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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
173/239

173 それは、やめなさい




 ……ごめ、金魚ちゃ。まだ床に転がってたんだ。


 主導権争い大変だったん? 座って、「ふぅ」な姿に疲れを感じるよ。直ぐに「大丈夫?」って気付てあげられる優しさが出てこなくて、ほんとごめん。それにしても女の人の色っぽい起き方も、姿が変わると… 変わると、ほんとーに異形のよーな… あいた、言い過ぎを反省。



 そんで、一方のムシられさんは沈思黙考始めます。沈思とゆーより、疑惑黙考っぽいですね。目は閉じませんし、ぐるぐる周囲も見ているし。ですが疑問が睨みを落ち着かせ、黙考は呼吸を落ち着かせる… 良かった、どっちも落ち着けそう。



 「……器だぁ? ……んな訳あるか。こんな田舎に人を寄越しておいて、てめぇの器があるはずねぇ。だけどよ、お前に渡りができるとは聞いてねえし、できるとも思えねえ。どんな仕掛けだ」

 「渡りができぬ? ふん、己の手の内を全て晒してみせる馬鹿はおらぬわ」



 カーン!

 

 口調は悪いままでも声のトーンは落ちたから、ホッとしたのですが… 今度は冷静な喧嘩のゴングが鳴ったよーです。金魚ちゃんのばーか、ばーか発言が良い音を鳴らしましたあー。


 これから始まる口喧嘩… いえ、口論……  いいえ、きっと口頭弁論なのでしょう! だぁ〜って、ここに猫が居るんです。そーでなくては困ります〜。 


 それでは、高等なる弁論小会を始めて下さい。それに対して猫が下す判決をお楽しみにぃ〜〜 にゃっはーあ。



 腕にピタッと擦寄って怖さを誤摩化すが、激論にならねーと良いと願ってる… 



 「……はぁあ〜? 手の内を晒すも何もお前の得手は知っている。どれだけ冷静にやってもだ、渡りみてーな繊細な上にも繊細さが求められるよ〜うなもんをお前にできる訳がない。隠し玉にも景気がいいもんを選ぶよーな奴があんな繊細な術式を選ぶかってんだ」

 「……何を言う?」


 「け、それなりの付き合いで上っ面を信じ続ける馬鹿はいねーな」


 わっるい顔していーました。

 対する金魚ちゃん、こっちもすっごい笑みで返します。


 「上っ面とは何かしら? 依頼も融通も互いにそれなりにしてきたものを」

 「応ともよ! それがコレとはどーいうこった!!  ああっ!?」


 はい、此処で全部やり直し。

 最初に戻ってやり直し。目付きも怒声も倍増で、ちび猫ぶるぶるしてしまう…


 しかし、突き出した腕に何か浮かんでおりますが…  アレだったら金魚ちゃん達が綺麗に…  金魚ちゃん達が…   金魚ちゃん〜?



 ムシられさんの怒声はまだまだ続きます。こんな大声、絶対外に筒抜けですよ。


 詰るお声はやみません。


 両者の関係は縦ではなく横のよーです。でも、下請けさんなら強制的に縦になるんじゃないでしょか? 組織と個人業者ですからねぇ…  うーん、うーん。




 二者の間の貸しと借り。

 帳消ししても不足が出たよ。


 『じゃあ、足りない分でコレお願いね』

 『あー、それだと割に合わねーわ。金で払う』


 こーゆー文言から始まったらしい交渉は、駆け引きと持ち上げと今後の融通を伴って成立したよーだ。よーするに、世知辛い世の中を世知辛くないよーに渡ろうとしたので金魚ちゃんの依頼を引き受けた。


 


