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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
164/239

164 まわってまわってまわって

 


 「にぃ」


 無事、にゃんぐるみに着替えられました。プリティーキャッツの登場でーす。


 「にーい」


 にゃんぐるみに着替えたら、不思議と寒さが違います。こっちの方があったかい、断然あったかい! 足元が冷えるのは変わらないが、そらー肉球ブーツだし。やはり防寒着は毛皮に限る。


 ふふふ、見るが良い。この素晴らしい冷耐性にラブリーさを! 猫さんもイチコロの折り紙付き! それが容赦なく叱られて叩かれたのは、ラブリー故…  プリティー故!


 かわいーこには〜 やさしいちゅうい〜〜  ですよね?





 「にぃい〜〜」


 静けさの中に消えていく、声…  この物悲しさ…     上げた分、気落ちすんな。



 「にゃーあ」


 唯一の光源。

 牢番さんの洋灯の光りはオレンジ色。暗い中でのオレンジの光りはぼんやりで強くない。寧ろ、闇に溶け込もうとしてる。


 「みいい〜〜」


 猫になると見上げる天井は、ほんとーに高い。しかし、細部まで見える。ちび猫になればよーく見える。 …ふははは! 笑うしかねぇ!


 「みゃああ〜〜」


 しかし、気配を断つと言ってた皆さんの姿が見えませんが? え? もしかして、三階へ行っちゃった? アーティスは三階待機にするから、お一方は居なくなって当然ですが…  え? え? 置物化なら置物がないとおかしいでしょー? なんで居ないのー?


 「なぁあーー?」


 …洋灯の横で鳴き続けても仕方ない、移動  じゃなくて探索すっか。落ちそうな穴は金網してくれたそーだし。 …世話掛けてんなー。

 


 「うにゃーん」


 とてとてと歩いて行きます。振り向くと細いオレンジの光り。 …寂しい、光景ですね。


 「なーーーあ」


 気分は猫さん求めて三千里。


 どこですか、どこですか〜〜っと声を上げても返事はない。こんな寒いトコに居ないってと言い出す気持ちを押え切れずに呼び続ける。


 「にゃ〜あああ〜〜〜」




 一人、静か… 

 あ、ちが。一匹、静か。


 ダメだ、黄昏れ遊びをしてたらきりがない。この階に居ないだけなら、探さないと。そう、猫入り口を探さないと。それができるのは俺だけだ! しかし、ちょっと洋灯から離れ過ぎて怖いから、一旦…  戻ろっかな〜。




 ふー。

 ほっそい光りでも、少しは背中があったかいわ〜。光源は熱量だよねー。







 は! やらねば!!  なんか違って見える事を期待して〜〜  へい! にゃんこあいず、さぁーーち!


 …まぁね、鉄格子は見えるんですよ。普通にね。


 間近に見える鉄格子。何時の間にか逆転して、牢屋ん中に居るよーに思えてくる。ナチュラルに「出してー!」と叫ぶ自分が出てくる。


 「みにゃー!」


 そんなはずはない、錯覚だ! 錯覚なんだ!  …ほんと皆さん、居ませんね。 いや、だからそれも錯覚なんだって! 居るって言ったんだから!!   …落ち着け、落ち着け。俺の鼓動に思考、落ち着け。走った所で転けるだけ  だーー、止まんねーなら逆に跳ねとけ!


 「にゃん、うにゃ、にゃううん!」


 猫ぴょんぴょんで、雑念グッバイ!  さぁ、猫の通り道を求めてgo! 





 息を吸って〜 吐いて〜


 「み〜〜」


 息を〜〜 吸って〜〜  吐いて〜〜


 「にゃ〜〜」


 力のある猫さんの後を追うんだ。


 その為に思い出せ。

 同じ色、同じ毛並み、戯れついた感触。尻尾を振って、出し加減は「こう」って教えてくれた。猫さんの、あの、優しい気配。


 思い出せ、思い出せ、思い出せ。知識を全部、放り捨てて。感覚と直感を頼りに。猫さんに通じるモノを。


 経験(遊び)は己の内にある!



