表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
166/239

166 手を広げ

九回目の13日の金曜日は曰く付きになりました…


曰くがわかるあなたは、きっとゴールドブレンドの香りを纏うのでしょう…   にゃっはーあ。






 「だーかーらー  ゴールドブレンドに気付く・気付かないの前にゴールドブレンドを見ようともしないとはー  許すまじ、キィーーーーーック!」


 ザッ!


 逃げた分だけ近づいて、足を狙った。膝カックンしろー!とやったが、無言で躱しやがった。それもよゆーで腹が立つ。


 ずべって態勢崩した俺を見ろよ。



 「「 ………… 」」


 空振った事実を視線に込めて、ゆ〜ら〜〜っと立ち上がる。


 「にーげーるーとーはー」

 「いえ、只の条件反射です。それに普通も逃げるのではないかと」


 「とう!」

 「あいた」


 普通に歩いてって、正面立って、チョップしてやった。


 しかし、ミトンさんはココでも自己主張なされて手と頭をガードしてくれた。ミトンさんの本領は優しさと知りました。やった方にもやられた方にも、どちらにも等しく示すこの優しさ。


 ほーんと一枚挟むと違うわー、痛そーな音もしませんよ。まぁ、本気でやってないけどさ。



 「ええと…  怒ってない?」

 「はい? なーんのコトでしょう?」


 片耳ほじくり返す格好しながら聞き返したが、ミトンさんのご威光で聞きませんよポーズになった気がする。 …ナチュラルに誤解を与えるミトンさんてば、かっこいーい。





 返事が無い。

 只の屍ではないが、只の生きにんぎょーのようだ。なんつってー。


 「ですから、あなたは何を言っているのですか? 俺が何を怒っていると? 言ってみて下さいよー」


 今度は両手を腰に当て、踏ん反り返って聞いてやったが、やはり返事が無い。自白、自縛、自供、自滅はしないよーだ。残念。俺は自戒したとゆーのにな。しかし寒い、さっさと次へ行こー。千日手パペチュアルチェックは要らんのだよ。


 「そーんな事より、俺のいー顔のほーを気にしろとゆーのだ」

 「…え? 良い顔?」


 「…まさかこの素晴らしい笑顔を根性悪な笑顔に変換したのか!?」

 「いえいえいえ、そんなまさかあ!」


 くそ怪し気な顔に、『あー?』な顔と鼻息ふんっを返しとく。 




 ……返した事でビビりました。


 誰かが「こほん」と空咳したんです。それに危険信号を感じた俺の直感。俺の直感は!


 酷い事をしたつもりはないが   …おおお、おこちゃま行動だとクレームがきた? きた? きちゃったあ!?  つか、咳したの誰?


 




 「え? 説明しなくても良い?」

 「説明も何も… お前が以前、「誓約内容は証明できません、疑われ続けるのは辛いです」と言っただろーが。それと似たよーなもんじゃねえの?」


 「うあああああ」

 「…それか、言ったら俺の機嫌を損ないそーな?」


 「うわわわわ〜」

 「…素敵なぼーよみですネ、当たりか」


 「感情を込めた棒読みとは如何なる物でしょう? 大層な矛盾を孕む愉快な言葉ですよ。 ねえ、酷いって」

 「やはー、ツンデレかも〜?」


 「は?」


 しれっと笑って流しまーす。

 視線も流してセイルさんに、にぱーな笑顔でご挨拶。


 「有り難うございます。違う道が見えました」

 「それは何よりだが」


 ふかぶか〜〜っと頭を下げて上げたら、セイルさんは思案顔。


 「違う道が見えたは良いが、それが最善かはわからん。俺から見れば脇道でも、ノイから見れば街道だ。その先は行き止まりであったやもしれんが、俺がいざのうた道よりも…  そうよな、もっと違う形で何かを見出だせる道であったかもしれん。この先の術式の様に。ノイにとっては大事であったかもしれぬ道だ。


