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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
172/239

172 ちょっと、金魚ちゃん

えー……  度重なる現実に祈りを一つ。 どうか天候が回復しますように。






 魚が飛び込み、意識が戻る。


 理屈の具現化が、更なる見識を深めよと託宣するのに顎が外れそうだ。本気で口が歪みそうになるが、それよりも。何故だ! 何故、今!此処に! セイルジウス様が居られないのだ…! こんな、こんな、こんな! 絶好の機会に!!


 お喜びになられる顔を思い浮かべれば残念でならない。



 括った手足に曲げた体。

 足の縄目に触れる指先。

 解けた縄目に押し付けるは手首の縄。


 解き方に器用さを見た。見れば見るほど、「セイルジウス様、こちらです!」と叫びたい。見れば、それなりに笑われたはず。絶対に機嫌が良くなったと、屈託なく笑われたと思うと… 口惜しい!


 しかし、自分とは違う解き方に感心と得心をした。したが、ぎこちなさの残る動作で何気なしに縄を体の後ろへ回しおいたのには『これは、これは』と呟ける。


 立てば、気配の強さが滲み出す。

 この気配がどちらのものか? そんな事は見ればわかる。



 そうして取った礼の形。


 躊躇わずに取れる礼の滑らかさと形式から浮かんだ可能性は、口と共に雄弁に語る手の動きで確信した。足のない者の足を洗わねばならんのかと思うと増える仕事に嫌気が差す。が、脳裏で弾けるナニかを追わずに後で泣くのも面倒だ。


 算段を立てながら、横目でハージェスト様を伺う。





 男の口が女の声で語り始めた事実に興奮した。経過を具にみていたからこそ、興奮する。声は掠れもせず、最初から滑らかに出た。自信に満ちた声に動作、現れたモノに躊躇いはない。


 『他はどうでも』


 そんな感を強く受けたが、それでは呼ばれた主旨に合わぬと考え直す。嬉しいと見せた満面の笑みに、同じ顔でもナカが違えばこうも違うものかと感心する。だが、自分であったら嫌だと思う。ナカが違うからだと断定した所で、散漫になっている自分に気が付いた。


 『状況下において役目を忘れ、標を失うなど許されぬ!』


 響く自戒に心を引き締め、こそっとハージェスト様を伺う。





 死んだと語る女の興奮に、有力者なれば飛び付く話に、頭の中が持っていかれる。擬きに非ずと高らかに笑う姿に心惹かれるが、死に様の語りを聞くに「正気か? お前」と言いたくなる。幸運の扉は死後にあるか?と問いたいが、あるとしたから言うのだろう。


 あってもなくても逆転に笑う所にヒトを感じる。しかし、殺害状況を思うに好かれて召されたとは到底思えん。それでも、力の魅力は理解する。


 空中で薄く輝く光源にも意識を割きながら全体を注視するが、ハージェスト様に目がいく。





 興奮した男の顔が仕草を伴って女に見え始める、この不思議。視覚以上に聴覚が勝った所為ではないかと思うが… まぁ、同じ仕草なら女の方がと思ってしまうな。

 

 それにしても、死に様が愉快だ。


 愉快過ぎて愚痴を零す同僚の元に叩き込んでやりたい。しかし俺でも気付く符合に、この面子が気付かぬはずもないから任せる。俺の役割ではない。


 呼び出しを含め、媚びる以上は危険は薄いと判断するが…  何かあった場合、俺は護衛対象をどちらに絞れば良いのか? 優先順位は不動であるし、配置的にも拙くはないが…


 この判断が自分の分かれ目だと思うと、ついハージェスト様を伺ってしまう。





 語りを聞くに忌避を感じた。心が強く騒ぐ。


 艶やかな女の声に惹かれる一方で、内容に引く。全力で引く! だが、方々は平然としている。薄く笑う上司は頼れず、何も言えない。言う時でもない。正気を飛ばした罪人を哀れに思ったが、全く違う顔で微笑むのに心が「異端!」を叫んで身構える。


 領主が定まり、王領から外れ、次々と変わり始める領内に、時代の変わり目に立つ自分に幸運を感じていたが…  今、恐怖を感じる自分は弱いのだろうか? これは知識と経験の差か? それとも、見据える心が弱いのか? シューレの変貌を望ましいと喜んだ口で、追いつけない現実には罵りたくなる。