 「にゃー」


 居た事が前提。

 ゆっくり、歩いて。「こっちかな?」を「あっちだ!」に修正する。


 「うにゃー」

 

 進んで下がって匍匐して、光りを気にせず、集中して。時折、匂いを嗅いで。目に見えるものじゃない!


 ゴチッ!


 「みっ!」


 て、鉄格子にのーてんぶつけるとか! 星が回って涙でる…  隙間あんのに直撃する自分が信じられねー… 


 き、軌道修正! はい、こっち!



 「みにゃ、にゃあ〜」


 慎重に、慎重に。確かなモノを探して。



 「みぃい〜」

 「うわあああああああ!!」


 「に、あっ!?   みゃーーーーーーあ!」

 「ぎゃーーーーーーー!」



 ずべべべっといきました。

 うえーーーん、三点セットでいーたーい〜〜〜。顎と胸と腹やったぁああ。



 「うあーー、伸びてるーーー!!」



 猫体、掬われました。

 現在、両手抱っこの仰向けです。


 「にゃ、  にゃふ、にゃふん!  けふっ」

 「あ、あ、あ! しっかり!」


 ちび猫、咳き込みます。

 土埃の所為ですかね? 喉、ぺっぺです。あ、口元泥くっさ〜。




 パアアッ…


 「ハージェスト、お前な」


 「どこが痛い!? ここ!?  こここっ!?」

 「うにゃーん」


 「…そう? ほんと?」

 「にゃん」


 「良かったあ〜」


 頬摺りされてます。

 スリスリスリスリされてます。


 白い光りが射したので、近くの顔がよく見えます。すっげ、安心した顔がへにゃって笑いました。



 「ハージェスト… お前、主旨を理解してるか? あ? 言ってみろ」

 「主旨なんかどーでもいーですよ! こんなに呼んでるのに出て行かないなんて嘘ですよ! 有り得ない!! あれっだけ呼んで出てこない以上、居ないに決まってます」


 「……あのな、籠城しとったら出てくる訳がなかろうが」

 「はあ? 兄さん、呼んでるんですよ?  あんなに呼んでるのに、あんっなに寂しそうな声で呼んでるのに出てくる訳がない?  出てくるまで黙って待て? は。 そんな非道を誰が許すか、できるかあ!!」



 俺を胸にしっかりと抱いて吠えました。

 セイルさんに向かって吠えたら、皆様がひょこひょこと出てこられます。はい、もう完全に意味はないでしょう。


 白色球を片手に掲げ、半眼でぬるーく笑うセイルさんにやっべーと思いますが。が! ちび猫は何だかとても嬉しいです。心を揺さぶられる感動を覚えているのです!


 阿呆だなあ・馬鹿だなあ・やらせだろーがと思う気持ちに、大事を大事と引き下がらないほーが大事だろーが!と覆い被さるこの気持ち。


 この気持ち。


 しーあわせって どこ向いて〜〜  どーっち さぁして 言うんでしょー?  あーなた ちゃあんと知ってますぅ?



 俺は一つの答えを新たに一つ確保した。



 「にぃい〜」

 「頑張ってたのに、ごめんよ。俺の方が耐えられない。  『出てきて、置いてかないで、此処に居るから、お願い、ぼっちやだー、どーこ〜〜〜っ 』 なんて、聞いてたら  聞かされ続けたら! 


 俺は 俺は、俺がぁあああ!!