 「こっちの様子は聞いてた話とどこか違う。俺は運ぶだけのガキの使いじゃねえんだよ。それでやってきたからな。おかしいと思やぁ、立ち止まって確認の一つもとって考えらぁ。その間に掻っ攫いは出るわ、繋ぎの奴らと連絡は取れなくなるわ! 足を掴ませねぇ為の捨て駒か、嵌められたかと思うのが当たり前だろが!! 挙げ句の果てに、俺は手駒を失ったんだぞ! それなりに使えるようになってたもんを!」



 ええと… 依頼内容と違うゆーのは詐欺ですか? 日が経って現場の状況が変わった場合も詐欺ですか? ってか、手駒って。 手駒って  あなたの手駒は   ふ、ふ、ふたぁーり潰れたよ〜うな話を聞ぃ 聞いたよーな…   あの、おひとり残ってた  んじゃ あ〜〜    嫌だ、考えたくない。



 「あらぁ… あの三人を失ったの? まーぁあ、なんてこと。 可哀想に。 まだまだ可愛い年頃で、これからの子達だったのに…  まぁあ〜」


 そっと顔に手をやって、目を伏せる金魚ちゃん。金魚ちゃんも三人を知ってるんだとわかると心がすこーし下を向く。向くと同時に、どっかがなんでかホッとする。


 ホッとした時点で何にホッとしたのか、わかりません。



 『結構あがったか。うん、今なら見えないかな?』


 袖にすこーし爪立てて、うにゃ押ししてたら耳打ちされた。



 言うコトには、金魚ちゃんの感情が更に見易くさせてるらしい。『渡りと言うは、言い得て妙だね』と薄く笑いを含んだ声が耳を擽る。


 金魚ちゃんは黒い衣装に身を包み、黒い手袋してるそう。黒の靴履いて、長い黒髪流してて。薄紅を引いた唇に、胸元には硬質な光りがあるそうな。


 全身を黒で固めた金魚ちゃん。


 聞いて想像してみるけれど、人の姿はぼんやりで。当然、顔は出てこない。知らないし。



 でも、なんででしょうね?


 猫の目には見えません。男の人の姿に薄く重なるよーに浮かんで見えるとゆー女性の姿は見えません。見えても幽霊ですけどねー。ご本人が生きてるっちゅーのを無視する感じでアレですが…  うーんうーん、うーーーん…


 「それで、どうして失う事に?」

 「アレにナニ仕込んでやがったよ」


 「何とは?」

 「どこと敵対してやがった!」


 「何を言っているのやら。契約を定めた時に説明した通り」

 「嘘吐けぇ! それなら、どーしてアレを目掛けて盗りに来る!? 何の益があってあんなもんを使役獣が盗っていく!」


 意識を戻すと大声にぶるってしまいます。ですが、ちび猫急速硬直しますです。



 「仕込むも何も…  あれは魔具、それだけよ。慎重な取り扱いを要したから措置を講じた。講じた物にどうして使役獣が寄ると言う?」


 猫は使役されません。

 ラブリーさが無敵な一般キャットですしぃ〜。  え、でも箱に罠とかあったっけ?  …もしや、爪?

 

 「は! 本当は手ぇ抜いたんじゃねえのか? アレ以外に被害がないのは、どーいうこった?」

 「何度も狙われたと?」


 いえ、あんなん一度で十分です。


 「そんな事があって堪るか!」

 「では、盗られた所を見ていたと?」


 そんな怖い、猫スキルを駆使して当然です! ちび猫、にゃんぐるみ着てる人なだけですから。のーみそ人並み回りますから〜。



 猫目をくるりんさせながら、ちょいと上を見ますと目が合います。とってもとっても良いお顔。しかし、自分グッジョブ!と言えない微妙さ加減…



 ちょ〜〜っと気持ちが落ち着かないので、腕からよいしょっ。


 静かに着地。

 尻尾を振りつつ、右左。範囲は五歩まで右左。うろうろうろうろ右左。しても、弁論小会終わりません。言い分とゆー投下燃料ある内は絶対終わりそうにありません。


 「……そんな言い方されてもね? こっちも名前を出す以上、手は抜かないわ。 ふぅん、そう。 つまり、あなたともあろう者が強盗に行き当たったと?」

 「強盗か、そうとも言うわなぁ」


 ………強盗だと? ふざけるでない! 俺はスマートな怪盗にゃんこだ! 大体、あの時の俺の気持ちを考えろ! 人が認めても、にゃんこは認めない! 認めてなるか、いにゃっしゃー!



