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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
170/239

170 現れたる形が

台風の逆走進路に暑さに参った頭もビックリ、目が点です。皆様、お気を付けて。






 「……兄さん?」


 あ、やばいかな?


 「俺の努力は?」

 「あると思います。いえ、何時も細かく有り難うと」


 「だよね?」

 「もちろんですよ! ですが、大量得点とは物量での押せ押せが一番早いと思います。華麗でインパクトあっても一点は一点な訳だし」


 だぁ、いじけた。


 うっわー、面倒くさい目ぇしてるー。あー、フォロー。フォローですね。早くしないと拗れてまう〜。


 「いやさ… 似てるでやってた訳だから、俺の方が騙されてる確率ってのもある訳ですよね? ほら、体内でこれは一緒って混同  してたら、怖いよーな? ちが、良い意味での混同だ! 違う、言い方がおかしい! えー、自覚のない魔力の把握と同じで体が無害と判断して取り込みオッケー「そりゃ、同質ですから」


 「はい?」


 大変、空虚な声でした。

 そこに輪を掛けて目が遠い。しかし、空間に答えはないぞ。あ、下がった。よし。


 「ええ、無害な程に同じですから俺も取り込みが可能な訳ですよ。あっちは俺と違って、そう簡単に尽きませんし。同じ品質でも器の大きさが全てを定めて逆転など有り得ない。そう、同じであるのなら物量と等しく容量が物を言う。


 だから、俺は  俺は  自分の  自分自身での   行いの上に成り立つ   俺が 


 でも、安全の 不可能を可能にするのは  だから、頼るは恥ではなく 一つの方法なだけで。君の安全に比べたら俺の拘りはちっぽけな  ちっぽけで だから  ああ、駄目だ。間違えた。


 比較とは負担を心に課す前提であるが故に  課すと理解して語る俺は   卑下でもないのに  違う、これは自滅だ。それだけだ。  器が小さい程度の事実が俺の器を更に小さくしていくのが   あー   駄目だ、馬鹿だ。 終わった」



 いきなり派手にばったん、横にごろっと。


 「いや、あの、単に俺は   確認をだね…」


 ごろごろごろっと。

 

 よーそんなに器用に転がってくな、お前。



 「いやだってほら、わからないのは聞かないとわからない訳で。のーみそは追いついてない訳で。わかる奴に教えて貰わないと確証も何も俺には出せ な… 」


 ごろっと顔面下にして審議拒否。


 呼吸拒否ではないよーだが…  うあー、間違えたか。しかし、反省しよーにもどこで間違ったか反省に改善すべき点が見つからない場合は、どうすれば?


 ……あの〜 泣く泣く詐欺ですよね?






 どーしよっかな〜、これ。本気で動かねーえーな〜。


 兄弟で同じでも、別個の人間で、似てるだけでどーいつでないからお前だと、ちゃーんと理解してるのにな。そんなに魔力ってえのは〜〜  認証問題にしてもだな〜  うーん…



 「えー、空気は読めます。タイミングも計れます。時間を置く事も知ってます。しかし、それで結果的に腫れ物扱いとゆーのはぁ〜  えー…  」



 尻窄みになるのは仕方ない。完全に拒否ってやがる。


 「現実が痛いのは知ってますがあ〜〜」


 お前も知ってるだろが? 反応しろよ、でないと俺の立場が〜〜   あ〜〜   俺は部屋から出て行けと追い出したが、実行しないお前は偉いです。偉い偉いと誉めましょか? なんて口にはしませんが。


 自分で決める、それ大事。しかし、肝心な話をしないとゆー高等戦略に見せて自分の殻に閉じ篭る団子虫は認めません。


 転がる浅略には深秘で対応するのです!



 つか、自分のベッドで居心地悪く寝るなんて冗談じゃねーよ。隣の部屋のどこで寝ようとか考えるだけ虚しいわ。こーゆー時、二人部屋の一つベッドは厄介だな。んでも、買い替えには金も時間もこの極上さも〜〜  はぁ。



 「おーー  い〜〜」


 ああ、俺も図太さが欲しい。まさかでこいつ、寝てないだろな? あ、違いますか。それは良かったあー。俺なんて、このまま寝たら恨めしそ〜うな目玉のお化けに魘されそうなのに。それも絶対、蒼い目の。あー、やだやだ。



 ……まぁ、寝る気もないけどさ。


 寝落ちしたら、こいつは明日の朝「ごめんよ、細かい事を」とかゆーて笑って終わらすだろう。確かに明日になれば落ち着いて話はできると思うが、それで良しとしたら〜 


 こいつが言う所のこいつの『今の糧』はどーなるよ?



