168 更に飛びます!
夕方と言われても〜 まだまだお日様ステキです〜。
降り注ぐ光り、風の流れ、命が紡ぐ音。風に乗ってる色んな音は、地下では聞き取れなかった世界が回して巡る音。
音は全てと共に体に入る。
巡りに返す小さな音は世界に溶けていくのでしょう。その音は意識しないとわからないのか、無意識だったらわかるのか?
その場限りのもんな気もする。
あ〜、背中がほんとにあったかい〜。俺の細胞生き返る〜。このあったかさの流れにふーんわりと乗ったらメリーさんみたく飛んでいけそ〜。
ほんと、風に乗って飛んで… そーいや、あれは飛んでいったでいーんだろーか? いーんですよね? 望みどーり、飛んで昇って散って消えて〜〜 いったんですよね? いきましたよね? そこら辺の草葉の陰に居残ってたりしませんよね??
「はぁあああ〜〜 良い風だ。この風に散らすなら悪くない」
わかる現地のお人が気を抜いた。
背中が語る、おんぶでわかる気の持ちよう!
安心が安心を呼ぶ絶対の脱力がストレスフリーを連れて来る。そしてフリーは「俺は全てのフリーダム!」と高らかに優しく楽しくうひゃひゃひゃひゃ〜っと眠りの粉を撒いていく… ああ、逆らえなーい。
「ウォン!」
「ほっ!?」
「手が離れると危険です。意地でも足は放しませんし、倒れませんが、君の後頭部が俺の足を直撃したら愉快な結果が訪れます」
「おおう…」
眠気を払うアーティスが頼もしい。が、眠りの粉の威力は絶大で眠い。
「…君は目が良いのかな?」
「へ?」
「それとも、悪いんだろうか?」
「ほぁ?」
「君自身、思い当たる事は?」
「ほああ?」
「 あ、ごめ。 説明忘れてた。 えー、多過ぎる力が君の目にキましたが、過剰が取り除かれれば大丈夫。このままずっとなんて事はありません。大きな括りで纏めれば急性中毒です」
「…アルちゅー しか知らね」
「ん?」
「酒」
「あー あれとは別だね、あれは瞳孔が開く方だよ。俺が心配してるのは… えー… 過剰な力は体の弱い部分を突く事が多い」
「…へ?」
「逆に力の目覚めを促す事もある。釣りか連鎖かってな言い方もできる」
「……ほぉおおお」
「でもさー、子供の内に大体やってるから。ほぼ見込みはないし、絶対の二択でもない。単に『ソレで終わり』もございます」
「うおぅ、期待外れ」
「君が見てる光りは間違いなく、兄さんの力が原因です。覆ってたのに… どちくしょー!! 全体にまで及びやがったーー!! 俺の努力をあっさりとーーーー!!」
「あ、あう」
「ワオーーーーンッ!」
突然でしたが、空に向って吠えるとアーティスが釣れるよーです。
「上がってやる… ぜっったいに上がってやる! 飛び上がってやるともーーー!」
ギャオーーーンッ グアアア〜〜
「オンオンッ!」
…竜も一緒に釣れたよーです。とてもとても大きな釣果で俺では釣れそうにありません。しっかりした釣り糸でないと〜〜 って、こっちのテグスはどうなんでしょう? ……やっぱ、天蚕糸?
