17 報復の末 (上)
イーリアは茫然自失の体を成して座り込んでいた。
涙に濡れた顔をあげて、ゆっくりと哄笑しはじめる。自嘲を帯びるその声は陰を孕んで低く響いた。
「ミルド。私はあなたに言われたことをしただけ。それだけ。それがこんなことになる。
こんな状態を私は望んでもいないし願ってもいない。あなたは私を喚んだ召喚者でなければ契約者でもない。あなたは私を自分の召喚獣と言った。でも、それは聞こえを良くするためだけの約束であったはず。
今、私に契約者はいない。私は一時的にあなた達の元にいるだけの話。それでも手伝いが欲しいと言われれば、その手伝い位はする。断る理由もない。必要とされるのは嬉しい。
…あなたに言われるまま、魔鳥をあの召喚獣の元に向かわせた。少し危ぶみはしたけれど、そのことに目を瞑った。私はあなた達のいう戦闘種でもある。気の高揚はするし、敵は嬲りもする。そして私は回復する手段を有している。
その結果が、これ。
あなたがどこかで嗤っていた、あの召喚獣にやり返された。それだけ。 これは、間違いなく、自分で招いた、目を瞑ったその結果。
そう。 だけど、私は。 わたしは。 わたしはぁぁぁぁぁぁああああああああああっ ! 」
髪を振り乱し眦をつり上げたイーリアは、声を発してミルドの元に駆け寄り右肩を押さえつけ左腕を掴み、あらぬ方向へと引き曲げた。
鈍く籠もる音が骨の状態を告知すれば、ミルドの口から悲鳴が上がる。
掴んだ腕を放さないイーリアの正面でミルドの体勢が崩れ前かがみになる。それを見下ろすイーリアは、左足でミルドの右脛骨を蹴り飛ばした。上半身が力ずくで固定された体は、その場から動くことなく蹴られた下肢だけが跳ね上がる。
再び、ミルドの口からヒュッという息を飲む音と、途切れがちな苦鳴が漏れた。
まさに電光石火と呼ぶに値する早さで成し遂げた。
イーリアはミルドを放り出すと小走りで皆から距離を取り、背を向けて俯き、自身を抱え込むようにして座り込んだ。
イーリアの突然の凶行に驚愕したが、取り押さえようと動き出していた面々がその姿に息をつく。周囲を拒絶するように座り込んだイーリアからは、先ほどミルドにみせた怒気も追随するような覇気も感じられない。
用心を重ねながらも安堵の気配が流れる中、リリアラーゼがイーリアに対し拘束術を行使した。
拘束したイーリアの隣に監督役のヘイゼルを配置する。
これ以上の暴挙は自分の生命に関わる事をイーリアとて理解しているはずだが、証の腕輪に刻まれているはずの抑止を怒りをもって振り切った以上、用心に越した事は無い。
倒れたミルドの怪我に医者が非常に活躍した。彼はこのために居たのかと思うくらいだ。
学長が医者を手伝いながら、補佐に他の職員を呼びに行くよう指示を出す。その際、騒ぎにせぬよう冷静に行けと言い渡す。補佐は良い返事を返して出て行ったが、躓きそうな足取りで冷静に行えるのか不明なところだ。
他の者達が到着するまで我らはハージェストと子犬を真ん中にして、ただ、それを眺めていた。
この場において怪我をした者が一般の関係ない者であったなら、助けるべく動くとも。
しかし、ミルドを助ける為に動くのは業腹だ。それを押してなお、助けに動けば美談だろう。だが、そこまで優しさを持ち合わせてはいない。痛みに耐える姿を見ても心は動かない。専門である医者がおり、学長がその補助を行っている。ならば、その邪魔をしないでいる方がよかろう? 死に至る怪我でもない。
俺は、そう思っていたがリリアラーゼは違っていたらしい。
静かに靴音を鳴らして、医者に近づき声をかける。
「あなたを手伝う必要はございますか? 無ければ、邪魔をせぬよう下がっておりますわ」
そのリリアラーゼの口調と視線は、『必要ないわよね?』という色と光をみせて医者に返答を求めていた。過たず、医者はその意を汲み取った。
「ご好意に感謝します。今は必要ございません」
医者に頷き、こちらへと帰ってくる妹に目で誉める。ラングリア家としての体裁は整えた。あとは不要。
ハージェストに目をやればミルドを見ていた。憎悪の籠った目ではなかったが、なんと言ってやるべきか… さすがに迷う。
「ああ、そうだ。 『仕返しはした』 そう言って笑ったんだ」
ポツリと呟いた感情の籠らないハージェストの声は不思議とよく通った。
職員達がやって来たそれから後は、なし崩しになり、その後の対処を優先して決闘は立ち消えた。
とうに裁決は出ていたわけだ。
