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真剣に手を嗅いでおります。
黒い鼻をピスピスさせて、しつこくしこつくフンフンです。
持ってないか?隠してないか?と疑い続けるアーティスを笑えない。笑う根性はない。地下の寒さにお腹を空かせているのだと気付いた時点で! もう、ダメです…
大事な事に気付いてやれない… 飼ってる自覚もありませんが自分の飴だけ考えて、連れてくアーティスの事は忘れてる。その飴も忘れた俺は終わってる… うわー。
諦めて、しょんぼり。
怒らずに項垂れる。なんで無いのぉ?な目で俺を見る。
心臓ずっくしきましたが、どうしてでしょう? 何でか明るい目になって、尻尾がゆっくり振られます。
嬉しそ〜うに尻尾が〜〜 ふ・ら・れ・ま・す〜。
だあああああ!
「上がりまーす、戻りまーす。本日のツアーはオプションを除いて終了となりましたあー」
「そうしなさい」
「アーティスに頼むのが早かったか」
ちょーっと名残惜しいですが、もう良いです。地下は逃げません。また来る時はブーツができてからでいーですわ。
皆さんに手を振り、ギルツさんのお返しに更なるにぱーを返して階段を登ろうとした。
「領主様、こちらですが」
牢番さんの呼び声に、きゅぴーん!とナニかを感じます。素早く振り返る。何時の間にか一番奥にいる牢番さん。そっちへ歩いていくセイルさんが指を弾くのを見た。
弾いた瞬間、光りが生まれる。
牢番さんへと飛んでく、白色球。魔法の様に生まれた光り。世界基準で言えば、それはそれはちっぽけな光りでしょう。それでも世界の手を借りずに生まれた光りです。
『おそらく、糸が全てをですね』
『その糸も上よりは下が』
『経過が関わるので断定は危険ですが』
わかる皆の総意なら、此処はそーいう場所。それなら、あれはセイルさんの生命力の輝きで正しいはず。
たーましいの〜 ひっかっりっは きーんぎょっ でっ みったっがっ♪
ほんとーに半端なく違い、容赦なく違う。この違いは『ゴールドブレンドにある!』としか言いようがない。 …ふ、ふふふふ。 そう言った方が波風立たないもんはあるよね〜 諦めじゃない納得ってえのはねー。
「ワフッ」
「あ、ごめーん。ついつい、セイルさんの光りをだな。いやもう綺麗だよなー。 …あれ、リアムさんは?」
「先行させたよ」
「あ、そか。応援呼ぶんだった。これからが本番だもんな」
「ん〜〜 調べても碌な事にならない気がして嫌なんだよねー」
「へ?」
「お宝とか出ないと思うよ」
「えー、そうなん? まぁ、そっか。地下の目的がわかん… そういや、この上の階の用途は… アレでしたね?」
「あははー、そうですよー? どうしましたあ? 上がそうなら下もそうだと思って不思議じゃないですよー」
「いやー、やめてえー。はっこつしたいも、のろわれたきょーふのぶきも、ちまみれも嫌ですよー」
「最後のは乾燥してるかと」
「あ、保湿成分は残ってないか」
「凝固が始まった時点で〜」
「カッサカサのパッラパラ〜の始まりでーす」
「そうそう、乾燥すれば剥げ落ちまーす」
「うやー」
「ま、実際に行くのは明日だよ。現場の下見に打ち合わせは大事です。さ、もう行こう」
「あーい、なーんも見ずに行きますよ〜っと」
階段の上はアレだと思い出したら通りたくもないが、あそこを通らねば帰れぬのだ! あー、もう来なくていーよーな気がしてきた。 あ。 そーいや、ギルツさんが言ってた別の道は…
「ま、帰ろ帰ろ。お待たせな〜」
よしっと足を掛けたら、背後から光り。強烈。引っ張る手に待ったを掛けて、再び振り返る。キラキラキラキラ光りが散ってた。ぎょーしゅくされた感じの光りが散っていた。
光りの中で闇を見た。
黒いぽっかりした穴がある。
視界は明るく煌めくのに、何処かで見ている黒い穴。何処かにある落とし穴。
「え? 待て、視点ドコだ?」
「え?」
光りに縁取られた黒い穴。
穴は黒点。
「う、え あ」
「だ!」
現実が見え、穴も見える。ダブっていながらダブってない? は? うえー? なにこの二重? …二重? 二重なんか?