「そうだな、腹が減ったろう」
「キュッ!」
アーティスが素早くお座りしました。目をキラキラさせて「ごはん!」と言ってるのがわかります。単語の理解度高くて賢い。
「ウォン!」
誉められ撫でられ言われた事を理解して、ぐるっと回って俺らに体を擦り付けて「ごはーん」と駆けて行きました。足取り、ほんとに飛ぶよーです。そして腕を脇に引き締めて、足を放さずしっかり撫でたこいつは器用。
「時間… 早くな?」
「居なかったら、竜達が呼んで催促してくれるよ」
「…そーか」
ご飯の呼び鈴は自分の声と竜の声。飼われる環境で色々違うと言いますが、多頭飼いなーんて言葉はどっか違う。
「じゃ、行きますか」
よいせっと負ぶい直され進みます。首元に額を当てると寝れますよ。
「はい、着きました。起きてますか〜?」
「…あぃ」
何時の間にか建物に入り、何時の間にか風呂場に着いてました。安定した揺れは揺れない不思議なリズムが安眠を誘ってたよーです…
見覚えのある脱衣所、二度目の大浴場。
そこに誰も居ないとゆー訳もなく、『お待ちしてました』状態のおじーさんがおられまして、おんぶ状態でご対面です。つか、頭下げてらっしゃるから〜。
「今日は洗いに時間が掛かり、まだ湯が整っておらず申し訳ありません」
平身低頭の姿に、『予定外ですんませーん』と思いながらもノーコメント。任せる。そんで、足を床に着けて〜〜 ふんっ! あ、しんど。椅子、椅子はありませんか? あ、そこ。
「はい、半ばでしてまだぬるく」
「十分だ、慌てさせた」
「お見えになられた方が寄越すと言われて」
「…そうか、要らんのだがな」
「お断りしておきましょうか?」
二人が話すのをぼへーっと聞いてます。それよかキラキラが激減したのに、やほー!です。風に当たったのが良かったんだな。散る散る飛ぶのに例外はないんだな〜。
うん、水と違って体内の取り込みじゃな い、か ら… 待て、呼吸はどうなる? 普通にしてたぞ。そうだ、自分で回るとゆーてだな!
「彼の紹介をしよう」
はい、意識切り替え。
じーさんをまじまじと見た。空気中の光りはまだ見えたが、この人の周囲にはなかった。せんせーやリアムさんからは普通に普通に滲んでて、空気に溶け込んでったよーなモノがあ〜〜 いや、俺の記憶は怪しい。キラキラで怪しかったのーみそは怪しい。
んで、このじーさんも怪しい。めっちゃ怪しい!
「どうぞ、よろしくお願いします」
「あ、はい! こちらこそです!」
顔に! 顔にガチな線が走ってるーー!! ちょっぴりだけキラキラが滲んでる黒のギザ線が人の良さそ〜うなじーさんの顔を渋い ya ku za の雰囲気に変えちゃってますがーーーー!!
「すいません、年寄りなもので目が弱くなりまして。よく見えずに」
「え。 いえいえいえいえ! お気遣いなく〜〜」
「風呂の管理は彼だから、こっちを使いたいと思ったら伝言か自分で ね」
「……ぬ」
にへーと笑っていきましょう。世界の扉は開いてる。開いているから、じーさんの名前も知れるのです。飛び込まず〜にー いられるかーい。
「温度確認してくる、脱いでて」
「お手伝いしましょう」
「え、それっくらいはだいじょーぶで〜〜」
……熟年のプロの手際とゆーものは恐ろしい。手間を掛けてはと思う所為で言われたとーりにしてしもた。なんだかおガキ様にでもなったよーで 物悲しい。
「居られますか」
「ほ?」
「はい、こちらに居られます!」
声掛けと同時に入ってきたのは、布包みを持ったクライヴさんでした。俺を見て、心配そうな顔をされつつ入ってこられる。
そして俺は見た。
クライヴさんの出現で空気中のキラキラが掻き回されて、もわっと飛んだ… まじで飛んで舞い上がる… ホコリじゃないんだからさ〜〜 やめてくんねえかなー?
クライヴさんの輪郭に添って飛ぶキラキラが〜〜 はれ? クライヴさんて… キラキラ弱い? え? 弱い? え? まさか、クライヴさんて力が弱い人!?
「力に酔ったと聞きましたが…」
「あ、それとは少し違うそーで」
「酔いでなければ魔力中りでしょうか? 逆上せ… ては、いないようですね」
「それではないよーで」
ちょろっと話せば後ろから声。
「あのね、量は少し あ? もう来たのか」
「いえ、遅かったと申し訳なく」
「いえあの ごめんどーをおかけして」
「制御環の確認に少々時間を」
「してきたのか」
布包みをどかしたら、手首にキラリと光る輪っかを嵌めてらっしゃいました。この前見せてもろーたのと違うヤツです。スタイリッシュな感じがイケてる別物です。そうか、これが新型か!
