手首をシメたら金属物がキラリと光る。そんで指を掴んでギュウウウッ。
「いでぇええ!」
「喜べ、折れてはいない」
……スケルトン版のシャイニングカーペットで突き指したみたい。にゃはははーん。
「環を嵌めました、降りて来られて大丈夫です」
「に?」
あれ、してなかったんだ。
そう思ったが、よく考えるとそう思った俺の頭は酷い気がした。元金魚ちゃんの生死をよーく考えてない気がした… エイミーさんの時は… にゃははは! 深く考えない、考えてはならなーい!
「滑っておいでよ、ほら」
カーペットが消えてるのに両手を広げて腰を落とす。ちび猫キャッチャー再びです。
「なぁ!」
俺の声に反応してキラリと光れば、真っ直ぐキャッチャーミットに向って伸びるシャイニング。
「うなーあ」
さっきとは角度の違う滑り台に、ぴょいっと跳んでシャアアッと。綺麗に滑ってミットに入れば、くるんと回って回されて、ひょいと上げられ接着します。肩にべったり安心感。
「はい、おかえり〜」
「なーああ」
いーねいーね、わかってる〜う。
「はぁ…」
ん? ギルツさん、ため息吐いてどーされました?
「いやもう… 見事な橋の構築で。待機からの急速展開、その立ち上がりに間を置かない… 構築方法も分配式も知りたいですが重点を考えると供給源と言いますか… 全体の容積に、とても興味が」
なにその感嘆の中の怖いのは? それに、これはカーペットで… ああ、そっか。そうですね。確かにコレも架け橋です。下とは安定感が大違いな橋でございます。吊り橋は技術だと思いますが、あれはゆーてたとーりに潜む悪意の始まりでしょうか?
オープニングからのホラーは好きじゃない。 …いえ、全般的に好きじゃない。
「脅威を感じるモノに無尽蔵を疑うと心底恐怖なのですが、実際に自分で試す手間が省けた事は幸いです。できれば今少し確認したいものです」
「にがあー」
返事に首を振っといた。俺の部屋になにをしよーと。正直は美徳ですが美徳が全てに通る事はありません。それに、俺の元金魚ちゃんでの実験は…
「は、なしやが」
「黙れ」
あの、とーはつが可哀想なのでやめて上げて…
「お聞きしたいのですが」
うひぃ! ……レイドリックさん、お疲れ様です。いにゃん、そんな目で猫を見ちゃ。そうそうそうそう全部セイルさんの方に回してくださー。
「ん? 気にするな。気にしても出てこられたら、お前は勝てん」
「…何が出るので?」
「相打ちにもならん、喧嘩なぞ売るなよ。しかし、アレになりたいのなら止めんぞ」
ちょっ、セイルさん!
パス回さなくていーから、こんな時のパスいらないからあー! いにゃん、ひっどーい。
視線の集中砲火はおかしいです、おかしいですよ! 俺は元金魚ちゃん達を正気に戻す為に頑張ってたのに、どーしてそーゆー目で見るのです?
「俺の胸に文句を言っても誰も聞かないし、猫語は通じてないし」
「にがあん!」
そっちのフォローじゃなくてぇ!
「ま、あれも一応無事な様子。先にあの三人の始末をしよう」
「なーん!」
そうそう、そっちが先だよねー。でも、始末って言葉がおかしくない?
「こいつらに割く時間は今日でもう十分だっての」
そらそーだ、俺も頑張るよ。
それでは参ります。
意識のなーいー きーんぎょ… きーん… 可愛い金魚とゆーには語弊があるよーな… これは〜 金魚とゆーより、まぐろでないか? よし、まぐろ決定。まーぐろを〜 引っ繰り返して 皮、剥いで〜 剥き身にしーたら 猫爪出番、きっらーん。いただきまーす。
「尻なんだ」
「にがにゃがななにににー」
お疲れまぐろは後にして。
寝たまままぐろから始めましょう。
波乗り金魚以外は尻か腹のはずなので、ズボンを下ろしてうつ伏せです。 ……おっさんの尻の観察に、ちょっと悲しくて涙が出そう。みーんな額にしとけば良かったわ! でも、きーんぎょーの けーつ〜 の遊びは楽しかった。
いかん、気分を切り替え〜 ちび猫先生のお医者さんごっこ〜。今回は皮膚科のせんせーでーす。お肌の調子はいかがですかー? まぐろちゃんは鮫肌ではないですねー。
「ふぅ〜〜〜〜 にっ!」
ぶすっ!
