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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
169/239

169 そこに、潜む形に

13日の金曜日、10回目〜。

そうだ、書いておきます。9回目の件ですが前書きにある『曰く』は改稿前の後書きに引っ掛けてます。 はい、改稿前です。はは。



震災も風水害も熱中症もその諸々含めて、皆様、ご自愛なさられますよう。




 

 「はい」

 「う、   わーい」


 差し伸べられた手に掴まって、起きようとしたら足がぷるった。自分の「わーい」の温度が悲しくて、愉快過ぎる。


 グリッ


 「うおぅ!」


 後ろからの一撃! 今の俺に膝ガックンさせるとか!!


 「アー、ティス… おま」

 「キュッ!」


 「後ろから支えよう、押して進もうとする心意気…  ほんと、君には可愛いらしい優しさを発揮するよね」

 「え?」


 「オンッ!」


 爽やかにイイネと言われると、もうアウト。口がうにょーっとなるのを抑え込み、にぃーーーっと変化させました。尻尾を振るのに、よしよしして根性で奮い立つ。


 無事、部屋に帰還しました。



 


 「では」


 「お願いしま〜す」

 「頼んだ」 


 クライヴさんをお使いに出します。


 リアムさんの連絡にセイルさんの説明も加わるはずだが、リリーさんに夕食ごめんなさいの配慮をしたんでーす。 …ほんとは隣が手早く書き付けてるのを、ぼへーっと見てただけ。「一言、書かない?」と言われて気が付く程度の人間です。 …字が書けないのも原因だと思います。思わせて下さい、勉強する暇はなかったんだ!


 ……そう、何度でも言おう。真実は言い訳ではない!  はずだ!!



 「ふはー」

 「今日はよく頑張りました」


 「はい、頑張りました!」


 どきっぱり答えたら、笑いやがった。


 「夕食まで横になる?」

 「そーする〜」


 そのままベッドに行きまして、ドスッと座るとそれだけで何かが違う。そして静かに密やかに、黒の体が寄ってきて足元でごろんっと。


 「えーと… 俺の上履きは〜  アーティス、もうちょっと寄って」

 「クゥン?」


 「もうちょい、もーちょい〜〜」

 「ゥウウン?」


 「そこに俺の上履きがだね? そうやってベッドの奥へ入れないの〜っと」


 よいせっと屈んで上履きを取り出し、靴を脱ぐ。脱いだ靴を手で押えるアーティス…


 「あー、カミカミはしませんよ〜」

 

 ダメだと首を振りますがキラキラお目々が見ています。 …これは遊んで欲しいんかな? 


 アーティスの体に足をかるーく乗せてみる。素足に毛が 毛が 毛がとても気持ちいい… さわさわと右へ左へ動かすと、もっと気持ちいい… このままうりゃりゃりゃりゃっと遊んだら〜〜


 アーティスを見る。

 見てるだろう一名様を見る。


 にーま〜〜っと笑ってた。


 「俺は止めろと教えたけど、君がやるならまたやるようになるだろうね」

 「足ガブは危険ですよね?」


 「危険かどうか? いえいえ、アーティスは楽しいだけですよ? 許可(玩具)を貰ったと靴もやり始めるかもね」

 「うやーん」


 なんて言葉じゃわからないから。


 「アーティス、おしまいな」

 「グゥ〜ン?」


 「あー、ごめ」


 遊び方には気を付けねばあ〜。



 「あ。 なぁ、おやつ。 おやつ、どーしよう!? あげるあげる詐欺に!」

 「もう食べてきてるよ?」


 「デザートは別腹では?」


 アーティス、耳ピクピクでごろんから伏せに移行。目が煌めく。その煌めきを写して俺も見上げる。ダブル効果で何とかなるはず。




 ごろんから伏せ、伏せからお座り、完璧な座り待てで大人しく待つアーティス。


 「今日はよく頑張ってくれました。アーティスの頑張りで大助かりです。有り難うな〜」

 「ォン!」


 貰ったジャーキーを上げました。

 一方向からの視線を満足させた為、一方向からの視線は痛かったが気にしない。してはならない!