「…気を遣わせた」
「いえ、お役に立てれば」
なんや二人で話し出す。
ちょっくら気を抜くと、のーみそぼや〜〜っとしてきます。掛かる圧をどこで抜けば良いのか、わかってきたよーでわからない。
気分転換に話し掛けようとしたら、じーさん居なかった。あれ?で首を回したら何時の間にか後ろに下がってた。頭を下げて控えてた。
気付かない俺って… 抜けてるか?
「すまんが、また着替えを頼む」
「はい、取って参ります」
そして、じーさんは外へ行き。俺はクライヴさんに腕を取られて風呂へ行く。介護のよーで自分が怖い、怖いが括った腰のタオルはしっかりと!
じーさんいなかったら完全にタオルはなかっただろう… じーさんは大事だ。
ざぱああっ…
「これでイケる?」
「…ん、大丈夫です」
立ってます。足元にお湯掛けて貰いました。んで、足首・脹ら脛と掛けて貰って、座った方が効率良いだろと思ったら座る指示が出ましたよ。
「で、洗い流しが一番確実なんですよ」
「はぁ」
「周囲からの影響を受けて、ですので流すのは有効です。冷えておられますし、手早く致しましょう」
二人が言ってる事はわかるんですが何でこんなに意気込んでんの? この意気込みに躊躇いを感じるのは何故だ?
風呂場で正座は無理。
体育座りも微妙ですので胡座で湯船の前に座りました。
「では、始めます」
「きっちり流すから頑張れ〜」
「へ?」
ざぱっ!
湯船から直に汲んだお湯が足と腹に掛かります。
ざぱぱっ!
それから肩です。
左右から交互に湯が掛けられます。沸かし途中なのを思いっきり使い込むのです。
ざあああっ…
そして、頭からも頂きます。うん、前と一緒。
「じゃ、次は中からやるから」
「動かないで下さいね」
上半身は裸、ズボンは膝まで捲り上げた二人が湯船に入ります。気分は「へ?」です。
水量も足りてない沸かし掛けとはいえ、湯船に入るんなら服の着用は良くないです。しかし、しかぁーし! 真っ裸の男二人が正面に陣取って湯を掛けてくると思えば… それは絵的にナニか間違っている。だから、今は間違いない。
「では」
ざっぱ、ざっぱ、ざっぱ、ざっぱ、ざっぱぱぱぱぱ!
「ふおぉおおっ!?」
「口は開けない方が良いですよ」
「ちょっ ちょーー!」
「諦め」
ざぱっ!
途切れる事なく湯を掛けられます。桶一杯のぬるま湯を、ざぱっ!とです。ばっちゃ!ざっば!と二人して、息の合ったリズムで連続攻撃してきます。遠慮なくとゆーより容赦なく!
ばしゃっ!
水を被る度に、体から滴るとゆーより滝落ち。
「頭を下げない!」
「背中は後です」
ガ、ガード… 俺のガードがガードの役目を放棄せずにガードとして水を掛けてくるからガードを持たない俺は至近距離からのW攻撃に負けそうなのです! 早く終わってくれええええ!!
「まだまだぁ!」
「数回では意味がなく」
ざばっ!
ざんっ!
桶一杯の水が重い。なにこの罰ゲー。
「は… は、は、 はぁああ〜〜」
「最後を締めないとな」
「はい、それがよろしいかと」
俺はやりきった。
のりきった。
ぬるま湯の荒行をたえきった。
俺は、俺は、苦海のみそぎをおよぎきったのだ〜〜。
「足元から」
ざーーーっ
「みぎゃーーーー! つべたあーーーーーー!!」
あらたな みずが ながれて くるとか!
「足とケツがあーーー!」
「ご安心下さい、氷水は使用しておりません」
「使用されたら俺の心臓、飛び跳ねまあーーー!」
「飛べるくらい元気に」
「やめれぇええ〜〜」
「だって、湯中りになるからあ〜〜 それ」
じゃっぱんっ!