あえ?
ガシッ!
「あっぶなー、どしたの?」
腕が痛かった。肩も痛かった。でも、お蔭で後頭部からガツンと行かずに済んだ。しかし、立っていられない。いや、立てない。それより、俺は何を見てる。何でこんなに視界が光ってる? なにこれ? 光りが… 輝く光りが…
「どうしました?」
「あー」
「足、捻った? 立てない?」
「あのですね、光りが見えます。キラキラキラキラ」
「は? …どこに?」
「え? …見えてない?」
しゃがんだんで目が合った。合った視線はキラキラを華麗にスルーする。目の前、光ってるのに見えないとか。
「……どこで光ってる?」
「お前の前とか顔とか全部にチカチカついてます。ここら辺、どっこ向いても光ってます。 お、俺にしか見えてないとか… え、まじ?」
「俺の前? ここ? ここ? ここが光ってる?」
「うん、こここここっ」
手を右へ左へ振るのに合わせ、つつつつんっと指遊び。 …うん、これも爪には灯らない。灯ったら〜 カッコイイのか鬱陶しいのかわかりません。
「爪が?」
「いや、そーでなく。うーん、キラッキラしてるんですけど」
「…キラッキラ?」
「はい」
「光学現象? …は、この現状でか?」
自分で言って自分で突っ込む。ちょーっと皮肉の入った笑いです。でも即座に、のーみそ回転し始めたのがわかります。俺の魔法の本が検索を始めました。ページがヒットするのを待ちましょう。ほんと〜に頼りになる百科事典です。
しかし、キラキラってナンの項目になるんだ?
「ヒュッ」
何か聞こえた。
「ヒュ〜〜ン」
アーティスの鼻声だと理解。しかし、ドコに居るのか姿が見えない。
「ヒュッ」
上で呼んでるんだと気が付いた。アーティスはもう登ってる。上で待ってる、まだ来ないと呼んでいる。
そうだ、おやつをあげないと。こんな光りに構ってる場合じゃない!
「…あのさ、この光りってどーやったら消えんだろ? キンキラのピカピカが… ちょっ だんだんキラキラがひどくなって そーだいに うえぇ? まじでどーやったら消えるんだ? もう消えて下さいよ。 おおお、終わって? 目が チカチカが と、とまんな い、い、いだあ!?」
キンキラピカピカ高速回転始めたあ!? 見えてるもんが痛いです! のーみそ爆発しそうです!
「え? だ、大丈夫に見えない… ええ? 個人指定、個人特定、君だけに見える光り。 光り… 光り? 見えてる光りは単一? 色に形状は?」
「目ぇ瞑っても光りがー 何かの光りが波打ってぇー 回転しててー うげー キラキラがーくろとー はんてんしてもー」
「ん、どうした? お前達、まだ上がってなかったのか?」
「……まさか、まさか閃輝暗点かっ!?」
ちょー、手が痛いー。そんな握り締められたらあー うげ。
「兄貴、アズサが飛んだ! 超過したあっ!!」
「…あ? ……と、飛んだだああ!? 今か!」
「今だ!」
「うえー、あたまくるー。うるさー、やめてー」
のーみそ揺れたまんま横にぐら〜〜っとしたら何かが止めてくれた。肩の熱と別のナニか。
鼻息と鼻声とべろりんで理解。
手を上げて撫でようとしたが体が動かない。
「さ、 さっさと行かんか!」
セイルさんの声が遠くで止められんとか一定よりとか何とかとも聞こえたが、隣の「頼みます!」しか意味不明。
「アーティス、先に行け!」
「ウォン!」
体がゴロンとなりまして、手が楽になりました。ですが、腹に衝撃が。再びの衝撃が!
「ぐええっ」
ダンッ!
苦痛から目を開けると世界は光りで終わってる。でも、閉じてても終わってる。それでも、階段は見えた。切り取られた光りは遠くなり、階段は黒く伸びていく。
あああ、あんねいのくろをキラキラがとおざけるぅ〜。ふたつがせかいをうめつくさんと たがいにやりあ って んじゃなくて。 たがいがたがいをこっそりたかめてひきたてて〜 ほんとーは なかよく おれを ころそーとたくらんでないか? あ?