 選ぶはお前と言うは易しく、追い詰めるは容易い。尊重する優しさで決断を迫れるもの。


 それでも、今回は善かれと選択に(我が家を思うて)口を出した。共に選びしが善き道である事を望み、願おう」



 一点の曇りがある笑顔が心に響く… じーんとくる…


 領主の肩書きを持てば人は誰でもこーゆー人になれるんでしょーか? いーえ、なれないと思います。


 「心に響いたものを大事にしようと思います。さっき、ぱああっと閃くものがありまして、「そっちー!」になりました。口出しと言われましたが…  えー…  どっちかとゆーと引っ張られ た、よーな引き摺り出されたよーな きょーせーな 感じ   も しますが…   自分で「あー!」と思えたものがある以上、注意喚起だと思い ます、はい。


 俺は納得してた。だからこの先、自分で気付く可能性は薄かったと判断します。 ……はい、薄かったで! なは。 有り難うございます」


 「…そうか、ならば良いな」

 「はい!」


 セイルさんと笑っておしまい。


 こっからは俺が自分でやりますよ。チョイスは俺の特権、お楽しみ。そう、お楽しみ。俺は贈られた言葉を胸に抱いている!




 『肩書きなど飾りと同じ。しかし、洒落る事が心を上げる。だが、飾りはどこまでも飾り。なれど、飾りでしかないと切るも味気ない。


 飾りで遊ぶは楽しかろうて』



 突然、俺は天の声を聞いた。のーないで聞いた。


 託宣にちょいと手を広げ、柏手を打とうとしてナンか違うと一時停止。広げた手を持て余す。ちょいと重ねて胸に当て、それっぽいポーズ。


 『遊び方の伝授を頂くとは! なんとゆー有り難い話であるのか、 やほー!!』


 のーない返事をしといたが幻聴を否定しない。人の俺に肩書きでどう遊べと? しかし、猫は遊びが大好きだ。



 ……別にセイルさんに心酔したとかゆーんじゃないから、そーゆー目で見んなよ。ナンか言いた気でも言わない以上は後ですよ。お楽しみが優先なのです!



 「俺なりに努力していきます。ので! 是非とも、その先を見せて下さい!」

 「ん?」


 あっちを指差し、期待で笑顔。


 「あれか。しかし、寒くなってきとらんか? 当たり過ぎを考慮すると上がる方が良くないか?」

 「えええええ!! そんな、セイルさん! ツアーの醍醐味はカンコーというもので!」


 「ん? 何としてでも(敢行)か? そんな事をすれば後で倒れる、止めておきなさい」

 「うそおーーーー! 頑張った俺のお楽しみがあーー!?」


 「ああ、それはそうだな。頑張ったものなぁ…  ハージェスト、できるか?」



 振って、振られた相手を直視。直視に返る輝く笑顔。


 「できます」

 「ならば、良かろ」

 

 この一言で観覧の許可が出ました。


 きゃっほーいっ! 俺のマジックガード、さいっこーーー!



 ぱああっと開けた展望に相手を見直した俺は単純です。単純は自覚してても単純です。わーい、頑張ったご褒美を頑張って取ったぞーー!






 「どれ、説明より実演よな。準備は良いか?」

 「はい、何時でも良いです」


 セイルさんの指示で階段の方へ移動した。何かあったら、俺は皆さん置いて逃走します。逃げます。逃げて人を呼ぶのです! ふはははは! 自覚ある足手纏いは、ほんとーにちょろちょろしませんよ〜。


 隣が俺の手をしっかりと握り締めてカバー終了。俺もアーティスの首に手を回して精神安定、準備ok。



 「では、始める。 そら」


 セイルさんの声で二つの白色球が動き出す。

 

 くるりと旋回したら、いきなり炸裂。花火みたく飛び散った。全方位に散った光りの欠片は風を切って鉄格子の間を狙った様に擦り抜ける。


 牢の真ん中、透明なナニかにぶつかった。


 ぶつかった瞬間に光りが弾けて空気が波打って、更に光りを撒き散らす。落ちる光りに、立ち上る光り。違う二つの光りの共演が、静かに、そして一気に空中に陣を焙り出した。


 ……わっはーーあ! キラキラで縁取りされて現れるとか! なんてお約束なんでしょうか! 綺麗ですねえ。



 「おかしい、立ち上がりがやけに早い」

 「……は、ここまで早かった試しはなく」


 ……ひゅー、前方でナンか怖いこと言ってるうー。順調にやばいのでしょうか?