 おーれが こーこに 居ますのに〜 こいつは なーにをしてるでしょ〜。



 俺の存在価値は空気か、あ? 空気が人に話し掛けるか? どこのフェアリーだ。


 空気は酸素で酸素は呼吸で呼吸は生きるに必要不可欠な絶対真理であると認めるが、一々真理発動しないと存在スルーな存在に誰が比重を置くっての。


 己の存在意義を掛け、自身の満足の為にも放置が最善策だとは認めない。時間の有効性を認めない! 自分を棚上げしても認めない!! 審議拒否で進むモノに成果はない! それこそ時間の無駄だ!! 



 さっきの言葉が、こいつの本音。


 ずっと心に潜む形は劣等感、その劣等感が俺を素通りさせている。


 知識を鈍らせ、経験を黙らせ、本来の根性を見失わせて、背後からの精神操作を確立し、長き潜伏期間を経て「今、この時!」とばかりに抑圧からの開放と君臨の一発逆転を夢見て立ち上がっている!


 ふ、ふふふふ。

 誰が許すか、うざってぇ。十三年の長きに渡るお前の雌伏を無にしてみせよう!


 

 …あいた、俺のLevelじゃそんなん無理か。つか、他人ができるこっちゃないし〜。んじゃ、パワーダウンでしゅるるるるんっだな。


 餌やって一気に肥大化させたの俺だから、責任取って小さくしないと。



 

 「……なぁ、猫の方が良いですか? ちび猫で良いなら首でも頭でも背中でも足でもどこでも   却下、足はなし。  待て、太腿は良い。 しかし、挟むなよ。んで、問題は蹴りだ。蹴られたら即ダウンだから〜  ああ、そっか。足戯れのガブで対抗したらいーんか。あ、すっげ酷いっぽい〜。それなら足ザリの方がましですよねー? …そりゃー、俺も長靴に顔を突っ込む程度に味見なんてしたくないんですけど〜〜」




 ………ち、鈍い奴。柔軟性を取り戻せ! 揉むぞ!!

 

 「猫がぺったり引っ付いて慰めて上げましょうか?」



 人の語りに心を動かさないとか、腹立つな。


 「最も静かな慰めを希望されても無理ですよ、空気は読みませんから。寧ろ、嫌な空気はぶち壊したいです。大体、猫語を理解できる奴に話し掛けて無視されるなんて、そいつの顔面で爪研ぎしたくなる愉快さです。『ヒトの話を聞いてるか?』のクエスチョンから哀切の眼差しでカウンター繰り出して数発やりたいですね。一発じゃ納得しませんよ。


 お前ができた猫語理解をセイルさんはできなかった、けーどーねー」



 指先がピクッと動いたら、いきなり腕立て。ガバッと起きて振り向く視線の合致に、しれえ〜〜っと。



 「んでも、今回のでできるよーになったのかもねー。お前は俺がやってるってぇ言った猫語理解、それって力に染まった程度で攻略できるもんなんだー。覆うも庇うも、所謂『お揃い』なだけだろが。同じ色の服着た程度で他人の能力操作も可能にする安全策?


 かぁ〜〜 こわ。


 最初から似てるだろう兄弟間の染色(遺伝子)の何が問題なんかわかりません。


 しかし、猫語理解者が増えるとゆー希望を胸に明日セイルさんとちび猫確認してみるわ。お前に付き合えとゆーのは酷だと理解しましたので確認時は出てっていーから。それで更に染まったとしてもお前自身がどーしつだっつーんなら、なーんももんだ「うわああああ!」


 「甘いわああっ!!」


 手を伸ばしたのに、ソッコーで反転! 俺の目測は正しかった! いやっほーーう!


 

 「だあーーーー!」

 「うそおーーーー!」


 ドッス!