 「……依頼中の事故はある事だわ。それはとても不幸な事故。だけど、それを回避する為に人選を行った。そして手筈を整えた。その上でこちらの責と? あなたの不注意から起きた責を負えと? 誰がそんな言い分を聞くと言うの。こちらの責と言うのなら、事故そのものを疑うわ」

 「俺はお前を疑っている。追ったが故に呪われた。アレを追い、使役獣を追い、目処が立った所に罠を張っていやがった!」


 ちび猫、しびびん! 硬直お座り!


 「うちのが用心を怠った馬鹿であったとしても! 使役獣が釣りだとしか思えねえ!! 俺の力を喰らいながら全身に回る、あの呪い! あんなもん、罠でなくてなんだってんだ! 解除に潰して失った、この事実に笑うのはどいつだ? ああ?」


 こーちょくが〜 とけません〜


 「潰しても役に立たずに意味なく終わったがなぁ」


 うぎゃ! 矢印が全部こっち向いてるぅううう!!


 

 「……まぁあ、あなた呪われたの?」


 金魚ちゃんの尻上がりな声が… 冷や汗だらりの心臓ばくばく… 見つめる床こそ、お友達。なんも聞きたくない……


 「まぁまぁまぁまぁ、どんな形で受けたのかしら?」


 なんか楽しそうね。声がすんごく生き生きしてるね。




 「キュッ」


 頭を小突かれ、うにゃっ?とね。

 

 見上げた黒いのは鼻でした。ずいっと近寄るお目々は、きーらりん。盾になれそな黒の体に飛び付こうとして、ストップ。のーみそ、くるりんくんくるくるくる。


 アーティスの目を見て、あっち見て。目を見て、あれあれあれ止めてきて〜。


 「…クゥ?」


 あれ、止めてきて〜。やめさせて〜。ちび猫、聞きたくないのです〜。大きいお声が怖くて心臓どんどん叩いて辛いのねー。


 「キュッ」


 スタスタ歩いて行きました。



 『ん? アーティス、待て』


 ……いやぁあああ、セイルさんに引っ掛かったああああ!! アーティスの頭に手を置いて押えちゃったぁああ!!


 あー、目が無理って言ってるー!! そら、無理だろーーー!



 『セイルさん、ひどいー!』と叫ぶ事もできずにおりますが、泣きそうです。座ってられずに、ごめん寝姿勢で頭をこっつん。


 「あら、話してくれないの? でも、それで器にしたって事でしょう? あなたの用心不足が招いただけ。  でも、そうね。 ふふ。 それなら、一つ差し上げましょう。 


 …わたしを器にしたのは誰でしょう? それは愛しいあなたでしょう。優しいあなたの、その愛が、わたし「馬鹿げた口調でふざけた歌を歌うんじゃねえ!」


 金魚ちゃんが歌い出したのを遮った。

 すんげー目をして遮った。


 でも金魚ちゃん、へーき。鼻で笑ってへーきです。


 「まぁ、怖いこと。哀切を歌うに巫山戯ただなんて。情緒から遠い男なんて詰まらないものよ? でも、聞いて痛かった訳ね。 痛かったからやめろと耳を塞ぐのね。ふん、これだから。何時まで人を罵って自分を誤摩化す子供でいるのやら」

 「あ? お前が哀切を語るな、汚れるだろが」


 のーみそに響く二人の討議は道義に反しているのか、いないのか。 …あああ、ごめん寝じゃなくて耳だ。猫耳を押えるんだー。



 「はいはい、大変だったわね。誰かの使役獣に盗られて追って罠に掛かって大事な子達を失ったのはわかりました。ええ、悔やむなら好きなだけ悔やめば良いわ。止めはしない。でも、私にはどうしようもない。事実、何もできない。  で、魔具はどうなって?」