 「上がりなさい」と言われるかと思ったが、それはなかった。代わりに猫さんへの呼び掛けを依頼された。役目ができたので、呼び掛けを実行しつつ皆さんの確認を見守り中。


 『猫さん、猫さん、お出でますう? お返事お願い致しますう。ここにちび猫人間バージョンおりましてえ〜〜  いえ、そーでなく〜』


 心の中でうにゃうにゃ呼び掛けるが、呼び掛け方を間違えてる。これではちび猫が本体になってしまう! 着ぐるみ常時装着パターンでは余りにも俺が不憫で残念だ!

 

 『人猫バージョン  じゃなくてええ〜〜  あー、猫さんを騙くらかしてる訳でもなく〜〜   俺は、俺は、おーれーはぁ〜〜 』


 猫が魔法で人になる。

 なったら可愛い人になる。それはどこぞの猫メイド… うーん、そっから頭が離れない。


 猫さんから見たら、今の俺は呪われた状態だろーか? 普通の猫が混乱したなら猫パンチに逃走。しかし激怒なら、火を吹いての噛み付きアタック。猫さんは魔獣で鬼猫…  怒った時のあの鬼猫っぷり…   現状の誤解が一番怖い。


 猫さん、猫さん…


 『猫さーーん! なんて呼び掛けたら、わかってくれますかあああ!?』



 うん、返事は無い。

 無い返事に有り難い気がしてくる。



 「あ。 アーティス」

 「え?  …ああ、構わないから呼び掛けてて。出てきたらアーティスを覚えて貰おう。初対面での喧嘩もアレだけど、敵認識の方が厄介だ。一枚間に挟んで慣していくのが正解でしょう」


 「あいだに〜 はさむ〜 おかずは〜 おれかぁ〜  ほかにおかずはございま〜〜  せんね。 にゃっはーあ。  いざとなったら体を張ろう。アーティス、も少し待ってな」

 「キュッ!」



 『猫さん、ちょーーっと姿が違います。違いますが俺は俺です。どーうか見分けて下さいな、下さらなければ…  ソッコーで着替えますのでよろしくぅう!!』


 優しい猫さんの事だから、ちょっとくらい待ってくれると信じてる!! 問答無用の叩きはなかった猫さんの事だもの! 俺は猫さんを信じてる。信じてるよーーー、猫さーーーーんっ!



 ……こんくらいでいーかな? きっといーだろう。見守りと呼び掛けは並行にならない。どーしても片っぽが疎かになる。


 んねー、猫さん。



 「ん? 呼び掛けは?」

 「やはり、お出でではないよーです! なので、こちらに集中したいと思います。それに着替えて飛び出たほーが有効でしょー?」


 「…じゃあ、そっちに賭けよか。了解」

 

 よし、承諾を得た。なら、此処はお初なリアムさんの確認を引き合いに聞き出さねば! 何気にできるリアムさんに驚いてる俺は知りたくて仕方ない。


 「なぁ、初めて見るモンでも直ぐにわかるのが普通?」

 「は? あー、あれ。 えーと…  簡単に言ってしまえば、此処のは型が非常に古臭いだけでして。だからと言って、おそらくの稼動年数を考えると馬鹿にできる代物でもなく。だけど、力の流れからこうなるはずと予測は立てられる。そこからの逆算とも言える。でも、やっぱり基礎知識の一つも学んでないと駄目だね」


 「……牢番さんは専門職でしたよね?」

 「はい、ですが一口に専門と言いましても… 牢に結界を巡らせたり、隔離先を設けるのはある事ですから〜〜  その辺りの把握に対処ができて初めて専門と言えるかと。ですがまぁ、専門職で括るより上級職の方がわかり易いかな?」


 「わぁお… けっかいかくり〜〜    怖い事を聞いたな… 」

 「え、何が? 柵の一つも設けないと」


 「へ? あーー、害獣用電気柵!」

 「似たようなのあった?」


 「主体が逆転してるが要は一緒だ! へい、りかーい!  んでさ、あのさ、そのさ、竜騎兵の皆さんは全員がそーゆー頭の作りをされてんですか?」

 「そーゆー頭?」


 「何でも見たら一発でわかる頭」

 「あ、それはない。分野特化してる奴とか無理。無理無理無理」


 「だよねー」


 きっぱりに、ちょっとホッとした。オールマイティーな集団に混ざると自分の馬鹿が際立つので怖いです。


 「でも、こーゆー時に記憶力とか応用力なんかが試されるよねー」


 なんか心にぐっさり。


 「そ…  それで、あれはどこに繋がってんの?」

 「間違いなく、この下です」

 