ここにいる人間達が互いの腹を読もうとし、益を取ろうとし、慌てふためき、またその害が掛からぬように動き、如何にして罰してやろうかと模索・迷走する中で消失した召喚獣の明確な意思は苛烈な結果を引き連れてミルドとイーリアに落ちていた。
他にはない。
誰の目にも一目瞭然で『 お前達だ 』と指し示す。
俺からすれば立ち会った全員に有罪を押してやりたいが、それは成らんな。
第一なにがあったとしても、ハージェストが対処できれば起こらなかった話だ。検査方法が決まった後も言い続け、傲慢と取られたとしても検査官替えに持ち込むまで行えば良かったのだ。そして、魔鳥も魔獣も二体まとめて始末してしまえば、横槍を突入れられても守りきれれば何の問題もなかったのだ。
お前が選んだその道は、お前の力量では足りなかった。それだけだ。そこには情もなにもない。
…二度は無い戻らぬ過程を論じることも、出来もしない事を講ずる事も為ん方ない話か。小さな分岐点など山とある。どの道を歩もうとも、その末の総てを完全に見渡せるはずもない。人は人でしかない。
足掻いて、足掻いて、諦めきれず、やっと見切りをつけて落ち着いた最後に得たものを手のひらから滑り落としたハージェストは第三者からすれば、その過程を知ろうが知るまいが関係ない、間抜けでしかない。
いや、知ればより一層笑うか? 人の不幸は蜜の味と品良く慰めて、腹で嗤う下世話者はいるだろうしな。
…そうか。結局、憎悪のはけ口すら失ったか。
ハージェストに目を向ければ、膝の上に乗せた子犬の耳にたわい無く触れながら黙って見ていた。無表情でいるのがキツいな。
静かにいるが、これで心中穏やかに過ごせる奴がいるのか? もういない召喚獣の成果と呼べる物が後から後から出てくる。それらが確かに力があったと証明している。惜しいと思っても、もういない。どれだけ痛哭しても後の祭り、手遅れだ。そうなれば次に思い返すのは、どうしてこうなったか?だ。堂々巡りで落ち込めば抜け出せん。最終は諦めしかない。 あー、もう本心からため息しか出んぞ。
火炎弾を吐き出した事で疲れたのか、子犬は毛並みに顔を突っ込む形で丸くなって眠ってしまった。
『ぐるっ… くるくるるっ』
妙な音がするので、三人でよくよく注意すれば子犬の腹から鳴っていた。腹が空腹を訴えているが起きそうにない。
「これは起きたら一番に食事だな」
そう言って笑えばリリーも、にっこりと笑いハージェストも目を細めて静かに笑った。
「今少し、お待ちください」
そう願われて応接室にもう一度通されたが、ハージェストは帰らせるか。
あの血の跡もリリーの水流で綺麗さっぱり流れた。
もはや、決闘はどう考えても無理だな。あれでは仕切り直してもう一度など不可能だ。代理立ての手もあるが、それではハージェストにとっての意味合いが微妙に違ってきてしまう。
この局面から先にハージェストがいる必要は…ないな。これから行う話し合いより、今の心を落ち着かせてやるべきだな。最後まで見届けさせるのも大事だが行われるだろう話の内容を考慮すれば、どうでも良い気がしてくるな。…俺だけで良いか。誰ぞに一言告げて、二人は帰宅させるか。
先の帰宅を示せばリリーは迷う目をしたが、俺と視線を交えると納得したように頷きハージェストを促した。 察しの良い妹で嬉しいぞ。
「そうね。後はお兄様にお任せして私達は帰りましょう」
その言葉に即座に反応して不満の色を乗せる弟の顔に苦笑する。
「お前の子犬も疲れている、落ち着く家で休ませるべきだろう? それとも、リリーに託してお前は残るか?」
眠る子犬を見た後に逡巡しつつも帰宅することに頷いた姿に安堵する。
「後の始末は俺がつける。家に帰って休んでいろ。お前は、その子犬を一番にみていてやれ」
弟の肩を叩いて静かに笑ってやった。
その方が俺の気も落ち着く。
子犬を渡す気はないが、この場にいる・いないでは、やはり諦めの度合いも違ってくる。そして、許可なく我が家からの連れ出しとなれば、誰に憚ることもなく潰して終われるからな。
弟妹達を連れて応接室を出る。廊下を歩き職員の常駐室へ向かう所で反対の廊下側から学長と数人がこちらに向かってきていた。
急いで引き止められて問答となった。二人を帰宅させる旨を告げれば、これから話し合いをと言う。
「当事者である者が終わっていないと言うのに放り出して帰ろうとは、云々… 」
一人がこちらに聞こえよがしに言葉を吐いた。
…なんだ? 延々と喋くる今の言葉の後半に逃げ帰るようとかなんとか、妙な単語が混ざっていなかったか?