 

 「そうだ、足裏を」

 「へ? あ、あの傷? あれならもうへーきですよー」


 靴を横へポイしてベッドに上がり、足裏を出す。刃先でやってくれたトコも綺麗になってます。


 「痛かったのは遠い昔」

 「ん、確かに綺麗に治ってる。じゃあ、後は筋力と体力か」


 「ぐは」


 さっきの足ぷるで影響を疑った模様。


 隣に座って長靴を脱ぐ。履き替える。何を思ったか長靴に顔を寄せてます。  は?


 「ちょーーーっ! どーされました!?」


 衝撃映像、脱いだ靴に顔面入れるか!? 嗅ぐんですか!?


 「え? いや、内側が少し擦れたかな?と。 あー、特に靴を嗅ぐ趣味はなく」

 「ですよねー」


 「ああ、でも少し臭うかな? この手は籠もるから」

 「…そだねー、否定しない〜」


 「うーん…  ま、今夜はいいか」


 「そーゆー時はどーすんの?」

 「風を通して飛ばします」


 「…ああ、そっか。そーだよな、ふわんができんだからそっちでやるのが当然か〜」

 「できって…  なんですか、その目。  そんな手間は掛けません、干すだけですって。   ん〜〜  やれとおっしゃるならやりますが、やったが最後、部屋中がもわっとする事に」


 「やるならどうかお外でよろ〜」

 「あはは」


 両手でわかり易いポーズを取ったら、長靴を持って壁際に行く。


 「もう眠くない?」

 「空腹で寝れません」


 まだ鳴りませんが、 きっともう直ぐ鳴るでしょう。


 「自分でもよく保ってると思ってる」

 「睡眠より空腹が勝ってるなら脱したね」


 戻ってきて、隣に座る顔に苦労を掛けたと思います。思いますがあ。

 

 「洗い流すのが良いってのはよくわかりました。が、あんなにするのは基本ですか?」

 「あんなに?」


 「回数が多くないですか?」

 「え? 数えてたんだ?」


 「間違いでなかったら、最後のじゃっぱん!で百八だったかと!」

 「そーでした?」

 

 「ですよ! 煩悩滅殺回数はココでも有効かと思いましたよ!」

 「は? ナンですか、それ? 俺は気が晴れるまでやり続けただけですよ」


 「…うわあ〜 お」


 手首の動作で晴れるの説明くれました。


 お前の気が晴れるまでか?と思った俺は思考が汚い。キラキラ霧散の晴れよりも、お前の晴れかと疑う俺は回転方向がよろしくないよーだ。


 そう、煩悩ですね。

 煩悩がですよ。煩悩を捨てさるとゆーのは〜〜



 煩悩代わりにズボンの間に挟んでた手袋を枕元にポイ、呼び笛もポン。これでナニか代わるだろうか?  ……捨ててないから意味ないか。これで可能ならおかしくて笑える。



 「手、見せて」

 「おー」


 ばたーんと倒れようと思った方向を逆にして倒れる。俺を受け止める素敵な弾力。脱衣所の涼み用ではできません。




 観察中は喋らない。

 そーすると部屋は静かになりました。しかし、ムッチャムッチャと音がする。この小さな音は美味なる音。直ぐにごっくんせずに長々と味わってるよーだ。


 「…結ばぬ以上、成るはずもない。  ……なんであれだけやって薄れない。 ああ? 」


 イラッとした声に現状を知る。

 まーだ、しつこく頑張ってる手の印。効力もキラキラと一緒に流れたら良かったのに〜。


 「こう、はっきりと見えるなら…  紡ぎの解きに… ?  ん? んん?」


 なーんかブツブツ言ってます。そんでも、とろりと眠くなるのは疑問を呟いてるからで誹る言葉でないからでしょう。


 そして、あり?と思い出す。

 思い出したら心臓ドッキン、口からウギャーッ!