 「にゃあ」


 沈む意識を子猫の声が呼び戻す。


 罪人を見上げる子猫に忌避は感じない、不思議は感じる。それは今日に限った事ではない。此処に基準を置くのなら、弾く理由は… 違和感は…  望まぬ形の、あって欲しいとは願わない… 死の形なのだろう。


 だから、なのだ。

 なのだから、格言(呪文)を唱える。



 『運命の悪戯は、一瞬』

 『一瞬に全てを賭ける』

 『一瞬は、一瞬でしかない』


 『思った時には終わっている』

 『後悔と書くは遅いと読む』

 『鈍臭いのが上がれるか』


 『出世は実力と運とナニかだ!』



 それでも。



 神よ、と。

 遠き神よ、と。



 祈りに縋りたくなる程度にシューレは田舎で王領だ。数年で生まれた心酔は、まだ数年なんだ。探索に度胸は示せても、理から外れる歓喜は上げられない。そんな度胸はない。


 それは度胸ではないんだと、敬虔を言い訳に弟様を見る。この場で全ての責を負う人を見る。


 立ち姿に、感じる年の差に、自分の心が呟くナニか。


 見直す、子猫の姿。




 視線を上げれば罪人と目が合った。



 「痴れ者が… 主様への短慮は許さぬが故、心得よ! 十把一絡げにしても余るものと主様は違われるのだ。質の違いも読めぬ者が無明を頼りに貶めるは、愚の骨頂! まして、力で劣る汝らが主様に対し尊大に振る舞うなど虫唾が走る!!」

 「なん!」


 叱責に慣れた口調に、露な怒り。見下す目。

 貴族に対する条件反射と女の声が心臓を鷲掴みにして、『膝を着け!』と心に警鐘を鳴らし続ける!


 『馬鹿野郎! 着いたら人生、終わりだぞ!!』



 他の貴族のいーなりになるよーな部下がいるかー かー   かー…  



 小さな谺を残して消える自分の声に踏み止まれた。力強く踏み止まれた自分に盛大な拍手を贈ろう! 誰も誉めてはくれないが、誉められる内容でもないのが辛い。



 ……思う。 思う、思う、思う! ものすごく思う! 医者達と一緒に出て行けば良かった! 一緒に出された黒犬の面倒を見ると言って行けば良かった! そうすれば、こんな思いをせずに済んだのに!!


 ……こうなるとは、これっぽっちも考えなかったけどな。本当に、何もかもが遅過ぎて笑うしかない。







 タンッ! 


 タタッ…



 にゃーーーん、ぺぇええっち!



 ぺち!


 「あっ? 主様!?」

 「にゃん! なん!  ななななん!!」


 態度の悪さにアウトです! 俺を持ち上げてんのか、終わらそうとしてんのか? どっちだ、このボケ!と言いたくなるよ〜〜うな態度は頂けません! ご覧なさい、牢番さんが困っているではありませんか!



 「ひっ!」


 ぷりぷりにゃんこは口、への字口! 尻尾ぺしんで床、八つ当たり!

 

 「主様、違いまして。私は」


 ぺしっ!


 「あっ!」


 右に左に床叩き。ですが、尻尾は箒と違います! 箒で床も叩きません! でも、波紋ができないのは残念でーす。



 青褪めて、広げた片手を胸に当て、そろそろと床に膝を着く姿に「ふんっ!」と鼻を鳴らすのですが…  声と姿に慣れません…  ごつい男の姿でぇー 小指の先まで繊細そうな女の人の仕草がぁー。


 消えない違和感、いっにゃ〜〜ん。違う意味で涙が出そう…

 



 「あのさ、わかる事から済ませよう?」


 冷静な声に仰げば、何時の間にか隣にきてた。離れてる約束はどーした?と思うが手が誘うから。


 「にゃん!」


 腕のな〜かに、ぴょいっとね。だぁって、服、腕、ぬくぬく気持ちいー♡   ……上着さん、あなたぬくぬくではなかったのですか? 腹が冷たいではないですか!!