うあああ、体がはねるぅ〜〜。もちっと押えてくださーー。
ダダダンッ!
「ぐぇ あぅ」
「うおっしゃああああ!」
俺を担いで階段を登り切ったもよー あ、揺れが はぁ〜。
「…しまった、忘れたぞ。阿呆か、俺は。 …仕方ない。アーティス、頼む。地這いだ」
「ウゥ?」
「暗き道行きに灯火を」
あれ? なんで止まって?
「そうだ、細く」
「オンッ!」
あ、三階には灯り が、あーーーー! 帰りは俺が持つ予定でーーーー!
「おっと、動かない」
「うぅう」
うげ。この体勢は辛い〜 せめておんぶにし こっ の キラキラあ、俺を本気で殺そうとしてやがんなあ!?
「道への連なりに」
ボッ
「上手いぞ、アーティス」
「オンッ!」
歩き出すと揺れるんで、うげろっぱしそうです… しまった、止まってる内に言えば あ? 明るい?
赤があった。
鈍い赤。
細い赤の脇を歩く。
少しだけ顔を上げ、流れを目で追う。
赤の所々に、橙。
ぼんやりと光る赤い流れ。
暗闇を這う鈍い赤に橙は、上手に闇に溶け込んで区別をつかなくさせていく。
白と違って目を射らない。
あの白とは違う、目印とは違う、じんわりとした感じがとても やさ、 あれ? 楽? …お? キラキラ、落ち着いた!?
「良い感じで残らないな。ま、残る方がおかしいが。平気か、アーティス?」
「ゥオンッ!」
「はは、ちゃーんと兄さんの傍に居たものな。本当に賢いよなぁ、お前は。ふふふ。よし、行くか」
階段、再び。
落ち着いたと思ったのは勘違いだったよーで、チカチカにキラキラは再び現れた。そして輝き続ける。少し見えなかった反動か、より光って見える!
気持ち悪くて悪くて… 悪くても歩みは止まらんから振動も止まらん〜。
うげろっぱしそう〜〜 た、たすけてえー。 あ、たすけられてるとちゅうだったあー。
ダンッ!
「う」
「よし、二階に到着!! はぁ、はああ… どう、大丈夫? 生きてますかあ〜?」
「い、いーきーてーるぅぅう〜〜」
「意識、頑張れ。確認の為にも頑張れ。現場から離れないと治まらない。思い遣りと優しさの発揮で現状が手遅れに ふぅ… なってたまるかぁあああ!」
「へ? なんですとっ! ぅええええ…」
「門に着いたら抱き方を変えるから、それまで我慢!」
「オンッ! オンッ!」
自分なりに必死こいて力を入れた。
意識の無い人間が重い事は知っている。これ以上の負担になって、たーまーるーかあああ!!
そして道をゆけば中の人と目が合った。
合ったが色々しんどいし、目が嫌なんで目を閉じる。そしたら、何か言ってます。そうして人は声に釣られる。他からもなーんか聞こえ出す〜。
…聞こえますがね?
俺はぁ、自分だけでぇ、手一杯なんですよ〜。
幾ら言われても知らんわ〜。余力ないわー。つか、何があってどーなってこーなったか知らんのに憶測で物を言うなよー。その憶測はけーけんからだろーが俺はそのけーけんから飛んだけーけんをしとるんじゃ〜〜。てめーのはんちゅー超えとるんじゃ〜〜。
いっしょくたに〜〜 するな、じこちゅー。
ガシャン!
囚人さんが蹴った音にビビりました。体がビクンと反応します。気絶をさせない意識を呼び戻す音なので、もしかしたら良い音なのかもしれません。
「グルルルルッ…」
「へっ! この図体だけの犬っころが!」
音に反応したアーティスを牢内から罵ってるよーですが、担ぎ手は無視しているので遠ざかります。黙ってグッバイです。
大体、そんな事よりだ! 直に感じるこいつの息。こっちの方が問題だ。気付けば肩で大きく息をしているよーな…
あ? 後ろ、煩いですよ。
「この犬っころ!」
「違う! やるなら、こいつだ! 俺は違う!! 巻き添えはごめんだ、やめてくれ!!」
煩いんで顔を上げたら赤色チラチラ。
どーやらアーティスの口から〜 赤い〜 赤い〜 火、みたいな色が滲んでるよー なぁああ〜?