見つけた瞬間、力強くやりました。可愛い爪でやりました。もちろん、尻肉に到達してます。ぺっち跡が都合良く浮き上がる奇跡はありません!
「……!」
まぐろの尻が二度三度と痙攣した直後、びたんびたんと跳ね出します。爪を抜いてない俺が危険です! 体が跳ねて危ないのです!
「にぎゃー!」
叫んだのが良かったのか、すっぽ抜けたから終わったのか? 直ぐに俎板の上のまぐろになりました。昇天… ではなく、お大事に。では、次のまぐろさ〜ん。どうぞ〜 あ、ちが。運んでー。
「仕留めた?」
「ふんぎゃーあ」
だから、やめろって。その言い方は。
「ですので、こちらを先に」
「にーぃ」
レイドリックさんのご指導により、お疲れまぐろが優先になりました。これより二匹目の解体ショーの始まりです。職人さん、お願いします!
「尻の確率が高いなら、このままでやるか」
「はい、手間を掛けずに」
ズルンッ…
左右から膝まで引いて終わりです。
紐パンは〜 解いて ズラすと すぐ脱げる〜。
わお、七五でできたあ〜。しかし、捻りもなーんもないですよっと。これがセクシー下着の話だったら〜 どっちでも変わらん程度の内容か。
さぁ、切望してない桃の剥き身を見ましょうか。 …桃なら青果のおにーちゃんごっこの方が合ってたな〜。
……な、なんだと! 桃に虫食い跡がないだと!! 嘘だ、ココがつるむけのはずがない! つるんつるんの桃のはずが どこだ、どこにあるのだ!?
いやーん、やっぱり裏側ですかあ?
「にー ぎゃー」
「どうかした? そこで覗き込んでも… 引っ繰り返そうか?」
「にゃにゃっちゃー!」
ぶすっ!
「……!」
まぐろ びちびち びっちびち〜 大変なびちびちです。しかし、それを猫は予測していた! 突き刺したら猫手にぎにぎで程よく破砕。そして、離脱!
とすっ。
飛び乗れば、更なる安全を求めて自動離脱が開始される。
うむ、素晴らしい。全自動は素晴らしい! そして確実に破砕する猫手にぎにぎ! ……人体のそんしょーりつの高さと治り具合は無視、確実に仕留めるのが正しいのです!
あ、やだなぁ。爪の先がイロづいちゃったよ。
「キュッ」
「にゃんっ」
はーい、ありがとな〜。
只今、移動してます俺の安全領域は〜 通常装備は当然のこと、機動性に富み、数種類の救援・救難信号を行う伝達は元より、非常事態には自己判断で容赦なく赤の波動砲をぶっ放す生ける戦艦、黒のアーティス号なのです!
呼び出しに嫌な顔一つしない俺の専用機でーす。しかし、水陸両用かどーかは確認してないのでわかりませーん。小川程度なら問題ないと思いますが、基本が陸戦だから戦艦ゆったら違うか〜。
「ク?」
「うにゃ」
ま、ちび猫の大事な移動要塞なのです! なーんて、かっこよく言ってみたかっただ〜け〜。アーティスを物扱いするなんてとんでもない、そんな扱い致しません。んねー。
「にー、にゃにうにゃうー」
黒の毛並みに猫スリスリして、方向転換を要請。三匹目のまぐろの方に移動を頼む。
「それで… 終わったのか?」
「お前がしたのか?」
二つの声に猫耳ピクピク。しかし、足は気にしません。これっぽっちもしないのです。無視はやめなさいと思うのですが、アーティスに言ってる訳でなし。そして、足を止めさせるに至らない彼らにもナニか問題があるのではないかと思ってみたりぃ〜。
「キュッ」
「にあーん」
任務遂行、ありがとう。それでこそ、俺のアーティス号だ!
止まった所で一人を見ます。
もう一人も見ます。
それから周りを見まして、誰も何も言わないので視線を戻します。元金魚ちゃんもムシられさんも、落ち着いた雰囲気に疑いの眼差し。双方ともに同じ顔。うや〜、ちょいと度合いが違うかな?
しかし、まぐろが一匹残ってる。まぐろは他の部屋にもいるのです。今日中に終わらせたいので無視しましょう。それではベッドに向かってぇ〜 そーれ、上手に着地です〜。
「にー」
尻尾ぴーんのご機嫌さーん。
「聞けよ」
「にゃあー?」
煩いなと思って振り向けば、元金魚ちゃんがごっつい顔してた。ボルテージが上がってボルケーノにでもなりそうなんで、尻尾を体にくるんと回してお座りしてみた。
「俺は… 音を聞いた。ナンかのたっかい音が響いたら、俺のどっかがぶち壊れてった。次に響いた音が俺を俺に戻してた… 頭ん中でごちゃごちゃしてたもんがスッキリしてるが、ナニがスッキリしたのか… 俺の中でざわつくもんがある」
理性を取り戻したんなら、それで良かったじゃないですか。時間が経てば落ち着くんじゃない?