 「アレはなんだ?」


 「契約時に説明したわ」

 「お前の誤摩化しは騙しだぜ」


 「騙し? 口の悪い、自分の手に負えなかったら他人の所為? 何時も通りに説明し、何時も通りに了承した。それで約は成立した。双方が共に笑っ(含め)て成立した。そこに問題があるとすれば何かしら? 答えて」




 うにゅ?


 話し声が途切れたので、猫手をずらし、そろっと見上げます。そこに変色したナニかを…  ええ、そら恐ろしい空気圧をみたのです。見えないものをみたのです! みぎゃーー!



 「じゃあよ。その約が、何で、この腕に、刻まれてるよ?」


 口調と目付きと態度が普通に怖いです。グレードアップが半端ないー! いにゃー!


 「確かに何時も通りに約を交わし、手を打った。打って約を作ったが、うざってぇもんを誰が身に刻み続けたいよ? あ? それが勝手に消えやがった、それも手順を追わずにぶちぎれた。だから、俺はお前が死んだと判断した。やべぇもんに手ぇ出して、俺より先にイきやがったと大嗤いしてやったってぇのに! 何で、これが、勝手に、できてんよ」


 「私が生きているからよ」



 金魚ちゃん、そこで胸張って言わないの。


 金魚ちゃんは仮死からの生還じゃないでしょー? 生還とは言わないでしょー? 特例っちゅーよりルール違反な方だって。


 「へえぇええ、そらまた随分と間の開いたこったなぁ。で、なんでこんなトコにいんだよ? お前が此処でそうやって、平然と居るのが一番疑わしいんだよ! どこに向けての演技か言いやがれ!!」



 ちび猫、再び沈みます。

 

 上で飛び交う砲弾は、止むまで伏せて逃げるのです! もう、こっから出たいー! 尻尾ぴたんぴたんしても金魚ちゃん気付かないしー!!



 ダンッ!


 うぎゃっ! 「うっ!」


 怒りが頂点に達して床を蹴られたのですが、そしたら今度は体力切れでご本人がふらあ〜〜っと。


 牢番さんのお蔭で転けません。至近距離であんな怒鳴り声を聞き続けるだなんて… 仕事でも俺には耐えられない… お疲れ様です。



 「すまねぇ、下に 頼む。 座らせてくれ、ナンもできやしねえ」


 片腕を取られたまま床に腰を下ろします。片手で目元を覆われますが、口元ギリギリしてますよ…


 大変、静かになりました。誰も動こうとは致しません。まぁね、自白みたいなもんだから。待ってたら、もっと話しそうな感じだし。それで聞けるなら待つのが正解ですもんねー、はぁあ〜。


 金魚ちゃん達はアレで話を通しているが、こっちもアレがあれだとわかってる。そっかー、アレは金魚ちゃん達の持ち物だったのかー。そっかー、黒幕をぺろんと剥いだら金魚がいたのか。他に幕はあるんかな?


 わかった以上、アレの用途もそうだけど… 金魚ちゃん達と話をするべきなんでしょか?



 たーましいの〜 きんぎょっ とっ はーなしを〜 してさー。どーこの〜どーなたで なーにしてたぁ〜?



 聞いてどーすんの? 供養塔とかいりますか? 供養するナカミは常にココにおりまして、どこにも回遊しませんが。


 聞いたら、ご親戚とかお話回りにいくんすか? 痛い現実、世間に大いに広げるん? どーやって金魚になったか知らんけどー 金魚にする方法も知らんけどー なったと話して終われんの?


 赤い金魚は黒い金魚になりますが黒が赤にはなりません。今頃、体はどうなって?