 「……あれは扉でいーんか?」

 「ん〜  間違いではないね」


 「あ?」 


 

 あの陣は二つを兼ねているそーで、「扉、オープン!」をやると道が現れるそーだ。そして、此処A地点からはB地点にもC地点にも行けるんだと。行けるが全て歩きだと。


 楽をするなと言われてます…


 「あの陣が緑のカーテン状態だとして、どこら辺にトンネルが出てくるん?」

 「待った、穴ではありません」


 「へ? あの落とし穴のよーにパカッとじゃない?」

 「パカッの表現は道には不適格では?」


 「…お前、細かいって」

 「……ごめ、つい。  ええと、戻しますね。現れ方は通常よりも、いえ、今のものよりも遅いです。それがあんなにも速く立ち上がる。何かを疑いますねぇ、疑わないと馬鹿ですよ。

 あれは正しく入り口であり、橋であるもの。空間の固定化を起こすことで道と成し、繋ぎを為す。橋は意図されるもの、故に悪意も潜むもの」


 口調に隣を見た。

 馬鹿正直に「なにそれ」と聞こうとしたが馬鹿っぽいので聞き方に突っ込み所を迷ったら、牢番さんと話を終えたリアムさんのお戻りです。


 お戻りですが、牢番さんは内容のメモ取りで忙しそうです。実に大変そうですが顔が生き生きしてますね。楽しそうに見えますねぇ…



 「あまりの年代物に脅威を覚えて震えますが、前任共の無能さにも震えがきます。一体、何をしていたのでしょうか?」

 「あそこら辺で判断したんだろ」



 そこから続く会話にワクワク〜がゆっくりと膨らんだり、萎んだり。


 王都の財務官の動きを眺めてるとか、他の王領地の現状とか、土地転がしの実状とか…  セイルさんが確認しつつ語ってくれる内容は寒さを忘れる。


 任命された早々に、土地転がしを指示した官僚がいた。その土地を分割して片っぽ大幅値引きで内々に下げ渡した。わーいの声に大きな顔して、片っぽはまた買い戻しかナニかごにょごにょしたらしい。


 どこの財布が潤って、どこの財布を空にしたのか?


 表沙汰にはならないいわく付きのその土地は、シューレとは曰くの意味が違ってたそーで参考にならなかったそうだ。それでも、内容が愉快なので手を広げて掴んでおいたとか何とか。


 ぺろりーんと調査の一部を語ってくれました。


 ……おかしさから調査をするのは当たり前でも、土地調査の手は多岐に広がるのを理解。そして聞くだに調査には金と時間が掛かると推測。調査官が優秀でないと大変とも推測。調査官の育成も大変と推測。


 かねが〜〜 ないビンボー領なら〜  疑惑調査そのものが〜 難しいと〜 りかい〜〜。



 「それは… 不正では?」

 「ん? 手続きの不備はないぞ?」


 「え? でも、えーと…  私用を混ぜたとゆーのであればあ〜〜」


 「はい、それは職権乱用です!」

 「総じて背任行為と申します!」


 ここでもリアムさんとギルツさんの息はピッタリ。素敵な二人に感謝を述べる。


 「背任には辞職では!?」

 「天秤を見ていてな」


 片手と片手を広げます〜。天秤さんが計ります〜。背任と釣り合うなんじゃらほい〜。



 泳がしと違うんか?と悩んでもよーわからず。あそこら辺のほーを見てもよーわからず。アーティスの「キュッ」によしよし、吠えずにピッタリしてくるのをよしよし。


 「お寒くはないですか?」

 「へ?  はい、へー  き  な、よーでも少し寒く。でも、右と左があったかいんで」


 にへーと笑うが手持ち無沙汰。

 立ってるだけなのも疲れてきたので、しゃがんでみる。アーティスが喜ぶ。


 「疲れた?」

 「ん〜 何となく?」


 手を離さない上に立ったままなので、うーでーが〜。しかもしゃがんだらしゃがんだでケツに冷気を感じる… こそーっと手を回すとミトンさんが優しくて…


 って、待てこら。アーティス!