「うひょーっ!」
俺の為にとドコまでも引かないこいつが水を流す。笑顔で腹へ攻撃するとか、なんてヒドイ ってええええ!!
「タオルが、れいすい! はりついたあーー!」
きゅーしょと内股がつべたいです… 身も心も引き締まりますが血管も引き締まったと思います。急激な変化って良くないと思うんです!
「はい、背中にざーーーっと」
「ふぎゃああああ!」
「大袈裟だなぁ」
「締めですから、もう終わりますよ」
ざざざざ〜〜〜〜っ
「はい、これで終わり」
「ほ、あ、あ、あ〜〜〜」
その後、体をちゃちゃちゃっと洗って貰う介護を受けました。終わりましたので、少しだけぬるま湯に浸かります。浸かるのです!
「今はお止めになられた方が」
「えー」
「爽快と引き換えに倒れそうですよ」
湯船を前に入らないとか…
「でしたら、もう一度お流ししましょう」
「はぃ…」
倒れた後の面倒を考えて従う。
ざぱーーっ
頭から頂いて上がります。立ち上がり、ふらっとしたのは気の所為じゃない… あいたー?
「大丈夫ですか?」
「は… 何とか ぶじで」
ガタ、ガタッ…
体は妙にほかほかであつあつです。逆上せたとゆーより体力切れだと思います。
クライヴさんが背凭れのない幅広の椅子を三つ並べてくれたので、有り難くごろりーっと。
「俺も流してくるよ。 …生きてますよね?」
「自分がおりましょうか?」
「……いきてる〜、ひとりでいれます〜」
クライヴさんが居ると、また ん?
「お待たせを」
扉を開けて入ってきたじーさんは空気を読まない。そんで手には涼し気な色と音。カラランッです! 飛び起きます!
「れいすいー!」
「はい、果汁入りです。美味しいですよ」
カラッ…
注いで貰ってごくごくしてる内に二人は風呂場へ戻りました。そして、じーさんがタオルで扇いでくれます。
「ぷはあ〜」
「外の風に当たると落ち着けるのでしょうが… もう少し、休んでからの方が良さそうですかねぇ」
「すいま… せ」
「ああ、違いますよ! 中りも酔いもしんどいと言いますから」
涼しさ、いきなり吹き飛んだ。じーさんの顔見たら飛んでった。ナチュラルに黒のギザ線消えて、代わりに黒子が出てきてた。顔に黒子が散ってるじーさん、雰囲気違ってこの人だぁれ。え?
「あの?」
「どうか?」
「あの、ここ?」
「何かついてますかね? どっかで汚れましたかね」
「えーと… ちょっといいですかあ〜」
手で擦っても落ちない様子に、コップを置いてそろ〜〜っと手を伸ばしてみたんです。
指で黒子に触れますと皮膚にポッチはございません。それならコレは染みですか? お年寄りによくある染みと皺。お肌の張りは、きっと適度なお年寄り…
一つ触れ、二つ触れ、一番大きな黒いのを、そーーっと擦る。擦ったらうっすくキラキラが滲む… え? 滲むもん?
「もしや… お見えなんですかね?」
キラキラでキュキュッとしたら薄れました? キラキラ洗剤… いや、石鹸? それとも、研磨剤? いやいや、そんなんあるわけねーだろ。 黒子じゃなくて単なる汚れ? インキみたいなん? えーー…
「ああ、ああ、そこでしたら」
「…いにょっ!」
「あちっ!」
「いっ すんませっ!」
爪が当たってしもーた… やってしもーた… うわ、まっずぅ! 立場上、抵抗できないお年寄りを虐待した事にぃーー!?
「…はれ?」
じーさんが庇った手を除けたら黒子はドコにも残ってなかった。一つもなかった。あんなにポツポツあったのに、なんでないよ?