 金魚ちゃん。

 俺が貰った金魚ちゃん。


 プール水槽で芸をして、後に先にとついて回った金魚達。懐いた事が嬉しくて「俺の金魚!」と喜んだ。



 それが口を開くと、こんなんですよ。


 生まれてほやほやなんですが、これは転生言いません。金魚転生、違います。あの人のお裁きを待つとかでもないし… クロさんは偶然ではないとチェシャ猫したが… それは行動の所為でしょか?


 なら、チェシャと笑った猫の天罰。いや、天罰を下したとは言わんかったはずー。しかしだな… もしや…  もしや、もしやで金魚は功徳を積む状態?



 だーっれかのっ たぁめに、くーどくをつむっ とっ つぅぎぃ〜のからだをー もーらえっるっ か、も、ねーっ♪



 だあー! 撒いてる、撒いてる。俺、完全に撒き餌してるー!!



 「預けし物がどこにあるか? 答えられない、答えない。依頼者に対する不信を述べても、それは紛失を容認する話にはならない。そしてあなたを嵌める為の何かなどない。誓盟を求めるも良いが約が生きる理由を解するが良い。

 

 故に、枷を。


 行うは正当権利の行使にて、不届きに対する制裁に、詐言からの不遜を徴証とし、その身に約せし律に則り、従属を命ず。 私は優しいつもり。 受諾せよ」


 

 ……金魚ちゃん、遠くで何か言ってんの? 言ってるのなら、大きなお声でお願いね。このヒト、眼力すごくてさぁ。俺を見るのに夢中で全く頭に入ってないよ!


 ちび猫、再びのこーちょく状態。


 足を投げ出して座ったムシられさんと猫の視線がばっちりで、合ったが最後、外れません…


 「く、くくくっ」

 「…何がおかしい?」


 見てるだけ。

 目が合ってるだけですが、ムシられさんの目がキラキラと。


 「…ざけるなよ?」


 キラキラ光ってるのは集まってんの? こーゆーの、こーゆーのを〜〜  何てったっけ?  ………前触れ? あれ? やば? やばば?


 「見せる手札は、お前が出したいだけの札だろが。落ちてる札は捨て札か? それとも腕が悪くて落としたか?」


 や、やばばばばっ!  に、逃げねば!!


 「は、落とし札なら黙って拾って捲き上げて引っ括ってやらぁなあ!!」

 「みぃっ!」


 ちび猫、こーちょくがこーちゃくに  ちが、解けませんー!! つか、このヒトまた縛るとかゆーたぁあああ! いにゃーーーー!! ちび猫、ぐるぐるするでしょーー!!






 「ぎゃあ!」


 …あれ? 悲鳴の前に嫌な音がしませんでした? え?  ……うわぁお、ブーツで太腿ぐぅりぐり〜。ヤッてるお人が意外です〜。


 「いぃっ!」

 「黙れ、御前において行使は認めず。また、脅迫も許さず。何より、人を無能に陥れようとする見上げた根性。躾けてやろうか」


 「待て、待ってくれっ! ちが  ぁ、あぐ!」


 オーリンさんの割り込みで視線がぶちっと切れました。切れたら、脱力ぺたんです…  いや、動け。


 「そして、お前もだ。主様主様と言う割りに、怯えておられる事にも気付かない。自己を立てるに仕える心は薄いとみえる。それとも使命と利便を秤に掛けて選んだか。選ぶ余裕で間違えたな」

 

 動け、安全を求めて動くんだ! そーだ、よじ登りの秘技を今こそ行うのだあ〜。えいっ。


 「え? お」


 避難(人体)タワーを登ります。よじよじよじよじ、爪掛けて、爪を立てずに進みます。支柱が伸びてきても止まりません。安全圏を目指すのです。登れるのなら、登れるトコまで(逃げ)るのです!