 「フッ フッ  フ〜〜ン」

 「そりゃ、あったかいけどさ」


 「上がろうか?」

 「やーなこったあ〜」


 ふんっと立ったらアーティスが面白顔した。かわいーと掻い繰りしながら、俺は思う。猫になって抱かれてたい。人の体温で暖を取りつつ、くた〜〜っとしてたい…  あ〜〜〜、楽してえ〜〜〜〜  なんて本音は言えません。






 「これ以上は意味がない。試すか」

 

 いよっしゃー! 確認作業が終わって本番でーす! しかし、なーんの問題もなくて試す以外に適当な方法がないってーのも微妙ですね。




 「わぁ…  」


 セイルさんが再び光りを放てば、更に輝いた陣が揺らめいた。揺らめきの中に違う場所が見える。


 揺らめきの中に見え隠れする通路は、お岩さん。荒削り感満載の通路にときめきが復活するが…  揺らめきがなかなか安定しなくて、なんか怖い。縁取る光りのキラキラも一緒に仲良くゆーらゆら。


 納得しました。これは確かに橋でしょう。それも安定を失う事で安定する吊り橋のよーで…



 「揺れが収まらんな」

 「振れ幅が以前より大きいかと」


 「…階上の幅と同じでは?」

 「供給量の変動の所為でしょうか? 量で安定しそうなものですが…」


 「代わり映えないのだろ? なら、糸も変わらんのだろ?」

 「何らかの理由で供給が増加し適正化しても、老朽化そのものはなぁ」


 嫌そ〜うな声に、セイルさんのトドメのよーうな発言。うへえ〜と思いつつ、揺らめく橋を見続ける。橋の全体像はわかりません、見えるのは橋の端っこだけです。


 向こうが少しはっきりする度に揺らめきも強くなる。こんなのに飛び込めとか渡れとか言われても… 嫌ですよ。



 「なぁ、あの橋渡って帰ってこれなくなったり…  する?」

 「可能性を否定できない場所はある」


 「うひょう!」

 「だから、兄さんも待ったを掛ける。安易な行動は慎むべき。でも、不確定性原理じゃあるまいしさぁ」


 「はぁ?  今、把握してる場所はどーやって?」

 「ロベルトが考えられる最悪を想定して準備万端、持たせるだけ持たせて調べさせた」

 

 「ほわー… 誰その勇者?」

 「彼」


 「ひょお! 牢番さん、すげー!」


 「え?  あ、一人ではありませんので」


 俺の声に振り向いて、てへっな感じで笑った牢番さん。おっさんのてへぺろは強烈だと思う。…あ、ぺろはないか。



 上級クラスの牢番さん。

 こーなると盗賊系ジョブの上級職ではないでしょうか? それもふっつーうの盗賊から始めても就けない系統だと思います。


 怪盗にゃんこでは…  遊びだからな〜、はははー。 だ! 牢番さんの上はギルツさん職じゃねーか!  ぬう、間違えた。




 それから、再び確認作業です。だってー、命掛かってんよー。


 「一つ調べて終わりにならないんだな」

 「連動式で通じてますから。個別に切った方が使い勝手は良いと思う。だけど、それをしてない。昔と言っても、別個にする技術がなかったはずはない。そうなると考えられるのは、供給源から伸ばす糸だ」


 「供給路か… 俺にはさっぱりです」

 「階段の所で、こーゆー感じの見えなかった?」


 「いんにゃ、チカチカってか…  こーゆー風なのは全然」

 「でも、見えたんだ」


 「念押しされると自信が…」

 「うーん、受け取り方が違うのかな?」


 話す間も、セイルさんの力で輝く陣は本当に明るい。


 「なぁ、あっちとかそっちとかも下に繋がってんの?」

 「うん、行ける」


 「橋の出現には現状に更に力が要る」

 「そう」

 

 「…一人でできないんじゃ?」

 「はい、できません。過去は不明ですが現状は非常に難しく。一番最初に全てに対して適正量で力を当てないと立ち上がりません。隠蔽工作でも、ほんとーに使い勝手が悪く老朽化の疑いが消えません。ですがぁ」