ボッ!
「ぎゃああ!」
「吐きやがったーー!」
一瞬の出来事でしたが、赤い火の玉が直球で飛んだよーに見えました。本当に一瞬の出来事で詳細は不明です。頭、回っておりません。わかりかねます。
「あつ! うああ! この、この畜生が!」
「こ、転がれ! 転がって消せ! おい、もう止めてくれ!」
そして始まるガチャンガチャン。
蜂の巣を突いたよーな騒ぎとゆーものはですねぇ… あっちの牢からもこっちの牢からも一斉に叫び出してからにもう〜〜。気持ちが悪いトコロに響く鉄格子の金属音に複数の人の叫び声ってのは〜〜 本当に煩くてうざくて人の頭を馬鹿にしてくれそーで。
逃げ出したくても動けない、叫べない人間の心境ってのをですねええ。
「あと少しだから」
「弟様、如何為さいましたっ!? あ、直ちに! お前達、静かにせんかあっ!!」
ギ… ガララララッ
担ぎ手の歩みが止まらなかったので、無事に門に到着しました。門前で待機中だった牢番さんは既に待機から対処に行動を移されてたので、実にスムーズに出る事ができました。待ち時間ゼロは最高です。
お椅子様、再び。
座った途端に感じる、この疲労感。体がぐたーっです。しんどくて横になりたい… ならんけどな。ぜーーったいにこんなトコロで横にならねーぞ、俺はあーー!
それより気掛かりなのは、隣のちょっと荒い息。聞いた事ない息遣い。聴覚だけってのは心配がムクムクと広がります。でも、薄目で開けるのもしんどくて。
「ヒュゥウウン」
呼び声に反応。
目をカッと開いて首を回せば、アーティスが階段に手を掛けて「上がんないの?」なポーズでこっち見てた。
はい、一匹だけとても元気。
「持てる?」
「あああ」
「熱いからね」
「ミトンさん、大活躍」
貰ってはふはふしておりましたら、遠くで牢番さんの声が響きます。
「不平は己が行いに言え!!」
「殺されるとわかった上で大人しくして何がある!!」
答えがあるのかも不明な禅問答のよーな会話を大声でしてらっしゃるご様子。
「そうか、自身で死刑判決を下すとは見事だ! 下すだけの行いしか覚えがないなら判決を待つまでもない、お前の意思は確かに上申しておこう!」
「……いや、ちょっと待て!」
…はれ? 話がポーンと飛んでたり?
「こいつの巻き込まれはごめんだ! 頼む、移してくれ!」
「入った時点でお前も変わらん」
「だから、さっきのは待てと言ってるだろうが!」
「隣に移るだけでいいんだよ!」
「そういった温情をお前は誰かに掛けたのか? 掛けて、この領主館の地下牢に移送られたのか? ええ!?」
「情けをくれよ! 人としてやり直すからさあ!」
「やり直す為の何かの前に縋る事だけは一人前だ」
「縋りじゃねえ! 正当な、そう証拠をだな!」
「自白した口で嫌疑不十分を述べるか。己の善きように、ころころと変えるその口は平気で作り話を語る口だな」
「自白と言うが、俺が何を自白したよ!!」
「こいつと一緒にしないでくれよ!!」
牢番さんと囚人の関係で導きの光りは存在するのでしょうか? するなら、どっちに向う導きでしょう? 導きにー 幸せはー 含まれるのでしょうかあ〜〜? あー、キラキラが頭痛を引き起こす〜。治まれ、治まれ〜〜。
「この… ちくしょう、ちくしょう! お前らにとっては人の俺より犬っころの方が上か! 話も通じない獣が上か!」
「あ? ……領主様ご一家の飼い犬で魔獣との対峙にも怯まぬ良き猟犬と己を比べるか、笑わせる。言葉の通じる人の間でお前は何をして此処に居る? 尊厳を求めるお前の尊厳はどこにある、見えんぞ」
ふーうぅ、ずずずっと飲むと美味しいですね。
ガッシャン。
はい、閉門です。
いやー、何度聞いても「うひょう!」な音ですが、それで終われるよーになれそーでそれはそれで嬉しく。
「すまんな」
「いえ、お待たせを致しました。直撃でも消失が早かったと見え、多少炙られた感がありましたが爛れは見えず」
「ま、そうだろうな」
「顔面直撃でしたら違ったのですが」
さらっと医者は要らねと言ってます。大騒ぎしてましたが治療は必要ないよーで良かったです。
「アーティス、 お、 お、こられな?」
「…はい? どうして叱る必要が? 手の塞がってる俺の代わりによくやったと思ってるけど」