しかも、じーさん『あー、痛かった』っぽい顔して終わり。しかし、俺が引っ掻いたのが赤くうっすく。
「はー、お目がよろしいんですなぁ」
「へ? …いえ、ぶじでよかったです。よかったんですが」
「はい?」
「なんでないんでしょか?」
「は?」
口を開けたまんま、じーさんと顔見合わせた。
「さ、猿! 猿ってこーんな手ぇした毛がごっわごわのこーんな!」
「そうです、そうです。それで顔がこーんなので」
「はい、知ってるー!」
「襲われた事がおありで?」
「はい、俺もあります! あいつら、身はくっせーって!」
じーさんと猿談義に花が咲きます。
その前にパンツ履きます。さすがに履かないと微妙です。
「あの時、きっちり使えるのが五人でした。群れにやられたんですよ」
「む、群れってどんくらいの?」
「そりゃあ、雌に子供も入ってんで百は下りません」
「うえええええ」
「もう一杯、如何です?」
「あ、ありがとーございます」
くはあ〜、レモネードが五臓六腑に沁み渡るぜぇ〜。
「じゃあ、チーム戦になったんですか?」
「あー、それは〜 確かにそう言えますが。 元々、その時限りの寄せ集めでしてね。こんな事になるんなら、手ぇ上げるんじゃなかったとも思いましたねぇ…」
心躍る冒険譚を語ってくれるのですが、その口調は上がったり下がったり。見上げる顔は、時折、にぃ〜〜っと笑うが遠い目をする。
年とゆーが… 視神経をやられたんじゃねーかと思います…
「一番強かったのは女でしてね。あんまりにも強いんで貴族の落し胤じゃないかと噂に上った女でした」
「貴族じゃなかったんですか?」
「ええ、貴族じゃあなかったです。気取るにしても、ちょいと違う感じでしたし。それなりに我が儘でしたが、女ですし、実力があればそんなものです」
苦笑も少し変わると、ちょい微妙だね。
「それじゃあ、油をつけましょうか」
「え?」
返事の前に瓶を手にして、一滴ぽちょん。手を合わせてくーるくる。
「艶出しは女に限ったものではありやせんよ」
「お願いしまーす」
髪を乾かすのと一緒にヘッドスパ! そんで髪はなが〜〜い友達。ドライヤーはないし、ふわんもないが横になって人にして貰うって最高です!
「うわー、うわー、気持ちいー」
「そんなに良いですか? 誉められるとはりきりますよ」
昔、冒険者。今、風呂番でお庭番。
お庭番とゆーても掃除がメインのお庭番。そーなると人はじーさんを負け組と笑うのでしょーか?
んでもなー、領主館での雇用だから収入的には安定してね? 支払いが滞る事もないだろ。 …うーん、うーん、領主館が積極的に障害者雇用を行っていると考えたら安易な首切りはないと思うんだよなー。
「あの猿は攻撃性も強けりゃ縄張り意識も強いんです。そんな奴らの群れの移動に搗ち合っちまったんですよ。なんて運が無いと嘆きました」
猿退治に出掛けたんじゃないなら、それは不幸な遭遇です。
「先頭は若いの、次に中堅、その半ばか後ろに群れの頭が居るんです。そっから群れの広がりを抑えたり、遅れがちになるのを注意したりとしてんです。あの時もそうでした」
生態を知っていてのバトルは優位に立てるはずですが…
「いえもう、それで怒るの怒らないの以前ですよ」
「は… うっわちゃあ〜…」
はい、猿の大群からの逃走に失敗してバトルに突入です。そんで、やっとこさで漕ぎ着けたボス猿戦を前にして一番力が強い女の人が戦線離脱したそーです… それも怪我とかじゃなくて不意に離脱したそうです…
「移動で気が立ってた所に血も流れたしで、もう向こうはヤル気満々でした。その状況でしたから、「はあ!?」でしたよ。こうなったらヤルか逃走させないと終わらないってのに、いきなり持ち場を離れやがって… お蔭でまぁズタボロになりました。
その時のです。こう、ジャッとなってましたでしょ? だから顔面血だらけのダラダラで… 視界が赤く染まると言いますが、ありゃあ色の問題じゃありませんや。涙が回って潤う目玉は血も留めるんですねえ。ほんとーに前が見えなくなりまして。「こんな形で死ねるか!」と必死になれましたよ〜」
唾は飛ばんし、マッサージの力の加減が変わらないのが救いです。これが感情を伴って、ぐぃいいっ!とされたらのーみそ壊れると思います。
「…ナニがあったんでしょ?」
…返事がない。ただの屍ではない沈黙のじーさんの取り扱いは …うぬぅ、間の取り繕いも難しい。