 「………あのさ、俺、手袋してなかった」

 「はい?」


 「してなかった」 

 「ですね、湯上りは蒸れるよ」


 掴んでる手を動かしても気にしないのを、ちょっと待てぇと引っ張りまして起きました。


 「俺、抜てける?」

 「え、何が? ……気負いがない方が楽ですよ? 気楽に気楽に堕落していくのもいますけど」


 真剣に聞いたのに、あっさり返す。真実味を感じるがそうじゃない!


 「じーさん、有力者ですよね?」

 「うん、まぁね」


 「俺、手袋してなかったよね?」

 「してませんでしたね」


 「タオルで隠すのも忘れてた… 本気で忘れた俺の危機管理はどーなっているのでしょう!? じーさんにその気がなかったとしても、一番注意するべき自分がだよ!? 俺は、どーしてこう!」

 「わかってきたからじゃないの?」


 「へ?」


 何時もなら注意を促す奴が平然です。俺は何を見逃した?





 「感覚に優れる事、それは天性でなくば修練の賜物」


 さらりと笑って締め括られてもよー。それ、俺の場合と違うでしょ?


 魔力の感覚を把握したんだと言われても、そんな感覚全く以て覚えがない。だが、掴み取って覚え始めたとゆーのは嬉しい。


 しかし、その修練が大きな力に晒された事で「うげえ〜〜」っと酔ったり、「綺麗だな〜」で、じっくり見てる内にのーみそクラッとして倒れる事を指すのか? それ、修練とは違うでしょ? 修練つったら、おかしいわ!



 「なら、慣れると繰り返すの集大成と言い換えようか? 出々しがちょっと違う感じだと考えれば… ほら、症状とか得手不得手とか人それぞれだしさー」

 「……酔い止めってないんか?」


 「………力に慣れるを止めると言うのはですね」

 「それ、ナニか違う。そっちじゃない」


 「「  ……… 」」


 お互い言わんとする事はわかってる。だから、二人で黙ってる。



 「…船酔いでは?」

 「う! 上陸で終わるくるくるりーんのうげろっぱを引き合いに出すなよ!」


 「君に染まると慣れるを足して配慮を掛けると、あらゆる意味で時間という答えしか出てきません」


 どんな計算式を使っても解答は一つしか出てこない。どーしても出てきそうにない。が!不意にのーみそ弾き出す。


 『先に酔い止めをしておけば良かったわねぇ』


 しみじみとした…  あの口調が甦る… 


 あの時して貰っておけば… その場限りでも、酔い止めの感覚とゆーものを入手していれば!! その感覚を元にこいつに!  こいつに、  こいつに…  こいつにぃ〜〜


 あー、なんたる無意味さ。今の感覚でさえよーわからん人間が感覚を頼りにどうやって貰うんだよ。


 自分、デコピン。


 「たっ」

 「…何をしてる訳?」


 「刺激で回転率をあげてみよーかと」


 そんな顔しなくても大丈夫、こんなんで煩悩滅殺できないし。あー、煩悩の感覚ってのは妄想でしたネ。




 

 「確定出しは早いです」

 「うん、今やったら死ぬかも」


 「…そーゆー事を言わない。君には確かに力がある、無力ではない。だから、これから。


 これからが羽化だよ。


 繰り返しは蓄積、力を溜める事実、そうして進む次への段階。その為の今。今だけに訪れる事象こそが糧。糧が羽化の質を左右する」


 にっこり、にこにこ良い笑顔。


 俺ののーみそ、羽化でちょーちょが飛びました。ひらひらひらひらひーらひら。蝶々になる為ご飯を食べる。絵本の青虫、葉っぱのうーえでもーりもり。もぐもぐもぐもぐ太ります。太った青虫、糸を吐き。ぐるぐるぐるぐる体にまーいていきました。


 青虫、蚕に変身です。繭のなーかで、すやすやと。 



 ……どーしよう、俺の頭の中に繭からカエッタちょーちょがいない。いや、蝶に変態するのかも怪しいが   繭は糸玉、製糸さん。 繭に蚕はありがとう。ありがとう、ありがと〜うのその先は。