 「ぐえっ!」


 素晴らしい弾力は弾力で答えてくれたが守ってはくれなかった…



 「おおお、おま  なにその蛙飛びー!」

 「あああああ、自己です。利己です!」


 「そんな脚力、読めるかあーー!」

 「君を喚んだとゆー確かな証と言えるモノさえ忘れて浸ってしまう、この頭をどーーーしよう!」


 現に俺を潰してる奴の頭に何を言っても無駄だと思う。


 「さぁ?」


 蛙べたんのお礼を兼ねて、優しく優しく返事した。



 「わああああ! 俺を見捨てる君のその感じがあーーー!」

 「だああああ! 絞めるな、乗るな、掴むな、暑くて重いぃぃいい!!」


 決意と手法と現実が手を結んだだけで、どーしてこう俺の理想と離れていくのか!



 「あ、アーティス」

 「ゥウン」


 「違う、遊んでない。遊んでないから。そーんな目で見ないのですよ〜。うん、手まで、手まではオッケー。はーい、そっから下ろしてお休みで〜す。上がらないアーティスはお利口さんですねー」


 ベッドの縁に手を掛けて、こっちをジト目で見てくるアーティスに手を振った。




 振っても全く効果が出ないので回します。


 「お前が何とかしろ」

 「アーティス、すまん。意思の疎通が滞り、こんな騒ぎになってしまった。起こして悪い。遊んでない、遊びじゃない。話し合いの最中に逃げられない様に必死でしがみ付いただけなんだ」


 構いに行ったので、やっと体が楽になりました。


 「真剣だ、遊びじゃない。此処が俺の分かれ目で」


 何やらブツブツ言ってますが、あ? ちょっと待ちやがれ。意思の疎通が滞りって、ナニ言ってやがる。滞りじゃねぇだろ? お前、アーティス相手にナニかっこつけてんの? ナチュラル〜に自分の主張を飾ってんなよ。


 俺の心に疑惑が走る。



 「キュッ!」


 走るがアーティスは納得したらしく、お休みの頬摺りをしてお座りからのごろんで睡眠モードに入ってった。


 なんとゆー理解力、なんとゆー聞き分けの良さ! これが年月の差なのか?  …うん、俺はこれから。

 


 んで、これからの前にだ。


 「反省を要求する」

 「すいません」


 「お前のほんとーに根深い 根深い  根深い…  その、何かは俺の前では要らんのです」

 「はい、一つの感情が理性を静かに蹂躙し… ですが、次こそは大丈夫。きっと大丈夫! 出てきても俺の希望の体現であり具現化である君を盾に必ずや潰すコトができるでしょう! いえ、潰してみせます!」


 「…あれ? ナンか怖いコトに」

 「そう?」


 のーみそに浮かぶ前衛の盾。

 

 ガコン、ガキンと攻撃を受け止め、ドコッと武器にも転じます。しかし激闘に耐えれず、やがてはパッカーンと真っ二つ…  だって、伝説の盾ではありません。それに伝説クラスは伝説なので伝説程度に眉唾で使えないのが、きほ……



 「……ま、まぁまぁまぁまぁ現実に晒されるはずはない」

 「そうそう」


 打って変わったにっかりに、ホッ。会話の成功に、ホッ。安眠できる事に、ホッ。こいつが拒否しても耳を傾けた事に〜〜


 「ありがとな」

 「え?  いや、それは」



 くれた返事は想定内。

 その中の言葉尻。そこに潜む形に未来を見た、なーんて言ったら笑いそう。深読みの、し・過・ぎ。





 「消すよ」

 「おー」



 灯りが落ちるのに合わせて、欠伸が一つ。隣が戻ってくるとベッドに振動。今日一日を振り返る。


 『今日も一日、よく揉めました』


 これで締め括ると悲惨なので自己啓発してみる。


 「そうだ、誉められた。ちび猫は探索に看破を取得したのだ!」

 「はい?」


 「人に認識されたとゆー真実により、猫探偵にLevelが確立されたのだ! 確実にLevelが上がったはず。同一である俺に共有という概念はない! 何故なら、それは俺である! にゃーはははー!」