 こんなにも呼んでいる君、駆け付けない自分。  は、なんだそれ。己の存在意義を疑うわ! 必要不可欠な囮? 囮? おとりぃいい? ナンの囮で誰への罠だ。見破る前に引っ掛かった俺自身の   うわ〜  ふわふわああああ〜〜〜〜〜」



 ちび猫スリスリしましたら、殺伐とし始めた顔が一気に笑み崩れる。


 ふ、この崩れ具合…  イイ感じだ。俺、グッジョブ! 精神の安定には毛が一番。このすってき〜〜いな毛の感触がうっとりを呼んで鎮静させるですよ。ふにょほほほほ〜う。 


 ……乱獲はいにゃん。永遠のループであろうとも、乱獲者は見つけ次第乱獲して絶滅させて差し上げろ。




 優しい。

 嬉しい。


 届いてる。


 深く考え過ぎないよーにして、俺のどーぶつ的勘に従い、 ます。ますますまーす。やほー。




 「そうだ、手は? 捻挫とか」

 「にあ」


 手首を軽くぶらぶらして、ほら大丈夫。しかし、俺はどーして落ちた?


 振り返ると、そこに階段がありました。それも数段での行き止まり… 作成途中で放置… の割りに数段はきっちり作ってんのな。


 人はどーでも猫は怪我するじゃありませんか! 何の罠だよ、これ!  …そりゃ、明るいとこで見たら罠でも何でもないけど。 ……いや、注意してたら猫でも引っ掛からないけど。




 「だからな」

 

 わお、白色球を分裂させるとか! 分裂後も光度が落ちないですねえ〜。さっすが、セイルさんー!   …すいません、怒らないで下さい。




 「はぁ…  こんなにも使えなくなっていたとは」

 「は? やだなぁ、わかってたじゃないですか」


 「わかっとったが加減はあるだろ」

 「無理です、無理です。無理無理無理無理。先に話したとーりですよ、俺もう駄目ですから〜」


 「駄目だぁあ? 上限と下限をどうした?」

 「さあ?」


 「…兄と遊ぶか?」

 「…どう遊んで(鍛えて)も無理ですって。いえ、やれば上がりますよ。基本は何時も通りで変わりませんし。 ま、こっちですからね。俺の精神、こっち向きは傷物ですから。 ねー」

 

 「にゃあ?」


 そこで俺に振られても。うぉ、喉をゴロゴロしよーとすんな!



 「許可した当初に戻れ、か」

 「そうです」


 「召喚獣ではないぞ」

 「はい、それは違います。俺は二つの混同をしません。そして、それは当初とほぼ同じです。同じではなく、それでも同じ様に。形を変えて望みへと」


 「弱みは」

 「強みです。変えずとも強みです。   並行などよくある事、発想は波打つ事、独唱は諧調に非ず。諧調の為に我は覚えず」


 「……はぁ、そうであったな。お前はその為に覚えたのではなかった。全く、そんな所だけ歌うなと言うに。  どこまでも利己だ」

 「そうですね」


 「歌えるな?」

 「もちろんです。それは変わりません。時は流れ、流れが変わった。変わるままに歌いますよ」


 「ああもう、仕方のない弟だ」

 「やだなぁ、扱き使ってる兄さんが」


 「「 ははははは 」」



 兄弟の会話はわかるよーうで根本がわかりませんでした。ですが、二人が似たような顔して笑ったんで良いよーです。


 …いやー、口論の原因が自分だと理解してるけどさぁ。これは俺の責任問題とは違うっしょ? そんで、「私の為に喧嘩はやめて!」な遊びの出番もない。


 召喚の際の約束事。

 そのベースが今も続いてる。そーゆーもんなんですね、他は知らんけど。



 弱みは強み。


 自信に溢れた顔と態度で堂々とやられると、ピンチはチャンスな引っ繰り返しのポジティブ指向の言葉に聞こえない不思議。 …不思議ゆーてる俺のほーがおかしいんか。



 「にーあ」

 「はい?  あ、そうだった。こう、だったね」


 「んにゃ」


 猫抱っこでの移動はあったかくて楽チンで手放せません。いえ、手放す方が不思議です!





 セイルさんから猫頑張りを誉めて貰いました。

 思った以上の時間を探索してたよーで、集中力があると猫頭も撫でてくれました。もっと早く根を上げると思っていたそうです。


 「着替えると何か違うか?」

 「なあー?  にゃがにぁん」 「寒さが軽減されるようだと」


 「…そうか、自前で暖かくいられるのは良い事だ」


 寒さと無縁そうな皆さんが羨ましいです。やせ我慢入ってませんよねえ?