「さっき、その爪でやってたな… それでぶち壊れたのか? それが壊したのか?」
「なぁ〜」
「俺は呪われてたのか? 何で猫に呪われる? いや、それよりもだ! なんで、俺は… 俺は… お、まえ に !」
元金魚ちゃん、ぶるぶるぶるぶる震え出す。
「か、いほうされたんだろ!? 俺はもう違うはずだ… 外れたんだ! なのに、なんでだ!!」
は? いや、だから何が?
「覚えているぞ… 猫が、お前だ! お前が俺を嬲り続けて… 必死で逃げた俺を、その爪で追いかけて!」
いにゃん、あの時の事でしたら俺も必死でしたから。気にしちゃダメですよ。
「黒の金色に見張られていた… 底なしに沈んで 沈み続ける恐怖に必死で浮かべば、俺らを見ていた ずっと、ずっと… 違う、俺は俺だ。俺が俺だ! 夢… 夢じゃない、いやあれは夢だ! あったコトは 違う、終わって 違う! お、れ はあ!」
元金魚ちゃん、ぶるぶるしながら葛藤してます。ん? 葛藤とゆーより自問自答? ま〜 どっちにしても、あれですかね? ぴーえす あれ? ぴーじー ん〜? 後遺症的なの、四文字略語でなんてゆーたっけかな〜? 心的がいしょ〜
「なんで俺は猫に膝をつこーとしてんだよ!」
元気そうだから、よくね?
元金魚ちゃんをポイしてムシられさんに視線を移すと、変わんない冷静な目でこっち見てた。
…うん、その目。覚えてる。
初めて会った時、そんな感じの目で俺を見てシカトした。そんで、ほーんの少し笑った。どっちか微妙な、あの笑い。まぁ、あっちだと思ったけどね。
覚えてるよ?
アンタ、俺を助けようとはしなかった。
「お前はナンだ?」
見てわからんの?
「あんなモノを維持できる時点で猫じゃねえ」
あ? あ〜、まいるーむまだキラッてたのね〜。
「…お前が」
うわ、こんなラブリーキャットに凄むなんて失礼な!
「さっき咥えてったのはレジーナだろ。アレで生きてるってのか? 嘘だろ、あ? どうしてヤッたよ? ご機嫌でも損ねたか」
うっわ、より嫌な言い方すんな〜。そんなの俺は存じませんよ。
返事のしよーがないので猫は黙って見ています。いえ、最後までご意見を聞いているのでーす。
真っ直ぐに見てくる目。
強い目だけど、そんなもんは右左。ついでゆーなら、一人は下を向いて未だにブツブツブツブツ言っております。右も左も嫌ですねえ。
「要するに、俺はお貴族様の使役獣にやられたってコトか」
癇に障る言い方に、じーっと見ます。
「ああ、使役獣と呼ばれるのは気に入らないか。なら、契約獣に言い換えようか。怖いねぇ、やめてくれよ」
笑う口調と口元と。
媚びるとゆーよか嫌味風、目は笑ってない。そんで周囲を見回す感じで、セイルさんに流し目してえ〜。
…まぁ、そーゆー風になるわな。セイルさんがボスで間違いないし。
それから黙って片腕出して、グーにしたら顔の前へと横倒し。袖を引いたら、赤い輪っかがこんにちは。腕をぐるりと回って綺麗ですネ。 …って、なんでこの人またなってんの? 痛いのが好きなMの人なん?
「弱肉強食と言われるとどうしようもないが、理屈を無視れる力ってのは強えなあ? そりゃー心惹かれるし、群がるわ。だけどよ、それに反発する奴だっているんだよ。いるから、生きてきてんだよ! それを力で抑えられて嬉しい訳がねーだろが!」
…はぁ?
「それで這い上がってきた俺に従属しろだあ? てめぇで動く都合の良い使いっ走りが欲しいってか? そりゃあ、タダで扱き使うならその方が楽でイイだろうけどよ!」
やめれ。
ちび猫、怒鳴り声は嫌いです。
「お前に盗まれた。盗まれて黙る筋はねえ」
それは否定しない。
「お前に潰された、全部潰れた。俺から全て取り上げて、それでもまだ足りないと」
……そんなつもりはありません。大体、俺はやってない。
「契約獣は嬲りが好きか」
………でも、そーですね。無理やりを喜ぶMでないなら今の状況嬉しくないね。なら、まーた面白い感じでムシムシしてあげないと〜 なんて本気で思うと思ってんの? いやん、この人ばかじゃねー? 嬲りがとかゆーてる時点で〜 わらうわ〜。
あなたの うーでに ある 赤はぁ〜 とっても綺麗な その赤は〜 ク〜ロさんがー してくれたー 俺へのあーかしなんですがあ?