不審を露にその場にいる連中を眺める。
学長に、癇に障るほど生意気な目でこちらを見てくる奴、そいつの仲間と思われる者、ヘイゼル監督役に黒翼の制服を着用しているから同僚か上官か。
『せっかく弟が落ち着き出したものを邪魔するな』と思えば、気分が苛立つ。俺は聖人君子ではないぞ?
その間に学長が宥めるように話かけていたが、気負い込んでいるのか人の話を聞く気がないのか、今度は怪我がどうとか騒ぎ出す。
果てに「貴族だとしても何をしても良いとは、ミルド女史とて貴族で云々… 」と言葉を吐き捨てるように一人がなり上げ、一番手近だったハージェストに詰め寄り手を伸ばした。
その手の意図は引き止める為のものであったかは定かではないが、その行為により抱いている子犬を取り落としそうになる。
当然ハージェストは、その手を払う。即座にリリアラーゼが子犬を抱き取り胸元に抱える。 子犬の頭はリリーの胸に乗ったが、口の中でむにゃむにゃ言って起きないこの犬は大物だな。
男の襟首を取り押さえ、力ずくで引き下げる。弟妹達に目線で反対に下がらせ五人に向き合う。どう考えても残る二人は機関の人間、即決判断の下に範囲指定をして五人全員に魔力圧を叩き込んだ。
「がふっ!!」
静かになる。
非常に有効だ。楽でいい。
とりあえず、静かになっても魔圧に意図を加えて掛け続けた。学長はこれに関しては、とばっちりとも言うかもな。黒翼は意味深長な様子で静観していたのでちょうど良い。どうせ、どの程度の力の保持者か確認したかったのだろう? ならば、身をもって覚えておけ。俺の魔圧を弾けるか、阿呆め。
このままにして帰ってやろうかとも思う。
振り返ればハージェストが体勢を切り替え俺の許可さえ出れば、いつでも特攻可状態で待っていた。視線が許可を待ち構えている。後ろのリリアラーゼは片手で胸に子犬を押さえるように抱きかかえ、今回は専守防衛といわんばかりに結界展開いつでも可状態で待っていた。
今ここで一番の問題は、俺の目に映ったハージェストの形相が怒相を軽く飛び超えて、見た事も無い凶悪面になっていたことだ。
…リリアラーゼからは見えない位置であるのが幸いだと思える形相であった。
試練や苦悩を乗り越えて一皮むけるとか、精神成長する事は非常に望ましいことだ。
だがな、兄として俺はお前に狂戦士系への道を歩んで欲しいなどと、露ほども考えたことはないんだ!
感情の振り子が負の方向を示すのに従い、刻刻と面変わりしていく弟の様子に俺は目眩を覚えて掛けていた魔圧力を感情のままに引きあげた。
「うげぇぇぇ!」
「ぐ… ふぉ……っ…」
後方で蛙が潰れたような声が複数聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
俺の弟が凶悪面になるのを防ぐ事の方が重大事項だ!! 戻らんなったらどうしてくれる!? ハージェスト、お前もその顔をやめんか!