 「…ナンの話?」


 ごろんと転がり隣を向いて、今日のちび猫行動からの希望を語ります。



 「…なーる、遊びね。じゃあ、俺は猫可愛がりを希望します。それがあれば猫の君がメロメロに」

 「え? ナンか逆でない?」


 「えー、何が?」

 「ってか、犬使いな上に猫使いにもなる気か?」


 「俺も遊びたいだけです。そして愛情と遊びの技術は楽しむ事で上がるはず」

 「そこで技術を持ってくる?」


 「同じ遊びだと飽きない?」

 「そりゃまぁ   ぁぁあああ ふ」

 

 また欠伸が出た。もう無理だ、寝よう。穏やかに眠りにつける現実、少し前の努力した自分偉い。


 







 「〜〜ュッ」

 「…うん? アー ティ ?」


 微かな呼び声で目が覚めた。


 扉の前で待つ朝一番の散歩要求に、やはり普段通り竜達と一緒に居させた方が良いと思う。



 鍵を外しに向えば、外は雨が降っていた。テラスに出て伺う雨は優しい降りで有り難い。浸水からの日数に以前の何やらを直ぐに計算する自分の頭に苦笑して、そこらで十分と放り投げ、雨の気配に感じ入る。


 飛び出す事なく大人しく隣で待つアーティスに手を伸ばし、頭を撫で、開け放した扉から一緒に中を見遣って、全く起きそうにないアズサの姿に「仕方ない」と慰める。


 「もう少し元気になったら、一緒に行こう。降りは弱いが雨の中では認識が遅れる、皆と逸れない様に」


 首輪を確認し、良しと送り出した。




 静かに戻り、静かに上がる。

 起こさない様に離れた位置で寝顔を眺めて、昨夜の話を思い出す。揃いの服を着る『程度』の話を考究する。


 「手袋から服に格上げ…  必要量は倍以上」


 口にする必要もない、どーでも良いコトを口にしてみる。本当に口にしたいのは違うだろが、と自分自身に突っ込みを入れつつも現実だから嘘ではない。


 嘘でない真実。


 真実一路の一路を変換し、『ぐへっ』と笑ってしまえば自分の顔がだらしなく崩れていくのがわかる。奇声を発しそうなので口を覆ってみる。


 覆った所で思考が止まるはずもなし。


 若気にやけて溢れ出る笑いを腹筋でグッと抑え込むが、高揚が腹の底から突き上げる。それを堪えると鼻息が荒くなる。自分の現状を自覚すると熱が上がり顔が火照る。拙いと思うから前屈みになる。なった所で感情は治まらない。



 まだ寝てるのに。


 ちろっと横目で窺った自分は端から見るとナニ状態にしか見えないのでは?と思い至れば一気に押し寄せる恐怖の波。


 誤解だ!と叫ぶ自分を想像するだけで落ち着けた。




 「はぁ」


 朝から変に気力と体力を使ってしまった…


 まだ起きない君と時間。寝てる方がましと俺も目を瞑る。






 夢なのだろう、これは。


 昔の俺が居る。

 横顔、服装、見覚えのある椅子に机、室内。広げた教書から目を上げ、前を向く。発言の為の挙手に、問うた疑問。


 ああ、これは召喚の教えの。




 何かが胸に去来して、そっと瞑目したが、夢の中でもこんな思いを抱えているのかと自嘲した。



 次に開けば、手があった。

 暗闇の中、俺に向かって突き出された手。広げた手が物欲しげに動く。



 『ねぇ、見せて!』 『すごい、すごい! 本物よね、それ!』 『ほんっと、お前一人で行ったのかよ!』


 持ち上げた自分の手には花があった。

 花の色に形状があの花だと理解させ、覚えのある賞賛に知らず頷く。はしゃぐ声の主は、そう、学友達。



 学友。

 

 夢の暗転に、音が響く。

 高く響いた音と共に一筋の光りが降り注ぎ、そこに現れた物と自分の服装にピンとくる。今度はあれらしい。



 思った通り、調べが始まる。

 流れる音は思い出深い。曲自体、嫌いではない。懐かしい。


 音に背を伸ばし、姿勢を正し、笑みを見せ、息を吸い、曲の情景を思い浮かべながら、あの時と同じ様に歌い始める。



 音に添い、歌い上げるがそろそろだ。


 ……ああ、やっぱりな。此処で上げやがった。間違いなくこれは夢だ。やり直しでも何でもない、単なる繰り返しだ。ならば、同じで当然。


 俺は音に添ってやったが、音の主は声に添おうとしなかった。声を引き立てようとはせず、自分の奏でる音に酔い痴れる。


 あのど阿呆。



 殴りたい気持ちは手法に込めた。

 