「人に 向って やった」
「……ああ、そっちか。 まぁ、そうか。当たり前の優しさか。 うーん、場所の違いの該当は「ふぇ? あの、よー聞こえ」
「はいはい、虫に対する姿勢についてですね」
「へ? むし」
「アーティスの行いは脅しです。殺す気でやってはいません、殺すなら威力が違う。あれらに威力の違いがわからずとも そうですねぇ… 言語の通じぬ相手を判断するのは行動です。行動させるに至る行為の末に現状が訪れた。その行為により自分が殺されると主張されても一方的なものは聞けません。
俺からすれば、アーティスの行動は煽動からなる暴動の抑止です。こんな所ですから不平不満は零すもの。ですが、その当たり前を黙認し放置するのは良策ではなく」
「そうです、馬鹿正直に言ってる分だけまだ単純です。ですが、あれらは本音を交えて意図的に行っております。そして凝り固まっています。それを解す為に叩くのです」
「た、たたた」
「あ、ご無理なさらず。 心を解すのに叩かずに済めば最良ですが、ここに湯はないのです。ここは湯がある場所ではないのです。ですから、取れるやり方でやらせて頂いております。余り気にされませんよう」
口を挟んでも?的な口調からキッパリの断言をした後、控えめな口調で気遣って下された。
はい、ここに大人が居ます。
それだけで安心する俺は単純です。へら〜な笑顔が出せました。
よく考えたら当たり前。
場所と態度で人で判断するのは人だけじゃない。
そして、お湯はさいきょー。浸かってふやけたらキラキラ頭痛も治まるだろーか?
「それより、少しは温まりましたか?」
「はい、ありがとーございます〜」
「こちらが飲めればよろしかったのですが」
「うやー、それはぁ〜」
頂いてたのは牢番さんのお茶です。
囚人さんのお昼の片付けの後に、あったか〜いお茶が入った保温瓶とお菓子が降ろされるそうです。
そんで、さっきまではなかった瓶が今は棚にずらずら並んでる。気付けの薬酒に魔力水を遠慮すると茶しかない。気付けじゃないお酒はセイルさんや隣の為らしい。しかし、隣が飲んでるのは魔力水。
俺も水分補給で少し楽になりました。糖分補給は… 喉に支えそーで遠慮しま〜。
「昇降台をお使いになられますか?」
牢番さんが安静第一ならと提案してくれました。
エレベーターの使用です! これでお互い楽ができるとホッとしたのですが、隣は渋い顔してた。そして、そっちをじーっと見てるから俺も見た。
片付けも終わったソコはすっきり。 …まぁ、箱型っぽい荷台なエレベーターですけどね。 あやぁ? エレベーターってワイヤーで吊ってなかったですかね? えー、吊り下げはどこにあるん?? ないんか、これ?
「あのさ、すごくしんどい? あれは昔から物資の運搬に使っていたと聞いてます。実際、今もそれで使ってる。その上で、今も人が使用するのは階段です。俺と君の体重を合わせても重量的にはイケるでしょーが… あれ、乗りますか?」
あっかる〜〜く照らしてくれてる光りの中で、あっかる〜〜くない顔を見た。
物資 → 途中で落下しても、まぁ仕方ないか。物だし。
人間 → 途中で落下した時点で即アウト。生きてなくても最初から保証はない。
「一応、ご説明しておきますと… 偶に途中で引っ掛かるのか稼動が鈍くなる事もございまして」
「…と、とま?」
「はい、途中で停止する事も」
「にょー!」
「ん、頑張るから」
「空けて良ければ自分がお運び致しますが」
「いや、俺の役目だ」
牢番さんの手を借りて、おんぶさせて貰いました。少し落ち着きましたがチカチカキラキラまだ消えないので、ぎゅーーーっと目を瞑ります。治まらなかったらと思うと恐怖です。確実に体力も削られてるので最悪です。
「お気を付けて、鳴らしておきますので」
「頼む」
コツッ コツッ…
糞長い階段を登ってくれてます。俺は只の脚荷です。それも役目の意味を持たない只の脚荷… しかし、どーしよーもないのでしっかりとしがみついた。 らぁ。
「う!」
「ふわ!?」
体が後ろに、ふぅううっと。あったら怖い浮遊感。転けたら階段、ずべべべべっ。それも俺が下敷きですから、恐怖で必死でグッとですねえ!