 


 そして、大事な猫意見。


 集中時に「あっちだ!」と思うモノはあったが現実は行き止まり。猫さんの毛は俺と同じで寒冷地仕様ではない。断じて冬毛ではない!


 「にゃがー! うにゃにゃん、にゃにゃん、にゃうななな!」

 「…えー、猫は寒い所は好きじゃない」


 俺の通訳は変な翻訳をしなくて素晴らしい。



 「まぁなぁ… 同族なら習性は参考にするが…  なぁ?」

 「にゃはー」


 着替えの突っ込みはなしでお願いします。やりきってました!




 俺の鼻息にセイルさんが苦笑した。

 そんで俺がうろちょろ探索して、ずべった階段へ目をやって歩いてった。


 見て、踏んで、降りる。


 響かせる靴音。


 片足、上げる。

 行き止まりの壁をゲシッと蹴った。


 こっち向いて、段差を見る。

 目を細めて、また上げた。なんか靴底ちょっぴり素敵にキラってる。


 ゲシッ!


 狙い澄ました一蹴りでしたが、石段は石段のままでした。


 変化がなくて非常に残念ですが、そこでボコッと穴が開いたらセイルさんが落ちます。危ないです! 他も連鎖でドコドコ落ちたら、どーします! 穴はないほーが良いのです。


 

 「全く… 根性の良い作りをしてやがる」


 軽く頭を振って、ぼやく。


 何をやっても様になるのはキラキラエフェクトの作用でしょうか? 猫目から見ても、かっこいーもんはかっこいーです。


 ギルツさん達に目配せする。目と目で通じ合ったよーで何も言わないままに終わる酷さ。 …わかってないのが俺だけで誰も困っていない、このハズレ加減。


 「まぁ、よい。後はこちらで調べる、二人とも上がりなさい」

 「はい、あちらを片付けておきます」


 な、何だと!?


 「ああ、頼む」

 「はい。じゃ、行こうか。あれは君じゃないと「申し上げま「ふぎゃーーーーーーー!」


 視線を集めて、もう一声!


 「みぎゃーーーーーー!」


 思いっきり異議を唱えましたよ!




 「オオオーーーーーン!」 

 「待て! だから、待てと!」


 そしたら、上から違う応答が返ってきました。次いでナニやら踏ん張るよーうな音がしました。しかし、頑張りは無駄だったよーです。





 「オオンッ、オンオン! 〜〜〜グゥ〜〜ッ オオーーーンッ オンッ!」

 

 「アーティス」

 「にあーーん!」


 「申し訳ありません… 自分には抑制できず」


 階段を駆け下りてきたアーティスは首を振って吠えた。長々と吠えた。間違いなく文句言ってた。怒ってるのと拗ねてるのが混ざってる。


 しかし、違う文句を言いたいのはレオンさんだろう。



 「おっと」

 「キュッ!」


 ハージェストに手を掛けて伸びをする。キュウキュウ鳴いて顔を寄せるから、犬鼻と猫鼻がくっ付く。


 黒い目が物を言う。



 「こーら」


 ハージェストの一声で、ささっとお座り。真横にぴったりくっ付いて、更に体を押し付けてクンクン鳴く。どーぶつズンズンに手でよしよし(待て待て)を返す。返すハージェストの手を追っ掛ける。


 俺もしたい。したいが今の手は猫手。


 「にゃーん」

 「キュッ!」


 尻尾を振って、嬉しそう。

 猫手を伸ばすと舌でぺろん。ヘッヘッへと笑う。


 「うにゃあーーーん」

 「ちょっ  待っ」


 可愛さの余り、腕から頭に飛び移りました。


 黒い頭に体をべったり張り付けて、スリスリのグリグリで猫ニット帽をします。黒犬は〜 灰色ねーこの帽子を被って、お座りさーん。

   

 「うにゃにゃ〜」


 ちびだから、綺麗に覆えないのが残念だ。ちび腕ではサイドの紐になりきれない! 悲しい!