 登り切ったら、視界が開けた。



 オーリンさんがセイルさん達に頭を下げてた。金魚ちゃんが胸の前で手を組んで、こっち見てた。泣きそうな顔で突っ立ってる。


 「事態の推移に控えるべきとも思いましたが、拝命を第一に」

 「…先見の明が照らすは一つが多い、二つ照らさば薄れもしよう。よく把握に努めた」


 オーリンさん誉められてました。俺としても逃げる隙を作ってくれたので大感謝! なんですが、片手がギュウウッとムシられさんの髪の毛を引っ掴んだ状態ってのは〜 どーなんでしょう?


 太腿に〜 足掛けて〜  立つなと髪の毛、掴んでる〜。ぶちぶち切れたら、冷や汗たらりん。毟られちゃったら痛いです〜。



 「怖かった? ごめんよ、見るモノが多過ぎたのもあるけど… 君の心情(触らないで)を第一に… 頭押えて腕に閉じ込めてたら良かったか」

 「に。うにー」

 

 尻尾バランス取りながら、ナデナデに頭寄せ。そしたら、金魚ちゃんがはらはらと。 …はらはらとお泣きにぃいい!?



 「にゃ! にゃにゃにゃうにー!?」


 は、しまっ! 

 耳元で叫んじまったい!


 「主様のお優しいお心に思い至らぬ自分が情け無く…  ああ、私共へのお言葉も… 優しさからものでしたのに…  何時もの感覚で動いてしまった自分の、この、この、  うううっ」


 泣きからの自分責め… それがまた泣きのサイクルを。


 はらりと零す雫に演技はみえなくて、泣かないで〜と本心から思いますが。がぁ、やっぱり姿に違和感が。いえ、違和感が違和感じゃなくなりつつあるほーが怖いよ〜うなぁ〜 あははん。


 あー、もうどうしよう。 


 は、そうか!

 こんな時こそ、心眼だ!  いや、にゃん眼か? いや、それはどーでもいーんだって。




 金魚ちゃん。

 口にスルッと飛び込んだ。


 俺の可愛い金魚ちゃん。


 人の姿はわからない。でも、わからないままでも知っている。俺は金魚で知っている。形は魚、色は黒。力の光りを散らして泳ぐは、俺の手形を持つ魚。



 できるできるできる。見える見える見える。ヒトの体の中にいてもわかるでしょう。だって、俺の金魚だもの。見えるって。






 「うにゃあん」


 そーれ、金魚の一本釣り〜。ほらほら、こっち。でておいで〜〜 え。




 

 気が付けば、男の人の顔の前。

 金魚ちゃんは出てました。出るのに口は必要ないんか。


 「倒れそうだな」

 「に?」


 金魚ちゃんの離脱後は、前後左右に体が揺れる…


 「お任せを」


 進み出たのは、レオンさん。揺れる体に手を掛けて、首から背中を押えたら、膝から崩れ落ちました。それを上手に転がして、仰向けにしたらズルズル引っ張り終了です。


 大変素早い動作で何の苦もなく、すっごーい。膝ガックンさせた足技、覚えておかねば!



 そんで、金魚ちゃんに「ここにおいで」と言い掛けストップです。周囲の安全確認します。それからタワーをぴょぴょいと飛び降り… いやん、ちょっと落ちかけたじゃないですか。


 はい、今度こそ。



 「にぃ〜〜い」


 肩の上で深い話はできません。行儀も礼儀なってない。それにきっと近過ぎて、耳が痛いと思うんだ。





 床の上で下向く、しょんぼり金魚。


 泣かないの〜っと手を出して、そろっとそろっとぽーんとね。前に突き出さない様に、猫手の甲で上へと飛ばす。お手玉の相手はいないから、今日は金魚風船やりますよー。


 降りてくるのを、もう一度。それ。


 ふよよよ〜〜んと降りてくる。はい、もう一度。


 無重力ではありません。風が吹いてもできません。泳げる金魚が泳がないからできる遊びでございます。楽しい遊びで気持ちをふわんとあげましょう。



 「うなぁ?」


 良かった、少し笑ったね?