新しくできたんなら、それなりの理由があるでしょーが。わかってます? それ、俺を守ろうとしたからできたんですよ? そこを理解しろよ。仮釈放は放免でも恩赦でもないっての。アナタ、ロイズさんとは比べ物にならない悪質さでしたよ?
クロさんの愛情の証にナンの問題が? ないでしょー?
頭の巡りも悪くなさそーな、できるだろう冒険者なお人が馬鹿正直にそーゆー事を言うなんてねー。狙い目があるんですかね? …買い被り過ぎ?
「凛々しさが増すと置物なのか」
「…なぁ!?」
ラブリーが消えただと!?
心に鋭く突き刺さる一言に猫背がピン! 恐怖にすっ飛ぶところに、猫ボディが浮いた。くるっと向きが変わると突っ張った手が上着さんにタッチ。
ガシッと掴む。
「にににっ にっぎゃーあ!?」
「は? 格好良いと言ったのだけど」
子猫からラブリーが消えたら偏屈っぽいだろが! 重大な問題だぞ!
「うーん、その顔かわいー」
「…にゃふ?」
「可愛い」
「……にゃふふふ。にゃっふ〜」
そうか、ギャップ萌えか! にゃーははは!
「で、お貴族様は俺をどうしたいよ? レジーナからの落としは不発だぜ」
「そうだな、どうしようか」
あ〜、背中なでが気持ちいー。しかし、ちゃんと聞いてます。そして、ちょいちょいして意思表示。
「に?」
「ん? ああ、君が行ってる間に約の確認をしてた」
「うにゃがあー!」
「え?」
身に刻まれた誓約の展開があったとゆーのですか! いにゃー、見損ねたあ〜。
「まぁまぁ。で、誓約の履行を求めた先の言葉は有効であるが絶対からは遠い。刻みはあれど引きもある。妥当な線を取っているから腕は悪くない」
うーむ、やっぱりできる冒険者か。
「赤の絡みは君の領域だけどね」
「値踏みは良いが俺は巻き込まれだ。このクソ煩い誓約こそが俺の無実を示している。ちゃんと読めたろう!? 俺はあんたらと事を構えようと思っちゃいない、そんな仕事は引き受けてない。そして、仕えろと引き摺られる筋もない!」
怒鳴り声にビクッと反応した俺の背中を手が撫でる。なでなでなでは〜 ゆっくりさーんの優しささーん。
「だ、そうですよ。兄上」
「その顔で俺に振ってもな」
含み笑いで返したセイルさんに皆の視線は移動したが、猫の耳は確かに捉えた。小さな声で「つか、える」と言いました。
下を向いてる元金魚ちゃん。
自問自答の肯定と否定を繰り返して、「水が」とか「いた奴らが」とか「夢だ」とかぐるぐる状態だったのが、「お仕え、お仕え…」に変わりました。
「仕えるとは… みずか、ら こう どうを 」
挙動不振といーますより、のーみそ大丈夫でしょうか?
「ハージェスト、どう見た」
「…引き受けた仕事を遂行し、同行させる事で経験を積ませようとした。ごく当たり前の事で、遊びか気晴らしと考えれば良質な部類なのでしょう」
「そう、一面であろうとそれは酌みして良いものだ」
「ええ、そうです。その通りですが、それで殺されて良いとする事にはならない。お前が殺そうとした事実は消えない」
「…殺す? ナンの事だ?」
「聞いているぞ、お前の三人が街中で風を使って嬲ろうとした事を。それを後から知った俺の感情は、今のお前の感情に引けは取らん」
俺をちょいと抱き直してのアピールに、顔を上げて「にあん」です。それから、牙を剥いての鬼猫降臨!