 「…アーティス、ちゃーんと好きだってよ。良かったな」

 「ウ〜〜  ゥウッ」


 「あー、可愛い。あー、可愛い。可愛過ぎて俺が悶絶する。二匹揃って可愛いのは無敵だよね一」

 「可愛いのは否定せんが、上がってからにしなさい」


 「うにゃー」

 「キュ〜ゥ」


 セイルさんお手に首根っこ掴まれ、ぶらーんにされました。安定感のあるぶらーんです…  はっ! ちゃんと手足は丸めてます! ちび猫、ぶらーんでだらーんの鈍そうな猫ではありません!







 「にぃぎゃあ〜〜〜」


 そして俺は不満を垂れる。


 「当たり過ぎると良くないって」

 「ぎぃや〜〜」


 広げた手を拒否し、威嚇し、セイルさんの腕から離れない。べったりと領主様服にしがみ付き、爪を立て、伸びをしてセイルさんに訴える。


 「過剰摂取になると思うぞ」

 「…うにゃあ!」


 だーかーら〜〜! 俺への説明なくして進もうとしないーーー!!  俺のときめき、どーしてくれる!?





 猛抗議で勝利し、ここに並ぶ鉄格子の意味を知りました。

 猫目が煌めきます。


 「にゃにゃん!」

 「は? テン、イ?   ああ、転じて移るね。 …ん?  君、相転移のコトを言ってる? 違うよね?」


 「うにゃあ?   …にゃななん」



 何を言ってるかわからんかったので、うにゃがうにゃがと話した結果、皆様から「違う、違う」と言われました。


 「それは確かに便利ですが馬鹿が使えては困ります」

 「馬鹿なら構築できないので問題ないでしょう」


 「ああ、それは確かに。利口と切れるは意味が違いますしね。ですが、理性の自乗は教えがなければ難しく」

 「便利さは罪の意識を失わせるものです」


 「ははは。しかし、特定の場所に時短か…  良いなぁ」

 「一度でも行った場所なら可能…   ええ、良い夢です」

 「本当に…   子供の可愛らしい夢は心を和ませます…   現実に可能となれば泣きそうですが」


 「あの… 家から職場を強制的に結ばれますと辛いものが… 引き籠もり同然になるかと」


 「ん〜、罪も現実の前に消し飛んで働き続ける一日か〜」


 「敵わない夢は眩しく美しい、それが叶えば恐ろしい」


 肯定の否定を下さる皆さんのお顔は似たり寄ったりだが、一人は遠慮がち。階級の所為ですかね? 