 ……まぁ、上着さんに失礼か。



 「なぁあん」

 「ん? あ〜 最初の疎通と言うものは、みたいな感じで。とりあえず、現状の彼らを優先しよう? ね」



 さらっと流す、この態度…


 「にぃいん」

 「わ」


 体を伸ばして頭突きです。下から顎をぐーりぐり。そんじゃ、この元金魚な人達の容体を聞いてみましょう。




 腕にアズサを抱いて正面から向き合えば、『顎台、欲しー』とか『この格好は〜』とか文句がきた。首だけ向けたら?とも思うが、こんな事は想定内だ! 逆に言うのを待ってた! はーははははは! あ〜、かわい。



 「なぁあん、にゃにゃーん」


 …抱いて感じる暖かさ。そして回転速度が上がる頭。 ……そうだなぁ、これを突き詰めると〜〜      わ・ず・ら・わ・しいな、あの目は。




 「正気を取り戻せば問題なく」

 「にゃあ!」


 「取り戻す方法はございます」

 「に〜〜あ〜〜」


 「少々、思うことはありますが… 役には立ちませぬから捨てるが早うございますね」

 「にあ?」


 「…簡潔に纏めますと落第です」

 「にあー!」


 体を指して捨てろと笑う。ナカは見限れるだけの強者らしい。抱く腕に、僅かに力を込めてアズサを包む。


 薄く、薄く、息をするのと同じ程度の自然さで、柔らかく包み込む。




 ……気付くのは目が良いからか? それとも肉身がないからか? いや、今はあるのか。なら、ナニが違う?



 「なななーあ」

 「私共とは違いがあります。それは明確な違いです。その違いから外れた者は他にもおります。要するに心が弱いのです」


 「…にあ?」

 「体と気力が回復すれば力が体を巡ります。どうあっても現実を直視するのです。そして、この様。 ふ。 己の力に向き合い、術式を覚え、力を振るうようになった。振るう楽しさに極めるとした熱意。覚えて伸びる才能。


 力が伸ばす偏向は、力に食われて終わるのですわ。自身の天秤の偏りに思い至れぬは子供の頭」


 俺を見る目が嫌ったらしいのがナンだなぁ。他の目まで痛く感じるじゃねーか。



 「にゃあ?  にがにー?」

 「それは群れでおりましたから。集団心理の安定が崩れ、個へと負担が移った時に、自我の弱さが露呈した。不幸な事故でも何でもなく、己が怠った証左」


 指摘する女の含み笑いが俺に向かっていると感じるのは妄想か? か〜、この女の雰囲気と性格は掴み取れるな。



 そして、語る可能性。

 しかし、それは手間だと笑う。


 「手間を掛けずとも、良き方々がそこにおられますれば」


 含み笑いに俺の中の合理と相違が、『こいつは好かん!』と声を揃える。



 「最も器としてなら最適です。お手付きですから、その点は何よりも優れております。それでも、この様な低能者は私共も今ひとつ。飼って欲しいとは望みません。使い道がないとは申しませんが… 」

 「手付きとは?」


 俺を見て、じっとりと笑うツラにナカの本性を見たぞ。


 

 体を斜めに、腰に手を当て脇腹へと撫で上げる。艶かしいはずの媚態を喜劇にする才能は認めてやるよ。



 「それこそ、お手ですわ」

 「にゃーーーー!」


 ぱし、ぱし、ぱし、ぺしっ!


 「うわ、ちょっ」

 「にゃがにがにゃーー!」


 猫手と尻尾を振って腕の中で暴れ出す。


 「あたっ!  …わぉ」

 「にぎーーん!」


 服を登って肩で鳴く。


 俺の肩に登って鳴くって、あなた! 鳴き声が耳にくるが肩乗り子猫! 肩に乗って頭と尻尾振って、「みぎゃーっ!」て。


 みぎゃーってぇえ! うわー、夢に見れる可愛さが! 鏡、鏡、鏡で見たい!!



 あ? …何か言いたければ、言え。視線だけなら俺は汲まん。





 「にがー! にゃがー! ふにゃー!」

 「…なにその身悶え? 恥ずかし?」


 「なーー!」 


 心当たりに悶える姿が良いとは初めて知った。なかった事にー!と叫ぶ悶えは逸品だ。





 「御手の証は、御手にて砕けばよろしいかと」

 「…にゃー?」


 「御身の手ですわ、ご覧になればわかりましょう」

 「…なあー」

 




 あああああああああああああ、頑張らねば。意地でも、やらねば!