応接室に戻る。
弟妹達を帰したかったが、もう二人が納得しなかったから仕方ない。まぁな、さっきの状態なら俺でも納得出来んわ。…皆で来たのだから皆で揃って帰るのが一番か。
やり取りは実に静かで順調だ。始めからこうであれば良いというに。会話などせず、愚鈍なまでに力ずくで叩き続ければ早いのか? 人としてどうかと思うのだがなぁ。
面前にいる青い顔色の二人は、検査機関の連中でミルドの上司と同僚だった。難癖をつけてきた若い同僚も実に大人しくなったな。
ミルドから検査中に事故で召喚獣が消失した事と、その際に変異があり子犬が出た。その子犬を機関側で保護引き取りしたい為に援助を願う内容であったこと。
学舎に到着後、ミルドが大怪我をしており事の当事者である者が、その話もせずに帰ろうとしていたために頭に血が上ったのだと話す。
また、様子を見に駆けつけた先で相手が貴族であるとも、ちらりと聞いたが学舎内で起こった事であるにも関わらず帰ろうとしていた事から、失礼ながら無体をしても平気で放置していく類いかと考えたと。
正直だが本当に失礼だな。ごまかしよりは良いがな。そもそも、貴族であるという名目だけで術者を育成するこの学舎内において、我を張るような愚か者と一緒くたにされたくないわ。
ただ、この学舎も貴族の援助で成り立っているのは確かなことだ。
黒翼も同じ内容だった。予定時間より早めに到着したが、すでに施設棟へ移動されていたので別室待機しており、そこで改めて話の内容を学長の書面にて確認していた所に先ほど職員からの連絡を受け現場へ向かい、最後に検査官の容体も確認してからこちらへ向かっていたとのこと。
二組の話を聞くが、実に検査機関の方の話が煩わしい。
この二人、ミルドの怪我に気がいったか話の全てを飲み込んでいなかった為か、話を進めることで顔色の変化が赤から青から忙しい。
しかし、少し時間を置けば冷静になったらしくミルドを擁護しはじめた。
若い同僚の方が実施中に一つの手を加えることで新たな局面を生み出し、そこから別の資質を見出そうとしたはずですと言い募る。
上司の方はイーリアの弁により検査中に第三の介入をミルドが指示した事が明白になったが、検査機関としてはその都度どのような方法を用いよという決まりはない。その時に執り行う検査官の裁量に委ねられる。ミルド本人ではないので、どのような考えでその方法を行ったのかは不明だが、その方法を取ったのなら必要と判断したからでしかありません。方法としては、少々強引に思われるかもしれませんが間違いではないのですと、滔々と語る。
ああ、白けるな。
来たばかりの初めて受ける検査で何をどこまでさせたい? 間違いでない方法だというのなら、何故に消失する? それとも始めから消失させることが目的か?と聞けば、判を付いたように「今回のことは不幸な事故です」と同じことを繰り返しやがったから、「お前が不幸な事故にあえば同じ事を言うのか?」と言ってやれば驚いた顔をした。
何故そんなに驚くかね?
弟の召喚獣は弟との契約を成したが故にここにいたが、お前達の語る間違いでない判断の元に消失した。その事は事故であって問題には上がらない。事を是正するという考えも出ない。規約のもと正しく行われたとお前達は言うが、その規約はお前達を優遇する為だけにできたのか? これが検査機関の正しいあり方で認識か?と問えば、反駁してきた。
「そのようなことはありません! 検査機関は召喚獣が持つ能力を正しく把握し、その能力によって発生する問題や、その契約者の魂胆から引き起こされる犯罪を抑制するための機関です。犯罪の場合、能力を絞り込むことで犯人の特定を割り出しやすくなるのです。それを知っているから検査登録を受けない不逞な者もいるのです!」
そう悲鳴にも似たような声で返してくる。
機関その物の設立は比較的新しく、認知が行き渡っていないのかもしれませんが、消失を目的とするなどあるまじき行為は容認しておらず指示したこともない。今回の原因はミルドの裁量の甘さから生じた個人判断によるものであり、検査機関全体として一切関わりが無いことを青い顔で言い繕う。
これは、尻尾切りか? 真実か?