そして、じーさんの遠い視線に嘘を吐かない百面相にどう言えば!! 「女の人、ひっでー!」だけが正解か? 普通に酷い事態だと思ってるが。
「今、思い返しても酷いとしか思いませんねえ」
…でしょうね。
「だってですよ?」
ボス猿戦が何とか終了後、色んな意味で死屍累々の中、女の人はひょっこり帰ってきたそうです。言われるコトには、より強い力を感じたんだそうです。で、そっちを追った。追ったがわからんなった。だから、その辺りを調べてから戻ってきた…
「頭が目の前に居て、そっから逃げた奴が何言ってんだと思いました。ですが、ほんとに居たらコトです。とっととずらかる事にしました。それでも、比較的元気な奴が確認の為に女が駆けた道を駆けました。でねえと不信が残ります。
結局、女の裏付けは取れませんでしたが猿の死骸なら幾つも転がってたそうです。 …転がってたのはガキ猿が多かったそうですがね」
うーわ〜〜、できる女の人が弱いのばっか狙い撃ち〜?
「まぁ、何を言っても戦闘してたんです。普通は逃げちまいます」
「ですよねー」
「…それでも、あったと言えば」
確認に走った人は、女の人が言ってた場所から離れた所に角を持った獣を見たそうです。それも大きな角だったんで、「こいつか!」と思ったそうですが正体は羊だったそうです。
「子羊がべえべえ鳴きながら出てきたと言ったら、こっちを威嚇する理由がわかるってもんでしょう? 親ですよねぇ」
子猿の死体が転がる中で見た、羊の親子の愛情ですか…
「わかる奴が魔獣でなかったと言い切った時点で問題外です」
ひーつじ。ひーつじ。
ひーつじ〜のー ぽーちは〜 げーんきかな〜〜?
がぁけ〜のうーえから のーぞんでる〜〜 ひーつじ〜のぽーちはつーよいぞ〜〜 しぃた〜のさーるを〜 けっちゃうよ〜〜ん。
「凶暴な猿を従えるのが羊ってったら笑いますでしょう?」
「そうですねー」
のーないのお歌は口遊めません。じーさんの笑みが微妙に黒いしな! しかし、あの凶悪な猿と可愛いぽちじゃ〜〜。
「羊の裏ボスって想像できないです。猿に跳び乗られてガブッとやられたら反撃って転がるだけじゃないですか?」
うんうんと頷くじーさん。
その場の応急手当に街での治療。金の話。
怪我は上手いこと治して貰ったが後になって後遺症的なもんが出た。その頃にはとっくにチームは解散してる。そら、ホームじゃなくて資金集めならグッバイだし、気まずいなら離れる。
慰謝料っぽいの貰って円満解決なら、もうダメってか… 難しいよねー。
「治ったはずで、傷も残ってないココが痛む度に思い出しました。「異様な力を見過すなんて馬鹿じゃないの!」と言い張ってたのを思い出すと、どうしようなく腹が立ったもんです。得手不得手はありますし、大した力でもありませんが… そんな異様な力なら、どうしてお前だけが感知できた?と疑問が尽きやせん」
「その女の人だけが誘き出された… とか、そんなん検討済みですよね?」
重々しい頷きがねー。
「死ななかっただけ、ましなんでしょう。死んだ奴もいましたから。だから、あいつが離れなければと あぁ、終わった愚痴です。聞き流してやって下さい」
じーさんの手付きは最後まで変わらなかった。スパも終わったよーなので起きます。しかし、うーん… どう話を…
「いやあ、すいません。猿の話なんて久しぶりで、お聞き上手でついつい長話をしてしまいました」
「え? いえ、俺は 俺の時とは違ってとか思ってたりして心苦しく」
「ああ、そんなんほって良いですから! それよりこの治療跡が見えるってのは、よっぽどです! お目が良いんですなぁ」
「…へ? えへ、そうかな? そうなるんかな〜?」
「はい、そうですよ! さ、もうこちらも着ましょうや」
「はーい」
話の終わりに乗りました。
持ち上げに、ちょっと気分も浮上です。貰ってる染まろうにセイルさんの力がガツンときたお蔭のよーです。 …お蔭には地獄のよーうな付属が付いてましたけど。
「はぁ、手を借りたな」
「いえ」
「ああ、待たせたね。気分はどう?」
出てきた一人の肌は良い色になってました。そんで真っ裸です。後から出てきた人が濡れてべっしょりなズボンを持ってます。
じーさん、乾いたタオルを取ってスササササッと場所移動。
…完全把握空間だから、あんなに早く動けるんですよね?