 下ろして貰って、顔を覗く。この人だけは額にあると言われたら、思い出すのは波乗り金魚。あの金魚の本体さん…


 「その者だけは、まだ使えると思っていましたが… 主様の証に相応しくなく、重みに引き摺られるだけの弱者で終わりましたわね」


 全く残念そうにも聞こえない。ま、集中には邪魔だからポイ。






 

 「にゃん(見えた)!」


 ぶすっ!


 「ぎゃああっ!」



 額にぶっすり、猫爪立てた。やるまえに、「動くなよ〜動くなよ〜動くなよ〜、何をやっても動くなよ〜 俎板の上の金魚ちゃん〜〜」と耳元で言い続け(呪文掛け)といたから、悲鳴を上げても動かなかった。言い含めるって大事ねぇ〜。 …間違ったことは言ってない!



 ガクッと気絶した。


 「…砕けました故、後は己次第。もしも立てぬと言うなら這えば良いのです」


 冷たく聞こえる一言に、うーん。真理っぽいのに、うーん。


 「赤子からのやり直しと気付けば早いでしょう。ですが、今まで生きてきた経験が邪魔をするやもしれません。そうであれば、それだけの話。歩むと開くは非なるもの」


 ……正気に戻す方法がわかったので、よし! よしよし、よーし! 金魚ちゃん、ありがとー。


 「主様のご希望に添えて嬉しく存じます。  …帰還の前に、お願いが。どうぞ、そちらの方とお話をさせて頂きたく」



 



 頭を下げて、俺と向き合う。

 柔らかに見せる目付きに慣れをみた。


 「私共は、偶に下を覗く事が許されます。意味はわかりますでしょう?」

 「わかるもわからぬも言葉足らずに言われてもな」


 共に笑んで探るのは時間の無駄だろうに、形式美を踏襲するのか。


 「では、何故にそこに立たれます?」

 「…そこに?」


 「ええ、私共は存じませぬ。主様の隣に立つあなたを。いえ、貴族家であるは理解してます。困窮してなさそうなことも。ただ、何故、あなたなのだろうと。


 私共は主様にお仕えする、その一点において揺るぎなく。そう、己の存在意義を賭けて揺るぎはしない。揺るぐは自尽に等しき愚かな行い。


 見ていた私共は何故と首を傾げるのです。主様の隣に立つに相応しい力の持ち主とは思えない。力が全てとは言わぬのですが、どう見ても劣っている。劣る者は、力を求めて力に集る。人の性とも言えることを嗤いはしません、それは誰しも一度は通る道なれば。なれど、先ほどの行いは見窄らしい。何を以て主様の隣に当然と立つのか?


 そこな者達がどう言おうと我らは思う。主様に縋るは我らも同じ。だが、有り様は集りに近いと見てしまう。主様と如何なる形で知り合われ、どうして共にあられるか? お尋ね致したく、お答えを」



 着てもいない衣装の裾、持っていもいない物を捌く姿に普段を知る。そこから姿が見えてくる。年上なのは確実だが、どこまで上なのか。言い分に「はい、はい」とは思うが、そこに相応しいかどうかを突っ込んでくる辺りが嫌みだな。


 「に、にあ」


 声に視線を投げて笑い掛け、動かないと手で示す。質問内容が想定と違ってたんだろーな、あの顔は。



 「では、返す。他に術が無い者の忠義が絶対であると俺は知らない。しかし、術を探す為に情報を得たいとするを理解する。そして相応しい云々を語るなら、そちらの方が余程の事よ。名乗りを必要とせぬ者が真を求める、その怪しさよ。()()とでは立ち位置そのものが違っていると、まず気付け」


 「…こちらは死して生きるもの。仕えにあたりて名は有って無きが如し。それでも嘗ての名で良いのなら、我が名はレジーナ。半紋を掲げし場に在りした者。


 もし、主様が金銭にお困りであるとするならば。又、その身の保護を前に立つのであれば。それなら、あなたは必要ない。今までに感謝を述べてもそれ以上は不要と言える。我らにも動かす財はあり、知恵もある」


 「あ?」

 「半紋を掲げる我らに財がないと思うてか? 確かに死したる故に、又、その後の始末を案じれば全ての回収など不可能。なれど、有事の際の隠しは誰しも持つもの。何より粗方の者がこちらにいる。それは盗まれぬと言える。そして肉身を語るなら、使える者はいるのですよ。貸付金もあれば、貸しを返せと迫れる者は幾らでも。貸した側の死で必要がなくなったでは済まさない。返せぬのなら、体で返せと迫りましょうや。


 今の我らから逃れられるとでも? ほほほほ!