 そこからの推測をぺらりーと話してくれたが… おかしいを連発した。


 「まず、巡らせ方がおかしい。連動式なのもおかしい。連動にも色々あるけど、これは力が大前提になってる。兄さんや親父様みたく大きな力である事の前提。使い勝手の悪さそのものを無視できる力。その上での、この構築。感嘆するのに設計がおかしい。細部を見れば、これらが一人の手でないと判断できる。設計者と構築者が違うにしても、構築していけばある程度理解できるものなのに。なーのーにー、こんな作りに仕上がってる。これでまだ稼動してるんだから驚異だよ。

 

 これを積み木遊びで例えたら、すごい事になるよ? だからこそ、おかしい。そう判断する。頭が足りてない、基礎的理解がない、なのに構築できる。 残る可能性は生き人形だ」


 ガチな顔がガチで言った。



 いーきーてーるー にんぎょ〜〜  う。


 ヘレンさんを連想。

 俺の染まろうとヘレンさんの受け皿を連想。


 ヘレンさんとエイミーさんがキャラキャラ笑ってる姿に、俺とこいつの染まろうを重ねてみる。  …俺らとなーんも変わらん気がする。決定的な違いは心の有り様だけなはず。 


 受け皿呼びにヘレンさんは泣くだろう。人形呼びでも泣くだろう。しかし、説明としてはよくわかる。わかるが言葉は不適切。 …この不適切に対する適切な変換が出てこない。


 現実を示す言葉は思い遣りがなくて適切だと思う。



 安易な擁護は致しませんので聞かないよ〜うにしてますが、やっぱヘレンさんも執事さんもあっちの暗闇ん中でしょーか?



 「まぁ、俺はやり方に拘り過ぎて(力が無いから)見落す事があるから」

 

 「え? コダワリがあるから(無いからこそ)突き進んで特化すんでしょ?」



 ちょーーっと顔を見合わせます。


 にへーっと笑って、ポジティブシンキング。くら〜い場所でくら〜く思考を回してたら黴が生えるって。

 

 「でさ、受け皿進化は生き人形で正解?」

 「は? 今の会話でなんでそんな思考に。 あ、あれか」


 「はは、巡らし方が良いな」


 セイルさんに誉めて頂きましたあ〜。目の前のは終わったが、他も全部調べるので時間が掛かる。猫さんも居られなさそう。なら、寒いからもう上がりなさいと言われてしもーた…


 「特に差異がない、問題は下で確定だろう。本当に綺麗に回り始めた」


 幾つか指差した牢の陣は他と変わらない明るさで、以前は弱くて危ぶんだと言われてもそうは見えません…


 「これなら、数人固める交代制の繋ぎで良いですね」

 「……なぁ、前の人達って手が足りなかったんじゃね?」


 「調べようと思えば、どんな手段を取る事も可能であったのに?」

 「今と昔はそれなりに違うが、この手の作りを見て何も無いと判断する頭は不思議だぞ」


 皆がうんうんと頷いた。


 そんで「これが最後の稼動力の危険もある」にビビりました。ビビってるとこにギルツさんが「此処では力の回復が見込めません」説明をくれて、もっとビビりました。


 「使い込むと終わりです」

 「さ、  さっきからバンバン使ってるセイルさんはーーー!?」


 「俺か? 問題ない、気にならん」

 「……ひゅー、かっこよすぎー」


 「事前に聞いていれば装備は怠りません。完備します」

 「はい、物量で押してみせます」


 ベルトに通したウエストバッグをぽんっと叩いたギルツさん。俺のポーチより大きいバッグは太腿に巻くベルト付き。道具袋が花を添えて、人を格好良く見せるこの不思議。バッグも人を選ぶのだろうか?


 リアムさんとギルツさんのキラリと光る鼻高々に、頷くセイルさん。ナニかとってもいーなぁと思う俺は変じゃない。


 あ、しまった。

 レオンさん、牢番さん、頑張れ〜。





 「後は、この地の特性かな?」


 「下にあるだろう供給源が原因であれば、特性とは言えませんが」

 「推測とは、推し量られる状況に対して回す頭です。知識が蓄積されているから、推測するのです。回せない方が残念でしょう」


 二人がとっても楽しそう。


 そんでロベルトさんの優秀振りを再び聞いた。

 ギルツさん達から見ても、ロベルトさんは『凄い人』だそうです。地質調査に改善に、「根気が違う、焦りを流す」と絶賛されてる。

 

 このシューレは。


 シューレを中心に土地が痩せていってるんだと。でも、砂にならないからどこかで回復してる。息をする様に、確実に、どこかで回復してる。



 「天候不順に作付けに、苗も何も考えぬ無能の任期の奴めらが。あの愚かさには鞭打たねばならん」

 「セイルさん、本気で打ちそーに聞こえます」

 「俺も打ちたいです。地主の意味も預かりの意味も側面でしか捉えなかった馬鹿共をこれでもかと打ちたいです」


 「愚鈍では済まぬ」


 本気でしばきそう。

 蔑称での連呼は問題を発生させるだろうが、本人を前にヤサシイ言葉で終わらなさそうな方を心配すべき?