 蚕は優しいお湯様に包まれて、最後ほにゃららら〜になりました。高いお空に昇ってゆきます。静かなる旅立ち。


 

 「う」

 「…は?  ……どうしました?  俺は何かおかしなコトを言いましたか?」


 「いや、ちが。 いえ、その羽化が。 いやだからそれは正しく。   いにゃー、向こうの知識が妙な壁を築き上げ〜   ヒトの手が加わった時点で生か死かの二択を   あかるいみらいをゆめみたまんま  終わってしまう…  幸せな眠りの渦のその先が…   あー ダークサイドに落ち   落ちてえ〜〜」

 「はい?」


 脳内に偏りを認めるので、一時停止をよーきゅーします。


 「…えー、君の思考が読めませんが」


 よーきゅーするとゆーてるだろが!


 「牙を有する君が闇雲に恐れると自傷しそうで怖いです。やめましょう」

 「…はれ?」


 「はい、こっち。目を覚ます」


 パンッ!


 「ひょおっ!」




 …まーた引っ掛かったみたいな顔するなよ、それで頷くなよ。ほんと、猫だましはもういいから。俺もどーして直ぐに引っ掛かるのかな〜。


 は! 違う、発想の逆転だ!


 直ぐに引っ掛かる → しかし、直ぐに解ける → 回数クリアで耐性強化!



 これでイケる! オッケー!! 

 




 「うーん、うーん」

 「そんなに悩む事じゃないって」

 

 羽化と牙、そして大事な猫の爪研ぎ。全てを同列に考えて纏めてしよーと思うなよ、と念押しされた。全部連結してると思うのに。


 「それよりですね。君は強化の為に後、何回引っ掛かるお積もりで?」

 「冷静に言うなとゆーに!」



 コンコンッ


 「夕食をお持ちしました。宜しいでしょうか?」

 「はーい!」


 はい、棚上げの順位落ちー!! ご飯は全てに勝るので、期待を込めてドアを見つめる。



 ガッチャン。







 「ん?」


 脱衣所に入った一人が何かを嗅ぎ付け、周囲を見回しつつ鼻を動かす。もう一人が踞る姿を見咎めた。

 

 「爺さん?」

 「どうした、転けたのか?」


 「う…  う、もう し  ありま」


 弱々しい声に近寄ろうとし、足を止める。


 「…それは血か!?」

 「……待て、おかしい! その血に触れるな!!」


 咄嗟の出来事に二人は目も合わさずに行動した。

 一人が出口の確保に走り戻って扉を開けば、もう一人は獲物を手に素早く風呂場への扉を開ける。


 バンッ! ダンッ!


 二つの扉が力任せに開け放たれる音が響き、鋭い誰何と救援の声が重なる。行う治療は二の次だ。少人数で対処する不明の事態、重んずるは潜むモノへの警戒で己の命の確保が先だ。







 地上へ戻ると外は暮れていた。

 風が熱を失い夜気を帯び、時の経過を告げている。


 情感に溢れる自然の気配に感じ入る前に感じ取れる慌ただしい気配。即座に臨んだ結界は変わらないが、僅かに感じた妙な気配に眉を顰める。


 顰めた所で気分も事態も変わりはしない。だから、行くしかなかろ。


 「誰か、確認を」

 「…何か慌ただしく。見て参ります、お待ちを」


 二つの声が重なる時、一人は既に走り出す。


 「着く頃には把握を」


 走りゆく姿に、待たぬと返して見送り、弟妹達の部屋の辺りを眺め遣る。

 

 「部屋に居らねば意味はない」


 苦笑と共に思い浮かべるのは、機嫌がすっかり落ちた妹と意識を飛ばす姿に叫ぶ弟。もう一人も大変だ。どちらも様子を見に行かねばと思うが、どちらに行っても解決しない。してやれる事などほとんどない。時の妙薬に頼るか、使いを出すのが精々だ。