「それは真か? それを組織ぐるみで行っていないと本当に、ここで言い切れるのか?」
重ねて問う。
「お前が知らぬと言うだけで、裏ではいつもの事と黙認にも値せぬほど当たり前と行われているのではないのか? 違うというなら、今この場で戦闘検査中に消失や落命した件数を述べてみろ。そして、どのような状況下であったかも総て言え。いま、お前の言葉が正しいと証明するものはなんだ?」
青い顔が、更に言葉に詰まったが「調査確認した後に、ご報告致します」というだけまだましなのか? 調査すると言っているが本当に最後まで調べるのか? 都合の悪いことは隠すのではないのかね。それがまた、後から後から出てきて、最後は首が回らなくなるんじゃないのか?
この二人にしてみれば、聞いて来たのは取るに足らない召喚獣の事故消失と原因不明の変異だ。
消失については、もうどうしようもないことだから、もう一度喚べばいいとか、次回の際は気に留め必要があれば手伝う程度で手を打って終われるはずが、終われそうにない事態になって唸っているだけではないのか?
で、うちの子が帰って来ないのは、どうしてくれるんだ? 調査確認して再発防止に尽力したとしても、うちの子は帰って来ないぞ。
もう、誰もどうすることもできないことを激高することなく問いかけるが、当然返事はない。
黒翼共も見たが、目を伏せている。あちらはあちらで思うことがあるのだろうが。
返らぬ言葉を繰り返すのも、しんどい。しかし、腹に溜める方がしんどい。後になってやっぱり我慢せず言えば良かったなどと思っても、時期を外せば終わった事をいつまでもということになる。
賠償金を受け取りこれにて終了と互いに了承し、念を入れて文書に残した上でなお終わった後も、あれはあいつが悪いのだと声高に言われ続けたら、さてどうなのかね?
ろくなことにもならん。
俺の根性がもう少し良ければ、えげつないことをしてやってもいいんだが。しかし、今の弟の前ではしたくない。教育的にもしたくない。いや、やり方を教えるという教育的意味合いから言えば絶好の機会ではある。
…だがまぁ、品位を自ら捨て去るほど俺も度胸ないしなぁ♪
黒翼に話を振れば、上官の方から立会い監督役として出来る限りの対応はした旨と、結果として召喚獣の消失に対する謝罪が来た。
ハージェストがいる斜め後ろから、ギリッという歯ぎしりの音と睨みつけるような気配がしたが、それで終わった。
返答として、
「落ち度という落ち度ではないとしようか。それぞれが役割を持つ中、監督役が主となるのはあくまで召喚時であり検査中ではないと聞く。また、ヘイゼル監督役自らが何かを企んだわけでもない。しかし、もう少し良い対処を望みたかったのが本音ではある」
として終わらせたが後で手合わせを要求しておいた。やはりせめて叩かねばな。
消失した召喚獣が残していった能力の封印らしき事態に、魔獣の子犬への変貌等の一連の経緯・事情について沈黙せよと言えば反発してきた。
学長の方は沈黙を是としたが、機関はそれは報告に値する内容であり、子犬もやはりこちらで引き取りたいと望んでくる。また、召喚時において交わした誓約・契約内容等も知りたいと言ってきた。内容が判明すれば、同じような召喚獣が現れた時に契約の成功率が上がり、様々なことができるようになりますと息を巻く。 目の色を変えて話す、こいつらの思考はそこにしかないらしい。
黒翼も完全に沈黙することは難しいと否定した。消失している以上、召喚獣については何を言っても不確定でしかないが子犬はここに居り、その特性や能力については聞き及ぶだけでも関心が惹かれ黒翼としても調べたいと。 先ほど一応の赦しをくれてやったら言うようになったな。
「誠に申し訳ありません。貴族の方とお聞きしておりますが、浅学にてお名前を伺っても御領地等がわかりません。故に、爵位名を合わせてお教え下さい」
機関の者が言うに合わせ、黒翼も同意するように目礼で願ってくる中、学長は目を閉じ沈黙し続けているのが目に映る。
そういえば、学舎への対応はどうするかな?
ここで大人しく引けば、まだ可愛げがあるものを。本当に、こいつら、どうしてやろうか?
俺の弟に、うちの子へのツケは安くないぞ。
やはり、確認にも長過ぎる文はダメですね〜。