 我らは主様を現実に守る手立てを有している。金と安全を差し出すならば、それは不要と返しましょう。あなたは、何を用いて主様の隣に立つと言われるか?」




 ……ちび猫、金魚ちゃんの言い分に目が点です。


 金魚ちゃんてば、お金持ちぃ〜。金魚の〜 隠し財産て〜 玉手箱じゃーないよねぇ〜? 開けたら、白いくーもがもくもくと〜 出てくる出てくる人材が〜 借金塗れで泣いてるヒトが〜 まーっさおなぁ〜 お顔して〜 心臓ドキドキしてますかあ〜?



 「用いて立つ? は、物欲を先に出すか。性格が現れているではないか」

 「安定と安寧は地盤の堅さにあります。その上に立つからこそ、伸びやかにあれるのですよ」



 てゆーか、金魚ちゃんはしりょーです〜。生きるも死ぬもございません。なにをゆーても、俺がゆーのだからしりょーです。


 しりょーの取り立て。

 しりょうじゃないよ、しりょーだよ。


 そうそうそうそう、支払えないなら体で払え。払う体は器です〜。


 器は器は、目の前に〜。

 

 なーかのひーとを黙らせる〜。自分の為の器です〜。そーいや、意識はどーなって? 記憶がないなら、完璧二重人格正解で? ぱし、ぺし、しても記憶が残ってないのなら、ほんとなんにもわかりませーん? いえいえいえいえ、その前に。


 あなた、なぁんて言いました?


 見てました? 見てました? 上から黙って見てましたあああ?   まさかで、お前…   おねえさま、パートツーか?    か・ん・べ・んしろよ、おらぁーーっ!!



 「伸びやかにあれると言うは否定せずも、伸ばす指針は己の意の先とみえるがな? 助言と言おうも見せる先を決めていようが」

 「雨が空から降るを指して、己の意と呼ばわるは片腹痛い。約せし何かもないと言うは、大地に水が沁み込む程に嘘のよう」



 あ〜〜〜、おねえさまとは約束したが…  金魚の全てと約束する? うっわ、そんなめんどくさー。それよか、入り口クローズしたほーが〜 あいた、それ嫌、まじ酷い。生きてるなら気晴らしないと。


 安全と安寧はプール水槽の中にある訳でえ〜 広大な広大な水槽に放っちゃうと〜  あー、その為のにゃん印だとしてもぉ〜〜



 「嘘? 約がないと誰が言う?」

 「ならば、答えられましょう? 約がお有りで良かったですわ。どの様な内容か聞きとうて。   嘘偽りを語る口など、陸に上がった魚と同じに声を失くすがよろしいのでしょう」


 


 あーもー、金魚ちゃんてばお喋り好きね〜。まぁ、女の人だしね〜。って、あれ? なにこの静けさ。


 気付くと大変空気が微妙です。二人の間のどろどろ空気… それを二人が回してる。ぶんぶん回って新陳代謝の促進みたーい。代謝率が高いと台風できたりしますかね? うにゃははは〜。


 金魚ちゃん、すっげぇ生き生きしてんのな〜。その人の顔も違和感ないしー、指ぱっちんまで決まってる〜う。


 ん? ナンか飛んだ?



 「他人の約の形を知りたいと。当たり前に拒否される事を正当化させようとするは見下げた根性よ」

 「あら、提示に圧力でも感じまして?」


 「浅ましいと言っている」

 「手の内を示す事で誠意を見せたに、その言い草は」


 「誠意? あれを誠意と言うは、どの頭だ」

 「誇張など欠片もなく」




 …これ、俺が止めないといけないんじゃね? ……なんで金魚ちゃんはそんなに知りたいん? そーいや、あんまり誉められた口調じゃないですよ? 大体、隣にいる理由に相応しいかどうかなんて〜



 ……あいや、金魚ちゃん。


 もしかして、俺のコト馬鹿にしてね? めっちゃ馬鹿にしてね?? その言い分だと俺の頭をぱっぱらぱーにしてっだろ。




 「…聞きたいと言うなら、まず聞くが」

 「何でしょう」


 「お前、自分がヤッてる所に人を呼んで状況を朗読(実況中継)させる趣味があるのか?」

 「……何を言われる」



 ぶーーーっ! ちょおっ、ヤッてる! ヤッてるって!