 「仕方あるまい、万能とは有毒よ。猛毒でないのが残念だ」


 独り言ちて笑い、歩み始める。


 「次期様」

 「良い、待つに能わぬ内容だ。行くぞ」


 「「 は 」」




 

 後始末を考えると風呂場であったは最良。事態を天秤に掛けてもそう思う。しかし、内容を掛けると漂う芳しさに潜むモノが厭わしい。


 「で、そのままか」

 

 床に刷れた焦げ茶色、尾を引く掠れ具合。袖の同色に、顔も喉も胸元も全てに等しく色を刷く。血は興奮を促すものだが、こうなると興醒めも何も無い。


 「これが止まらぬです」


 医官の形相と声音に気分が乗るのも、おかしいか。




 「傷とも呼べぬ傷だな」

 「はい、本人も少し引っ掻かれただけと。出血は伴わず」


 「後からか」

 「はい」


 「ふん…  代われ」



 連ねて寝椅子にした上で歯を食い縛って横たわる姿に近づき、屈もうとして止める。


 『お兄様、床をご覧になって!』


 不思議と妹の声が聞こえた。幻聴であるのに続きが聞こえ、『時間に余裕があります時はぁ!』と叫んでる。


 「……ふ 」


 金で購える物ではあるが、相応に手を掛けてできた物を粗末に扱うのも悪かろう。誰も血染めを好まぬし、己で落とせると頓着せぬも無粋なら金に飽かすも無粋よな。


 「持て」


 「は、お預かり致します」

 「次期様、お待ちを! どうぞ、こちらへお座り下さい」


 上着を渡し、屈もうとすれば制止が入った。


 ……最初から、今少し待つべきであったろうか? いや、その手間をだな。苦労は買って出るものだと故事は語るが、今日は間違いなく苦労させたから少しは楽をさせてやろうと心遣いをだ。


 「有り難うな」

 「は!」


 …返事をする良き顔に、『理想の具現に求むるは何か?』とした思考(疑惑)を回し始める己の頭にも困ったものだ。



 「さて」


 ぷくりと膨れてできた血玉が肌を滑り落ち、軌跡を描く。描くは良いが、何故にこの様な軽傷から黒血が流れるのか?



 「問いに答えよ」






 「はい! もうすっごく美味しいです!」


 きょ〜うのご飯はお肉です〜  いえー!! おにく、おにく、野菜と一緒にいただきまーす。


 もっぎゅもっぎゅと噛めば久しぶりの、肉食ってる感…  うっまー。料理長さんが迷った末に決めたメニューがすんごく嬉しい! 心配ご無用、ちゃんと食います! 頂きます!!


 「確かに部屋を移って正解だったね。これなら部屋中、匂ってそうだ」

 「その分、美味しい…」


 赤身肉だそうです… 適度な脂が乗ってる良いお肉だそうです…  もう、もう! 頬が落ちそうなくらい美味くて泣きそうです! 脂ぎってない、おにくー! 今なら幾らでも食えそうなーー!!


 「…キュ〜〜ッ」

 「駄目だ、アーティス。香料が多いものに慣れてはいけない」


 「……すいませ〜」


 室内移動に当然と付いてきた。それに何も考えず止めもしなかった。失敗でした。匂いが刺激するのです。目で訴え、鼻声で鳴くのは俺の所為。以前の行為で肩身が狭い。


 今晩は上げられません… これを正当化する方法は…  そうだ、あれだ! 群れの上位がご飯を食べてる間は大人しく!でいけ   あれ? アーティス先に飯食ってんじゃん。俺らの方が後じゃねーか。


 ……ふははは〜 おーれはあまくて しつけはへたっぴ〜。


 「ク〜〜ッ」

 「アーティス、さっき上げました。これ以上は食べ過ぎです!」


 「ん、そういう感じで」




  


 「嫌われる行為はせなんだのだな?」

 「そ、のよう な」


 ゆるゆると首を振る動作に従い、新たに垂れる軌道が変化するも口元へと滑る。そんな循環は要らんから、反対に陣取らせた医官に目で指示して布に吸わす。 


 ほんの僅かに覚えた違和感。

 有りそうで無さそうな程度のモノが更に失せゆき、わからなくさせるが覚えた違和が此処に在る。




 「…そうよな、ならば喜ぼう。腹芸ができるでもなし、必要もなし」


 この場に呼び出せば、どうなるか?