「しゃあー! ぐにゃあー!」
殺猫を黙認しときながら覚えてねーのか、てめー!と怒っといた。そんな許可は誰にもねー!とも叫んどいた。
それにしても、腕の中から睨み付けるのってイイですね。下に向かって怒鳴る体勢もサイコー。やっぱ、上からですよ。
「…そうか、本当に報復の報復な訳だ。街中での行使は謝罪する。しかし、周囲に人影は無かったはず。その確認だけは怠るなと厳しく教えた! それに契約獣とは知らなかった。それと示す物もないのに、後からそうだと言うのは卑怯だ! そちらにも非はある」
「安全な街中でも行使に対する注意を怠るなと」
「害獣に使う者はいるはずだ」
「この姿が害獣であると」
「誰にも間違いはある。飢えと貧しさは肉を肉としか見ない事がある」
「今でない事を語るな。それに我が家への嫌味は忘れぬか」
「そんなつもりはない。俺は嘘はついていない」
「嘘を? 名を使い分けるを嘘ではないと」
「身の安全を怠る気はない」
「お前と同じ状況下でなければ許さないと」
「契約はわかる! だが、お貴族様は人より獣の方が大事なのか!」
「あ? お前などより余程可愛くて大事に決まっている」
「そっちこそ、わかっていて人の話をズラすなよ! 俺の価値は、その獣以下か!」
「価値を認められなければ、価値はないと」
「それは俺らの立場だ!」
「お前の人格形成に関わった事などない」
俺を抱く腕は安定しているが現実は厳しい。それにこれは分が悪いだろ、何をゆーても猫ですから。猫は人じゃない、同列にはならない。
猫だと俺は人に劣る。
しかし、猫だと人にできない破砕ができる! 人の俺に猫爪がない以上、選べない矛と盾。ラブリーとハンサムに優劣はつかないのだな…
ああ、でも。
なんで俺は猫なんだろう?
うう、猫である事が悪いとゆー訳ではないのに… うわぁあああ! ちび猫、悲しくなってきたあー。
「死にたくはない… しかし、それを盾に縋れと言い、仕えろとするは「があああ!」
ドンッ!
「ぐあっ!」
突然の事でございました。
プライド高そーなムシられさんを元金魚ちゃんが襲いまして。後ろ手の頭下げで肩から力強くドンですよ。至近距離なんで、そう威力はないと… 壁ドンなら良かったんかなー? にゃははは。 ってか、頭打ってないよね? ね?
「やめんか!」
倒れたムシられさんに乗り上げ、体を揺らす元金魚ちゃん。気分は両手でフルボッコ。しかし、縛られできません。だから、「うがー!」と大声あげて暴れ出して〜。
止めに入るギルツさんが、とてもご うにゃ? きららららん?
ヒュンッ
見上げると同時に、黒の弾丸が瞬間の光を撒き散らして三匹目のまぐろちゃんに突っ込んでった。
バッ!
勢いよく跳ね起きる。
なんでか手首の縄がぽろんちょしたら、皆さんの間に突進です。あっ!ギルツさん、逃げてー。オーリンさん、そこー!
「うにゃー」
さすが、お二人は判断力が違います。元金魚ちゃんがゲシッと尻を蹴られて蹴り出され、すんげー顔のまぐろちゃんがムシられさんの喉元をひっ掴み〜〜 無理やり立たせて、うげっぱさせてる。
「ジャスパー… お前、何時からそんな偉そうな態度が取れる様になった? ああっ!?」
「そ、の声は!」
ドスの効いた、ひっくい声。
背景にゴゴゴと効果音が聞こえます。ムシられさん改め、ジャスパーさんに対する暴力沙汰が起きそうです。
ダンッ!
いや、もう起こってる。いや、ちが。 あれ? ちが??
「ぐあ! は、なしやが れ!」
「よくも我らが主様のお心を… 同じ痛みを味わわせてやりたいが、せめてもの情け。体の痛みで理解しろ」
うわ、体育会系。
体でわかれのきょーいく的しどーは良くないとゆーのがですね…
「! いぃい!」
いっにゃーーあ!! 金魚ちゃん、あなたどこをムギュッとしてんのぉおお!! そのきゅーしょ攻撃はしちゃだめえ! いや、俺もさっき近くて違うトコをにぎにぎしてりゅーけつ沙汰したけどぉおお!
だだだだ… だから、それはおやめなさい!
「実に的確で良し」
はい?
認可したのは、その1です。ええ、うちの1ですから。
言葉遊びに文字遊び、漢字の遊びは『字面で読む』の札を突っ込んで〜 ぐるぐるぐるぐるカルタ混ぜ〜。にゃははーん。
では、本日の問題。
一、本話中にある仏語と伊語はどれとどれでしょう。
二、その二単語を正しく説明されたし。
三、この伊語を仏語で言うと何になるでしょー。
三につきましては、一度は聞いたことがあると思いますので。
本文の余韻を引く遊びの方が良いと思ってはいるのですが、つい たはー。