 にしても、何故に違う話になったのか? 魔方陣を使ってA地点からB地点へ飛ぶポイントの話を振ってみただけなのに。


 あ、セイルさんのなでなで気持ちいー。


 撫でられながら、皆さんのお言葉を聞いてました。考えたくない夢物語の理由をぺらりーと話される。職務に忠実なべったりとした内容でした。


 曰く。


 「犯罪が横行して大変」

 「偽装と遮蔽と濃度の制御で発見が困難、憎ったらしい」

 「手間ばかりでムカつく」

 「気軽にやって自滅しやがれ」


 仕掛ける側が優位なので、網を張る必要性を説かれます。



 「複数の経路の確保で運び屋として財を成すとか」

 「病の運び手となれば最悪」

 「害虫も、その運び手も不要」

 「食い荒らして成し遂げた顔をする害虫共が!」


 そこから、虫虫虫虫と虫に対するコールが続いて皆様の一致団結コール「虫は捕るべし! 叩くべし!」が雄々しく響きました。


 害虫は獲物。

 地下のろーやの前でのーみそに深く刻まれました。ちび猫、今度お庭でバッタでも捕まえてみよーかと思います。


 そーいや、屋台のおっちゃんにネズミ捕れよ〜って言われた気が…


 「実によかろう」

 「にゃう〜」


 セイルさんのなでなでには、尻尾返事をしとく。


 「繋がれば道だ、道の利便に悪路は要らん。成功すれば、広げたいのが人の性。そして一穴が破綻を呼ぶ」

 「に、にあー?」


 「その行いは物流を変える。個人だからと見逃し、広がれば寂れる場所はできようし、物資の価格も変わろう」

 「在庫を丸抱えしたまま下落が続くと真っ青で、乱高下を眺めて死蔵にしても馬鹿みたいだ」


 「回転率は格差の始まりだ」

 「落とし穴ってのは連鎖だから。外部からの持ち込みばかりが売れるなら既存は廃り、潰れる。個人と限定してもね。変動させる者がいて均一に動くはずもない」


 …おかしい、俺は荷物を持ってどーのと振ってないのに!


 「もし、ノイが転移の術を知っていてブツを売買しながら移動すれば恐ろしい事態になっていたな。回り回って我が家も直撃を受けただろう、はは」


 「に、にぁん…」


 俺、ちょっと聞こえない猫してもいー?

 


 「や、ごめん。仮定だし、そんなに深刻に受け取らない」

 「…にあ?」


 「ほんとほんと」


 「いいえ、事は深刻です!」 「抜け荷(脱税)なのです!」



 ギルツさんとリアムさんの素晴らしいハモり具合に、猫は目をぱちくりで尻尾びびんしますですよ。


 「仮定ではありますが」 「はい、現実に通じてございます」


 キリッと決めたお二人が説明をくれまして、思い出した。レイドリックさんが力強く俺の荷物を「家の財」と語っていた事を。


 給与体系の完全理解ってガチで強いですね。



 …あ? ちょっと待った! お二人さん、なにその楽しそうな顔。今の口元の動きを猫は見逃しませんよ!  …まさか、二人で仲良く脅し(勉強)を含めて楽しんでたあ!?


 くあー、この大人!




 不信を覚えましたが、漸く転移の話に戻りました。猫は首を傾げます。竜や魔獣は力を食うから食事無双は恐ろしいとゆーのは、まぁ理解してもだ。


 「天意がある」


 断言で終わるな。


 「…うにゃあー?」

 「人の思惑など介意しない。神意かどうか判ぜずとも、天意ではあろう故に」


 セイルさんもそれで終わらない! 続きを頼んます。猫手ぱんちで気付いて下さいって!



 「故に世を包み、事実を真実として全てを覆う。人の力で引き剥がすのは容易ではない、無駄の極みよ。一時の穴とて、天意に掠れば速さに食われて失われる」


 猫手を遊ばれておりますが、謎掛けに俺の頭は流されそうです… そっちに流されると話が逸れて違う話になって気が付くと…   誤摩化されてはならーーん!


 「うにゃがーーー!」


 「…え、違うよ? 事実を話しているだけで。それにほら、君の体力も考えないと。上の奴らの件もあるからさぁ」 

 「いにょう! にゃがにあにゃにゃにゃん、うにゃっがあーーー!」


 ちょーーーっとやばくなってる皆さんは、どーでも良くないだろーが放置で! 死なないんでしょーーー! 俺が見学してる間くらい、どーーーってことないよねーー!


 「おお、前進した!」

 「…うにゃ?」


 「何がだ?」

 「遠慮をやめると」


 「ほう?」


 素晴らしい笑顔で喜ばれた。

 薄情を覚えたね!と言われた気がしたが、それは…  無視だ。小粒なナニかは無視っちまえ!



 ちび猫はセイルさんを見つめます。ちょーーっとくらい見たいんです。


 「に〜〜ぃ」

 「はは、甘えられるのは嬉しいのだがな」


 「んみゃあ〜〜ぅ」


 お顔を見つめて背伸びをしまして小首を傾げて、にゃーんな笑顔でスリスリスリスリお願い聞いて〜〜♡


 「……うーん」

 「ああ、ちょっ  ま! 兄さん!」


 セイルさんの腕が持ち上がりましたので、猫頭で顎にお願い連続攻撃。


 「あの、宜しければ…  あちらの説明をしておきたく存じます」

 「そうだな、説明してやれ。 …この程度で拗ねるな、お前は。ほら」


 「にあー?」

 「……おかえりー」


 攻撃の最中に、ギルツさんが割り込みやがりました。


 効いてたのに、酷い!! ギルツさん、酷い! じわじわ効いてたのにーーーーー!  ぎにゃーーーーー!