 「公開契約ならば構わんさ。間を取り持つ者がいる場合もわかるとも。しかし、そうでないものは秘め事と変わらん。俺は自身に宣して約を話して受け入れられた。それを否するはお前に非ず、晒すを防ぐも義務の内。わかり切った事をぐだぐだと、よっぽど人に見られたい好き者か? 見られて感じる口なのか、あ? まぁ、人の濡れ場を見たい知りたい話せと強請るは好き者だろうが。


 お前の性癖なぞ、どうでも良いが身を晒し媚びるは後がないぞ。 …見せダマもないのは辛かろうがな」

 


 大変、素の出た…  い〜〜い顔して言いました。金魚ちゃんのお顔が変わります。キリキリと吊り上がる目と口に笑顔が溢れる状態異常。


 いにゃん、怖い。


 だから、金魚ちゃん。おねえさま、パートツーは本気で要らないのですよ。



 …………んでもまぁ、言う通りじゃないの? 俺らの場合は、それこそ守秘義務に引っ掛かってあーなったんだからなぁ。 それに。 こいつがあんなツラして話した事を、どーして誰かに話さにゃならん。


 金魚ちゃん達の前で泣いたらヒロインになれそーだけど、そんな遊びは〜〜  希望してない。他人がぐちゃぐちゃ言うこっちゃないっちゅーのを〜 まるーくまるーく金魚ちゃんに理解して貰うのには   あー。



 「下世話で語るに好意を持つはずもなし! なりだけで子供を終えてはいないとみえる」

 「最初っから好意を感じん」


 「ええ、ええ、これだから。だから疑うのですよ。主様、この者は先ほど力を滲ませました。気付かれぬ様に薄い力で、こそこそと。手放さぬ為の狡猾な所業に見えました! まさか主様、断りなく行うを是とされておりますのか!?」



 止めようと思った金魚ちゃんの言葉に俺が止まる。


 「にあ?」

 「はい、ついさっきのことですわ!」


 された覚えもないが…  昨日、あんなコトになったから。なったから。なった時には、どうするゆーたっけ?



 黙って見る。じっと見る。

 猫目できらんと見て差し上げる。


 「誤解です。いえ、力を回したのは事実です。 …あのさ、一緒に取り組むと約束した課題は何時から始まるのでしょう?」

 「…み?」


 「昨日、自習を理解した」

 「に?」


 「君を抱くと自習が進む」

 「…な?」


 「今日も一人で取り組んでました」

 

 きろんと見返す視線に、うにゃーです!

 猫、何も知りません! はい、聞いてないです! やってるなんてわからなかったですよ!  


 「ほら、遊びの内にってやつ」

 

 ……待て、気付かない内にやるだと? 気を逸らした内にブスッとやるのは犬猫注射!


 「君、疲れて倒れるの好き? 風呂場の水浴び気に入った?」


 ………自習を可能とする俺の魔法の本は最高です! 高品質で高価格は当たり前!! その辺の量産型とは違うのだ!


 「なぁあーーん」

 「うん、頑張る。でも、できれば一緒に」


 「なん!」



 あー、そこの金魚ちゃん。もう海草の奥を探検しにいかなくていーからねぇ〜〜。 え、探検じゃなくて縄張り確認?  …あっちゃー、それはしないと拙いかぁ〜。縄張りが縄張りである以上、確認しないとねー。標縄が必要ですかねぇ?


 金魚の海草探検は危険がいっぱい〜  あ、水草の間違い?  探検、冒険、その先に待つものは〜〜



 ダダダンッ  バンッ!


 「どんな楽しい事があると!?」


 うひぃっ!?