「ぐげ」
蛙が潰れたよーな声と足を抱える両腕の力で我に返った。ハッとしたと同時に見えるキラキラに腹立つが、ギュッと瞑り直して肩叩き。
「ごごご、ごめ。降りま」
「ふはぁっ… はぁ ぜぇ… だいじょーぶ」
足取りが少しずつ鈍くなって、一歩一歩踏み締める感じで登ってるのは感じてた… ものすごくお疲れモードに入ってる…
「はぁ〜 よっ… 動くよ」
「あい」
極力負担にならんよーに首を絞めないよーにと背中にへばりつく。首を横から、よしよしとさす… ろうとしたらぁ〜 ミトンさんが邪魔をした。
「どう… 上手く乗れてない?」
「うにゃ」
これ以上やったら単なる妨害だな。
はあ、誰か上手なおんぶの仕方を教えて下さい。当たり前過ぎて習っとりませんが、どこら辺に力を掛けると運ぶ人間は楽でしょう?
「ごめんよ、もう少しで安定するから」
「あ?」
「今の君には、どんな力でも負担にしかなりません。だから、指輪からの供給を切りました」
「うえ?」
「……俺、もう使い込んでるから」
「え、 えぇえ? そ、それて?」
「でも、ある意味良かったよ。空っ穴だから接触からの過敏反応も薄くて済む」
「ふえ? あ? えー… たいないバランスが 崩れ、た?」
「あははは、そうとも言う。大丈夫、こんなもん気力で戻してみせる。そんなに柔な鍛え方はしてません。そう、今やらずして何時やるのか? 今やらぬ、できぬ己に価値はない!! だははははは!」
高らかな宣言に俺は何ができるでしょう?
「が ん ば がんば がんば〜〜〜」
「も、ち ろんだ!」
ダンッ!
階段に靴底押し付けて、グッと気合いが入った様子。
非常にすまねぇとしか言い様が無い。頑張ってくれとしか言えん。他に何と言えば? 何もできない自分が遊び人のよーだが遊び人には程遠い。応援Levelなんてゆーものも… 今、応援スキルをgetしたとか? あああ、思考を掻き回すキラキラがうざいー、はぁ…
首元に額をこつんとしたら、キラキラ金髪ございます。登ってくリズムに身を合わせ、ぼーっと金髪見てたら気が付いた。キラキラが金髪キラキラに混ざって行方不明。 …行方不明!
嘘のよーなほんとのハナシに驚愕です。
カカッ カカカッ…
「どうされました!?」
「ハージェスト様!」
反響する靴音は複数で、複数の音は不思議と同調して同じリズムを刻んでる。刻んで、羽ばたくよーうに飛んでくる。
「此処だ! 速度を落とせ!」
きれーに静まってく時点でイケてる人達です。
「…はい。 …はい。 魔力酔いでしょうか? どちらにせよ、安全を第一に人払いを」
「まずは風呂だ」
「わかりました。どちらを?」
「大浴場だ」
リアムさんの指示が飛ぶ。飛ぶから、こいつも動きます。そしたら、俺の尻が冷たい壁とコンニチハ。 …さぶいです、ここに熱どろぼーがいます!
そして、皆さん上下に分かれて行かれました。
「先に参ります。どうぞ、お気を確かに」
「は、は〜〜ぃ」
これまた意識を保てと言われましたよ。頑張りますが、これで頑張れなかったら俺の評価はどうなるんでしょー? まー、初めから高くはない。
「じゃ、行くよ」
「ん」
目を瞑ったまま、頭をコツッと。
一定のリズムで登る階段。
凭れる背中。
熱に、揺れ。眠くなる。
あ、空気が変わって あったかい。
冷たさからの線引き。線引き。 過去とグッバイ?