 音階をずらし、音域を変え、曲調を合わせつつ外し、音を待たずに先んじる。この移調こそが今回の見せ場なのだと力強く歌い上げ、音を蹴る。



 よし、成った。


 これで声に添わねば、お前が愚者だ。奏者の名に値しない愚者。独奏でないのに合わせる事もできぬど下手くそと笑われろ。



 歌い終わって振り向けば、嘗て見た同じ顔。


 夢の中でも笑えるツラだ。



 あの時のくじ運は最悪だった。くじが一番公平で簡単で面倒がないにしても、あいつはないわー。ははははは。




 

 『これからだってぇのに、よく笑ってやがるな』


 目を上げれば、貶す顔。次はこいつか。


 『協調を忘れんなよ』


 それは俺が言われる事ではないと思う。寧ろ、何度聞いてもお前だろ。


 『お前は少ねぇんだから、それを忘れ『これからってのに気が削がれるだろ、そこらにしとけ。お前も踏ん反ってんじゃねえよ』


 『だ! 誰が、んなコト!』


 『なぁに? 遊ぶ余裕があるなら、もっとそっちに振り分けるわよ?』

 『ちょお!』


 『そろそろ時間ね、始めましょ』



 これも和気藹々としたものか。



 蒼天の元、皆で打ち合わせ通りに囲い込み、朱を散らした。仕損じた分が何故かよく俺の方に来た。意図も悪意もそれがどうでも腕は上がった。


 そこに、不快はない。






 『ハージェスト様』


 さっきと似て違う陣形に人数に、我が家の紋章。


 『任せておいて下さい』 『協調、連携はバッチリです』 『そうそう、自分達がイイトコ見せますって』



 ああ、これは…  昨年の、だったか。そうだな、息の合った連携は見ていて気持ちが良いものだ。






 『良いか、過去の栄光は眺めるに留めよ。決して縋るものではない』


 親父様。

 何をそんなに真剣に。


 『気付かず縋るは哀れに映る』


 …待て、これは何時の事だ?


 『妥協も折り合いも現状に対する方法だ。以前と同じ手法が通じぬ場合を忘れるな』


 不思議に思うが抱き上げられた。腕に腰掛けるこの体、どう考えても幼少時で正しいはずだが内容に覚えがない。

 


 『お前はこれからだ』


 続く会話に何となく思い出した。


 昨日できた事が今日になってできないなんて、おかしいと言い続けた時か。覚えた字はちゃんと書ける、それと同じ事じゃないのかと…  説明に困らせたのだったか。



 『お前は私の息子だ、それは絶対だ』


 ええ、それを疑った事はない。


 その言葉が救いであり、重みにもなった。重みと意識し始めたのは何時の頃だったか…




 『道はある、なければ作れ』


 わかり易い言葉だ。


 『だが、時として人は間違える。間違えぬなど何の嫌味だ。だからこそ、認められる喜びには素直に…   』





 親父様が言い終わらない内に急速に遠くなり、暗闇が訪れる。一人、取り残される。少しすると足元に風を感じた。何か走った?


 音がする。



 『にぃい〜〜』


 あっ!


 いそいそと周囲を見遣って俺のアズサの姿を探す。 …………何故に、二匹?