 「楽しんでる所にあれだけど、ちょっと聞い「みいっ!」


 しゃがんだ姿に怒ります。ダメダメダメのイヤイヤイヤで首を振って拒否します。床に降りた金魚ちゃんを猫手の間に隠して、顎で蓋して見せません。


 「…取り上げませんが」

 「うみゃう〜(かもーん)



 残念、話は聞きません。金魚を咥えてカーペットを登ります。大丈夫、前の実地訓練効いてます。怪我なんかさせませーん。






 咥えて光りを潜って見えない部屋に入っていった。


 「え、ちょっと。  えー、これで後片付けしろっての? 嘘だろ、そんなのあんまりだって。 …やめてくれよ」


 ぼやいて兄さんを見たが、兄さんより他が問題だった。光りを凝視する顔に、『多少は慣れただろうが? 理解しろ』と手を抜きたくなる。


 「ハージェスト、消えてないぞ」

 「…はい?」


 薄れて消えるはずの光りは消えてない。そして、光りの中の輝く脅しは健在だ。


 「参りますねぇ… お出ましがあるのかな?」

 「趣向が変わったか?」


 「あ、違うか。直ぐに戻ってくるのかな?」


 「が…  ああああっ!」


 期待に声が弾んだが、答える様に上がった悲鳴に嫌になる。


 


 「いいっ!  いいいっ!」

 「手を放せ、見せろ」


 腕を抱えて丸くなる。

 呻いて転がるのを抑え込み、悲鳴を無視して腕を引き摺り出せば、証が浮かんだ部分に赤が這う。

 

 「うわ、待て。何でだ」

 「ほ〜、証に巻き付いた感じだな。広がると思うか?」


 「面倒いから広がらない方で」


 希望を呟くが、ロイズの過程を思い出すと嘆息する。頭を抱える。腹の中でナニ考えた。



 「……猫を見たな。何を思った?」

 「み、た  みたの、は」



 掠れ声が紡ぐ返事に哀れを覚えた。


 「ほ、んとうに! く、らくて なに とは、わからな  あぃ、ぃいいっ!」

 「そうか… まぁ、この現状で当たりを付けないのも馬鹿だしな。しかし、綱渡りをしている自覚はあったんだろ?」


 「し、て いたら ぜんい んを 連れては!」

 「それはそうだ、身軽な方が逃げ切れる」


 「うわああああっ!」


 こっちが終わっていないのに、別のが飛び起きやがる。




 「はあ、はあ、はあ…  ゆ、夢か。  うおっ!? なんだあ!?」


 全員の注視に身を固くして狼狽える。


 「お、おおおお前らなんだ! ここはドコだ!  俺は… あ?」


 記憶の混濁はどうでも、流れは安定したとみた。


 「ギルツ、任せる。黙らせろ」

 「は」


 一人は確実に助かり、一人は確実に助からなかった。


 俺がどうこうした訳ではないが、俺がどうこうと願うしかなさそうだ。責を負うとは、そうしたもの。それを偶に誰かが貴いと言いもする。ま、俺には関係ない。


 あ〜、隣に居てくれるとやる気が上がるのに。




 立ち上がり、仰ぎ見れば道は閉ざされていた。引き蘢ったと考えるとしんどいが、入り口が見える事にホッとする。どれだけ凶悪に輝いてもホッとする。


 君に、繋がる。



 「与えられしは毒か薬か。見方を変えれば、他を弾く強固な盾とも言えましょう。ですが赤の盾の縛りは強過ぎて、泣きが入っておりまして。それに対象者が不明のままでは哀れ過ぎます。罰を理解するのも遅くなります。 …それが狙い目でしたら、申し訳ない。