 

 現状に口を開けて固まるだろう。俺に呼ばれたからと逃げ出す事もできずにいるのが目に浮かぶ。じりじりと壁際へ逃げ出せたら誉めてやれるが、目が合えば止まるだろう。


 「流血を好む口でもない。行いしは無意識か、願望か? それとも無知が原因か。  …また厄介な」


 途切れ途切れに語った内容に、こやつの経歴。どうあっても加害者ではないはず。



 「う  くっ   あの時に、あの時に…!」

 「駄目だ、傷に触れるな。次期様」


 「そうよな、もう一手」

 「は」


 吐き出される恨み節には憐れみよりも苦笑がよかろ。年月とは過ぎ去るものだが痛みに失敗は残るもの。消えぬどころか年月でこそ、顔を出す。


 毒は幾らでも形を変えて奥底に潜むもの。





 「あー、美味しかった」


 料理長さんが下がった後は二人で黙々と食ってました。喋るより食う!です。おかわりのパンにも手を伸ばし、パン籠はほぼ空になりました。今までで最高に食った!


 「ふはー」


 満足の吐息でご馳走様です。



 「食欲に安心しました。最後にこちらをどうぞ」


 片付けにお越し下されたロイズさんが黒薬湯を出してきた。嫌過ぎる。


 「そちらのお加減は〜」


 振ればにこやかに答えられ、続いてリリーさんからのお言葉を下される。その間もずっと黒薬湯は鎮座したまま。とても下げて貰えそうにない。 …いや、贅沢を言ってるのは知っている。そして、隣の輝く笑顔。



 ごきゅっ

 

 うん、安定の不味さに本当に慣れてきた。





 流血に慣れぬでは治療もできんが、これには手の出し様を憂慮する。いや、せねばならぬ。でなければ弟が癇癪を起こす。


 「ご覧の通り、まともです」


 医官が持つ針先が光る。


 針で突かれた指先に小さな血玉が膨れ上がる。暫し布で押えれば出血は止まり、傷もわからん。この程度に力を使う者もいない。ならば、だ。



 「傷の凝固が始まれど自然に裂けて血が流れる。流れるに黒が混じるが、お前の指先から出た血は赤い。意味はわかろう? 


 お前の中の何かに対し、強制が掛かっている。


 行いは疑問からでも拭おうとするは好意のはず。爪は破砕を伴った。力が溶血を促すなら、それは解毒の排出。己を保て」



 力を込めて励ました。


 希望に願望に欲望に。

 本人よりも弟達を。弟達より自分の意思(知識)を。状況が是とするものを荒立てる必要もなし。



 「げ、 どくの」

 「そうだ、の爪に宿るは破砕であった。破砕は癒しにはならん。ならんが、それこそ憂慮を取り除く力の解毒」


 真上を見上げる目、大きく開けた口、荒い息が齎す胸の連動。止まりそうで止まらぬ流血が時と共に血玉となりて顔を滑る。


 この絶望の体現と言い換えて良いものを環視の元で逆転させる。それで未来は安定する。


 

 「お前は幸運だ。今日という日の、今の時に居合わせ、語る事で知らぬ内に選択を得た。意図せぬ力の片鱗に触れ、長の患いが取り除かれる。我とて生きた肉に潜む毒は見分け難い。良かったな、後は己の体力に気概で決まろう」


 何度も開いては握り締める拳、そして体を左右に捻る。気持ちに体が追いつかないのが見て取れた。


 「ほ、 ほんとうに   いぃいっ!」


 間違いなく、追いついてない。


 「長時間の仰臥で腰にきている様です」

 「…腰痛か」


 うむ、悲しい現実よな。しかし、横か下を向けば必要以上の流血を促す。そして、求められるは本人の発奮。

 