 一匹が飛んだ。

 

 興奮の度合いが強かったのか、相手を飛び越えて滑る。止まる。立ち上がる。振り向く楽しさ全開の顔は全く気にせず、戯れつきに戻る。二匹で組んず解れつ楽しく遊ぶ姿は癒しの塊。


 見るだけで自然に笑みが零れて笑顔になれる。



 縺れる遊びに疲れたのか、一匹の欠伸にもう一匹も釣られた。

 それでも遊びたかった様子だが、持たない感じでべったりと凭れ掛かって眠り始める。凭れ掛かられた方も寝るかと思えば寝なかった。


 ゆっくりと体を起こして、ぺろっと優しく毛繕い。ちょいちょいと撫でる姿が微笑ましい。



 同じ色、同じ体格、同じ毛並み、尻尾の長さも同じに見える。こっちを向いた目の色に顔の輪郭まで同じだった。どう見ても同じ種族、同じ時に生まれた兄弟だ。



 俺を見上げる目に、目を細め、腰を屈める。そうっと手を差し伸べながら、優しい声で聞いてみる。


 「初めまして、君が猫さん?」



 …………え? なにその衝撃的な顔。口を開けたままの硬直に視線が突き刺さる。俺への非難に見える。体を低くしてジリジリと下がり始めたのに、こっちも衝撃を受ける。


 「え? え? え?」


 二匹の猫を見比べる。

 ごろんと寝返りを打った。いや、寝返るじゃない。上を向いて腹を見せて無防備に熟睡中。


 「え?  だって… あの、俺のアズサはそっちの寝ている方で」


 今度はピンと姿勢を伸ばす。伸ばして見上げる目は泣きそうで、心臓に直撃した。はっきり『酷い』と言っている…


 背を向けて、俯き、すっくと立つ。首だけ曲げて告げる視線が俺の恐怖を呼び覚ます。


 「待ったあ!」


 走り出す寸前に叫んだ。強く叫んだ!




 「いや、だから俺のアズサはこっちのはず。絶対にこっちのはず!  は、ず…  いや、あの少し待って? 待って? 行かないで」


 口の中でごにょごにょと繰り返すが、さっきの駆け出す様は過去を彷彿させた。全く同じで過去の失敗が心に棘を刺して絞め上げる。


 『時として、人は間違える』


 親父様の声が甦るが続きは甦らない… 肝心な部分が甦らない! あの猫が行ってしまった後に、俺のアズサが夢幻のよーに消えそうで怖い。実はあっちが正解だった!なんて事が有り得そうで心が騒ぐ。騒ぐが腹見せて寝てるのが俺のアズサのはずなんだ!



 慎重に慎重を期して進み、寝てる猫を揺する。あ、やっぱりそうだ。


 「起きて起きて起きて起きる! 非常事態に寝てる君が君らしくて笑うけど起きてくれないと俺は動けない! 君で正解だ、君が一番だ、俺の一番である君の許可がないと俺は   だから、待ったぁああ!!」


 俺のアズサを腕に抱き上げ揺すって必死に、もう一匹へ制止を乞う!


 「ふにゃ?」

 「あ、起きた!? 俺の一番は君だから、だけど君とそっくりな猫さんのあんな顔を見るのは心臓に悪いです! 痛いです! すいません、こっちが俺のアズサです! ですが、だから待って下さいと!!  起きてってば! 一匹と一匹で二匹で二匹なら許容範囲ではないかと思うのです! 


 俺も二匹ならイケると思います! 二匹までだと思います!  ねぇ、二匹なら多頭飼い(ハーレム)にはならないよ「にゃ ぎゃーーーーーあっ!?」


 ゴッ!


 「ぶっ!!」 


 寝惚けてるアズサに早口で捲し立ててたら、後頭部に衝撃を受けた。自分でも、ゴッ!と聞こえたのが怖い。






 目が覚めたら、ぼーっとする。伸ばした自分の手が見える。見えた先に君がいる。


 でも、俺の手は届かない。


 届かない場所で寝たからだ。ああ、寝ている内に隣に移動していたとゆー奇跡は起こらなかったか。起きたら恐怖の寝相だな。


 「ふぁ  あふ  アーティ  あ、出したか」


 覚醒に従い、二度寝の前を思い出した。



 同じ服を着る。

 兄さんの力の糸を俺が編み、作り上げる。それもアリなのか。

 


 「召喚獣でない君に、俺の召喚ではない事実。 なのになー、召喚の教えが俺の中で息衝いているとは言え   …違うか、教えは理に叶っている。絶対でなくとも有効だ。只、俺は 俺が自分の力に拘る訳 は… 」