 …冒険の扉は三連打で開かれるのか。


 領主様上着を装備したセイルさん、満面の笑みでご登場。いらっしゃいませぇ〜〜。でも、お酒はお出しできませんので悪しからずぅ〜。






 「連絡が来てな。ほ〜う、どれ」


 「してたのか」

 「はい、こそっとしておきました」


 「ぅなー」


 なんてセイルさん想いな…  

 


 安全圏(腕の中)から見ております。


 セイルさんの登場に金魚ちゃんは固まった。直ぐに頭を下げて礼をした。そして打って変わって大人しく、お喋りしなーい。素晴らしい態度の違いです。


 「黒髪の…  ふーん」

 「にゃー?」


 「もしかして見えてない?」

 「にゃ?」


 「兄さんのお蔭の俺が言うのも何だけど、人の姿は見えてない?」

 「……にゃ?」



 見上げたら、猫耳が音を拾う。

 人が言い合う声に、ドアの音? ガチャンでバタンで「お待ちなさい!」です。

 

 セイルさんのご登場で、すこーし開いたままのドア。複数の人の声に足音が近づいてきてるよーな。



 「ガォオオン!」

 「うにゃっ!」


 ドアに首を突っ込んだのはアーティスでした! 吠えて、タタッと目の前に。



 「ゥ〜〜〜〜(も〜〜〜〜)  ガウッ(遅いっ)!」



 ガウ、バウ、盛大に拗ねてます。


 「悪い、アーティス。時間が経ってしまったな」

 「にあーん」


 「ひぃいいい!」 「ひ、あ!」 


 二人でよしよししてたらば、今度は間近で悲鳴が上がって、猫しびびん! 猫の心臓、驚かさないで下さいよ!




 「ま、じゅうが!  くろの まじゅうがおれを  ひっ!  た、 だれ た  けえええっ!!」

 「……静かにおしっ!」

 


 恐ろしい事でございます… 錯乱モードが始まりました。


 男の人の口から二重に飛び出る声と声。本体さんと金魚ちゃんが鬩ぎ合って… ないですね。本体さん、悲鳴あげてひーきゃー言ってるだけで金魚ちゃんのゆーコト聞いてない。

 

 そんで声に反応した方々も悲鳴を上げて、ぎゃーからゴロンゴロンのバタンで落下したりと忙しく。そんな中でも寝てる波乗り金魚の本体さんは余裕だねー。



 「ええぃ、屑めがぐだぐだと… !」


 両手を振り回すので近づけませんが、下半身は金魚ちゃんが完全に押えた模様です。逃げれません。しかし、必死なんで危険です。



 バタンッ!


 結果、バランス崩して顔面から倒れましたあー。


 「ひぃ、ひぃい!」


 「眠っておれぇっ!」

 「ガウッ!」


 動かない足を引き摺って腕で這ってた本体さんは、金魚ちゃんとアーティスの一声で静かになった… 泡吹いて白目剥いてないから〜 大丈夫でしょう! 出てきてるのは金魚ちゃんのでも、きっと問題ないでしょう!


 そして、残る二人はギルツさんとレオンさんに足蹴にされてて終了です。やっと部屋が静かになりました。 あえ? 何か忘れ?





 「…っざけるなぁああ!」

 「だめですぅうう!  もどってくださあーーい!」



 こっちが終わった途端に廊下で声が響きます。



 「どけ!」

 「ならん!」


 猫耳、ぴくびく動きますー! 牢番さん、がんばー!



 「動いちゃいけませーー!」 「そっち抑え、だっ! 下がっていーから!」 「おとな、し  ぶっ!」 「せんせー!!」


 「だ、れが こ、のままで…  そこに 居やがる「無駄に騒ぐな! どうしたと!?」


 廊下で暴れるお人は誰を呼んでいるんでしょう? でも猫、大声怖いです。


 「どうぞ、そのまま動かずに」

 「面白そうだな」


 真顔で正反対なコトを言う大人が二人… 見上げる一人はにっこりしたが、手はアーティスをまだよしよし。俺もして気を落ち着け…  ああ、猫手が頭に届かない〜。

 

 


 「レジーナ、てめぇ生きてやがんのかぁ!!」

 

 牢番さんに片腕を拘束されて入ってきた人は、すんげー形相で「ぜぇはぁ」言ってます。体調よろしくなさそーですが睨んでくるので、猫、尻尾ぶんぶんで飛び出したい衝動に駆られますです!


 牢番さんの目がぎらりん。


 「うあっ!」


 牢番さん、容赦なく腕を捻りました。


 顔が歪んで痛そう。

 可哀想なお人は金魚ちゃん達にむしむしもぐもぐされて悲鳴あげてたヒトでした。道理で怒鳴り声が怖い訳だ…





 んで、金魚ちゃん。

 なんでご指名入ってんの? ちょっと、何をしたのか言ってみなさい。




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