 「腰は別にしてだ…  それなりに元に戻ろう。苦労した他人との距離も、そこから生まれた心の持ち様も、不味くも美味くも糧は糧。掴める今に足掻けよ」


 労りと優しさで道を示し、希望の言葉に託して未来を一つに固定する。




 「そうだ、悪血を出し切れば楽になる」

 

 押える腕を擦って医官が鼓舞すれば、全員が続く。


 「混じってないのならば幸い」 「忍耐は強さと比肩する」 「何一つとして負けていない」 「抗え」 「終わりは今ではない」 「意地でもしがみ付け!」


 口々に励ます声に応え、震える指先。



 「ぅ …う、 あのく そ、ぉんな   か、ぁあ〜〜!」


 震える喉から上がる声は途中で単なる羅列となり、息だけが続く。それでも上げようとする喉には力が籠もって皮膚が引き攣れ、筋が浮く。


 浮いた筋に齢を見る。


 だが、何だな。誰かを誹って発奮するか。言葉が心を引きはしたが、そっちに向いたか。重ねる齢で人は優しくなるとも言うが…  重ねる齢で捻じくれもするか。ま、恨み節でも今を乗り気切れれば良いわ。人目を気にせず足掻くが良い。見える巡りの乱高下が感情だけでない事を祈ってやろう。



 ……足掻く気概に好意を寄せよう。しかし、現状に幸いを覚えて刺激に好奇心が疼く己は  省みぬに限る。


 そこに潜む形に名付けるのなら悪癖だろうて。







 「にゃあ〜〜  あーくーびーがぁ〜〜  はぁああ  出ました。 もう寝よっかな」

 「そうしよう、俺も寝る」


 寝る準備をし、ベッドの脇に居場所を決めたアーティスに「お休み」。尻尾返事によしよし。


 「は〜、今日の営業は終了でーす」


 ボスッと倒れてごーろごろ。

 

 営業と言ってみたが何も売った覚えはない。まぁ、猫顔は売った。大きく騒がれなかったし、異常に嫌悪な顔はなかった。


 大丈夫。


 セイルさんの言い含めがあったにしても、最悪はなかった。大丈夫。やってイケる、きっとイケる!


 それに、風呂番のじーさんと仲良くやれそうで嬉しい! 枯れ枯れもそれとな〜く流して謝っとこう。 ……良い枯れ具合なら風呂の焚き付けでグッバイか? 一石二鳥の荼毘だとか?


 いにゃーん、考え過ぎでーす。



 「うん?  アーティス、お休み」


 寝間着に着替えて、こっちもよいせっと。そして、ひょいと手首を取られて脈拍測定。


 …はれ、普段より時間が掛かってね?



 「どした? なんかヘン?」

 「…や、俺の欲望がちょっぴり力を流しても〜と希望を囁くので迷いが生じ」


 「……おま、それダブルなスタンダー「君の水準が上がったのなら、合わせて上げていかなくては!」


 「あえ?」

 「染まったのは確定です。回数出たから、もう不動! 感涙! 絶対に染めて覆ってみせると意気込み、できると確信してましたが… くあーーーー!」


 いきなりアゲアゲ、拳をグッと良い笑顔。



 きゅぴーん!


 大変喜んでいるが回想するとおかしい。どこかで何かが妙におかしい。小さな光りが点滅して「ここ、ここ!」とアピールしてる…  小さいと無視するにはキラキラしてる。


 見上げる顔もキラキラしてる。


 寝たままでの指摘は危険だとのーみそが警告するので、起きてボソッと言ってみました。



 「なぁ、セイルさんのに染まってね?」


 




 「それで良い」


 楽しみだけで生きてはいけない、にしてもな。


 風呂場であって良かったが良くはない。この場を陣取り、汗を流す事もできぬでは不満に臭いも溜まってしまう。不幸はわかれど巻き込まれは微妙だ。心の余裕に観点は、何時でも狭量と手を結びたがる。