「ほんと?」
「うん、もうなーんも光ってない。落ち着きました」
「それなら良かったあ〜」
「どーもお騒がせしましたー」
クライヴさんにもご挨拶すれば、「いえ、自分は何も」と微笑まれます。手早く体を拭くこちらも湯上りの良い肌です。そして、輪っかが光ります。
「すっかり日が落ちてるー」
外は涼しい。
歩いて部屋に戻ります。戻れてます!
以前と同じよーにおんぶで帰る事態は避けられた。靴もある! 素晴らしい!
「夕食は部屋にしよう」
「食堂まで行けるけど?」
「今はヌケて落ち着いたと思えますが過敏状態ではあるでしょう。一度に二度のやり直しは大変です、主に君が」
「あいっさー、大人しく部屋で頂きまーす」
「それが無難です」
言葉に続くクライヴさんの軽い笑いも嫌みなく聞こえて良い感じ。今日も色々ありました。はい、地下の様子も知れました。知識がとっ
「あーーーー、ご対面ツアーーーー!!」
真っ青なった。
精神さくらんまでいってなくても〜 お呼びが掛かってたのに。
「……まさか、今から行くとか?」
「寒いですよ?」
牢の方角に首を回す。
口をうにょーんとしてみる。自分の服装を確認。軽装と判断。
「明日でもいーよねぇええ?」
「問題ない」
「体力の回復はこれからです、賢明な判断です」
二人の言葉によしよしと頷き、のーみそかる〜く部屋に戻ります。夕ご飯を貰うのです!
しかし、何故かのーないに天秤が出現。
天秤に乗るご飯はキラリと光る玉になり、その反対にじーさん出てきて乗りました。じーさんは後悔と苦痛の二つの玉に変身です。
天秤、右に左にゆーらゆら。
俺は迷わず燦然と輝く命の玉を手に取ります。命を選択します。体の洗濯はしたばかりです。
苦悩も後悔も感情です。
感情は彩りです。彩りが命を抑え込んでどーすんでしょう? 離れ難い二つで二つは欠けてはいけないものだとも思いますがあ〜〜
「夕食は何だろうね?」
「ほんとだ、何だろう? あー、お腹空いた〜」
「しっかり、お食べ下さい」
「はい!」
もしも、行ったらナニかありそーな気はすごくしますが… ご飯でーす。
ザクザク歩いて通ります。部屋の灯りは点いてない。ですが、そこで見えた黒い影。
「ワォン!」
「アーティス!」
飛んでくる黒い影を手を広げて待ち構え、そーれぇえっ!
「おおっ」
「ふはははは! 何時までも同じ俺だと思うなよ!」
アーティスの肉球ぺったんからくる押し倒しを華麗に飛んで回避した!
「と とととととっ!?」
着地に足がふらついて、手ぇついた。大地にぺたり。
「ウォン!」
「だあっ」
「残念、飛んだのにね」
「飛んだのに更に飛べとか! なにそれ無理です!」
「キュッ!」
鼻面寄せてくるアーティスは気にしない。嬉しそ〜うにグイグイと。俺の失敗を失敗とも思ってないアーティス。
そうだ、俺は遊んだだけだ。飛んで遊んでみただけさ〜〜。