 あ、ちょっと苦しいんですけど。

 持ち方はもう少しソフトにお願いします。  …俺の顔を手のひらで覆い隠そうとしなーーーいっ!  ぷはあっ!


 「ああ、序でにな」

 「えええ〜〜   ええまぁ、そーですね」



 ちび猫、皆さんのお手を回って回って回って回ったー。首根っこは駄目よ注意はしたー。


 回るお手に撫でられ、頂く褒め言葉は嬉しい。んだけど、なんつーか。触れられ慣れはしますがね?  …うーん、なんかうーん。嫌じゃないけど、こう〜。   …うざい?

 


 「どうかした?」

 「うんにゃ」


 ま、いーか。ね、アーティス。






 ガチャン!

 

 「もしもを想定しまして」


 ギルツさんが格子に手を掛け、牢の内部に入りました。俺を抱えたハージェストが続くので、「え? 入るの!? ちょっと待った、心の準備が!」なーんて言い出す暇もなく牢内に入ってました。


 内部に入ってました…



 今、見ているのはハージェストの腹。いや、服。

 そろ〜〜っと体を伸ばして首を傾けると鉄格子が見える。間近に見える。鉄の棒の黒さを挟んでセイルジウスさん達が居る。アーティスも居る。


 遮る黒。

 ストライプ。



 セイルさんの指振り。


 光の移動。

 影。

 側面。


 ハージェストの体。俺の反対。


 内部、天井、白色球、外と内で光る。牢の内で白の光が。   光り、光り、牢の光り。内での光り。光りが。


 暗い中、遠く弱い光り、鉄格子は黒く、闇に溶け、境が混じる。蒼さが白に、光りは透明で  逆転する 境は



 「はい、君が見るのはこっちです」

 「に!」


 くきっと首を回されて壁を見た。



 ガコッ!


 「これは少々重く」


 ギルツさんのお体で何がどーされたのかよく見えなかったのですが… はい、お約束のゲーム展開! 



 『隠し扉が現れた!』


 「にゃーーん!」


 うひょーな事実にちび猫、興奮します! 腕の中で興奮します!


 「あは、みーんな好きだよね〜。こういうの。俺も好きだけど」

 「うにゃにゃん!」


 俺の興奮に笑いながら歩く。わざわざ遠回りに牢の縁を歩いて焦らすなんてえーー!



 一緒に覗き込む。

 扉の先は上へと伸びてた。道は荒削りな上に傾斜が…  暗くて先は全く見えず。


 「そら」


 振り向けば、ふーよふーよと新しい白色球が出待ち状態で真後ろにいました。真後ろでした。音が聞こえないハイブリッド、こわ!


 穴に入って照らしてくれます。

 ふよーんふよーんと進んで行くのを見守りますが、これは公園の滑り台な角度じゃないでしょうか?



 そして、どこまで〜〜も進んでいく光りが小さく細く薄く……  点になって……



 「そろそろ終わりだろ」


 消えました。



 「にあー」


 「上には扉がございまして、外から鍵が掛かっています」

 「物理的な鍵と魔錠での組み合わせに特定条件追加して施したから、まぁ簡単には開かないね」

 

 「傾斜と幅を考えても、登り切るのは難しいかと」


 「にゃんがあーーーー!」


 ちび猫、叫びましたよ! どーやって逃げろと!?



 「でね、この牢内は真ん中を突っ切ったら駄目だから」

 「にあ?」


 「わかり難いでしょうが、ここです。これです」


 ギルツさんの指差しにハージェストが近くまで寄ってくれまして、此処だと猫手を置いてくれました。しかし、猫手ではよくわかりません! 肉球ぽにぽにではわかりません!