「弟様、魔力酔いですと!?」
「正確には違う。閃輝暗点だ」
「は?」
「あまり聞かない症状だがな」
「……あれですか? 光りが回って見えると言う」
「それだ」
「あれは… あの症状が出る原因は… 特定されていたかと」
「ああ、されてるな」
ミトンさんがずらされ、脈拍測定入りました。
「起きとるかの?」
「うぇーい」
「ああ、よしよし。無理せずとも良いからな」
せんせーの声に何とか目を開けたとゆーのに、もうええとか。
「当初は吐きましたな」
「それで俺もそっちを注意していたんだが」
「目にきたのですか…」
二人の会話が聞こえます。しかし声が遠いです。眠いです。それでも、意識を保てと言われたからには根性をですね!
「症状が出たのは突然だった」
「……自分の記憶でも限界を超えた時点での事例だったはずです」
「力の偏りとも言われる症状ではあるが」
「偏りと言いますよりは」
あああ、役に立たない患者ですいません。せんせー、あんま触んないで。触ったトコからみょ〜うなぞわぞわが。
「いけませんな、過敏になってるようです。事の発端は弟様で?」
「………まさか、兄上だ」
うーん、ボソボソ言うなよ。聞こえねーよ。
ほうわにどうしつがはんぱつのさまたげにと何やら言ってましたが、体が動き出したので移動のよーです。後ろについたせんせーの声が聞こえました。
「弟様は本当によくご存知でいらっしゃる」
「……まぁな」
苦笑したらしい俺の魔法の本はせんせーから賞賛される優良本だ。推薦図書に指定されてもおかしくないとか?
傾斜角度に階段登り。
その間も治療がどーのと聞こえます。
空気が風に変わって流れになって肌を掠める。光りが うわー、眩しい。
「はい、外に出たよ。あー、良かった。俺の気分も落ち着くなー」
「ウォン!」
「ひょっ!」
アーティスの声で心臓ドッキリの意識しゃっきり。
「もう夕刻か、思った以上に掛かったか」
「へ?」
外の日射しはまだ強く、植木は綺麗な緑で光ってる。そして光りの中の黒い塊。黒い毛並みが地面に伏せして熱を味わう、ごーろりん。
「アーティ さ、むかっ」
「そうだね、寒かったから先に出た。自己判断を下せるとても賢い犬に成長して本当に俺は嬉しいです」
あ〜、ほーんとアーティスは賢いね〜〜。あったかさんはそこだよね〜。熱どろぼーじゃない地面さん〜。
「君も温まらないとね」
さいきょーのお湯様にどっぱんです。その後は寝たい。少しは楽になるといいなぁ〜 はぁ〜。
本日の意地悪国語辞典。
喉に支える。 ←常用漢字表外の音訓。
又は
喉に閊える。 ←常用漢字表外の漢字。
さて、本文を 「のどにささえそう〜 って、なんじゃそら?」と読んだ方は手ぇあげてー だぁれも見てないからだいじょーぶ〜〜。
読めた方は置いといて(笑)
ど忘れも間違えも知らねーもあることです。そっからですよねー、なはーん。
お初のお遊び、寸劇しましょ。
タイトルは、『せんき あんてん』です。
付添人 「せんせー! こいつが、こいつが変なモン見えるって! ちゅーにびょー ちが、変な事を言い始めたんです。俺だけ光りが見えてるって! で、どーも確かにナンか見えてるみたいで!」
患者 「なんかずっと光りが見えてて… き、気持ちわるなって」
医者 「診察しましょう、付添人さんはそちらでお待ち下さい。 あっち見て、こっち見て、はい、灯りを消しますよ〜」
カチッ
医者 「では、こっちを〜〜 ふんふん」
パチッ
医者 「うーん」
患者 「せ、先生。どうなって」
医者 「そうですね。あ、付添人さんもどうぞ」
付添人 「先生、どうでした!?」
医者 「これは閃輝暗点と言いまして… 打つ手はありません」
付添人・患者 「「 えええええっ!? 」」
医者 「のーみその問題だから、うちじゃ無理です。脳神経か総合病院行って下さい」
付添人・患者 「「 へ? 」」
閃輝暗点
リアル病名で造語ではない。
ご存知の方には不要な事ですが、病気の詳細に治療法は各自で確認を頼んます。まぁ、リアル病名の症状は知っていて損はないかと。