 心の整理は言い訳か。

 整理すればするだけ自分の言い分が言い訳に聞こえてくる。


 それでも間違いなく俺の力が一番安全なはずなんだ。はずでも、君が受け入れられるのなら… 別に俺でなくても良い訳で。


 やっぱり、どうあっても自分に繋ぎ止めたい気持ちが言い訳を探させてる。抜け道に正当性を持たせようとする。そんなコトをしてる時点で心が違うと知っていても、後ろめたさの繕いを望んでる。



 成功した学友の顔を思い出す。


 成功と自信に溢れた顔は羨ましかったが、俺だって他で経験した。自分で成し遂げた時の高揚は思い出すだけで心浮き立つ。


 「君と一緒に努力した結果で変わらないのなら、それで良いと言ったのは   嘘ではないけど」


 直近の高揚は否定する。

 それで良いとするは、無知だけが胸を張って紡ぐのだと笑う。



 「似てる服と揃いの服は違う」


 そう、二種類だ。自己が生み出すモノ(努力)と他者から与えられたモノ(評価)と。



 誰がくれるモノよりも、君がくれるモノが一番嬉しい。兄さんよりも俺で良いと言って貰えた。力の大きさでないだろがと聞こえた。


 ちゃんと聞こえた。


 

 利き腕を天井へ突き出し、開いた手を握り締める。

 


 「俺は糧を得た。得た糧を言い表すなら、それは何か? 糧とは、自ら口にするモノであり 自ら …!」



 あっぶねー! 調子に乗って声を大にして起こすとこだった! あ〜、一人じゃないのに何やってんだ。俺が眠りを削いでどーするよ。




 「……ぅあ?」

 「あ、おはよう」



 「……おー」


 むくっと起きても寝ぼけ眼。ぼーーっとした目で見てくるのに何か既視感。



 「あのですね…  夢の中に鬼猫が現れた。 突然のご降臨にも関わらず華麗なるにゃん蹴りをきれーにお前の頭に決めたのです」

 「は?」


 「頭、無事?」

 「え?」


 咄嗟に後頭部を押えたが、どこも痛くない。


 「あの、夢ですよね?」

 「そーですが… 妙に生々しく… 」


 周囲を二人で見回したが世界は平穏だ。



 とりあえず、笑ってみた。二人で笑えば怖くない、きっと怖くない。何かの冤罪なら取り成しを頼もう。







 朝ごはん〜 朝ごはん〜 きょーうのごはんは何でしょう〜〜。うきうきうきうき、食堂いきまーす。


 「ほんとに昨日の今日でもへーきだよな?」

 「気分悪い?」


 「いいえ、これっぽっちも。どっちかってーと気分爽快」

 「だろうね、何にも残ってない」


 「よし!」


 食堂前での念押しは様にならないが、そこは仕方なし! 俺の場合は全部手探りでせねばならぬ〜 う。



 ガチャ!


 「おはようございまーす」




 今朝も美味しくご馳走様でした。


 食堂に来て良かったです。セイルさんが大変嬉しそうな顔で迎えてくれました。昨日の夕食は一人で頂いたそうです。それも何かの報告を聞きながら食ったから、ご飯の美味しさが半減したらしい。


 「合わない時もあるし、忙しい時もある。そうでなくとも会えぬ時間の方が多い。それが近くに居るのに一人で食うとか、兄は寂しい」


 なんてこったーいです。


 続く結婚相手か恋人か? 先の相手がハズレでな、な話を聞くとうひょーです。目の前のリリーさんの笑顔に絶妙な黒さが混じって、朝から鬼が出現しそう。


 鬼は〜 そと〜 は、論外な鬼です。





 「へ?  え?   ほ、ほんとですか!?」


 衝撃の事実に、デザートのフルーツポンチのうまあま余韻が飛びました。



 「でな、その手で何かした自覚はあるか?」

 「いいいぃ えええぇぇぇえ!!」


 ないないないと首振った。振り過ぎで目ぇ回る。そっち、凭れていー?


 「まだ目覚めてない様でな」


 …意識不明の重体?




 「い しゃ  いしゃ(医者)いしゃ(慰謝)いしゃ(慰藉)いしゃ(倚藉)、 い〜しゃのおみま… 」


 のーないで菓子箱とお菓子と飴ちゃんがぐるぐるしてる。





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