 「にああ?」

 「こう」


 バコンッ!


 「にぅあっ!」


 落とし穴の罠が炸裂!

 いきなりでびびった。しかし、罠はこうでないと。


 「一定の重さが掛かると開きます」


 ハージェストが覗き込むんで、俺も覗き込む形になる。ちょっぴり猫手に力が入る。


 「ふぎゃーーーーーー!」


 こんな縦穴、出らんないでしょーがぁああ!! しかも、ナニ? あのエグれた感じは!?


 「だいじょぶ、だいじょぶ。落としませんよ〜」

 「にぎゃーー!」


 そーじゃないだろー!と叫んでも、へらっと笑って聞きやがらない。



 落とし穴の位置が良過ぎて怖い。 

 傾斜と高さから速度を考えるとだ、滑り台の出口で止まる事は出来ないだろう。ダンッと到着した時点で負け。足を床に着けた時点で負け。


 床がバクンッと開いて、そのまんま穴に落ち…   死ぬな…   速さは力。衝撃で足がやられる。当たりが悪いとないぞーが  きっと、うにゃにゃんになる。



 「長期間使用されておらず、補強に閉鎖措置も施されていましたので少々判明に手間取りました。新たに組み直して使用可能にしてございます」

 「に、ああ〜?」


 使えないままでいーんでないの?


 「元は資材の搬入路だと思われます」


 資材の単語に「へ?」と思って首を回せば、鉄格子。見えた鉄格子は鉄筋で鉄筋は門扉で門扉は溶接で溶接は〜〜 どの部分?



 穴の中、鉄筋がガランガランと滑ります。勢いを殺さず飛び出て縦穴にドスドスドスッと突き立ちます。 …串刺し系ホラーが突出してくるのーみその不思議。へるぷ。



 「猫の君では開かない」 

 「はい、完全に重さが足りません。走るのは少々危険ですが駆け抜けられるでしょう。もしもの場合は、ご自身を囮に堂々と通って罠に掛けると宜しいです。では、閉じましょう」

 

 「にゃ…  にゃっ あー」



 ギリリリッ…


 落とし穴の入り口が閉ざされる音を背後に牢を出る。


 「その先はな」


 セイルさんが笑顔で、入り口がどこら辺にどーゆー感じであるのか教えてくれた。


 気分は完全に、えええええ〜〜です。

 でも、よー考えたらそーでした。この領主館は上にあります。俺もえっちらおっちら歩きました。そして今は地下に降りてる。地下二階への階段は長かった。そこから、また降りた。


 現実の高低差。


 ゴッ  カチン。


 方向はわからなくなってるが〜〜   緑のカーテンで仕切った場所。しゃがんで隠れてホッとした。


 多分、あそこ。きっとそう、あそこに通じてる。扉なんて気付かなかった…  もしも開いたら、どーなってたんだろ? あ、この隠し扉に阻まれて終了か。登れず、進め…


 はい、怖い思考終了。


 

 「お待たせしました」


 ガチャン。


 ギルツさんが出てきて閉めて、罠ではない罠の場所の確認は終わりです。


 「君が活用する可能性は限りなく低い。それでも、知っているか知らないかで現実が別れるのは嫌だから」

 「…にあ」


 知識は使用頻度ではない。

 しかし、使わねば忘れていく…  んでも、こーゆーコトでしたら誰も忘れやしないでしょう〜。



 ………で、ぱああっと光る陣を見たいのですよ。なー、見たいってえー。過剰ってもお前の力ならだいじょー    まさかのもしや。 いや、少ないのはちゃんと聞いて る、が。


 できないんか? お前。


 





 

本日の国語問題。

下記の単語を説明されたし。


一、相転移。

二、発想。

三、神意。

四、天意。

五、介意。

 



えー、複数の説明が必要な所を一つで済ませた場合は減点方式でよろ。もちろん、自己採点で。


あなたは自分に甘いのか、辛いのか。

どっちかな〜?



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