 場所は牢に属するので正しく。場合も直ぐに躾けるとした点では正しく。只、時が不適かと。これを見て、好い気味だ(ざまぁ!)と笑う事はないでしょう。ないと知れました。


 俺は彼が大事です。あなたと同じく大事です。だから、文句を言います。あなたにも彼にも。彼の先の行動にも言います。


 それ(逃避)は、やめなさいと。


 不要に萎縮させない為に、この者の軽減をあなたに希望します」



 誠意を込めて語るが見上げる光りに変化はない。

 反応がないのは辛い。相手がヒトでない分、ゴリ押しが効かない分、不興の文字がちらつくのが怖い。しかし、段階の引き下げも望めないのはキツい。



 「は、 ぁ〜〜」

 「ん?」


 安堵に弛緩していた。即、謝意を述べる。


 「汲みされし御心に感謝します。優しさを言い含め、仕込みましょう」


 片手を上げて礼式を行う。


 この上なくきっちりと行った俺の背中を見て最低限も汲み取れなかったら、どうしてやろうか?





 へーやに入って金魚ちゃんをぽいっ。床にとぽんっ。


 「ん、もう泣かないのですよ」

 

 ぽこっと顔を出したのを撫でようと猫手を出すが…  つい、「うにゃー!」と叫んで金魚掬いをしそうです。


 「ごめん、話ができないね。でもねぇ、なんて言ったら。金魚ちゃんの気持ちは嬉しい。ほんとだよ? んでもねぇ… ほんとに、なんて言うんだろ…  金魚ちゃん達、生きてたんだね」



 ぱしゃんっ!


 跳ねる金魚は床に沈む。

 数匹がぽこぽこ浮かんできて、金魚ちゃんを取り囲んで、ぱちゃぱちゃするのが心配してる感じ。


 床泳ぎしてるから覗いてたかな?



 「クロさ〜ん」


 呼んでもお姿見えません。

 てててっと籠を回って、ちょいちょいしても変わられないので終了です。モヤモヤは自分で解決しろって事ですね。





 金魚。

 人の世の理から外れた金魚が俺の金魚。


 元は人。

 でも、金魚。魂の金魚。


 赤と黒の真実は黒の指輪を思い出させる。


 理屈は同じ。

 物か人かで気持ちは変わる。そこに自分が加わると、もっと変わる。



 『どうしようもない、何もできない』


 不動の真理に「やめてくれね?」と心が呟く。俺の時も、それで終わったんかと思うとやり切れない。やり切れないと渦を巻く。まーだ巻いてる。生きている者だけに与えられる、乗り越える為の試練を死んだ俺がしているなんてナンの嫌み。


 まぁ、生きてるけどさー。



 …生きてると言うだけで自分の首を絞めている。金魚ちゃん達の現実が俺を試してる。死んで生きてる俺。細かく言えば違っても、分別すれば同じだろ。


 だーかーらー さぁ。



 「死んで生きてる金魚ちゃん。だからこそ、以前が足を引っ張るのはどうかと思うのですよ。線引きはあった。あったから、今がある。  でも、金魚ちゃん達は俺と違って過去に手が届く位置にいるのか…  あ、いや。 人脈もお金もわかります、素敵です。思い出の品もあるんだろうね。それを誰が持っていったか、わかるなんて微妙な感じぃ〜。嫌いな奴に持ってかれたら腹立つねー。


 それでもさ、新しい何かへの待ち時間に過去を引っ張るのは違うと思う。 …違うって事にしといて、でないと俺が馬鹿っぽい」



 物言いた気な金魚ちゃんに鼻でツンして入り口へ。



 ぱしゃん!

 ぱちゃちゃっ!! ばっしゃん!!


 突然の金魚乱舞。

 急速旋回からの床飛び込みは強襲に似てる。


 「ええと… ええと〜 他に話す方法ないか考えてみる。難しい気はするけど。過去を… 聞くのが怖い俺でごめんね」



 じゃぶっ!


 「ひっ!」


 猫鼻掠めて飛ぶのはやめなさい!   …それ(肉食)は、やめなさい!!






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