 貴族同士の対立は、手の広げ方からして危なそうだと思った記憶がございます。


 


 「でね、第一想定を王領に据えたなら自己鍛錬」

 「吸収から窮しとるなんぞ笑えもせん」


 ぶちぶち文句を垂れる行為で情報を惜しげも無く流してくれます。糸が、土地が、制限が、縛りに、均衡に、放射線状とか、なんとかと。


 「領主館を中心に、こ〜〜んな感じ?」


 「それだと本当に際限なく崩壊に導かれます」

 「見る影も無かろう」


 「皆で仲良く諸共に、きゃーあ」


 「ほんと腹癒せみたいだよね」

 「はは、糸が救いよな。放射もまた糸伝い、糸で止められる。できたモノだ」



 相反する話に想像してみる。


 地下のどこかにある一室で何かを中心に糸が巻かれた。巻かれた糸はぐるぐるで、ぐるぐるが少しずつ手を広げ、大きくなって外へ外へと伸びていく。


 大地に食い込み、伝い這い。伝う糸は網になり。網の目は、静かにそっと息をする。




 ………あれ? 地下の配線はケーブルでしたが。


 息して、吸ってえ、吐いてえ、 繰り返してえ〜〜  栄養補給に整腸は体の基本です。


 根っこの成長物語では? それか蚕?



 「日照りに因果を重ねて疑って時間掛かって、もう、ほんっとに根が絡んで見えるのは困るよねー」

 「終わった後なら、誰でも「ああ、それで」で済むからな。は。でな、」



 二人が話す事に、顔に、思いを巡らす。


 この場所に来なかったら、二人はこの話をしなかっただろう。話したとしても詳細に語ってくれるか、わからない。


 『気にせずとも良い』


 これで終わらせる確率は高い。セイルさんに切られたら俺は聞き難い、それで終わる。



 線引き。

 部外者とそうでない者。


 ライン上に立ってるかどーかも読めない子供がハブかれたとぶーたれてもねー。現場に立って共有するって大事ねー、とーっても大事ね〜〜。


 猫さん、ありがとう。


 猫さんが此処に来たのではないかとゆー疑惑が俺をこの場に立たせてます。それが俺に内情を知る立場にあるとゆー実感を与えてくれました! だって、教えて貰いましたもん!! 守秘義務違反はないと認められたとも言えるはず、ひゃっほーう!


 ありがとう、猫さん疑惑! 


 地下にあるナニかより、こっちのほーが大事ですよ。『何時、どこで、誰から、どういう形でその情報を知りました?』に、正面から答えられる事が俺の安定です!


 信頼の積み木を積み上げる。

 ちび猫遊びと並行して積み上げなくては。賽の河原の積み崩しは誰にもさせーーーーん!




 アーティスから手を放す。

 ミトンさん、ちょいと邪魔ですよと口で取る。


 「どうかした? 持とうか」

 「あ、感謝。ちょっとね」


 広げた手、握り締め、少し前へ。

 そっと広げ直す。


 この空手に貰ったものはナンでしょか?




 「ウォンッ!」

 「うひょっ!?  え、なに?   あ、ごめ」


 「うっわ、おやつ詐欺。ひっどー」

 「な!? ちが! 上がったら、おやつあげるから! アーティス、ちゃんとあげるから〜  ね?」


 

 空手と型で犬釣りができました。でも、釣り針つけてません。詐欺とは呼ばないで下さい。


  





本日の問題。


一、情報の優位性を説いて下さい。

二、説いた優位性を元に、情報の無償化について意見を述べられたし。





……一応。


情報の無償化 = パクリ(著作権)フェイク(経済)学校(教育)マネー(財政)海賊版(IT) 等々その他いろいろ。関連付けられるのなら、なーんでも。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