 「もう少し、右寄りに」

 「は」


 一人が立ち位置を正し、互いへの目礼で息を合わせる。


 「角度は五段階まで、勢いは三から二へ、全体を落とす形に、着底後の円周は左からの内向き」

 

 続く分割に継続速度等の指示を聞きながら、老体を確認する。


 「始めます」

 「頼もう」


 静かに術式を構築していく、そこからの展開の早さには満足できる。




 トトトトーー  ンッ… 


 重みを得た形が雫となりて沈む瞬間に、玉と形成されて生まれ変わる。変身に落下を競い、床へと身を弾ませ、軽やかに飛び跳ねて風を纏う。纏いの裾に水気を乗せて広げて世界に誇示する。



 トトトンッ トーンッ 


 繰り返しに勢いと大きさが落ち、床を滑り始めれば配置した術式に引かれて突き進み、当たって小さく飛び散った。次々に散って生まれた小玉が再び勢いを得て、振り子と等しく滑り出す。


 床と壁を滑りに滑って転がり続け、色を食い、色に染まり、痕跡を消していく。


 軌道が重なれば、互いに互いを飲み込み合う。元は一つ、共に還ろう纏まろうと大きく振れて回転する。二つが一つとなった玉は、次第に回転速度を変え緩やかに転がり一点を目指す。


 同じ質、同じ物、同じ内包物。


 式に導かれる全ての玉が曲線描いて集結し、ぶつかり、音もなく結合し続け完全な一つとなって自転する。自転の力を内へ内へと振り向けて圧縮し、状態変化を経て終結した。

 


 「仕上がりましてございます」

 「よし」


 受け取れば、肩の力が抜ける様子に苦笑する。しかし休息を取らせず、使い続けているのも事実。最後の始末は俺がするかと床へ力を落とし込む。


 「うわ!」

 「は!」  「…!」



 下から上へ。


 床一面に浸透させてから一気に引き上げ、世界に向けて放出する。おかしなものは力に従い、さっさと拡散してしまえ。


 「手が…  足りませんでしたでしょうか?」

 「何、軽い補いよ」


 それに程度の助力が老体にも効くだろう。

 


 


 「そちらを」 「移すぞ」


 「おう」


 横滑りに押し遣られた体が担架に移り、生地が沈みと張りを持つ。

 


 「よく耐えた、清き眠りの訪れを」


 青白くなった顔、緩慢な動作。答えようとする意思が僅かに瞬かせる。肩に手を添える事で健闘を称えた。


 「ゆるりと休め」

 「後はお任せ下さい」

 

 一礼して出て行くのを見送って、終わったかと思えばそうでもない。





 「次期様、仮定の話ではございますが」


 口調はまだしも、薄い青の目が興奮に煌めいていた。言い回しに理性を期待してみる。


 「真に破砕を帯びるは爪でしょうか? 能力でしょうか? 爪を切ればどうなるのでしょう? 二つの姿、変貌で力そのものが変質するとは思えません。ですが、それが変わるのでしたら」


 疲れを感じさせぬ口調で、仮定も何も単なる実験願望がべらりと出た。次から次へと希望が止まらん。理性が好奇心と興奮に食われたか。まぁ、恐怖心からのナニかでないだけましと言うもの。


 「風呂に入るぞ」

 「え?  あ、はい! ご用意を」


 「お前も付き合え、続きは中でだ。お前達はどうだ?」


 「「 は! 」」

 「ご一緒させて頂きます!」 

 


 薄く笑って顎で呼び、服を脱ぎながら考える。


 どの辺りでこいつの理性は戻り、興奮は治まるだろうかと。それによって水風呂に叩き込むか、それとももっと手早く手っ取り早く… 





 いかん、俺のでないわ。



 しかし… そうよなぁ、やり過ぎは禁物だが安定と引き換えなら〜  よしよし、そこそこでだな。





 


 



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